第70回土木計画学研究発表会・秋大会への参加報告
- 他機関との交流
日時 | 2024/11/15(金) 〜 17(日) |
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2024年11月15日~17日にかけて、第70回土木計画学研究発表会・秋大会が岡山大学津島キャンパスで開催されました。この研究発表会は、土木学会の学術研究グループ(調査研究部門)の一つである土木計画学研究委員会が主催となり、年2回開催しているものです。今回は、鉄道・道路・防災・都市計画、公共交通経営、歩行者空間、交通安全など企画部門、スペシャルセッション合わせて65以上のセッションが開かれ、580本を超える研究成果が発表され、1,000人を超える参加者がありました。
当研究所からは屋井所長、金山主席研究員・研究統括、三重野客員研究員ほか、研究員6名が参加し、計7件の発表を行いました。以下、その概要をご紹介します。
●11月16日
①スペシャルセッション4
「ノルウェー、透明な世界から日本の将来、そして計画制度を考える」
屋井鉄雄 所長
ノルウェーには公共インフラ整備に関する長期計画があり、その中で事業規模や財源が明示され、それを中心に計画体系が作られているのが特徴です。また、市民参加が進み、透明性も高くなっています。その上で、日本が考えるべきことは何か?という視点で、5名の登壇者の発表および会場との議論が行われました。
ノルウェーは2004年に憲法が改正され、国や自治体に対し意見を述べる自由、行政文書へのアクセス権が明記され、国には公論を促進する条件を整える義務が加わりました。さらに、12年間の長期計画である国家交通計画(NTP: National Transport Plan)は、非法定計画ですが閣議決定され、その計画で高速自転車道路の整備計画や、都市成長協定という新たなスキームなどが作られています。都市成長協定は国、県、市のフラットな協定に基づく公共交通の整備・運営・財源のパッケージで、道路通行料収入の一部を公共交通の運営費に充当できます。
NTPは全国を対象に全交通モードが網羅され、主要な事業の事業費が示されています。主要な投資項目は、①更新、②維持管理、③運営改善、④インフラ整備となっており、どのような優先順位で事業を実施するかが明確になっています。評価項目としては、事業額、B-C(純現在価値:総便益から総費用の差を取ったもの)、交通事故死傷者数の増減、温室効果ガス削減、交通時間の増減などがあり、各分野のプロジェクトに対する結果が公表されています。ただし、NTPに記載されている多くの事業でB-Cがマイナスとなっていますが、総合的な評価によって実施判断することになっています。
また、NTPに事業が掲載されるまでの計画体系や計画策定プロセスも取り上げられました。市民、県、市レベルで色々な意見が出るということです。反対意見や必要条件等に対応してプロセスが進められ、新たな対応案等が練られた結果、再度NTPに掲載されますが、国民はそれまでのやりとりをいつでも知ることができます。日本では、全ての調整が終わらないと公開できないことが多く、決定前のやり取りが公開されることは少ないのが実態です。ここはノルウェーに学ぶ最大のポイントではないかとの指摘がありました。
質疑応答も活発に行われ、分野横断間の予算配分が硬直的なのではないかとか、分野間の調整は行われていないのか、といった質問が出ました。その回答としては、分野ごとにプロジェクトの優先順位が提案段階から公開されて決まっていくので、分野横断間の調整はほとんど話題に上がらないことや、様々な意見がプロセスを通じて公開されるため、必ずしも硬直的とは考えられないという回答がなされました。基本的な仕組みがノルウェーと日本では大きく異なっています。日本ではプロジェクトが公表される前の段階において分野横断間の調整やプロジェクト単位の調整が行われますが、ノルウェーでは国、県、市、国民による賛成や反対も含めた意見が公表されながらNTPに反映され、また事業化に向けた計画プロセスが進められていくという仕組みのため、日本で行われている公表前の事前調整・決定はノルウェーではほとんど行われていない、というのが大きな特徴として紹介されました。
②セッション27:鉄道に関する研究、政策、実践
「地方部の鉄道の利便性を向上しうる鉄道に係る法制度のあり方の研究」
金山洋一 主席研究員・研究統括
本研究は、金山主席研究員らの官民分担型上下分離の制度設計に係る複数の論文で得られている知見を踏まえた、社会実装に係る研究です。
我が国の地方部の鉄道は、総じて運行頻度をはじめとするサービスレベルに課題があるため、日常的に、学生や高齢者等の交通弱者の住民生活に影響を与え、自動車の送迎等の日常化は保護者や地球環境に負荷をかけ、沿線への居住立地や商業施設の立地などネットワーク型コンパクトシティ化も進まず、人口減少等の衰退が一層進む状態にあります。その要因として、鉄道事業法などの現行法制度において、大きな輸送力を必要としない需要にあって、減便等による経費削減により事業性確保を図る事業者としての姿勢が挙げられます。また、公有民営化によりインフラに係る費用から解放された事業者の路線は、維持の効果はありましたが、利便性は総じて使いやすいものではありません。国は、活性化再生法の制定と数次の改正により対応を図っていますので、利便性向上に係る一定の成果が期待できますが、限界も予想されます。
そこで、鉄道に係る法制度を対象に、鉄道事業者が求められる輸送力確保や事業成立性などの要件、及びインセンティブ等の観点から、主に地方部における鉄道のネットワーク・サービスが社会的に望ましい姿になりうる法制度のあり方について示しました。
具体的には、自治体、鉄道事業者にとってのインセンティブの観点で、下記法律について、①設備改良性、②運行利便性、③運行持続性、④施設整備性の視点から評価し、例えば、運行利便性について、需要が増大する社会では有効性があるものの、需要が減少する社会では、利便性に課題が生じる方向のインセンティブが働くことなどを示しました。
次いで、地方部衰退の進行に照らし、交通政策基本法の政策目的を早期に発現させるために法律に盛り込む必要がある事項を示しました。
(対象とした法律)鉄道営業法、鉄道事業法、軌道法、鉄道軌道整備法、日本国有鉄道改革法、旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律、都市鉄道等利便増進法、交通政策基本法、地域公共交通の活性化及び再生に関する法律、社会資本整備重点計画法、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律、高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構法、地方自治法、地方交付税法、及び必要により参照するものとして日本国有鉄道法、日本国有鉄道経営再建促進特別法、国有鉄道運賃法、鉄道敷設法、地方鉄道法。
また、以下のような質疑応答がありました。
・特に制約となっている法令はどんなところか(→本稿参照)
・地域交通法が各法令をオーバーライドするのは感動的だが他方そもそもの立法を骨抜きにする恐れはないのか(→国会の存在。ないようにすればよい)。
・法令に盛り込む必要があることはすべてが必要か(→全て)。
・鉄道事業法で需要に応じた供給の調整を求めていることは実際に負の作用(減少局面でのサービス縮小)をもたらしているのか(→事例で回答)。
③セッション27:鉄道に関する研究、政策、実践
「東京圏における将来人口が鉄道需要に与える影響に関する研究」
小倉匠人 研究員
東京圏の多くの鉄道会社のビジネスモデルは鉄道事業を中心としつつ、沿線開発等の関連事業を拡充することで事業を拡大しています。これらの鉄道会社にとって、沿線の人口が今後どのような規模になるか、そこから派生する鉄道需要がどうなるかを正確に把握することは、将来の経営戦略を講じるうえで重要な課題となります。
鉄道事業者による将来の経営戦略検討、または、国や自治体など公的機関が全国や地域の鉄道政策を立案する場合には、全国及び地域別(都道府県、市区町村)の人口を推計している国立社会保障人口問題研究所(以下、「社人研」とします。)の推計値を用いることが多くなっています。これは、国勢調査結果を基に5年ごとに全国、都道府県、市区町村別の将来人口の推計を行っているもので、最新の2020年国勢調査結果に基づく推計に至るまで16回推計が行われています。また、おおむね15年程度に一度策定されている東京圏の将来鉄道計画(交通政策審議会答申)においても、鉄道需要を推計する前提として東京圏全体、都県別、市区町村別の人口推計が行われており、その基となるのは社人研の将来推計人口となっています。しかしながら、東京圏の社人研の将来推計人口は、主に転入超過数が過少に推計されている等の課題を含んでおり、本研究では、東京圏の鉄道事業者の経営戦略の基礎データとして社人研の将来人口推計値をそのまま用いるには問題があるのではないか、という問題意識に基づいています。また、近年は女性の就業者数の増加、高齢者の定年延長、在留外国人の増加といった、社会情勢・働き方の環境にも大きな変化が生じています。
以上を背景として、本研究では、近年の東京圏の人口動向を詳細に把握し、鉄道事業者が将来の経営戦略を検討するにあたり基礎となる長期的な東京圏の将来人口及び鉄道需要の推計を行うことを目的として実施しました。東京圏の人口動向には、東京圏以外から東京圏への移動人口の多くを占める15~19歳が20~24歳になる期間(以下、「大学進学期」とします。)及び20~24歳が25~29歳になる期間(以下、「新卒期」とします。)の移動動向の把握が必要です。その移動動向は、近年では経済動向以外に、働き方やライフスタイル、価値観の多様化や転出元である地方人口の減少なども作用していると考えられます。本研究では、東京圏の将来人口推計及び鉄道需要の推計に向けて、東京圏以外から東京圏への大学進学期及び新卒期の移動人口に着目し、その移動動向と要因の分析を行いました。
質疑応答では、特に女性や高齢者の社会進出における就業者数の変化、日本人が減少し外国人は増加している中でどの地域ではどのような増減なのか、東京圏の人口の転出や外国人の出国状況など、さらなる実態分析についても研究を深度化してほしいという意見が出ました。
④セッション46:幹線鉄道の基本問題と今後のあり方
「整備新幹線建設に伴う並⾏在来線の扱われ⽅とあり⽅に関する考察」
伊達真生 研究員
整備新幹線建設における並行在来線の経営分離について、近年の特徴的な事例と現在計画中の整備新幹線区間での動向を整理しました。
近年の事例としては、JR線との関係が異なる2路線を持つ「しなの鉄道」、新幹線区間と並行しないローカル線の経営も引き受ける方針の「あいの風とやま鉄道」、上下分離としJR線の運行を継続している長崎本線(江北・諫早間)を紹介しました。また、現在計画中の区間としては、佐賀県が整備新幹線事業自体に幅広い議論を求めている西九州新幹線、貨物輸送の扱いやバス転換の実現性について議論されている北海道新幹線の状況を確認しました。
並行在来線の経営分離については、着工条件にある「自治体の合意」だけでなく、「新幹線営業主体であるJRの合意」も大きく影響すること、経営分離の実施においては様々なケースが存在すること、貨物も含めた広域輸送や周辺路線・バスも含めた地域輸送等、並行在来線区間にとどまらない交通課題に発展していることを整理し、整備新幹線本体と同様に並行在来線の扱いについても幅広い視野・視点で議論が必要であることを示しました。質疑応答では北海道新幹線に係る在来線旅客・貨物輸送の検討状況について意見が交わされました。
●11月17日
⑤セッション7:土木計画学と観光科学
「宿泊市場に対する⾏政の間接的マネジメント⼿法の有効性の検証〜京都市の宿泊施設誘致・拡充⽅針等を事例に~」
三重野真代 客員研究員
観光の一翼を担う宿泊産業は地域との共生が不可欠ですが、宿泊施設は建設規制等の直接規制の対象ではないため、宿泊施設による外部不経済効果が高まらないよう行政が市場を間接的にマネジメントする手法の開発が必要です。このケーススタディである京都市の観光部署が講じた宿泊産業の誘導等を図る「宿泊施設誘致・拡充方針」策定、及び京都市長による「地域と共生しない宿泊施設の参入お断り」宣言等によって宿泊市場に与えた政策アナウンスメント効果を検証しました。具体的には、宿泊統計の分析、自治体及び開業宿泊施設のディベロッパーなどへのインタビュー等を行い、方針を策定した2016年前後と市長宣言が発せられた2019年前後で宿泊施設の量と質の変化を調査しました。
2016年以前の京都市内の新規ホテル開業件数は一年間に数軒程度でしたが、2016年以降は一年間に20軒以上開業するようになり、京都の宿泊市場はホテル開業ラッシュになりました。一方、2019年以降は、新規開業件数が減少局面に入り新型コロナの流行もあって2021年以降は廃業軒数が開業件数を上回ることになりました。客室数を見ると、2015年から2017年の3年間で3,000室、2018年から2020年は10,000室、2021年から2023年は2,500室増加しました。
宿泊施設の質も2016年以降変化がありました。京都市内の5つ星宿泊施設は2016年までは1年に1軒開業する程度でしたが、2017年以降は年間数軒が開業するようになると同時に、価格帯も高単価な宿泊施設の開業が進み、トレンドとして、より高価格帯の上質な宿泊施設が拡充しました。この流れは2019年以降も大きな変化はありません。
インタビュー結果から、京都市の観光部署が実施した宿泊政策を直接知っている宿泊施設ディベロッパーはいないことがわかりました。一方、宿泊施設ディベロッパーが直接接した市役所幹部、学校跡地活用部局や建設指導部局が、観光部署が策定した「宿泊施設拡充・誘致方針」について伝えたことで、一部の事業者が「宿泊施設拡充・誘致方針」の内容を理解し、上質なホテルの開業が進んだことが判明しました。この間接的な伝達により、京都市の方向性に沿った上質なホテルが複数軒開業した結果、これが呼び水となり、京都市内の宿泊市場のトレンドの上質への転換が誘導され、市役所と十分な接点のない事業者においても、宿泊マーケットの状況から主体的に上質な宿泊施設を供給するインセンティブが生じた、すなわち間接的な効果があったことを確認しました。
地域の顔を作る宿泊施設が地域に与える影響は良くも悪くも大きいと言えますが、直接的な規制及び誘導は現行法では困難な状況です。しかし、宿泊施設による地域へのインパクトをマネジメントするために、間接的手法と言える行政アナウンスメントでも、マーケット供給者に対して一定の影響を与えられることが判明しました。その手法としては、建設許可の所掌部局では宿泊施設に特化した政策発動は難しいため、観光部局が地域にとって望ましい宿泊施設の方向性を示し、その方向性を根拠に、幹部や建設部局等が指導及び発信できる体制の構築が有効だと考えている旨を報告しました。
⑥セッション7:土木計画学と観光科学
「観光・宿泊産業における収益性向上の地域差に係る要因分析」
鈴木宏子 研究員
観光産業はその裾野の広さから、地域社会や経済の活性化に寄与すると期待されています。しかしながら、賃金水準の低さや人手不足、労働生産性の低さといった課題が長年指摘されてきました。さらに、観光産業による付加価値の増加が大都市に集中し、地域間の格差を再生産しているとの指摘もあります。
本研究では、観光産業の付加価値の約2割を占めるとされる宿泊産業に焦点を当て、地域による労働生産性の差異や、その影響要因を分析しました。全国規模でみた日本の宿泊産業の労働生産性については、長年横ばいでしたが、2010年以降、微増傾向が見られます。コロナ禍においては一時的に大幅に低下したものの、現在では回復し、以前よりも高い水準に達しています。
地域別の労働生産性について、経済センサス活動調査のデータを用いて2012年、2016年、2021年の3つの時点を分析したところ、上位と下位の地域がある程度固定化している傾向が確認され、上位には大都市圏の主要都市が占めていることが確認されました。この背景には、地域の観光産業の規模や特性、観光客の流れといった要因が影響していると考え、どのような要因が労働生産性に影響を与えているかについて、延べ宿泊者数、外国人宿泊者数、定員稼働率、宿泊施設の規模、施設の種類別施設数、行政が観光産業にかけているコストとの相関を分析しました。その結果、延べ宿泊者数、定員稼働率、従業員100名以上の大型施設数、ビジネスホテルやシティホテルの数と労働生産性には弱い相関があることが示されました。一方で、東京都や北海道などは延べ宿泊者数や大規模施設数、ビジネスホテルの数が多く稼働率も高いにもかかわらず、労働生産性がそれほど高くないことが明らかになりました。逆に、延べ宿泊者数や大規模施設数が少ないものの、労働生産性が高い地域も存在することが確認されたことについて報告しました。
今後の分析としては、最低賃金水準や地域の被雇用者に占める宿泊業従事者の割合といった他の要因についても考察を深め、労働生産性に与える影響を多角的に検討していくことに加え、北海道や東京都ではなぜ労働生産性が上がらないのか、また大都市圏に所在しないにもかかわらず労働生産性が高い地域等について、その要因につき関係者へのヒアリング調査を通じてさらなる分析を進めることについて報告しました。
⑦スペシャルセッション1:汎化加工*された位置情報履歴データの活用にむけて―能登地震分析等の分析事例紹介を含めたデータの利用可能性―
「ビッグデータを活用した全国幹線旅客純流動調査の高度化~国土交通省の取組み~」
新倉淳史 研究員
2023年に土木計画学研究委員会が設置した「汎化加工*された位置情報履歴データの有効活用に関する研究小委員会」(小委員長:古屋 秀樹教授(東洋大学))の企画によるこのセッションでは、一定期間のトリップのOD や目的など、交通行動を把握できる汎化加工*された位置情報履歴データを活用して、利用交通機関推定やトリップ目的推定の精度・ロジック検討などの要素技術の研究、更に「防災」「観光」「GHG排出量削減」の3つの個別テーマの研究発表と意見交換が行われました。
また、新倉研究員も同小委員会に参画しており、「ビッグデータを活用した全国幹線旅客純流動調査の高度化~国土交通省の取組み~」について、報告を行いました。
*汎化加工:特定の個人の識別可能性を低減する加工(抽象化する加工)
国土交通省では、1990年から全国の幹線交通の実態を把握する全国幹線旅客純流動調査(以下、純流動調査)を実施してきました。この調査は、幹線交通利用者へのアンケート調査を基にしていましたが、コロナ禍を契機に、ビッグデータ等の活用が検討されるようになりました。携帯電話の基地局情報やGPSに基づくビッグデータは、位置情報データのみで構成され、滞在地、利用交通機関や旅行目的の情報は取得できないため、これらの項目を把握する方法について、既存研究が進められています。しかし、ビッグデータによる全国規模での流動・交通機関の把握はまだ、行われていないため、国土交通省として取組みを行っています。
純流動調査の特徴である幹線交通機関の乗り継ぎを表現するためには、滞在地点と乗継地点の分離が必要です。そこで、地図上の交通施設(空港、駅、港湾 等)上に位置情報がある場合を乗継地点とみなすマップマッチングや交通機関が変化した地点を乗継地点にする工夫を行っています。交通機関の推定においては、移動速度に加え、マップマッチングで特定された交通施設間の移動から判定、線路や高速道路上の移動を補足するなどの試みも行われました。
旅行目的の推定では、目的地の種類、滞在時間、訪問頻度といったビッグデータから把握可能な項目を活用し、旅行目的を推計する方法を紹介しました。
しかし、これらの取組みでも解決すべき課題が残っています。純流動調査における幹線交通機関との定義の整合性に関しては、人口だけでなく交通機関の輸送実績での拡大を行い解決させる方法、少数のサンプルから作られたデータが秘匿される課題に関しては、データ取得期間の延長や秘匿されない段階でのビッグデータと交通機関の輸送実績を組合せる方法といった解決の方向性を示しました。
ビッグデータを用いた幹線旅客流動の把握については、今後の期待として「従来の純流動調査では捉えられない詳細なデータの把握の可能性」「従来調査(紙調査)に比べたコスト縮減の可能性」「データ購入費用の縮減」「ビッグデータを活用した需要予測や事業評価手法の学術的研究の必要性」が示されました。
《土木学会について》
土木学会は「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、1914年に設立された国内有数の工学系団体です。会員は、教育・研究機関のほか、建設業、建設コンサルタント、エネルギー関係、鉄道・道路関係、行政機関、地方自治体などで構成され、会員数は約39,000人(2024年11月末時点)です。
土木学会の会長任期は1年で、2024年時点の会長は第112代になります。第82代会長は運輸政策研究所(現運輸総合研究所)初代所長の中村英夫氏(東京都市大学名誉総長)、第92代会長は同研究所第2代所長の森地茂氏(政策研究大学院大学客員教授、名誉教授)が務めました。