国際セミナー「モバイル・ビッグデータの交通計画への活用」~日ASEAN交通連携プロジェクト~
- 国際活動
- 総合交通、幹線交通、都市交通
主催 | 一般財団法人運輸総合研究所 |
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後援 | 国土交通省 在タイ日本大使館 独立行政法人国際協力機構(JICA) タイ運輸省(MOT) |
日時 | 2020/1/15(水)9:00~12:05 |
会場・開催形式 | ウェスティン・グランデ・スクーンビット(バンコク)ボールルームA7F |
テーマ・ プログラム |
モバイル・ビッグデータの交通計画への活用 |
講師 | 開会挨拶:宿利 正史 運輸総合研究所 会長 来賓挨拶1:Chayatan Phromsorn タイ運輸省 交通計画政策局長 梨田 和也 特命全権大使 タイ国駐箚 岡西 康博 国土交通省国際統括官 基調講演1:関本義秀 東京大学生産技術研究所 准教授 基調講演2:Tiranee Achalakul GBDIビッグデータエクスペリエンスセンター所長 報告:運輸総合研究所、ASEAN各国出席者およびASEAN事務局 来賓挨拶2:アーコム・トゥームピッタヤーパイシット タイ王国 前運輸大臣 閉会挨拶:奥田 哲也 運輸総合研究所 専務理事 |
開催概要
ASEAN諸国では、我が国のように交通統計が網羅的に整備されているとは言い難く、また都市の急激な成長速度も相まって、従前の我が国のコストと時間を要する統計手法だけでは対応が難しい状況にあります。他方で、スマートフォン等のモバイル機器によって収集されるビッグデータは、迅速かつ費用を抑えた形でのデータの取得が可能であり、効果的な交通政策の提言への活用が期待されています。タイ王国をはじめとしたASEAN諸国でのモバイル・ビッグデータを活用した新たな交通統計の展開と交通政策の提言に向けて、日ASEANの関係者による考察の場として本セミナーを実施することとしました。
本セミナーでは、まず、当研究所宿利正史会長の挨拶に続き、チャヤタン・プロムソーン タイ運輸省OTP(Office of Transport and Traffic Policy and Planning)局長、梨田和也 駐タイ王国特命全権大使、岡西康博 国土交通省国際統括官に来賓挨拶をいただきました。
前半は基調講演として、東京大学の関本義秀准教授、タイ王国からBig Data Experience CenterのDirectorであるティラニー・アチャラクン博士からビッグデータの交通分野及び観光分野への活用という観点から講演を行っていただきました。
後半は当研究所の室井研究員より、日本におけるモバイル・ビックデータの活用と個人情報保護法の関係について報告するとともに、ASEAN各国及びASEAN事務局よりそれぞれビッグデータの活用に関する個人情報保護法の現状と課題について発表していただきました。
様々な形で得られるビッグデータを活用して、交通統計の構築および最新のデータ活用による運輸交通や観光の展望について、発表・議論が行われました。また、ASEAN諸国の代表も各国におけるモバイル・ビッグデータの使用状況及び今後のチャレンジについて発表し、有益な情報交換がなされました。
セミナーの最後には、アーコム・トゥームピッタヤーパイシット タイ王国前運輸大臣にセミナーを総括する来賓挨拶をいただきました。
プログラム
開会挨拶 | |
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来賓挨拶 | |
来賓挨拶 | |
来賓挨拶 | |
基調講演 | |
基調講演 | |
報告 | |
来賓挨拶 | |
閉会挨拶 | |
司会 |
福田 トゥエンチャイ |
当日の結果
【東京大学:関本義秀 准教授による基調講演のポイント】
・人々の流動を計測し、行動モデルと組み合わせた推定を実施している。様々なコンテクストにおける人々の移動をデータから解明している。
・都市インフラを低廉・迅速にモニタリングするためのデータ収集・解析を実施しており、OD表からリンク交通量の推計も実施例がある。
・ミャンマーにおいてCDRデータ(モバイル・ビッグデータの一種)を活用した「ANZEN SATREPS」プロジェクトを実施しており、人々の移動を再現
している。
・点群データ、広域建物データ、施設管理データ、衛星画像・航空写真データを組み合わせた都市の見える化を進めており、都市の3Dデータ化が進みつ
つある。
【Big Data Experience Center:ティラニー・アチャラクン博士による基調講演のポイント】
・人々の行動に関するデータは、行動データ、意思データ、取引データ、属性データに大別して考えることができ、これらのビッグデータは新時代の油
田開発に相当する新しい資源である。
・機械学習に必要なデータはインプットデータ、実行タスク、知識マネジメントとAI技術で構成される。
・タイでは、タイ観光局、観光・スポーツ省などが保有するデータについてAPIを活用した“Pin”-as-a-Serviceを実装し、いわゆるGoogle等で上位に出
てこないマイナーな観光地に対する詳細情報の提示を進めている。
・これはMaaS(Mobility-as-a-Service)の機能とも連携させており、上記の“Pin”で表示させたマイナーな観光地をタップすると、そこまでの交通手段
もあわせて表示され、できる限りシームレスに観光地にアクセスできるようにしている。
【運輸総合研究所:室井寿明研究員による報告のポイント】
・日本における個人情報保護法、個人情報の定義を紹介した。
・電磁通信事業における個人情報保護に関するガイドラインについて、個人情報保護法の改正にあわせて個人情報から匿名加工情報に変換するためのポ
イントを明らかにした。
・日本のビッグデータ活用に関する成功と失敗事例を紹介し、その要因について紹介した。特に、成功事例と考えられるNTTドコモの取り組みについて
は、第三者委員会の設置、利用者への事前説明ならびに専用ウェブサイトの設置、データの適切な荒さ、公共利用目的からの適用開始などのポイント
が示された。
【ラオス:Ms. Souphany Heuangkeoによる報告のポイント】
・ラオスではバスロケーションシステムを運行中。
・モバイルのデータを使った運行計画を検討している。
【マレーシア:Dr. Subramani Paiduthalyによる報告のポイント】
・通信会社から提供を受ける点についてマスタープランを作成中。
・伝統的なアンケートに対してMBDを補助的に活用。
・個人情報保護法は709法があり、個人情報を処理することに対して権限を定めている。個人情報の意味は、センシティブなところは宗教、政治など。
【ミャンマー:Ms. May Mon Zawによる報告のポイント】
・ICAが共同調査しているが、通信事業者はMBDをまだ提供していない。実際は法律が確立されていないため、データを提供できない。
・個人情報保護法は、まだ整備中であり、完全に保護されていない。
・MBDのチャレンジとして、妨げとなるものは、既存の法律は未整備であること、個人情報のルールが定まっていないことである。
・企業はサービスを充実していきたいが、第三者とパートナーシップを組みたいが、どうしたらいいか分からない状態。イノベーションが必要。
【フィリピン:Ms. Ruth Espinosa Montesによる報告のポイント】
・通信事業者であるPLDT、Globeに対してデータを要求しているところである。
・個人情報保護法はある。政府・民間ともに対象となっている。資料の形にかかわらず、情報があれば個人情報である。
・通信事業者からデータ提供を受ける際に、行政に知識や能力がない点が課題である。データを受けたら、交通ネットワークモデルなどに活用したい。
【シンガポール:Mr. Kelvin NG ZHI HAOによる報告のポイント】
・MBDの分析結果例も既にある。公共交通機関に活用する。
・P2Pデータ、調査データ、チケットデータなどで既に収集・分析を行っている。今後はMBDを利用したい。
・データ利用が進むとともに個人情報保護法も変わっている。個人情報保護法は2015年に制定し、ガイドラインも策定している。
・将来はリアルタイム分析、交通流の改善や渋滞の解消、交通手段の解析などにつなげていきたい。様々な人々の移動や生活の実態把握の上では、情報
収集のコストにもつながる。
【タイ:Ms. Sukanya Meebangkoedによる報告のポイント】
・交通改善の目的として、国民にとって平等で、効率の良い交通システムが必要。MBDはその上でとても重要であり、より良いサービスや意思決定にも
貢献する。
・2013年には全部の商用車にGPS装着が義務化されている。GPSデータを活用して交通規制を企画している。MBDの活用には、交通のODや利用経路を
分析し、公共交通機関の提供、マッチング状況にはとても有効である。
・BMTAのデータは、何人のバス停に乗り降りしているかしか分からない。何人が次のバスを待つかは分からない。MBDの活用によって推計可能。利用
者の待ち時間短縮や所要時間短縮につながる。
・高齢者と障がい者のためのサービスにもなる。拠点間移動を効率よく実施していきたい。災害、交通規制についてにも有効である。
・個人情報保護法は、もうすぐ施行される予定で、MBD収集の障壁になっている。通信事業者のマインドが変わることを期待している。
【ASEAN事務局:Mr. Rasyid Indra Pratam及びMr. Riyan Saputraによる報告のポイント】
・ビッグデータの活用についてはまだスタートを切ったばかりであり、ようやく認識されたところである。昨年度、ようやくシンガポールで地域間会議
が開催されたばかりである。公的統計のためのビッグデータのポテンシャルユーズについて発表があった。
・ASEAN加盟各国によって方法が違う。コンセプトノートとして開発されたのは、これからの能力の構築と啓蒙に注力することである。
・ビッグデータの取り組みに関する人材育成は、ASEANの中でも必要である。データソース、キャパシティ(人的資源)、方法論についてそれぞれ課題
がある。
・運輸交通部門に限らないが、様々な事象をより正確に把握できることへの期待がある。従来の手法(アンケート調査など)では非効率である。