アジア交通学会(EASTS) 2025国際大会への参加報告
- 国際活動
- 他機関との交流

日時 | 2025/9/1(月) 〜 3(水) |
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開催概要
2025年9月1日~3日に、アジア交通学会(East Asian Society for Transportation Studies: EASTS) の第16回国際大会がインドネシアのスラカルタ市(中部ジャワ州)の国立Sebelas Maret大学(UNS)で開催されました。当研究所から、宿利会長、屋井所長及び森地評議員・研究アドバイザー以下6名(外部共同研究者を含め8名)が参加しました。
《EASTSについて》
EASTSは、アジアの各国/地域における産官学の専門家が交通問題に関する議論、研究、人的交流を広く活性化させることを目指して、1994年に設立された国際学会であり、19カ国・地域の学会が加盟しています。1995年以来、隔年で国際大会が開催されています。なお、EASTSの初代会長は運輸政策研究所(現運輸総合研究所)初代所長の中村英夫氏(東京都市大学名誉総長)が、第3代会長は同 研究所第2代所長の森地茂氏(政策研究大学院大学客員教授、名誉教授)が、第6代会長は運輸総合研究所の屋井鉄雄所長が務めていました。また、初代事務局長は森地茂氏、第2代事務局長は屋井所長、第3代事務局長は岡本直久氏(筑波大学システム情報系教授、元運輸政策研究所研究員)が務め、現事務局長は花岡伸也氏(東京科学大学環境・社会理工学院融合理工学系教授、元運輸政策研究所研究員)、現事務局次長は平田輝満氏(茨城大学学術研究員応用理工学野都市システム工学領域教授、元運輸政策研究所研究員)です。運輸総合研究所は、EASTS の国際大会に継続的に参加するとともに、2019年の第13回EASTS コロンボ大会から、公共交通及び アクティブ・モビリティーに関する研究における優秀論文を表彰する「運輸総合研究所特別賞(JTTRI Special Award)」を授与しています。EASTSの現会長は、広島大学大学院先進理工系科学研究科の藤原章正教授です。
今次大会の中では、当研究所から3名及び外部共同研究者がそれぞれ研究調査について発表を行いました。JTTRI Special Award 2025について、受賞者に対する授与を宿利会長が行いました。EASTS Best Paper Awardの技術革新部門では、当研究所の共同研究調査を基にした論文が受賞されました。また、最優秀審査員賞を有村幹治氏(室蘭工業大学もの創造系領域土木工学ユニットクリエイティブコラボレーションセンター教授、元運輸政策研究所研究員)が、最優秀国内学会賞をポン・ヴェン・キエン氏(カンボジア工科大学交通インフラ工学部長、元運輸政策研究所研究員)が会長を務めるカンボジア交通学会が受賞しました。
なお、次回大会は2年後の2027年9月にオーストラリアのアデレードで開催される予定です。
当日の結果
9月3日の受賞式で、当研究所宿利会長から、当研究所の概要を紹介するスライドを投影する中でAIRO(アセアン・インド地域事務所)の紹介を行うとともに、2019年に創設して以来、毎回の大会で提供している運輸総合研究所特別賞(JTTRI Special Award)の今次受賞論文”Integration of Ride-hailing Services with Public Transportation Systems with Public Welfare and Efficiency Perspectives”(台湾のNational Cheng Kung大学教授Ta-Yin HU氏らの共著)に対し、賞金目録贈呈を伴う表彰を行いました。なお、受賞論文は、公共交通とアクティブ・モビリティーをテーマとする応募論文の中から、EASTSのAsian Transport Studies編集委員会が、審査により選定しました。

宿利会長による挨拶

受賞者と共に
■当研究所等からの発表の概要
□セッション「交通、気候変動と持続可能性」
●発表「日本の交通産業のグリーン化-シナリオ分析に基づいた提言」(原文は英語)
小倉匠人前研究員
9月3日の技術セッション「交通、気候変動と持続可能性」では、小倉前研究員(現東急電鉄(株)勤務)が「日本の交通産業のグリーン化-シナリオ分析に基づいた提言」(原文は英語)と題して発表を行いました。当研究所の共同研究調査「交通産業GXロードマップ」(2023年度-2025年度)の成果に基づき、複数のシナリオのCO2排出量の将来予測と経済的影響分析、Scope 3排出の動向調査の結果を踏まえ、長距離輸送モードの脱炭素化、脱炭素化に伴うコスト負担の公平性及び地域差への配慮の必要性が課題であることを示し、GX推進に向けて、交通モード横断でのGXロードマップの策定と社会全体での費用負担の仕組みづくり及び利用者や社会の行動変容の促進などを提案しました。
質疑では、シナリオ分析における水素のコストの設定方法について質問があり、シナリオに合わせて政府及び他の研究機関の推計値等を用いていることを、屋井所長のサポートを得て回答しました。
(なお、当該共同研究調査の成果の詳細については、第56回研究報告会及び交通脱炭素シンポジウムⅣ「利用者と歩む交通産業のカーボンニュートラル」において発表済
https://www.jttri.or.jp/events/2025/sympo56.html#event_result
https://www.jttri.or.jp/events/2025/symposium250421.html )

発表する小倉前研究員

当該セッションの登壇者と共に
□セッション「港湾運営及び物流」
●発表「コンテナターミナルにおける海陸連携の効率性の改善」(原文は英語)
辻本秀行研究員
同日の技術セッション「港湾運営及び物流」では、辻本研究員が、「コンテナターミナルにおける海陸連携の効率性の改善」(原文は英語)と題して発表を行いました。当研究所の共同研究調査「海と陸の機能の連携による陸海の結節点の効率化・利便性の向上」(2024年~)を踏まえ、ドライバー不足及び長時間労働規制といった課題を背景に、降ろし取り(コンテナの搬入と搬出を一度に行う)の導入について、東京港のあるターミナルの取扱いデータやステークホルダーへのインタビューを踏まえ、見込まれる効果及び普及を阻害する要因を分析した。具体的な対策として、情報共有の促進、手続きの標準化、一体運用を行うインフラ整備、そして費用負担の新しい仕組みについて提案をしました。
質疑では、ターミナルサービス(特に降ろし取り)の改善において、最も「突破しやすい」ターゲットはどれかという質問があり、1社だけで解決は難しいが、最も関連するのはドレージ事業者と回答しました。

発表する辻本研究員

当該セッションの登壇者と共に
□セッション「交通と土地利用の交差」
●発表「光学衛星データを用いた、アジアの巨大都市における鉄道整備による都市地域拡大の影響分析」(原文は英語)
社会システム株式会社 森大樹主査
同日の技術セッション「交通と土地利用の交差」では、社会システム株式会社の森主査が「光学衛星データを用いた、アジアの巨大都市における鉄道整備による都市地域拡大の影響分析」(原文は英語)と題して発表を行いました。当研究所が受託して行う調査研究「今後の東京圏を支える鉄道のあり方」(2012年度~)の一部を踏まえ、衛星データを活用した都市化面積の定量化手法とバンコクにおけるケーススタディについて紹介し、TOD(公共交通指向型開発)のあり方について、TODへのインセンティブを与えること、都市の開発余地を考慮して戦略的に駅を配置すること、駅前広場や駅へのアクセス機能を充実させること、都市構造に応じた階層的な(優等列車を含む)鉄道ネットワークを構築することを提言しました。
質疑では、鉄道に近いエリアの方が遠いエリアに比べて都市化面積の増加量が小さいのはなぜかという質問があり、バンコクでは道路整備が鉄道整備に先行したため、鉄道路線近傍は開発余地が小さいためと考えられるということを森地研究アドバイザーのサポートを得て回答しました。
当該論文は、今大会におけるEASTS Best Paper Award (for technological innovation)を受賞しました。

発表する森主査

質疑でサポートする
森地研究アドバイザー

EASTS Best Paper Award for technological innovationの受賞式:森主査
□セッション「歩行者インフラの設計」
●発表「新たなエンベロープ原則に基づく道路空間共用のための技術・政策的含意」(原文は英文)
また、同日の技術セッション「歩行者インフラの設計」では、屋井所長が、セッションチェアを務めるとともに、「新たなエンベロープ原則に基づく道路空間共用のための技術・政策的含意」(原文は英文)と題して発表を行いました。自動配送ロボットや多様なモビリティが登場する未来に、弱者である歩行者が実際に優先される技術開発の必要性を提案しました。そのため、他者を離れた位置に囲い込む新たなエンベロープ概念を提案し、それが車両やロボット側の検知システム開発により実現可能であることを示した上、ソーシャルフォースモデルにエンベロープを組み込んだシミュレーションモデルによって、歩行者かマシーンの一方に優先権がある場合の交通状態と歩行者意識等の違いを比較分析しています。
質疑では、「歩行者がどうやって相手を止められるのか」、「歩行者にも色々な属性や意識があるのではないか」といった質問があり、マシーン側が自主的に止まること、歩行者側の様々な属性や意識を前提としていること等を回答しました。

発表する屋井所長

当該セッションの登壇者と共に