日越外交関係樹立50周年記念認定事業・JTTRI-AIRO開設記念事業
「主要観光地におけるオーバーツーリズムの克服及び地方観光地の活性化」
~日本とベトナム両国における持続可能な観光に向けて~

  • その他シンポジウム等
  • 観光

Supported by 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION

主催 ベトナム国家観光局(VNAT)
ベトナム観光開発調査研究所(ITDR)
一般財団法人運輸総合研究所(JTTRI)
一般財団法人運輸総合研究所アセアン・インド地域事務所(JTTRI-AIRO)
後援 在ベトナム日本国大使館
ベトナム日本商工会議所
日時 2023/10/23(月)
会場・開催形式 ベトナム・ハノイ ホテルメリアハノイ 【オンライン併用(Zoomウェビナー)、日越英同時通訳】
テーマ・
プログラム
【開会挨拶】
宿利 正史   運輸総合研究所 会長

【来賓挨拶】
ドアン・ヴァン・ヴェット ベトナム文化・スポーツ観光省(MoCST)副大臣
渡邊 滋   駐ベトナム日本国大使館次席公使

【基調講演】
グエン・アイン・トゥアン ベトナム観光開発調査研究所(ITDR)所長
蒲生 篤実    日本政府観光局(JNTO)理事長

【パネルディスカッション】
モデレーター  チン・レ・アイン ベトナム国家大学ハノイ校 人文社会科学大学 観光学部 事業管理部長
パネリスト   片山 健也 ニセコ町長
        沢登 次彦 株式会社リクルート じゃらんリサーチセンター センター長
        ホアン・ティ・ヴオン ラオカイ省 サパ市 観光文化情報部長
        グエン・ヒュウ・イ・イエン Saigontourist Travel Service Co., Ltd 会長

【閉会挨拶】
グエン・チュン・カイン ベトナム国家観光局(VNAT)長官


※詳細(英語)についてはこちらをご参照ください。

開催概要

 COVID-19の世界的流行以前から顕在化していた主要観光地におけるオーバーツーリズムの克服や地方観光地の活性化といった課題に対し、観光がパンデミックからの落ち着きを取り戻しつつある今、日本・ベトナム双方の関係者が今後どのように取り組むべきかについて議論を行いました。
 本年は、日本ベトナム外交関係樹立50周年の節目の年であり、「持続可能な観光」の実現に向け、日本・ベトナムが協力して取組を進めることで、相互交流・相互理解の更なる拡大を図ることを目的に実施しました。



主なSDGs関連項目

プログラム

開会挨拶

宿利 正史   運輸総合研究所 会長

開会挨拶
講演者略歴

来賓挨拶

 

ドアン・ヴァン・ヴェット
 ベトナム文化・スポーツ観光省(MoCST)副大臣

講演者略歴


渡邊 滋
 駐ベトナム日本国大使館次席公使

講演者略歴
基調講演

グエン・アイン・トゥアン
 ベトナム観光開発調査研究所(ITDR)所長

講演者略歴

講演資料


蒲生 篤実
 日本政府観光局(JNTO)理事長

講演者略歴
パネルディスカッション及び質疑応答

<モデレーター>
チン・レ・アイン
 ベトナム国家大学ハノイ校 人文社会科学大学 観光学部 事業管理部長

講演者略歴


<パネリスト>
片山 健也
 ニセコ町長

講演者略歴

講演資料(日本語)
講演資料(英語)


ホアン・ティ・ヴオン
 ラオカイ省 サパ市 観光文化情報部長

講演者略歴

講演資料


沢登 次彦
 株式会社リクルート じゃらんリサーチセンター センター長

講演者略歴

講演資料(日本語)
講演資料(英語)


グエン・ヒュウ・イ・イエン
 Saigontourist Travel Service Co., Ltd 会長

講演者略歴

講演資料
閉会挨拶

グエン・チュン・カイン   ベトナム国家観光局(VNAT)長官

講演者略歴

当日の結果

1.来賓挨拶
(1)ドアン・ヴァン・ヴェット ベトナム文化・スポーツ・観光省副大臣
 ベトナムと日本は、1973年の正式な外交関係樹立以来、両国間の人的交流、半世紀にわたる協力、相互発展の歴史を持っている。日本は、ベトナムにおける経済、貿易、投資、観光、労働における重要なパートナーであり、文化と観光はじめ、全ての分野で両国間の協力が強力に推進され、多くの好ましい成果を上げている。 ベトナムの観光業はCOVID-19の影響からの回復が非常に強力であり、2023年最初の9か月時点でベトナムへのインバウンド観光客は890万人以上に達し、日本からの観光客は約415千人でトップ5位に入っている。国内観光客は9350万人以上に達し、観光客からの総収入は536兆ベトナムドンと推定される。これは素晴らしい成果であり、観光産業全体の努力を反映しており国家の経済発展、国民の生計保障、教育水準向上、ベトナムのイメージ向上に貢献している。

 しかし、観光の発展と共に国内外の観光客数が急増し、特にサパ、ハノイ、クワンニン、ニンビン、サムソン、ホイアン、ダナン、ニャチャン、ダラット、ホーチミン、フーコック島などの観光地におけるオーバーツーリズムが生じている。この状況は、観光客の体験、観光商品の品質、観光サービス、環境、生態系、治安、安全保障などに直接影響を及ぼしている。

 本日のシンポジウムではベトナムと日本の観光専門家が関連するテーマについて議論し、実践的な取り組みや解決策を見つけ出すことを期待している。 私たちはベトナムと日本の経営者、専門家、学識者の皆様から多くの貴重なご意見を伺いたいと考えている。 ベトナムと日本の友好的な協力関係がますます発展することを願っている。


(2)渡邊滋駐ベトナム日本国大使館次席公使
 本年、外交関係樹立50周年を迎えている日越両国は、政治、経済、人的交流等あらゆる分野において、かつてないほど強い繋がりを持つようになった。先月、ベトナムを訪問された秋篠宮皇嗣同妃両殿下の御臨席を得て、400年前の朱印船交易時代の、日本の長崎の商人とベトナム・グエン朝の王女との、ホイアンを舞台にした恋物語日越合作オペラ「アニオー姫」の初演が行われた。50年よりもはるか昔から行われてきた日本とベトナムの交流を象徴する、素晴らしい作品となった。
 
 日本政府は、観光を戦略的産業と位置づけ、インバウンド促進のため、国内の環境整備やJNTOを中心とした国外でのプロモーション活動等の様々な取組を進めている。本年、ベトナムから日本を訪問する人は、コロナ禍前の2019年に記録した50万人を更新し、過去最高となる勢いである。
 同時に日本の主要な観光地ではオーバーツーリズムが課題となっている。 日本政府はオーバーツーリズム対策について国を挙げて検討しており、先週様々な施策が盛り込まれた対策案がまとめられた。また、もう一つのテーマである「地方誘客」は地方の活性化のみならず、オーバーツーリズム対策としても重要である。

 日本からベトナムを訪問する人については、コロナ禍前の2019年には過去最大の約95万人を記録した。私自身ベトナム各地の素晴らしい景観、食事に魅了されており、近い将来ベトナムが観光大国になることを確信している。したがって、オーバーツーリズム、そして地方誘客は喫緊の課題と思われるので、このシンポジウムを通じて両国で知見を共有することは、大変有意義と考える。


2.基調講演
(1)グエン・アイン・トゥアン ベトナム観光開発調査研究所(ITDR)所長
 現在のオーバーツーリズムの問題はベトナムが世界有数の観光地になっていくと宣言した時から、克服し解決する必要がある大きな問題である。2030年までのベトナムの観光開発戦略では、観光を主要な経済部分に発展させるという目標が定められている。
第1の視点:観光が重要な経済分野になるように発展させる
第2の視点:国家安全保障を通じて持続可能な観光を発展させる。
第3の視点:国の文化遺産の価値と文化的アイデンティティを保存し促進させる。
第4の視点:DXや人材育成など専門的で質の高い効果的な観光を開発する。
第5の視点:国際観光と国内観光を同時に発展させる。
これら 5 つの視点は、ベトナムで戦略を実施する際に明確に表現されている。
ベトナムの主な観光商品は1番目には海と島の観光商品、2番目に文化観光商品、3番目が都市観光商品、4番目はエコツーリズム商品。全国の地域では、企業がこの主要商品に基づいた観光商品を構築し投資奨励してベトナム観光の魅力を作り出している。

コロナ後のベトナムにとって観光業は最も早い回復が期待される産業である。ベトナム政府は、便利なビザ手続き、政府や地方の減税、信用政策、経営支援などの政策により、直近9月までに観光産業の回復に大きく貢献した。パンデミックの時期においても、ベトナムの観光業は世界的な観光賞を受賞した。

ベトナムの観光産業は高い成長を遂げており、今年に入ってからの9 か月間で約 900 万人の海外観光客を迎えた(年間目標は 800 万人)。UNWTOの2018年の予測によると、ベトナムは世界で最も観光客の成長率が高い国のトップ10に入る。

一方で、観光業界は主要観光地のオーバーツーリズムに直面している。これは観光産業が持続的に発展するために解決すべき課題の一つである。ピークシーズンだけを考えると、ベトナムの主要観光地(ハノイ、ダナン、ホーチミン、クアンニン、カインホア)のほとんどで交通問題が生じ、空港、埠頭、観光地などでも過密状態となり大きな負荷がかかっている。

オーバーツーリズムの原因については以下が挙げられる。
第1に、コロナ後の観光ブーム
第2に、観光活動の季節性(ハイシーズン/オフシーズン)
第3に、インフラの限界

オーバーツーリズムの問題が正しく管理されなければ、第1に観光体験の価値が低下する。第2に旅行先での商品やサービスの品質が低下し、 観光客は、支払った金額に値する商品やサービスを受けられなくなる。第3に、観光地のアイデンティティ価値とイメージが低下し、観光地の競争力に影響する。

今回のシンポジウムのテーマとして私たちは地方誘客というソリューションを提案した。ハノイやホーチミンといった中央エリアの負荷を軽減するために地方の観光地を開発することを提案する。地方誘客の目的として、1つ目は主要な場所からの訪問者を分散させること。2つ目が地元の人々の仕事を創出し増やすこと。次に、地方のインフラを建て観光資源の活用効率を上げること。先住民の文化的価値観を維持することで地方の経済的価値を上げること。これは観光の潜在的な価値を促進する方法でもある。

地方観光地の開発の課題については以下が挙げられる。
・コミュニティの意識の低さ
・効果のない調和
・インフラ接続の問題(観光開発のニーズに合っていない)
・投資資本調達の困難さ
・観光開発のための土地利用計画と用地確保の課題
・地域間の繋がりと調整の脆弱さ

解決方法の提案としては、以下の通り。
・第1に地方観光地を開発するため、有効な政策を実施し、さらに投資環境を整備する。
・第2に主要観光地と地方観光地の協力を促進させる。
・第3は主要な観光地へ地方観光地の開発をサポートすることを奨励する。
・第4に地方観光地のインフラ改善への投資における官民の協力を促進する 
・第5に地方観光地における質の高い人材育成と観光開発への地域参加を促す政策
・第6にエネルギーや水資源、廃棄物・排水処理などのインフラ開発に焦点を当てる。

最後に、地方観光地を宣伝し、プロモーションしていくことが重要。次に、主要観光地と地方観光地の調整も重要。 そこから観光地の共通イメージを促進するネットワークを作り、商品の多様性を促進し、主要観光地の負荷を軽減させる。
これらはオーバーツーリズムに関して、私たちがここ数カ月調査したすべての内容となる。

(2)蒲生 篤実 日本政府観光局(JNTO)理事長
 日本政府は2003年からインバウンド振興のためにビジット・ジャパン・キャンペーンを開始し、2006年には観光立国推進基本法を制定してインバウンド観光を推進してきた。その結果、2019年には訪日外国人旅行者数が過去最高となる3,188万人を達成したが、新型コロナウイルスの感染拡大により日本の観光産業は大きな打撃を受けた。
2022年以降、水際措置の段階的緩和等により訪日外客数が回復に転じ、2023年8月には、2019年比85.6%とほぼ19年のレベルに回復した。
2023年3月には新たな観光立国推進基本計画(第4次)が策定され、「持続可能な観光」「消費額の拡大」「地方誘客の促進」の3つの大きな方向性、および具体的な数値目標が示された。これを踏まえ、JNTOでは観光庁と「訪日マーケティング戦略」を策定した。本戦略は、持続可能な観光(サステナブル・ツーリズム)を念頭に、➀「市場別戦略」➁ 高付加価値旅行やアドベンチャートラベル、大阪・関西万博を柱とした「市場横断戦略」③ 国際会議・インセンティブ旅行の誘致に向けた「MICE戦略」の3部構成となっている。
日本の目指すサステナブル・ツーリズムは、「地域の環境を守り、育む」「地域の文化を守り、育む」「地域の経済を守り、育む」ことに資する観光である。

オーバーツーリズムに関しては日本も観光が回復している中で同じような問題を抱えている。日本政府は10月18日に閣僚会議を開き、オーバーツーリズムの防止・抑制に向け対策パッケージを作った。対策の大きな方向性として、政府、国と地域との連動、協働、それが重要な柱となっている。JNTOとしても地域にしっかり向きあい、オーバーツーリズム対策に取り組めればと考えている。

国連世界観光機関(UNWTO)が地域の伝統と文化の保全に取り組む人口1万5,000人以下の地域の優良事例を認定する、「BEST TOURISM VILLAGES(ベスト・ツーリズム・ビレッジ)」では、「北海道のニセコ町」と「京都府南丹市の美山町」が選ばれた(2021年)。
またオランダの認証機関のGreen Destinationsが地域の優れた取組のストーリーを表彰するアワードにおいて、「愛媛県大洲市」と「熊本県小国町」の2地域が受賞した(2022年)。このようなサステナブルな取組を実践する地域を日本全国に育てていくべく、観光庁では2020年に「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」を策定するとともに、全国各地でモデル事業を実施している。

JNTOではサステナビリティを体現する日本の観光コンテンツの魅力を英語版の『EXPLORE DEEPER -Sustainable Travel Experiences in JAPAN』で発信するとともに、旅行者に日本の地域の持続可能性に理解・貢献いただきたいとの思いから、責任ある旅行者(レスポンシブル・トラベラー)になるための10のヒントをウェブサイトに掲載している。
JNTOが今注力しているもののひとつがアドベンチャートラベル(AT)である。ATは、「アクティビティ」「自然」「文化体験」のうち、二つ以上の要素をもつ旅行で、ATの世界的な市場規模は70兆円を超えるといわれており、欧米豪を中心に世界中で人気関心が高まっている。旅行者1人当たりの消費額や地域経済波及効果が大きく、ポストコロナ時代において需要拡大が期待できる観光分野として大きな注目を浴びている。この9月に北海道において、ATに関する世界最大規模の商談会・イベントであるATWS(アドベンチャートラベル・ワールドサミット)が開催された。JNTOもJapan Loungeの設置やプレゼンテーションを通して日本各地のATの魅力を発信した。アドベンチャートラベルを今後の大きな一つの流れとして本腰を入れて取り組んでいきたい。

JNTOは、ベトナムから日本への訪日旅行者誘致を目的として、2017年にベトナム事務所をハノイに設置し、ベトナム各地で開催される旅行博へのブース出展、旅行会社を対象とした日本視察ツアーの実施、日本の自治体や観光関係者とベトナム旅行会社等との商談会開催等を行っている。特に日越外交関係樹立50周年となる今年は「日越外交関係樹立50周年を契機とした訪日プロモーション」を展開中。同プロモーションのキャンペーン・アンバサダーとして著名なインフルエンサーの「ニータン・ファミリー」を迎えるとともに、プロモーション動画の展開、大使館外壁を活用した大型ポスターの掲示、旅行会社向け販促グッズの提供等を行っている。
ベトナムから日本を訪れる方の数は2023年の1月~8月の期間に約40万人となり、コロナ前の2019年同期比では117.6%を記録した。JNTOが重点市場と考えている国の中でもトップクラスの高い回復率となっている。

また、2023年2月にベトナムの旅行会社様を対象とした九州地域へのFAMツアーを実施し、九州の温泉、フルーツ狩り等を紹介した。今後もベトナムの旅行会社、航空会社、メディア等、観光関係者と連携して訪日プロモーションに取り組んでいきたい。引き続き協力をお願いする。

3.パネルディスカッション
(1)片山健也 ニセコ町 町長
 ニセコは夏と冬の気温差が大きく、四季それぞれの魅力がたくさんある。清流日本一の尻別川は、フィッシングやカヌー、ラフティング、川遊びが盛んで、冬はスキーで世界中の皆さんが多く訪れる。ニセコエリアは現在5つの自治体が共同で観光、誘客活動を行っているが、観光エリアを出来るだけ一か所に集中させないよう開発しておりどこへ行っても自然が楽しめる。観光は特色を活かした差別化された情報をみなさんが選択するというふうに考えているが、行政が観光を進めるには限界がある。民間の力が必要ということで日本ではじめてニセコリゾート観光協会を株式会社化した。また国内客だけでは限界があるので世界に向けて誘客活動を行っており、その結果パウダースノーに出会える場所ということで多くのスキーヤーがニセコを訪れるようになった。また観光庁から観光圏の認定を受けており、UNWTOからもベストツーリズムビレッジの称号をいただいた。
 
 これからの観光で重要なことは持続可能なリゾート地をつくることと考えている。世界の人々の信頼を集めるために観光地としての品質を高めていき、いかに地球環境負荷を低減させていくかも大きな課題と考えている。持続する観光地として脱炭素を進め、将来はすべてのエネルギーを再生可能エネルギーでまかなうことを目標に取り組んでいる。一方で質を高めるための財源が必要であることから宿泊税を導入し、観光客の皆さんにも共感をいただきながらインフラや二次交通の整備を進めて行くこととしている。
 一番の問題は住民が地域に対して愛着や誇りを持ち、そのプライドをどうやって定着させていくかである。それが結果として観光での大きなホスピタリティにつながっていくものと考えている。また厳しい環境・景観規制が良質な投資を生むとも考えており、乱開発をさせないよう、高層のホテルや鉄塔などもつくらない方針としてきた。

 今後も多くの皆さんの共感にもとづき、癒しと自然を愛する皆さんに来ていただきたい。世界中のみなさまから選ばれる観光地として、基本的人権や人間の尊厳を大事にしながら人々が交流できるスマートシティを目指したい。

(2)ホアン・ティ・ヴオン サパ市観光文化部長
 サパはベトナム北西部にある若い街である。 近年のサパ市の経済発展はめざましく、2022年の経済成長率は約13.8%だった。
 サパ市の観光は雄大な自然、素晴らしい気候、少数民族の文化的アイデンティティの 3 つの柱で構成されている。もう一つの利点はサパ市がコンミン、ラオカイ、ハノイ、ハイフォンという経済回廊に位置し、ベトナムの「東 - 西 - 北」の弧の真ん中に位置していることである。2020年にサパ市は正式に地方政府から都市政府に変更した。

 サパ市は2015 年に 80 万人以上の観光客を、2019年には330万人以上の観光客を迎え、観光活動による総収入は93,000億ドンを超えた。
 しかし他の多くの地域と同様にCovid-19のパンデミックによって大きな影響を受けたが、コロナ後の回復はめざましくは2023年前半の 9か月間で290 万人の訪問者を迎えた。
 最近、サパ市は世界で最も美しい都市と町のトップ 100、アジアの訪れたい目的地トップ15、アジアの最も魅力的な観光地トップ10、世界で最も美しい段々畑トップ7、世界で最も美しいトレッキング目的地トップ1等、多くの賞を獲得した。

 しかし観光客の急速な増加により、インフラの問題環境や景観への影響、民族の文化的アイデンティティへの影響といった課題が出ている。これらの問題を解決するため近い将来のサパ市を国家観光地に育て、国際レベルのインフラ、サービス品質、多様性、人材を確立することが重要である。
 現在取り組んでいるのは、第1に正しい計画を立てること、第2に新しい観光スポットの建設、第3にコミュニティ観光地への投資でありそこでは人材育成が重要となる。 第4にサパ市で実施する文化・スポーツイベントへの観光客の誘致であり、サパ市の強みを活かしたユニークな旅行商品構築に注力していく。

 オーバーツーリズムの根本的な解決策は、観光の部分のみならず交通、治安、環境衛生など関連するすべての項目に対する政治的意志決定であると考える。

(3)沢登次彦 株式会社リクルートじゃらんリサーチセンター センター長
 
新しい観光地を作っていく取組の際に重要となる点について話をする。
 二つの観点があり、一つ目は地域において持続可能な取組であること、二つ目は住民視点で地域づくりをしていくことであり、心理的オーバーツーリズムの解決につながっていくと考えている。重要なことは、住民視点で考える地域のコアバリューを何にするか。他の地域との差別化、ここにしかないという価値をどのように表現していくかである。
 まずは地域の中で文化的な価値にあるここにしかない価値というものを見ていくことが必要となる。

 一つ目の持続可能な取組について話をする。持続的な取組としていくためには、最初の観点はありきたりの目標ではなく、住民と一緒になって真に実現したい高い目標を設定し、本気で取り組んでいけるかどうかである。
 2番目は合意形成である。政治・経済・観光に関わるトップの人たちが高いレベルで合意形成し、ゴールに向かってぶれずにやっていくこと。合意形成の際に必要となるツールはデータとデザインである。データで将来の可能性を提示し、デザインでありたい姿の町を表現する。このデータとデザインをもっと観光に取り入れていく必要がある。
 3番目はゴールに向けて投資を集中させていくこと。精度高い計画を策定し、財源と人と組織をしっかりと準備していく。
 4番目は地域視点のコアバリュー、地域視点で資源を磨いていくことのアプローチである。ここは後ほど説明する。
 5番目は、データをモニタリングして素早くマネジメントすること。変化をいち早く察知し、幅広い人たちに共有する。それにより、成功であれば成功の香りを伝えていき、次へのモチベーションにつなげる。一方で危険なリスクであれば早めに手を打つ。そのために中小規模事業者に安価なテクノロジーサービスを導入しカスタマーのデジタルデータが素早く貯まる状態にする。観光DXが重要である。収集したデータを使ってすぐに戦略組織のDMOが投資の再配分を行う。このスピードが求められていく。

 2つ目の話は住民視点の地域づくり。元々住民視点の観光地づくりが必要じゃないかと考えていたが、本日の片山ニセコ町とサパ市のお話を聞いて、やはり住民視点で進めていく地域づくりが最も大事だと思った。その時に、地域に住む人たちが何に愛着と誇りを持っているのか、それを起点に地域づくりをしていくことが重要ではないかと思う。
 愛着と誇りは、生活や歴史などの文化に根付いていると思う。住民の愛着や誇りの資源、観光事業者のこれを進めていきたいという思う資源、旅行者の満足度が高い資源、この3点の重なりにある資源をコアバリューとして、投資を集中させることが重要と考える。
 コアバリューを決め観光資源に育てるためにマーケティングのスキームで進めていく。地域を訪れた観光客は、地域の人たちが一番誇りに思っているものを見たいと思う。住民は自身の愛着と誇りある資源を見に来てくれて、観光客に感謝の気持ちが持てるようになる。これがウェルビーイング=心身共に満たされる状態にもつながっていくのではないかと思う。
 そうなると、住民たちは資源や文化を次世代にも残していこうというサステナビリティの観点も加わってくる。

 物理的に解決しなければならないオーバーツーリズム対策の前に、心理的なオーバーツーリズム対策になる上記の観点を施すことが重要と考えている。生活への支障より感謝の気持ちを持つことは、確実に心理的オーバーツーリズムの解決策になっていく。
 併せて、個性的で魅力的な地域が生まれてくれば分散化にもつながる。新しい地域を生み出すためにも地域視点・住民視点でやっていくということが、分散化の促進と心理的オーバーツーリズムの解決策の両方につながるのではないかと思う。

(4)グエン・ヒュウ・イ・イエン会長 Saigontourist Travel Service
 
観光客のニーズに応えつつオーバーツーリズムを解決する手段は数多くあるが、一つは地方観光地を開発することである。
 地方観光地を開発する際の目標は、都市部から郊外へ観光客を分散させるだけでなく持続可能な開発が必要である。開発する際、地方自治体はその都市エリアと周辺の町の住民がどのような恩恵を受けるかについて長期的な戦略を持つことが重要である。
 それによって住民は観光開発のために自治体と協力する。その後、旅行会社が観光地の開発を行うことでハイシーズンの宿泊問題は解決する。一方でオフシーズンに旅行会社が送客するかどうかは難しい問題であるが、すでに旅行会社は都市間を移動するツアーを企画しオーバーツーリズムを解決する対策もとっている。

 新たに開発した観光地では持続可能な発展をしていかなければならない。森林や自然など天然資源を保護することが重要であることから、Saigon Touristでは、森林伐採地域には行かない、野生の肉は食べない、海岸を破壊する観光地には行かない等、天然資源を保護することを世界中の旅行会社と約束をしている。
 観光客が増えると地域経済が良くなる一方で悪い影響も多くある。文化に関して言えば、観光客が地域の文化に対して干渉し過ぎてしまうとその地域の文化はどんどん廃れていく。地方観光地が魅力的であるためには地元住民の文化を維持しなければならない。

 旅行会社にとっての問題は、観光客の要望に従うか、地方観光地開発の方向に従うかであるが、Saigon Touristでは今後もオーバーツーリズムの問題を解決し、観光客に質の高いサービスを提供していきたいと考えている。

質疑応答
質問➀
リピータ-率の指標が2019年の89%から2028年に70%に減少しているのはなぜか?

片山健也ニセコ町 町長
 全体の底上げに向けて特に閑散期(冬季)の宿泊者数を増やすことによって、リピーター率を下げていきたいと考えている。別の指標である延べ宿泊者数を増やすものの、オーバーツーリズムの解決のために分散化や宿泊税、入浴税、使用料等の徴収といった対応も必要ではないかと考える。

質問➁
どのようにして文化的なアイデンティティを維持させながら観光サービスを発展させるのか。

ホアン・ティ・ヴオン サパ市観光文化部長
 サパ市の観光における指針は、伝統的な文化的価値を保存し促進することである。また質の高い観光サービスを構築する目標も掲げている。さらにはユニークで安価な観光商品を構築するという計画も策定した。
 我々はサパ市の民族の文化的アイデンティティに新たな息吹、新たな活力を吹き込みたいと考えている。彼らの文化的アイデンティティが多くの観光商品や活動から恩恵を受けることができるようにすることが重要である。


4.閉会挨拶
ベトナム国家観光局長カイン局長
 本日日越両国の政府観光関係者から、オーバーツーリズムや地方誘客、および持続可能な観光への取組みの話を伺った。またパネルディスカッションでは観光分野における経験豊富な専門家により、ニセコとサパにおける観光客を惹きつける実践的な取組はじめ、収容力の管理、計画、および持続可能な観光の発展に関するディスカッションも行われた。 主催者を代表して注目すべきいくつかの問題を強調する。

主要観光地におけるオーバーツーリズムの課題について
 オーバーツーリズムを防止するための策として、観光業は観光地と観光体験の多様化を考慮に入れる必要があり、これがオーバーツーリズムの克服と同時に、観光業の持続可能な回復と発展の鍵であると考えている。

持続可能な観光に向けた地方観光地の開発について
 持続可能な観光に向け、オーバーツーリズムを克服するために地方観光地の開発が必要であり、それに伴って計画の策定、および実施の管理作業も確実に行われるべきである。 地方観光地は主要観光地から観光客の流れを分散させ、観光資源の効果的活用、地元住民の収入拡大支援、観光インフラの改善等の経済的インセンティブの創出が重要となる。そのためにも人材育成や観光サービス、観光商品の開発など地方観光地の品質を向上させ、地域の人々が誇る観光資源、交通利便性、ルート形成力といった「核となる価値」を定める必要がある。

今回のシンポジウムを通じてベトナム国家観光局を代表し、以下提案をさせていただく。
 日本側には、ベトナムの観光業を支援し、地方観光地の開発や文化・自然遺産の保存を促進するための協力プロジェクトの構築を継続してお願いしたい。
 ベトナム観光開発調査研究所(ITDR)は、今後、運輸総合研究所(JTTRI)との協力活動を積極的に展開し、セミナーやシンポジウムなどを引き続き共同で開催することを検討していく。
 持続可能な観光に向けた具体的な解決策や行動計画を提案するために、日本側と緊密に連携するよう、ベトナム国家観光局の各部署に働きかける。
 文化スポーツ観光省と地方観光局は、オーバーツーリズムの課題解決と地方観光地の開発に今後さらに注力する。
 ベトナムと日本の観光産業は、今後も観光協力活動、促進、交流、さらには持続可能な観光の発展を強化し続けると考えられる。

本開催概要は主催者の責任でまとめています。