地域観光シンポジウム
~地域観光産業を高生産性で高所得産業に!~

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地域観光シンポジウム

Supported by 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION

日時 2023/10/16(月)14:00~17:00
会場・開催形式 ベルサール御成門タワー3階ホール (及びオンライン配信(Zoomウェビナー))
テーマ・
プログラム
【開会挨拶】
宿利 正史  運輸総合研究所 会長

【基調講演】
「米国における観光産業の高生産性化・高所得化の取組」
原  忠之  セントラルフロリダ大学ローゼンホスピタリテイ経営学部テニュア付准教授

【パネルディスカッションおよび質疑応答】
コーディネーター:山内 弘隆  武蔵野大学経営学部特任教授、一橋大学名誉教授、
                運輸総合研究所 研究アドバイザー
パネリスト   :冨山 和彦  株式会社 日本共創プラットフォーム(JPiX)
                代表取締役社長
                ※ビデオメッセージ
        :西野 和美  一橋大学大学院経営管理研究科 教授
        :原  忠之  セントラルフロリダ大学
                ローゼンホスピタリテイ経営学部テニュア付准教授
        :沢登 次彦  株式会社リクルート じゃらんリサーチセンター
                センター長
        :山田 雄一  公益財団法人日本交通公社 理事・観光研究部長
        :城福 健陽  元京都府副知事、 運輸総合研究所特任研究員
        
【閉会挨拶】
佐藤 善信  運輸総合研究所 理事長

開催概要

 観光産業は、長期的成長を見込める日本経済を支えるリーディング産業で、基幹産業たりうる産業ですが、その労働生産性は他産業分野と比較しても低く、賃金水準も低い状況にあります。
 本シンポジウムは、これまでの検討成果としての提言(7月31日公表)について報告を行うとともに、我が国が将来的にも持続ある発展を維持するため、観光先進諸外国から大きく遅れる我が国の観光産業の現状やかつての大量生産・消費・販売方式の他律的な経営から抜け切れていない観光産業界の現状について、関係者が明確に認識を共有した上で、地域観光産業を高生産性・高所得産業とするための方策を考えることを目的に実施しました。

※7月31日公表の提言についてはこちらをご覧ください

主なSDGs関連項目

プログラム

開会挨拶
宿利 正史  運輸総合研究所 会長

宿利 正史  運輸総合研究所 会長

開会挨拶

基調講演
「米国における観光産業の高生産性化・高所得化の取組」<br>原  忠之  セントラルフロリダ大学ローゼンホスピタリテイ経営学部テニュア付准教授

「米国における観光産業の高生産性化・高所得化の取組」
原  忠之  セントラルフロリダ大学ローゼンホスピタリテイ経営学部テニュア付准教授

講演者略歴
講演資料

【パネルディスカッション】

コーディネーター
山内 弘隆  武蔵野大学経営学部特任教授<br>       一橋大学名誉教授<br>       運輸総合研究所 研究アドバイザー

山内 弘隆  武蔵野大学経営学部特任教授
       一橋大学名誉教授
       運輸総合研究所 研究アドバイザー

講演者略歴

パネリスト
冨山 和彦  株式会社日本共創プラットフォーム(JPiX)代表取締役社長<br>       ※ビデオメッセージ

冨山 和彦  株式会社日本共創プラットフォーム(JPiX)代表取締役社長
       ※ビデオメッセージ

講演者略歴

パネリスト
西野 和美  一橋大学大学院経営管理研究科 教授

西野 和美  一橋大学大学院経営管理研究科 教授

講演者略歴

パネリスト
原  忠之  セントラルフロリダ大学<br>       ローゼンホスピタリテイ経営学部テニュア付准教授

原  忠之  セントラルフロリダ大学
       ローゼンホスピタリテイ経営学部テニュア付准教授

パネリスト
沢登 次彦  株式会社リクルート じゃらんリサーチセンター センター長

沢登 次彦  株式会社リクルート じゃらんリサーチセンター センター長

講演者略歴

パネリスト
山田 雄一  公益財団法人日本交通公社 理事・観光研究部長

山田 雄一  公益財団法人日本交通公社 理事・観光研究部長

講演者略歴

パネリスト・提言報告
城福 健陽  元京都府副知事<br>       運輸総合研究所特任研究員

城福 健陽  元京都府副知事
       運輸総合研究所特任研究員

講演者略歴
講演資料

閉会挨拶
佐藤 善信  運輸総合研究所 理事長

佐藤 善信  運輸総合研究所 理事長

閉会挨拶

当日の結果

■基調講演

「米国における観光産業の高生産性化・高所得化の取組」
 原忠之  セントラルフロリダ大学ローゼンホスピタリテイ経営学部テニュア付准教授

 オーランドでは、1971年にウォルト・ディズニー・ワールド(Walt Disney World Resort)が開業し、ホテルブームとなったが、1973年にオイルショックが発生。その後、苦難のホテル業界が団結し、国際会議場とDMOの導入に加え、ホテル宿泊税を導入し財源とすることについて、地元政府に対して陳情を行った。これにより、1978年に宿泊税が導入された。
 DMOは、社長以下執行役員における女性の割合が大きい。年収では、社長は基本給のみで39万5000ドルであり、執行役員は大概ね20万ドルを超える。なお、オーランド市長は約18万ドルであり、DMOの執行役員以上はそれを超える年収である。
 通常、観光の公共インフラ整備は、地元の一般財源から支出している。一方、オーランドは、投資家に地方債を発行し、その資金で公共インフラを作る。また、観光客開発税(日本で言う宿泊税)を宿泊客から徴収し、その税収は特別勘定に入れ、地方債を発行した元利償還資金やDMOの運転資金など観光の奨励目的にしか使わせない。一般財源に宿泊税を入れるべきではなく、そのことについての成文化が必要だ。地元の方々の固定資産税から賄われている財源を、地元のためではなく、観光客を奨励するために使うことは火種になる。宿泊税については、定額よりも定率を勧める。定額の東京と定率のオーランドを比べると、ホテル客室数は変わらないものの、オーランドの税収の方が大幅に多いことからも明らかである。
 セントラルフロリダ大学ローゼンホスピタリテイ経営学部卒の初任給は784万円と高い。アメリカのホスピタリティマネジメントは、マネジメント分野とプロフェッショナリゼーション分野の交わり部分に位置する。一方、日本の観光学部は、ホスピタリティ分野の端にあるが、もう少し、マネジメント分野に重点を置いた方がよい。
 マーケティングについては、往訪で終わらず、唱道してもらうこと、SNSで発信してもらうところまでを現地のDMOがお膳立てすることが重要。発信する方の友達は、その方と属性情報が似ている人が多いため、唱道の効果が上がるからである。
 今後、政府が観光消費額15兆円を目指していくには、滞在日数が長い客を誘致し、単価を上げる必要がある。家からの移動距離が長くなるほど平均滞在日数が伸びるという学術論文もあり、欧米の人を誘致するべきだ。ラグビーワールドカップの時、平均滞在日数17日間、1人当たり消費額68万円であったので、無理なことではない。
 日本の宿泊飲食サービス業の年収は男性340万円、女性170万円と安すぎる。2023年、米国では、女性の年収が歴史上初めて5万ドル(750万円)を達成した。一方、日本の女性の平均年収は290万円であり、中でも宿泊飲食サービス業が1番安く、ここを上げると、経済にとても効果がある。今年8月のウォールストリートジャーナルの記事に、米国の景気好調は、女性の消費の影響が非常に大きいとあった。女性は固定資産を保有していない人が多く、固定負債もないことから、その分消費に回り、さらに経験に回る。例えば、有名歌手のコンサートに行く際、チケット代の他、労働集約型産業であるネイル・ヘアサロンにもお金を使う。女性によるこの経済効果は無視できない、という記事であった。例えば、米国ホテルの統一会計基準では、人件費は売上の3割程度。売上を2割増やし、増えた分を人件費5割増に使っても、同じ当期利益が確保できる。米国で見られたとおり、日本でも1番年収が安い宿泊飲食サービスの女性の年収を上げると、めざましい金額が消費に回る。賃金を上げるための資金は、政府からは一切要らない。なぜなら、実際にインバウンドが増加していることで、ホテル料金が2割程度上昇している。つまり、民間でできる。
 日本が外貨を稼ぐためには、インバウンド観光、外国人留学生の獲得、日本食材の輸出である。多くの外貨を稼ぐ方法があるので、この3つをまとめて行うことが必要と考える。


■パネルディスカッション

[コーディネーター]:
山内 隆弘     武蔵野大学経営学部特任教授、一橋大学名誉教授、
          運輸総合研究所 研究アドバイザー
[パネリスト]:
冨山 和彦     株式会社 日本共創プラットフォーム(JPiX) 代表取締役社長
西野 和美     一橋大学大学院経営管理研究科 教授
原  忠之     セントラルフロリダ大学 ローゼンホスピタリテイ経営学部テニュア付准教授
沢登 次彦     株式会社リクルート じゃらんリサーチセンター センター長
山田 雄一     公益財団法人日本交通公社 理事・観光研究部長
城福 健陽     元京都府副知事、 運輸総合研究所 特任研究員


○地域観光産業の基盤強化・事業革新に関する提言

城福 健陽     元京都府副知事、 運輸総合研究所 特任研究員

 日本の観光産業は、長期的成長を見込めるリーディング産業であり、我が国の基幹産業ともなりうる産業である。一方で、観光産業は労働集約型産業であり、長期的成長の実現には人材確保が必須であるが、他の産業分野と比較し、賃金水準が低く、人手不足である。このような現状を踏まえ、我が国の観光産業が将来にわたり持続的な発展を続けるためには、国、自治体、観光産業界、金融機関など関係者間で、観光産業の現状を認識共有した上で、地域観光産業を高生産性で高所得産業とする取組みが必要であり、その方策について、今回提言を行った。
 地域観光産業の生産性向上のための『基本的な取組み事項』については、観光産業に産業政策がないことが問題であるとし、「産業政策の必要性と有効性」として、価値に相応する価格の設定など4項目を必要な産業政策として提言するとともに、その他「観光産業の重要性の見える化」「地域全体での経営戦略的取組みの必要性」「地域全体でのバックキャスティングによるDX化」が必要であると提言している。
 『個別分野の取組み事項』では、「旅館等宿泊産業の生産性向上の方策」について、サービス水準・価格決定を含めて外部に依拠する他律的な旧来型ビジネスモデルから自律的な高生産性化への転換が急務であるとし、取組み事項として、宿泊産業に関する集積・立地政策や旅館等宿泊業の公的格付け制度の導入などの「宿泊産業の産業政策の必要性」や「旅館等宿泊事業等の円滑・円満な退出の観光圏整備法も活用した実現」、「CSに直接影響する実務人材の要件・育成」など6項目を提言している。「関連地域観光産業の生産性向上の方策」について、地域観光産業の生産性向上のためには、中核となる宿泊事業の生産性向上とともに、地域交通や飲食物販などの関連事業も農業・医療等他分野とのシームレス化などによる高付加価値化や事業効率化などで生産性の向上を図ることや、特に高付加価値の源泉であるガイド人材について、公的な資格制度導入などその要件・育成を含め取組み事例として7項目を、そして、それらをDMOが地域全体で整合ある取組みとして統括することが必要であると提言している。
 「DMOの本来機能の発揮」について、DMOは地域への裨益のための基盤作りを第一義とする公的な機能であり、本来、公的財源等が必要であるものの、その点が理解されていない現状があるため、「DMOの公的な本来機能の明確化とともに、DMOとDMCとの相違・施策上の位置づけの区別を制度上も明確化することが必要」であり、観光圏整備法にDMOの組織・権限等を位置付けることも必要と提言している。また、DMOの機能発揮は人材次第であるが、多くのDMOは給与水準が自治体の人件費予算単価に依拠していることから、CEO、CFO、CMOの必置とその高度専門人材の確保のための給与水準の提示が困難な状況である。自治体はDMOの安定的財源を確保することで、DMOの本場、欧米並みの「高い給与水準を実現し、雇用契約等で成果主義を導入することが重要」である。さらに、DMOの活動は地域の将来に広く裨益するにもかかわらず、財源が自治体の一般会計予算であるため、長期的に安定した自律財源と言えず、活動も不安定な状況である。以上のような問題への対応のためには、自治体は自律的な観光振興のため、まずは、「使途目的を観光振興に限定した宿泊税の導入に着実に取り組むことが必要」である。最後に、自治体の宿泊税導入などのためにも、DMOの役割、観光のインパクトについて、「地域住民の理解促進が必要」であり、観光庁は、DMOが地域住民などとのコミュニケーションを強化し、地域住民への理解を促進させることを「DMOの本来機能とすることが必要」である。
提言の概要は以上であり、詳細はぜひホームページをご覧いただきたい。


○セッション①
「産業政策の必要性とそのあり方」

●冨山委員_ビデオコメント

 基幹産業たる自動車産業の従事者が550万人のところ、観光産業における従事者は既に500万人を超え、雇用規模の意味でも非常に基幹性を持つ。
 日本の持つ代替性のない強みは、美しい自然や歴史、もてなしの心、安全な社会といった点である。それに世界の人が気づきどんどんやってくる今、観光産業は普遍的・恒久的な付加価値を生み出せる産業になってきている。したがって、当然、国家としてこれをこれから最大の基幹産業に持っていかねばならない。産業政策を語るときに、観光産業抜きにはむしろ産業自体を語れない時代になっていると言っても良い。
 かつ、いわゆるテクノロジー・イノベーションの世界は、政策が対応できる部分が意外とないが、観光産業は、交通、宿泊、観光的価値のある場所、と色々な機能を連動させる必要がある意味で、むしろ政策が馴染む。
 色々なことが変化していく中で持続性を持つ、環境的に良いところでないと観光産業は成り立たないので、今の社会問題解決との関連性においても、観光産業を産業政策としての戦略性を持った分野として推し進めていくことが重要だ。

・観光産業は、原価積み上げで料金が決まる世界ではない。製造業の場合は、製造技術のイノベーションにより生産コストを下げることで付加価値を上げることができたが、観光の場合はむしろどれだけお客様にそのサービスや経験の価値を認めてもらい、値段を上げていくかが重要で、発想が真逆だ。これをきちんと各経営者へ伝えていかないと、いつまでも低生産性で付加価値は上がらない。(山田委員)
・観光は「地域」にとって大きな価値がある。一つはウェルビーイング、住民幸福度につながっていくことで、もう一つは経済成長による生活水準の向上だ。ウェルビーイングは、住んでいる人たちの誇りや愛着あるものを来てくれた人に教えていく、この誇りと教えのある人生を提供する価値があり、カスタマーも実は学びと発見ということにつながる。地方産業としての波及価値も感じて政策推進していってほしい(沢登委員)
・産業政策は40年や20年のスパンで進める必要がある。オーランドの例を挙げる。
 ① 国際会議場の開設
   40年前に国際会議場を開設した時、オーランドのような暑いところで商談ができるわけないと散々馬鹿にされたが、2019年頃には国際会議開催数で全米1位になった。
 ② オーランドのイメージに対するアンケート調査の実施
   20年前に全米のミーティングプランナーにアンケートを実施したところ、例えば医療関係等、高額を使ってくれるミーティングを開催しても、利用するホテルやレストランのない点が課題として挙がった。リッツ・カールトン等の最高級ホテル群を誘致した結果、ADR(客室平均単価)が1位になった。
 ③ セントラルフロリダ大学の設置
   総支配人やある程度上のディレクタークラスの人材としては、コーネル大学や他の地域で教育を受けた人がオーランドに来て、地元の人たちはいわゆる給料の低いラインスタッフになるイメージがあったが、我々の大学、学部が20年前にでき、現在は研究ランキングで全米1位になった。
産業政策は、現状を素直に調査し、結果の中で痛いところを認識、その「弱みの部分」を今後5年10年、とどう変えていくかを考える必要がある。(原委員)
・地域観光産業で大変重要なのは、中小企業の方々やその地域にいらっしゃる方々の収益を全体として上げていくための施策をどうするかを考えていくことだ。その地域の企業、農業、水産業、医療ツーリズムやアグリツーリズム等、様々な業態を巻き込み、地域の産業を活性化することで、安定的な雇用、さらには賃金の向上につながる。ただし、それは裏を返すと地域観光産業という枠組みを明示化し、そこに関わるさまざまな業態の方々が一堂に会し、そうした政策について考える、もしくは官庁としても、横串というか、複数の官庁で横断的に地域を活性化させる手立てを考える必要があるだろう。 (西野委員)
・観光は関係自治体や産業界のコーディネーションが必要であり、また、国も自治体も公的資金の導入を以て産業振興を図っているので、そういった意味でも、国が一定の政策の方向性を示し、それによってコーディネーション、円滑な調整がより進み、業務も効率化、活性化する意味で産業政策は必要であり、有効な分野である。特にプライシングの問題、価値とプライシングの関係等、その意識改革も含めて敢えて国が一定の方向性を示すことで、自治体や産業界も取り組みが進みやすくなるのではないかということで、今回提言をまとめている。(城福委員)


セッション②
「地域観光産業の生産性向上方策」

●冨山委員_ビデオコメント

 日本では、人手不足で付加価値労働生産性を高めていかなければ産業が成り立たない状況にあるが、これを上げることが観光産業の最もコアな経済的方策であり、二つの方法がある。
 一つは、分子の付加価値、粗利を上げることである。「おもてなし」というマジックワードでお金をいただかないで接遇をするのではなく、サービスや人手の対価をきちんと得ることが重要である。
 二つ目は、テクノロジーによって分母の投入労働量を減らすことである。今は最新のAI技術等が海外から安価で入ってきており、コストをかけずに導入できる。裏返して言うと、採算の合わないことをやると労働時間が無駄に使われてしまうので、「分ける化」「見える化」という、事業ビジネス経営の基本的なことが重要になる。元々、観光業は固定費型の商売で、一つ一つ原価と付加価値の関係で紐づけにくいため「分ける化」が結構雑になるが、そうしたことをやることによって初めて色々なDX、ITツールが活きてくる。そのため、最低限の経営能力、人材が必要になる。経営者あるいは経営に関わる人材は結構希少資源なので、今後、人手不足で廃業しなければならない、身売りしなければならないというケースが増えてくると思う。
 人手不足で廃業しなければならない場合、補助金などで延命するよりも再編・統合を後押しし、地域へ新しい世代を呼び込むことで、新しい会社に事業や働き手が移動し、付加価値労働生産性の高い企業が残っていく。そうしたところに人材が移ることを促すことが、最も地に足の着いた生産性向上の方策である。

・二段階の変革が必要で、一つ目は仕事のやり方を変える、二つ目は経営を変える、ということ。前者については、DX化の前段で仕事のフローを再認識する、お金の流れを把握し効率的に流れるようにしていくことで、自ずと不可欠になってくるものである。ただし、仕事のやり方を変えることに抵抗がある場合には、後者、事業継承もしくは統合というようなところを考えていく必要がある。ただし、地域の観光をベースとして考えると、観光資源の保持・発展が不可欠であり、DMOや地元の金融機関が介入していくことが必要ではないか。(西野委員)
・アメリカには、ニューヨークのホテル協会が作った統一のホテル会計基準(Uniform System of Accounts for the Lodging Industry)がある。売上、部門別の費用と利益を出し、分配フローの費用を引き、固定費前利益を出すまでをGMの責任、以降の、例えば支払利息(interest expense)は投資に係るオーナーの判断となるが、そうしたものがあれば、生産性にかなり切り込める。
 生産性を上げる最も簡単な方法は、外国人向けの価格を上げ、売上を上げることである。遠方から来るため、早い時期から予約をすることに加え、今や100ドル以下の宿泊施設は怖くて予約しない。例えば宿泊日の2か月前には外国人向けの高めの価格設定をし、それで売れず2週間前になれば日本人向けに価格を下げるといったレベニューマネジメントを行う。日本人に便乗値上げと言われるのを避けて、セグメントをきちんと分けてマーケティングすれば実はうまくいく。(原委員)
・廉価な業務支援テクノロジー(IT化)でシフト管理や問合せ対応、スマートチェックインなどの「裏方の業務を少量化する」こと、そこで生まれた時間やコストを使って顧客接客密度を上げて「表方の付加価値を上げる」エコサイクル化が大事だと認識している。
 エコサイクル化して、生まれた収益・時間を従業員の待遇改善し、人材成長・定着をはかることが最も大事であり、サスティナブルである。待遇とは、「給与所得」、有休消化や働き方の柔軟性などの「環境面」、努力と成果が報われる人事制度やキャリアパスといった「制度」の3つである。(沢登委員)
・日本の観光地に大きく欠けているのは、都市計画との連動性である。草津温泉は持続的に魅力があり、集客をしているが、湯畑が中心にあって温泉街が作られているからである。観光地が都市計画的に集まっていると、観光客の送迎の必要がなく、花屋、リネン、飲食店、ホームページを作成する企業等、事業者との連携がしやすいということで、あらゆるコストが削減できる。提言書の中で「観光圏整備法」の使用を提言したのは、そういったことも背景にある。(山田委員)
・今回の提言では、生産性向上が一つの大きなテーマで、生産性向上が見込めない施設の「円満・円滑な退出」を地域の前向きな取組みとして位置付け、国・自治体が支援しながら地域全体で取り組むとしている。
 また、山田委員のご発言のとおり、立地集積のあり方も特に宿泊産業の産業政策として位置付けるべきである。
 さらに、地域価値の「見える化」あるいは観光産業の付加価値の創出と分布構造の「見える化」も、生産性向上のために必要である。
 西野委員のご発言にあった供給側の業務効率化による生産性向上に関しては、経済産業省がサービス産業の生産性向上に継続的に取り組む中、科学的アプローチの導入促進や顧客満足度指数JCSIを開発し、SPRINGが毎年度公表等しており、本提言でも言及している。(城福委員)


セッション③
「地域経営の司令塔となるべきDMOの本来機能の発揮」

●冨山委員_ビデオコメント

 「地域経営の司令塔となるべきDMOの本来機能の発揮」とあるが、地域の観光資源・観光機能、社会インフラ機能も含めて、トータルにマネジメントすることが重要で、従来の観光協会・旅館組合の延長線上ではなく、相当強力な企業体である必要。欧米の成功例を学びながら、DMOの役割・機能を皆で考え直すと良いだろう。
 我々が運営している南紀白浜空港は、DMO的な役割を果たしているが、中立かつリーダーシップ的な立場である。なぜなら空港は地域の共通のゲートウェイなので、地域内のいろいろな利害対立から比較的中立で、空港にとっていいことはほぼ皆にとっていいことだからである。もう一つが、コンセッションのような仕組みで民営化をする中で、私どもの会社が引き受けたこともあって、相当経営的な力のあるメンバーがそこで頑張っているためである。DMO的なものがきちんと機能してコーディネーションというものが動き出すと、日本の観光のポテンシャルは実に高いので、観光客はますます沢山の金を支払い、ここで働く人たちの賃金水準をどんどん押し上げていって、本当の中間層雇用、ブラックでないホワイトな働く環境で、しかるべき給料がもらえるような、そんな産業に必ずなっていくと思う。

・ホスピタリティマネジメントを理解、運用できる人を増やすことが大前提である。宿泊税を多くの市町村で導入し、特別税でDMOの予算とする。それにより、DMOの事務局長の給料を1000~1500万円とする等、ポストを複数用意し、ホテルやコンサルタントからの転身等、人が集まる環境を作ることに尽きる。(山田委員)
・比較的成功するDMOには、以下5つの観点があると見ている。
 ①既存組織では達成できないような高い目標・ビジョンの設定
 ②行政・経済・観光のトップが高い目標に対してコミットメントする。その合意形成の際、データの説得力とデザイン言語化が必要。
 ③DMO内におけるデータによる正しい意思決定と高速でPDCAサイクルを回す仕組み
 ④戦略を支える人的資本(例えば:外部人材は、地域の潤滑油となるコミュニケーション力、分析力・企画力・経営力を備える存在)
 ⑤5年程度の中長期で安定した財源と計画(沢登委員)
・アメリカのDMOのミッションは、地域住民に観光産業の重要性を啓蒙すること、ネガティブショックの際のリーダーシップを担うことである。オーランドでは、リーマン・ショックの際、宿泊業界で2泊すれば3泊目を無料とするキャンペーンを行い、政府の支援のない自主的な取組みを主導したが、DMOはネガティブショック時におけるリーダーシップが重要。また、今回の提言書はDMOに関する最も良い文献である。(原委員)
・戦略的経営ができるかが重要であり、ビジョンの提示とそれを短期に落とした際の資源の分配ができるか。資源の分配においては、利害関係者のベクトル合わせと、そこに向けて牽引するリーダーシップが求められる。(西野委員)
・京都府副知事を務めていた時代にDMOを立ち上げた経験も踏まえ、国の明確な定義などがなく、様々な解釈がある中で市町村など地域に、公的支援などのご理解を得ることは難しいことから、提言では、公的支援等する限りは、国が自治体をはじめ地域に明確な方向性、DMOとDMCとの違いを示すこと、また、観光圏整備法の中にDMOを位置付けて権限・機能を明確にすることの必要性を提示している。(城福委員)


●コーディネーターによる総括

 今回は、一つ目に、産業政策は観光産業においても必要であり、どのような政策が必要であるかということ、二つ目に、観光産業は生産性が低いと言われる中で、これをどのように上げていくかということ、三つ目に、DMOが地域の司令塔となることの必要性とそのための取組みについて議論を行った。この「産業政策」、「生産性」、「DMO」の3つのテーマは、地域観光産業を高生産性・高所得産業とするために非常に重要な鍵となるということを改めて提示し、ディスカッションの結びとしたい。(山内座長)


質疑応答

Q.日本の観光教育について、ホスピタリティからマネジメントへの移行、マネジメント層育成の観点で、今後の可能性について伺いたい。
A.
・観光産業においてマネジメント人材の重要性の周知が必要。また、少し違う産業のケース等、俯瞰して見ることがマネジメント人材としての有用な能力につながる。ホスピタリティにおけるマネジメントはまだ途上である。教育側とともに、学ぶ側も目的意識を持つことが互いに有益な場となるのではないか。(西野委員)
・来春に立命館大学のビジネススクールで観光MBAを立ち上げる。宿泊事業者の後継者の受講を想定し、地元で経営を行いながらオンラインでコースが取れるようにしている。(山田委員)



本内容は主催者の責任でまとめています。