「カーボンニュートラルに向けた燃料転換の戦略
  ~空・海・陸 各交通モードの最前線~」

  • その他シンポジウム等
  • 総合交通、幹線交通、都市交通
  • 安全・セキュリティ・防災・環境

交通脱炭素シンポジウム

Supported by 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION

日時 2023/3/28(火)14:00~17:00
会場・開催形式 ベルサール御成門タワー (及びオンライン配信(Zoomウェビナー))
テーマ・
プログラム
【来賓挨拶】
藤井 直樹   国土交通事務次官

【基調講演】
「日本のカーボンニュートラルに向けて ーUtility3.0の世界におけるmobilityー」
竹内 純子   国際環境経済研究所理事・U3イノベーションズ合同会社共同代表

【プレゼンテーション】
「カーボンニュートラル実現に向けたANAグループの取り組み」 
宮田千夏子   ANAホールディングス株式会社 上席執行役員 グループCSO
        サステナビリティ推進部長

「国際海事機関(IMO)での脱炭素議論と日本郵船の取り組み」
髙橋 正裕   日本郵船株式会社 執行役員
         技術本部 担当 環境グループ・技術本部統轄グループ

「鉄道における脱炭素の取組み」
堀込 順一   東日本旅客鉄道株式会社
         イノベーション戦略本部R&Dユニット ユニットリーダー兼
         JR東日本研究開発センター所長

「ヤマト運輸のカーボンニュートラルへの取り組み」
上野  公   ヤマト運輸株式会社 グリーンイノベーション開発部
         グリーンイノベーション開発グループ シニアマネージャー

「国際航空におけるカーボンニュートラルに向けたSAF導入による空港会社の役割と関係者の連携について」
田代 敏雄   成田国際空港株式会社 営業部門 給油事業部 部長

「国際コンテナ戦略港湾におけるカーボンニュートラルポートの実現に向けた取組について」
植松 久尚   横浜川崎国際港湾株式会社 取締役副社長

【パネルディスカッション】
モデレーター:
山内 弘隆   運輸総合研究所 所長

開催概要

 温室効果ガスの排出削減が技術的に困難といわれる交通分野では、カーボンニュートラルに向けた燃料転換のさまざまな取組みが各モードにおいて進められている。バイオ燃料や水素系カーボンニュートラル燃料への転換、再エネ電力の活用等の取組みが世界で加速する中、日本の各交通モードはどのような戦略で燃料転換を進めようとしているのか。本シンポジウムでは、エネルギー及び航空、海運、鉄道、物流・トラック、空港、港湾の各分野の有識者にお集まりいただき、日本を取り巻くエネルギーと燃料の動向、各交通モードにおける最前線の取組み等を共有するとともに、脱炭素に向けた燃料転換を円滑に進めていくうえでの今後の課題と展望について、議論を通じて探る。

プログラム

開会挨拶
宿利 正史<br> 一般財団法人運輸総合研究所 会長

宿利 正史
 一般財団法人運輸総合研究所 会長

開会挨拶
来賓挨拶
藤井 直樹<br> 国土交通事務次官

藤井 直樹
 国土交通事務次官

来賓挨拶
基調講演
竹内 純子<br> 国際環境経済研究所理事・U3イノベーションズ合同会社共同代表

竹内 純子
 国際環境経済研究所理事・U3イノベーションズ合同会社共同代表

講演資料

プレゼンテーション①
宮田 千夏子<br> ANAホールディングス株式会社 上席執行役員 グループCSO サステナビリティ推進部長

宮田 千夏子
 ANAホールディングス株式会社 上席執行役員 グループCSO サステナビリティ推進部長

講演資料

プレゼンテーション②
髙橋 正裕<br> 日本郵船株式会社 執行役員 技術本部 担当 環境グループ・技術本部統轄グループ

髙橋 正裕
 日本郵船株式会社 執行役員 技術本部 担当 環境グループ・技術本部統轄グループ

講演資料

プレゼンテーション③
堀込 順一<br> 東日本旅客鉄道株式会社 イノベーション戦略本部 R&Dユニット ユニットリーダー 兼 JR東日本研究開発センター所長

堀込 順一
 東日本旅客鉄道株式会社 イノベーション戦略本部 R&Dユニット ユニットリーダー 兼 JR東日本研究開発センター所長

講演資料

プレゼンテーション④
上野 公<br> ヤマト運輸株式会社 グリーンイノベーション開発部 グリーンイノベーション開発グループ シニアマネージャー

上野 公
 ヤマト運輸株式会社 グリーンイノベーション開発部 グリーンイノベーション開発グループ シニアマネージャー

講演資料

プレゼンテーション⑤
田代 敏雄<br> 成田国際空港株式会社 営業部門 給油事業部 部長

田代 敏雄
 成田国際空港株式会社 営業部門 給油事業部 部長

講演資料

プレゼンテーション⑥
植松 久尚<br> 横浜川崎国際港湾株式会社 取締役副社長

植松 久尚
 横浜川崎国際港湾株式会社 取締役副社長

講演資料

パネルディスカッション及び質疑応答

<モデレータ>
 山内 弘隆  一般財団法人運輸総合研究所 所長
 


<パネリスト>
竹内 純子 国際環境経済研究所理事・U3イノベーションズ合同会社共同代表
 
宮田 千夏子 ANAホールディングス株式会社 上席執行役員 グループCSO サステナビリティ推進部長
 
髙橋 正裕 日本郵船株式会社 執行役員 技術本部 担当 環境グループ・技術本部統轄グループ
 
堀込 順一 東日本旅客鉄道株式会社 イノベーション戦略本部 R&Dユニット ユニットリーダー
     兼 JR東日本研究開発センター所長
 
上野 公 ヤマト運輸株式会社 グリーンイノベーション開発部 
     グリーンイノベーション開発グループ シニアマネージャー
 
田代 敏雄  成田国際空港株式会社 営業部門 給油事業部 部長
 
植松 久尚 横浜川崎国際港湾株式会社 取締役副社長
閉会挨拶
江口 秀二<br> 一般財団法人運輸総合研究所 主席研究員 兼 会長技術補佐

江口 秀二
 一般財団法人運輸総合研究所 主席研究員 兼 会長技術補佐

閉会挨拶

当日の結果

■基調講演
テーマ:日本のカーボンニュートラルに向けて -Utility3.0の世界におけるmobility-
講師:竹内 純子  国際環境経済研究所理事、U3イノベーションズ合同会社共同代表


カーボンニュートラルの国際交渉においては、「新たな南北問題」の構造がみられる。気候変動は世界各国の共通課題であるが、負っている責任には差異がある。世界的に気候変動に対する危機感が非常に高まっているものの、議論はより高い目標を掲げるといった方向に向きがちで、どうやって実現するのかという議論が追いついていない。COP26はホスト国のイギリス主導で力が入っていたが、COP27は途上国であるエジプトがホスト。COPそのものが、各国・産業界の取組PRの場になりつつある。その裏で先進国vs途上国、欧州vs新興国、欧州委員会vs欧州産業界といった色々な対立軸が垣間見えた。
国際交渉の場を離れて各国の政策を見れば、先日アメリカが成立させたIRA(インフレ抑制法)が世界に与えた衝撃は大きい。欧州の規制型(北風方式)と米国の負担をかけない方式(太陽方式)のどちらが勝つか。IRAとは日本でいうところのGX法案のような位置づけであるが、明確なメッセージをもってグリーン産業支援の補助金を大量に先行投下するものである。これを見て各国は自国の政策に見直しをかけている。これまで気候変動分野で欧州が主導してきたが、各国が多様な取り組みを求めており、別の基軸が求められている。欧州と新興国の対立も浮上する中で、日本の役割は新しい基軸を打ち出すことであり、防災・省エネ技術等日本にしかできない貢献、日本に期待される貢献は多い。CO2を減らすことも十分な国際貢献だが、自分たちができることにもう一度目を向ける必要がある。
次にGX実行会議の議論の動向について。グリーントランスフォーメーション(GX)とは、DXも含めて、社会のあり方を効率化し、より豊かに快適にするというものであり、単にCO2を減らすこと(CN)から発想を転換する必要がある。GXを成長戦略とすることが必要だが、必要とされる投資も莫大だ。GX移行債は、政府がまずGXに20兆円を投資し、それを呼び水に民間投資(130兆円)を促すものであるが、その財源の償還は「成長志向型カーボンプライシング」として、再エネ賦課金や石油石炭税がピークアウトするところに減少分を埋める形で考えられている。ただし、この二つの負担が既に日本の産業界の競争力を削いでいる中、負担を維持することが適正かとの議論も含めて詳細が重要である。
カーボンプライシングは環境への負荷を経済価値に換算する制度であり、脱炭素化への有効なツールであるが、制度の細部に悪魔が宿りやすく、本来進むべき姿を阻害するおそれもある。エネルギー間での中立性、国際的な公平性、負担の適切性が重要である。カーボンプライスは人の行動変容を促すインパクトを持つものでなければならないが、代替技術がなければ国民経済に甚大な影響を与える。エネルギーとはすべての国民が平等に使う生活財であり生産財である。負担の適切性や、製品のライフサイクル全体をカバーするものであること、単一価格といった要件を満たす制度設計が必要であり、国民、産業界がしっかりと目配りをしていく必要がある。
最後に今後日本のGXがどう進むかについて考えたい。CO2はエネルギー利用の「結果」でしかない。エネルギー産業が新しい顧客価値の創出を通じて顧客の行動変容を促し、結果的に脱炭素を実現することが本来あるべき姿である。モビリティの分野も共通するところ。エネルギーと排出されるCO2、これを繋ぐ顧客価値の創出の観点で提供する価値を変える、その中において、with Xという形で変革を起こす、こういった意識を持ちGXを日本の成長戦略として描けるよう産官学挙げて取り組むべく本日その第一歩となることを願っている。

■プレゼンテーション①
テーマ:カーボンニュートラル実現に向けたANAグループの取り組み
講師:宮田 千香子  ANAホールディングス株式会社 上席執行役員 グループCSO、サステナビリティ推進部長


国際航空セクターの長期目標として、2022年ICAO総会で2050年ネットゼロに合意した。新技術の導入、運航方式の改善、SAF燃料への切り替え、市場メカニズム、この4つの手法を用いて脱炭素を図っていく。これに加えANAグループは、ネガティブエミッション技術も取り入れるトランジションシナリオを描いている。
航空セクターの脱炭素ではSAF燃料への転換が重要だ。バイオマス、廃食油や排ガス等が原材料のSAFで、CO2を80~90%削減できる。既存インフラをそのまま使える点も特徴だ。
SAFは脱炭素の鍵となる大きな力を持っているが、課題は多い。SAF燃料の確保、サプライチェーンの構築、品質保証体制の確立、この全てが揃った安定調達が必要だが、現在の供給量はジェット燃料の0.03%以下、価格も2~10倍と高額だ。官民協働と様々なステークホルダーとの連携が不可欠である。また、国産の商用化されたSAFはまだなく、輸入頼みの状況。国産SAFが調達できない状況を考えると様々なところに影響があり、日本のエネルギー安全保障や観光立国政策にも関わる問題だと考えている。
欧州は供給規制化(義務化)によって、米国は産業育成支援によって、SAFの使用を拡大していく動きがある。後者はこれにより、ジェット燃料と同水準の価格でSAF製造が可能な環境になってきている。
今後の課題として、日本のSAF製造業者とエアライン双方の国際競争力向上に繋がる政府戦略の推進、SAF等カーボンリサイクル燃料に舵を切るGX移行債のような投資支援、原材料コスト等を含めた事業運営費の低廉化に繋がるような政策支援が挙げられる。
日本航空との共同レポートの策定、サプライチェーンにおいて有志団体ACT for Skyや「SAFフライト・イニシアティブ」の立ち上げ等、SAFの普及・拡大に向け連携した取り組みを続けている。

■プレゼンテーション②
テーマ:国際海事機関(IMO)での脱炭素議論と日本郵船の取り組み
講師:髙橋 正裕  日本郵船株式会社 執行役員  技術本部 担当 環境グループ・技術本部統轄グループ


船舶は、飛行機やトラックと比べてエコな輸送手段であるが、世界全体の国際航海船舶約8万隻のCO2排出量は2.2%とドイツ1国のCO2排出量と同程度を占め、絶対量は増加傾向にある。
一方で、外航海運はグローバルなマーケットであることから、パリ協定に基づく国別排出量の削減とは異なり、IMOのMEPC(海洋環境保護委員会)において検討されることとなっている。
2018年に策定されたIMOのGHG(地球温暖化ガス)削減目標は、2030年に燃費効率で40%改善、2050年にGHG総排出量で50%削減、今世紀中の出来る限り早期にGHG総排出量でゼロを目指すこととなっているが、現在、より早期のGHG排出ゼロに向けて見直しが進められている。
パリ協定では、開発途上国も排出責任を負うが、責任の度合いは先進国とは異なるという考え方である。IMOでは、船籍に係わらず全ての船舶が差別無く一律に制度適用されることを原則としており、この点がIMOにおける環境問題の検討を難しくしている。
GHG排出削減の取組みには輸送コストの上昇を伴うが、極端な上昇は顧客の理解を得ることが難しく、燃料転換等の先進的なGHG排出削減対策に取り組む企業に適切な支援がなされる制度設計が必要だと考えている。
欧州は27か国が外航海運で結ばれた連合体であり、ここを脱炭素の実験場として活用し、そこから生まれる技術基準を世界に発信している。現在、欧州ではEU-ETSによる排出権取引や、Fuel EU Maritimeによる燃料中の炭素強度規制により海運分野の燃料転換と脱炭素化の動きが出ている。
外航海運においては、エネルギー密度の高い脱炭素燃料が不可欠であり、将来的な燃料としてはアンモニアやメタノールが有力と言われている。しかしながら、アンモニアやメタノールもグリーン電力により生産されるものでなければ、ライフサイクルでの排出量削減とはみなされない。
日本郵船は、2030年に向けて減速運航や改造による徹底的な効率化、使用可能なバイオ燃料の積極的な活用とそれによる供給側の体制整備支援、顧客との協業等の取組みを進め、2050年に向けては、現時点では技術が確立されているLNG燃料船の導入を進めつつ、将来的にはeメタンの活用やアンモニア対応エンジンへの切り替えを考えており、アンモニア燃料船やアンモニアReadyのLNG燃料船の開発に取り組んでいる。

■プレゼンテーション③
テーマ:鉄道における脱炭素の取組み
講師:堀込 順一  東日本旅客鉄道株式会社 イノベーション戦略本部 R&Dユニット ユニットリーダー 兼 JR東日本研究開発センター所長


鉄道は元来輸送量当たりのCO2排出量が小さく環境にやさしい輸送モードであるが、当社では、2050年度の鉄道事業におけるCO₂排出量「実質ゼロ」に挑戦することを環境長期目標とする「ゼロカーボン・チャレンジ2050」を策定したところである。これに基づき、東北エリアのゼロカーボン化のための再エネ電力の拡大、水素の利活用、ディーゼルまたは架線とバッテリーのハイブリッドによる環境に優しい車両の導入、国及び他の鉄道各社等と連携しバイオディーゼル燃料の導入検討などを進めている。
ゼロカーボンのターゲットの一つとして、水素燃料電池を搭載した水素ハイブリッド電車「HYBARI(ひばり)」(HYdrogen-HYBrid Advanced Rail vehicle for Innovation)を開発中である。実用化に向けた課題として、①技術開発上の課題、②法規制上の課題、③水素供給上の課題、④コスト上の課題が挙げられる。法規制については高圧ガス保安法の規制をうけることとなるが、これが事業形態とあっていない。
海外では欧米を中心に燃料電池鉄道車両の導入が進んでおり、既に営業運転を開始または2024年内には営業開始予定である。我が国は遅れており、早く追いつくことが重要である。

■プレゼンテーション④
テーマ:ヤマト運輸のカーボンニュートラルへの取り組み
講師:上野 公  ヤマト運輸株式会社 グリーンイノベーション開発部 シニアマネージャー


「豊かな社会の実現への貢献」を経営理念として、グリーンデリバリーの実現に取り組んでいる。2030年度GHG排出量48%削減を中期目標としてEV2万台の導入、再エネ活用のための太陽光発電設備の800機導入、(クール宅急便)ドライアイス使用ゼロに重点的に取り組み、2050年のカーボンニュートラル実現を目指す。
2011年よりEVを導入しているが、商流・住宅・山間と1日当たりの稼働距離も様々で、また性別、年齢等も考慮が必要。運転席から荷室へウォークスルーアクセス、安全な左側からのワンステップでの乗降り等、乗員が働きやすいEV開発にも取り組んでいる。
EV導入においては、車両稼働時間と太陽光発電の充電時間の重複、充電インフラ設備負担の増大、再エネ電力需要の急増に対する発電量不足、電力系統容量逼迫等が課題。カートリッジ式バッテリーの導入により稼働と充電のギャップを埋める。バッテリーを規格標準化することで業界の皆が使え、また災害時や過疎地等電力インフラの維持が難しい地域に我々運送会社がこのバッテリーを届けることで、社会的課題の解決を目指す。
この取組は、グリーンイノベーション基金(経産省)を活用して2030年まで群馬県で実証実験を行う。バッテリーの規格化・実用化についてはCommercial Japan Partnership Technologiesの取り組みにも参画しており、業界の垣根を越えて世の中に還元していきたい。大型トラックについてもいろいろな会社と連携してFCV化に取り組む。

■プレゼンテーション⑤
テーマ:国際航空におけるカーボンニュートラルに向けたSAF導入による空港会社の役割と関係者の連携について
講師:田代 敏雄  成田国際空港株式会社 営業部門 給油事業部 部長


21年に長期目標「サステナブルNRT2050」を作成、2050年にNAAグループのCO2ネットゼロを目標とする。空港におけるCO2排出量の内訳は、Scope1、2は非常に少なく、航空機の運航や様々な車両の動き等Scope3の排出が大部分。カーボンニュートラル実現には、自社の取り組みはもちろんのこと、空港の関連事業者と共にいかにScope3部分を削減するかが重要で、最終的にSAFが航空業界にとっては切り札だ。
空港管理者として脱炭素社会を実現し、国際航空ネットワーク維持・拡大のため、国内でSAFを安価で安定して供給できるよう、航空会社に向けたSAF導入を進めていく。成田で給油する燃料には一定割合のSAFが含まれている状態とする、SAF利用に関する航空会社との合意形成、航空会社へのインセンティブ支援、国産SAF導入を最優先としつつ輸入SAFにも対応、などを戦略としている。20年よりSAF受入れ実績があるが、パイロット的に生産された国産SAFの受入れもできるようにタンクローリーでの搬入施設も整備した。
今後、官民協議会を活用したSAF導入促進スキームの構築を進めるとともに、空港会社によるインセンティブ制度として、航空関係者がSAFの利用によってScope3の環境価値を享受できるスキーム、航空会社がSAFを購入できる環境を下支えする手法の検討にも取り組んでいく。
空港内で電気・熱エネルギーを供給する株式会社Green Energy Frontierを東京ガスとの合弁会社として設立、4月から事業を開始する。空港の土地を活用して、大規模太陽光発電、水素やカーボンリサイクルなど次世代脱炭素モデル導入に取り組み、周辺地域と一体となったクリーンな将来を目指していく。

■プレゼンテーション⑥
テーマ:国際コンテナ戦略港湾におけるカーボンニュートラルポートの実現に向けた取組について
講師:植松 久尚  横浜川崎国際港湾株式会社 取締役副社長


横浜川崎国際港湾株式会社は、国、横浜市、川崎市等からの出資を受けて、横浜港・川崎港におけるコンテナターミナルを運営・管理している。東アジア諸国の港湾整備の進展や、コンテナ船の大型化を背景に我が国への国際基幹航路が減少している実態を受けて、これを改善すべくハード・ソフトが一体となった施策を集中して実施する国際コンテナ戦略港湾として京浜港と阪神港が選ばれており、弊社は京浜港の港湾運営会社として横浜港・川崎港を担当している。 国際コンテナ戦略港湾の取組として、コンテナターミナルの機能強化等を通じた「競争力強化」、「集貨」、「創貨」の3本柱に加えて、脱炭素化への取組みを通じて、荷主に選ばれる港湾に繋げていく。
また、港湾・臨海部にはCO2を多く排出する産業が立地しており、CO2排出量は、我が国全体の6割に及ぶと言われている。このため、2050カーボンニュートラルの実現に向けて、国土交通省では、港湾における脱炭素化「カーボンニュートラルポート(CNP)」の形成を推進している。
弊社はコンテナターミナル管理者として、太陽光発電の導入や照明のLED化に取り組むとともに、2022年度から本牧ふ頭、大黒ふ頭において、再生可能エネルギー由来の電力を導入した。また、今後想定されるLNG燃料船の増加に対応し、炭素とSOxの低減が可能なLNG燃料の供給体制構築に向けて、Ship-to-Ship方式のLNGバンカリング船の建造を進めている。
今後の展望として、LNGに次ぐアンモニア、メタノールなどの新船舶燃料への対応や、荷役機械の電動化や水素燃料電池化への対応、陸電設備の導入に向けた検討等を進めていきたい。

■パネルディスカッション
モデレーター:山内 弘隆  運輸総合研究所 所長
パネリスト:プレゼンター


○Round 1
脱炭素における自社・日本の自モードの立ち位置をどう捉えるか(世界の動向、他の交通モードの動向を踏まえて)

【山内所長】
今日のシンポジウムは運輸分野における様々な機関・インフラについて横比較をしながら全体の状況をお互いで理解し、次の課題の克服に繋げていくことが目的である。皆様のプレゼンからも分かるとおり、交通分野によって置かれた立場が異なる。航空や海運はICAOやIMOなどの国際機関が中心となって脱炭素に向けた基準を作り、他の分野に先んじて動いているところもある。一方で鉄道や物流分野は自分達が排出しているCO2自体は相対的にはそれほど大きくないが、サプライチェーンや人流など人々の経済活動に大きな影響を及ぼす。自分達だけの脱炭素だけではなく、Scope3などといった形での脱炭素の重要性がある。他方で空港や港湾は交通を支えるインフラであるため、交通輸送全体への効果を持つ位置づけにある。また竹内講師の講演の中で、電化と電気の脱炭素化によって経済全体が脱炭素化出来るというお話があった。日本政府を含め世界中で電化を進めているが、運輸分野の脱炭素は電化だけでは進まないため、燃料の脱炭素化が一つの大きなキーポイントとなる。世の中全体で脱炭素・電化が進んでいる中で、燃料の新しいフェーズに入っていくことは影響が大きい。燃料自体の改革をもたらすことが運輸部門の特徴。電動化だけでは完遂できないCO2削減部分について、運輸部門が中心となって新しい燃料を進めていくことが大きな力となる。横並びで運輸部門を見た時に、自分たちの脱炭素の立ち位置についてお話いただきたいと思う。

【宮田講師】
航空も海運もかなり進んでいるが、先程SAFの課題をお伝えしたとおり、脱炭素に行く道筋は見えているが、手段とするものがまだ揃っていないため、今大きく舵を切って手に入れていかないと動かない状況。多くの産業が電化ということで脱炭素に進んでいる中、特殊な状況のセクターについて課題と共に発信していかないと業界自体が取り残されていく不安があるため、脱炭素に向けた道筋の手段について時間感覚を持って進めていかねばと感じている。

【髙橋講師】
電化といっても石炭火力で発電をしていたら本当の意味での脱炭素にはならない。グリーン電力がどれだけあるか、水素やアンモニアもグリーン電力から作られる。まずはそれぞれの国はNDCにグリーン電力を使い、それでも余剰分がある場合、初めてNDCの枠外である外航海運や国際航空に回ってくることを考えると、日本はどれだけのグリーン電力の発電能力があるのだろうか。足りないとなれば、製品として我々の業界は持ち込んでいかなければ商売が出来ない。根本的には電力問題であると考えている。

【堀込講師】
鉄道事業は珍しくインフラを自分で持ち、その上でオペレーションも行っている。今日の発表内では触れなかったが、鉄道設備の整備に用いる建設機械なども含め脱炭素を進めなくてはいけない。我々は東日本の管内であるが、全国にネットワークがあり、事業者それぞれがインフラを持ちつつオペレーションも行っている。かなり経営も厳しいが、公共の足としての自負があるため、世の中にどの様にコミットしていけるのか、あるいはどの様に手助けをいただけるのか、一緒に伸びていくところの課題をいただけるのかについて少し考えなければいけないと感じた。

【上野講師】
我々の業態は、日本国内に運送会社が約63000社存在し、99%が中小企業。トラックは約140万台、白ナンバーまで入れると700万台を超える車が日本国内にある。これを全て電動化や再エネ化していくのは、6万社を超える業界としての動きに持っていくには相当大変。様々な所との関係や省庁などの力が必要であると感じている。我々は現在軽油ディーゼルを使って商売をしているが、世界情勢に振り回される。電動化でエネルギーが電気になり、自給自足出来るようになると安定化または安価に繋がり、苦しい業界ではあるが少し光が見えてくるのではないかと感じている。

【田代講師】
空港として脱炭素化を進めることは、航空会社だけが進めれば良いということではなく、例えば航空貨物を利用している荷主の方、飛行機を利用している会社の皆様が最終的にScope3の価値が必要となり、そのような企業が声を大きくしていって、SAFが切り札であること、コストが高いことを国民に認知いただき、そういう方向に舵が切られていくことを期待したい。

【植松講師】
燃料供給ではLNGでスタートしているが、アンモニアやメタノールがどの様に船として増えていき、どの時点で対応が必要なのか、また水素燃料電池について、水素をどの様に供給していくのかが悩ましい。上海などでは既にメタノール供給の話題などが飛び交っている。荷役機械については水素をどの様に供給し充填していくのかが今後の課題だと感じている。一方で国土交通省では、こういったカーボンニュートラルの取り組みを行っている港の評価をどの様にランク付けして、対外的に公表していくか模索している。海外の港を含め港間で連携した取り組みも今後推進していく必要性を感じている。

【竹内講師】
先程のプレゼンテーションの中で大幅な脱炭素化の技術的な選択肢はそれほどなく、需要側の電化と電力供給側の脱炭素化を同時並行で進めることがセオリーだとお伝えした。このセオリーでどこまでできるのか、2017年の試算では、需要の徹底的な電化を前提とすると、2050年の電力需要は2013年比で20%増えるが、その7割を原子力と再エネという脱炭素電源で賄えばCO2排出量は72%削減可能との結果。ただ、再生可能エネルギーがこれだけ入ると蓄電も相当量導入しなくてはいけないため、コストは大きくなる。この蓄電の機能として、電気自動車を結節点としてモビリティとユーティリティを融合させながら社会インフラを変えていくことが必要である。2050年カーボンニュートラルとなると、電化が困難なところを合成燃料などに変えていかなくてはいけないが、ベースは結局グリーン電力であり、これを水素等に形を変えるほど効率は落ちていきコストが上がっていく。エネルギー産業が頑張って安価な脱炭素電源を確保することが必要となってくるが、日本は再生可能エネルギーにそれほど適した国土、気候ではない中で、この課題をどう克服し、いかにコストを下げられるか、これが産業の競争力にも直結する。

【山内所長】
SAFも水素と炭素で作ろうとすると電気が要る。水素を使い炭素を使ってというものは必ず再エネの電気が必要。即ち水素がエネルギーキャリアであって、ある意味蓄電であり、貯めておいていつでも使えるという意味では便利なもの。これを液体にすればSAFにもなるし、いろんなものができてくるが、その辺のミックスでやらないととても無理だろう。
重要なのは、新しい技術革新、参入者がいて、新しい産業が興ってくることを誘導できれば良いと思う。

【髙橋講師】
日本の限られた国土の中でグリーンエネルギーを十分に確保するには無理があると感じている。太陽光などに適している国が世界中には沢山あり、アフリカなどこれまで何もなかった国に新しい産業の基盤ができるかもしれない。日本はそのような国々と技術連携し、安定的にグリーン燃料を供給していく国際的な取り組みも行っていかないと無理があるのではないか。

【山内所長】
そういう国に新しい産業ができれば、新しい輸送、新しい港湾などもできることになるということだろう。

【植松講師】
陸上からの電力供給について、ロサンゼルスなどでは義務化されているとのことだが、日本の場合はまだ施設を検討しているレベルであり、着手していかなくてはならないと感じている。受け止める側としても新しく費用が加算され、電気代を払ってもらえるかなども含めて整理が必要と感じる。

【山内所長】
脱炭素の価値を最終消費者に負担してもらうことの必要性についてどう考えるか。航空は割と進んでいるようだが。

【宮田講師】
運賃転嫁の話などもあるが、まずは価格を下げることが重要。アメリカでは様々な産業支援の中で、今使っているジェット燃料と変わらない価格でSAFが製造出来る。日本ではまだ実現出来ない中で、運賃転嫁するとなると国際競争力上かなり劣後する。政府支援などもお願いしながらSAFの価格を下げていく取り組みがまず前提だと感じている。SAF Flight Initiativeはボランタリーの形で一緒に取り組んでいく仲間を増やしながら、SAFを普及させていく一つの仕組みであり、すぐに消費者負担ということではなく、まずは出来るところからSAFの価格を下げる取り組みを推進していくことが重要。

【上野講師】
EVの特徴として、内燃車と比較してイニシャルコストは上がるが、ランニングコストは抑えられるのではないかと考えている。今日私がお話しした範疇で申し上げると、現行の内燃車と同等のコストで運用できる可能性を感じている。

【堀込講師】
水素で走らせるとなると値差をどう担保するかが厳しい。競争の観点では、鉄道だけでなくモビリティ全体の公平性の点で何らかの支援が必要と感じている。現在オフピーク通勤を宣伝しているが、ピークをどう下げるかについて自社でやるべきなのか、それとも何らかの世の中としての内部補助をいただきながら負担していくのかなどについては議論の余地があると感じている。

【髙橋講師】
民間企業が自助努力で削減してお客様にも理解していただいて、という話が多いが、脱炭素に関して日本政府は諸外国と比べて強烈に推進していくリーダーシップがない。需要が供給を作るということもあるので、本当に2050年にゼロを目指すのであれば、痛みは伴うが、欧州型の様にルールを作り、コストは社会全体で負担をしていく態度をそろそろ示さないと時間がなくなってくるのではないか。

【竹内講師】
これから脱炭素電源が増えていくと短期限界費用は極めて低くなる可能性が高い。ここに他の燃料なども含めて公平なカーボンプライスが入り、費用対効果が高いCO2削減技術が競争優位となって、その選択が市場で進むような制度設計の方向にいくべき、というのが基本的なセオリーと思う。しかしながら、時間軸のところで2050年、30年後にカーボンニュートラルを目指すわけなので、補助金や強制力を伴う規制強化なども含めて多様な施策を動員する必要がある。30年という時間はエネルギーインフラとしてみれば非連続な将来ではないといった時間軸であることも鑑みながら議論する必要がある点が、エネルギーというものの難しさと感じている。

【田代講師】
最終規模の太陽光発電は、成田市全体の世帯に供給できるレベルの大きさを想定している。実行消費だけでは大きすぎるため、例えば空港周辺の自治体を含めどの様に供給していくかについて有効活用を図れればと思う。また2024年からCORSIAの規制が掛かかる中で、国産のSAFが製造されるまでの間はどうしても政府の援助が必要になると感じている。

○ディスカッションのまとめ
【山内所長】
今日本の運輸関係の業界が抱える脱炭素に向けてのいろいろな問題点、課題が開き、浮き彫りになったのではないか。これを参考にして各分野において自らの会社、あるいはその政策に対する要望等をいろいろ考えていただく機会となれば良いと思う。

本開催概要は主催者の責任でまとめています。

sympo230328_pic13.JPG




sympo230328_pic14.JPG