どうなる?今後の交通系キャッシュレス決済 ~鉄道事業者の戦略~
- 運輸政策セミナー
- 鉄道・TOD
第91回運輸政策セミナー
日時 | 2023/11/17(金)14:00~16:40 |
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会場・開催形式 | ベルサール御成門駅前 (及びオンライン配信(Zoomウェビナー)) |
開催回 | 第91回 |
テーマ・ プログラム |
【基調講演】 「IC乗車券の開発導入と今後の展望」 椎橋 章夫 JR東日本メカトロニクス株式会社 名誉顧問 (地方公共団体情報システム機構(J-LIS) 理事長) 【報告】 「海外の交通系キャッシュレス決済の事例」 渡邉 洋輔 運輸総合研究所 研究員 【パネルディスカッション】 コーディネーター: 多田羅政和 株式会社電子決済研究所 代表取締役社長 電子決済マガジン 編集長 (一般社団法人ID認証技術推進協会(JICSAP) 事務局長) パネリスト: 濵 貴之 東日本旅客鉄道株式会社 マーケティング本部 戦略・プラットフォーム部門 システムユニット マネージャー 稲葉 弘 東急電鉄株式会社 広報・マーケティング部 統括部長 中村 活裕 近畿日本鉄道株式会社 総合企画本部 企画推進部長 兼務 鉄道本部企画統括部 営業企画部長 谷本 晃久 南海電気鉄道株式会社 公共交通グループ 鉄道事業本部 統括部 課長 北野 公一 大阪市高速電気軌道株式会社 交通事業本部 電気部長 |
開催概要
国内の交通系キャッシュレス決済として、非接触ICカードのSuicaが2001年に関東で利用開始された。非接触ICカードは、利用者の利便性向上や事業者の業務効率化等に繋がり、多くの地域で普及し、交通インフラとして定着している。一方、インバウンドの増加に伴い、ICカードを持たない乗客の利用が多く見込まれる路線などでは、改札機にクレジットカードをかざすことによって乗降可能な方式を採用している事業者もある。また、QRコードを利用した方式の導入や顔認証による改札機の実証実験を行っている事業者もある。
本セミナーでは、交通系キャッシュレス決済の開発と導入を推進された椎橋様の基調講演とともに、関東・関西の鉄道事業者による最新の取り組み事例も踏まえつつ、今後のキャッシュレス決済について考察した。
主なSDGs関連項目
プログラム
開会挨拶 |
佐藤 善信 運輸総合研究所 理事長 開会挨拶 |
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基調講演 |
「IC乗車券の開発導入と今後の展望」 |
報告 | |
パネルディスカッション |
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コーディネーター | |
パネリスト | |
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パネリスト | |
閉会挨拶 |
屋井 鉄雄 運輸総合研究所 所長 閉会挨拶 |
当日の結果
■基調講演
「IC乗車券の開発導入と今後の展望」
椎橋 章夫 JR東日本メカトロニクス株式会社 名誉顧問
・交通系IC乗車券システムに必要な要件
交通系IC 乗車券は改札機を通過するために高速処理と高信頼性の確保が必要である。東京圏の駅は25路線465駅あり2点間の運賃は10万通り以上ある。更に小児運賃や乗り継ぎがあるため、非常に多くの組み合わせによる運賃がある。このため、当時の田町駅をベースにして、改札の処理能力を、実際のお客様の流動データを使ってシミュレーションを行った。通勤時間帯に改札での滞留を防ぐためには、1分間に47人の処理をする必要があることが判明した。このフィールドテストの結果より、日本の鉄道に必須かつ必要な非接触式IC カードの機能は、①処理時間は0.2秒以下、②通信範囲は100mm 以上、③通信速度は212kbps 以上、であることがわかった。その実現のため、FeRAM 技術を世界で初めて採用した。また、IC カードを半径10㎝の半球上の電波範囲に、0.2秒の滞在時間を取れるように「タッチ&ゴー」という手法を考案した。「非接触」と言ってもユーザー行動には繋がらなかったが、「タッチ&ゴー」という言葉を使ったことで定着した。
・新しい社会インフラ“Suica” の創造
乗車券のIC化が意味するものについては、単に移動の対価(運賃)の「証票」であった乗車券がIC化により、セキュアな形で、多くの電子的なバリューや情報が格納された。これにより、決済ビジネスや認証ビジネスへの活用、さらには携帯電話との一体化等、ビジネス全体に革新、特に「拡張性」をもたらした。
Suica開発の歴史は 1987年の国鉄分割民営化の前から、鉄道技術研究所で、基礎的な勉強がなされており、その技術をJR 東日本が受け継いだ。技術を実用化していくため、1992年から3回に分けて開発とフィールド試験を進め、1997年の第3次試験が終わったときに実用化可能という判断をした。その後4年かけて、実用システムの開発を行い、最初の開発から16年の歳月をかけ、2001年11月にサービスを開始した。
Suicaサービスの拡張性を決めたのは、カード毎に「固有のID番号」を設定し、利用履歴を取ったことが大きく影響している。
また、「技術のオープン化」戦略として、SuicaとPASMOは基本的に同じシステムとした。仕様の統一化やソフトの共通化などで、お互いにコストを下げている。システム品質の面でも、運賃計算ミスの防止のため12億3000万通りの運賃判定試験を愚直に実施した。
また、Suica 導入後の大きな変化点として、2006年に「モバイルSuica」サービスを導入した。当初から、携帯電話には表示部があり、デジタルチケットとは非常に相性が良いと考えていた。
「モバイルSuica」は、いつでもどこでもチケット購入が可能と なり、出札(チケット購入)の分野にまで革新の連鎖が起きた。あるサービスが一定量拡大すると「革新の連鎖」が起き、新しいサービスが生まれたのである。
新しい社会インフラSuica は、社会の生活を向上させるような機能を持っている。鉄道を社会基盤としての第一次インフラとすれば、Suica は生活基盤としての第二次インフラと言える。第二次インフラとは、豊かさのためのインフラであると定義をした。今後は第二次インフラによるイノベーションが進展していくと思う。
・IC乗車券システムの課題と今後の方向
IC乗車券システムの課題としては、端末やカードの増加、多機能化が進み、新しいサービスを追加しようとすると、機能改修に多大なコストと時間がかかる。そこで、システム上流の活用を考えた。端末とカードの処理は、①カードバリュー(決済)、②運賃計算、③IC 処理の三つの要素がある。このコア機能(運賃計算とIC処理)バリュー(決済)全てをセンター側へ移すことでシステム上流に新しいインフラを創出することが出来る。この構想は以前から考えていた。
一つの例がクラウド型ID 認証システム(ID-PORT)である。
この仕組みは事前決済の情報を、センターサーバーにSuica のIDと紐付け(データ連携)しておくことで、端末にIC カードをタッチするだけでサービス提供の可否を判定することが出来る。具体例として2020年3月に「新幹線eチケット」サービスがスタートした。また、観光の事例では、JR 東日本の水戸支社がID 番号を活用した観光地巡りの施策と顧客データ分析を実現している。
一方で自動車業界では、CASEという言葉があり、自動車メーカーが自動車の製造・販売から、快適に移動できるサービスの提供へと大胆な「事業基盤の再定義」をした。鉄道でもMaaSという新しい概念が生まれている。あらゆる交通手段を統合しその最適化を図ることで、快適な移動サービスを提供することである。JR 東日本の変革2027でも、Suicaを中心として、シームレスな移動と多様なサービスのワンストップ化をすることが掲げられている。具体的には、「モビリティリンケージ・プラットフォーム」と「決済プラットフォーム」の構築である。
また、最近のタッチ決済との比較については、交通系IC乗車券は、①認証(正規券の判定など)②サービス処理(運賃計算など)③決済(SF引去など)の三つの機能がある。タッチ決済は、②のサービスの処理をサービス事業者主体ではなく外部で実施していると聞いている。鉄道事業者にとっては、サービスの対価としての「運賃」は極めて重要な事項である。鉄道事業者が主体となって取り組むことが必須である。
また、国際標準化も重要事項の一つである。今後、日本発のクラウド型IC乗車券システムを世界に向けて展開する場合には必須となる。新しいサービスの構想段階から準備しておく必要がある。
・まとめ
IC乗車券のもたらす未来は、MaaSからLaaSになっていく。
LaaS(Life as a Service)は「Better Quality of Lifeの実現」とも言える。24時間365日の価値として、質の高いサービスを提供することを意味している。私はSuicaの本質は「質の高いサービスの提供」であり、カードのことではないと思っている。「SmartLife」の実現に向け「Suicaの進化は続いていく!」だろう。
Suica は2001年の11月18日にサービスを開始した。明日22歳になる。多くの皆様のこれまでのご支援に感謝を申し上げる。
■報告
「海外の交通系キャッシュレス決済の事例」
渡邉 洋輔 運輸総合研究所 研究員
今回、中国の香港・北京、タイのバンコク、欧州のロンドン・パリ、アメリカのワシントンD.C.・ニューヨークの都市鉄道および一 部国鉄の改札回りのキャッシュレス決済について調査を行った。
・中国 香港
香港ではSuicaと同じFeliCaを使用した交通系IC カード・オクトパスが広く普及している。2021年からはQR コード決済アプリ に対応している。乗車券の事前購入が不要なタイプであり、QRコー ド決済アプリを、直接改札にタッチして利用ができる。2021年の導入時のQRコード決済の利用者は、乗客の0.5%程度であった。
・中国 北京
2018年に改札機でのQR コード決済の利用が開始された。北京も香港同様に乗車券の事前購入が不要なタイプである。2018年から2019年の間で、利用率の最高値としては、30%程度であった。
一方、QR コード決済については、決済アプリの立上げを改札機の前で行う人がいる場合や、通信障害が起こった場合に、混雑が発生している。スムーズな改札には、利用者への使い方に関する案内なども必要となる。
・タイ バンコク
MRTでは交通系IC カード以外の決済手段として、2022年からクレジットカードなどのタッチ決済が導入されている。ブルーラインにおいては、約11%がタッチ決済を利用している。
BTSではラビットカードという交通系IC カードが使われている。BTSでは、その他のタッチ決済やQRコード対応は導入されていない。
・イギリス ロンドン
ロンドンの地下鉄では交通系ICカードとしてオイスターカードが使われている。2014年からクレジットカードなどのタッチ決済が導入されている。ロンドン市交通局が運営する地下鉄・バス・トラムでは、タッチ決済の利用率が導入以来増加傾向であり、50%を超える乗客がタッチ決済を選択するようになっている。
オイスターカードの利用は減少傾向にあるが、ロンドン市交通局としてはサービスをやめる計画はないと表明している。誰もが支払いに適した口座やカードを持っているわけではなく、そういった人々にもサービスを提供しなければならないと考えている。
・フランス パリ
パリの地下鉄では、現在NAVIGOという交通系ICカードと切符での対応となっている。タッチ決済やQRコードは導入されていない。SNCFフランス国鉄は、基本的に改札機が無いタイプである。券売機などでチケットを購入し乗車する。現在、Eチケットの利用率が96%~99%に達している。
・アメリカ ワシントンD.C./ニューヨーク
ワシントン地下鉄は交通系IC カードのSmarTripのみ対応となっている。ニューヨーク地下鉄では、メトロカードという磁気式の古いタイプのカードが使われてきた。2019年からタッチ決済のOMNY システムを導入している。ニューヨーク地下鉄は、メトロカードを廃止する方針であったが、口座を持たない利用者やクレジットカードを持たない利用者が利用できないため、2021年から現金でも購入可能なOMNYカードが販売開始された。
・新しい改札機
韓国ソウルメトロでは、BlueTooth機能を活用した改札機が 2023年9月から12駅で運用開始された。中国北京地下鉄空港線では、掌の認証を使ったサービスも導入されている。スマホやカードを取り出す必要が無く、スムーズな改札が期待されている。
・まとめ
交通機関での利用を主とする交通系ICカードの路線では、他の決済手段の導入が進められている。一方で物販などでも使用可能な交通系IC カードの路線ではカード自体の利便性が高く、他の決済手 段の導入と利用が比較的限定的な傾向が見られる。また、新しい改札機としてはBluetooth や生体認証を利用した技術開発も進んで いる。これら決済手段の導入に際しては、利用者誰もが使いやすく 快適なものが求められる。
■パネルディスカッション
多田羅政和 株式会社電子決済研究所 代表取締役社長、電子決済マガジン編集長
一般社団法人ID認証技術推進協会(JICSAP) 事務局長
交通系IC、QRコード、タッチ決済、顔認証など多様な認証方式が登場してきている。 これを誰が利用するかというのが重要で、利用者の属性に合わせていく必要がある。 どの方式が主流になるかではなく、利用者に対するサービスが多様化してくるというのが正しい捉え方であると思う。また、システムの処理が今まではローカルでCBT(カード・ベースド・チケッティング)というのが当たり前であったが、技術の進化に伴 い、クラウドでABT(アカウント・ベースド・チケッティング)という方式が出てきた。決済のタイミングについても都度精算と事前精算がある。この辺りを踏まえて、パネルディスカッションを行う。
■プレゼンテーション①
「Suica事業の取り組み」
濵 貴之 東日本旅客鉄道株式会社 マーケティング本部 戦略・プラットフォーム部門 システムユニットマネージャー
Suica 共通基盤化の取り組みとして、まず今年リリースしたオフピーク定期券が挙 げられる。これまでは混雑緩和に対しハード面で対応してきたが、ソフト面でもオフピークならではの定期券を今回リリースした。 続いて、ICカード全国相互利用は非常に広がったが、まだまだ隅々まで網羅はできていない。地方のバスではIC カード導入にもコストがかかるため、 地域事業者様向けのソリューションとして地域連携IC カードに取り 組んでおり、地域エリア独自のポイントや、チケッティングを行っており、当社としてはSFや鉄道定期を載せる機能を提供している。
次に、インフラを増やしていくだけではなく、デジタルの領域において、FinTech 連携を行っており、企業様が持つアプリ内にてSuicaを発行する取り組みがある。
また、認証機能の活用については、これまで入退館やロッカーなどで利用してきたが、最近の事例としては、無人のホテルにSuicaを使ってチェックインできるという取り組みもしており、世の中のDX の進展にも寄与している。
また最近の事例であるが、処理速度の向上やサーバー連携による多様なチケッティングのため、これまでは改札機で行っていた処理をセンターサーバーにて行う方式の導入を進めており、首都圏・仙台・新潟エリアでは順次導入を開始している。
■プレゼンテーション②
「「 クレジットカードのタッチ機能」「QRコード」を活用した乗車サービスの実証実験」
稲葉 弘 東急電鉄株式会社 広報・マーケティング部 統括部長
トピックとしては、本年8月末から開始した実証実験が挙げられる。昨今の環境変化を踏まえ、あらゆる人、目的に応える鉄道サービス、そして、デジタル化を捉え、ハードのみならずソフトによる連携を活用しサービスを充実させている。 具体的には、普通乗車券や定期券、これまでの基幹商品を軸としつつ、企画乗車券の ような様々な乗車券商品をデジタル化し、 いつでもどこでもすぐに購入ができ、既存商品よりもお得感のある商品を提供したい。 そのため、あらゆるサービスに対応する改札機の全線整備を段階的に進めており、年内には主要路線に整備する予定である。
利用にあたっては、専用の販売サイトにて、複数の販売商品から選択いただき、カードの決済によって購入をしていただく。実際の使用のシーンにおいては、使用開始ボタンを押下するとQR コード が表示され、専用改札機の読み取り部にかざして通過いただく。一方、クレジットカードのタッチ機能で乗車する場合は、「クレカタッチで使う」を設定するとカードによる乗車が可能となる仕様。なお、この切り替えは、使用開始後もいつでも可能で、入退場を問わず、QRでもクレカでもタッチ通過が可能となる。商品についても更なる展開に向け、色々な仕込みを進めている。
■プレゼンテーション③
「QRコードを活用したデジタルきっぷサービス」
中村 活裕 近畿日本鉄道株式会社 総合企画本部 企画推進部長 兼務 鉄道本部 企画統括部 営業企画部長
コロナ禍はいつか収束することは分かっていたものの、窓口がなくなっていくことは止められないと感じ、その対応として導入したデジタルきっぷサービスについて説明する。
導入についてはスモールスタートで、全線ではなく首都圏から伊勢志摩にお越しいただくルートに絞り、かつ、弊社の直販のみで、とにかくサービスを開始し、利用者様のご意見等を反映しながらアップデートしようと考えた。利用方法は、買った後、スマホの画面上のQR コードを改札機にかざすだけ、お気軽に楽しみいただくために、アプリでは なくブラウザ方式にしている。
なお、今回のきっぷの情報登録については、磁気の切符やICカードの知識がなくても作れるマスター設計にしており、かつ弊社で編集可能なため、短時間で新たなデジタルきっぷの発売開始ができる仕組みである。
支払方法も、Apple Pay やGoogle Pay、PayPayなどの端末認証で手軽に利用できる決済サービスにも対応している。
また、どのエリアのどの属性の方がいつ何枚買い、どのルートで旅行をし、どこにどの程度留まったかなど、様々なデータを取ることができ、それらを基に商品設計に反映していく。2024年度下期にはほぼ全駅にエリア拡大を予定している。また、特急券と連携したデジタルきっぷの展開も始めていく。
2024年内には近鉄のほぼ全駅でクレジットカードによるタッチ乗車サービスも導入し、事前購入やチャージの手間なくご利用いただける環境も整備する。今後も、日常利用は主に交通系ICカードが 担うと考えており、ICOCA で月に10回を超えて乗車すると、総額の10%を還元するサービスの展開も2024年2月から予定している。
■プレゼンテーション④
「南海電気鉄道におけるタッチ決済について」
谷本 晃久 南海電気鉄道株式会社 公共交通グループ 鉄道事業本部 統括部 課長
空港線を持っており、関西空港の駅においては非常に多くのお客様で窓口、券売機に長蛇の列ができている。そこで、お客様がお持ちのクレジットカードのタッチ決済を使うことで窓口、券売機で切符を買うことなくそのまま乗車いただけば、スムーズにお客様を迎える環境を整備できるということで、このタッチ決済の実証実験を始めた。取り組みとしては、 運賃の割引、当社施設でのお買い物20%キャッシュバックや南海フェリー、福岡市交通局様と連携したキャンペーンを行い、タッチ決済も、交通系ICと同等以上の取り組みができるのか検証をおこなった。
また、タッチ決済ではカード番号で国籍が分かり、どこへ行くのかOD データが取れるため、様々な施策への展開が期待できる。
タッチ決済の実証実験では、入出場の処理方法は異なるものの、 交通系ICカードとほぼ同等の利用ができ、運賃割引など柔軟な運賃設定や、キャンペーン機能を付与したエリアを超えた企画が可能ということが分かった。
今後は、2025年の大阪関西万博までに利用できるエリア、駅の拡大に向けて取り組んでいる。
■プレゼンテーション⑤
「顔認証を用いた次世代改札機」
北野 公一 大阪市高速電気軌道株式会社 交通事業本部 電気部長
Osaka Metroでは2025年の大阪関西万博に向け、キャッシュレスの取り組みとして、顔認証を用いた次世代改札機に加え、 2024年からQRコードを活用したデジタ ルチケットの導入やクレジットカードによるタッチ決済の実証実験を開始する。
改札システムの課題について、一つ目は 改札機における磁気処理部に関係するコスト、二つ目は昨今の キャッシュレスの動向に追従することや、新たな顧客の開拓、三つ 目はIC カードやモバイル端末を手元に出すのが面倒な点である。
それらの解決策として、当社アプリでQR デジタルチケットを購入し、そのチケットをサーバーで判定する仕組みを設けるとともに、デジタルチケットとお客様の顔情報を紐づけることで、改札機のリーダー部にタッチすることなく、タッチレス(手ぶら)通過できる顔認証改札機を開発することとした。
実証実験を繰り返し、改札機の形状、カメラ位置、補助照明の設置、認証処理の高速化など詳細設計を進め、従来の改札機と同様、大人、子供、車いす利用の方など全ての人が、眼鏡や帽子、マスクを装着している状況であっても、カメラを意識することなく、また、立ち止まることなく「非積極認証」の顔認証により、通常のスピードでの改札機の通過(ウォークスルー)を実現した。
■ディスカッション
《交通系ICカードが果たしてきた役割と変化、そして多様化をどう見るか》
(濵)当初は、CBTというカード書き込みをするシンプルな機能から始まったが、いろいろとやろうとすると窮屈な状況である。いろいろなバリュエーションがあると考えている。普通に電車にただ乗るだけの方にはわざわざアカウント登録も大変であるが、例えば新幹線では登録いただくと、移動にプラスアルファのサービスを付けられ る。今後さらにいろんなバリエーションが増えていくと考えている。
(稲葉)QR コードのチケッティングはどちらかというとインバウンドを強く意識しておらず、ライトユーザーと、スポット旅・企画旅行を強く意識している。沿線特性上、特段大きな観光地がない一方で、沿線の生活者にはこまめに動き回って頂けるような、鉄道・バスの路線網がある。その中でいかに動いていただくかが、コロナ禍を経て、課題であり需要喚起策となる。
《インバウンドが復活!鉄道事業者はどう対応する?》
(谷本)日本の方にももちろんご利用いただいているが、外国の方もクレジットカードをご利用いただくと、その利便性を分かっていただけ、何度もご利用いただいているお客様もいれば、カードが使えることを知らないお客様も結構いるため、どうアピールしていくかが課題である。
(濵)外国のお客様に安心してどこでも使える環境を提供したい。空港の駅に、Welcome Suicaの発行機を設置しており、日本をイメージしたお土産で持って帰れるものを提供している。また、このカードがあれば鉄道だけではなく電子マネーやロッカーでも使える等、安心して使えるということが、ベストソリューションと考えている。
(中村)近鉄では、インバウンドについては、事前にネットで購入し、 窓口で発券する利用方法もあるが、大阪から奈良公園に行くなど、気軽な利用では交通系IC 利用が多い。空港に直結しない弊社沿線に来るまでに既に交通系ICをお持ちになっているという方が大半である。
■質疑
Q:クレカタッチは外国の方が日本に来て、持っているクレジットカードのタッチで乗れるが、QR コードについては事前購入方式が主流と感じる。例えば日本でいうPayPay などの国特有のQR 決済を直接改札にかざす決済の構想はあるか。
A(谷本):検討する価値はあると感じている。現状、QR のチケットはまだ企画券でしか発売出来ていない状況である。
A(中村):技術論では、改札機はいろいろな手段やサービスに対応できるが、クレジットカードのタッチ部、QR のタッチ部、磁気切符の処理部、交通系ICのタッチ部と様々並ぶこととなる。QR コード乗車は非常に便利ではあるが、一方で事前にアクションをしなければならず、ラッシュ時のご利用が多すぎると滞留が起き、安全性を確保できない可能性があることを勘案しなければならない。 まずは、できるだけ各ターゲットごとにフィットできるものを確実にお使いいただけるように鉄道事業者がそれぞれPR をすることが肝要である。
本開催概要は主催者の責任でまとめています。
「IC乗車券の開発導入と今後の展望」
椎橋 章夫 JR東日本メカトロニクス株式会社 名誉顧問
・交通系IC乗車券システムに必要な要件
交通系IC 乗車券は改札機を通過するために高速処理と高信頼性の確保が必要である。東京圏の駅は25路線465駅あり2点間の運賃は10万通り以上ある。更に小児運賃や乗り継ぎがあるため、非常に多くの組み合わせによる運賃がある。このため、当時の田町駅をベースにして、改札の処理能力を、実際のお客様の流動データを使ってシミュレーションを行った。通勤時間帯に改札での滞留を防ぐためには、1分間に47人の処理をする必要があることが判明した。このフィールドテストの結果より、日本の鉄道に必須かつ必要な非接触式IC カードの機能は、①処理時間は0.2秒以下、②通信範囲は100mm 以上、③通信速度は212kbps 以上、であることがわかった。その実現のため、FeRAM 技術を世界で初めて採用した。また、IC カードを半径10㎝の半球上の電波範囲に、0.2秒の滞在時間を取れるように「タッチ&ゴー」という手法を考案した。「非接触」と言ってもユーザー行動には繋がらなかったが、「タッチ&ゴー」という言葉を使ったことで定着した。
・新しい社会インフラ“Suica” の創造
乗車券のIC化が意味するものについては、単に移動の対価(運賃)の「証票」であった乗車券がIC化により、セキュアな形で、多くの電子的なバリューや情報が格納された。これにより、決済ビジネスや認証ビジネスへの活用、さらには携帯電話との一体化等、ビジネス全体に革新、特に「拡張性」をもたらした。
Suica開発の歴史は 1987年の国鉄分割民営化の前から、鉄道技術研究所で、基礎的な勉強がなされており、その技術をJR 東日本が受け継いだ。技術を実用化していくため、1992年から3回に分けて開発とフィールド試験を進め、1997年の第3次試験が終わったときに実用化可能という判断をした。その後4年かけて、実用システムの開発を行い、最初の開発から16年の歳月をかけ、2001年11月にサービスを開始した。
Suicaサービスの拡張性を決めたのは、カード毎に「固有のID番号」を設定し、利用履歴を取ったことが大きく影響している。
また、「技術のオープン化」戦略として、SuicaとPASMOは基本的に同じシステムとした。仕様の統一化やソフトの共通化などで、お互いにコストを下げている。システム品質の面でも、運賃計算ミスの防止のため12億3000万通りの運賃判定試験を愚直に実施した。
また、Suica 導入後の大きな変化点として、2006年に「モバイルSuica」サービスを導入した。当初から、携帯電話には表示部があり、デジタルチケットとは非常に相性が良いと考えていた。
「モバイルSuica」は、いつでもどこでもチケット購入が可能と なり、出札(チケット購入)の分野にまで革新の連鎖が起きた。あるサービスが一定量拡大すると「革新の連鎖」が起き、新しいサービスが生まれたのである。
新しい社会インフラSuica は、社会の生活を向上させるような機能を持っている。鉄道を社会基盤としての第一次インフラとすれば、Suica は生活基盤としての第二次インフラと言える。第二次インフラとは、豊かさのためのインフラであると定義をした。今後は第二次インフラによるイノベーションが進展していくと思う。
・IC乗車券システムの課題と今後の方向
IC乗車券システムの課題としては、端末やカードの増加、多機能化が進み、新しいサービスを追加しようとすると、機能改修に多大なコストと時間がかかる。そこで、システム上流の活用を考えた。端末とカードの処理は、①カードバリュー(決済)、②運賃計算、③IC 処理の三つの要素がある。このコア機能(運賃計算とIC処理)バリュー(決済)全てをセンター側へ移すことでシステム上流に新しいインフラを創出することが出来る。この構想は以前から考えていた。
一つの例がクラウド型ID 認証システム(ID-PORT)である。
この仕組みは事前決済の情報を、センターサーバーにSuica のIDと紐付け(データ連携)しておくことで、端末にIC カードをタッチするだけでサービス提供の可否を判定することが出来る。具体例として2020年3月に「新幹線eチケット」サービスがスタートした。また、観光の事例では、JR 東日本の水戸支社がID 番号を活用した観光地巡りの施策と顧客データ分析を実現している。
一方で自動車業界では、CASEという言葉があり、自動車メーカーが自動車の製造・販売から、快適に移動できるサービスの提供へと大胆な「事業基盤の再定義」をした。鉄道でもMaaSという新しい概念が生まれている。あらゆる交通手段を統合しその最適化を図ることで、快適な移動サービスを提供することである。JR 東日本の変革2027でも、Suicaを中心として、シームレスな移動と多様なサービスのワンストップ化をすることが掲げられている。具体的には、「モビリティリンケージ・プラットフォーム」と「決済プラットフォーム」の構築である。
また、最近のタッチ決済との比較については、交通系IC乗車券は、①認証(正規券の判定など)②サービス処理(運賃計算など)③決済(SF引去など)の三つの機能がある。タッチ決済は、②のサービスの処理をサービス事業者主体ではなく外部で実施していると聞いている。鉄道事業者にとっては、サービスの対価としての「運賃」は極めて重要な事項である。鉄道事業者が主体となって取り組むことが必須である。
また、国際標準化も重要事項の一つである。今後、日本発のクラウド型IC乗車券システムを世界に向けて展開する場合には必須となる。新しいサービスの構想段階から準備しておく必要がある。
・まとめ
IC乗車券のもたらす未来は、MaaSからLaaSになっていく。
LaaS(Life as a Service)は「Better Quality of Lifeの実現」とも言える。24時間365日の価値として、質の高いサービスを提供することを意味している。私はSuicaの本質は「質の高いサービスの提供」であり、カードのことではないと思っている。「SmartLife」の実現に向け「Suicaの進化は続いていく!」だろう。
Suica は2001年の11月18日にサービスを開始した。明日22歳になる。多くの皆様のこれまでのご支援に感謝を申し上げる。
■報告
「海外の交通系キャッシュレス決済の事例」
渡邉 洋輔 運輸総合研究所 研究員
今回、中国の香港・北京、タイのバンコク、欧州のロンドン・パリ、アメリカのワシントンD.C.・ニューヨークの都市鉄道および一 部国鉄の改札回りのキャッシュレス決済について調査を行った。
・中国 香港
香港ではSuicaと同じFeliCaを使用した交通系IC カード・オクトパスが広く普及している。2021年からはQR コード決済アプリ に対応している。乗車券の事前購入が不要なタイプであり、QRコー ド決済アプリを、直接改札にタッチして利用ができる。2021年の導入時のQRコード決済の利用者は、乗客の0.5%程度であった。
・中国 北京
2018年に改札機でのQR コード決済の利用が開始された。北京も香港同様に乗車券の事前購入が不要なタイプである。2018年から2019年の間で、利用率の最高値としては、30%程度であった。
一方、QR コード決済については、決済アプリの立上げを改札機の前で行う人がいる場合や、通信障害が起こった場合に、混雑が発生している。スムーズな改札には、利用者への使い方に関する案内なども必要となる。
・タイ バンコク
MRTでは交通系IC カード以外の決済手段として、2022年からクレジットカードなどのタッチ決済が導入されている。ブルーラインにおいては、約11%がタッチ決済を利用している。
BTSではラビットカードという交通系IC カードが使われている。BTSでは、その他のタッチ決済やQRコード対応は導入されていない。
・イギリス ロンドン
ロンドンの地下鉄では交通系ICカードとしてオイスターカードが使われている。2014年からクレジットカードなどのタッチ決済が導入されている。ロンドン市交通局が運営する地下鉄・バス・トラムでは、タッチ決済の利用率が導入以来増加傾向であり、50%を超える乗客がタッチ決済を選択するようになっている。
オイスターカードの利用は減少傾向にあるが、ロンドン市交通局としてはサービスをやめる計画はないと表明している。誰もが支払いに適した口座やカードを持っているわけではなく、そういった人々にもサービスを提供しなければならないと考えている。
・フランス パリ
パリの地下鉄では、現在NAVIGOという交通系ICカードと切符での対応となっている。タッチ決済やQRコードは導入されていない。SNCFフランス国鉄は、基本的に改札機が無いタイプである。券売機などでチケットを購入し乗車する。現在、Eチケットの利用率が96%~99%に達している。
・アメリカ ワシントンD.C./ニューヨーク
ワシントン地下鉄は交通系IC カードのSmarTripのみ対応となっている。ニューヨーク地下鉄では、メトロカードという磁気式の古いタイプのカードが使われてきた。2019年からタッチ決済のOMNY システムを導入している。ニューヨーク地下鉄は、メトロカードを廃止する方針であったが、口座を持たない利用者やクレジットカードを持たない利用者が利用できないため、2021年から現金でも購入可能なOMNYカードが販売開始された。
・新しい改札機
韓国ソウルメトロでは、BlueTooth機能を活用した改札機が 2023年9月から12駅で運用開始された。中国北京地下鉄空港線では、掌の認証を使ったサービスも導入されている。スマホやカードを取り出す必要が無く、スムーズな改札が期待されている。
・まとめ
交通機関での利用を主とする交通系ICカードの路線では、他の決済手段の導入が進められている。一方で物販などでも使用可能な交通系IC カードの路線ではカード自体の利便性が高く、他の決済手 段の導入と利用が比較的限定的な傾向が見られる。また、新しい改札機としてはBluetooth や生体認証を利用した技術開発も進んで いる。これら決済手段の導入に際しては、利用者誰もが使いやすく 快適なものが求められる。
■パネルディスカッション
多田羅政和 株式会社電子決済研究所 代表取締役社長、電子決済マガジン編集長
一般社団法人ID認証技術推進協会(JICSAP) 事務局長
交通系IC、QRコード、タッチ決済、顔認証など多様な認証方式が登場してきている。 これを誰が利用するかというのが重要で、利用者の属性に合わせていく必要がある。 どの方式が主流になるかではなく、利用者に対するサービスが多様化してくるというのが正しい捉え方であると思う。また、システムの処理が今まではローカルでCBT(カード・ベースド・チケッティング)というのが当たり前であったが、技術の進化に伴 い、クラウドでABT(アカウント・ベースド・チケッティング)という方式が出てきた。決済のタイミングについても都度精算と事前精算がある。この辺りを踏まえて、パネルディスカッションを行う。
■プレゼンテーション①
「Suica事業の取り組み」
濵 貴之 東日本旅客鉄道株式会社 マーケティング本部 戦略・プラットフォーム部門 システムユニットマネージャー
Suica 共通基盤化の取り組みとして、まず今年リリースしたオフピーク定期券が挙 げられる。これまでは混雑緩和に対しハード面で対応してきたが、ソフト面でもオフピークならではの定期券を今回リリースした。 続いて、ICカード全国相互利用は非常に広がったが、まだまだ隅々まで網羅はできていない。地方のバスではIC カード導入にもコストがかかるため、 地域事業者様向けのソリューションとして地域連携IC カードに取り 組んでおり、地域エリア独自のポイントや、チケッティングを行っており、当社としてはSFや鉄道定期を載せる機能を提供している。
次に、インフラを増やしていくだけではなく、デジタルの領域において、FinTech 連携を行っており、企業様が持つアプリ内にてSuicaを発行する取り組みがある。
また、認証機能の活用については、これまで入退館やロッカーなどで利用してきたが、最近の事例としては、無人のホテルにSuicaを使ってチェックインできるという取り組みもしており、世の中のDX の進展にも寄与している。
また最近の事例であるが、処理速度の向上やサーバー連携による多様なチケッティングのため、これまでは改札機で行っていた処理をセンターサーバーにて行う方式の導入を進めており、首都圏・仙台・新潟エリアでは順次導入を開始している。
■プレゼンテーション②
「「 クレジットカードのタッチ機能」「QRコード」を活用した乗車サービスの実証実験」
稲葉 弘 東急電鉄株式会社 広報・マーケティング部 統括部長
トピックとしては、本年8月末から開始した実証実験が挙げられる。昨今の環境変化を踏まえ、あらゆる人、目的に応える鉄道サービス、そして、デジタル化を捉え、ハードのみならずソフトによる連携を活用しサービスを充実させている。 具体的には、普通乗車券や定期券、これまでの基幹商品を軸としつつ、企画乗車券の ような様々な乗車券商品をデジタル化し、 いつでもどこでもすぐに購入ができ、既存商品よりもお得感のある商品を提供したい。 そのため、あらゆるサービスに対応する改札機の全線整備を段階的に進めており、年内には主要路線に整備する予定である。
利用にあたっては、専用の販売サイトにて、複数の販売商品から選択いただき、カードの決済によって購入をしていただく。実際の使用のシーンにおいては、使用開始ボタンを押下するとQR コード が表示され、専用改札機の読み取り部にかざして通過いただく。一方、クレジットカードのタッチ機能で乗車する場合は、「クレカタッチで使う」を設定するとカードによる乗車が可能となる仕様。なお、この切り替えは、使用開始後もいつでも可能で、入退場を問わず、QRでもクレカでもタッチ通過が可能となる。商品についても更なる展開に向け、色々な仕込みを進めている。
■プレゼンテーション③
「QRコードを活用したデジタルきっぷサービス」
中村 活裕 近畿日本鉄道株式会社 総合企画本部 企画推進部長 兼務 鉄道本部 企画統括部 営業企画部長
コロナ禍はいつか収束することは分かっていたものの、窓口がなくなっていくことは止められないと感じ、その対応として導入したデジタルきっぷサービスについて説明する。
導入についてはスモールスタートで、全線ではなく首都圏から伊勢志摩にお越しいただくルートに絞り、かつ、弊社の直販のみで、とにかくサービスを開始し、利用者様のご意見等を反映しながらアップデートしようと考えた。利用方法は、買った後、スマホの画面上のQR コードを改札機にかざすだけ、お気軽に楽しみいただくために、アプリでは なくブラウザ方式にしている。
なお、今回のきっぷの情報登録については、磁気の切符やICカードの知識がなくても作れるマスター設計にしており、かつ弊社で編集可能なため、短時間で新たなデジタルきっぷの発売開始ができる仕組みである。
支払方法も、Apple Pay やGoogle Pay、PayPayなどの端末認証で手軽に利用できる決済サービスにも対応している。
また、どのエリアのどの属性の方がいつ何枚買い、どのルートで旅行をし、どこにどの程度留まったかなど、様々なデータを取ることができ、それらを基に商品設計に反映していく。2024年度下期にはほぼ全駅にエリア拡大を予定している。また、特急券と連携したデジタルきっぷの展開も始めていく。
2024年内には近鉄のほぼ全駅でクレジットカードによるタッチ乗車サービスも導入し、事前購入やチャージの手間なくご利用いただける環境も整備する。今後も、日常利用は主に交通系ICカードが 担うと考えており、ICOCA で月に10回を超えて乗車すると、総額の10%を還元するサービスの展開も2024年2月から予定している。
■プレゼンテーション④
「南海電気鉄道におけるタッチ決済について」
谷本 晃久 南海電気鉄道株式会社 公共交通グループ 鉄道事業本部 統括部 課長
空港線を持っており、関西空港の駅においては非常に多くのお客様で窓口、券売機に長蛇の列ができている。そこで、お客様がお持ちのクレジットカードのタッチ決済を使うことで窓口、券売機で切符を買うことなくそのまま乗車いただけば、スムーズにお客様を迎える環境を整備できるということで、このタッチ決済の実証実験を始めた。取り組みとしては、 運賃の割引、当社施設でのお買い物20%キャッシュバックや南海フェリー、福岡市交通局様と連携したキャンペーンを行い、タッチ決済も、交通系ICと同等以上の取り組みができるのか検証をおこなった。
また、タッチ決済ではカード番号で国籍が分かり、どこへ行くのかOD データが取れるため、様々な施策への展開が期待できる。
タッチ決済の実証実験では、入出場の処理方法は異なるものの、 交通系ICカードとほぼ同等の利用ができ、運賃割引など柔軟な運賃設定や、キャンペーン機能を付与したエリアを超えた企画が可能ということが分かった。
今後は、2025年の大阪関西万博までに利用できるエリア、駅の拡大に向けて取り組んでいる。
■プレゼンテーション⑤
「顔認証を用いた次世代改札機」
北野 公一 大阪市高速電気軌道株式会社 交通事業本部 電気部長
Osaka Metroでは2025年の大阪関西万博に向け、キャッシュレスの取り組みとして、顔認証を用いた次世代改札機に加え、 2024年からQRコードを活用したデジタ ルチケットの導入やクレジットカードによるタッチ決済の実証実験を開始する。
改札システムの課題について、一つ目は 改札機における磁気処理部に関係するコスト、二つ目は昨今の キャッシュレスの動向に追従することや、新たな顧客の開拓、三つ 目はIC カードやモバイル端末を手元に出すのが面倒な点である。
それらの解決策として、当社アプリでQR デジタルチケットを購入し、そのチケットをサーバーで判定する仕組みを設けるとともに、デジタルチケットとお客様の顔情報を紐づけることで、改札機のリーダー部にタッチすることなく、タッチレス(手ぶら)通過できる顔認証改札機を開発することとした。
実証実験を繰り返し、改札機の形状、カメラ位置、補助照明の設置、認証処理の高速化など詳細設計を進め、従来の改札機と同様、大人、子供、車いす利用の方など全ての人が、眼鏡や帽子、マスクを装着している状況であっても、カメラを意識することなく、また、立ち止まることなく「非積極認証」の顔認証により、通常のスピードでの改札機の通過(ウォークスルー)を実現した。
■ディスカッション
《交通系ICカードが果たしてきた役割と変化、そして多様化をどう見るか》
(濵)当初は、CBTというカード書き込みをするシンプルな機能から始まったが、いろいろとやろうとすると窮屈な状況である。いろいろなバリュエーションがあると考えている。普通に電車にただ乗るだけの方にはわざわざアカウント登録も大変であるが、例えば新幹線では登録いただくと、移動にプラスアルファのサービスを付けられ る。今後さらにいろんなバリエーションが増えていくと考えている。
(稲葉)QR コードのチケッティングはどちらかというとインバウンドを強く意識しておらず、ライトユーザーと、スポット旅・企画旅行を強く意識している。沿線特性上、特段大きな観光地がない一方で、沿線の生活者にはこまめに動き回って頂けるような、鉄道・バスの路線網がある。その中でいかに動いていただくかが、コロナ禍を経て、課題であり需要喚起策となる。
《インバウンドが復活!鉄道事業者はどう対応する?》
(谷本)日本の方にももちろんご利用いただいているが、外国の方もクレジットカードをご利用いただくと、その利便性を分かっていただけ、何度もご利用いただいているお客様もいれば、カードが使えることを知らないお客様も結構いるため、どうアピールしていくかが課題である。
(濵)外国のお客様に安心してどこでも使える環境を提供したい。空港の駅に、Welcome Suicaの発行機を設置しており、日本をイメージしたお土産で持って帰れるものを提供している。また、このカードがあれば鉄道だけではなく電子マネーやロッカーでも使える等、安心して使えるということが、ベストソリューションと考えている。
(中村)近鉄では、インバウンドについては、事前にネットで購入し、 窓口で発券する利用方法もあるが、大阪から奈良公園に行くなど、気軽な利用では交通系IC 利用が多い。空港に直結しない弊社沿線に来るまでに既に交通系ICをお持ちになっているという方が大半である。
■質疑
Q:クレカタッチは外国の方が日本に来て、持っているクレジットカードのタッチで乗れるが、QR コードについては事前購入方式が主流と感じる。例えば日本でいうPayPay などの国特有のQR 決済を直接改札にかざす決済の構想はあるか。
A(谷本):検討する価値はあると感じている。現状、QR のチケットはまだ企画券でしか発売出来ていない状況である。
A(中村):技術論では、改札機はいろいろな手段やサービスに対応できるが、クレジットカードのタッチ部、QR のタッチ部、磁気切符の処理部、交通系ICのタッチ部と様々並ぶこととなる。QR コード乗車は非常に便利ではあるが、一方で事前にアクションをしなければならず、ラッシュ時のご利用が多すぎると滞留が起き、安全性を確保できない可能性があることを勘案しなければならない。 まずは、できるだけ各ターゲットごとにフィットできるものを確実にお使いいただけるように鉄道事業者がそれぞれPR をすることが肝要である。
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