航空分野の2050年カーボンニュートラルに向けた取組みに関するセミナー
~SAF(持続可能な航空燃料)を制するものは世界を制す~
- 航空・空港
- 安全・セキュリティ・防災・環境
(会場・オンライン併用開催)
日時 | 2022/2/17(木)13:30~16:30 |
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会場・開催形式 | ベルサール虎ノ門2F+オンライン配信 |
テーマ・ プログラム |
SAF(持続可能な航空燃料)を制するものは世界を制す |
講師 | 開会挨拶:宿利 正史 運輸総合研究所会長 基調報告:高村 ゆかり 東京大学未来ビジョン研究センター教授(40分) 講 演:大塚 大輔 国土交通省航空局大臣官房参事官(航空戦略担当)(20分) 中川 由起夫 日本航空株式会社執行役員 調達本部⾧(20分) 報 告:テーマ:「我が国におけるSAFの普及促進に向けたサプライチェーン全体の課題・解決策」 松坂 真史 運輸総合研究所研究員 (20分) (「航空分野におけるCO2削減取組に関する調査検討委員会」事務局) <パネルディスカッション及び質疑応答>(60分) パネリスト:大塚 大輔 国土交通省航空局大臣官房参事官(航空戦略担当) 中川 由起夫 日本航空株式会社執行役員 調達本部⾧ 松坂 真史 運輸総合研究所研究員 (「航空分野におけるCO2削減取組に関する調査検討委員会」事務局) コーディネーター:山内 弘隆 運輸総合研究所所長 閉会挨拶:柏木 隆久 運輸総合研究所理事長補佐 |
開催概要
気候変動問題は、今や単なる環境問題ではなく、産業の存続に係る重要な課題となっています。 特に排出削減が困難とされている航空分野については、短中期的/長期的いずれの観点においても、持続可能な航空燃料(SAF)の活用が重要とされています。我が国においても、このSAFの導入が進まなければ、欧州の「飛び恥」の動きに代表されるように、航空機が忌避されたり、又はSAFの導入がより進む海外のエアラインや空港に需要が流れるといった事態が生じかねません。本セミナーでは、SAFの普及に向けた官民の取組みに関する講演、原料調達から給油に至るサプライチェーン全体の課題・解決策を整理した運輸総合研究所の調査研究の成果報告及びディスカッションや質疑応答を通じて、航空利用者までをも含めた関係者間で問題意識の共有を図るとともに、今後の施策の展開について考察しました。
(参考)昨年度の関連セミナー
国際社会の脱炭素化を見据えた海運・航空分野の気候変動対策に関するシンポジウム(2021/3/9)
プログラム
開会挨拶 |
宿利 正史 開会挨拶 |
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基調報告 | |
講 演 | |
講 演 | |
報 告 | |
パネルディスカッション及び質疑 |
<コーディネーター>
山内 弘隆 運輸総合研究所 所長 <パネリスト> 大塚 大輔 国土交通省航空局大臣官房 参事官(航空戦略担当) 中川 由起夫 日本航空株式会社執行役員 調達本部⾧ 松坂 真史 運輸総合研究所 研究員 (「航空分野におけるCO2削減取組に関する調査検討委員会」事務局) |
閉会挨拶 |
柏木 隆久 閉会挨拶 |
当日の結果
基調講演
〇高村ゆかり 東京大学未来ビジョン研究センター教授航空分野のカーボンニュートラル(CN)やSAFが注目されている背景を説明します。
近年、自然災害による経済損失が増大しており、航空事業への直接的な影響も指摘されています。
パリ協定の2℃目標/1.5℃努力目標を達成するためには、今世紀後半にCNを実現する必要があります。日本を含む140以上の国・地域がCNを目標に掲げています。
昨年のCOP26では、1.5℃目標を目指すことが合意されるとともに、そのためには、この先10年間の排出削減が重要であるとの認識が共有されました。このような高い目標が合意された背景には、IPCC第6次評価報告書等最新の科学の知見があります。COP26では、航空分野に関連するイニシアティヴとして、1.5℃目標と整合的なICAOの目標設定を支持するとした「国際航空気候同盟」や脱炭素技術の初期需要を喚起して市場を創出することを目的とした「First Movers Coalition」が設立されました。金融セクターにおいては、日本の金融機関も含む機関投資家等が投融資先の排出量を2050年までにネットゼロにするという国際的な目標を掲げています。掲げられた目標の達成に向けた取組みが全て行われれば、気温上昇を1.8℃まで抑制することが可能であるとの見通しも示されている一方で、2030年における既存の目標に基づく排出パスと1.5℃目標達成のための排出パスとの間には大きな乖離があり、この先10年間の取組みが重要です。
日本を含む先進主要国の気候変動政策に共通する特徴は、①コロナからの復興策との統合(交通等の脱炭素化の重点化)、②次世代の産業育成の視点、③企業経営における気候変動の考慮です。③については、これまで、自主的に進められてきた気候変動に関連するリスクや戦略の情報開示について、国際的な基準を策定しようとする動きもあります。特に、スコープ3排出量についても把握し、これを削減するための対応について情報開示することを求められるようになっています。
このような脱炭素の取組みの裏には、技術の後押しがあります。再エネ技術の普及と技術革新によるコストの低減が推進力となり、急速なエネルギー転換が進みました。輸送燃料については、技術的な課題がある一方、この解決手段を提供できる企業は大きなビジネスチャンスを得ることができます。実際に、持続可能な燃料への投資も進みつつあります。
気候変動対策は、金融市場やサプライチェーンにおける企業価値を左右します。政策も同様ですが、このような変化を見据えて、航空業界は、自ら変革に取り組むことが重要です。また、長期的な視野を持ちつつ、次の10年での排出削減を考えなければなりません。航空分野の脱炭素は、脱炭素を目指すお客様のビジネスを支え企業価値を向上させることにつながります。ただし、特にSAFが典型的な例ですが、一企業や政府だけでは取り組むことができません。企業間及び官民の連携がこれまで以上に重要となります。
講演・報告
〇大塚大輔 国土交通省航空局大臣官房参事官(航空戦略担当)航空分野のCO2削減対策は、関連産業の国際競争力や航空ネットワーク維持の観点からも重要です。
米国は2030年のSAF供給目標を掲げており、欧州は燃料供給事業者に対するSAFの混合義務を提案しています。
ICAOにおいては、2035年までの間CORSIAの下で排出削減に取り組んでいくとともに、我が国がタスクグループの議長を務める形で、長期目標の検討を進めています。
国際的な業界団体ATAGは、2050年CNを実現するためには、SAFにより全体の約5割から7割に相当する排出量を削減しなければならないというシナリオを提示しています。
航空局では、昨年末に工程表をとりまとめ、SAFの導入・普及促進のためには、各関係者がそれぞれの役割を果たすことが重要であるという基本的な考え方を示すとともに、本邦エアラインのSAF使用量に関する目標(2030年10%)を設定しました。 工程表においては、2030年商用化に向けた国産SAFの開発、2024年頃のSAF供給を視野においたサプライチェーンの構築、官民協議会の設立等を示しています。
政府においては、2030年までの製造コスト低減を目指し、グリーンイノベーション基金等の下で開発を支援しています。国土交通省においては、来年度、輸入SAFのサプライチェーン構築、国際標準化、SAFの地産地消に向けた取組みを行うとともに、航空法等の一部を改正する法律案を通常国会に提出する予定です。
〇中川由起夫 日本航空株式会社執行役員 調達本部長
ATAGのレポートによると、大型機と中型機はSAFの活用以外の選択肢がありません。JALの2050年CN目標を達成する上でも、SAFの活用が重要です。
将来、国産SAFが安定的に製造されなければ、大きなリスクにつながります。SAF製造拠点の多くが欧米に集中していますが、欧米が掲げている高い目標に鑑みると、輸出分まで製造できるとは限りません。また、原料が賦存する中国、インド等における製造も今後進むと考えられますが、航空輸送が大きく伸びている国であるため、同様の懸念があります。
日本もSAF開発に取り組んでいますが、既に商用化している欧米に比べると遅れをとっており、将来的な製造量も見通せない状況です。JALは、SAFの使用量について、2025年1%、2030年10%を目標に掲げていますが、2030年時点では大きな乖離があります。全てを海外から輸入できる保証はないため、国産SAFの更なる開発促進が喫緊の課題です。
国産SAFの製造量が十分でない場合、需給バランスによっては輸入SAFが高額となり、航空利用者の負担増を招く可能性、SAFのない国には飛行機が飛んで来なくなる可能性を危惧しています。航空会社のみならず、製造・流通者や利用者にとっても、国産SAFが果たす役割は大きく、オールジャパンの取組みが重要です。昨年、ANAとともに共同レポートを発表しました。今後も皆様との連携を深めていきたいと考えています。
〇松坂真史 運輸総合研究所研究員
昨年度より、日本財団の助成事業として、産学官オールジャパンの体制でSAFに関する調査研究を進めてきました。具体的には、原料調達、製造、CORSIA適格燃料化、国内検査体制、品質管理・輸入SAF受入れ、空港というSAFのサプライチェーンの各フェーズの課題の抽出と解決策の検討を行うとともに、長期的な視点での考察を行いました。
製造面のポテンシャルについては、理論上、我が国における足下のジェット燃料消費量を置き換えるだけの原料は存在するという推計結果となりました。ただし、これは経済性を考慮した製造可能量を表すものではありません。また、2050年における本邦エアラインの需要を満たすためには、更なる原料等の活用が重要となります。
ポテンシャルの最大化及び更なる製造を促すためには政策の後押しが必要です。航空業界に対するプレッシャーや航空分野の気候変動対策の特徴を踏まえると、取組みが先行する欧米に劣後しないような環境を整備することが重要です。
航空輸送の恩恵を受けていない国民はいません。SAFの問題、特に、SAFのコストをどのように負担していくのか、という点について、我が国社会全体の問題として受け止め、考えるべきです。
パネルディスカッション及び質疑応答
要旨は以下のとおりです。〇講演・報告の補足
・JALの2030年10%目標は国産SAFに限った目標ではない。国産SAFの目標についても検討していきたい。
・9つの政策オプションの中には、SAF利用企業の政府によるPR、公務出張時のSAF活用等早期に導入できるものもある。
・国産SAF開発は新しい産業を興すという観点で取り組む必要がある。官民協議会については、資源エネルギー庁等関係省庁とも連携する。
〇国産SAFの課題
・①技術開発及び高額なプラント建設費、②原料確保、③SAFを適正価格で利用するためのインセンティブ。③については政策を待つだけでなく、他社との連携、SAF製造へのコミット等取組みを加速していく。
・SAFに関する長期的な目標設定が重要。需要側と供給側のトップランナー企業が自主的に目標設定することが検討の後押しになる。
・今後の目標設定に係る論点は供給可能性。報告で示された原料ポテンシャルについては、経済性が最大の課題。
・サプライチェーン全体での産業創出の機会と捉えるべき。森林残渣由来のSAFであれば、連産品の生産、森林再生、地域創生、自然災害防止にも貢献する。
〇国内線におけるCORSIAのトレーサビリティ
・必須ではないが、CORSIAの基準を下回る要件で世論が納得できるのかという論点はある。
〇国産SAFを国際競争力のあるコストとするための方策
・欧米のように将来的には業界内で回る仕組みを目指しつつ、普及初期においては補助や税制面での支援が必要。
・原料確保に尽きる。廃食油については国内で循環する仕組み、都市ごみについては原料収集を効率的に低コストで行う仕組みが重要。
・2030年に向けての初期段階においては、海外との価格差だけではなく、多面的に評価する。その場合、国産だから調達するというメッセージを明確に打ち出していく。
〇国際線の需要の回復後にエアラインと行政に生じる負担
・2025年頃にCORSIAに基づくオフセット義務量が発生するとされているが、成長率の予測も難しく、未だデータが不十分。
・CORSIAによる排出規制は最低ラインとして取り組むとともに、将来的にはCNを目指す上での戦略の検討に移行しなければならない。
〇国内線の規制もCORSIAに準じたものになるのか
・地球温暖化対策計画において、CORSIAと同じ考え方により2030年度に2013年度比で総排出量を増加させないという国内線の目標を掲げている。2030年度以降については、ICAOにおける議論を踏まえて検討予定。
〇民間が認証しているCO2削減効果をより確実なものとするための政府の取組み
・CORSIAにおいてもSAFのCO2削減効果等の認証は民間が行っている。ただし、ICAOが認める機関が、ICAOが定める要件に基づいて認証する必要がある。
〇政府系ファンドが米国のSAF製造企業(フルクラム社)に出資している背景や今後の戦略
・日本の原料に合った海外技術が必要である。地産地消のSAFを実現することが大きな方向性である。
〇人工的なバイオマス生産基地の建設等農業政策との連携の必要性
・官民協議会には農水省も参加予定であり、議論の参考にしたい。
〇2025年時点のCO2サーチャージの水準及びSAFの割合
・サーチャージが確定したものではない。2025年時点であれば、自主的クレジットの活用が主要な対策となる。
・気候変動対策のコストは、利用者が負担することが必要であるが、対策の効果は社会全体に裨益するため一定の社会的な支援も必要。