国際社会の脱炭素化を見据えた海運・航空分野の気候変動対策に関するシンポジウム
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- 海事・港湾
(会場・オンライン併用開催)
主催 | 一般財団法人運輸総合研究所 |
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日時 | 2021/3/9(火)13:30~16:30 |
会場・開催形式 | ベルサール御成門タワー (東京) |
テーマ・ プログラム |
国際社会の脱炭素化を見据えた海運・航空分野の気候変動対策 |
講師 | 【開会挨拶】 宿利 正史 一般財団法人運輸総合研究所 会長 【来賓挨拶】 藤井 直樹 国土交通審議官 【第1部:基調講演】 高村 ゆかり 東京大学未来ビジョン研究センター教授 【第2部:海運分野の気候変動対策の最新動向及び今後の課題】 ○パネルディスカッション及び質疑応答 モデレータ: 河野真理子 早稲田大学法学学術院教授 パネリスト: 斎藤 英明 国土交通省大臣官房技術審議官 (国際海事機関(IMO)海洋環境保護委員会(MEPC)議長) 高橋 正裕 日本郵船株式会社環境グループグループ長 河西 一崇 住友商事株式会社石油・LPG・海洋事業部石油チーム担当課長 兼 エコバンカーシッピング株式会社取締役 平田 純一 一般財団法人日本海事協会 調査開発部部長 ※以上に加え、「海運分野におけるCO2排出削減促進に関する調査検討委員会」事務局からの発表 【第3部:航空分野の気候変動対策の最新動向及び今後の課題】 ○パネルディスカッション及び質疑応答 モデレータ: 山内 弘隆 一般財団法人運輸総合研究所 所長 パネリスト: 吉村 源 国土交通省航空局安全部航空機安全課航空機技術基準企画室室長 (国際民間航空機関(ICAO)航空環境保全委員会(CAEP)委員、 CO2削減に係る長期目標タスクグループ(CAEP LTAG-TG)議長) 宮田千夏子 ANAホールディングス株式会社 執行役員、サステナビリティ推進部部長 大木 雅文 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構新エネルギー部部長 関口 順一 成田国際空港株式会社 共生・用地部門地域共生部部長 ※以上に加え、「航空分野におけるCO2削減取組に関する調査検討委員会」事務局からの発表 【閉会挨拶】 佐藤 善信 一般財団法人運輸総合研究所 理事長 |
開催概要
気候変動問題は喫緊の課題であり、パリ協定の下、世界各国において対策が進められています。一方、それぞれ世界全体のCO2排出量の約2%(ドイツ一国からの排出量と同程度)を占める国際海運・国際航空分野については、国境を越えて移動する交通モードであることから、国際機関(それぞれ国際海事機関(IMO)、国際民間航空機関(ICAO))において気候変動対策が進められており、島国として国際海運・国際航空に依存する我が国がこれらの議論を主導しています。
現在、IMO及びICAOにおいては、2050年以降を見据えた長期的なCO2削減目標の策定・達成に向けた取組みが進められており、また、我が国においても、様々な関係者によって先進的な取組みが進められています。
加えて、日本政府は昨年10月、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「2050年カーボンニュートラル」の実現を目指すことを表明しています。
そこで、将来の国際社会の脱炭素化を見据え、海運・航空分野の気候変動対策に関して、最新動向と問題意識の共有を図るため、本シンポジウムを開催いたしました。
プログラム
開会挨拶 |
宿利 正史 開会挨拶 |
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来賓挨拶 | |
【第1部】 |
「2050年カーボンニュートラルに向かう世界 海運・航空分野の気候変動対策」 |
基調講演 | |
【第2部】 |
海運分野の気候変動対策の最新動向及び今後の課題 |
モデレータ |
河野 真理子 |
パネリスト | |
パネリスト | |
パネリスト | |
パネリスト |
平田 純一 |
事務局 |
野宮 雅晴 |
【第3部】 |
航空分野の気候変動対策の最新動向及び今後の課題 |
モデレータ |
山内 弘隆 |
パネリスト | |
パネリスト | |
パネリスト | |
パネリスト | |
事務局 |
松坂 真史 |
閉会挨拶 |
佐藤 善信 閉会挨拶 |
当日の結果
1.第1部:基調講演
〇高村ゆかり 東京大学未来ビジョン研究センター教授
近年、気象関連の自然災害による経済損失が増加していますが、過去の排出と異常気象の水準や頻度の相関性に関する研究が進み、足元から気候変動問題のリスクがでていることがわかっています。
パリ協定においては、「工業化前と比して世界の平均気温の上昇を2℃を十分下回る水準に抑制し、1.5℃に抑制するよう努力する」、今世紀後半に排出を「実質ゼロ」とする、といった明確な長期目標が掲げられ、世界の120カ国以上が2050年カーボンニュートラルを目標に掲げています。
パリ協定の長期目標については、パリ協定の外側にある、IMO、ICAOでも議論されていますが、気候変動の影響は海運や航空にも及び、海運では、港湾施設の配置、整備やオペレーション、船舶の運航において、航空では、空港の配置、設備やオペレーション、飛行機の運航などにおいて、それぞれ気候変動のリスクが出てきます。
2050年カーボンニュートラルに向けては、①自社の事業活動支えるサプライチェーン、バリューチェーンによる脱炭素化の要請や、②ESG投資の広がりを受けた金融市場、資本市場での評価が大きな原動力として、企業による動きも活性化しています。パリ協定後の政策アプローチとしても、民間のビジネス戦略・意思決定に気候変動リスクを統合しようとする動きを政府がサポートしている形となっており、気候変動問題は環境問題の枠を超え、企業価値を左右する問題となっています。
エネルギー消費の約80%を占める熱と輸送の分野における再生可能エネルギーへの転換は非常に大きな課題であると同時に、解決策を提供できる企業にとってはビジネスチャンスとなります。
最後に、気候変動対策はこれからの10年が決定的に重要といえます。海運・航空分野における気候変動対策は、単なる排出削減だけでなく、多くの企業のサプライチェーン、バリューチェーンの脱炭素化や、その強靭化、多様化などを担う交通インフラとして、多くの企業の企業価値向上に貢献できる機会になるものといえます。
2.第2部:海運分野の気候変動対策の最新動向及び今後の課題
(1)パネルディスカッション
モデレータ:河野真理子 早稲田大学法学学術院教授
要旨は以下のとおりです。
①関係者による取組み
〇斎藤英明 国土交通省大臣官房技術審議官
国際海運のCO2排出が世界全体の約2%を占め、MEPCは統一環境ルールを審議しています。我が国は国際貢献と我が国海事産業の競争力強化を図り、議論を主導しています。世界の排出総量の2030年に2008年比40%減、2050年に50%減、今世紀中に100%減が目標です。推進のためカーボンプライシングや燃料消費に応じた拠出義務による国際研究開発基金の創設等を議論しています。国内でもロードマップを作成し、燃料転換シナリオ等を示しています。
〇高橋正裕 日本郵船(株)環境グループグループ長
2050年に輸送単位あたりGHG排出量の2015年比50%減を目標とし、ハード、ソフト両面で取組んでいます。今後は顧客の理解を得て、共に行動して頂くことが重要です。ゼロエミ船への繋ぎで全新造船はLNG燃料(カーボンリサイクル対応)にしますが、アンモニアも有望で、タグボート等の導入を進めています。
〇河西一崇 住友商事(株)石油・LPG・海洋事業部石油チーム担当課長
兼 エコバンカーシッピング(株)取締役
国内外で地場パートナーとLNGバンカリングを行っています。その先はカーボンリサイクル、アンモニアの事業を検討中です。低炭素化を鈍化させないため、海運会社に不利益が生じないよう担保し、新造船代替に左右される供給側の負担回避のために、燃料規制等を早く示すことが必要です。
〇野宮雅晴 (一財)運輸総合研究所主任研究員
新燃料等の評価・検証等を関係者と連携して検討中です。今年度は燃料のライフサイクル分析と供給施設整備の課題等の整理を行いました。
②代替燃料導入に向けて想定される課題と解決策
・外航はカーボンリサイクルかアンモニアが主と考える。陸上含む需給拡大、競争による価格低下が鍵となる。
・IMOはカーボンプライシングや研究開発基金への拠出等でゼロエミ船価格を有利にする方向に動いている。新燃料の安全利用に係る人材や機関の基準も議論しており、我が国に有利な形を目指している。
・鶏卵問題があるが、一定需要と時間があれば課題はクリアできる。安価なLNGと違い、新燃料では船価と燃料のどちらか又は両方を劇的に下げる技術革新や環境規制が必要。
・新燃料を安全に扱う知識習得が必要。機関の無人・遠隔監視等の技術が鍵になる。今後はグリーンエネルギーの地産地消化と国際的な取合いが想定される。我が国はライフサイクルCO2排出が少ない燃料導入に前向きと世界に発信が必要。
③我が国の海運・造船の強み、国際競争力確保
・世界が使いたい代替燃料に、どんな船を提供できるか、船社、造船、船級一体とで強みを発信することが重要。
・我が国は船価で中韓に不利だが、洋上風力や潮流等の再生エネルギー分野の優位性があり、海事産業、商社の強みを合わせ、日本発のエネルギー供給モデルを発信することが重要。大量の発電用アンモニアのバーゲニングパワーと施設活用は強みになる。
・造船所や舶用機器メーカーとの、問題のフィードバックによる技術向上と信頼構築が重要。価格差は信頼感だけでは埋め難いが、一体で知恵出しが重要。
・海事産業強化法案によるコスト低下の様々なファイナンス導入、中韓とLCCで勝負できる技術向上の支援、国内造船基盤の維持を図る。
(2)質疑応答
要旨は以下のとおりです。
〇国際海運CO2削減の国内レベルの調整
・大きな海事産業をバックに持つ国としてIMOの議論をリードしつつ、国内は改正した海防法による取組みを通じ責務を果たしたい。
(3)総括
燃料価格と安定供給、人材、安全の問題や、世界的枠組みの中で日本がどうするかとの論点があり、今後もAll Japanでの取組みが必要。
3.第3部:航空
(1)パネルディスカッション
要旨は以下のとおりです。
①関係者による取組み
〇吉村源 国土交通省航空局安全部航空機安全課航空機技術基準企画室室長
2020年以降総排出量を増加させないというICAOの短中期目標の達成のため、航空機のCO2基準、CORSIA制度等が策定されました。現在は、技術、持続可能な航空燃料(SAF)等の組合せによる長期目標について、本年中に策定すべく検討されています。
〇宮田千夏子 ANAホールディングス㈱執行役員、サステナビリティ推進部部長
今後のCORSIA等への対応のためにはSAFの活用等が重要です。今後SAFが主流になることを前提に、定期的に使用しており、昨年、国内空港で導入した輸入SAFは、ライフサイクル全体で90%のCO2削減効果が確認されています。
〇大木雅文 NEDO新エネルギー部部長
SAFの製造実証、今後は特に、カーボンリサイクルとして期待される微細藻類の技術開発に注力します。また、生産量、価格面でのイノベーションを加速させるとともに、サプライチェーン全体での実証についても支援します。
〇関口順一 成田国際空港㈱共生・用地部門地域共生部部長
SAFの導入は、空港からの排出削減に大きく寄与するものとして期待しており、昨年、国内空港で初めて、SAFを導入しました。従来と同じ方法で搬入できるのであれば、大幅な施設改修は不要ですが、SAFの普及にあたっては関係者間の協力が必要です。
〇松坂真史 (一財)運輸総合研究所研究員
短中期的な視点では、SAFの普及に係る課題の抽出を、長期的な視点では、航空業界等が策定した長期シナリオの分析等を実施しました。今後のICAOにおける政策づくりに反映していただけるよう貢献して参ります。
②気候変動対策に係る短期及び長期的な課題
・現状SAFは必要量の0.1%しか供給されていない。長期的には水素等新技術の導入も視野に入れるべき。
・SAF製造者の投資規模等の検討に当たって、需要量の見通しの把握が必要。長期的にはバイオマス等の他燃料も検討すべき。
・空港において航空会社が共同で給油施設を使用する場合、関係者の理解促進が必要。長期的には水素等多様な技術に対応するインフラ整備が必要。
・地産地消の観点から国産SAFの検討が必要。長期目標設定に向けては、ボトムアップで検討し、日本が国際的議論を主導する必要がある。
(2)質疑応答
要旨は以下のとおりです。
①航空機の電動化、特に電源の脱炭素化への対応
・今後ICAOにおいて、ライフサイクル評価の議論がなされることが想定される。我が国の強みであるため、政府としても国際共同研究開発のためのスキームを作ることが重要。
・空港敷地内での太陽光発電により、空港の脱炭素化を達成するとともに、航空機に余剰電力を供給することができる。
②SAFの普及を実現するための取組みの方向性
・需要側としては経済的合理性があることが重要。海外で導入されている補助金等の検討も含めて官民スピード感をもって取り組んでいくことが重要。
・サプライチェーン全体の最適化という視点で課題解決の支援を行う。品質とコスト双方を踏まえた技術開発、副産物の高付加価値化によるバリューチェーンの構築等に取り組む。
・空港施設の整備のコスト負担スキームを構築することが重要。関係者間の合意形成については、運輸総合研究所の調査等を通じた関係者間の議論が有効。
・政府が方針及び産学官の役割分担を決めることが重要。航空業界は財政的に厳しい状況にあるが、アフターコロナも見据えて危機感をもって取り組んでいくことが重要。
(3)総括
「2050年カーボンニュートラル」は、SAFをはじめ新たな需要を喚起するものであり、機会と捉えてもらうためにはどうすれば良いか政府が検討することが重要です。スピード感のある技術革新が起きる可能性があり、航空分野ではむしろ起こしていくことが必要です。