フィリピンにおける鉄道整備と沿線開発に関する国際セミナー
- 国際活動
- 鉄道・TOD
主催 | 一般財団法人運輸総合研究所 |
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後援 | 国土交通省 在フィリピン日本大使館 フィリピン運輸省 フィリピン鉄道訓練センター 独立行政法人国際協力機構(JICA) |
日時 | 2020/2/12(水)9:00~12:05 |
会場・開催形式 | ニューワールド・マカティ・ホテル (フィリピン・マニラ) |
テーマ・ プログラム |
鉄道整備と沿線開発 |
講師 | 開会挨拶:宿利 正史 運輸総合研究所 会長 来賓挨拶:アーサー P. ツガデ フィリピン運輸大臣 羽田 浩二 フィリピン共和国駐箚特命全権大使 ジュン B マグノ フィリピン国鉄総裁 日笠 弥三郎 国土交通省 大臣官房審議官(鉄道) 基調講演:森地 茂 政策研究大学院大学政策研究センター所長 運輸総合研究所アドバイザー 報 告:「鉄道整備と沿線開発」 武藤 雅威 運輸総合研究所主任研究員 パネルディスカッション: モデレータ:日比野 直彦 政策研究大学院大学 准教授 パネリスト:ティモシー ジョン R. バターン フィリピン運輸省鉄道担当次官 森地 茂 政策研究大学院大学政策研究センター所長 運輸総合研究所アドバイザー プリミティボ C.カル フィリピン大学教授 閉会挨拶:奥田 哲也 運輸総合研究所 専務理事 |
開催概要
道路混雑や環境汚染などの問題に直面しているASEANの大都市では、鉄道整備が進められており、マニラでもメガマニラ地下鉄の建設をはじめとする鉄道整備が進められています。持続可能な鉄道整備においては、鉄道整備と沿線開発(TOD)を一体的に考えることが効果的な施策であり、日本はそのような鉄道整備と沿線開発に関する多くの知識・経験を有しているところです。
本セミナーでは、まず、当研究所宿利正史会長の挨拶に続き、アーサー P. ツガデ フィリピン運輸大臣に来賓挨拶をいただき、日本の政府及び関係者に対して鉄道整備に関する支援への感謝や両国間の更なる協力・連携の重要性について表明されました。また、羽田浩二 フィリピン共和国駐箚特命全権大使、ジュン B マグノ フィリピン国鉄総裁、日笠弥三郎 国土交通省大臣官房審議官(鉄道)に来賓挨拶をいただきました。
前半は、政策研究大学院大学政策研究センターの森地茂所長に基調講演を行っていただき、武藤雅威主任研究員より研究内容について報告しました。
後半は、ティモシー ジョンR.バターン フィリピン運輸省鉄道担当次官、プリミティボ C.カル フィリピン大学教授、森地茂 政策研究大学院大学政策研究センター所長をパネリスト、日比野直彦 政策研究大学院大学准教授をモデレータとして、マニラにおける鉄道整備と沿線開発に関する課題と展望についてパネルディスカッションを行いました。
プログラム
開会挨拶 | |
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来賓挨拶 | |
来賓挨拶 | |
来賓挨拶 | |
来賓挨拶 | |
基調講演 | |
報告 | |
パネルディスカッション |
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モデレータ |
日比野 直彦 |
パネリスト | |
パネリスト |
森地 茂 |
パネリスト | |
閉会挨拶 |
当日の結果
森地所長から、アジアの大都市において何故TODが必要なのか、鉄道整備財源に開発利益を取り入れる際の課題、都市鉄道網を密に整備することで駅へのアクセス性を良くすることの重要性、アジアの鉄道プロジェクトにおけるPPP導入の失敗から何を学ぶべきか、について説明いただきました。
次に、武藤主任研究員より、日本における鉄道整備と沿線開発連携の好事例、および鉄道整備財源確保に向けた国内外の開発利益還元手法、東京圏における都市鉄道の特徴と機能を紹介し、マニラでの鉄道整備における課題とTODの方向性について、報告しました。
【森地 茂 政策研究大学院大学政策研究センター所長による基調講演のポイント】
・開発利益還元策には、税、債券、負担金、都市再開発スキームなど、様々な種類があるが、TODの履行により、開発利益を増加させる可能性がある。
・ASEAN諸国では、鉄道の沿線開発が限定的であった。その理由は、TOD制度の脆弱性にある。
都市計画システムの改善や、住民とコンセンサスを形成するメカニズムなどの制度改革を提言したい。
【武藤 雅威 運輸総合研究所主任研究員による報告のポイント】
・日本の田園都市線のTODでは、沿線での宅地開発が進み、鉄道旅客が増え、地価も上昇した。
その背景として、日本が高度成長期にあったこと、鉄道会社が統一したコンセプトにより都市開発計画を強力に推進したことがあげられる。
・受益者負担金や空中権売却などの開発利益還元手法の各事例では、資金的に厳しい鉄道事業の立ち上がり時期に、これらの手法を有効に用いて、資金
調達をしている。
【パネルディスカッションのポイント】
マニラにおける都市鉄道と沿線開発の課題と展望について、議論が行われました。
まず、バターン鉄道担当次官から、フィリピンのインフラ政策「Build-Build-Build」に伴う鉄道事業の計画、資金調達、主体等に関する現状の報告がありました。一方、カル教授から、マニラの鉄道整備の課題としてマスタープランを作成するものの、短期的施策を指向しており、それらを都市圏全体で統括する組織が欠如することに対する課題が指摘されました。また、森地教授から、ネットワーク整備とともに鉄道とフィーダー交通の結節点としての駅前広場整備の重要性と、鉄道建設と沿線開発に関して計画する機関と実施する機関の調整の必要性が指摘されました。
続いて、マニラの鉄道計画推進における財源について、バターン鉄道担当次官から、政府等の支出、民間支出、ODA等の国際融資そして開発利益の還元による方針が示されました。特に、マニラのMRT3における土地価値の上昇に関する事例を示し、鉄道整備により沿線土地の価値上昇についての可能性を指摘されました。また、カル教授から、開発利益の還元に必要な用地取得について、近年法制度が整備され、市場価格での購入が可能となったこと、移転等の対象施設等における復旧費用も負担可能なこと、さらに、地表から50m以下は権利が及ばないことなどが紹介され、近年、外部効果の内部化を認める交通政策の法的枠組みがNEDA(国家経済開発庁)により承認されたことが紹介されました。最後に、森地教授から、鉄道整備とともに都市開発を行うPPPは重要だが、投資回収には長期を要するのが課題であり事業は失敗するケースが多いため、鉄道事業者がそれを行った場合に難しいかもしれないが、ハドソンヤード事業の事例では、鉄道事業者ではない三井不動産が開発事業者として参画し、出資した事例もあり、非常に興味深い事例であるとの見解が示されました。
また、会場参加者からの質問により、地下鉄整備に関する環境保護や、民間会社への財政的支援に関する議論が行われました。モデレータの日比野准教授の「フィリピンでのTODの成功を祈念する」という言葉で、パネルディスカッションを締めくくりました。