観光と地域交通 ~ポストコロナの時代を見据えて~
- 運輸政策セミナー
- 観光
第67回運輸政策セミナー(オンライン開催)
日時 | 2020/11/30(月)15:00~17:30 |
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開催回 | 第67回 |
テーマ・ プログラム |
観光と地域交通 ~ポストコロナの時代を見据えて~ |
講師 | 研究会座長挨拶:武田 公子 「観光と地域交通に関する研究会」座長・ 金沢大学人間社会研究域経済学経営学系教授 研究会「提言」の概説: 清水 哲夫 「観光と地域交通に関する研究会」座長代理・ 東京都立大学大学院都市環境科学研究科観光科学域教授 <パネルディスカッション及び質疑応答> コーディネーター :清水 哲夫 「観光と地域交通に関する研究会」座長代理・ 東京都立大学大学院都市環境科学研究科観光科学域教授 パネリスト:大井 尚司 大分大学経済学部経営システム学科教授 (50音順) 小林 昭治 一般社団法人八ヶ岳ツーリズムマネジメント代表理事 古竹 孝一 いすみ鉄道株式会社代表取締役社長 松本 順 株式会社みちのりホールディングス代表取締役グループCEO 吉田 晶子 日本政府観光局(JNTO)理事長代理 全体講評 :山内 弘隆 運輸総合研究所 所長 |
開催概要
近年の観光客の個人旅行化や地方部への外国人旅行者の急増の中で、地域における観光交通の確保・改善が喫緊の課題となっている。しかしながら、これまで地域交通については地域住民の生活の足の確保を目的とする検討や対応に重きが置かれていた。また、地域交通に観光客の移動ニーズを取り込むことによって、地域住民の生活の足の確保の下支えとなることが期待できる。
このため、運輸総合研究所では、観光や地域交通に関する第一線の研究者、現場の課題に精通した地方自治体関係者、観光地づくりや地域交通に精力的に取組む実務者等の参加を得た「観光と地域交通に関する研究会」で議論を重ね、観光側の視点を踏まえ、2020年7月に提言をとりまとめた。
しかし、新型コロナウイルスの長引く感染状況により、マイクロツーリズム等地域への観光が注目され、観光客の足となる地域交通がより大事になっている一方で、人々の行動・移動の変容により、地域交通のサービス提供者の体力が劣化するリスクを抱え、観光地域の競争力を支える地域交通の見通しが不透明になっている。
このため、本セミナーでは、コロナの影響による観光行動等の変容を見極めつつ、当該研究会の提言における4論点(観光地側の視点、交通サービスの需要側である観光客の視点、交通サービスの供給側の視点、計画や規制などの政策・制度の視点)から、ポストコロナの時代における観光と地域交通の在り方を考察した。
プログラム
開会挨拶 |
宿利 正史 |
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研究会座長挨拶 | |
研究会「提言」の概説 | |
パネルディスカッション |
<コーディネーター>
清水 哲夫 「観光と地域交通に関する研究会」座長代理・ 東京都立大学大学院都市環境科学研究科観光科学域教授 パネルディスカッション <パネリスト>-発言順- 松本 順 株式会社みちのりホールディングス代表取締役グループCEO 講演者略歴 講演資料 「観光と地域交通:具体的な企画事例を中心に」 古竹 孝一 いすみ鉄道株式会社代表取締役社長 講演者略歴 講演資料 「残れる鉄道会社・生き抜く第三セクターへ」 吉田 晶子 日本政府光局(JNTO)理事長代理 講演者略歴 講演資料 「インバウンド観光客を地域に誘導する立場から見た課題」 小林 昭治 一般社団法人八ヶ岳ツーリズムマネジメント代表理事 講演者略歴 講演資料 「観光地から見た地域交通の課題と現状」 大井 尚司 大分大学経済学部経営システム学科教授 講演者略歴 講演資料 「政策・制度の視点からみた観光と地域交通に関する課題」 |
全体講評 |
山内 弘隆 全体講評 |
当日の結果
冒頭に「観光と地域交通に関する研究会」座長、武田先生よりテーマについての論点のご紹介がありました。
・ポストコロナ時代に、一極の観光地に多くの観光客が集中してしまう事態を避けるためには、MaaS向けのプラットホームをどのように作るかということが非常に大切。下からのプラットホームの形成が必要なのではないか。
・地域によっては複数のステークフォルダーの間で利害調整が困難であるなどの問題を抱えている場合もあり、いろいろな局面での連携の構築が求められている。また特に高齢化が進む地域では、人材不足が深刻であり、担い手についての問題が大きい。人材について、行政の役割をしっかり位置付け直すことが必要。
清水先生より「提言」の概説がありました。ポイントは次の通りです。
・地域交通で観光対応をすることについて①観光需要は地域公共交通事業の収益拡大に貢献できるか②交通手段自体を資源や魅力にできないか③観光需要は地域公共交通事業の収益拡大に貢献できるか、の3つの問題意識が重要。
・提言では論点を4つの視点にまとめている。観光地の視点については、DMOや自治体の観光部局が交通の問題についてどう取り組んでいくかということと、運営主体のあり方が論点である。観光地としての集客戦略をDMO、自治体の観光部局で地域交通の行政・事業者と共有すべきと考える。地域の交通計画の構成員として観光部局が入り込んでいくことが重要。その流れを専門性の高い有識者がサポートして、行政内に専門性の高い人材を育成していくべきである
・需要側の視点については、今まで取り込めていない需要、新たに作り出す需要にどう対応するかが論点である。MaaSの時代で、その時のコンテクストに応じて動的に実施することがこれから求められる。
・供給者の視点については現有リソースへの情報提供、MaaSへの対応、開発が進んでいる新しいモビリティの展開ということも提言の骨格をなしている。より強固な形でデータのオープン化・一元化を進めていくことが大前提。グローバルスタンダード、世界のインバウンドが使用しているアプリケーションを意識しないといけない。柔軟な発想で、e-スクーターなど、今後展開が期待できそうな新たな選択肢も多様に取り入れていくことが重要。
・政策・制度の視点については、地域公共交通計画への観光事業者の関わり方、支援の仕方、また自家用有償運送などの課題への、更に必要な法令の改正、規制緩和、運用の改善について取りまとめた。制度改正などを地域に知らせることが極めて重要であり、制度面を知る機会をどう生み出していくかにも取り組まねばならない。
その後、清水先生がモデレータとなり、パネリストからの話題提供を交えつつ、議論がなされました。
まず交通事業者のお立場から松本様、古竹様より、事業のご紹介と観光対応で抱えている課題と解決のための戦略についてお話しいただいた。
<松本様>
・コロナの前の段階ですでに人手不足の問題も大きく、生活移動だけのお客様を乗せるだけで需要は十分だという見方をしている事業者がいるのも確かだが、地域交通は長期にわたって新しい需要を創出していくことに非常に苦労を続けてきたので、観光需要の取り込みというのは非常に重要な課題と考える。結局のところ、観光と地域交通というのはまずとにかくやってみるしかない。様々な企画、取り組みをデジタル的に皆様にお伝えしていくのが大事。
<古竹様>
・公募の社長として第3セクターいすみ鉄道としては首都圏の観光・交流人口をどう取り込むかを使命に、取り組んでいる。生き残るために、TOPとして鉄道事業を根本から疑う時代が到来した中で何をすべきかについて考えている。何もないからできることだらけ、という考えのもと「チームいすみ鉄道として全員野球をする」、「地域活動を積極的に鉄道会社として行う」、「観光事業+地域の風を意識して企画する」、「房総横断鉄道ラインを守り千葉の活性化をしていく」ということを考えながら取り組んでいる。
発表に対して大井先生からコメントがありました
・観光地として売り込む自治体が政策の中にいかに取り込んでいくかが発展していく上で必要。観光と交通のツールが分断されている部分がまだ多いのが政策的課題と考える。さらに交通担当と観光担当の横断的な取組みが望まれる。交通事業者が作り出した商材を観光側に認知されれば発展につながるのではないかと思われる。
次に需要側と観光地側の視点で誘客という視点で吉田様、小林様より話題提供をいただいた。
<吉田様>
・現在はコロナの影響で国境管理が大変厳しくなっているが、中長期的に見た場合には必ず回復すると考えている。2030年に6000万人、消費15兆円という目標達成に向けてJNTOとしては①市場の多様化②消費単価の向上③国内での地域分散を方向性としている。
・インバウンド誘致から見た日本の課題は「わかりにくさ」の克服。最終の目的地までスムーズにいくための情報提供、検索・予約・決済が一気通貫にできるためにはMaaSへの期待も大きい。広域で交通事業者を横断した取組がなされること、グローバルかつ統合されたプラットホーム確立のための努力、データを活用したサービスの向上のために、共有化を進めていくことが求められる。2点目は「顧客が必要とする交通」の整備である。これからは消費単価を上げることによって、来られる方々が快適に過ごしていただく、また迎える方々においても、社会的な問題が発生しない観光地域にしていく支援をしていきたいと考える。そのためには個別の上質なサービス、富裕層が必要とする移動手段の確保が重要。様々な地域に足を運んでもらう観点からも、国立公園に対する期待は高まっているが、交通の便が悪いのでシームレスな自然へのアプローチの確保が期待される。これらはインバウンドに向けての話ではあるが、国内の観光客においても同じことが言える。「わかりやすい・便利・快適」な移動手段が選択されるであろう。
<小林様>
・八ヶ岳地域の現状・課題は、観光客の二次交通利用の対象となる来訪者はJR利用と高速バス利用の16%と少ないということ。新型コロナの影響で、公共交通を含む新しい旅のスタイルの確立が求められている中、リゾート地ゆえに年間を通して来訪者が安定しておらず、またエリアによって特性が異なるため、エリア毎に乗り合いバス・タクシー等を検討している。目的別のライドシェア(乗合タクシー)の制度化についても、タクシー業界と議論を重ねている。 また二次交通がない小淵沢エリアにおいては公共交通利用者や自家用車利用者向けに、現在、文化庁の地域活性化事業にて、美術館・博物館を拠点とした、地域活性を目的とした周遊バスや乗合タクシーの事業実施に向けての課題等についての県・市の官民一体となった検討会を観光地域づくり法人が中心となって頻繁に開催している。 観光の議論をする会議に必ずセットで二次交通の検討を実施している。交通事業者と観光事業者が議論していくことが重要。
発表に対し清水先生より次のコメントがありました。
・英国では人と人との接触を減らすため公共交通の利用を避けるように政府部門が推奨している状況であるように、公共交通の利用は非常に厳しい状況である。ポストコロナでは外国人観光客に来ていただくためには、「日本は公共交通においてしっかり対策が取られていて、安全である」ことの情報提供、発信は必ず必要になってくると考える。それはJNTOの役割になってくるだろう。
次に研究者として地域の交通について人財、政策などに触れながら大井先生に話題提供をいただいた。
<大井先生>
・少子高齢化、自動車への移行もあり、公共交通は慢性的な需要減少、また従業員確保が慢性的に困難で事業者は疲弊していたところに、コロナが追い打ちをかけている。移動のパターンが多様になっているが、現状はステレオタイプの需要を満たすことで精一杯となっている状況である。政策のニーズ対応は、補助金の範囲内で先行投資的なものができない。また計画部門の人材も不足している。
・日本の観光の抱える課題は、観光と移動の関係では情報発信が問題である。「ホームページ・パンフレット」依存が未だあること、またSNSなどで発信されている「移動」についての扱いが、発信元が違う、更新ができていないなど不十分である。その結果、観光地の選択肢から落ちてしまう。また移動に対する施策の乏しさが問題である。海外DMOは「移動」を重要要素・収益源と考え、施策を打っている。日本もこのような考えが必要なのではないか。観光地の選択は全世界が競争相手である。その土俵に乗るためには「トータルプロデュース」「ワンストップ」「簡単・単純」がキーワードである。MaaSも踏まえ、流れ全体を支援するようなDMOが必要で、地域全体が勝つという発想を持つことが必要。
そのほか、次のコメントがありました。
・ワクチンの普及が本格的になるまでの間、観光業界、交通業界は極めて厳しい状況になる。しかし、それを乗り越えて来年後半以降のかなりのスピードでインバウンドが回復すると思われる。各種アンケートでは、「コロナ後、海外旅行に行くとすればどの国か」の答えには、日本が上位に入っている。アフターコロナの時代において交通業界、観光業界がMaaSを含めて様々な準備をしておけば、新たな果実を得ることができると考えている。一方で、未だ地域によってはMaaSをやる余力がない、協会などのしがらみが強い、前に進む機運が少ない、というのが若干ある。
・観光の公共交通は需要としてはあるが、それ以上に日常の公共交通利用というのがどうしても軸になる。アフターコロナでも公共交通を産業として維持しなければならない。観光の財源を回すなどして、地域で公共交通を残していく仕掛けを作らなければいけないと考える。
・観光と地域交通両方を議論するコーディネータの存在が重要である。DMOがしっかりコーディネートすべきと考える。交通側の商品と観光を一体として販売していく時に交通事業者だけでなく、地域の観光事業者が今までは旅行代理店が実施していたような業務を受け止めて実施していく、その調整の役割がDMOに求められる時代になっていると考える。ノウハウが地域、DMO、自治体交通部局で不足しているのでアドバイザーの投入などの仕掛けが必要。
・複数のバス事業者を経営することで何かコスト削減などの効果はあるのかというご質問については、グループでいくつものバス会社をいくつもの地域で経営している場合、それぞれの旅行エージェント事業を活性化する施策を横串で展開してグループ事業の全体を底上げしている。これは売り上げの面でもコスト削減の面でも効果を発現している、とのご回答をいただいた。
・2000万人いた日本から海外に出かけていた観光客が国内観光に向かうだろうと考える。JNTOも外国語だけで情報発信をしていたが今後は国外に発信していた情報を日本語化して、関係者の方に使っていただいて、国内の観光需要に使ってほしい。
・状況の変化が大きいコロナ禍においては、共通の数字で語ることが更に重要。客観的な数字にして関係者を説得する努力をやっていったほうがよいのではないか。数値化したことを地域内で情報共有し、危機感を共有することから始めることが大事だと考える。
清水先生から所感がありました。
・提言内容にすでに取り組んでいる事業者の事例からみる成功のポイントは、「まずは手を打つ」ということだと思う。観光のプレイヤーと交通のプレイヤーを地域で結びつけていくかというのは難しい。地域公共交通に観光の需要を取り込んで、観光事業のほうから地域の移動を助ける関係を保っていくにはプレイヤーが一堂に会する機会、組織を意図的に作っていく必要がある。
・政策・制度の面で多様な取組を支援する枠組みが整備されてきたものの、特にこのコロナ禍で財政が厳しい中、需要を回復する手当、資金的な手当てをしていかないとMaaSなどに取り掛かることすらできない状況をどのようにとらえるか。
最後に運輸総合研究所山内所長より全体講評がありました。
・本日のセミナーでは、費用負担のあり方、データ活用の手法、そして情報発信の課題についても話題にのぼり、良いヒントが得られたと思われる。新しい時代の地域交通、観光政策の議論の一助となれば幸いである。
ライブ配信の開催であり、大学等研究機関、国土交通省、地方自治体の方々、観光・交通事業者、コンサルタントなど、約450名の参加者があり、また日本のみならず海外からの参加もあり、盛会なセミナーとなりました。
・ポストコロナ時代に、一極の観光地に多くの観光客が集中してしまう事態を避けるためには、MaaS向けのプラットホームをどのように作るかということが非常に大切。下からのプラットホームの形成が必要なのではないか。
・地域によっては複数のステークフォルダーの間で利害調整が困難であるなどの問題を抱えている場合もあり、いろいろな局面での連携の構築が求められている。また特に高齢化が進む地域では、人材不足が深刻であり、担い手についての問題が大きい。人材について、行政の役割をしっかり位置付け直すことが必要。
清水先生より「提言」の概説がありました。ポイントは次の通りです。
・地域交通で観光対応をすることについて①観光需要は地域公共交通事業の収益拡大に貢献できるか②交通手段自体を資源や魅力にできないか③観光需要は地域公共交通事業の収益拡大に貢献できるか、の3つの問題意識が重要。
・提言では論点を4つの視点にまとめている。観光地の視点については、DMOや自治体の観光部局が交通の問題についてどう取り組んでいくかということと、運営主体のあり方が論点である。観光地としての集客戦略をDMO、自治体の観光部局で地域交通の行政・事業者と共有すべきと考える。地域の交通計画の構成員として観光部局が入り込んでいくことが重要。その流れを専門性の高い有識者がサポートして、行政内に専門性の高い人材を育成していくべきである
・需要側の視点については、今まで取り込めていない需要、新たに作り出す需要にどう対応するかが論点である。MaaSの時代で、その時のコンテクストに応じて動的に実施することがこれから求められる。
・供給者の視点については現有リソースへの情報提供、MaaSへの対応、開発が進んでいる新しいモビリティの展開ということも提言の骨格をなしている。より強固な形でデータのオープン化・一元化を進めていくことが大前提。グローバルスタンダード、世界のインバウンドが使用しているアプリケーションを意識しないといけない。柔軟な発想で、e-スクーターなど、今後展開が期待できそうな新たな選択肢も多様に取り入れていくことが重要。
・政策・制度の視点については、地域公共交通計画への観光事業者の関わり方、支援の仕方、また自家用有償運送などの課題への、更に必要な法令の改正、規制緩和、運用の改善について取りまとめた。制度改正などを地域に知らせることが極めて重要であり、制度面を知る機会をどう生み出していくかにも取り組まねばならない。
その後、清水先生がモデレータとなり、パネリストからの話題提供を交えつつ、議論がなされました。
まず交通事業者のお立場から松本様、古竹様より、事業のご紹介と観光対応で抱えている課題と解決のための戦略についてお話しいただいた。
<松本様>
・コロナの前の段階ですでに人手不足の問題も大きく、生活移動だけのお客様を乗せるだけで需要は十分だという見方をしている事業者がいるのも確かだが、地域交通は長期にわたって新しい需要を創出していくことに非常に苦労を続けてきたので、観光需要の取り込みというのは非常に重要な課題と考える。結局のところ、観光と地域交通というのはまずとにかくやってみるしかない。様々な企画、取り組みをデジタル的に皆様にお伝えしていくのが大事。
<古竹様>
・公募の社長として第3セクターいすみ鉄道としては首都圏の観光・交流人口をどう取り込むかを使命に、取り組んでいる。生き残るために、TOPとして鉄道事業を根本から疑う時代が到来した中で何をすべきかについて考えている。何もないからできることだらけ、という考えのもと「チームいすみ鉄道として全員野球をする」、「地域活動を積極的に鉄道会社として行う」、「観光事業+地域の風を意識して企画する」、「房総横断鉄道ラインを守り千葉の活性化をしていく」ということを考えながら取り組んでいる。
発表に対して大井先生からコメントがありました
・観光地として売り込む自治体が政策の中にいかに取り込んでいくかが発展していく上で必要。観光と交通のツールが分断されている部分がまだ多いのが政策的課題と考える。さらに交通担当と観光担当の横断的な取組みが望まれる。交通事業者が作り出した商材を観光側に認知されれば発展につながるのではないかと思われる。
次に需要側と観光地側の視点で誘客という視点で吉田様、小林様より話題提供をいただいた。
<吉田様>
・現在はコロナの影響で国境管理が大変厳しくなっているが、中長期的に見た場合には必ず回復すると考えている。2030年に6000万人、消費15兆円という目標達成に向けてJNTOとしては①市場の多様化②消費単価の向上③国内での地域分散を方向性としている。
・インバウンド誘致から見た日本の課題は「わかりにくさ」の克服。最終の目的地までスムーズにいくための情報提供、検索・予約・決済が一気通貫にできるためにはMaaSへの期待も大きい。広域で交通事業者を横断した取組がなされること、グローバルかつ統合されたプラットホーム確立のための努力、データを活用したサービスの向上のために、共有化を進めていくことが求められる。2点目は「顧客が必要とする交通」の整備である。これからは消費単価を上げることによって、来られる方々が快適に過ごしていただく、また迎える方々においても、社会的な問題が発生しない観光地域にしていく支援をしていきたいと考える。そのためには個別の上質なサービス、富裕層が必要とする移動手段の確保が重要。様々な地域に足を運んでもらう観点からも、国立公園に対する期待は高まっているが、交通の便が悪いのでシームレスな自然へのアプローチの確保が期待される。これらはインバウンドに向けての話ではあるが、国内の観光客においても同じことが言える。「わかりやすい・便利・快適」な移動手段が選択されるであろう。
<小林様>
・八ヶ岳地域の現状・課題は、観光客の二次交通利用の対象となる来訪者はJR利用と高速バス利用の16%と少ないということ。新型コロナの影響で、公共交通を含む新しい旅のスタイルの確立が求められている中、リゾート地ゆえに年間を通して来訪者が安定しておらず、またエリアによって特性が異なるため、エリア毎に乗り合いバス・タクシー等を検討している。目的別のライドシェア(乗合タクシー)の制度化についても、タクシー業界と議論を重ねている。 また二次交通がない小淵沢エリアにおいては公共交通利用者や自家用車利用者向けに、現在、文化庁の地域活性化事業にて、美術館・博物館を拠点とした、地域活性を目的とした周遊バスや乗合タクシーの事業実施に向けての課題等についての県・市の官民一体となった検討会を観光地域づくり法人が中心となって頻繁に開催している。 観光の議論をする会議に必ずセットで二次交通の検討を実施している。交通事業者と観光事業者が議論していくことが重要。
発表に対し清水先生より次のコメントがありました。
・英国では人と人との接触を減らすため公共交通の利用を避けるように政府部門が推奨している状況であるように、公共交通の利用は非常に厳しい状況である。ポストコロナでは外国人観光客に来ていただくためには、「日本は公共交通においてしっかり対策が取られていて、安全である」ことの情報提供、発信は必ず必要になってくると考える。それはJNTOの役割になってくるだろう。
次に研究者として地域の交通について人財、政策などに触れながら大井先生に話題提供をいただいた。
<大井先生>
・少子高齢化、自動車への移行もあり、公共交通は慢性的な需要減少、また従業員確保が慢性的に困難で事業者は疲弊していたところに、コロナが追い打ちをかけている。移動のパターンが多様になっているが、現状はステレオタイプの需要を満たすことで精一杯となっている状況である。政策のニーズ対応は、補助金の範囲内で先行投資的なものができない。また計画部門の人材も不足している。
・日本の観光の抱える課題は、観光と移動の関係では情報発信が問題である。「ホームページ・パンフレット」依存が未だあること、またSNSなどで発信されている「移動」についての扱いが、発信元が違う、更新ができていないなど不十分である。その結果、観光地の選択肢から落ちてしまう。また移動に対する施策の乏しさが問題である。海外DMOは「移動」を重要要素・収益源と考え、施策を打っている。日本もこのような考えが必要なのではないか。観光地の選択は全世界が競争相手である。その土俵に乗るためには「トータルプロデュース」「ワンストップ」「簡単・単純」がキーワードである。MaaSも踏まえ、流れ全体を支援するようなDMOが必要で、地域全体が勝つという発想を持つことが必要。
そのほか、次のコメントがありました。
・ワクチンの普及が本格的になるまでの間、観光業界、交通業界は極めて厳しい状況になる。しかし、それを乗り越えて来年後半以降のかなりのスピードでインバウンドが回復すると思われる。各種アンケートでは、「コロナ後、海外旅行に行くとすればどの国か」の答えには、日本が上位に入っている。アフターコロナの時代において交通業界、観光業界がMaaSを含めて様々な準備をしておけば、新たな果実を得ることができると考えている。一方で、未だ地域によってはMaaSをやる余力がない、協会などのしがらみが強い、前に進む機運が少ない、というのが若干ある。
・観光の公共交通は需要としてはあるが、それ以上に日常の公共交通利用というのがどうしても軸になる。アフターコロナでも公共交通を産業として維持しなければならない。観光の財源を回すなどして、地域で公共交通を残していく仕掛けを作らなければいけないと考える。
・観光と地域交通両方を議論するコーディネータの存在が重要である。DMOがしっかりコーディネートすべきと考える。交通側の商品と観光を一体として販売していく時に交通事業者だけでなく、地域の観光事業者が今までは旅行代理店が実施していたような業務を受け止めて実施していく、その調整の役割がDMOに求められる時代になっていると考える。ノウハウが地域、DMO、自治体交通部局で不足しているのでアドバイザーの投入などの仕掛けが必要。
・複数のバス事業者を経営することで何かコスト削減などの効果はあるのかというご質問については、グループでいくつものバス会社をいくつもの地域で経営している場合、それぞれの旅行エージェント事業を活性化する施策を横串で展開してグループ事業の全体を底上げしている。これは売り上げの面でもコスト削減の面でも効果を発現している、とのご回答をいただいた。
・2000万人いた日本から海外に出かけていた観光客が国内観光に向かうだろうと考える。JNTOも外国語だけで情報発信をしていたが今後は国外に発信していた情報を日本語化して、関係者の方に使っていただいて、国内の観光需要に使ってほしい。
・状況の変化が大きいコロナ禍においては、共通の数字で語ることが更に重要。客観的な数字にして関係者を説得する努力をやっていったほうがよいのではないか。数値化したことを地域内で情報共有し、危機感を共有することから始めることが大事だと考える。
清水先生から所感がありました。
・提言内容にすでに取り組んでいる事業者の事例からみる成功のポイントは、「まずは手を打つ」ということだと思う。観光のプレイヤーと交通のプレイヤーを地域で結びつけていくかというのは難しい。地域公共交通に観光の需要を取り込んで、観光事業のほうから地域の移動を助ける関係を保っていくにはプレイヤーが一堂に会する機会、組織を意図的に作っていく必要がある。
・政策・制度の面で多様な取組を支援する枠組みが整備されてきたものの、特にこのコロナ禍で財政が厳しい中、需要を回復する手当、資金的な手当てをしていかないとMaaSなどに取り掛かることすらできない状況をどのようにとらえるか。
最後に運輸総合研究所山内所長より全体講評がありました。
・本日のセミナーでは、費用負担のあり方、データ活用の手法、そして情報発信の課題についても話題にのぼり、良いヒントが得られたと思われる。新しい時代の地域交通、観光政策の議論の一助となれば幸いである。
ライブ配信の開催であり、大学等研究機関、国土交通省、地方自治体の方々、観光・交通事業者、コンサルタントなど、約450名の参加者があり、また日本のみならず海外からの参加もあり、盛会なセミナーとなりました。