「水際対策」等について早期の「更なる見直し」を要請
~「デジタルワクチンパスポート」導入に関する提言に 進捗検証結果を追補~

2021年11月22日
一般財団法人運輸総合研究所


 新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大を受け、感染の拡大を抑制するため社会経済活動は制約を余儀なくされている。特に、この制約を大きく受けているのが国際的な人的往来である。
隔離等の防疫措置を求めるなどの条件付きでの国際的な人的往来が再開されているが、日本を含め、検疫手続として入国者に対するPCR等の検査陰性証明の提出要求は既に一般化されている。また、一部の国・地域ではワクチン接種証明の導入やこれに関連する検査証明(抗体等)の提出を求める動きもある。
 一方、ワクチン接種にかかるデジタル証明としては、既に米国の一部の州では州独自のデジタル証明書を発行しており、また欧州においても、EUを中心に7月からデジタル健康証明書(EU Digital COVID Certificate:EU-DCC)の導入が始まっている。また、欧米に加え日本を含むアジアや中東等のエアラインによる、IATAトラベルパス等の導入に向けた取組みも広範に行われてきている。


 このような状況下、日本政府においては、国際的な人的往来における利用に資するべく、地方自治体において紙によるワクチン接種済証明書の発行を7月下旬から開始しており、当該証明書の電子交付は年内目途の開始に向け現在準備中である。
いうまでもなく、紙による証明書の場合、偽造防止に加え、手続の利用の場面での煩雑さなど検討すべき課題がある。たとえば、コロナ禍以前は平均1.5時間程度であった出発/到着空港での手続時間は、各種証明の提出要求増に伴い旅客1人当りで急増しており、紙証明審査では乗客数がコロナ前と同程度の場合、同じ手続処理に8時間を要するとの試算もある。国際的な人的往来の完全回復には4、5年を要すると予想されているが、手続時間の急増がその足をさらに引っ張るおそれがありうる。
 
 先般、運輸総合研究所においては、第72回運輸政策セミナーとして、「ワクチンパスポート・トラベルパスを巡る最新の動向」を本年6月25日に開催し、有識者の見解を共有いただいた上で、当該内容を踏まえ、紙でなくアプリ等のICTを活用した、ワクチン接種や検査結果等の証明書、「デジタルワクチンパスポート」の導入に向け、4点について7月12日付で提言を行った。

 今般、当該提言公表以後における、国内外での状況の変化、具体的にはワクチン接種の進展や感染状況のピークアウト、これらを受けたワクチンパスポート等の活用(少なくともこれに向けた検討)に関する我が国での社会的受容性の増大、国際的な人的往来に関する緩和制度導入やそのためのいわゆる「デジタルパスポート」(前記EU-DCC等)を始めとするICT活用ツールの開発・普及の進展、そして我が国を含む各国におけるワクチン接種者等に対する「水際対策」の見直し(入国規制や入国後隔離措置等の緩和:我が国は直近では11月8日に実施、以後も手続改善等を追加)等を踏まえ、運輸総合研究所においては、提言内容の実現等進捗状況を検証し、順調な進展がみられる事項についての更なる進捗の推奨と、進展の実施又は加速化が求められる事項についての注意喚起を行うべく、提言の進捗状況の検証と結果の追補を行うこととした。

 本提言の追補が、社会的受容性の更なる増大等を通じて官民関係者の取組みの一助となり、デジタルワクチンパスポートのより早期の導入や有効な活用等に資することとなれば幸いである。

※以下、提言詳細における枠囲みは今回進捗検証によって追加した部分。
※本提言の詳細(追補前のものを含む)については、前記運輸政策セミナー参加の講演者個人の見解と必ずしも一致しない。





1. 概要

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2. 詳細

提言① 「デジタルワクチンパスポート」の導入及び有効活用を急ぐ
 ワクチン接種済証明書を紙で発行した場合、簡単に偽造できること、窓口における審査・確認に長時間を要する等の課題がある。また、真正性疑義、項目不足等証明書を巡るトラブルが頻発する可能性がある。
 そこで、証明書確認プロセスのデジタル化によるこれら課題の解決を図るべく、紙でなく、アプリ等のICTを活用したワクチン接種や検査結果等の証明書、「デジタルワクチンパスポート」を導入すべきである。
⇒【進捗検証】 ○:概ね提言の方向に沿って進展しているが、一部対応の改善等更なる深化を望む
年内の導入開始に向け政府を始め関係者において準備中であり(※1)、この動きの継続を求める。

※1 電子交付に必要な接種証明書の二次元コード及びAPI(複数アプリ連携ツール等)の仕様に関するパブリックコメント(本年9月17日デジタル庁募集、10月19日対応方向性公表)、「次の感染拡大に向けた安心確保のための取組の全体像」(本年11月12日新型コロナウイルス感染症対策本部決定)におけるワクチン接種証明書の年内デジタル化等。なお、11月18日にはスマートフォンとマイナンバーカードを利用して、「新型コロナワクチンの電子版接種証明書」の申請(受付)開始を12月頃から開始する旨公表(首相官邸公式Twitter)。

 また、システムや職員等実働面の準備に加え関連する制度等の着実な整備や、早期の導入開始に加え有効な活用(出入国手続の簡素合理化等)についても確実な実現を求める。
 なお、検査結果等の証明については、いわゆる「ワクチン・検査パッケージ」の仕組みにおいて、陰性証明をワクチン接種証明と同様に取り扱う方針が示されているが(本年9月9日付新型コロナウイルス感染症対策本部「当面の対処方針」等)、一方で前記パブリックコメント募集時の案においてはワクチン接種証明のみが対象とされており、この点については最終的には関連する証明を全て提示することが可能な「デジタルワクチンパスポート」の導入がなされるよう改めて求める。

提言② 「デジタルワクチンパスポート」は、まずアウトバウンド(日本人の出国等)だけでも先行して活用する
 社会経済活動の再開を念頭に、ワクチン接種済証明書を国内やインバウンド(外国人入国等)に活用することも含めた一括りの議論が多い。これら国内活用やインバウンド活用に向けた整理、解決には検討すべき課題が多々あり、ビジネス等に不可欠のアウトバウンド(日本人出国等)への導入が遅滞する可能性がある。
 まず、国内での活用やインバウンドへの対応とは切り離し、アウトバウンドへ「デジタルワクチンパスポート」を迅速に導入すべきである。
⇒【進捗検証】 ◎:提言の方向に沿って着実に進展中
 アウトバウンド向けの活用が上記進捗検証でみたように進捗していることに加え、9月以降は国内向けの活用においても、提言①の進捗検証で述べたとおり「当面の対処方針」等で「ワクチン・検査パッケージ」の活用に向けた具体的な検討・実証が進んできており、合わせて年内導入の見込みである。
 なお、多くの外国にワクチン接種証明等を要求されているという現実にかんがみ、アウトバウンド向け活用については、国内向け活用の検討動向や導入時期の変更等が今後発生した場合においても、年内の導入に向けた関係者の準備について継続を求める。

提言③ 政府は、「デジタルワクチンパスポート」の標準化・相互互換性確保を促し、また、検査・接種データの内容及び利用に適切に関与する
 「デジタルワクチンパスポート」のプラットフォームを、国主導で開発・導入するとなると、迅速性や柔軟性に欠けることが容易に想定される。他方、現状はアプリに加えプラットフォームも乱立し、相互利用も保証されず利便性に不安を招きかねない。また、ワクチン接種証明やこれに関連する検査証明等の新たな手法が出た際に対応できるようデータの標準化も必要である。開発・導入等は民間の動き(コモンパス、IATAトラベルパス等)に委ね、国はウォレット(アプリ)標準化、マルチ・ウォレット・リーダー導入等の支援等、規格作成や標準化、互換性確保等を支援すべきである。
 また、検査陰性証明・ワクチン接種証明等に関する個人データの真正性や保護も改善途上である。たとえば、個人データは公的データベースに格納し、搭乗時に本人同意の上で、航空会社システムから照会し、真正性等を確認する等、個人データは公的主体が厳格に管理し、移動時の企業や関係機関の利用は必要最低限に抑制するべきである。

⇒【進捗検証】 〇:概ね提言の方向に沿って進展しているが、一部対応の改善等更なる深化を望む

 標準化及び互換性確保については、提言①の進捗検証で述べたパブリックコメントでの対応方向性募集案において、渡航(=アウトバウンド)向け証明書についてICAO VDS-NC(※2)規格を想定しており、これに基づいてアプリやリーダーの標準化及び互換性確保も進むと考えられる。また、国内向け証明書についても、同募集案においてSMART Health Card (※3)規格を想定しているため、両者が共通に使用する接種データについても標準化及び互換性確保が進むと考えられる。このため、この動きの継続を求める(英語表示の導入を含む)。

※2 ICAO VDC-NS:国際民間航空機関(ICAO)が2018年に承認した、データの真正性・完全性を保持するためのICTを活用した技術。前記EU-DCCとの相互運用に向けて調整中。

※3 SMART Health Card:北米を中心に使われている、医療・健康データをネットワーク横断的に流通させ使用するための技術規格(法制度的な国際標準ではない)。

 ただし、(国内向け証明書は本提言の直接のターゲットではないが)渡航向けと国内向けの2つの証明書が別々に必要となる恐れがあることに加え、国内各地で自治体の推奨するアプリが続々と導入されており(東京都、群馬県等)、放置すれば利用者が複数アプリの使用を余儀なくされるおそれもあること、及び外国人来訪者が日本国内向けアプリを別途取得し使用することが非現実的となるおそれがあること(例えば日本語限定等)については、規制等での強制は行わないにしても、ガイドライン等で何らかの方向性を示すことが望ましい。

また、検査・接種データについては、前記募集案において、VRS(※4)上の情報を証明書発行・交付の都度申請者(利用する国民)がダウンロードし、航空会社始め必要な企業等に提示する仕組みとされている。これは、本提言の方向に沿っており(申請主体は利用者、企業等の手元に情報を残さないことが可能)、この動きの継続を求める。

※4 VRS(ワクチン接種記録システム):国が提供するクラウド上で市区町村が接種者・接種記録の情報を管理するシステム


提言④ 検疫に係る入国許可、隔離等の要件は、防疫上の要請を損わない範囲で、主要国との調和(ハーモナイゼーション)を進める
 検疫の入国許可要件や隔離要件、これらを審査するための手続(検査方法含む)やフォーマット(書式、様式等)が米欧や近隣諸国と異なる場合がある。また、ワクチン接種証明やこれに関連する検査証明等の新たな手法が出てくることも想定される。「デジタルワクチンパスポート」における検疫に係る入国許可、隔離等の要件は、防疫上の要請を損わない範囲で、主要国(当面は統一性の高い米欧)との制度の調和(ハーモナイゼーション)を行うべきである。
⇒【進捗検証】 △~×:提言の方向に沿って一部進展はあるが、まだ大きな課題が残り一層の改善を要する。
 提言①の進捗検証で述べた「当面の対処方針」に基づき、一定のワクチン接種済入国者(日本人再入国を含む)の入国後隔離期間について緩和しており(14日⇒10日)、今般「出張者等ビジネス目的の当該入国者であって入国後の行動を保証できる者(受入責任者)がいるもの」に対しては更に緩和されることとなった(⇒3日、11月8日施行。同時に就労・留学・技能実習等を目的とする者の入国も解禁。これらについては上記別紙1、2も参照)。また、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(本年11月19日対策本部決定)では、水際措置の段階的な見直しに取り組む旨が示されている。
 ただ、この点については一定の進展と認められるものの、以下のとおり、国際旅客移動に関して欧米諸国及び一部アジア諸国等(以下「欧米等」)に比してかなり厳しい制約を(今般11月8日の緩和後も)残しており、かつこの格差が、欧米等の規制緩和にしたがって拡大しているという問題がある。
1) 欧米等では、このようなワクチン接種済入国者の隔離はそもそも免除されており、依然として国際的に見て厳しい制約を課していること(上記、別表1参照)、
 ※今般11/8施行の緩和後も、以下のように国際間移動の再活性化には高いハードルが残る。
①観光客等は今般の緩和の対象外で、ワクチン接種後でも依然10日隔離(+PCR検査)を要求。
②出張者等も座席指定のない鉄道・バス等は今般の緩和期間(基本入国後4日~10日)は利用できず、緩和期間中の仕事、会食等の活動(特定行動)も事前に個別具体的な計画を業所管省庁に申請し承認を得る必要があり、制度の利用者と受入責任者に不便かつ重い負担を賦課。追加の手続緩和(一部提出等期限を入国時に、電子申請11月中開始予定)でも抜本解決困難。
2) 現在は、出張者等(外国人)への査証取得義務に加え、日本人含む入国者数の上限(3,500人/日、11月26日から5,000人/日に:同種の「規制」が現存する国はほぼ皆無)及び外務省の海外安全情報(米欧含む160か国が感染症危険レベル3「渡航中止勧告」対象)といった「規制」が別途残されており、上記11月8日施行の緩和効果も十分に活かされないおそれが大きいこと、
3) WHOはもとより米国等と比べても水際規制緩和の対象となるワクチンの範囲が狭く(徐々に拡大しつつあるが)、また、対象外ワクチンの接種は一切考慮されないため、特にアジア諸国等途上国からの入国者(対象外ワクチンの接種率が高い)に対し緩和効果が乏しいこと(上記、別表2参照)、

 この他にも、ワクチン接種証明書への医師の署名義務や陰性結果証明書への検査方法明記義務などが、今後デジタル化等を通じて他国の証明書を活用する際にも障害になる可能性がある。
 この点については、防疫上の要請を損わないという前提の下ではあるが、更なる調和(ハーモナイゼーション)に向けた取組みを改めて求める。