「デジタルワクチンパスポート」導入に関する提言
第72回運輸政策セミナー「ワクチンパスポート・トラベルパスを巡る最新の動向」結果まとめ

2021年7月12日
一般財団法人運輸総合研究所


 新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大を受け、感染の拡大を抑制するため社会経済活動は制約を余儀なくされている。特に、この制約を大きく受けているのが国際的な人的往来である。
 隔離等の防疫措置を求めるなどの条件付きでの国際的な人的往来が再開されているが、日本を含め、検疫手続として入国者に対するPCR等の検査陰性証明の提出要求は既に一般化されている。また、一部の国・地域ではワクチン接種証明の導入やこれに関連する検査証明(抗体等)の提出を求める動きもある。
一方、ワクチン接種にかかるデジタル証明としては、既に米国の一部の州では州独自のデジタル証明書を発行しており、また欧州においても、EUを中心に7月からデジタル健康証明書(EU Digital COVID Certificate)の導入が始まったところである。

 このような状況下、日本政府においては、国際的な人的往来における利用に資するべく、地方自治体においてワクチン接種済証明書を紙により7月下旬から発行することとしており、当該証明書の電子交付は年内目途の開始を検討中である。
しかし、紙による証明書の場合、偽造防止に加え、手続の利用の場面での煩雑さなど検討すべき課題がある。たとえば、コロナ禍以前は平均1.5時間程度であった出発/到着空港での手続時間は、各種証明の提出要求増に伴い旅客1人当りで急増しており、紙証明審査では乗客数がコロナ前と同程度の場合、同じ手続処理に8時間を要するとの試算もある。国際的な人的往来の完全回復には4、5年を要すると予想されているが、手続時間の急増がその足をさらに引っ張るおそれがありうる。

 今般、運輸総合研究所においては、第72回運輸政策セミナーとして、「ワクチンパスポート・トラベルパスを巡る最新の動向」を本年6月25日に開催し、有識者の見解を共有いただいた。この内容を踏まえ、紙でなくアプリ等のICTを活用した、ワクチン接種や検査結果等の証明書、「デジタルワクチンパスポート」の導入に向け、以下について提言する。

※本提言の詳細については、当セミナー参加の講演者個人の見解と必ずしも一致しない部分もある。




1. 「デジタルワクチンパスポート」導入に関する提言 概要

「デジタルワクチンパスポート」導入に関する提言

「ワクチンパスポート」を巡る現状

我が国の「ワクチンパスポート」導入における課題と対応




2. 「デジタルワクチンパスポート」導入に関する提言 詳細

提言① 「デジタルワクチンパスポート」の導入及び有効活用を急ぐ
 ワクチン接種済証明書を紙で発行した場合、簡単に偽造できること、窓口における審査・確認に長時間を要する等の課題がある。また、真正性疑義、項目不足等証明書を巡るトラブルが頻発する可能性がある。
 そこで、証明書確認プロセスのデジタル化によるこれら課題の解決を図るべく、紙でなく、アプリ等のICTを活用したワクチン接種や検査結果等の証明書、「デジタルワクチンパスポート」を導入すべきである。

提言② 「デジタルワクチンパスポート」はまずアウトバウンド(日本人の出国等)だけでも先行して活用する
 社会経済活動の再開を念頭に、ワクチン接種済証明書を国内やインバウンド(外国人入国等)に活用することも含めた一括りの議論が多い。これら国内活用やインバウンド活用に向けた整理、解決には検討すべき課題が多々あり、ビジネス等に不可欠のアウトバウンド(日本人出国等)への導入が遅滞する可能性がある。
まず、国内での活用やインバウンドへの対応とは切り離し、アウトバウンドへ「デジタルワクチンパスポート」を迅速に導入すべきである。

提言③ 政府は 「デジタルワクチンパスポート」の標準化・相互互換性確保を促し、また検査・接種データの内容及び利用に適切に関与する
 「デジタルワクチンパスポート」のプラットフォームを、国主導で開発・導入するとなると、迅速性や柔軟性に欠けることが容易に想定される。他方、現状はアプリに加えプラットフォームも乱立し、相互利用も保証されず利便性に不安を招きかねない。また、ワクチン接種証明やこれに関連する検査証明等の新たな手法が出た際に対応できるようデータの標準化も必要である。開発・導入等は民間の動き(コモンパス、IATAトラベルパス等)に委ね、国はウォレット(アプリ)標準化、マルチ・ウォレット・リーダー導入等の支援等、規格作成や標準化、互換性確保等を支援すべきである。
 また、検査陰性証明・ワクチン接種証明等に関する個人データの真正性や保護も改善途上である。たとえば、個人データは公的データベースに格納し、搭乗時に本人同意の上で、航空会社システムから照会し、真正性等を確認する等、個人データは公的主体が厳格に管理し、移動時の企業や関係機関の利用は必要最低限に抑制するべきである。

提言④ 検疫に係る入国許可、隔離等の要件は、防疫上の要請を損わない範囲で、主要国との調和(ハーモナイゼーション)を進める
 検疫の入国許可要件や隔離要件、これらを審査するための手続(検査方法含む)やフォーマット(書式、様式等)が米欧や近隣諸国と異なる場合がある。また、ワクチン接種証明やこれに関連する検査証明等の新たな手法が出てくることも想定される。「デジタルワクチンパスポート」における検疫に係る入国許可、隔離等の要件は、防疫上の要請を損わない範囲で、主要国(当面は統一性の高い米欧)との制度の調和(ハーモナイゼーション)を行うべきである。