ワクチンパスポート・トラベルパスを巡る最新の動向

  • 運輸政策セミナー

第72回運輸政策セミナー(オンライン開催)

Supported by 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION

日時 2021/6/25(金)10:30~12:30
開催回 第72回
テーマ ワクチンパスポート・トラベルパスを巡る最新の動向
講師 1.特別報告:新型コロナウイルス感染症に関する米国の現状
報告者: 中川 哲宏 ワシントン国際問題研究所次長

2.講演
テーマ(1)パンデミックにおける海外渡航のリスク対策
講 師: 大越 裕文 一般社団法人日本渡航医学会理事

テーマ(2)コモンパス等のデジタル健康証明書の現状
講 師: 藤田 卓仙 世界経済フォーラム第四次産業革命日本センタープロジェクト長
           慶應義塾大学医学部特任准教授

テーマ(3)航空業界の視点から見たデジタル健康証明とその統合的ソリューション
講 師: 藤村 修一 一般財団法人運輸総合研究所客員研究員
           全日本空輸株式会社常勤顧問

3.パネルディスカッションおよび質疑応答
コーディネーター:山内弘隆 一般財団法人運輸総合研究所所長
パネリスト:講演者・報告者

開催概要

新型コロナウィルス感染症のワクチン接種を証明する「ワクチンパスポート」やPCR検査による陰性等を証明する「トラベルパス」については、特に国際間移動時の手続円滑化に大きく資するため、EUの7月1日制度化等欧米で取組が進んでおり、我が国でもワクチンパスポートの政府内検討や大手航空会社参加のトラベルパス実証実験等が行われている。
しかしながら、国内での使用等に関しワクチン未接種者差別につながる等の懸念や、システムの正確性・互換性確保等の課題は内外で残されており、特にワクチン接種や安価・手軽な検査が普及途上にある我が国においては、一般の企業や国民レベルでの情報の共有やオープンな検討・議論が十分になされているとは言えない状況である。
そこで、本セミナーでは、中川次長より米国の最新状況報告を受けるとともに、大越講師よりワクチン・PCR検査と国際間移動の現状等について、藤田講師よりICTを用いた「デジタル健康証明書」の最新状況について、藤村講師より航空業界の視点からの最新の対応と見解についてそれぞれご講演いただき、これらを踏まえ、今後予想される動きやあるべき姿について議論を行った。

今回のセミナーは大学等研究機関、国交省、交通事業者、コンサルタントなど828名の参加者があり、盛会なセミナーとなった。

プログラム

開会挨拶
宿利 正史<br> 運輸総合研究所 会長

宿利 正史
 運輸総合研究所 会長

開会挨拶
特別報告
中川 哲宏<br> ワシントン国際問題研究所 次長<br>「新型コロナウイルス感染症に関する米国の現状」

中川 哲宏
 ワシントン国際問題研究所 次長
「新型コロナウイルス感染症に関する米国の現状」

講演者略歴
講演資料

講演:テーマ1
大越 裕文 <br> 一般社団法人日本渡航医学会理事<br>「パンデミックにおける海外渡航のリスク対策」

大越 裕文 
 一般社団法人日本渡航医学会理事
「パンデミックにおける海外渡航のリスク対策」

講演者略歴
講演資料

講演:テーマ2
藤田 卓仙 <br> 世界経済フォーラム第四次産業革命日本センタープロジェクト長<br> 慶應義塾大学医学部特任准教授<br>「コモンパス等のデジタル健康証明書の現状」<br>

藤田 卓仙 
 世界経済フォーラム第四次産業革命日本センタープロジェクト長
 慶應義塾大学医学部特任准教授
「コモンパス等のデジタル健康証明書の現状」

講演者略歴
講演資料

講演:テーマ3
藤村 修一 <br> 一般財団法人運輸総合研究所客員研究員<br> 全日本空輸株式会社常勤顧問<br>「航空業界の視点から見たデジタル健康証明とその統合的ソリューション」

藤村 修一 
 一般財団法人運輸総合研究所客員研究員
 全日本空輸株式会社常勤顧問
「航空業界の視点から見たデジタル健康証明とその統合的ソリューション」

講演者略歴
講演資料

パネルディスカッション

<コーディネーター>
山内 弘隆 運輸総合研究所 所長



<パネリスト>
講演者・報告者

当日の結果

ご講演・パネルディスカッションの概要は以下の通りです。


1.特別報告 中川 哲宏:ワシントン国際問題研究所次長
・冬季(111月)の感染急拡大の後、自然免疫の獲得とワクチンの普及により、新規感染者数・死者数は大きく減少し、今日までその傾向が継続している。
・これに伴い、5~6月頃から全米各州で経済活動に関する規制が撤廃され、人の移動も活発になってきている(コロナ前の7~8割程度まで回復しているイメージ)。
・ワクチンは、政府の努力もあり早いスピードで普及したが、若年層を中心に頭打ち状態となっている(成人の7割程度)。
・ワクチン接種者には記録カードが交付されるが、提示する機会はほとんどない(=ワクチン接種者か否かで峻別される場面がない)。ただし、就労・就学の条件とする動きもあり、今後あらためて議論となる可能性がある。
・ウイルス検査は、官民を挙げた様々な工夫により、世界最大規模の能力を有するに至るが、感染縮小とワクチン普及に伴い、件数は減少している。なお、「陰性証明」については、国外・州外の渡航や医療機関の受診等一定の移動・活動に要件とされることがある。


2.講演(1)大越 裕文:一般社団法人日本渡航医学会 理事
COVID-19は急速に世界中に流行拡大した。その要因として、18年前のSARS12年前の新型インフルエンザの発生時に比べて、海外渡航者が著しく増加したことがあげられる。そこで、懸念されるのが、移動中の感染であるが、公共交通機関での二次感染率は極めて低い。これはおそらく、機内・車内の換気や座席間隔の確保、乗客へのマスク着用の効果であろう。
・流行が拡大した際には、3密対策や自粛、ロックダウンなどの対策が取られるが、これらが長期間にわたると、経済・社会生活に大きな負担を与えることになる。また、生活習慣病・精神疾患など健康面でも負の影響も発生する。
・そこで、期待されているのがワクチンである。ワクチン接種の効果は、重症化予防、発症予防、感染予防である。接種率が上がり、免疫を持った人が増えると、集団免疫またはコクーニング(免疫獲得者が非獲得者を繭のように守る状況)という状態となり、感染は収束する。理論上、COVID-19 の場合は約70%の人がワクチン接種すると、集団免疫が獲得できると考えられている。ただし、変異株に対しては、もう少し高い接種率が必要となるであろう。
・ワクチン接種が進んでいる欧州では、7月からデジタルのワクチン証明書を導入することとしており、アメリカでは、ワクチン接種完了者への出発前検査や自主隔離の免除等の優遇政策が既に取られている。日本政府も、7月中には書面での証明書交付を進めたいとしている。
・今後の課題としては、ワクチン接種率の向上(対象年齢の拡大含む)、接種証明書のデジタル化、ワクチン接種者に対する制限緩和策などが挙げられる。特にデジタル証明化により、紛失・不携帯の防止、偽造防止、手続の効率化、予防接種記録や各種書類への活用が期待される。


3.講演(2)藤田 卓仙:世界経済フォーラム第四次産業革命日本センタープロジェクト長
             慶應義塾大学医学部特任准教授
・スイスに拠点を置くThe Commons ProjectTCP)は、健康管理アプリCommon Healthとそれをベースにしたデジタル証明アプリCommon Passの開発を進め、渡航者のPCR検査結果やワクチン接種記録等のデジタル健康証明書と渡航先の出入国条件を照合し、入国可能かを判定、表示されるQRコードにより出入国が可能となる仕組みを開発した。
・また、TCPと世界経済フォーラムとが連携しCommon Trust Networkという枠組を推進しており、現在32か国が参加し、Common Pass等のアプリの使用により、感染対策をした渡航者の出入国の円滑化を行うための共通ルール化を推進している。Common Passについては、昨年東アフリカ共同体においてEAC Passとして実証実験が行われた他、20213月以降、JALANAの協力により日本からの米国便・シンガポール便を対象に実証実験が行われ、Common Passで表示したQRコードを利用して相手国において入国手続が進められることを確認した。
・一方、他国のデジタル健康証明書の状況を見ると、EUではDigital Green PassEU Digital COVID Certificate)、英国ではNHSアプリの利用が進んでいるが、イスラエルではワクチンパスポートを導入後、感染者数の抑え込みが進んだ段階で廃止したり、米国では州毎に取組状況が異なったりするなど、各国で異なっている。
・今後の課題としては、各国の最新の出入国条件の反映、航空券の発券データとの接続、日本をはじめ紙の陰性証明書を発行する国への対応、非デジタルデバイス保有者等への配慮等が挙げられる。さらに、こうした取組は2国間の合意に基づく相互運用であるため、世界的な取組拡大に向けては、国際機関による標準化も必要である。


4.講演(3)藤村 修一:一般財団法人運輸総合研究所客員研究員
             全日本空輸株式会社常勤顧問
新型コロナウイルス感染症が航空業界に与える影響は極めて甚大であり、航空需要がコロナ前の水準に回復するには4~5年要するとの予測もある。一方、出発空港および到着空港における諸手続きに要する時間は、ワクチン接種証明および検査陰性証明などの確認が増えるため、これまで通り紙の証明書による審査を前提とすると、コロナ前の1.5時間から約8時間に大幅に増加し空港が機能不全に陥るとの試算もある。したがって、証明書類のデジタル化は喫緊の課題であるといえよう。
証明書類のデジタル化にあたって以下の課題も明らかになってきている。
①デジタル・ヘルス・プラットフォームが乱立しその相互連携性が欠如していること
②ワクチン接種完了者に対する出入国制限および検疫措置が定められていないこと
③検査検体採取方法が国際的に統一されていないこと
④ワクチン接種証明などの個人情報を保護する手法が確立されていないこと
⑤入国審査時の証明書確認プロセスをデジタル化する手法が確立されていないこと
これらの課題を解決し、ウィズ・コロナの時代においても「安全・簡単・便利」な空の旅を提供することがいま求められている。


5.パネルディスカッション・質疑応答
山内所長をコーディネーターとして、藤村客員研究員から問題提起された5つの課題を中心に議論しました。主なやり取りは以下の通りです。

<ワクチン接種完了者に対する出入国制限および検疫措置が定められていないことついて>
・米国やイスラエルではワクチン接種当初から制限緩和を想定し、色々なデータを活用することで緩和を進めたが、残念ながら日本は遅れている。また国によって出入国制限の状況が異なることも一因であり、日本はオリンピック・パラリンピックがあるので相当厳しいが、終われば議論がしやすくなるのではないかと思われる。

<検査検体採取方法が国際的に統一されていないことについて>
・日本は、診断することを主眼に置いているために、ウイルス量が少ないときに偽陰性となる検査方法は除外している。今後は、他者に感染する危険がある感染者かどうかという視点で検査方法を考えるべきであろう。

<ワクチン接種証明などの個人情報を保護する手法が確立されていないことについて>
GDPR等に対応するためにも、スマートフォン上で本人が許可したデータのみを持たせることが標準となるべきであると考える。

<デジタル・ヘルス・プラットフォームが乱立しその相互連携性が欠如していることについて>
・ユーザーや航空会社の利便性を考慮すると相互連携は必須であるが課題も多い。
・共通化の動きも幾つかあり、完全に統一することは難しいが2つくらいに集約できるとよい。公的な国際機関による標準化(デジュールスタンダード)を目指す動きもあり、是非一緒に取り組んでいきたい。
・各アライアンス間では競合ではなく協調することが望ましい。入国審査における証明書確認のプロセスとして、シンガポールのように入国側のシステムがMulti Wallet対応で色々なQRコードが読み取れることが望ましいと考える。


次に視聴者の方々からの質問について議論しました。主なやり取りは以下の通りです。


EUでは陰性証明書、接種証明書、感染履歴証明書の3つがあるが、これらを同等に扱わない方が良いとの意見も聞く。どう異なるのか。>
PCR検査による陰性証明書は検査時点での証明でしかなく、フライト終了後には失効する。一方ワクチン接種は一般に90%以上の予防効果が認められることから、予防接種証明書は半年程度有効となると考えられている。感染履歴証明書については、米国では過去3か月以内に受けた検査で陽性であった場合としている。
WHO3つの証明書の取り扱いに対するガイドラインが検討中であり、今後決定されると考えている。

<ある国で発行されたワクチンパスポートが、他国で通用するかどうかは、相手国政府が認めることが必要と考える。一方で、世界的な共通認証を進めるような動きはあるのか。>
・本件は本来、二国間交渉で決まるものであるが、WHOも国際的な統一ガイドラインを出したいと考えているものの、非常に苦労している。このため、世界経済フォーラムでの連携や、また、各国の首脳レベルの会議、各国当局レベル間での複数の調整が必要と考えている。

<航空に限らず、社会の成り立ちをパンデミック前の水準に回復していくために何か考えはあるか。>
・やはり、医療の逼迫の改善と、高齢者の集団免疫獲得がまずは重要である。また、面会時のワクチンパスポートの運用なども進めていくべきと考える。
・これに関しては、経済界のみならず、医療界を含め、様々な角度から意見を出し合うことが大事である。また、現場からのボトムアップだけでなく、トップダウン、海外情勢の共有や国際比較などを通じ、日本政府も含めて動いていけると良い。


6.全体講評 山内弘隆:一般財団法人運輸総合研究所所長
 本日は内容的に広く、深い情報をご提供できたとものと考える。
 現在の世界の状況、経済も社会もそうだが、航空会社だけの問題ではなく、こういう異常な状態をいかに早く終わらせるかが重要である。今回の未曽有の事態に対して、移動の制限が何よりも大きな問題を課している。自由に移動できるとか、自由に行動できるということをいかに取り戻すかということである。本日いろいろ議論した中ではまだまだ課題が多いが、スピード感を持って進めていかなければならない、そのために我々は何ができるか、そして政治に何を求めるかという問題であることを痛感した。


本開催報告は主催者の責任でまとめています。