「高齢者等がマイカーに替えて利用できる
      自由度・利便性の高い移動手段を考える」
~高齢者等のウェルビーイングを実現するための
      移動手段となり得る『AIデマンド交通』~

  • その他シンポジウム等
  • 総合交通、幹線交通、都市交通
  • 新技術・イノベーション

デマンド交通シンポジウム

Supported by 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION

日時 2023/6/7(水)13:30~17:00
会場・開催形式 ベルサール御成門駅前 (及びオンライン配信(Zoomウェビナー))
テーマ・
プログラム
日時:2023年6月7日(水) 13:30~17:00
場所:ベルサール御成門駅前及びオンライン配信(Zoomウェビナー)
    
【開会挨拶】
  宿利 正史  運輸総合研究所 会長
    
【基調講演】
  鶴田 浩久  国土交通省 大臣官房 公共交通・物流政策審議官
  鎌田  実  東京大学名誉教授、一般財団法人日本自動車研究所・代表理事 研究所長
    
【提言報告】
  春名 史久  運輸総合研究所 主任研究員
    
【パネルディスカッション】
(コーディネーター)
  鎌田  実  東京大学名誉教授、一般財団法人日本自動車研究所・代表理事 研究所長
(パネリスト)
  鶴田 浩久  国土交通省 大臣官房 公共交通・物流政策審議官
  木多 央信  岡山県久米南町 税務住民課 主任
  藤岡 健裕  ネクスト・モビリティ株式会社 代表取締役 副社長 兼 CSO
  山口松之進  郡山観光交通株式会社 代表取締役
  河崎 民子  特定非営利活動法人全国移動サービスネットワーク 副理事長
  森  雅志  前 富山市長、富山大学 客員教授
  吉田  樹  福島大学経済経営学類 准教授、前橋工科大学学術研究院 特任准教授
    
【閉会挨拶】
  佐藤 善信  運輸総合研究所 理事長

開催概要

 高齢者等の移動を取り巻く状況については、現状、十分な状況とは言えない。マイカーの利用には事故のリスクを伴うが、移動が不便になることを考えるとマイカーを手放せず、また、マイカーが利用できない場合には、都市部など利便性の高い地域でなければ移動手段の確保が困難である。
 上記問題意識の下、高齢者等の移動手段のあるべき姿の検討のため、2021年11月に「高齢者等の移動手段確保方策検討委員会」を設けた。同検討委員会において、マイカー運転による事故を減少するため、マイカーを運転している高齢者等の「マイカー所有からサービス利用への転換」を掲げ、その方策として、マイカー運転の自由度・利便性に近い移動手段になり得るものとして「AIシステムを用いたデマンド乗合運行」を想定、そのあり方を検討したところである。
 本シンポジウムでは、AIデマンド交通に関連する知見を有する有識者や事業者の方々にお集まりいただき、AIデマンド交通がマイカー運転の自由度・利便性に近い移動手段として機能を発揮するにあたっての今後の展望等について、議論を深めた。

主なSDGs関連項目

プログラム

開会挨拶
宿利 正史<br> 運輸総合研究所 会長

宿利 正史
 運輸総合研究所 会長

開会挨拶

基調講演①
鶴田 浩久<br> 国土交通省 大臣官房 公共交通・物流政策審議官

鶴田 浩久
 国土交通省 大臣官房 公共交通・物流政策審議官

講演者略歴
講演資料

基調講演②
鎌田 実<br> 東京大学名誉教授、一般財団法人日本自動車研究所・代表理事 研究所長

鎌田 実
 東京大学名誉教授、一般財団法人日本自動車研究所・代表理事 研究所長

講演者略歴
講演資料

提言報告
春名 史久<br> 運輸総合研究所 主任研究員

春名 史久
 運輸総合研究所 主任研究員

講演者略歴
講演資料

.

パネルディスカッション及び質疑応答

        パネルディスカッション資料

コーディネーター
鎌田 実<br> 東京大学名誉教授、一般財団法人日本自動車研究所・代表理事 研究所長

鎌田 実
 東京大学名誉教授、一般財団法人日本自動車研究所・代表理事 研究所長

パネリスト
鶴田 浩久<br> 国土交通省 大臣官房 公共交通・物流政策審議官

鶴田 浩久
 国土交通省 大臣官房 公共交通・物流政策審議官

パネリスト
木多 央信<br> 岡山県久米南町 税務住民課 主任

木多 央信
 岡山県久米南町 税務住民課 主任

講演者略歴
講演資料

パネリスト
藤岡 健裕<br> ネクスト・モビリティ株式会社 代表取締役 副社長 兼 CSO

藤岡 健裕
 ネクスト・モビリティ株式会社 代表取締役 副社長 兼 CSO

講演者略歴
講演資料

パネリスト
山口 松之進<br> 郡山観光交通株式会社 代表取締役

山口 松之進
 郡山観光交通株式会社 代表取締役

講演者略歴
講演資料

パネリスト
河崎 民子<br> 特定非営利活動法人全国移動サービスネットワーク 副理事長

河崎 民子
 特定非営利活動法人全国移動サービスネットワーク 副理事長

講演者略歴
講演資料

パネリスト
森 雅志<br> 前 富山市長、富山大学 客員教授

森 雅志
 前 富山市長、富山大学 客員教授

講演者略歴

パネリスト
吉田 樹<br> 福島大学経済経営学類 准教授、前橋工科大学学術研究院 特任准教授

吉田 樹
 福島大学経済経営学類 准教授、前橋工科大学学術研究院 特任准教授

講演者略歴
講演資料

閉会挨拶
佐藤 善信<br> 運輸総合研究所 理事長

佐藤 善信
 運輸総合研究所 理事長

閉会挨拶
閉会挨拶資料

当日の結果

1.基調講演①
鶴田 浩久  国土交通省 大臣官房 公共交通・物流政策審議官

 地域の関係者の連携・協働(共創)を通じ、利便性・持続可能性・生産性の高い地域公共交通ネットワークへの「リ・デザイン」(再構築)を進めるための「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律等の一部を改正する法律」が、本年4月28日に成立した。そこに至る経緯、改正内容、それを支える予算の概要、そして今後の方向性についてお話しする。
 まず、地域公共交通の現状だが、人口減少等による⾧期的な利用者の落ち込みに加え、コロナ禍の直撃により、地域交通を取り巻く状況は年々悪化している。特に一部のローカル鉄道は、大量輸送機関としての特性が十分に発揮できない状況である。
 こういう状況を踏まえ、地域公共交通の「リ・デザイン」を進めるため、法改正が行われた。改正内容としては、「地域の関係者の連携と協働の促進【地域交通法】」、「ローカル鉄道の再構築に関する仕組みの創設・拡充【地域交通法】」、「バス・タクシー等地域交通の再構築に関する仕組みの拡充【地域交通法】」、「鉄道・タクシーにおける協議運賃制度の創設【鉄道事業法・道路運送法】」の大きく4点である。今回の法改正では、法律とセットで財政支援を大幅に拡充するというのが特徴であり、R5年度の地域公共交通関係予算は、コロナ禍であったR3、R4年度平均の予算から1.7倍、コロナ禍の前の平均と比較すると3.5倍としている。例えば、社会資本整備総合交付金については、対象として「地域公共交通再構築」を追加した。鉄道やバスの整備をインフラとして行う自治体を国も応援しようというものである。
 最後に、今後に向けてだが、「ラストワンマイル・モビリティ/自動車DX/GXに関する検討会」、「都市計画基本問題小委員会」、「国土審議会 計画部会」、「デジタル田園都市国家構想実現会議」等様々な所で、地域公共交通の「リ・デザイン」に向けた検討が進められている。また、「交通政策審議会 地域公共交通部会」では、地域公共交通の利便性・持続可能性・生産性をさらに高めるため、中長期的観点から、財源をはじめ、更なる課題も整理をしつつあるところで、「最終取りまとめ」の6月中公表に向けて現在整理中である。


2.基調講演②
鎌田  実  東京大学名誉教授、一般財団法人日本自動車研究所・代表理事 研究所長

 2017年頃に高齢ドライバーの事故が多発し、関係閣僚会議が開かれ、国交省や警察庁等で対策がなされたが、事故の撲滅には至っていないのが現状。不安を感じつつもマイカー運転を継続している高齢ドライバーの何割かでも、公共交通側に引き寄せられないかというのがそもそもの議論のスタートであるが、マイカーの利便性を享受している人たちに、公共交通を使ってと言っても、その行動変容はなかなか厳しい。
 一方で、カーボンニュートラルへの動きがある。日本も2050年カーボンニュートラルを宣言したが、BEV(バッテリー電動車)の価格はICエンジン車の倍以上、カーボンフリー燃料の価格はガソリンの3倍以上であり、今後の車の維持費は倍くらいになっていくことを覚悟しないといけない。その結果、マイカーを維持できなくなる人が続出する可能性もあり、公共交通、モビリティサービスを充実させて持続性のあるものにしておく必要がある。
 このような背景のもと、今回の運輸総合研究所でのプロジェクトがあり、確実にマイカー維持が困難になっていく中、モビリティサービスの充実が受け皿になっていく流れを作りたい。本プロジェクトでは、地域特性を考慮した新たなモビリティサービスの展開イメージを示しているが、これは目指すべき方向性を示唆したに過ぎない。市民の行動変容を求めるものなので、利用者目線での議論を深める必要があり、市民が自分事として将来のモビリティ,地域のまちづくりに関心を持つようにしていくことが重要である。


3.提言報告
春名 史久  運輸総合研究所 主任研究員

 「高齢者等の移動手段確保方策検討委員会」では、高齢ドライバーの交通死亡事故が多発する現状の改善のためには、マイカーを運転しなくても満足に移動できるような受け皿として、「マイカー運転の自由度・利便性に近い移動手段」を確保するべき、ということに焦点化して検討したが、具体的には、AIデマンド乗合運行、定額乗り放題制の料金プランを採用することで、マイカーに近い自由度・利便性を確保することを想定した。
 検討委員会では、マイカー運転の自由度・利便性に近い移動手段サービス(新たなモビリティサービス)の具体的な検討に資するため、福岡市壱岐南地区の「のるーと」、郡山市安積町の「ヤマグチ君」、岡山県久米南町の「カッピー乗合号」について事例調査を行った上で、そこで得たデータ・知見を用いて、「都市近郊部の住宅地」と「過疎地域」を対象に簡易シミュレーションを実施した。さらに、事例調査や簡易シミュレーションを踏まえ、「新たなモビリティサービス」の実現に向けて今後必要となる施策等を示した。
 この検討委員会においては、高齢ドライバー等が安心してマイカーを手放せるようになり得るだけの自由度・利便性をAIデマンド乗合運行が有するにはどうすればよいか、との問題意識で検討を進めた。今後、実際に、このAIデマンド乗合運行がマイカーを手放した先の受け皿となるために必要となることを具体的に検討していく必要がある。


4パネルディスカッション
コーディネーター:
 鎌田  実  東京大学名誉教授、一般財団法人日本自動車研究所・代表理事 研究所長
パネリスト:
 鶴田 浩久 国土交通省 大臣官房 公共交通・物流政策審議官
 木多 央信 岡山県久米南町 税務住民課 主任
 藤岡 健裕 ネクスト・モビリティ株式会社 代表取締役 副社長 兼 CSO
 山口松之進 郡山観光交通株式会社 代表取締役
 河崎 民子 特定非営利活動法人全国移動サービスネットワーク 副理事長
 森  雅志 前 富山市長、富山大学 客員教授
 吉田  樹 福島大学経済経営学類 准教授、前橋工科大学学術研究院 特任准教授


■取組紹介①
木多 央信  「岡山県久米南町の事例紹介と自己紹介」

 岡山県久米南町は、人口4,500人程度で高齢化率が45%を超え、また、町の大きさは縦横それぞれ10キロ程度で、広い範囲に低い密度で人が住んでいる。
 2013年当時はスクールバス兼コミュニティバスがあるだけで、民間路線バスは全くなく、タクシー事業者もいなかった。元々あったバスは、利用しづらい状況であり、事前予約制、定時運行のデマンド交通の導入を検討、運行を開始した。一定の利用もあり、満足度も向上していたが、便によって利用が集中し、利用の多い時間帯に合わせて車両台数を用意すると費用がかかる事や、定時運行のため、利用したい時間帯に便がないなどの課題が発生。
 そこで、利便性・効率性向上のため、トヨタモビリティ基金の助成を受け、AIを活用した予約配車システムを導入し、これにより、利用したい時に町内どこへでも行けるようになった。便が限られていたため、特定時間帯の利用が集中していたのが、事前にアンケート等で確認をしていたとおり、どの時間でも選べられるようになったことで、それが緩和され、結果、必要車両台数も、毎日6台のところ、最大5台、曜日によって更に少なくすることが可能となった。
 利用者数も年々伸び、システム導入前後で比較すると2.1倍に増加、また、一利用あたりの経費も大幅に改善され、さらに、乗合率も年々増加。AIシステムを導入するだけで、利用増・経費削減の救世主になるのかという質問を頂くが、本町にとっては、直面する状況とマッチしたのでそれが救世主になり得たが、あくまでもツールの一つであり、システム導入も含め、適切な運行形態や経費の見直しを図ることによって初めて改善を実現できる。また、本町の場合、事業者がいなかったからできたのではないか、と聞かれるが、これに対してはそのとおりであり、事業者がいない、という課題に対して取り組んできた結果、今の形になった。


■取組紹介②
藤岡 健裕  「AI活用型オンデマンドバスへの取り組みについて」

 高齢者移動の課題も含めた路線維持の問題と交通事業者における乗務員不足、という二大課題に対して、モビリティサービスという形で地域に貢献することを目的に、AI活用型オンデマンドバスを提供する新たな事業を開始。まずは自主運行することにより検証し、かつ、オペレーションレベルをブラッシュアップした上で、2020年から全国的な提供を開始した。
 当社の最大の特徴は、システム屋ではなく、西日本鉄道の他、様々な交通事業者出身の方が集まり、「どういう交通があるべきなのか」ということを、交通事業者の目線で自治体に寄り添って提供している所にある。
 現在、全国13ヶ所で展開。加えて、10ヶ所程立ち上げに向けて進んでおり、年度内に20数か所になる予定。活用のパターンも増えており、壱岐南もそうだが、最も多いのは郊外の住宅地。その他、都市型や、市の全域100~200平方キロの広大なエリアなど、幅広く展開。
 台当たり人数が多ければ多いほど経済効率が良くなるが、現在台あたり・日当たりでは、サイトによって異なるが、平均30~40人程度で推移している。利用者をどう増やすかということについて、サービスを使ってもらうステージや利用定着を促すステージ等、各ステージにおいて打ち手が異なるため、エリア対象人口、サービス登録者数、初回利用者数、直近利用者数、1人乗車予約回数等の数字を見た上で、それぞれのステージにおいて、どの段階に到達しているのかを見極め、打ち手を変えていくことが利用客増に繋げていく上で重要。
 2~3年継続して、安定的に走っている車両・サービスがないと、高齢者のマイカー転換が図られないため、重要なことはサービスの継続であり、そのためには、事業性の担保、利便性が必要。そして、何より、運行開始はスタート地点であり、そこから、いかにマーケティングして、お客さんに乗っていただくか、ということが一番重要。


■取組紹介③
山口松之進  「定額乗り放題サービス「ヤマグチ君」~交通インフラを超えた地域サポート~」

 当社は、タクシーだけでなく介護、バス、旅行等、グループ経営を行っている。定額タクシー事業は今年5年目。安積町内4~5キロ四方を1万円、郡山市内15キロから20キロ四方を3万円で乗り放題とし、エリアを超えたところは回数券で利用できる。現在は電話で募集・予約を行っており、関連会社の旅行会社から郡山観光交通へ委託をする形でタクシーを運行している。
 累計会員数は本年3月までで累計116名となっており、80代が一番多い。1利用当たりのタクシーメーターとの差額率は、定額安積町、定額市内、回数券で価格と範囲は異なるものの、ともに約55%に収まっていることが特徴的。また、定額なので、「近くても全然問題ない」と声かけをし、500メーター以内が8.3%1キロ以内が25%の利用。
 利用目的は、生活に必要な場所が多いが、趣味、温泉等の外出も多く、回数を重ねるほど、楽しみのための外出の比率が高くなる傾向がある。
 重要なのは、タクシーが安くなるのではなく、タクシー以外の需要を、このタクシーを使ったサービスに転換すること、新規需要を喚起することであるが、サービス利用者へのアンケートによると、ヤマグチ君を利用する以前、80%が、自家用車、家族、路線バスを利用しており、タクシーは9%となっていて、ヤマグチ君で新しい需要を喚起できている、と自信を深めている。
 定額タクシーはいきなり生まれたのではなく、介護タクシー事業、高齢者を連れ出す送迎付きの旅行ビジネスと展開し、その延長線上に、より近いところの外出を旅のように設定していく、ということでこのサービスを実施した。
 商品名を「ヤマグチ君」としたのは、「あなたのためにお抱え運転手が来ますよ」というメッセージ。「免許を捨てて車を捨てたら人生が豊かになった。」そんなシナリオに向けて、我々は取り組んでいる。


■ディスカッション

≪ラウンド1:利用者サイドからみたデマンド交通≫
・先行事例を模倣して、やった気になっている地域がないか。交通単体で採算を取るのではなく、地域全体として黒字となればいいが、とはいえ、コミバス100円、デマンド300円、と自治体がコミットするからこの相場、となってしまうと先に進まない。今日のセミナーを一つのきっかけに、デマンド交通の導入についても、リ・デザインしていくことが必要。
・家計調査の数字から明らかなように、小規模自治体、地方に住むと、車の維持にお金がかかるが、それでは若い世代は住んでくれないし、出ていってしまう。都市や地域の生き残り戦略として、交通、そしてデマンド交通をどう位置づけるのか、考えていくべき。(以上、吉田講師)
・利用者は10倍になるが車の台数が5倍で済めば、効率良く回るものが目指せるかもしれない。それぐらいをゴールに設定して、ディスカッションができればよい。(鎌田コーディネーター)
・富山市で「お出かけ定期券」、というICカードを配っている。どんな遠くから乗ってきても中心商店街で降りると100円、とお得感があり、交通事業者に年間で1億円超の運賃が入ってくるが、富山市はこの事業に1億円の補助金を出している。調査によって、これを使って頻繁に外出する人の医療費が低く抑えられている、というデータが出ているが、外部不経済の低減等をデータで示していくことにより、公費負担の妥当性の議論もできる。(森講師)
・介護のお宅に行くと、近所、家族との付き合いがない、1人で家にいる、という状況。外出したい、という気持ちが消え、外出することすら考えなくなる。定額乗り放題という仕組の先に楽しみがあってこそ、交通は生きる。例えば、宅配で物が届いても物を選んではおらず、スーパーに行って物を選び、色を見て、匂いを嗅ぐなど、外に出ると五感の刺激がある。(山口講師)
・どんなに便利で良い交通であっても、継続的に、日常の足として使える、という安心感がないと移行されない。そのためには自治体として、その地域に対してその交通をどれくらいの期間で運用していくかといった、大きな計画を策定すべき。
・高齢者にとって電話は分かりやすいが、電話オペレーターを四六時中置くとコストがかかるので避けたい。宗像では、最初、アプリの利用率が5割ぐらいだったのだが、今8割まで上がっている。オペレーターがいない土日、連休で、このサービスを使うのであればアプリに登録したらどうか、とオペレーターが利用者に話をし、また、アプリの登録に当たっては、自治体が地道に説明会を開いて使い方を教えている。3ヶ月、半年といった実証実験ではそのアプリの利用率にならないが、12年と継続すると上がっていく。(以上、藤岡講師)
・過疎地域の場合、分母が少ないので、利用の仕方に偏りがあり、毎日56回乗っている人もいれば、週2回買い物に行く、という人がいる。定額の価格を設定する場合、その額をどこに設定するべきかが難しい。午後の余力のある時間帯のみ使用が可能な定額制等、時間帯や曜日を区切って、という形はあり得る。(木多講師)
・過疎地域に限らず、使われすぎる場合と、使われ過ぎることを念頭に置いた高価格のため、あまり使われない場合がある。例えば、月に最大100回使用可能としつつ、数万円とし、一方、月に20回で、2000~3000円とするなどの設定により、課題がクリアできるところもあると思う。(鎌田コーディネーター)
・マイカーでは知らないうちにお金を払っていて、まるでガソリン代だけ払って乗っているような「錯覚」を実現しており、そこをどう、交通サービスでも実現してお金を回せるか、ということが肝と思う。(鶴田講師)

≪ラウンド2:供給サイドからみた成立性≫
・利用者サイドからのニーズに合った形でモビリティサービスが提供できると、マイカーから転換量は今と比べ物にならない量になると思われる。それに対し、車何台で対応したらいいか、ドライバーは確保できるか、車の台数が増えると効率的に相乗りが可能か等、色々な観点で供給サイドからお話いただきたい。(鎌田コーディネーター)
・利用者が10倍になったときに台数を5倍で収められるのか、というのがタクシー会社によるサブスクがビジネスとして成り立つかどうかのラインになる。これを今はアナログでやっているので10倍の量をさばくためには、IT化、運行上の効率化が必要。(山口講師)
・モビリティは、地域において、例えば、医療、福祉、生活の移動、QOL等をそれぞれにおいて高めるための移動の手段でしかない。自治体による交通事業は、それ単独での採算ではなくて、いかに周辺の分野における波及効果を及ぼし、それを定量化するかが重要な視点となる。自治体全体が縦割りであるため、例えば、乗合事業、福祉、民間企業の送迎、個人の送迎といった車両が全部個別に保有され、稼働率が低くなっているが、横串的なファンクションを担う組織が、交通と連携しながら、共創を図るべき。(藤岡講師)
・基本的に過疎地域で黒字化は非常に考えにくく、その中でいかに効率化しつつ利便性を上げていくかで今までやってきた。利用者が増えすぎてパンクするというときに、過疎地域の場合、ドライバー等の人材確保は非常に困難であるため、需要の分散化に向け、利用時間が集中しないよう利用者にオフピーク時間への変更を提案したり、サロンやデイサービス等のサービス提供時間の変更等をお願いしたりしている。(木多講師)
・デマンド交通では規模の経済性での勝負は難しく、定路線的なサービスと面的なサービスのシームレス化が、システム側・ソフト側で解決してくれる可能性はある。安積町は、平均トリップ長が2キロ、大体4キロ四方ぐらいの中、用足しができるので、会員数も増やすことができたが、例えば、20キロ四方での運行において、利用者が何倍にもなる、という場合、車両の効率性は高くならないので、郡山と同じようにすることは厳しい。東北だと、最近は高齢者人口も減り始め、高校統廃合だけでなく、病院の統廃合もあり、通院が遠距離となると、AIオンデマンドだけでサービスがカバーできるわけではなく、路線的なサービスとの合わせ技まで視野を広げる必要がある。モビリティ・アズ・ア・サービスとして、複数の手段を一つのサービスに見せることが肝になってくるが、IT技術の進化でそれが進むと良い。(吉田講師)
・民業として成立しないところの移動、特に高齢者の移動をどうするかというときに、どこまで公費を投入することが妥当なのか、例えば、外出が増えると、民間が投資を活発化させ、結果、地方交付税との相殺はあるが、固定資産税や都市計画税のリターンが大きくなってくるので、こういうものを財源としながら、交通政策、なかんずく、中山間地の過疎バス等に充てていくんだ、ということを現場でしっかり話すことが大事。(森講師)
・スクールバスや病院バス等のサービスにも税金が投入されているわけだが、それを同じテーブルに載せてみて、トータルの行政の負担はいくらなのか、そのお金があったら何ができるか、それを減らしてもよりよいサービスが提供できるか、ということを協議ができるようになると良い。先程の分散化の話にも繋がるが、例えばデイケア、病院、学校等、大体時間が決まっているが、お互い時間をずらせば、1台の車で二つの役割ができるようになる、ということまで含め、話し合えるとよい。(鶴田講師)
・分野ごとの稼働、不稼働車両を洗い出してミックスさせるという取り組みは進んでいる。当社の事例でも、元々、予約型の乗合タクシーとスクールバスが別々の車両として走っていたのをAIデマンドで統合している地域もあるが、それにより、全体として稼働台数を減らして、率を引き上げることが可能。全ての車両、全ての移動をAIがカバーすることは不必要だと思うが、例えば人流調査を自治体が全域で実施し、把握した人流データを基に、ここは括れる、括れない部分に関してはセーフティーネットでカバーする、といったことを検討することによって、全体としての稼働率を引き上げ、分野間の統合ができると思う。(藤岡講師)
・高齢者が外出し、交流をして食まで確保できると、介護予防や健康維持に関して大変効果があると思っている。しかし、地域が主体でやっているサロンや体操教室の送迎、乗り合って買い物に行くといった現場では、どの写真を見ても圧倒的に女性が多い。男性の方はドライバーとして支える側は手を挙げてくるが、自分がサービスを利用するところではほとんど出てこない。本日紹介いただいた事例では、男女比は女性の利用が多く、男性3割くらいとのことであるが、もっと男性の利用を増やすことが必要。(河崎講師)
・民業圧迫や自治体がやるべきか民間がやるべきか、という議論があるが、私は民間代表なので、まず自分で利益を出す努力をしていることをお伝えしたい。ただタクシー事業は大変厳しいし、民間の多くの中小企業も厳しい状況であり、自治体にはそこを支えてほしい。それはお金を入れるだけではなく、告知協力だけでも全然違う。自治体は、民間がやっているから関係ない、ではなく、地域の民間企業の取り組みに関心を持っていただき、何を自治体がやるべきか、民間の努力をどう支えるのか、ということが必要。(山口講師)

≪ラウンド3:今後のアクション≫
・モビリティサービスの実現に向けて、また、もう少し長期的な視点で、当面、どのようにしていったらよいのか、また自分たちはこうしていく、という決意表明のコメントを1人ずついただいて、ディスカッションのまとめにしたい。(鎌田コーディネーター)
・短期的と中長期の二層の戦略が必要。例えば、今、目の前にいる高齢者に、どんな移動手段が欲しいか、という話をしても、なかなか想像ができないが、山口社長の場合にはコンシェルジュがそういうところを後押ししている。短期的にはそういったアプローチが重要だが、利用者が増えるとオペレーション自体が大変になるので、信頼感を持たせるところは引き続き人がやり、ある程度、平準化できるオペレーションはシステマティックに行うと良い。一方、中長期としては、街をどのように楽しい空間とし、そこにモビリティや新技術をどうなじませていけば良いのか、考えていく必要がある。(吉田講師)
62の中核市全部の令和3年度の一般会計の当初予算における、交通に使っている予算額を調べたことがある。ソフトだけを切り取り、一覧にしてみると自治体によって全く違い、QOLを上げるために交通を大きく予算化している自治体と、そうした予算を全く使っていない自治体がある。人に人格があるように、都市格というものがあるとすると、交通がしっかりしているところは格が高い街であり、それが人口力・産業力にもなってくると思う。多くの自治体関係者の方には、そういう観点でも考えてもらいたい。(森講師)
・人生100年という長寿社会の中で、健康と介護予防、とりわけ食の問題、交流、生きがい作りが求められていると考える。足は確保できても行きたいところがなく、高齢者があまり外出しない傾向があるが、出かけたくなる仕組みや仕掛けが必要であり、特に男性は11食バランスのとれた食事ができるカフェなど、食事と交流、拠点の組み合わせが必要。高齢者などが出かける、健康を維持し、交流でき、孤立化を防ぐような、誰も取り残さない地域社会を作っていくことが大事。団塊ジュニアが50歳ぐらいになっており、そこもこれから大きなボランティア集団として期待ができるので、ますます色々な方法を模索していきたい。(河崎講師)
・物流分野において、トラックのドライバーが不足する中、積載効率を上げるために、何十台のトラックをどのように配車すると一番少ない人数でできるか、ということをビジネスとして取り組んでいる方も沢山いるが、人力で積付・配車計画を作ると2時間かかるところ、量子コンピュータを使うと処理スピードは約200倍である、という話がある。そういったビジネス領域で進化してくる技術も、こういう公費投入が切っても切れないような分野で使っていくと可能性が開けてくると思った。AIオンデマンドについて、この研究で提示したレベルまでやるというのは、まだ誰も見たことのないシステムなので、まずはスモールスタートでも良い事例が出ると、弾みになると思う。(鶴田講師)
・定例で本人だけではなく、家族の方にも、利用者本人の変化についてアンケートをとっており、家族の喜びの声をいただいている。本人が満足、というだけでなく、我々は家族の皆さんにしっかりサービスを理解いただき、その人におすすめをする。免許返納は簡単なことではないので、安心していただくため、御両親がこんな外出をしていますよ、という家族の皆さんへの情報の共有もしている。地方の単身の親を心配しつつも、自分が田舎に戻れないときに、我々がお父さん、お母さんを見守りながら、お金は東京にいる経済力のあるご子息に支払っていただく、といった地方と東京の関わり方、家族の関わり方に繋がるサービス展開が今後提案できたら、と思っている。(山口講師)
・都市格を自治体同士が競い合う状態をどう実現していくか。都市格のために、公費で一定の規律をもってインフラ整備を行う。そして、都市格を上げていくために、自治体が、自治体の領域だけでなく、民間の持っている交通リソース等も含めて、全体として民間事業者と一緒にその地域の交通計画を立てる、ということを今後やっていくべき。当社としては、デマンドの知見および路線に関する知見で、自治体の計画策定をお手伝いするという形で社会に貢献していきたい。(藤岡講師)
・より良い交通を作り上げていく上で、まずは自分の地域がどういう状況なのかをフラットに考えることが必要。本町の場合、デマンド交通が始まる前、外部に対して交通の便がいい、というアピールをしていたが、1時間かけないと県庁所在地から着かない、最寄りのもう少し大きい市まで30分かかる、という状況で交通の便が本当に良い、と思って言っていますか、というところからスタートした。先ほどの、スクールバスと一緒にするという話も、地域の規模感や状況と照らし合わせたときに、本町の場合は、明らかに一緒にしない方がよかった。常識とされていることに関して、本当にそれは自分のところに当てはまるのか、ということをしっかり考えた方が良い。(木多講師)


■質疑応答

Q:昨今の地方の鉄道路線の維持について、鉄道はデマンドとうまく繋げていかないと、鉄道は維持できなくなるのではないか。デマンド交通と鉄道の連携についての考えを教えて頂きたい。
A:AIフルデマンド単独で全ての移動ニーズに応えられるわけではなく、適材適所のモードが繋がって様々なニーズに応えることが大事であると考える。(鶴田講師)
A:今回矢面になっているのはJRの不採算路線だと思う。例えば第3セクターや地方民鉄だと、それなりの本数があるが、JR線はそもそも本数が少なかったりする。適材適所とは、鉄道だったら鉄道としての機能がしっかり発揮されるなど、存在感ある軸があり、そこにオンデマンド交通が結びついていなければならない。(吉田講師)

Q:物流のドライバー不足問題に対して、モビリティをデュアルモードにして、あるときは物を運び、あるときは人を運ぶ、ということをしたいと考えているが、可能性についてご意見を伺いたい。
A:貨客混載には、大いに可能性がある。同様に、人が乗る乗り物も1台多役が求められると考える。例えば新潟県三条市では、タクシー車両をタクシーと乗合と両方に使っており、乗合になるときは、「乗合」の掲示をマグネットでドアに貼って、乗合車両にする、というアナログなことを行っており、本質を突いていると感じる。1人のドライバーが1日でもっと収入を得られるようにすることで、持続可能になっていくと思うので、大事である。(鶴田講師)

Q:規模が大きくなったらITを使うという話があったが、逆に自治体の人が「のるーと」をみて、最初からとにかく「AIデマンドだ」、と規模の大きい話をすることがあると思う。地域のサイズに合わせてスモールスタートをするためには、どのように調整していけばよいか。
A:スモールスタートをするにしても、デマンドの導入を目的にしてはいけない。まずは地域全体の交通のあり方を考えた上で、着手することが大事でその結果、スモールスタートとなるのならば、何の問題もないと考える。(藤岡講師)

Q:高齢者が増える今後数十年間は、利用者は増えるが、地域の人口は減り、また、地域外の人は観光や帰省等でデマンド交通を利用できない場合、デマンド交通は地域の持続可能性にとって、延命措置でしかないと考える。
A:人口が4,000人を割っているような、特に過疎地域の中山間地域で、地域の持続性をどう考えていくべきか、ということだが、交通だけで解決できる話ではなく、地域のまち作りそのものについて考えることが必要である。例えば小さな拠点などの様な集約化や、医療介護などのサービスを維持していく中で、最終的にモビリティをどのように構築していくかという事になる。まち作りとセットにして、うまく持続可能性を高めていくことが大事だ。(鎌田コーディネーター)

Q:タクシーは高額のため頻繁な利用が困難、という説明があったが、タクシーが高額でなければ皆タクシーを利用したいため、AIデマンドはそもそも不要、という議論も考えられる。タクシー利用低下に対する検討と、ドライバー不足や運賃許認可制等の対策が優先課題とは考えられないのか。
A:エリアによってはおそらくYESとなる。乗合が成立しないような人口が分散したエリアでは、システム代を払ってAIデマンドを走らせるより、タクシーの補助金を払った方が、合理的だ。一方で、乗合が成立するような、人口集中エリアが含まれる地域では、その人の移動毎にタクシー利用だと、高コストになることや、乗務員の確保が難しくなる。路線維持と乗務員不足の問題の両方を解決するためには、乗合せが必要な地域においていかに乗合せるか、が重要な話である。(藤岡講師)

Q:最近のMaaSや自動運転の実証のやり方ではうまくいかない理由、また、考えられる改善策について説明していただきたい。
A:MaaSの提供側が、良いサービスを提供したら使ってくれるという考えで行っているが、とにかく、1度使ってもらうためのアプローチが必要で、それをしないと、ほとんど使われない。自動運転は、自治体の宣伝のためにデモ的に実施している印象。本当に交通計画上、ニーズがあって自動運転をやる意義があるのか、までしっかり考えているところは少ない。しかし、これから国土交通省で、自動運転レベル4社会実装に向けて、巨額の補助金が出ることや、しっかり考えて実証を続けているところも出てきているので期待をしている。(鎌田コーディネーター)


■全体総括(鎌田コーディネーター)

 これからの時代を考えると、マイカーの維持費がどんどん高くなり、高齢ドライバーの事故もまだまだ減らないという中で、人々が自分の足をどうするかしっかり考え、市民側の意識を変えていくとことが必要である。
 もちろん行政がうまくマネジメントすることも大切だし、経済的な支援を行うというのも当然必要だが、このような新たなモビリティをどううまく使うかについて利用者側の意識がどんどん変わり、新たなモビリティへマイカーから転換することに期待したい。
 多くの方に視聴いただき、今回のシンポジウムは非常に関心の高い話題と感じた。パネラーの方々は、これからもそれぞれの地域、役職の中で取り組みを続けていただき、またこのような形でディスカッションできると面白いと思う。


本開催概要は主催者の責任でまとめています。



〈当日の様子〉

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