ATRS(国際航空輸送学会)世界大会・神戸開催
記念セミナー
~世界の航空業界における課題と展望~

  • その他シンポジウム等
  • 航空・空港

Supported by 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION

日時 2023/6/29(木)14:00~17:00
会場・開催形式 ベルサール御成門タワー3階ホール (及びオンライン配信(Zoomウェビナー)※日英同時通訳)
テーマ・
プログラム
【開会挨拶】
宿利 正史  運輸総合研究所会長

【来賓挨拶】
大沼 俊之  国土交通省 航空局次長

【基調講演】
変動するグローバルな経済・政治環境における今後の交通研究の必要性:航空輸送を中心に
Tae Hoon Oum  ATRS初代会長、世界交通学会(WCTRS)会長、ブリティッシュ・コロンビア大学名誉教授

【報告】
運輸総合研究所の関連研究活動の結果報告
「日本の航空分野における脱炭素化の道筋」及び「ASEANにおけるエアライン戦略の分析」
藤﨑 耕一  運輸総合研究所主席研究員・研究統括

【パネルディスカッション】
 パネリスト:Tae Hoon Oum  ATRS初代会長、世界交通学会(WCTRS)会長、ブリティッシュ・コロンビア大学名誉教授
       Martin Dresner  ATRS前会長、メリーランド大学教授
       Anming Zhang   ATRS会長、ブリティッシュ・コロンビア大学教授
       大橋  弘    東京大学副学長、東京大学大学院公共政策大学院・経済学研究科教授
       花岡 伸也    東京工業大学環境・社会理工学院融合理工学系教授
モデレーター:山内 弘隆    一橋大学名誉教授、運輸総合研究所研究アドバイザー

【閉会挨拶】
海谷 厚志  運輸総合研究所主席研究員・事務局長

開催概要

 71日から神戸で開催されたATRS世界大会では、COVID-19により甚大な影響を受けてきた航空業界の再生方策、航空分野におけるカーボンニュートラルの実現方策等、航空業界が直面する喫緊の課題が議論されました。そこで、この機会を捉え、Tae Hoon Oum初代会長をはじめATRSの歴代会長をお招きし、我が国の専門家の参加も得て、COVID-19の影響に対し航空産業界が抱える課題と対応、航空産業における事業者間連携や勢力圏の変化の中期的展望について、並行して行うべき脱炭素化への対応も意識しながら、議論を行いました。
 議論の中では、コロナ後における航空事業者間の今後の競争の見通し、LCCFSCの関係、欧州の航空事業者とアジア市場の関係、アジアの航空事業者とアジア市場内部の関係、関連政策の課題と期待、同時に考慮すべき脱炭素化が航空事業者間の競争や勢力地図に与える影響、といった諸点にも着目しました。

主なSDGs関連項目

プログラム

開会挨拶
宿利 正史  運輸総合研究所会長

宿利 正史  運輸総合研究所会長


開会挨拶
来賓挨拶
大沼 俊之  国土交通省 航空局次長

大沼 俊之  国土交通省 航空局次長


来賓挨拶

講演者略歴

基調講演
Tae Hoon Oum  ATRS初代会長、世界交通学会(WCTRS)会長、ブリティッシュ・コロンビア大学名誉教授

Tae Hoon Oum  ATRS初代会長、世界交通学会(WCTRS)会長、ブリティッシュ・コロンビア大学名誉教授


変動するグローバルな経済・政治環境における今後の交通研究の必要性:航空輸送を中心に

講演者略歴
講演資料

報告
藤﨑 耕一  運輸総合研究所主席研究員・研究統括

藤﨑 耕一  運輸総合研究所主席研究員・研究統括


運輸総合研究所の関連研究活動の結果報告「日本の航空分野における脱炭素化の道筋」及び「ASEANにおけるエアライン戦略の分析」

講演者略歴
講演資料

パネルディスカッション

パネリスト
Tae Hoon Oum  ATRS初代会長、世界交通学会(WCTRS)会長、ブリティッシュ・コロンビア大学名誉教授

Tae Hoon Oum  ATRS初代会長、世界交通学会(WCTRS)会長、ブリティッシュ・コロンビア大学名誉教授

パネリスト
Martin Dresner  ATRS前会長、メリーランド大学教授

Martin Dresner  ATRS前会長、メリーランド大学教授

講演者略歴
講演資料

パネリスト
Anming Zhang  ATRS会長、ブリティッシュ・コロンビア大学教授

Anming Zhang  ATRS会長、ブリティッシュ・コロンビア大学教授

講演者略歴
講演資料

パネリスト
大橋  弘  東京大学副学長、東京大学大学院公共政策大学院・経済学研究科教授

大橋  弘  東京大学副学長、東京大学大学院公共政策大学院・経済学研究科教授

講演者略歴
講演資料

パネリスト
花岡 伸也  東京工業大学環境・社会理工学院融合理工学系教授

花岡 伸也  東京工業大学環境・社会理工学院融合理工学系教授

講演者略歴
講演資料

モデレーター
山内 弘隆  一橋大学名誉教授、運輸総合研究所研究アドバイザー(オンライン参加)

山内 弘隆  一橋大学名誉教授、運輸総合研究所研究アドバイザー(オンライン参加)

講演者略歴

閉会挨拶
海谷 厚志  運輸総合研究所主席研究員・事務局長

海谷 厚志  運輸総合研究所主席研究員・事務局長


閉会挨拶

当日の結果

■基調講演
テーマ:変動するグローバルな経済・政治環境における今後の交通研究の必要性:航空輸送を中心に
講師:Tae Hoon Oum  ATRS初代会長、世界交通学会(WCTRS)会長、ブリティッシュ・コロンビア大学名誉教授

 変動するグローバルな経済、政治環境における今後の交通研究のニーズについて、航空輸送を中心に5つポイントを挙げる。

①脱グローバル化と新しい冷戦時代における交通研究

 ロシアによるウクライナ侵攻によりグローバリゼーションの侵食が加速した。世界経済システムの分割化により、国際的な輸送ネットワークを改めて形成していく必要がある。ロシアが領空を閉鎖したことにより、アジア-欧州間の航路が大きな影響を受け、また燃料消費、炭素排出量も増加しているため、輸送ネットワークの再形成、それに対するリサーチのニーズが高まっており、今以上に研究を進めていかなければならない。

②コロナ政策対応から生まれる研究ニーズ

 コロナ危機によって露呈したのは、米国、欧州、日本、中国など多くの国が航空業界を含めた民間企業を救済し、国が最後の砦になるということである。政府が危機に直面した時、どうやって救済策を選ぶのか、どのような形を選ぶのか、これもまた研究の一つのアジェンダになると思う。またポストコロナにおける中長期的な航空業界の構造について、市場構造がパンデミック前の状況に戻るか、どの位回復するのかについても研究が必要になってくるであろう。

③交通セクターと気候変動

 例えばEVの導入に関する研究が必要だと思う。より早いEVの導入を実現するためには、ガソリン価格など包括的な研究が必要である。また最適な助成の水準が何なのか。例えばEVを購入する時の充電インフラに対する補助金やこの充電インフラの標準化を研究するべきであろう。また航空分野における2050年ネットゼロに向けて持続可能な航空燃料(SAF)が有望である。国際⺠間航空のためのカーボン・オフセット及び削減スキーム(CORSIA)の導入により、各運航会社は定められたルールに沿ってオフセット義務量が割り当てられ、オフセット義務が課されることとなる。2021年よりパイロット運⽤が開始されており、2027年からはフェーズ2で義務化が始まるが、CORSIAのルールは明確でない部分も多く、また他セクターと比べてCO2削減にかなりのコストが掛かり、技術面・経済面でも更なる研究が必要であると思う。

④シカゴ条約と国際航空輸送政策

 シカゴ条約によって二国間航空協定が結ばれている。それぞれが個々に交渉しなくてはいけないため、非常に非効率的であり、これについて真剣に継続的に研究するべきであろう。

⑤グローバルな航空技術のリーダーシップ

 多国間が航空機の認証を行うことが必要であり、1カ国にこれを委ねるべきではない。多角的なシステムを設け、航空機の認証のためのグローバルな組織を結成するべきである。技術的にも、更には政治的なことにも配慮しつつ、深い研究が必要であると感じている。


■報告
テーマ:運輸総合研究所の関連研究活動の結果報告「日本の航空分野における脱炭素化の道筋」及び「ASEANにおけるエアライン戦略の分析」
講師:藤﨑 耕一  運輸総合研究所主席研究員・研究統括

①日本の航空分野における脱炭素化の道筋

 当研究所が2022年度まで行った共同調査研究「航空分野における気候変動対策」の成果からまとめてご報告する。

 SAFの国内製造量についてポテンシャルを推計した結果、2019年レベルの燃料の国内調達水準をカバーするのは容易ではないことが分かった。脱炭素化に近づくための最も野心的なシナリオの組み合わせに基づき、日本の航空分野からの長期的なCO2排出量のシミュレーションを行い、これらのシナリオを実現するための関係者による必要な対応のロードマップを作成した。この研究が契機となり、2022年に利用者産業と燃料産業を含む官民の作業グループが設置され、2030年までに航空燃料の10%SAFとすることを目標として、製造、輸送及び認証を含むサプライチェーンの構築に必要な問題の取組みが始まった。ただ、2030年以降の取組みについてはまだ議論が進んでいないため、さらに議論を加速することが必要である。

ASEANにおけるエアライン戦略の分析
 
 3月主催の運輸政策コロキウム「ASEANにおけるエアライン戦略の分析」での議論から抽出してご報告する。

 ASEANの主なエアラインの最近の戦略の特徴として①ポートフォリオ戦略の一環としてグループ内のエアラインの再編を施行、②統一ブランドにより複数の国で展開、③航空旅客収入以外の付帯収入増加及び生活関連事業等非航空系ビジネスへの進出、④航空事業から得た顧客情報などのデータの活用、⑤コロナ禍からの回復には、人材の確保と供給量が課題であることの5点を当研究所AIROの山下主任研究員が挙げた。これに対して花岡教授からはASEANLCCの特徴として中間所得層のニーズとの一致、短距離路線の設定が容易な地域サイズ、地域連合と域内航空自由化政策の連動として本拠地以外の国に合弁LCCを設けていることがコメントされた。またモデレーターの山内教授からは、ASEANのエアラインによるハブの複数化などの路線展開もポートフォリオの一環であると解説された。そして日本のエアラインの今後に向けて、航空旅客収入以外の付帯収入、及び非航空系ビジネス展開が重要で、APECなど大きな経済圏の中で航空市場を考える必要があるという示唆があった。


■パネルディスカッション
モデレーター:山内 弘隆  一橋大学名誉教授、運輸総合研究所研究アドバイザー

 世界航空学会(ATRS)の日本開催は、今回で2回目である。航空の学会としては世界最大かつ非常に権威のある学会だと考えている。今航空が抱える非常に大きな問題、いわゆる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)後の航空がどうなるか、そしてカーボンニュートラル・脱炭素にどう対峙していくか、大きく二つのテーマで議論をしていきたい。(山内教授)


○プレゼンテーション①
Martin Dresner  ATRS前会長、メリーランド大学教授

 貿易戦争下の米中貿易摩擦について考察する。

 トランプ前大統領の時代、2018年頃から米中貿易戦争が勃発し、中国から米国への輸入と米国から中国への輸出の両方が大幅に減少した。その後数年で多少回復する。
 (対中貿易の割合)貿易戦争以降、中国からの輸入は減り回復していないが、米国から中国への輸出は回復している。
 (航空輸送による輸出入額の割合)2019年以降、米中間の輸出入の輸送手段が海上から航空貨物へとシフトしている。貿易戦争は、米中貿易を航空輸送へ長期的にシフトさせる可能性がある。貿易が低価値の製品から高価値の製品にシフトし、海上輸送よりも航空輸送が有利になるということだ。
 
 日本は中国、ロシアに近い位置にあり、高度な技術を持ち、また国際的な貿易システムの中でも大きなプレイヤーだ。世界の航空業界において日本の研究者が果たすべき役割について考察する。

①ロシア領空閉鎖が国際航空網にどう影響するか。一部の航空会社が、米国西海岸から東南アジアまで直行することで、東京がハブ空港としての機能を失っている部分もあった。それがロシア領空閉鎖により、ハブの役割を回復する可能性がある。
②なぜ日本はCOVID-19の封じ込めに比較的成功したのか。この結果に対する日本の航空規制の影響はどうであったか。航空輸送の停止がCOVID-19の伝播にどのような影響を及ぼすかについて行われた研究結果のほとんどは、否定的なものだ。しかし日本の場合、COVID-19の感染はかなり少なく、国際航空便の利用を厳しく制限していた。何が効果的だったのか、あるいは効果的でなかったのか。
③高速鉄道の影響が航空業界や旅行パターンにどのような影響を与えたのか。温室効果ガス削減に対する高速鉄道の貢献とは何か。日本は高速鉄道の歴史が最も長く、旅客輸送を航空から高速鉄道に転換することが温室効果ガス排出量にどのような影響を与えるかを調べるのに、おそらくどこよりも適した立場にある。


○プレゼンテーション②
Anming Zhang  ATRS会長、ブリティッシュ・コロンビア大学教授

 空港のコネクティビティは、観光業界はもとより一般的な経済の発展のために非常に重要である。空港のコネクティビティというトピックをもとにCOVID-19の影響を踏まえつつ研究課題を説明する。
 航空輸送産業には3つの特徴がある。1つ目は、政治的な問題や景気、感染症蔓延等の外的要因による影響を受けやすいこと。2つ目は、外的要因による影響を受けやすいが、23年後には回復するというレジリエンス・強靱性があること。3つ目は、この50年間で航空輸送の旅客数が10倍以上になっており、当該産業が成長し続けていること。
 COVID-19の影響により一時的に旅客数は減少したものの、2022年夏には2019年の8割まで回復してきている。当該産業の成長が減速する傾向は見られないが、課題もある。その1つが2050年までにCO2排出量実質ゼロにすることである。この目標を達成するためには、より効率的な燃料の導入などの対策を講じる必要がある。
 Global Airport Connectivity Index(GACI)という空港の国際レベルやコネクティビティを表した指標により、空港がどのように世界中の空港とつながっているかを分析している。当該指標により空港のハブ機能がどのように推移してきたかなどがわかる。また、競合する空港と比較することも可能であり、COVID-19時の国の政策が影響していることがわかる。
 空港とのコネクティビティとして航空以外では、高速鉄道を含めたマルチモーダルな交通体系、ビッグ・データを活用した陸側のアクセシビリティの分析、貨物輸送の接続性等が挙げられる。海上、高速鉄道、地下鉄、道路などその他の交通モードもまた強力なネットワークとなりうる。


○プレゼンテーション③
大橋  弘  東京大学副学長、東京大学大学院公共政策大学院・経済学研究科教授

①需要評価
 日本経済を成長させる一つの需要として、観光の存在は今後ますます大きくなるだろう。どれだけ航空を含む各交通モードが影響を与えているのか、地域のGDPや賃金にどのような影響を与えているのか。空間経済一般均衡モデルなど、最近の研究の進展を取り入れながら分析する研究も大変重要だ。

②供給ダイナミクス
 オンラインなどバーチャルでビジネスミーティングが可能となり、航空サービスとオンラインとの間に代替性が生まれた。パンデミックの前後で、提供する航空サービスの質が同じであることで良いのかも考えるべきだ。
 また、産業間や産業内での統合や連携など、産業構造の転換が少しずつだが進んでいる。航空分野においてもそうした統合は運航効率化・フライトの質向上等の観点から良しとする考え方がある一方、市場での競争性に悪影響を及ぼす懸念もある。このトレードオフをどう考えるかは、従来以上に重要な課題だ。

③市場環境
 パイロットやメカニックの人材不足がAIや自動化の進展にどう影響し、大阪・関西万博の空飛ぶクルマや虹彩認証のように、どのような新しいサービスに展開するかは興味深い。また別の課題として、レジリエンスと経済安全保障上の価値は、定性的には認識されているが、どう定量化できるかは重要な論点だ。ロジスティクスの観点で航空貨物の分析がもっとなされても良い。

④脱炭素化に向けて
 CO2を1単位減らすときの限界費用(マージナルコスト)が、全セクターあるいは世界全体で均一化されることがもっとも効率的だ。セクター別に脱炭素化を進めた結果、セクター毎のマージナルコストに大きな差が国内外で生まれているということであれば、世界全体でCO2を減らす観点では効率的ではない。他方で航空セクターで脱炭素をこうした限界費用と関係なく減らすという取り組みを進めていくのであれば、他の施策と組み合わせて議論するほかない。例えば農業政策との組み合わせでは、今後荒廃地が増加するが、そうしたところに粗放栽培でもよいからソルガムなど燃料になる作物を作る等、当面は少々コストが高くとも何とか凌いでいくことも農業政策として意味があり、またSAF調達にも資する。他セクターを巻き込むことで意味ある政策の推進につながる可能性がある。

⑤政策補助
 日本では、航空会社や空港への補助の議論は低調ではないか。非常にダイナミックな産業でアップダウンが激しい中、補助がない場合と比較して、補助があることでより早くキャッチアップしていけるかについて、議論や研究がもっとあっても良い。空港の価値もあまり議論されていない。経済安全保障上重要だとすれば、その価値は何か。ソリッドな議論が求められる。


○プレゼンテーション④
花岡 伸也  東京工業大学環境・社会理工学院融合理工学系教授

 2000年以降における世界と日本の航空需要について分析する。
 まず、国際民間航空機関(ICAO)の旅客数及び旅客キロのデータを元に、世界の航空需要を見たときに20002003年頃は9.11SARSの影響により、また、2009年頃は世界金融危機の影響により停滞したものの、それ以降は順調に伸びている。国際線の伸びが大きいが、国内線の需要も堅調に伸びている。また、日本に目を向けると、インバウンドについては2020年の訪日外国人旅行者数4,000万人の政府目標達成のための施策により2013年以降急激に増え、2018年には3,000万人を超えた。一方で、アウトバウンドについては2019年に初めて2,000万人になった程度であり、10年以上ほとんど状況は変わっていない。インバウンドの数字を支えているのが、中国及び韓国、特に中国である。
 次に国連世界観光機関(UNWTO)のデータを元に2000年、2010年、2018年の3時点で地域別(アフリカ、アメリカ大陸、アジア太平洋、欧州、中東)に旅行目的を分析したところ、1番多いのが観光、2番目がVFRVisiting Friends and Relatives)、3番目がビジネス、その他と続く。2018年にはアジア太平洋地域の旅行目的のうち観光が58%を占め、この数字を支えているのは中国人旅客である。中国の出国者数は2013年に世界第1位となっており、2019年には15,000万人を超え、旅行先での支出も第1位となっている。これらのデータから2010年代の世界の航空需要を中国が牽引してきたと判断できる。
 今後20年の航空需要については、オンライン会議や生成AIの代替的活用によりビジネス需要は減少する可能性があるが、観光やVFRは本人が移動するしかないため需要は引き続き増加するだろう。また、中国は今後1015年間、引き続き世界の航空輸送需要のリーダーであり続ける可能性があるが、2040年頃にはインド、インドネシア、ブラジル、ナイジェリア等が台頭してくるかもしれない。


○ディスカッション
《第1ラウンド》4人のプレゼンテーションに対するオウム教授からのコメント

 米国は中国をデカップリング(decoupling、切り離し・分離)し、インド、ベトナム、一部東南アジアと一緒にやりたいと考えていたが、最近はブリンケン国務長官が習近平国家主席と中国で会ったようにトーンが変わり、中国をデリスキング(De-risking、リスクを小さくすること)する方向に変わってきている。つまり、中国と貿易し通商は望むが、ハイテク関連の品目は中国に行かないようにしたいということだ。これまで中国がWTOのルール違反をかなりしてきていることがその理由だ。例えば彼らは、上海や北京にある小さな会社とパートナーを組み、ASML(オランダの半導体製造装置メーカー、ASMLホールディング)とパートナーを組む。ここは高集積の半導体製造機械、リソグラフィー装置、ファウンドリ(鋳造所)を持ち、これを製造する技術を持つ。WTOのルールに違反したことで、ASMLWTOに対し訴えを起こし、WTOは多額の罰金(150億ドルほど)を科したところ、この小さな会社は破綻、ASMLは知財を失い、何もお金を回収できない結果となった。そこで米国は日本、オランダと歩調を合わせて、これを何とか防ごうとしている。これはデリスキングの戦略と言うべきだろう。
 米国も中国もお互いを必要としている。例えば、米国のショッピングセンターに行けば、商品の約9割が中国の製品である。デカップリング戦略は、少なくともその試みはしていたが、結果的に失敗している。米国の消費者が支払う値段が23倍になり、一般消費財などがハイパーインフレになる。それが政治的に非常にリスキーであるため、インフレを何とか落ち着かそうとの考えで中国を必要としている。一方、中国は米国の市場が必要で、さもなければ開発が進まなかったり、景気後退に陥ることになる。欧州の需要が、米国の需要に代わることは決してない。デリスキングの政策は、米中がお互いを認め合い、ハイテクの技術やそういった製品を守りたいというものだ。製品が中国の業界に流れ込むことを避けたいと考えている。この問題を認識すべきだ。
 ジャン教授の発表にあったGACIについて、これも非常に意味のあるプロジェクトだと思う。排出量削減につながるのであれば本当に重要なことだ。
 観光業や航空会社は、ビジネス客からではなく観光客から収益を上げる必要性がある。ないしはVFRから利益を上げなくてはならない。ただ、航空会社にはジレンマがある。ビジネス旅客はあまり価格を気にしないため、コロナ前はビジネスのチケットを買っていた。一方、観光客は非常に価格に敏感であるため、航空会社は厳しい立場に立たされている。このセグメントの多くの人たちはリタイアしており、それほど生産的ではない。このような価格に敏感なセグメントからどうやって利益を上げるのか。難しい課題がある。
 空港の需要は堅調だろう。空港の需要弾力性は非常に低い。つまり旅客は航空会社を通じて空港にお金を払うわけである。数年前に、空港需要弾力性を測定したことがあるが、それは我々が使用している電力以上に低いものであった。従って航空旅客数が増えれば、空港は非常に堅調となり、業績が上がると思われる。というのは、国策によって航空会社と空港の両方を閉鎖しなければならない非常に厳しいときがあったが、これから数年間に関しては、空港では旅客の数も増えて需要弾力性は非常に低い。つまり価格を上げることができるが、それでも需要にはほとんど影響を与えない。我々が使っている家庭の電力料金よりも影響を与えないということだ。
 国内旅客が伸びていることに関して、COVID-19でそれぞれ国によって政策が違ったが、問題は国内旅客だけで航空会社は対応できるのかということだ。国際旅客がいない、あるいは国際観光がない中で、産業として対応できるかが問題だ。
 一つの課題は、出張が今後も抑えられ抑制が続くであろうということだ。その結果、航空会社は価格に敏感なセグメントに対応していかなければならない。つまり、観光客及びVFRに対応していかなければならない。(以上、オウム教授)

・オウム教授よりさまざまなコメントを頂戴した。私が非常に印象的に感じたのは、航空産業がこれからどうなるのかという視点で見たとき、国際的な経済の仕組み、連携、こういったものにどう影響するかということだ。象徴的に米中間のデリスキングといった形での貿易構造に変わっていくという話であった。これは別に貨物だけでなく、旅客についても経済構造が変わって、いろいろな需要の変化が出てくる。特に旅客に関して、COVID-19が発生し行動様式が少し変わったことで、これから観光を中心に伸びていくと、このような見通しを示されたと思っている。(山内教授)


《第2ラウンド》 ディスカッション

・国際航空輸送を形作るうえで、レジリエンスと安全保障が重要課題だと何人かのパネリストが述べられた。外交政策としてこの10年間の米国の失敗は、おそらく太平洋を挟んだパートナーシップから撤退したことだ。これは自由貿易型の協定である。自由貿易は、トランプ政権のような共和党政権にも、あるいは保護主義の民主党政権にも、あまり受けが良くない。しかし、それがレジリエンスや安全保障となると受け入れられる。日本は非常にユニークな立場にある。太平洋間を通じたこの関係を回復させるという意味、そしてレジリエンスや安全保障のタイプのような同盟を取り戻す意味では、良いと思う。他のグループに比べ、日本は経済的に非常に良い立場にある。日本は少なくともアジアの国や米国、ほとんどの国とうまくやっているので、適切な立場にある。太平洋間のパートナーシップを回復させ、レジリエンスや安全保障というタイプの協定を進める、これが旅行パターンや供給チェーンにも影響を与える。ジャン教授が述べられたように、日本の空港はまだコネクションがあまり良くない。しかし、この日本の空港を貨物のハブとして使って貿易を促進する、貿易を増加させる、そして太平洋をまたいだパートナーシップを促進する、これは、日本の航空業界にとっても非常に大きな推進力になる。(ドレスナー教授)

・あまり知られていないかもしれないが、COVID-19の時期を通じて、成田空港の貨物の扱い量がかなり伸びた。これは国際航空貨物が伸びたという面もあるが、実は伸びているうちの大きなものはトランシップ、すなわち成田での積み替えの貨物だ。今ドレスナー教授が述べられたように、日本は良いポジションに位置しており、これを前提として航空戦略も変わっていくであろう。
 ただ、歴史的に見ると航空貨物は非常に変動する。先日も発表があったとおり、好調であった国際航空貨物の動きが、前年比でかなり落ち込んだ。世の中的には非常に重要で、戦略的にネットワークを構築しなければならない。サプライチェーンも含め、航空会社にとって経営的に変動が大きい市場だと考えるが、いかがか。(山内教授)

・年初は楽観的な見方があった。COVID-19が収束した、そして経済が回復するのではないかとの期待である。この心理は中国にあったが、最新の統計を見ると中国経済は年初に期待していた程ではない。特に5月に発表された統計では、中国の輸出は7.5%落ち込んでおり、それが航空貨物の落ち込みの理由かもしれない。
 デカップリングやデリスキングが今話題になっているが、2011年当時によく使われていた言葉は、グローバル化の一環としてのオフショアリング(海外移管・移転)であった。米国から欧州、そして50年代後半から日本で始まり、アジアへと製造業がシフトし、それが東南アジアやアジア四小龍”(韓国、台湾、香港、シンガポール)へ。それから2001年に中国のWTO加盟があり、経済発展に伴って工場も中国に移管し始めた。地域経済が発展すると賃金が上がるが、それ以外の費用も上がる。賃金が上がる点では良いが、その逆の面としてビジネスのコストも上がった。12年前、欧米の企業は徐々に中国から撤退し始めていた。数年前ではなく12年前のことだ。今は政治的な緊張がかなり高まっているが、経済的な力は既に12年前からあった。低コストの製造が、インドやベトナム、東南アジア諸国にシフトしている。実際、中国の企業もそれに倣っているのは、米国へ輸出する際の関税が非常に高くなったからだ。2019年以降、そういった高い関税を課されることで、中国も停滞している。中国企業自体も、生産コストを下げるために東海岸から内陸部の方に移っている。製造拠点をインド等の東南アジアにも移して、米国の関税を回避しようとしている。そういったシフトが起きているため、GNPGDPよりも高いのが現状だ。生産コストが高まっているのは、生活水準が上がるということであるため、この状況は不可逆的だ。デリスキングやデカップリングはこれからも続くだろう。ただ他の国の発展ということでは良い意味合いがある。また、中国も賢く動けば、このメリットを享受できるだろう。(ジャン教授)

・外国の研究者の関心は、国際的な経済構造の変化と、それに対して航空産業はどうあるべきか、どう変わっていく戦略をとるべきなのか、というところにあり、その視点を本日提供いただいたと思っている。(山内教授)


○質疑応答
Q:「運輸総合研究所の関連研究活動の結果報告」にあったように、2050年のカーボンニュートラル実現が相当大変だということがよくわかった。今から取り組んだとしても、2050年には23%程積み残すことになるという話があった。この目標を達成できなかった場合、航空産業はどうなるのか?例えば23%程減便しなくてはならない状況になるのか?それとも別のソリューションがあるのか?

・非常に良いご指摘だ。これから観光やVFRが増加していく。社会が成熟し長寿命になり、リタイアした人たちがより移動することになる。かなり価格に敏感な層でもある。また航空業界は、CO2削減の制度として最もコストが高くつく業界とも言える。大橋教授も述べられたように、CO2低減のコストを全経済セクター間で平準化することが、世界全体の脱炭素化を実現するうえで最も効率が高いと考えられるが、他のセクターに比べ、航空業界はマージナルコストがかなり高い状況にある。従って、グローバルなマーケットベースドメジャー(MBM)の形が望ましいと思う。例えば航空業界でカーボン1tを削減するのに500ドルかかるのに対し、農業は50ドルもしくは100ドルで炭素削減できるとする。今現在、EU-ETS(EU域内排出量取引制度)1t当たり94ユーロである。グローバルMBMの元々の定義やマーケットベースの措置ということであれば、世界全体の炭素量削減を考える。航空輸送での努力よりも、その他のセクターの努力を高めていくとすると、基本的にはカーボンクレジットを購入する形になり、この仕組みの方が実現するにあたってはやりやすい。航空業界に限定して2050年カーボンニュートラルを達成し、そこだけの絶対値を見るのではなく、全セクターでマージナルコストの平準化をすることが望ましい。(オウム教授)

・カーボンニュートラルとは何かということであるが、確かに先ほどの結果報告の図では、航空セクターが全部ゼロにならなければいけないとなっているが、そうではなくCO2を出すセクターは依然残ってもカーボンニュートラルは達成できる。ネガティブなエミッションができるセクターもあり、これは同じセクターではない可能性があるが、オフセットし合って全体としてゼロになるのがカーボンニュートラルの世界だ。仮に航空セクターで完全にネットゼロにならなくとも、他のセクターでネガティブにできる。例えばCCS(Carbon dioxide Capture and Storage、二酸化炭素回収・貯留)や森林吸収の方法がある。そうした方法でできるのであれば、航空セクターでCO2を出しても本来良いのだと考えている。ただ、ICAOのルールがこうなっているということで、そこと社会的に効率的な姿とが少しずれている可能性があると認識している。(大橋教授)

・要するに排出権取引のような形を取ると、別に航空だけでなくということだ。ただICAOのルールがあるため、これからルールメイクするのが難しい点が一つある。それからもう一点、国によってSAFのマージナルコストが変わってくることになると、航空会社の競争状態や国と国との間の通商問題に発展していく。その辺りを見ていく必要がある。ちなみに先程の例は一つのシミュレーションであり、必ずそうなるというわけではない。今、資源エネルギー庁がSAFについてコミットしており、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)も数百億円規模で日本のエネルギー会社に実証をさせたりしている。もう一点は先日方針が出たが、一定程度SAFが生産量に占める割合を付けるといった行政指導的なものもするということで、少し様子を見る必要がある。(山内教授)


Q:世界的な航空ネットワークにおける日本の地政学的・政治的な立ち位置の重要性、発展可能性についての話があった。似た立ち位置の空港として韓国の仁川空港が挙げられる。仁川空港が極東地域における国際ハブ空港である現状を考えると、成田空港、関西国際空港は、どのような点で仁川空港と差別化を図り、国際ハブ空港として発展していくことが可能か?

・仁川空港は、交通をつなげる意味ではかなり成功していると思う。香港はかつて世界のビジターや中国の都市とを結んでいたが、北京、上海、広州などが発展したことで、この役割は低下した。かなり早い段階から、仁川はハブの重要性を認識し、例えばアジアから北米への乗り継ぎ等、良いコネクティビティを提供することに注力してきたと思う。仁川で乗り継ぐ人たちをKPIとして見た場合、10年前に意見を求められた私はかなり否定的であった。空港は高付加価値の顧客から得るものが多いと。しかし国内の小さな単位の旅客であっても、ソウルとプサンをつなぐ韓国高速鉄道も整備され、済州島にも簡単に行けるようになり、コネクティビティを重視したことで仁川がかなり成功してきた。
 それに対して香港は違った。GACIを見ると、18位や19位であったものが2022年には60位ほどである。1日に3便あったものが、週に3便になったらどうなるか?ある地点とある地点の中間位置にあり、ハブ化できるかどうかが重要であり、その点で香港は負けてしまっている。(ジャン教授)

Q:今後ますますLCCの台頭が予測されるとのことだが、例えば、太平洋路線では今までと同様ワイドボディ機の運航がメインのままというように、路線によってLCCFSCのバランスは異なる認識か?また昨今の輸送機の小型化で、旅客機と貨物機のすみ分けはますます漠然としていくのか?

LCCは長距離路線ではあまり良い立場ではないだろう。旅客を詰め込み、ターンアラウンドを早くすることで、短距離路線では優位だったが、長距離路線となるとやはり快適さが求められる。短距離路線のように詰め込むことはあまりできない。そしてターンアラウンドが短いこともそれほど優位ではない。9時間や10時間のフライトになると、1日に1,2回しか機材は戻ってこない。1時間のフライトで何度もターンアラウンドするのとは話が違う。航空会社により、また路線により、どの機材を使用するかは変わってくる。(ドレスナー教授)

・輸送機の小型化と、旅客機と貨物機のすみ分けに関して。ベリー(旅客機を用いた貨物輸送)を選ぶのか、貨物専用機を選ぶのかは、航空会社とフォワーダーの判断になるため、すみ分けそのものはそれ程進まないと思う。他方、半導体の需要はこれから増えることはあっても減ることがなく、世界全体でさまざまな製品がIoT化されていくとどうしても半導体が必要になる。半導体はほとんど航空機で運ばれるため、ボラティリティはあるが半導体を運ぶ需要という意味で、ベリーを使って貨物を運ぶことがますます増えていくのではないか。(花岡教授)


○ディスカッションのまとめ

 パネリストの方からさまざまな視点をいただき、それについて考えてきた。基本的には先程も申し上げたとおり、世界の経済は大きく変化する。貿易構造も産業構造もだ。花岡教授の話にもあったように、例えば半導体とか、こういったことの世界的な地図が変わる中で、輸送需要自体の変化があるということである。おそらく旅客についても、それに応じて変わっていくのだろうと思っている。特に、ビジネスの伸びが鈍化して、観光というようなところで見ていくことが重要だ。
 最後にLCCFSCの関係について。私は別の仮説を持っており、そろそろLCCFSCの境目は曖昧になり、なくなってしまうのではないかと思ったりする。そのような形で航空産業が変わっていく中、これについて本日ご参加の方やご視聴の方の参考になれば幸いである。(山内教授)

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