ゆっくりを軸とした地区づくりのための交通・道路・都市のあり方を考える
「人と多様なモビリティが共生する安全で心ときめくまちづくり調査」
~フランス調査結果報告を通じて~
「人と多様なモビリティが共生する安全で心ときめくまちづくり調査」
~フランス調査結果報告を通じて~
- その他シンポジウム等
- 総合交通、幹線交通、都市交通
主催: 一般財団法人運輸総合研究所
共催: 一般財団法人日本みち研究所、 公益社団法人日本交通計画協会
日時 | 2023/5/12(金)15:00~18:00 |
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会場・開催形式 | ベルサール御成門タワー (及びオンライン配信(Zoomウェビナー)) |
テーマ・ プログラム |
【開会挨拶】 宿利 正史 運輸総合研究所 会長 【調査報告】 三重野真代 運輸総合研究所 客員研究員・東京大学公共政策大学院 特任准教授 矢内 直子 運輸総合研究所 研究員 【基調講演】 谷口 守 筑波大学システム情報系社会工学域 教授 【パネルディスカッション】 コーディネーター: 石田 東生 筑波大学 名誉教授・SIP「スマートモビリティプラットフォームの構築」PD・ 一般財団法人日本みち研究所 特別顧問 パネリスト: ヴァンソン藤井由実 FUJII Intercultural S.a.r.l 代表 古倉 宗治 公益財団法人自転車駐車場整備センター 自転車総合研究所 所長 谷口 守 筑波大学システム情報系社会工学域 教授 牧村 和彦 一般財団法人計量計画研究所 業務執行理事 兼 研究本部企画戦略部長 三重野真代 運輸総合研究所 客員研究員 【閉会挨拶】 森山 誠二 一般財団法人日本みち研究所 専務理事 |
開催概要
本調査研究は、海外の先行事例調査等を通じて、国内展開するにあたっての実現化方策や課題等を検討し、人と多様なモビリティが共生する安全で心ときめくまちづくりの姿を整理することを目的として実施しています。
2022年9月にフランスに行き、都市部におけるゆっくりを軸としたまちづくりの概念、手法、実態の把握を目的に、パリ、アンジェ、ナント、ラ・ロシェルの4都市でヒアリング調査および現地視察を実施しました。フランスにおける低速交通まちづくりの取組みを紹介するとともに、我が国におけるゆっくりを軸とした地区づくりのための交通・道路・都市のあり方を考えました。
プログラム
開会挨拶 |
宿利 正史 |
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調査報告 | |
基調講演 | |
コーディネーター |
石田 東生 |
パネリスト | |
パネリスト | |
パネリスト |
谷口 守 |
パネリスト | |
パネリスト |
三重野 真代 |
閉会挨拶 |
森山 誠二 |
当日の結果
1.フランス調査結果報告
三重野真代:運輸総合研究所 客員研究員 ・東京大学公共政策大学院 特任准教授
矢内 直子 :運輸総合研究所 研究員
2022年9月17日(土)~28日(水)にフランスにおいて、都市部における”ゆっくりを軸としたまちづくり“の概念、手法、実態の把握を目的に、パリ、アンジェ、ナント、ラ・ロシェルの4都市で、行政へのヒアリング調査および現地視察を実施した。
フランスのまちは大きな変貌を遂げていたが、その背景にある考え方としては、この30年で「環境意識」「交通権」「交通安全」「静謐化」における意識変化があったと分析している。これらの意識変化に共通する哲学は、車の負の側面を適切に認識し、都市空間を自動車から人に取り戻すというものである。
フランスの新しいまちづくりの概念として「ビルアぺゼ」を学んできた。直訳すると「穏やかになったまち」、現在フランスで主流となるまちづくりの考え方で、道路の速度調整によって、まちを車から開放して人に取り戻すというものだ。エリアの土地利用特性に応じて、公共交通・モビリティと自動車の分担率を設定し、公共交通を優先するエリアでは、道路速度を低速に設計し車を抑制する。
都市の低速化には2つのフェーズがある。1つ目は都市部、まち全体を時速30kmにすること、2つ目は、特に人の集まる中心部を時速20kmや歩行者専用空間にすることだ。時速20km以下になると速度差が少なくなるほど多様なモードと人は共生しやすくなる。
ビルアぺゼの効果には、あらゆる人やモビリティが尊重されるまちになり、騒音の改善、自動車以外のモビリティの移動が容易になることでの生活の質向上、商業活性化、等が挙げられる。
①自動車、②人中心、③道路速度、④低速モビリティ、⑤道路・歩道での共生、⑥一体的な取り組み、⑦まち、の7点から日本とフランスの取組の違いを比較、分析した。
目指すべきまちの姿の提案として、今後、日本でも自動車から人へ心がときめくまちに転換する「スローカブル」なまちづくりを始めていきたい。この取組みは、あらゆる人を対象とし、移動環境、にぎわい、ウェルビーイングなど、多様な目的を包摂した「まちづくり」の手段として道路の低速化を活用するものである。住宅地のみならず、中心市街地などにぎわい地区の活性化手法としても活用できると考える。
今の自動車ファーストのまちづくりを続けても、免許返納、中心市街地の衰退、新技術の活用、脱炭素社会の実現など、私たちが直面している問題を解決できない。ウェルビーイングや包摂性を求めるようになった今だからこそ、日本でも新しい時代の価値観に沿ったまちづくりへのパラダイムシフトが求められるはずだ。
2.基調講演
谷口 守 筑波大学システム情報系社会工学域 教授
日本における近年のまちづくりの動向やまちの様子について、具体的な数値データを用いて紹介する。2022年3月には、国土交通省道路局が「多様なニーズに応える道路 ガイドライン」を作成し、各自治体でパークレット、ほこみち(歩行者利便増進道路)、芝生の広場などの取り組みが行われている。ゾーン30についても早い段階から議論が進められてきた。しかし、導入したほうが良いと思われる道路に導入されていない。徐行すべきエリアに導入されたため、地域の人は速度を上げると認識し、結果廃止となった例もある。スイスのベルンではゾーン20とゾーン30の境目を明確にし、周辺と一体で考えて導入されている。また、全国都市交通特性調査を見ると、コロナ前後で全体のトリップ原単位は減少しているが、自動車分担率は増加している。外出率が若い世代で大きく落ちていることも、今の日本にとって大きな問題である。
欧州と日本の都市の違いから、まちづくりにおける「ときめき」と「がっかり」を隔てるものについて考察する。京都や大阪の景観を見るとタワーマンションが点在しているのに対し、ロンドンでは建物の高さを制限し、昔の景観を残すルールを守っている。ドイツのカールスルーエはいわゆるトランジットモールであるため自動車のためのスペースはなく、子どもがスクーター(電動キックボード)に乗り、高齢者が路面電車を横切っている様子が見られる。日本で実現できないと言われるが、歩道を作れば安全との理解のもとに整備された道路は、果たして安全と言えるであろうか。どちらが安全か、どちらの景観が良いか、という議論になる。
日本のまちづくりが「官」対「民」の二極対立構造で進められている点も懸念するところである。「パブリック(=公共)」の概念がない。また公共交通の撤退が止まらず、赤字路線は切るという考え方も問題である。カールスルーエは、多様なモビリティと拠点計画をセットでまちづくりを考えている。公共交通はまちを黒字にするためのものであり、公共交通単体の収支に拘わらない。多様なモビリティを入れていくことでまちの活力、「ときめき」が上がってくることが重要ではないか。
コロナ禍の世界の動向としては、居住圏近くで一通りの生活ができるようにする「15分都市」の取り組みが各地で進められた。日本の場合、各移動目的で15分以内の移動割合はどの程度かを眺めると、勤務はほぼ成立しないが自動車まで含めると地方部では成立、買い物は都心部のみ成立し、自動車まで含めると地方部でも成立している状況がわかる。
日本のまちの可能性を示す例として、岡山県倉敷市を挙げる。人口40万人以上の市だが、コロナ禍で駅前の中心市街地に人が出てこない状況があった。そこで道路で朝市を実施すると、3時間で1万人の人出となった。その際の交通手段に関するアンケートでは、自家用車で来た人が38.8%、自家用車を持つが他の交通手段で来た人が35.8%、自家用車を持たない人は25.4%であった。自家用車を持たない人の中では、まちなかに住む高齢者など、徒歩も多い。これは自転車等を含む多様なモビリティの潜在的な可能性、それを活用したまち全体の再生の可能性を示すデータである。自動車の利用を控え、まちなかに集まる居住者の「シードバンク層」が日本にはまだ多くいる。シードバンク層は、茨城県霞ケ浦の「土壌シードバンク」という植物再生の話から着想を得ているが、多様なモビリティの環境を整え、いかに居住者シードバンクを目覚めさせるかが、今後のまちづくりのポイントとなるのではないだろうか。
3.パネルディスカッション
モデレーター:
石田 東生 筑波大学名誉教授
SIP「スマートモビリティプラットフォームの構築PD
一般財団法人日本みち研究所 特別顧問
パネリスト:
ヴァンソン藤井由実 FUJII Intercultural S.a.r.l 代表
古倉 宗治 公益財団法人自転車駐車場整備センター 自転車総合研究所 所長
谷口 守 筑波大学システム情報系社会工学域 教授
牧村 和彦 一般財団法人計量計画研究所 業務執行理事 兼 研究本部企画戦略部長
三重野真代 運輸総合研究所 客員研究員
■プレゼンテーション①
ヴァンソン藤井由実 「フランス都市政策の背景」
フランスの都市空間整備はモビリティ再編成を伴って行われてきた。1990年代から人口50万人前後の都市圏共同体でLRT整備、車との共存施策の試みが始まり、1990年の道路交通法改正ではゾーン30整備等の各種規定が策定された。2000年代から2010年代には、人口30万人前後の都市圏共同体もLRTを導入、2008年の道路交通法改正ではゾーン20の整備等の各種規定が策定された。2000年代から2020年代までには人口10万人以下の都市でもBRT(高機能連節バス)が整備された。
フランスの都市政策の策定、実行においては、組織と制度、国の方向性、合意形成に特徴がある。
組織と制度について、国政・地方行政における女性比率の高さや、専任で行う議員の割合の低さなどから見て取れるように、議会と行政の人材は多様である。議会と行政の協働体制も特徴で、市長が議会の中から任命した副市長が、細かく区切られた専門分野に携わり、行政の部長と連携して政策を進める。ビジョンとなる都市計画マスタープランは、日本の地区計画に相当する詳細まで策定されたもので、前面道路からのセットバック、建物の高さ制限の設定の2つの事項を守れば、それ以外は自治体の議会と行政が決定することができ、自治体ごとに個性がありながら整合性の保った街並みができる。政策主体は議会と行政府、事業主体は行政および土地整備開発機構、そこにマスターアーバニストと呼ばれる都市プランナーが介在するが、政策主体の仕様書の哲学ビジョンに沿ってまちづくりが最後まで行われているか確認する仕組みが整っている。
国の方向性としては、2019年にモビリティ基本法でアクティブモード(徒歩・自転車)移動の推進を明記したことが画期的で、モビリティに関する問題点を整理しその方向性を提示して、補助金を用意した。
合意形成の観点では、市民が都市計画策定のほぼすべての段階で積極的に介入できるプロセスが策定されている。また、議会や行政に若い世代やジェンダーバランスの取れた人材が揃っていること、都市政策に税金を投与することへの合意を得てきたことなどが、フランス人が住みやすい地方都市を作り上げてきた背景にある。
■プレゼンテーション②
牧村 和彦 「米国における生活の質を重視した人と多様なモビリティ優先のまちづくり」
アメリカでは、バイデン政権になってから交通政策のパラダイムシフトが起きており、そのキーワードは「公正性」である。例えば、公共交通と自動車の所要時間の格差や、ロサンゼルスの通学手当の無料化などのように、所得格差を是正していくことが言及されている。2022年3月、連邦道路庁はワールドクラスの新しいモビリティサービスをすべての人に提供していくとしている。
2000年頃から、道路を利用するすべての人が安全にアクセスできるようにする道路を計画、設計、建設、運営、維持するためのアプローチとする「コンプリート・ストリート(みんなのストリート)」の概念が広く普及してきており、2005年に設立された「National Complete Streets Coalition」では、交通事故数、歩行者・自動車の量の増減などを見ながら課題や対策について議論している。また、NACTO(全米都市交通担当官協議会)は、よりマルチモーダルな視点で「デザインガイドライン」を発表し、世界中に展開している。公共空間、自転車、バスレーンの整備の支援や、子どもたちも一緒に道路をペインティングすることで道路の価値を皆で考えていこうという活動等も行っている。モビリティとまちと道路を一体で考えていくガイドラインは、まさにモビリティのリ・デザインの道しるべとなるものである。例えば、公共交通ファーストのボストンでは中央走行方式のバス専用レーン、モビまちの最先端都市のサンフランシスコでは自転車・歩行者空間への再編、ピーチツリーシティではゴルフカートの普及など、このデザインガイドの要素が随所に見られる。
デザインガイドツール、対策の成果測定、協力者を増やしていくことが多様なモビリティ優先のまちづくりのポイントであり、市民の力だけでなく、支援する組織が大きな流れをつくることが重要である。日本でもスモールスタートから、スローなまちづくりを始めてはどうか。
■プレゼンテーション③
古倉 宗治 「自転車の観点から見たスローカブルなまちづくり ~役割と可能性~」
本日提案されたスローカブルなまちづくりを踏まえ、日本でどのようにしていくか、外国との比較を含め紹介する。キーワードとして挙がったマイクロモビリティ、スローモビリティ、アクティブモビリティのような性格を自転車は備えている。
まず、日本における「移動」の基本的な考え方は、スローカブルな移動とは全く逆である。スローカブルな移動は、利便な移動より快適な移動、安全な移動より楽しむ移動、経済的な移動より環境的な移動、安易な移動より健康・長寿の移動、迅速な移動よりもスローな移動と、移動目的よりも移動過程を重視するもので、自転車はこの移動過程を重視するスローカブルな移動に適し、そして寄与できるのではないかと考える。
また、1920年頃のロンドン、パリ、ニューヨークのまちの風景はほぼ自動車で埋め尽くされ、自転車は見かけないのに対し、同時期の日本は自転車のほうが多く見られ、この傾向が現在も続き、先進国第3位の自転車利用国である。日本特有の倹約精神・もったいない精神が、価格が高く、燃料代がかかるクルマよりも、安上がりの自転車を選択してきた文化が形成されている。欧州で最も自転車が進んでいるオランダのフロー二ンゲンでは、17世紀から1960・70年代まで、自動車中心のまちであった反省を踏まえ、中心市街地に車を入れないようにし、市街地周辺部にフリンジパーキングや中心市街地周辺に駐輪場を設置し、自転車でまちに容易にアクセスできる自転車活用のまちづくりを進めた。
自転車が果たせる役割には、まちの中のスローな移動やまちの中域の回遊、まちの魅力を五感で体感できる移動が挙げられる。自転車の危険性の指摘もあるが、自動車よりも低い事故率、多く発生している働く世代の生活習慣病死を回避するという観点からも、高齢者の足、健康増進につながる点で非常に良い移動手段である。スローカブルなまちづくりに向け、自転車を含めたマイクロモビリティをもっと活用すべきではないかと考える。
■ディスカッション
≪まちづくりにおける欧米と日本の差≫
・フランスも30年前は中心市街地も車に占用されていたが、大気汚染や歩行者の安全性を含む都市環境に対する弊害を鑑みて、1980年代から解決に向けた試みが行われてきた。1990年から公共交通の導入が進み、都市を巻き込む大きな試みだったが、首長の任期6年の間にやり遂げる必要もあり、広報の努力や市民を巻き込んでの都市計画を行ってきた。日本と比べ、自分のまちが将来どのようになるかということに一般市民も大きな関心を抱いており、地方統一選投票率も高い。(ヴァンソン藤井講師)
・チャレンジする人を認めるかどうかも関係するように思う。交通に関するアンケートでアメリカのポートランドの市民の意見と日本の市民の意見を比較したデータがあるが、日本は圧倒的に意見を言わない。国民性と言ってしまうと展開しないが、目立つのが嫌であるとか、変えるエネルギーを表に出そうとしない。(谷口講師)
・日本の合意形成の場では反対の人が声高だが、フランスでは幼少のころから、一人一人が発言できる教育を受けた国民性があり、計画に対してはっきりと反対を唱える者もいる。しかし、フランスの行政や議員には、「反対している人が計画を進めるわけではない」というコンセンサスがあり、反対意見も聞きながら、その中から汲み取れるアイディアはないかというスタンスである。あくまで合意形成は反対する人を説得することではなく、考えや意見を交換する場である。
・日本は、子どもが過ごしやすいまちづくりと道路空間の配分をコンバインさせていない。フランスの場合、街路空間は生活空間であるという概念が1990年代から広まっており、中心市街地の時速30km制限が非常に勢いを持って進んだ。歩行者専用空間・優先空間にすると行政が言っても、国民は想像できない。まず可視化して、ゆっくりと楽しくまちを歩けることがわかれば、歩行者優先化の政策を進めるステップにつながる。(以上、ヴァンソン藤井講師)
・日本の通学路の安全向上事業については、技術的な裏付けや合意形成がないために、歩道を作ってほしいという話になるが、用地買収において難航している。日本の街路空間のあり方として、まちと一体になる、子育てが安心してできるネットワークをどのように構成するか議論しなければならない。(石田講師)
・アメリカはコロナ後で毎年4万5千人が交通事故で亡くなっている危機感の中で取り組んでいるが、ビジョンゼロの発想や哲学が日本ではうまく伝わっていないように感じる。インフラ整備にお金をかけずに少しの工夫で事故が相当減り、その取り組みを着々と進めて世界中に広がっている中で、日本でも丁寧に伝えていくことが必要。(牧村講師)
・車を使用していれば、地方都市か否かはあまり関係ない状況になっている。事業者が自治体に向けて行った「あなたのまちは住んでいて幸せか」という調査において、大型ショッピングセンターのあるまちでは総じて幸せとの結果がある。大型ショッピングセンターの中では子どもも安全だからということもあると思う。今の都市政策はまちをコンパクトにしよう、拠点を作ろうという話をしているが、そのずれが非常に大きい。
・地方都市で拠点を考える際に、店舗ごとに駐車場があるとまちなかに人が全く出てこない。大きな駐車場を旧来のまちの真ん中近くに作ってそこで車を停めて、一日まちの中を歩いてもらう仕掛けが必要。(以上、谷口講師)
・日本の道路交通法では幅のある走行空間でも自転車の並走が認められていない。フランス、オランダでは幅のある走行空間を整備し、自転車交通量に対応するとともに、並走が可能で、会話を通して楽しみながら移動する、移動の過程を重視するという考えが普及している。(古倉講師)
・フランスは、道路インフラが整えばモビリティの需要も出てくるという発想があり、自転車の移動シェア全国3%から9%程度にしようと、自転車専用道路の整備に補助金を出している。(ヴァンソン藤井講師)
≪日本で「ゆっくりを軸としたまちづくり」を進めるにあたって必要なこと≫
・都市計画の可視化、モビリティを包括した都市空間の再編成、都市計画に携わる当事者が誇りを持って取り組めることが重要。合意形成活動に参加できる仕組み、デザインや広報に行政も予算を投入することが必要である。(ヴァンソン藤井講師)
・15分都市は日本でも実現可能である。半径5.8kmのパリで自転車移動が20分強であるのに対し、東京23区で面積最大の大田区は半径4km程度で15~20分で移動できる。短い時間で移動できるまちづくりをこれから考えていくべきではないか。(古倉講師)
・日本は折り返し地点におり、過去を見てそこに「ときめき」を入れていくということかと思うが、フランスの真似をするのではなく、我々のまちに合っているかを自分の頭で考えなければならない。日本のまちならではの道路空間、都市空間をきちんと整備するという意思決定をすることが必要。(谷口講師)
・交通の新しい技術が普及していくためには、ガバナンスや専門の組織が必要。自治体と伴走して、同じ目的を持って活動、連携していくことを考え、運輸総合研究所、日本みち研究所、日本交通計画協会が連携して、持続可能な交通社会を作る基盤となることを願っている。(牧村講師)
・高齢者向けのマイクロモビリティを導入する際の最大の課題が「みち」だと考えている。道路のあり方は今や自動車だけのものでなく、見直して良いということを、モビリティやまちづくりに携わっている方に伝えたい。モビリティからスタートしたものが、まちのあり方や人の暮らし方を変え、ときめきが入っていくまちになっていくと思う。日本は転換期にあり、同じ気持ちの方々にとってもきっかけとなるよう、みちのあり方をゆっくりにし、様々な可能性をまちに入れていくことで社会を変えていきたい。(三重野講師)
■質疑応答
Q:人中心のまちづくりを考える中で、自転車の位置づけについて。
A:日本はまちづくりの中での自転車の位置づけを考えてこなかった。脱炭素のまちづくり、健康なまちづくりといった交通まちづくりだけでなく総合的なまちづくりの中で、自転車がどのような役割を果たすか、都市住民の自転車活用に対する合意形成や、一般の方が自転車をもっと利用したいと思えるようなしつらえを、ソフト面も含めて整備すべき。(古倉講師)
Q:パリでレンタル電動キックボードが禁止となる理由について。
A:パリ市ではレンタル電動キックボードの禁止の是非について住民投票を行ったが、有権者の10%に満たない住民が投票し、その約9割が反対ということで2023年9月から使用禁止となる。あくまで事業者が貸し出すレンタル電動キックボードの営業を認めないということで、個人での使用は禁止されない。背景には事故の増加がある。(ヴァンソン藤井講師)
Q:日本では交通事故対策として車優先社会という根本的な問題が議論されず、道路に飛び出してはいけない、子供を道路で遊ばせるなという保護者に向けた教育が主流となっている。フランスでは、交通事故から身を守らせるための教育を子供に対して行うのか。
A:フランスは車を否定しているわけではなく、移動手段を選択できる社会を作ってきた。子どもへの交通安全教育もあるが、中学校に進学するまでは通学時に大人が同伴し、子どもを守るのは親の責任であり、学校や地域に押し付けないという考えがある。(ヴァンソン藤井講師)
本開催概要は主催者の責任でまとめています。