米国における「空飛ぶクルマ」に関する政策の最新動向2023
~実用化に向けた多面的な取り組み~

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第157回運輸政策コロキウム ~ワシントン・レポートⅩⅤⅢ~

Supported by 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION

日時 2023/12/5(火)
会場・開催形式 オンライン配信(Zoomウェビナー)
開催回 第157回
テーマ・
プログラム
【発表及びコメント】
 発 表 者  : 釣 慎一朗    運輸総合研究所 ワシントン国際問題研究所 研究員
 コメンテーター: 鈴木 真二    東京大学 名誉教授/東京大学未来ビジョン研究センター 特任教授


【ディスカッション】
 コーディネーター: 屋井 鉄雄  運輸総合研究所 所長

開催概要

世界的に開発、活用が拡大している無人航空機(ドローン)に続き、いわゆる「空飛ぶクルマ」について、我が国では2025年大阪関西万博において商用運航の実現を目指しており、2023年度中に必要な制度整備を行うこととしている。また、欧州では2024年パリ五輪において、米国でも2025年の商用運航の実現を目指しているところ、その実用化に向けた機体の開発や制度整備が各国で進んでいる。2021年1月に開催された運輸政策コロキウムでは、空飛ぶクルマの実現に向けた課題や課題に対する取り組み、開発状況等について、当時の米国の状況を中心に発表が行われた。
本コロキウムでは、その後の進捗状況や最新の情報も踏まえ、各国のベンチャー企業等による空飛ぶクルマの開発状況のほか、機体認証、運航、離着陸場等の基準やコンセプトから、人材育成、社会受容性等についての取り組みに渡る、米国連邦政府による空飛ぶクルマ(Advanced Air Mobility (AAM))に関する政策の最新動向、欧州及び我が国における空飛ぶクルマに関する政策の動向、将来的な空飛ぶクルマの実用化に向けた考察等について発表し、議論を行った。


主なSDGs関連項目

プログラム

開会挨拶

奥田哲也 運輸総合研究所専務理事
     ワシントン国際問題研究所長

開会挨拶
発表及びコメント

釣 慎一朗 ワシントン国際問題研究所 研究員

講演者略歴
講演資料


鈴木 真二 東京大学 名誉教授
      東京大学未来ビジョン研究センター 特任教授

講演者略歴
講演資料
ディスカッション

コーディネーター:
屋井 鉄雄  運輸総合研究所 所長

当日の結果

ワシントン国際問題研究所の釣研究員から、「米国における空飛ぶクルマに関する政策の最新動向2023 ~実用化に向けた多面的な取り組み~」というテーマで発表が行われた。発表のポイントは次のとおり。

1.「空飛ぶクルマ」とは
 日本では「空飛ぶクルマ」、米国では「Advanced Air Mobility (AAM)」、欧州では「Innovative Air Mobility (IAM)」といった用語が用いられ、またAAMやIAMの下位概念として、都市部及びその周辺で運航するものを指す「UAM (Urban Air Mobility)」という用語も使用されているが、各国ともeVTOLや自動化等の先進技術を備えた、新しい航空輸送システムがイメージされている。

2.機体の分類及び各国メーカーにおける開発事例
 空飛ぶクルマとして主に想定されているeVTOL機は、その推力機構によって、マルチロータータイプ、リフト・クルーズタイプ、ベクタードスラストタイプの3種類に主に分類される。
① マルチロータータイプ
 固定翼を有さず、三つ以上の回転翼からなる推進装置が垂直離着陸のみに使用される。高速運航や長距離運航には不向きだが、構造はシンプルで、日本のSkyDrive社やドイツのVolocopter社等の開発事例が存在。
② リフト・クルーズタイプ
 固定翼を有し、垂直離着陸と巡航に異なる推進装置が使用される。推進装置の重量に無駄が生じるが、固定翼の存在によりマルチロータータイプよりも高速運航や長距離運航に適しており、米国のWisk Aero社等の開発事例が存在。
③ ベクタードスラストタイプ
 固定翼を有し、垂直離着陸と巡航に同じ推進装置が使用される。推力偏向のための構造や操作がやや複雑になるが、リフト・クルーズタイプよりもさらに高速運航や長距離運航に適しており、米国のJoby Aviation社やArcher Aviation社等の開発事例が存在。

3.米国における空飛ぶクルマに関する政策・取り組みの最新動向
 米国における政策・取り組みとして、以下の8点について概説。
① AAMに関わる法律の制定
 2022年10月にAdvanced Air Mobility Coordination and Leadership Actが成立。AAMに関する連邦政府横断のワーキンググループの設置と、AAMに関する国家戦略策定が求められている。
② UAMの運航に係るロードマップの策定
 2023年5月にUAM ConOps (Concept of Operations) v2.0公表。運航の発展過程を初期、中間期、成熟期の3段階で示し、UAM専用のルートとなる空域「UAMコリドー」の発展過程についても記載。
③ AAMの短期的な運航実現に係るビジョンの策定
 2023年7月にAAM Implementation Plan v1.0公表。AAMの2028年までの短期的な運航実現のためのビジョンを示している。
④ 耐空性基準の設定
 連邦航空局(FAA)は、eVTOL機の型式証明における耐空性基準について、連邦航空規則パート23の小型飛行機の基準をベースとする考え方から、パワードリフトとして新たに耐空性基準を設定するという考え方に方針変更。
⑤ 操縦士の技能証明・運航基準等に係る規則改正
 パワードリフトの操縦士の技能証明や運航基準等についての規則改正を提案するNPRM(Notice of Proposed Rulemaking)が2023年6月に発出。パワードリフトの種類において等級限定なしに型式限定を求めること等の恒久的な規則改正提案のほか、FAAがデータを収集し、どのような改正を行うべきかを理解してから恒久的な改正を実施する内容については、特別連邦航空規則による一時的な改正を提案。
⑥ バーティポートに関するガイドラインの公表
 暫定的なガイドラインとして、2022年9月にEngineering Brief No.105, Vertiport Design公表。バーティポートの設計、形状や安全上の考慮事項等を含む、様々な要素についての考え方を記載。
⑦ Advanced Aviation Advisory Committee (AAAC)の活動
 無人航空機やAAM等について、運輸省(DOT)やFAAに提言を提供し、FAAから課された課題に対応するための会議体。ジェンダーニュートラルな用語の使用や、K-12(米国の義務教育期間)のカリキュラムにドローンやAAMに関する教育内容を組み込む方策等についての提言を実施。
⑧ FAA AAM Summitの開催
 FAAと国際無人輸送システム協会の共催で、2023年8月に第1回を開催。FAA、DOT、NASA、eVTOL機メーカー、海外当局等の専門家がパネリストとして参加し、ConOps、人材育成、国際調和等、幅広い議題についてディスカッションを実施。

4.国際機関、欧州及び我が国における空飛ぶクルマに関する議論、政策等の動向
 国際民間航空機関(ICAO)においては、2022年10月の第41回総会でAdvanced Air Mobility Study Group (AAM SG)の設立が決定。
 欧州航空安全庁(EASA)においては、耐空性基準として小型のVTOL機に対応したSpecial Conditionが公表され、運航基準として有人のUAMの運航に対応するPart-IAMを策定予定のほか、バーティポートの設計に関するガイダンス文書が発行されるなど、各種ルールの策定が進められている。また、2024年のパリ五輪の際に、パリ及びその近郊においてVolocopter社のVoloCityによる運航が計画されている。
 日本においては、産官学からなる「空の移動革命に向けた官民協議会」が立ち上げられ、2018年12月には「空の移動革命に向けたロードマップ」を策定、実務者会合の下に各種WG等を設置して、個別の課題について議論が進められている。また、2025年の大阪・関西万博において、空飛ぶクルマを万博会場と会場外ポートの2地点間で運航させることが計画されている。

5.空飛ぶクルマの実用化等に向けて
 短期的観点では、2025年の大阪・関西万博における空飛ぶクルマ運航の着実な実施が重要であり、安全面での十分な配慮、静粛性や快適性のアピール等が求められる。万博前年のパリ五輪におけるeVTOL機運航の教訓や、2022年に日米当局間で署名された「空飛ぶクルマに関する協力声明」での協力内容等、海外での先行事例やノウハウの積極的研究、活用も一案。
 長期的観点では、空飛ぶクルマに関する基準の国際調和が求められ、ICAOにおける国際ルール策定への参画や、個別当局間のハーモナイズ活動等が重要。また、空飛ぶクルマに関わる人材の育成も重要であり、新たな成長分野を支える人材確保のために、女性のさらなる活躍を図ることも一案。

 続いて、コメンテータである東京大学未来ビジョン研究センターの鈴木特任教授から、AAMの社会実装への課題について説明が行われた。ポイントは次のとおり。
・ 都市部でのヘリによる旅客輸送は利便性が高い反面、1977年のパンナムビルでの事故では5名の方が亡くなる等、リスクも大きく、騒音面での課題もある。
・ 先月、ニューヨークでJoby Aviation社やVolocopter社のeVTOL機のデモフライトが実施され、ニューヨーク市長を始め地元では好意的に受け取られているのに対して、来年のパリ五輪に向けてエアタクシーサービスの開始が計画されているパリでは、eVTOL機の旅客サービスに対して地元当局から反対の声が挙がっている。
・ 新たな技術が導入される際は賛成、反対両方の意見があり、社会受容性が課題となるが、EASAが2021年に実施したUAMの社会受容性に関する調査では、ユースケースとしては個人利用よりも公共目的の方が支持される、最大の懸念は安全だが、耐空性基準がUAMに適用されれば安心である、その次の懸念事項は騒音であり、音質等も影響してくる、サイバーセキュリティの面も懸念事項であるといった結果が出ている。UAMが社会実装されれば、社会的利益も生じるが、それに伴う社会的リスクも存在し、高い利益をもたらす旅客輸送はリスクも大きいという課題がある。
・ 現状の移動手段と比較してAAMがもたらす経済的メリットについて、一人での利用や貨物輸送ではメリットはないが、複数人利用での80km程度の移動や、ドクターヘリの代替ではメリットが生じる、また自動飛行が可能になると運賃が下がる可能性があるといった研究結果もある。
・ AAMの公共利用に関するNASAのレポートでは、AAMのユースケースとして、旅客輸送だけでなく、インフラ点検や災害対応等の公共サービスへの活用に焦点を当てている。
・ 機体認証(電動航空機の認証方法等)、操縦技能(パワードリフトの操縦に必要な技能、シミュレータの活用等)、運航(運航管理、バーティポート要件等)等、各種の制度面でのリスクも存在する。
・ 認証制度やマーケットが確立していない状況での機体開発、社会受容性が確立していない状況でのビジネス展開等、ビジネス上のリスクもあり、技術面、制度面、ビジネス面での的確なリスク分析と、その緩和策が求められる。

 その後のディスカッションのセッションでは、冒頭に鈴木特任教授から釣研究員への質問について以下のとおり回答が行われた。

【鈴木特任教授】
 AAMの都市部での運航に関しては、特に騒音問題が離発着場周辺で課題となるのではないか?AAMの騒音に関する米国での認識と規制の状況は?
【釣研究員】
 AAMメーカー各社でも社会受容性の観点から騒音、静粛性は重要視。米国での規制の状況としては、機体に関しては耐空性基準のようにAAMに特化した基準は示されておらず、既存の連邦航空規則パート36のヘリやチルトローター等の騒音規制が適用可能かどうかを個別のモデル毎にFAAが判断し、適切に適用できないと判断された場合はそのモデルに合わせた新たな適用基準を設定するという考え方。現在FAAはNoise Policy Reviewと呼ばれる全体的な見直しを計画しており、今後連邦航空規則パート150についてAAMの運航に対応した改正が行われる可能性もある。
【鈴木特任教授】
 米軍が開発中のAAMに関心を寄せているとの報道もあるが、安全保障上、どのような用途で、どの程度の需要があると見込まれているか?
【釣研究員】
 米国空軍は、政府のリソースを利用して民間のeVTOL機の開発を支援するAgility Primeというプロジェクトで多くのAAMメーカーと提携。eVTOL機の具体的な用途としては、その静粛性や無人での自動操縦能力を活かして、特殊部隊の潜入・脱出任務のほか、従来機では困難な敵地内での救難任務等が想定。海兵隊においても、敵地圏内に分散した小規模部隊への物資の補給や人員の輸送等の任務にeVTOL機を活用する構想もある。需要については、Joby Aviation社が最大9機(2023年9月に1機目納入)、Archer Aviation社がMidnightを最大6機空軍に納入する契約を行っており、今後eVTOL機の有効性が確認されれば、こうした数はさらに増えていく可能性もある。

 続いて、コーディネーターである運輸総合研究所の屋井所長、鈴木特任教授、釣研究員の間でのディスカッションと、参加者からの質問への回答が行われた。主なポイントは以下のとおり。

【屋井所長】
 騒音面の話が出たが、AAMの騒音は従来のヘリコプターと比較してどの程度異なるものなのか?
【釣研究員】
 電動であるため、音量そのものは従来機と比較して断然静かになっているということは言えると思うが、鈴木先生のご説明にもあったように音の頻度(繰り返し)等も社会受容性に影響してくることから、運航形態が従来機と異なり、街中を多頻度で飛行することも想定されているAAMでは注意が必要。
【鈴木特任教授】
 AAMでは音質が従来機とは異なるものになるため、そこに違和感のある方もいらっしゃるかと思われる。また、AAMが離発着するバーティポート付近では飛行が集中するため、着陸経路を一方向からのものではなく多方向から分散して入れるものとする計画もあると聞いている。
【屋井所長】
 鈴木先生にご指摘いただいたように、AAMの運航実現のためには制度面でのリスク等様々な課題を乗り越えていく必要があると思われるところ、参加者からの関連したご質問になるが、数年前の報道等では、2023年頃には欧米等の一部の先進国ではAAMの商用運航が実現しているとの見方もあったところ、そこに至っていない背景にはどんな点が考えられるか?
【釣研究員】
 様々な要因があり、長引いたコロナもその一つであろうと思う。一方で、米国で当局の方とやりとりする中で感じることとして、従来機では豊富な経験を有するFAAも、自ら言及しているようにAAMの分野では経験がなく、試行錯誤しながら慎重に進めているという点がある。耐空性基準に関する方針転換や、パワードリフトの規則改正におけるSFARによる一時的な改正の手法等も、そういった事情の現れではないかと個人的に感じている。
【鈴木特任教授】
 自分も官民協議会の下で機体安全WGの座長をしているが、本格的な電動航空機はまだ実例がないという実態の中で、どのように安全性を証明していくかを官民一体となって作り上げていく必要があり、今は各国とも同じ土俵に立っていることから、日本として目標を立てやすいところでもあると思う。
【屋井所長】
 運航面で紹介されていたUAMコリドーについて、目に見えるものなのかといったご質問が参加者からあったところ、これは空域上に設定された目に見えないものだという理解だが、大阪万博における運航を考えたときに、大阪城付近のポートと万博会場の間は市街地になっているところ、飛行する高度や離着陸のイメージはどのようなものか?
【釣研究員】
 2025年の時点ではまだUAMコリドーは設定されておらず、既存のルールをベースに飛行することになるが、ご指摘いただいた市街地のポートと万博会場の間をどのように飛行するかはまさにポイントとなっている点であり、陸地上空を避けて河川の上を飛行するべきか、一定の高度と不時着場所を確保しながら陸地上空を飛行するべきか等、関係者で議論されているものと理解。
【鈴木特任教授】
 AAMに関しては、運航の方法や空域を限定した上で機体認証や飛行許可を出すという方法も検討されており、機体認証を受ければ飛行禁止空域等以外はどこでも飛行できた従来機とは異なるアプローチとなっている。
【屋井所長】
(参加者からのご質問)バッテリーの性能は経年劣化や温度環境に大きく影響を受けるが、予備燃料について米国ではどのような議論がされているか?
【釣研究員】
 予備燃料は米国でもポイントとなっている点であり、パワードリフトのNPRMにおいては従来の飛行機と同じ30分の予備燃料を求める提案となっている。これは飛行中複数の不時着場所を確保する等により予備燃料を圧縮可能とする提案をしている欧州と比較すると、保守的な考え方。また、バーティポートのガイドラインでは気象観測設備が求められており、ローカルな気象条件も重要となってくるが、バッテリーは極端な温度環境に弱く、商用運航では機内の空調等にもバッテリーを消費するため、運航ルートが機体の性能ギリギリに設定されているケースでは、極端な高温、低温の条件は予備燃料にもシビアに効いてくるのではないかと思う。
【鈴木特任教授】
 電気自動車と同様に温度環境や使い方で航続距離も変わってくるため、バッテリーの使用状況を正確に見積もるためのシステムを機体に組み込む必要がある。また、リチウムイオン電池は火災になると簡単に消火できないという点が大きな課題として挙げられ、機体の設計において安全確保のための対策を取ることが必要。自動車と異なり重量の制約が厳しいため、ピストンエンジン等を併用したハイブリッド方式は簡単ではないが、ホンダは小型のジェットエンジンを搭載したハイブリッド方式の機体開発を進めているところ。
【屋井所長】
 パイロットのいない無人運航実現の可能性について、鈴木先生はどのように見ていらっしゃるか?
【鈴木特任教授】
 2035年~40年には遠隔での自動操縦の機体が運航していると予測する研究もある。中国のEHangや米国のWiskのように、当初から遠隔での自動操縦を前提に機体を開発している例もあり、技術的には十分可能であるが、一方でそれが社会に広く受け入れられるかという点は別の課題としてあるだろう。
【屋井所長】
(参加者からのご質問)将来的にはIFRによる悪天時・夜間時の飛行も視野に入れた機体開発がされているのか?オスプレイの事故は垂直離着陸機の社会受容性の観点で障壁となるか?
【釣研究員】
 当面はVFRで飛行することになるが、将来的にはIFRに対応することが想定されており、例えばWisk社のGeneration 6の機体はIFRに関する機体側の装備要件に適合するように開発されていると理解。オスプレイの事故により垂直離着陸機に対する社会の不安が生じることもあるだろうが、社会受容性を高めていくためには、鈴木先生のご説明にもあったように、AAMは旅客輸送だけでなく公共目的でも役立つという点を認知してもらうことも重要になってくると考えている。
【鈴木特任教授】
 日本では、公共交通機関がカバーできていない山間部や離島等で困っている方のためにAAMを活用するべきではないかという意見もあり、そういったところから社会受容性を上げていくという方法もあり得るのではないかと考えている。

<当日の様子>

ディスカッション
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