みんなで実現する船のCO2削減
~新たな船舶燃料の導入に向けた国際動向の最前線と展望~

  • その他シンポジウム等
  • 海事・港湾

Supported by 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION

日時 2022/5/20(金)13:30〜16:30
会場・開催形式 オンライン配信及び会場(ベルサール御成門駅前) (※ベルサール御成門タワーではございませんので、お気を付けください。)
テーマ・
プログラム
みんなで実現する船のCO2削減
~新たな船舶燃料の導入に向けた国際動向の最前線と展望~


基調講演:「国際海運ゼロエミ化への新しい取り組み方(CO2削減に向けた海事分野の取組と課題)」
    大和 裕幸  国立研究開発法人海洋研究開発機構理事長
           横浜国立大学客員教授、東京大学名誉教授
講  演:「代替燃料LCA評価手法開発における我が国の取組等」
    大坪 新一郎 運輸総合研究所客員研究員
パネルディスカッション及び質疑応答:
 コーディネーター: 
    稗方 和夫  東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授
 パネリスト   :
    大和 裕幸  横浜国立大学客員教授、東京大学名誉教授
           国立研究開発法人海洋研究開発機構理事長
    大坪 新一郎 運輸総合研究所客員研究員
    赤松 健雄  伊藤忠商事株式会社プラント・船舶・航空機部門
           グリーン・イノベーション営業室 室長
    塩入 隆志  国土交通省海事局海洋・環境政策課環境渉外室 室長

開催概要

 気候変動問題は、今や単なる環境問題ではなく、産業の存続に係る重要な課題となっています。海運分野も例外ではなく、世界のサプライチェーン全体でのGHG削減には、海上輸送におけるGHG削減が不可欠であり、課せられた命題です。
 本セミナーでは、CO2削減に向けた海事分野の取組と課題に関する講演、海運分野における燃料の生産から船舶での使用までのGHG排出の計算評価手法であるライフサイクルアセスメント(LCA)に関する運輸総合研究所の調査研究の成果報告とともに、ディスカッションや質疑応答を通じて、利用者までをも含めた関係者間で問題意識の共有を図るとともに、今後の施策の展開について考察しました。

 (参考)昨年度、一昨年度の関連セミナー
 国際社会の脱炭素化を見据えた海運・航空分野の気候変動対策に関するシンポジウム2021/3/9
 JTTRI国際海運セミナー 新たな船舶燃料のライフサイクルアセスメント(2022/2/24)

プログラム

開会挨拶
宿利正史<br> 運輸総合研究所 会長

宿利正史
 運輸総合研究所 会長

開会挨拶

基調講演
大和裕幸<br> 国立研究開発法人海洋研究開発機構理事長	<br> 横浜国立大学客員教授、東京大学名誉教授

大和裕幸
 国立研究開発法人海洋研究開発機構理事長
 横浜国立大学客員教授、東京大学名誉教授


「国際海運ゼロエミ化への新しい取り組み方(CO2削減に向けた海事分野の取組と課題)」
講演資料
講演
大坪新一郎<br> 運輸総合研究所 客員研究員

大坪新一郎
 運輸総合研究所 客員研究員


「代替燃料LCA評価手法開発における我が国の取組等」
講演資料

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パネルディスカッション

コーディネーター
稗方和夫<br> 東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授

稗方和夫
 東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授

パネリスト
大和裕幸<br> 国立研究開発法人海洋研究開発機構理事長	<br> 横浜国立大学客員教授、東京大学名誉教授

大和裕幸
 国立研究開発法人海洋研究開発機構理事長
 横浜国立大学客員教授、東京大学名誉教授

パネリスト
大坪新一郎<br> 運輸総合研究所 客員研究員

大坪新一郎
 運輸総合研究所 客員研究員

パネリスト
赤松健雄<br> 伊藤忠商事株式会社プラント・船舶・航空機部門<br>       グリーン・イノベーション営業室 室長

赤松健雄
 伊藤忠商事株式会社プラント・船舶・航空機部門
       グリーン・イノベーション営業室 室長


=ゼロエミッション船=
「舶用アンモニア燃料の統合型プロジェクト」実現に向けた取組、課題と今後の展開
報告資料
パネリスト
塩入隆志<br> 国土交通省海事局海洋・環境政策課環境渉外室 室長

塩入隆志
 国土交通省海事局海洋・環境政策課環境渉外室 室長


「国際海運のGHG削減のための日本政府の取組とIMOにおける議論の動向」
報告資料
閉会挨拶
佐藤善信<br> 運輸総合研究所 理事長

佐藤善信
 運輸総合研究所 理事長

閉会挨拶

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公開期限: 2022年6月30日まで

一般向けの公開配信は2022年7月1日~を予定しております

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当日のプログラム

当日の結果

1.基調講演

テーマ:国際海運ゼロエミ化への新しい取り組み方(CO2削減に向けた海事分野の取組と課題)
    大和裕幸 国立研究開発法人海洋研究開発機構理事長
         横浜国立大学客員教授、東京大学名誉教授


 海運・造船・舶用分野は、社会的責任を負う総合産業。国際海運のゼロエミ化を進めるには新たな産業のやり方、パラダイムが必要である。現状、機関・燃料技術の開発、燃料サプライチェーンの整備、炭素課金等含めた規制の導入など不確定要素が多く、その中で設計を進めていくことは困難である。国際海運ゼロエミ化は「みんなで解決する社会的問題」であり、荷主、船主、船社、造船所、舶用・機関、燃料供給者、港湾管理者、規制当局、金融などのステークホルダー全体で合意形成を図り、解決していくことが不可欠である。そのためにはコストと環境負荷に関する数値データを示し、それに基づくステークホルダー間の協調が必要であり、そのためのシステムが望まれる。

 (一財)次世代環境船舶開発センターは、国際海運ゼロエミ化への「最適解」を求めるために「ソリューション評価システム研究会」を設置している。この中で、全世界トレンドの検討として、世界のバルクキャリア10000隻余についてシミュレーションを行ったところ、船舶燃料を重油からアンモニアへ転換を進める上で、LNG燃料船を導入する場合、しない場合で2050年超までを対象に比較したところ、LNG燃料を使用した方がOPEX(運航費)は抑えられるが、LNG燃料を使用しないケースに比べて、ゼロエミの達成が遅れる可能性があることが解った。

 シミュレーションデータで具体的なコストと環境負荷が計算できるため、特定プロジェクトの評価や長期的な展望・ビジョンを示すことが出来る。ステークホルダーの範囲やその役割・責任も明確となり、ソリューションの評価が融資可能性評価資料となるため、SDG+ESG指向で社会に発信することで、資金調達が可能となる。
 ゼロエミ化を契機に、造船ビジネスをオープンイノベーション型・ステークホルダー合意形成型に転換し、世界に向けて国際海運ゼロエミッション化を数量的に示すことで、世界に先駆けて具体的なゼロエミ航路の実装を行うことの必要性を感じている。



2.講演

テーマ:代替燃料LCA評価手法開発における我が国の取組等
    大坪新一郎 運輸総合研究所客員研究員


 水素やアンモニアといったゼロ炭素燃料は作成段階でGHGが発生することから、特にWtT(Well to Tank)排出量を削減しようとする場合は作ることが圧倒的に難しくなる。その観点では「作る方」にもっと目を向ける必要がある。

 WtT排出量は、使用電力の排出原単位、生産プロセス、輸送(例えば、生産地/消費地間の地理的距離)など様々なパラメーターで大きく変化する。これは、ゼロ・低炭素燃料だけでなく、LNGなどの化石燃料にもあてはまる。パラメーターを反映できる計算方法の確立、および、WtT排出量を削減する技術の開発が重要である。

 複数の燃料でケーススタディを行った結果、デフォルト値(※)として提案されているLSFO(低硫黄燃料油)のWtW(Well to Wake)排出量と比較すると褐炭由来のLH2で72%、水電解によるLH2とLNH3で99%以上、合成メタンでは70%WtW排出量が低くなった。また調査した全ての燃料は2030年までに開発中の効率化技術や回収技術等を適用した場合、十分な持続可能性を持つと結論づけた。
 ※各燃料のWtTやWtW排出量は、製造方法等によって大きく異なるが、特定の燃料種・製造方法等の組み合わせ(例えば、「天然ガスから製造した水素」)について、「目安」として設定される排出量。

 同じような製造経路であっても、事業者による生産・輸送における最新技術の導入、プラント設計やサプライチェーン全体の最適化等により、WtT排出量を大幅に削減できることが示された。そのような事業者の努力にインセンティブを与えるために、JTTRIでは次のような提言をしている。
・ゼロ/低炭素燃料のWtT排出量のデフォルト値は、保守的な仮定に基づいて排出可能範囲の上限を推定し設定すべきである。
・デフォルト値より良い値は、IMOが認める認証制度を通じて実証された場合に受け入れるべきである。
 また国際海上輸送に伴うGHG排出量については、在来の化石燃料を使用した場合、無視できない量となることから、2030年までにゼロ炭素燃料のBOG(Boil off Gas)を利用(専焼)できる主機の実用化が肝要である。

 ゼロ炭素燃料を「使う」方の技術開発は進みつつあるが、WtTを削減しつつ「作る」ためには、再エネ利用、原子力またはCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage(二酸化炭素回収・有効利用・貯留))の活用しかないが、いずれも世界のどこでも商業生産に至っていない。



3.パネルディスカッション及び質疑応答

パネルディスカッションに先立ち、カーボンニュートラル化の枠組みづくりの動向について塩入室長より、燃料調達を含めたプロジェクト化の取組について赤松室長よりご紹介いただいた。



3.1 発表①

「カーボンニュートラル化の枠組みの動向について」
塩入隆志 国土交通省海事局海洋・環境政策課環境渉外室 室長


 まず全体像としては、国際海事機関(IMO)のGHG(温室効果ガス)削減戦略(2018年4月採択)において、2050年目標は2008年比で半減、今世紀中できるだけ早期に排出ゼロを掲げている。また、2021年10月26日、国土交通省と日本船主協会より、「国際海運2050年カーボンニュートラル(=GHG排出ネットゼロ)」を目指すことを発表している。今後について、IMOは現行のGHG削減戦略について2023年春に改定予定であり、日本は「2050年GHG排出ネットゼロ」という新たな目標を提案している。

 国際海運におけるカーボンニュートラルを実現するためには、既存の重油からゼロエミッション燃料である水素・アンモニア等への燃料転換が不可欠であり、日本は、グリーンイノベーション基金により、水素・アンモニア等を燃料とするゼロエミッション船のコア技術となるエンジン、燃料タンク・燃料供給システム等の開発・実証を実施中である。

 IMOではGHG削減戦略の見直しの検討の他、船舶に経済的負担を課す経済的手法など、これまでよりもはるかに厳しい規制的手法の検討が開始されている。現在では複数の経済的手法と一つの規制的手法が各国から提案されている。IMOにおける議論がどこに落ち着くかは現時点では見えないものの、規制的手法としてのGFS(燃料油規制)と、経済的手法が並行して議論されることは確実な情勢である。

 今後の国際海運のGHG削減方策は、これまでに導入されてきた燃費規制等に比べ、新たな燃料の使用が要求される等、海事業界に大きな変化をもたらすものであり、早期の準備が必要である。



3.2 発表②

「舶用アンモニア燃料の統合型プロジェクト」実現に向けた取組、課題と今後の展開
赤松健雄 伊藤忠商事株式会社プラント・船舶・航空機部門グリーン・イノベーション営業室 室長


 燃料転換について、アンモニアに着目して取り組みを進めている。カーボンリサイクル系の燃料は、燃料の生産においてCO2を回収し、海上で燃やすことでCO2が排出され、ネットゼロとされているが、今後、CO2の回収と排出をどのように整理していくのかに注目している。アンモニアについては燃やしてもCO2が排出されず、あくまで生産時のCO2排出のみに焦点があたっている。

 燃料アンモニアの導入に向けた動きが進んでおり、エンジン開発については、国内国外のメーカーにて開発が進められており、早ければ2022年後半にエンジン実機テストが開始される予定である。また安全基準について、燃料船の安全基準に関しては既にIMOで議論が開始されていると認識している一方で、バンカリングの安全基準については、港湾ごとに整備されていくのでこの動きに注目している。

 今後の課題としては、技術関連についてはエンジンの開発、及び安全基準の協議と並行して船舶の開発を行っていくことである。また、燃料関係については認証制度と価格体系についての議論が必要となるが、最終的には経済性の議論となる。

 ゼロエミッションでの海上物流はコストが上がってしまうが、サプライチェーン全体を見える化した上で、ゼロエミというベネフィットとコストの分担を関係者全員で議論していくことが重要であると認識している。



3.3 パネルディスカッション

海運CO2削減に関わる政策や取組の動向と課題とともに、どのように連携していくべきか、現在の取り組みで足りないものは何か?を議論した。要旨は以下のとおり


①海運分野におけるカーボンニュートラルに向けた政策や取組の動向と課題について

<大和理事長>
・燃料がキーであり、どうやっていくかが課題ということを改めて感じた。
・2050年カーボンニュートラルを目指すには、燃料を国際的な議論により変えていく必要が出てくる。ライフサイクルでのカウントや、さらに基調講演で示した計算結果と合わせ、ゼロエミを達成する方法の中から、もっとも実行可能のもの、かつ、世界の皆さんが幸せになるものを選び出していくのが我々の使命。
・企業として、国として、こういう議論を深めるきっかけになったのではないか。

<大坪客員研究員>
・化石燃料と違い、「作る」ことが圧倒的に難しい。その中で、どうやって上流の生産側への投資を促進するかがポイント。
・必要条件の第一は、「良い燃料は良い」と誰でも分かること。優れた燃料を普及させるためには、公正な認証制度(燃料ロットごとのラベリング)、経済的インセンティブ、規制的手法が必要
・高価なゼロエミ燃料は節約したい、となるはずで、抵抗の少ない船型、効率のよい推進器、排熱利用、風力推進、ハイブリッド(バッテリー利用)なんでも使って、少しでも燃料消費量を減らしたい、と皆が考えるはず。


②今後の課題と対応の方向性について

<塩入室長>
・海運の脱炭素化を目指すだけであれば強い規制的手法を導入すれば良い。しかし ながら、海運の脱炭素によりコスト負担等は避けて通れない。影響は最小限にしつつ海運の脱炭素を達成することが必要。
・MBMは期待していることが国により異なる。制度は出来るだけシンプルなものが望ましい。合意は容易ではないが、妥協点を見つけていくことになる。
・欧州が提案している燃料油規制であっても、MBMであっても、海事産業に大きな変化をもたらすものであり、海事産業が国際競争の中で成長を続けられることが重要。そのためには、海事関係企業の個々の努力に加え、その枠を超えた連携も重要。

<赤松室長>
・海外においては、大手企業を中心にLNG燃料の取組が更に進み、彼らの焦点はゼロエミ船に向かっているとの認識。一方、多くの荷主・船社は様子見であり、まだら模様。
・韓国は造船が強すぎ、欧州は造船が不在、中国は船級/FLAGの国際的存在感は不十分であり、造船、海運、荷主、金融・保険、船級、FLAG、と海事分野のあらゆる分野で国際的な存在感がある日本に対し、国際海運のゼロエミ化に向けた期待は大きいと感じている。
・海事産業ではfirst moverに利点はなく、2nd/3rd moversに利点がある、と認識されており、そこが問題。行政には、IMOでも議論頂いているfirst moversをサポートする施策の導入をお願いしたい。

<大坪客員研究員>
・油は、作る人、運ぶ人、使う人は、それぞれ数が多く、独立して、自由に取引している。水素・アンモニアはWtTを減らしつつ生産・輸送しようと思うと莫大な投資になり、生産分野のプレイヤーだけでは投資判断できない。
・MBMに関しては経済学的に正しいものだが、一種の国際課税であり、各国の合意を取り付けるのは非常に国難。しかし、未来が不確実だと投資が進まないというのは過去の例を見ても明らか。理想的な状況を目指しつつ、不確実性をなくし投資を確実にするため、先行して、GFS(GHG Fuel Standard)など規制的手法、技術的手法を進めるのも一つの手ではないか。

<大和理事長>
・燃料がこの先どう転換していくかはわからないが、ライフサイクルを通じ、燃料の燃料製造や運送費のことを考え、常に本日のような議論をしていく必要がある。
・国際的な基準に提案、反論していくにあたり、プラットフォームと燃料製造や運航のコストを計算できるようなシミュレータデータがないとできない。科学的に規制を作っていくことも必要。
・統合型のビジネスの話も出ていたが、不確定要素があるも、数値的にきちんと見ていく癖をつける必要がある。
・日本が技術的に先行しても、2、3年後には中国、韓国が追い付いてくる。いい船を安く作るというのは永遠の課題。GHG削減をやったうえで、DXもしっかりやり、競争できるようにしていく必要がある

<稗方教授>
本日のテーマとなるグリーンへの転換については難しいところがあるが、継続的に議論をし、議論を深めていきたい。



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