JTTRI国際海運セミナー
新たな船舶燃料のライフサイクルアセスメント
- 国際活動
- 海事・港湾
主催 | 一般財団法人運輸総合研究所 |
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日時 | 2022/2/24(木)19:00~ (日本時間) |
テーマ・ プログラム |
新たな船舶燃料のライフサイクルアセスメント |
開催概要
国際海運のGHGゼロエミッションに向けては、グローバルな地球温暖化対策を確実なものとするため、船舶からのGHG排出量(Tank to Wake: TtW)をゼロに抑えるだけでなく、船舶運航のために供給される燃料や電力等のエネルギーが、生産され供給されるまで(Well to Tank: WtT) のGHG排出量も同時に減らしていくことが重要との声が高まっています。エネルギーが原料として採掘され、燃料として製造、船舶に供給、消費されるまでにどれだけのGHGを排出するのかを計算し評価するためには、ライフサイクルアセスメント(LCA)を実施することが非常に重要です。
運輸総合研究所においては、検討委員会を設置し、各種代替燃料のライフサイクルGHG排出量の計算評価を行い、GHGに悪影響を与える燃料を推奨しないために上流域のGHG排出量を評価する分析手法の有用であることや、計算評価の結果を通じ、代替燃料を調達する地域/国や生成プロセス・システム、また、生産・輸送効率等によりWtTの排出量に大きな幅があることを確認しました。
本セミナーでは、当研究所で実施している調査研究の成果について報告するとともに、他国のLCAに対する検討状況や今後の展開についてご講演いただきました。
※本セミナーは、英語での講演となります。(日本語同時通訳)
プログラム
開会挨拶 | |
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講演 | |
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質疑応答・まとめ |
【モデレーター】 モデレータ略歴 |
当日の結果
船舶用燃料のライフサイクルにおけるGHGガイドライン(案)の紹介
Lanfranco BENEDETTI
船舶用燃料のライフサイクルにおけるGHGガイドライン案についてはオーストラリア、日本、ノルウェー、EU加盟国、ICSが提案しているテクニカルツールである。ガイドライン案については、今後IMOで議論されていくこととなる。本ガイドライン案の対象範囲は地球温暖化に最も寄与するCO2、NO2であるが、将来的に排出量の割り当てやダブルカウントの排除について方法論が確立されればさらに広がることもある。我々は燃料に関する常設の専門家パネルを設置し、ガイドライン案の技術的な要素について提案を行った。その検討内容は以下の大きく4点である。
1点目は、持続可能性基準(Sustainable Criteria)と燃料ライフサイクルラベル(Fuel Lifecycle Label)の定義である。サステナビリティに関しては様々なことを考慮する必要があり、期間・先見性も様々である。
2点目は、優先燃料の設定である。燃料ごとの排出係数はまだ試験的であり合意されていません。提案文書中のモデルは合意形成中であり、まだスタートについたところである。科学的知見を持つ専門家の助言を得て、排出係数を設定していくこととしている。
3点目は、再生燃料がどのような起源をもつ燃料なのかを知ることである。これは燃料をどのようにライフサイクルの中で考慮するかに影響するためである。
4点目は、検証・認証スキームに関わる点である。ここでは化石燃料のデフォルト値だけでなく実際得られた実績値の両方を設定するかであり、注意が必要である。これは排出されるGHGの要素を特定することにつながり、エネルギー問題に関わることでもある。
ゼロ・低炭素燃料のWtT排出量の評価
~LCAガイドライン案検討深化のための燃料経路の事例研究~
大坪 新一郎
WtT排出量は、使用電力の排出原単位、製造方法、供給地域(製造地と供給地との距離・輸送方法)などのパラメータによって地域間だけでなくプロジェクト間でも大きく変わると考えている。更に、プロジェクトの開始年によって適用される燃料生成技術が改良されることもあり得る。複数の燃料でケーススタディを行った結果、デフォルトのLSFOのWtW排出量と比較すると褐炭からのLH2では72%、電気分解からのLH2とLNH3では99%以上、合成メタンでは70%WtW排出量が低くなる。したがってJTTRIでは、調査した全ての燃料は2030年までに開発中の効率化・緩和策を適用した場合十分な持続可能性を持つと結論づけた。
パワーグリッドのCO2原単位は、国や地域、電力会社によって大きく異なる。したがって、LNGを含む燃料生産の効率は、現地のパラメータと将来期待される改善案を用いてケースバイケースで設定する必要がある。
同じような製造経路であっても、生産・輸送における最新技術の適用、プラント設計やサプライチェーン全体の最適化により、WtT排出量を大幅に削減できることが分かった。そのような努力にインセンティブを与えるために、JTTRIでは次のような提言をしている。
・ゼロ/低炭素燃料のデフォルトのWtT排出量は、保守的な仮定に基づいて排出可能範囲の上限を推定し設定すべきである。
・デフォルト値より良い値は、組織が認める認証制度を通じて実証された場合に受け入れるべきである。認証制度は、説明責任とトレーサビリティを保証するものでなければならない。
CCSのCO₂回収率の高さは、マテリアルフローとエネルギーフロー(発電)の両方で排出量の低減に直結する。 その割合はプロジェクトごとに異なり、燃料生産者の裁量で変動する。したがって、ガイドライン案では、デフォルトのWtT排出量において、固定的な回収率を想定すべきではない。
TtWにおける燃料ライフサイクルラベル(FLL)と認証制度の概要
Tore LONGVA
FLLの目的は、燃料の持続可能性とライフサイクルエミッションを評価するために燃料を標準化することであり、これにより、ライフサイクル全体で船舶のGHG排出量が算定可能になる。期待される内容としては例えば、第1部は炭素含有量、第2部は原料であり、何由来の炭素であるかはTtWの計算時に特に重要となる。また、意味のあるデフォルト値を提供される必要があり、あくまでも例だが、バイオ燃料であることが認証基準の中でも非常に重要となる。
類似概念の例としては船級符号があり、船級によってルールは若干異なるが、IMOガイドラインに則って定められている。FLLの基準はLCAガイドラインで定められるが、詳細な審査や認証要件はIMOが認定する認証制度で定められ、これにより、知りたい情報が明確になると思われる。
認証の概念的アウトラインとして、サプライチェーンの上流をIMOが俯瞰的に見て、認証制度を評価、認定、モニターすることになる。なお、ガイドラインには含まれないが、船舶側での認証も重要となる。
FLLは選択される手法や関連する条件に左右される。対応すべき課題として、例えば、持続可能性基準パートや製造過程の分類、国や地域の差異を考慮した系統電力/再生可能エネルギーの活用、二酸化炭素回収・貯留の有無、個別具体的な認証かデフォルト値かなど、認証のため様々な条件と分類を決定する必要がある。また、それが船上で適切に作用するか確認しながら、最終的に検証および認証制度の基準や手順に繋げていく必要がある。
オーストラリアの水素の生成源認証制度について
Prerna Bhargava
オーストラリア政府においては、水素の製造に伴う二酸化炭素排出量に関する情報を消費者に提供する、水素の効率的なトレードを促進する、プロジェクトの商業化を支援する、といった観点から、水素の生成源認証制度、GOを進めている。2019年11月 に発表した「水素国家戦略」においてGOは初期の優先行動項目となっており、消費者の選択を促進するために、水素の重要な特性を透明性をもって追跡するものであり、排出量計算の一貫した手法の開発に重点を置いている。
各国は「グリーン」または「低排出ガス」水素の定義を独自に設定しているが、国際的な動きと国内のスキームの整合性が重要である。
現在、水素の炭素排出量計算手法に関する国際協力( International collaboration on carbon accounting methodologies for hydrogen(IPHE))の水素製造分析タスクフォースではオーストラリアが主導的な役割を果たしており、昨年10月に最初のワーキングペーパーを発表した。これはWell to Gateをカバーしており、CCSによる蒸気メタン改質、CCS付き石炭ガス化、電解 、副生水素の4つの主要な生産パスウェイにおける排出量取引のアプローチを含んでいる。また、今後IPHEはISOと協力し、正式な国際規格の策定を検討している。
GO は2021年12月に試験運用を開始し、炭素排出量計算手法のテストと改良しているところであり、今後、GO スキームに対する消費者市場のニーズに基づき活動を続けていく。
質疑応答、まとめ
視聴者からの質問として、将来的なCCSの実効性、カーボンリサイクルメタンの船上排出時のGHG排出量の計上方法、燃料ライフサイクルラベル(Fuel Lifecycle Label)の実施方法やIMOにおけるガイドライン案とFuelEU Maritime Annex II GHG intensity indexによるとの差異などに関する質問など多岐にわたる質問が寄せられた。また大坪客員研究員の発表に関連し、水素とアンモニアにおける水電解に要するエネルギーの差異や、日本から豪州への液化水素輸送時の船舶から排出されるGHGの取り扱いなどについても質問がなされた。最後に、モデレータの中川室長によるまとめとして、船舶燃料LCAガイドラインの最大の論点の一つは、燃料の採掘、製造、輸送、バンカリングまでのWell to TankのGHG排出量のデフォルト値や詳細計算方法に関し、化石燃料が用いられたとしても地中貯留、液化、再生可能エネルギーの利用など各プロセスにおける努力によりGHG排出量を改善できる余地があり、そのような取組みが反映されるよう、詳細な計算方法を含めて、ガイドラインで奨励されるべきあることが述べられた。また、GHG排出量の把握には、適切な認証制度が必要であり、世界的にもいくつかの制度が開発中であることなどが述べられた。