東京圏の鉄道の中長期的課題への対応とコロナ禍に関するシンポジウム~人口と需要の動向を踏まえた沿線魅力の向上~
- その他シンポジウム等
- 総合交通、幹線交通、都市交通
- 鉄道・TOD
主催 | 一般財団法人運輸総合研究所 |
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日時 | 2021/7/5(月)13:30~18:00 |
会場・開催形式 | ベルサール御成門タワー (東京) |
テーマ・ プログラム |
長期的社会環境の変化とコロナ禍が東京圏の鉄道利用に及ぼす影響 |
講師 | 開会挨拶:宿利 正史 運輸総合研究所会長 来賓挨拶:藤井 直樹 国土交通省 国土交通審議官 基調講演:「長期的社会環境の変化とコロナ禍が東京圏の鉄道利用に及ぼす影響」 森地 茂 政策研究大学院大学 客員教授 名誉教授 特別講演:「各鉄道事業者のコロナ禍の影響と対応」 坂井 究 東日本旅客鉄道株式会社 常務取締役総合企画本部長 城石 文明 東急電鉄株式会社 代表取締役副社長執行役員鉄道事業本部長 野焼 計史 東京地下鉄株式会社 常務取締役鉄道本部長 藤井 高明 西武鉄道株式会社 取締役常務執行役員鉄道本部長 五十嵐 秀 小田急電鉄株式会社 常務取締役交通サービス事業本部長 吉野 利哉 東武鉄道株式会社 取締役常務執行役員鉄道事業本部長 研究成果報告 (1)「全駅乗降人員の変化に関する分析(駅カルテの分析)」 白木 文康 研究員 (2)「ビックデータを活用した訪日外国人の観光行動と鉄道利用に関する分析」 松岡 美沙子 研究員 (3)「東京圏の人口移動とその要因に関する分析(コロナ禍による移動もあわせ)」 室井 寿明 研究員 全体講評:森地 茂 政策研究大学院大学 客員教授 名誉教授 閉会挨拶:佐藤 善信 運輸総合研究所理事長 |
開催概要
当研究所では、2012年から東京圏の鉄道事業者6社と共同で、「今後の東京圏を支える鉄道に関する調査研究」を継続的に実施してきました。今回、コロナ禍の影響の長期化を踏まえた人口と需要動向を踏まえた沿線の魅力度向上などをテーマとしてシンポジウムを開催しました。
最初に、この共同研究の委員長として研究をけん引していただいている森地茂 政策研究大学院大学名誉教授、当研究所研究アドバイザーから「長期的社会環境の変化とコロナ禍が東京圏の鉄道利用に及ぼす影響」について基調講演をいただきました。
その後、鉄道事業者6社の代表の皆様からそれぞれ「コロナ禍の影響と対応」をテーマとして特別講演をいただきました。
後半では、2019年から2020年にかけて行ったこの共同研究の成果の中から3つのテーマを取り上げ、当研究所の3名の研究員から報告を行いました。
今回のシンポジウムは大学等の研究機関、国土交通省、交通事業者、コンサルタントなど会場・オンラインあわせて1001名の参加者があり、盛会なシンポジウムとなりました。
プログラム
開会挨拶 |
宿利 正史 運輸総合研究所会長 開会挨拶 |
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来賓挨拶 |
藤井 直樹 国土交通省国土交通審議官 来賓挨拶 |
基調講演 | |
特別講演1 | |
特別講演2 | |
特別講演3 | |
特別講演4 | |
特別講演5 | |
特別講演6 | |
報告 | |
報告 | |
報告 | |
全体講評 |
森地 茂 政策研究大学院大学 |
閉会挨拶 |
佐藤 善信 運輸総合研究所理事長 開会挨拶 |
当日の結果
当日の発表概要は以下の通りです。
【基調講演】
『長期的社会環境の変化とコロナ禍が東京圏の鉄道利用に及ぼす影響』
森地 茂(政策研究大学院大学客員教授、名誉教授)
本日のシンポジウムは東京圏の鉄道動向への影響について、女性の働き方、居住地選択及びインバウンド観光の観点から分析しています。「駅カルテ」による駅ごとの人口動向分析についても行っています。
東京圏の人口増加は東京圏以外からの15~24歳の若年層の転入超過が主因であり、他の年齢階層はむしろ転出超過です。鉄道沿線ごとの人口増加も東京圏外からの転入超過が主因です。次に東京圏の鉄道各線沿線の就業人口の増加では、男性より女性の増加率が高く、特に遠距離郊外より10~30㎞圏では増加率が高くなっています。鉄道各社の輸送人員増加の分析ではいずれも女性の増加が主因となっています。
コロナの影響と今後に関しては、コロナ禍の東京圏における若年層の人口動向は、地方からの大学入学者は4%増加ですが転入は11%減少でした。また、就職世代は僅かに減少、さらに25~40歳が減少していますが、これは東京への転勤の抑制だと思われます。こうした変化はコロナ収束後には戻ると考えられます。東京圏の企業がオフィスを減少させると地価が下落し、別の産業の企業の転入が増加します。住宅についても同様のことが起こります。また、外国人居住者や観光客はコロナ禍前の状況に戻って増加すると考えられます。景気の回復には2年程度は必要であると考えられます。テレワークは従業員全体に対する割合がコロナ禍前より上昇しましたが、2020年12月時点でも1割程度の上昇に留まっているため、今後のテレワーク率はさらに下がる可能性も考えられます。ただし、定期利用の減少や券種転換は起こり、今後はその影響の分析が必要と考えられます。
あまりに悲観的な見通しでは、長期的経営戦略を見誤るのではないでしょうか。
【特別講演】
(1)東日本旅客鉄道株式会社 坂井 究(常務取締役総合企画本部長)
『コロナ禍の影響と対応について』
今年度の運輸収入の見通しとして、定期外の在来線関東圏で85%、新幹線で80%、定期で80%程度への回復を見込んでいます。経営環境が大きく変化する中、輸送サービス、生活サービス、IT・Suicaサービスの相乗効果を発揮し、将来に向けた変革の取組みのレベルとスピードを上げていきます。また、駅のシェアオフィス、JRE MALLの拡充、列車を活用した荷物輸送を進める他、ピークシフトや設備のスリム化による構造改革、ダイナミックプライシング等による混雑緩和に取組んでいきます。
(2)東急電鉄株式会社 城石 文明(代表取締役副社長執行役員鉄道事業本部長)
『コロナ禍の影響と対応(東急電鉄)』
コロナ禍で2019年度比30%程度の利用者の減少が続いていますが、これを変革の機会と捉え、運行・駅サービス体系の変革、テクノロジー活用によるオペレーションの変革、社内諸制度・ルールの変革を断行していきます。また、田園都市線地下区間の各駅リニューアルや、地域サービス・他の交通手段を繋げるプラットフォーム構築など新たな需要創出にもチャレンジし、多様なライフスタイルに繋がる、時代に即した公共交通としての役割を果たしていきます。
(3)東京地下鉄株式会社 野焼 計史(常務取締役鉄道本部長)
『コロナ禍の影響を踏まえた東京メトロの取組み』
コロナ禍で利用者は最大28%まで落ち込んだものの、その後は最大約71%まで回復し、足元では回復傾向にあります。ポストコロナの社会変容を見据え、選ばれる鉄道会社となるため「安心な空間」「パーソナライズド」「デジタル」の3つのキーワードを軸に、これまでの取組みを着実に進めるとともに、需要創出に向けた実質乗り放題サービスや東京都市内観光「CityTourism」需要の創出に向けた企画乗車券発売等の新たな取組みを進めていきます。
(4)西武鉄道株式会社 藤井 高明(取締役常務執行役員鉄道本部長)
『コロナ禍の影響と対応』
コロナ禍での利用者の減少は時間帯、エリアごとに差異があり、テレワークの進展により定期券の利用割合も減少しています。コロナ収束後はインバウンド、国内景気は回復が見込めますが、価値・行動変容は続くと想定されるため、設備・ダイヤ等の適正化による損益分岐点の引下げ、レジャー施設を活用した移動需要の創出、グループ内外のデータ利活用によるデジタル経営、サステナビリティ経営を通じてビジネスモデルを変革していきます。
(5)小田急電鉄株式会社 五十嵐 秀(常務取締役交通サービス事業本部長)
『小田急電鉄におけるコロナ禍の影響とその対応について』
コロナ禍での利用者は全体で約3割の減少であり、特に特急を含めた定期外収入の減少が大きく、観光利用の減少が要因であると考えています。将来の不確実性の高い時代に適合するため、地域価値創造型企業を目指していきます。安全性の向上や省力化といった持続可能な交通インフラの構築や、小田急MaaS等のデジタル技術を活用したビジネスモデルの確立、エリアマネジメントなど地域の特徴を捉えたまちづくりを多面的に展開していきます。
(6)東武鉄道株式会社 吉野 利哉(取締役常務執行役員鉄道事業本部長)
『コロナ禍の影響と対応』
2020年度の鉄道輸送人員は約3割減となっており、定期外は観光地、定期は都内エリアの減少が大きくなっています。事業環境の変化を踏まえ、ワンマン運転区間の拡大やドライバレス運転の実現等による「事業構造改革の推進」と、鉄道サービス拡充やTOBU POINTの付加価値向上、日光MaaS導入等による「生活ニーズの多様化に応える事業の推進」により、経営体質強化を図り持続可能な事業を推進します。
【研究成果報告】
(1)『全駅乗降人員の変化に関する分析(駅カルテの分析)』
白木 文康 前研究員
コロナ禍以前は東京圏の鉄道需要は増加傾向にありましたが、駅単位でみると必ずしも増加の駅ばかりではなく、駅単位での乗降人員の変動とその要因を明らかにすることは鉄道事業者の経営等を考えるうえで重要であると考えられることから、駅カルテを作成し、分析を行いました。概ね20年程度を対象とした長期的な分析では、
・駅別乗降人員の変動を5つのパターンに類型化すると、同一方面へ延びる並行路線の駅であっても類型の傾向が異なること
・駅別乗降人員と駅勢圏人口の関係を類型化し、類型ごとに要因を分析すると、乗降人員の増減に寄与する要因は様々であること
また、5年以下を対象とした短期的な分析では、
・近年の駅別乗降人員の変化では、特に定期の増加率が大きな駅が多いこと、同一路線内でも駅によって定期/定期外の増減率に差があること
・コロナ禍の駅別乗降人員の変化では、定期では大学近辺の駅での減少率が大きく、定期外では企業の集積地や観光地で減少率が大きいこと
などが確認できました。
近年の就業状況と乗降人員の関係やコロナ禍での減少率の差の要因分析など、引き続き駅ごとの分析を進めていくことが必要であります。
(2)『ビックデータを活用した訪日外国人の観光行動と鉄道利用に関する分析』
松岡 美沙子 研究員
訪日外国人はコロナ禍で大幅に減少したものの、ここ10年ほど右肩上がりに推移しており、今後も需要が拡大すると予想されるため、訪日外国人の旅行実態の把握は引き続き重要です。官公庁による主な調査・統計を用いて2017年の東京圏への訪問者数を推計した結果、入国者数2,743万人に対し、年間約1,133~1,317万人となりました。
また、モバイル空間統計データによる主要訪問地の分析では、都心部の訪問者数の約26%が新宿・銀座に訪問し、郊外部ではみなとみらいや箱根といった関東南部への訪問が多いことがわかりました。宿泊地分析では、都心部では宿泊収容数に起因する結果と推察された一方、郊外部では空港や新幹線駅などアクセス性に優れた場所の宿泊者が多いことがわかりました。
観光ルート分析では、人気訪問地点間の移動が多くを占め、一体で周遊している可能性が示唆されました。主要路線の鉄道利用者数の推計では、新宿・銀座地区が乗降人員は多い一方、乗り換え人員は秋葉原が多いという結果が得られました。
今回は一定の仮定をおいて鉄道利用者数を推計したため、今後は詳細なアンケート調査等により訪日外国人の行動実態や鉄道利用についてより細かく分析し、路線別特性も把握していきたいと考えています。
(3)『東京圏の人口移動とその要因に関する分析(コロナ禍による移動もあわせ)』
室井 寿明 研究員
東京圏(1都3県)の人口移動は、長期的には転入超過が続いています。1954年以降、転出超過になったのは1994年のみです。近年は23区と埼玉県の転入超過が大きくなっています。
鉄道沿線別に着目し、対地方、東京圏内々、自沿線内別の人口移動について、国勢調査を用いて分析しました。特徴的なのは、地方からの転入超過がほとんどで、東京圏内々では転出超過になっている路線が多いことです。一方、東京メトロ丸ノ内線・南北線、東武東上線・伊勢崎線、JR東北本線は、東京圏内々の転入超過も少なくありませんでした。
続いて、過去15年間の引越経験に関するアンケートを実施(2020年5月)しました。その結果、進学・就職・転職より、結婚・子育てになると遠く離れた場所に住み替える人が極端に減少することが分かりました。進学・就職で沿線に選ばれるためには「鉄道サービス」が、結婚・子育てでの定住には「沿線まちづくり」の両輪が重要です。
コロナ禍(2020年)の人口移動では、東京圏では地方からの転入者数が大幅に減少(8.8%減)したものの、転出者数はほぼ変わらない(0.5%増)結果でした。転入超過が大幅に減少したのは23区のみで、多摩・3県の影響は僅かに留まりました。
【全体講評】
森地 茂(政策研究大学院大学客員教授、名誉教授)
新型コロナの影響で厳しい経営環境にある中、各社の沿線状況や経営戦略など興味深く聞くことができました。講評として4点申し上げます。
・沿線の魅力向上・・・高齢化が進む中、若い世代を引き付け多世代型のミックスした沿線にしていかないと、鉄道事業だけではなく沿線ビジネスも成立しなくなります。
・運賃改定・・・東京圏の運賃は地方に比べ安く、需要の増加に支えられ20年間運賃改定をしませんでしたが、経営が厳しくなっている今、運賃アップも考える必要があります。
・データ分析・・・2020年の国勢調査はコロナ禍での調査のため、移動回数が少なくなる可能性があります。全国や東京のデータと併せて分析していく必要があり、互いのデータを公開し分析することが必要であります。
・コロナの影響と社会変化の影響の見極め・・・コロナ禍により、都心へ行かず郊外で買い物を済ます傾向が強まりましたが、女性の社会進出や高齢化などと合わせて、定期外需要の今後の動きも見ていかなければなりません。