九州におけるマルチモーダルモビリティサービス「my route」について  ~トヨタ・西鉄・JR九州によるMaaSの共創~

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第69回運輸政策セミナー(オンライン開催)

Supported by 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION

日時 2021/3/19(金)15:00~17:00
開催回 第69回
テーマ・
プログラム
九州におけるマルチモーダルモビリティサービス「my route」について
 ~トヨタ・西鉄・JR九州によるMaaSの共創~
講師 間嶋 宏  トヨタファイナンシャルサービス株式会社モビリティーサービスグループ
      兼 トヨタ自動車株式会社未来プロジェクト室主幹
木下 貴友 九州旅客鉄道株式会社総合企画本部経営企画部モビリティサービス推進室長
阿部 政貴 西日本鉄道株式会社まちづくり推進部課長
コメンテータ 長谷 知治 東京大学公共政策大学院特任教授

開催概要

トヨタ自動車、西鉄、JR 九州の3 社は、交通及び店舗・イベント情報のサービサー各社と協力し、2019 年よりマルチモーダルモビリティサービス「my route(マイルート)」を福岡市・北九州市で展開している。トヨタ自動車は、モビリティカンパニーを目指す取り組みの一環として「my route」の開発を行っており、西鉄及び JR 九州は、「my route」を活用した MaaS の推進、AI オンデマンド交通の展開、乗りつぎ利便性の向上など、持続可能な公共交通ネットワーク構築に向けた取り組みを行っている。
 本セミナーでは、トヨタ自動車による「my route」の取り組みとともに、長年競争関係にあった西鉄と JR 九州が、少子高齢化による需要減少、労働力の不足、新型コロナウイルスの影響などの逆境下で如何に「競争から協調」に転換したのか、全くの異業種であるトヨタ自動車と連携して、どのように MaaS に取り組んでいるのかについて、3 社から紹介しつつ、交通政策を専攻する東京大学公共政策大学院 長谷知治特任教授をコメンテータに迎えて議論を行うことを通じ、地域の交通に関わる幅広い事業者等が参画し、利用者にとって真に意味のあるMaaSを構築するための視座を得た。

プログラム

開会挨拶
宿利 正史<br> 運輸総合研究所 会長

宿利 正史
 運輸総合研究所 会長


開会挨拶
講  師
間嶋 宏<br> トヨタファイナンシャルサービス株式会社モビリティーサービスグループ<br> 兼 トヨタ自動車株式会社未来プロジェクト室主幹

間嶋 宏
 トヨタファイナンシャルサービス株式会社モビリティーサービスグループ
 兼 トヨタ自動車株式会社未来プロジェクト室主幹

講演者略歴
講演資料

講  師
木下 貴友<br> 九州旅客鉄道株式会社総合企画本部<br> 経営企画部モビリティサービス推進室長

木下 貴友
 九州旅客鉄道株式会社総合企画本部
 経営企画部モビリティサービス推進室長

講演者略歴
講演資料

講  師
阿部 政貴<br> 西日本鉄道株式会社まちづくり推進部課長

阿部 政貴
 西日本鉄道株式会社まちづくり推進部課長

講演者略歴
講演資料

コメンテータ
長谷 知治<br> 東京大学公共政策大学院特任教授

長谷 知治
 東京大学公共政策大学院特任教授

講演者略歴
講演資料

モデレータ
山内 弘隆<br> 運輸総合研究所 所長

山内 弘隆
 運輸総合研究所 所長

閉会挨拶
佐藤 善信<br> 運輸総合研究所 理事長

佐藤 善信
 運輸総合研究所 理事長


閉会挨拶

講演資料

当日の結果

ご講演・パネルディスカッションの概要は以下の通りです。

1.講演(1)
間嶋 宏
トヨタファイナンシャルサービス株式会社モビリティーサービスグループ 兼 トヨタ自動車株式会社未来プロジェクト室主幹 

 マルチモーダルモビリティサービス「my route」は、ルート検索や予約・決済、地域イベント・スポット情報の収集が同一アプリケーション上で行えるサービスである。2018年11月に福岡市で実証実験、翌年には福岡市と北九州市でサービス提供を開始した。現在サービス提供エリアは全8地域に拡大している。
 「my route」は“もっと移動したくなる環境づくり”を通じて、「すべての人の移動の自由」と「ずっとにぎわう街づくり」に貢献したいというビジョンを掲げている。自動車は様々な移動手段の中の一つと位置づけ、ユーザー状況・都市状況に応じた最適な移動手段を提供している。
 サービス提供体制の特徴として、西日本鉄道やJR九州のような地域の事業者との共創を通じて、移動需要の創出と地域活性化に取組んでいる。またトヨタグループの持つ知見・サービスも活用しプロジェクト運営・推進にあたっている。
 「my route」の取組みとして、「my route」限定商品も含んだバスや鉄道のデジタルチケット販売、リアルタイムなバス位置情報の提供、訪日外国人向けのフリー乗車券の販売等を行っている。
 今後も様々な地域でパートナーシップを広げ、課題解決に取組んでいきたいと考えている。

2.講演(2)
木下 貴友
九州旅客鉄道株式会社総合企画本部経営企画部モビリティサービス推進室長

 少子高齢化や運輸業における人手不足、厳しい収支状況、更には新型コロナウイルスの影響もあり、公共交通を取り巻く環境が厳しい状況において、当社ではMaaSにより様々なモビリティの連携やデジタル技術の活用を推進することで、公共交通ネットワークの再構築を図り、持続可能な交通ネットワークづくりを目指したいと考えている。MaaSの取り組みは公共交通ネットワークのあり方の大転換の契機と捉えており、当社の長期ビジョンでもモビリティサービスを軸として据えている。
 MaaSに取り組む過程で、地方自治体だけでなく、これまで競合他社であった他の交通事業者とのソフト・ハード両面での連携の重要性が認識され、当初は社内で議論があったものの、公共交通を取り巻く環境の変化に対応するため、西日本鉄道との連携に踏み切った。これまでは各事業者が個別に輸送サービスを提供してきたが、これからは他の交通事業者と協調して輸送サービスの利便性向上に取り組み、移動の全体最適化を目指している。実施例として、JR下曽根駅における電車と路線バスの乗り継ぎ連携に取り組んでいる。
 また、トヨタが開発したMaaSアプリ「my route」を活用し、九州地域における交通輸送サービスの充実と利便性向上に取り組んでいる。福岡市・北九州市では、トヨタと西日本鉄道が取り組んでいた実証実験が本格実施されるタイミングで当社も参画し、訪日外国人や観光客の利用も想定したサービスの充実を図っている。また、宮崎県における実証実験では、新規開業した駅ビルや既存の市街地を中心に回遊性の向上を図ることで移動需要の創出に取り組み、実証実験期間後も実装フェーズとして対象エリアを宮崎市・日南市に広げ、デジタルチケットの販売やマルチモーダルサービスの連携、観光情報の発信等、多様なサービスを提供している。
 このように、MaaSを活用することで新しい持続可能な公共交通ネットワークの実現を目指している。

3.講演(3)
阿部 政貴
西日本鉄道株式会社まちづくり推進部課長

 当社は、鉄道の事業と並んでバス事業も展開している。今回は、バス事業からみたマイルートを紹介する。新型コロナ感染拡大前におけるバス事業の課題には、運転士の不足があった。そこに新型コロナの感染拡大による利用者減少が追い打ちをかけている。
公共交通の輸送人員は、都市部では回復傾にあり、地方部でも下げ止まりの傾向にあったが、運転士が不足していた。運転士の給料を良くればよいとの意見もあるが、採算が取れていない事業者が大半で、容易に雇用を生み出せない状況にある。そこに、コロナによる収入減が生じたが、コロナによる収入減は、完全には回復が望めない状況と考えている。
 そのような状況を受けて、従前は、幹線から地域交通までのすべてを当社単独で担っていたが、他の事業者と連携して交通ネットワークを構築していく方向へシフトしている。例えば、幹線交通をJR九州、地域交通を他の事業者に任せるなどして、当社はその中間に位置する支線にリソースを集中できる環境をマイルートで実現しようとしている。そのような環境を作ることで、各事業者が経営資源を選択・集中しても、交通ネットワークが維持されるようにする。また、スマートフォン等を通じて、利用者は一つの交通ネットワークとして利用できるように取り組んでいる。

4.コメント
長谷 知治
東京大学公共政策大学院特任教授

 先ず、「my route」を事例と取り上げた経緯を述べる。東京大学公共政策大学院の授業にて、地域の公共交通を維持している事例を取り上げてきたが、その中でも競争関係にある事業者同士が協力している「my route」の取り組みに学生が非常に感銘を受けており、運輸政策セミナーに参加されるような方々こそ、競争関係を超えた本取り組みを聞いてもらうべきだと思い本日のセミナーに至っている。
 交通・観光が抱える課題解決策の一つとしてMaaSに対する期待は高いが、他方でクリアする必要がある課題も多い。例えば交通事業者間の共同、ビジョンの必要性、運営体制の構築、サービスの継続性、新サービスの受容性、人材、異業種連携などがある。
本日の各発表から見えてくることは以下である。
①トヨタモビリティサービス等のディーラーがメンバーであることによるメリット・意義はどのようなものがあるか。
②「my route」が日本の様々な都市で導入されつつあるが、どのようにして導入する都市を決めていくのか。
③導入の形態は様々あるが、実証事業活用の有無の違いは何によるものか。
④競合相手との連携によるサービス向上が見られる。
⑤ラストワンマイル、デマンド交通との連携によるサービス向上が見られる。
⑥「my route」ではデジタルチケットの購入等が必要となる。またデジタルチケットを提示して利用しているが、OD等のデータが取れないのではないか。交通系ICカードとの連携もあるのではないか。

5.パネルディスカッション

運輸総合研究所山内所長をモデレータとして、「my route」のサービス内容や今後の展開について議論しました。
長谷先生のポイントに対するコメントは以下の通りです。
①販売店は地域に根付いていて、地域の特性を把握している。またサービス展開上のアドバイスをもらえる点にあり、販売店との連携は必要。
②地域の交通課題をともに解決しようと考えるパートナーが存在することが必要である。また対象地域を拡大するだけでなく、既存のサービス向上にも取り組んでいく。
③競合他社と連携するハードルは高いことと考える。一方でMaaSは一つのサービスとしての交通を提供するものであり、地域の交通事業者が一体となって持続可能な形で取り組んでいけるかが重要。
④デマンド交通との連携は検索結果の表示や予約の電話番号の記載はしている。今後は予約連携等も考えられる。
⑤現時点では、購入画面を見せるだけであり、ODデータは取得できないが、サービスの更新とともに解決していくと考えている。

次に視聴者の方々からの質問について議論しました。主なやりとりは以下の通りです。
・高齢者の方々にも多く利用いただいている。スマートフォンを使い慣れていない方にも、「my route」をひとつ導入すれば様々な機能を満たせる点で有効ではないか。
・サービス導入当初は乗務員が戸惑う部分もあったが、現在では対応できている。また将来的に同様のサービスへの対応は必要である。
・交通手段の連携と合わせて、商業等との移動目的との連携を進める必要がある。まずは、交通事業者以外の方々にMaaSの取り組みを知っていただくことが重要である。取り組みを理解いただくことで参画しようとする商店も増えてきている。また実験の段階ではあるが医療や公共サービスとの連携も始まってきており、将来的に連携していきたい。

本開催方向は主催者の責任でまとめています。