ワーケーション~働き方と地域活性化

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第75回運輸政策セミナー(オンライン開催)

Supported by 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION

日時 2021/7/30(金)15:00~17:30
開催回 第75回
テーマ・
プログラム
ワーケーション~働き方と地域活性化
講師 第75回運輸政策セミナー(オンライン開催)
日 時:2021年7月30日(金)15:00~17:30 
場 所:オンライン開催
テーマ:ワーケーション~働き方と地域活性化
1.講  演
「アフターコロナのワークプレイス、ワークスタイル」
松下 慶太 関西大学社会学部教授
「交通事業者としてのワーケーションの取り組み
 ~日本航空における取組みについて~」
東原 祥匡 日本航空株式会社 人財本部人財戦略部アシスタントマネジャー 
「ワーケーションで地域活性化」
岡田信一郎 株式会社南紀白浜エアポート 代表取締役社長 
「受け入れ施設として取り組む「参加・共創型」ワーケーション
~軽井沢プリンスホテルの取組みについて~」
赤松 衛一 株式会社プリンスホテル 執行役員兼マーケティング部長兼海外事業部長


2.パネルディスカッション及び質疑
コーディネーター:山内 弘隆  一般財団法人運輸総合研究所所長
パネリスト:講演者

開催概要

 ワーケーションは旅行業にとって、休日など特定の時期への偏りによる混雑の回避、宿泊日数の長期化などにつながるとともに、関係人口の創出による地域経済の活性化など、地域社会が抱えている課題解決へ貢献することが期待されている。
 ワーケーションの普及促進にあたっては、送り手側となる企業と受けて側となる地域が密接に 連携しながら取組みを進めていくことが重要となる。
 こうしたことから、今回のセミナーでは、関西大学社会学部 松下教授よりアフターコロナなどによる価値観の変容を踏まえたこれからのワークスタイルやライフスタイルのあり方について講演を頂き、具体的な事例として、日本航空、南紀白浜エアポート、軽井沢プリンスホテルのワーケーションに関する取り組みについてそれぞれ講演を頂いた。

 今回のセミナーは交通事業者、コンサルタント、観光関係などあわせて598名の参加者があり、盛会なセミナーとなった。

プログラム

開会挨拶
佐藤 善信<br> 運輸総合研究所 理事長<br>

佐藤 善信
 運輸総合研究所 理事長


開会挨拶
講演1
松下 慶太<br> 関西大学社会学部教授

松下 慶太
 関西大学社会学部教授

「アフターコロナのワークプレイス、ワークスタイル」

講演者略歴
講演資料

講演2
東原 祥匡<br> 日本航空株式会社 人財本部人財戦略部アシスタントマネジャー

東原 祥匡
 日本航空株式会社 人財本部人財戦略部アシスタントマネジャー

「交通事業者としてのワーケーションの取り組み  ~日本航空における取組みについて~」

講演者略歴
講演資料

講演3
岡田信一郎<br> 株式会社南紀白浜エアポート 代表取締役社長

岡田信一郎
 株式会社南紀白浜エアポート 代表取締役社長

「ワーケーションで地域活性化   ~「空港型地方創生」の取り組み~」

講演者略歴
講演資料

講演4
赤松 衛一<br> 株式会社プリンスホテル 執行役員兼マーケティング部長兼海外事業部長

赤松 衛一
 株式会社プリンスホテル 執行役員兼マーケティング部長兼海外事業部長

「受け入れ施設として取り組む「参加・共創型」ワーケーション ~軽井沢プリンスホテルの取組みについて~」

講演者略歴
講演資料

パネルディスカッション・質疑応答

<コーディネーター>
 山内 弘隆  一般財団法人運輸総合研究所所長
   
<パネリスト>
 松下 慶太 関西大学社会学部教授
 東原 祥匡 日本航空株式会社 人財本部人財戦略部アシスタントマネジャー
 岡田信一郎 株式会社南紀白浜エアポート 代表取締役社長
 赤松 衛一 株式会社プリンスホテル 執行役員兼マーケティング部長兼海外事業部長
閉会挨拶
小瀬 達之<br> 運輸総合研究所理事長補佐

小瀬 達之
 運輸総合研究所理事長補佐


閉会挨拶

当日の結果

1.松下 慶太 関西大学社会学部教授
最初にワーケーションとは、「ワーカーが休暇中に仕事をする、あるいは仕事を休暇的環境で行うことで、取得できる休み方であり、働き方。また、仕事に効果があると考えられる活動を伴うこともある」としている。ワーケーションは、出張の前後に休暇をつけるブリージャー(仕事+休暇)と、仕事を持ち込むことで長期休暇を取得するVacation as Workと休暇的環境で仕事をするWork in Vacationの2つのワーケーションとに整理できる。ワーケーションは休暇と仕事を重ねる新たな経験として位置づけられる。
コロナ禍では、在宅勤務(Work from Home)が半ば強制的に実施されたが、afterコロナでは、働く場所は自宅に限らなくなる(Work from X)と考えられる。従来のオフィス勤務が前提の働き方から、時間制約を小さくするとフレックスタイム、反対に働く場所の制約を小さくする一部がワーケーションであり、時間と場所双方の制約を緩和するのがWFX(Work from X)である。これまでのオフィスで働くWorking1.0から、オフィスのオープンスペースで働くWorking2.0、都市の中で働くWorking3.0、更に地方との交流も生まれるWorking4.0がある。Working4.0が地域交流型ワーケーションになる。
その中で重要なのは、ワークライフバランスとバランスを重視する世界観から、重ねる:Superimpose という姿勢やスキルを付けることである。AかBではなく、AとBが両方ある、AでもBでもあるといいう見方をできると、イノベーションにもつながるし、都市部から地域に行って働くことの意義であったり、観光の新しい定義や価値にもつながってくる。
世界では、ワークスタイルの変容が始まっている。例えばGAFAでは、ハイブリッド・ワークスタイルの模索が始まっている。米国で行われた調査では週5日のオフィス勤務が提案されると、35.8%の社員がテレワーク可能な仕事を探すとしており、オフィス利用は週2~3日を希望している。Z世代(2020年以降に大学生・社会人)は大学の授業もリモートでスタートした世代でリモートネイティブとも言える。そういった時代の中での、企業は採用・育成を考えなくてはいけない。
アフターコロナに向けた企業の価値は、『自立型人材の確保・育成』と『地域と地球への働きかけ』とあり、これらの人材の共創や地域の共創がグローバルな規模で検討されていくことになるだろう。逆に、これらの取組みを行わないとグローバルでの人材確保が難しくなる。また、地域において、1-2日で経験できる一次的な観光資源だけではなく、むしろ3-4日以上長期間もしくは複数回訪問するからこそ経験できるモノ・コト・ヒトがワーケーションの資源であり、その発掘・開発がワーケーションを企画・展開する際に重要になる。

2.東原 祥匡 日本航空株式会社 人財本部人財戦略部アシスタントマネジャー
今回はワーケーションを進めている日本航空の事例を紹介する。働き方改革の中で、休暇取得促進のため、休暇時に一部業務を認めるワーケーションを導入した。当初否定的な意見もあったが、社内や社会全体のワーケーションを浸透させるため、初めの一歩を踏み出せるようなプログラムや浸透施策を企画した。その結果、社員の意識や地域との関連性など転機となった。
ワーケーションの魅力は以下の通りで、三方よしとなっている。
① 企業にとっては、時間と場所に捉われない。柔軟性のある働き方の推進
② 個人・チームにとっては、いつもと異なる環境と経験で自己成長、そして新たな活力に
③ 社会にとっては、地域活性化へも繋がる新たなワークスタイル
また、アフターコロナのでは、定住場所の多様化や日本全体での労働力の分散などにより、採用競争力・人材確保(維持)に大きな影響を与える可能性があり、新たな働き方を目指す必要がある。ワーケーションを活用した「地域と共創型のNew Normalな新しいワークスタイル」の検証を予定している。社員が各地を訪問、ワーケーションを実施し、地域で社会活動に参加し、地域の求めるニーズを把握し、地域の関係人口創出・労働力向上による地域活性化について考えている。
交通事業者として、新たな人の流れを生み出すことにより、今後の交通事業者の新たなビジネスモデルを構築することができる。その中で、ワーケーションの普及促進、ワーケーション先進企業としての社会課題の解決に向けた取り組み支援、一過性でないワーケーションの継続的な取り組み、新たな市場開拓を見据えた運賃設定などを検討している。

3.岡田信一郎 株式会社南紀白浜エアポート 代表取締役社長
南紀白浜エアポートは、2018年に民営化した南紀白浜空港の空港運営会社である。「空港型地方創生」をコンセプトに地域活性化に取り組んでいる。あわせて、旅行会社「紀伊トラベル」として、地域受け入れも担っており、和歌山県「総合コンシェルジュ」、地域連携DMOにも登録している。
和歌山・南紀白浜はワーケーション先進地で、和歌山県、地域と連携し、企業向けに目的に合わせたワーケーションプログラムを企画・運営している。
また、新しい仕事のスタイルである「ワーケーション」と在宅リモートワークの比較検証の実証実験を実施している。その結果、ワーケーション参加群において、「活力(仕事をしている際に活力がみなぎるように感じる程度)」がワーケーション前と比べ23.9%程度向上し、ワーケーション終了4日後も15.9%と向上している結果を得ている。ワーケーションにより仕事への活力が充填されるとともに、その後も活力を感じていることを示唆している。これらのワーケーションの定量的効果の検証を活用し、自費でのワーケーションから企業経費での取り組みを促している。
また、ワーケーションの一歩先の取組みとして、副業支援会社と提携し、都市部の人材に和歌山に来てもらい、副業として地域貢献をしてもらいながらキャリアパスを形成してもらいたいと考えている。
一方、ハード面での取り組みとして、南紀白浜空港敷地内に地域で4つ目となるビジネス拠点を整備予定である。また、地域での足の確保として、空港の高速バスターミナル化、地域で連携し、サイクリングの乗り捨て可能化などワーケーションのアクティビティの向上に取り組んでいる。
空港会社ではあるが、紀伊半島の活性化のカギを握るベースキャンプとなるべく様々な取り組みを行っている。

4.赤松 衛一 株式会社プリンスホテル 執行役員(マーケティング部、事業開発部、海外事業部担当)兼マーケティング部長兼海外事業部長
今回は「参加・共創型」ワーケーションを進めている軽井沢プリンスホテルの事例を紹介する。ワーケーションには、働き手、企業、地域というステークホルダーが存在する新しい市場であるため、どのような体験価値を提供すべきかお客さまの潜在ニーズをワークショップ等により調査した。得られた課題とそれに対する解決策は以下の通り。
④ いちユーザー(個人)の課題(電話会議をやる場所がない・椅子が座りにくい等の働く環境整備、家族も楽しめるバケーションコンテンツの充実、テレワークでの親子ストレスの解消など)
→ワークできる設備の充実、同伴者も楽しめる特典の充実、お子様を預かりながら成長サポートするファミリーワーケーションプランの導入等
⑤ 地域の課題(首都圏の人や事業者とのネットワーク・販路や認知度拡大、人手不足解消、農業従事者を将来的に増やすための農業の認知度拡大など)
→長期的に首都圏の人や事業者とダイレクトに繋ぐイベントの開催、イチゴ農家やワイナリーなどで実際にボランティアとして体験するプログラムを創造する等
⑥ 法人ユーザーの課題(コロナ等の影響による社員のモチベーション、チームのエンゲージメント低下、SDGs・地域に企業として貢献するなどの参加する意義が必要など)
→SDGs貢献を切り口に、市からアジェンダに沿った感謝状を発行するなど企業としてワーケーションに「参加する意義」を創出しながらチームビルディングを促す等
今後も西武グループとしてワーケーションを通じて、地域貢献、商品改善を続けていく。ワーケーションの効果検証などの話題もあるが、まずは1歩トライアルをしていただきたい。企業単位での参加が難しければチーム単位でも構わない。

5.パネルディスカッション
運輸総合研究所山内所長をコーディネーターとして、ワーケーションを通じた働き方と地域活性化に向けた取組や今後の展開について議論した。主なやり取りは以下のとおり。

<今後海外からのデジタルノマド、日本人向けのワーケーション構想について>
・いかに長く滞在できるか、一生来られないかもしれないなど場所の貴重性などが重要である。コロナ前でのハワイ線の事例になるが、1週間程度の長期滞在により安価に航空券が手配できるブリージャープランの売れ行き良く、今後もワークスタイルに合わせた商品提供をしたい。

<南紀白浜について、今後競合が増えた際の差別化戦略や、航空便数などの受け入れキャパを越えるような、言わば「オーバーワーケーション」が起きた際の対応について>
・他の地域、企業は競合他社とは捉えず、連携しながらワーケーションの裾野を広げ、企業制度まで変化させていきたい。南紀白浜は視察依頼が多いがオープンに対応している。またオーバーワーケーションというよりは、ワーケーションによる平日利用により集客は季節的に分散するので、地域のキャパに合わせてオフピークの底上げをしていきたい。

<軽井沢におけるアルチザン(職人)型エコノミー、地域との共同作業の展開について>
・紹介した千曲川ワインバレーやイチゴ農家の取組がまさに地域との共同作業で生まれたものである。イチゴ農家の方は他県中学の先生だった方が、ボランティアとして参加するうちに現地に定着した形である。ワーケーションが地域産業の新たなきっかけになればよいと思っている。

<働き方改革のなかでのワーケーションの位置づけについて>
・必ずしも全員がやる必要はないという認識が重要である。ワーケーションを制度に取り入れるというよりは、多様な働き方を許容するなかの一つとしてワーケーションを認めていく考えが適切であると思う。
・育休、産休に近い感覚でワーケーションも認めていき、従業員満足度を上げる一つの手段になればと期待する。

<ワーケーション参加者はITが多いが裾野を広げるためにはどうすべきか>
・コロナ禍で集合研修ができないなど、IT企業以外の課題も多い。ワーケーションの定量的効果を示すために試験的に導入トライアルを実施するなどがありうる。
・職種にこだわらず、若者の離職防止など年代別の問題解決の手段と捉えてもよいかもしれない。

<ワーケーションの効果に関するエビデンスについて>
・南紀白浜では社会に認めてもらいやすくするためにデータを取った。個人の実感としても、業務効率、アイディア、集中力の面でよい影響がある。 
・ワーケーションを各社に導入するためには、人事部門の意思決定者が納得するための指標が欲しいというのは理解できるが、生産性が上がらなくても落ちなければよく、気持ちよく働ければOKという捉え方も必要。プレッシャーを与えてしまって逆に集中力落ちるようなケースを防ぐべき。
・メンタル不調は今までワーカー個人の問題であり自己投資で解決している部分があったが、今後は会社側も負担していくという考え方も広まっていくのではないか。

<生産性を図る期間について>
・ワーケーション中のみならず、終了後に周囲によい影響を与えるようになるなど、長期的な評価も必要。自律的存在として、自己のマネジメントの重要性に気づいてもらう側面もある。

<ワーケーションの企業戦略としての位置づけについて>
・企業、関係人口、観光業、省庁といったステークホルダーとワーケーションという共通の軸で結ぶことができる点が利点である。逆に便利なアンブレラワードとして安易な発想にならぬよう注意したい。

<ワーケーションが移動に対して与えるインパクトについて>
・交通に対する影響は大きくなると思う。コロナで「都市部で働く≠都市部に住む」と人々は気づき、東京に通う距離は大きくなっている。企業制度が変わり、その人なりのワーケーションが可能となれば旅のバリエーションも変化するはずである。
・和歌山県内では人懐っこい県民性により関係人口が出来やすく、二拠点居住者も増えている。また副業との親和性も高く、地方にない知見、知識の移転が進み、地域企業にイノベーションが起こるきっかけにもなる。
・ハワイではコロナで営業停止となり、徐々に営業再開現在は今ほぼ100%まで回復しているが、ハワイの東西海岸間での旅行→ワーケーション・スクールケーションでホテル利用→別荘購入者も現れるなど収益構造が変わった。

視聴者の方々からの質問について議論した。主なやり取りは以下のとおり。
<リモートワークできない職種へのワーケーションの導入についてはどう思われているか>
・福利厚生制度と捉えると難しい面もある。JALでのワーケーション導入はデスクワーク勤務者の休暇取得促進など働き方改革が主目的であった。現業部門でも、働き方改革の中で導入したipadによる教育にワーケーションを利用させてほしいと現場から声が上がり、特例的に認めている。
・現在は過渡期であり不公平感が生じるが、長期的には今学生であるリモートネイティブ世代が、「ワーケーションしたい人はエッセンシャルワーカーにはならない」など多様な働き方を意識した上で職業選択をしていくことが想定されるため、不公平感の議論は収束すると考えられる。
・ワーケーションを通じたSDGs、地域課題解決などへの貢献も可能であるため、職種問わず、OJTの機会として活用も可能と思う。

<費用負担面で、労働者と所属会社、受け入れ先の3方良しは、どのような形に収束していくか。>
・短期的には補助金も活用しつつ過渡期的な運用になるかもしれないが、企業と地域間の関係性が構築、企業制度化できれば、中長期的には自然にワーケーションが行われるのではないかと考えられる。

<従業員側がワーケーションの魅力を感じるためにはどうすればよいか。>
・ワーケーションは全従業員がやる必要はなく、必ずしも企業がPRし過ぎることでもない。SDGsや地域連携を魅力に感じる人が増えていくので中長期で自然に収束していくのではないか。

<ワーケーション普及にあたり行政側が取り組むべきことは?>
 ・スモールステップでまず体験してみること、自分がしなくても組織として許容する風土が必要である。

本開催概要は主催者の責任でまとめています。