観光ブランディングに関する国際シンポジウム
- 観光
世界の潮流と観光も包含したナショナルブランディングの必要性
~ポスト2020オリパラを見据え、「レガシー」を考える~
主催 | 一般財団法人 運輸総合研究所 |
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日時 | 2019/3/13(水)13:30~17:30 |
会場・開催形式 | 丸ビルホール&コンファレンススクエア 7階 |
テーマ・ プログラム |
世界の潮流と観光も包含したナショナルブランディングの必要性 ~ポスト2020オリパラを見据え、「レガシー」を考える~ |
開催概要
2020年に東京オリパラが、2025年に大阪・関西万国博覧会等が開催され、世界の注目が日本に集まるところ、我が国をブランドとして確立する絶好の機会となっています。例えばイギリスでは、2012年ロンドンオリパラを契機として始まった「グレートキャンペーン」のもと、在外の英政府機関や商工会議所が連携し、現在もなお全世界で統一的に、英国の観光やビジネス等の機会を最大化すべく各種取り組みが行われています。我が国においても、「観光誘客」だけではなく、我が国の「文化」「伝統」への共感、さらには「輸出」や「対日投資」「留学生増加」の促進等にも寄与できるよう、我が国の魅力を総力を挙げて世界に示し、ポスト2020オリパラの「レガシー」として次の世代に繋げていく必要があります。
また、訪日外国人旅行者4000万人時代を迎え、訪日外国人旅行者の急増が、我が国の社会・経済の在り方に大きなインパクトを与えています。こうした中であるからこそ、訪日外国人旅行者の数や消費額の多寡のみならず、国際観光が、根源的且つ本質的には多面的な機能を有するものであるという視点も不可欠です。その一つとして、今日の我が国を取り巻く世界の情勢が複雑さと不透明さを増す中で、パブリック・ディプロマシ(広報文化外交)の重要性は益々高まっています。
このような問題意識のもと、観光のみならず幅広い分野で、そして公的セクター、民間セクターを問わず不可欠かつ重要な要素である「プレイス・ブランディング」をテーマに、英ダンディー大学ビジネススクールのディニー博士よりナショナルブランディングの哲学や世界各国の事例を、インターブランド・ジャパン社並木CEOよりブランディングの原理原則を紹介いただきました。また、ニューヨーク市観光局マツダ・ヒーリー氏から世界トップレベルのDMO(Destination Management/Marketing Organization)のノウハウを、元駐日英国大使館佐野氏からロンドンオリパラの「レガシー」について紹介いただくなど、世界の最新の潮流、成功要因、背後にある哲学等につき講演いただきました。
また、後半のパネルディスカッションでは、国家レベル、地域レベルも含めた「プレイス・ブランディング」の意義、世界水準のDMOの在り方、官民連携や政府組織全体での統一的対応やストラクチャーの必要性、「シティプライド」「シビックプライド」としての住民を巻き込んだ意識醸成、ナショナルブランディングと観光分野との関係、先進諸外国におけるKPI(主要重要業績評価指標)の概念と具体的活用、ポスト2020の「レガシー」に向けた行動等について、活発な議論や提言が行われました。
当日は、田端 観光庁長官、宮川 外務省国際文化交流審議官に来賓挨拶をいただくとともに、観光庁、日本政府観光局、観光関係者、在京大使館・各国政府観光局、大学・観光学会関係者、地方自治体、報道機関など約280名の方に参加いただき、盛況なセミナーとなりました。
- 各基調講演者のサマリーは、別添PDF参照(https://prtimes.jp/a/?f=d43474-20190411-7615.pdf)
- 各基調講演者の発表のポイント以下の通り。
【英ダンディー大学 ディニー博士 「国家ブランディングとその必要性」】
- プレイス・ブランディングの考え方は、都市、地域、国家であっても基本的には同じ。違いは、どういうアイデンティティ、どういう人が関わって物事を決めているか。
- 観光だけでなく、投資の誘致、外国人労働者や留学生を惹きつけるということも国家ブランディングの一部。多くの国では、国家ブランディングの中でも、観光以外は新しい分野であるため脆弱。
- 『ICONモデル』での検証を提言。(1)I「Integrated/統合されていること」:官民共同の一貫したアプローチ。(2)C「Contextualized/文脈を考慮」:足元のマーケットに適合。(3)O「Organic/有機的」:自然に出てくるという意味。予測しないうちに国家ブランディングができることもあるが、偶発的な状況に任せるとプラス・マイナス不明であり危険。(4)N「New/新しさ」:目を引く興味深いこと。
- 英国「グレートキャンペーン」の成功要因は、責任者が直接首相に報告義務。キャメロン首相が開始したが、メイ首相となっても報告。政治家トップがサポートしているので、全省庁は必然的にサポート。
- 日本は「クールジャパン」を超える必要。「クール」の意味は限定的。日本が提供できる全てをカバーしているわけではなく、例えば日本の飲食物につき「クール=かっこいい」という表現は適せず。
- 東京オリパラでは、東京という都市ブランドと日本という国家ブランドの関係を管理する必要。東京ブランドが、いかに日本の国家ブランドに影響を与えるか。他の都市についても東京オリパラの便益を要考慮。
【インターブランド・ジャパン社並木CEO 『何故「いまさら”ブランディング”とは?」なのか?』】
- 「ブランド」とは、全ての接点と活動を通じて人々の頭の中に確立された確たる評判。皆がイメージを明確に思い浮かべられる限り、それはブランド。ブランドとは、常に変化する事業資産
- C(自社、競合、顧客)の視点で調査。調査の結果、「プロミス(約束)を顧客視点でどう設定するか」かが一番重要。ブランドは、行動変容を起こす。例えば国で言えば、日本というブランドのイメージが明確にあると、「日本に行こう」、「投資しよう」という行動変容が引きおこされるが、日本という国は何を約束してくれるのかが明確にならない限り、抽象的なイメージで終わり、行動変容につながらない。
- 「約束」を決めても、「体験」が伴わない限りブランドは実感できない。約束も重要だが、それをどういうふうに受け手に感じてもらえるか、これが実現できない限りは机上の空論に。
- 日本という国、東京でも他の都市でも、既に実態はたくさんあるので、実態を作ることにフォーカスしなければブランディングを立てられないというところからのスタートではない。ただどういうふうにブランドとして作って体験してもらうかというところに関し、日本(国)、各都市は、伸びしろあり。
- 「何故ディスティネーションブランディングが必要なのか」については、例えば子供と引っ越すならどの国がいいかを、直感的に判断してもらうために、ディスティネーションブランディングが必要。
- ディスティネーションブランディングでは、事業のブランディングのときに必要な3つの要素(ロゴ、実体験(その土地を訪問)、地域(地図的な知識))は、必ずしも必要ではない。例えばシリコンバレーは皆がイメージできるが、ロゴはない。ラスベガスのイメージは、実体験(訪問)していなくても皆浮かぶ。ガラパゴスは、どの場所にあるかは不明でも、イメージは皆浮かぶ。必要なのは「象徴的なストーリー」。
- ディスティネーションブランディングでは、「実態を作ること」と「レピュテーション(評判)を作ること」の両方が大切。例えばスペインのビルバオ市ではグッケンハイム・ミュージアムを象徴として作ることで、ブランドの実態を創造。アムステルダムでは、コーヒーショップといったイメージから、評判を変えたいため、アイコニックな「I AMSTERDAM」というサイネージを作り、レピュテーションを変革。
【ニューヨーク市観光局マツダ・ヒーリー氏 「ブランドを上手く活用する実践5ヵ条」】。
- ブランドを生かすための5つ(①パートナーシップ、②フレキシブル/柔軟性、③地域社会の参加、④Take a Stand/明確な立場を打ち出す、⑤Be real/現実的であれ)を紹介
- ①パートナーシップ: ニューヨーク市観光局は、官民パートナーシップの会員制組織であり非営利機関。年間予算は3950万ドルで、半分は市から拠出であり、ホテル宿泊税はない。残り予算は、会費、スポンサー拠出金、プログラム収益。成功プログラムとして、会員と共に行ったバイブランシー(躍動感)プログラム。レストランウイーク、ブロードウェーウイーク等を閑散期に設定し、会員から特別料金が提供
- ②フレキシビリティ/柔軟性: 市場の変化に合わせDMOのやり方も柔軟に変革が重要。官民セクターのいいところを合わせることによって、より迅速に在り方を調整することが可能に。例えば、常勤スタッフと、アウトソースとを、投資する際に両方考えるべき。
- ③地域社会の参加:「コミュニティの育成発展」と「QOL(生活の質向上」の2つの視点あり。重要なのは住民に伝えていくこと。コミュニティの育成発展と価値を伝える意義は、長期間に充分な政府資金の確保や、観光に関する問題の住民理解の促進。観光から各市民が裨益あるとわかれば、協力者が増加。
- ④Take a Stand/明確な立場を打ち出す: ブランドは、今や国際的に重要な問題を表わすものに。米政府が保護主義をとっても、NY変えることはできないことを世界に伝えるため「NYはいつも皆さんを歓迎」メッセージを発信。今日のコンシューマーは、ブランドとしての価値観や理念に関心。
- ⑤Be real/現実的であれ: 何かを発信したら、自分の行動を伴う必要。ブランドが誰かに触れる接点において一貫性を持ったメッセージを発信し、消費者の信頼を勝ち取り。NYは最初にワールドプライドを主催し多くのLGBTが参加。NYは常に革新的アプローチに取り組む、日々新しく生まれ変わると一貫発信。
【元駐日英国大使館佐野氏 「パブリック・ディプロマシーと英国政府GREATキャンペーン」】
- アメリカは安全保障等イデオロギー色が強いが、イギリスは、通商、観光、文化振興的動機からパブリック・ディプロマシー強化を開始。90年代半ばの「クールブリタリア」国家ブランド戦略に。90年代の「保守的で階級社会」から、「革新的でダイナミックな国」「創造性に溢れて革新的なアイデア、文化のハブとなる国家」というイメージに変革。「クールブリタニア」の趣旨は、サッチャー時代のネガティブなイメージから英国が自ら変化し、クールな国家になっていこうという国内向けのメッセージ。
- 実際は、「クールブリタニア」から「グレートキャンペーン」に行くまで結構な道のり。2010年の連立政権からパブリック・ディプロマシーは、ソフト・パワーにターミノロジーを変化し、これまでの外交のコミュニケーションの在り方が改革。2011年には「ソフト・パワー」が英国の外交政策の手段であると定義。
- 2010年以降の外部環境として、2010年ローマ法王訪英、2011年ロイヤルウェディング、2012年女王在位60周年、2012年ロンドンオリパラ、2015年ラグビーワールドカップ等国際イベントが目白押し。「グレートキャンペーン」は、世界が注目する国際的イベントを活用しながら、低予算で、貿易、観光、投資、留学に特化して、結果を求めるキャンペーンとして持続的な効果が狙われた。
- 注目度が高いが一過性になりがちな国際的なイベントをつなぐ糸のような役割として、この期間中に英国大使館や英政府出先機関が統一したプロモーションを展開。最重要点は、省庁横断的ブランドであること。2010年連立政権から、緊縮財政を実施。「グレートキャンペーン」のもと、英国外務省(在外公館)、英国国際通商省、英国政府観光庁、ブリティッシュカウンシルなど公的機関を通じ、ビジネスから観光、文化、教育といった資産を横断的に紹介がテーマ。このため、必ず在外の英政府機関間で連絡調整をする必要。
- 「グレートキャンペーン」のKPIは、緊縮財政が肝。例えば英国政府観光庁では2010年に30%の予算カットがあり、減少分を「グレートキャンペーン」予算で補てん。既存の活動維持不可に。実態は日々の活動でグレートキャンペーンの文脈でどう展開すべきか担当者が考えざるを得ない状況に。
- 「グレートキャンペーン」は、イギリスは既に力強い国家ブランドを持っているため、リ・ブランディングではなく、貿易、投資、観光等経済成長の政策実現のためのキャンペーン。「グレートキャンペーン」では、横串をさすテーマ設定とし、どの産業でも柱が使えるように。
- 成功要因は、元英外務省コミュニケーションディレクターが統括者として全省庁一括して統括。英国が安定的な国家ブランドである理由は、パブリック・ディプロマシー施策を徐々に改良し、時代に適合させた点。
プログラム
開会挨拶(13:30~13:35) |
宿利正史 |
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来賓挨拶(13:35~13:45) |
田端 浩 |
来賓挨拶 |
宮川 学 |
基調講演1(13:45~14:15) | |
基調講演2(14:15~14:45) | |
基調講演3(14:45~15:15) | |
パネルディスカッション(15:35~17:15) モデレーター |
金平 京子 |
ショートスピーチ | |
パネリスト: |
キース・ディニー |