ガソリン価格の変化が交通行動に与える影響の実証分析

  • 総合交通、幹線交通、都市交通

研究期間:2008 - 2011

(藤﨑 耕一 ~'21年6月)

研究概要

1.研究の背景と目的
近年のガソリン価格の高騰期に、自家用車の運転控え、公共交通の利用増についての観測報道が見られた。そこで、ガソリン価格変動が旅客の交通行動にどう影響しているかを検証する。 低炭素社会向きの燃料価格政策及び需要予測手法の検討に役立つ基礎的資料と含意を提供することを目的とする。分析結果を用いて、暫定税率実施廃止、高速道路の現行割引制度や一律無料化の影響の試算も試みる。以って、地球温暖化対策を今後進める途上国にも見本となる交通統計の一つの活用例を提示する。

2.分析の方法
(1)ガソリン価格が影響する交通行動の類型化
ガソリン価格が影響しうる交通行動の類型を整理した上で、本研究では、①自動車の運転回数及び走行距離(マイカー交通量、マイカーガソリン消費量で把握)、②公共交通へ移動手段を変更(公共交通利用量で把握)、③自家用車について燃費の良い車種への変更(自家用登録乗用車の保有、軽自動車の販売割合等で把握) を優先的に分析対象とする。
(2)交通量及び経済指標に関する統計の選定 他研究にも参考となるよう関係主要統計を一覧整理した上で、本研究では、軽自動車が交通統計の対象に追加された1987年度から、高速道路休日割引導入の影響を受ける直前の2008年度末までの約20年間の長期時系列データを用い、ガソリン価格及び所得(1人当たり総生産)が公共交通及びマイカーの各交通量(1人当たり旅客キロ)等に与える影響の有無と程度について、マクロ的な分析を行う。 (3)モデル構築の基本的考え方 ガソリン価格等経済指標が1%増減する場合に、各交通量が何%増減するかを表す各弾性値を推計するため、ガソリン価格と所得を独立変数、各交通量等を従属変数とする両辺対数線形モデルを構築する。その際、経済指標の影響が顕在化するまでの遅れの期間を最長1年間まで検証し、単純重回帰に限定せず、統計学上も有意なモデルを選定する。

3.分析の結果
全国レベルの分析を行い、大括り地方(関東近畿とそれ以外の2地域)及び地方各ブロックのパネル分析等で補完、確認する。
(1)公共交通とマイカーの利用への影響
①交通量に対する基本弾性値の推定 ガソリン価格弾性値は、公共交通に対しては正、マイカー交通量に対しては負となり(つまり、ガソリン価格が増加すると、公共交通は増加し、マイカーは減少する)、陸上交通計に対しては負となった。なお、所得弾性値は、公共交通、マイカーのいずれに対しても正であるが、公共交通の機関分担率に対しては負になる。これは、所得の影響が、公共交通に対してよりも、陸上交通計に対する影響の方が大きいからである。
②短期弾性値と長期弾性値を区別した場合 長期弾性値の絶対値の方が短期弾性値のそれよりもやや大きい。これは、ガソリン価格等がマイカーの保有自体にも影響し、従って、長期的には、保有の変化を通じた利用への影響が加わるためと考えられる((3)参照)。
③変化する弾性値の推計 所得が高い状況ほど、マイカー交通量に対するガソリン価格弾性値の絶対値は、小さくなることから、マイカー利用を一定程度抑制するには、所得が高い状況ほど、ガソリン価格の引上げ程度をより大きくする必要がある。 また、関東・近畿よりは、それ以外の各地方ブロックの方が、同じ所得水準では、ガソリン価格の影響が小さい傾向がある。
(2)マイカーのガソリン消費量
1人当たり消費量について、ガソリン価格と所得の影響は、(1)と同じ方向であった。
(3)マイカーの保有台数
1人当たり自家用登録乗用車保有台数について、ガソリン価格と所得が正の影響を与えていた。 ((1)②の考察の裏付け)。
(4)軽自動車の販売割合
軽4輪乗用車の販売割合は、ガソリン価格が増加すると増えており、消費者が車種燃費を意識していることが見てとれる。
(5)鉄道旅客交通の定期、定期外別の分析
公共交通の太宗を占める鉄道について、定期(通勤・通学)の交通量に対するガソリン価格の影響は明瞭ではないが、定期外には、ガソリン価格が正の影響を与えている。裏から言えば、観光旅客等のマイカー利用抑制には、ガソリン価格政策が有効であると推察される。

4.分析結果の活用
ガソリン暫定税率が実質廃止される場合のマイカー交通と公共交通への影響及びこの部門のCO2排出量変化についてマクロ的な試算を行う。 以上で構築したモデルにより、高速道路割引制度が導入されない場合の予測値を推計し、高速道路割引導入の影響を受けた実測値との乖離をとることにより、交通量とマイカーガソリン消費量に対する同制度の影響を試算する。また、その試算値から、更に高速道路一律無料化を行う場合の影響を試算する。


*海外での発表:
Koichi Fujisaki, Institute for Transport Policy Studies “A Green Growth Strategy for the Transport Sector in Japan” , ADB Transport Forum 2010, Sub-Plenary Session 4:Green Growth

*成果の掲載書籍:
Hayashi, Y., S Morichi,., T.H Oum,., W Rothengatter,. (Eds.) Fujisaki K etc.(2015)“Intercity Transport and Climate Change”. Springer. 1-176. isbn978-3-319-06522-9
森地茂、林良嗣、テー・フーン・ウム、ベルナー・ローテンガッター(編訳著)藤﨑耕一ら(2014) 『都市間交通と気候変動』一般財団法人運輸政策研究機構 1-197.isbn978-4-903876-60-3 C0065

査読付き論文

研究テーマ 著者 掲載書籍
An empirical analysis of effects of gasoline price change on transportation behavior in Japan, with consideration of regional differences Koichi Fujisaki Socio-economic Planning Sciences,48,220-233
(Corrigendum 2015;52,55. https://doi.org/10.1016/j.seps.2015.10.005 により一部修正)
ガソリン価格の変動が交通行動に及ぼす影響の実証分析-地方別のデータを用いた実証分析とその政策含意- 藤﨑耕一 運輸政策研究,16(1),4-16
https://www.jttri.or.jp/journal/no60/index.html
ガソリン価格がマイカー及び公共交通の利用に与える影響の実証分析-誤差修正モデルの構築による検証- 藤﨑耕一 交通学研究,56,123-130.issn0387-3137
(政策研究大学院大学2015年博士(政策研究)論文 http://doi.org/10.24545/00001294 において一部修正)
Effect of Fluctuation of Gasoline Prices on Transport Behavior - An Empirical Analysis Using Transport Statistics in Japan - Koichi Fujisaki, Shigeru Morichi and Makoto Itoh Journal of the Eastern Asia Society for Transportation Studies, 9,354-369.
https://doi.org/10.11175/easts.9.354