大きな一歩だがG7の背中は遠く、更なる踏込みを望む
~「水際対策の見直し」に関する追加提言~

 この2年以上の間、新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」)の世界的な感染拡大を受け、社会経済活動は制約を余儀なくされてきたが、特に、この制約を大きく受けているのが国際的な人的往来である。
 このため、航空・観光業界など直接的に利害を有する関係者のみならず、経済界をはじめとする内外各層から、各国の人的往来を抑制する「水際対策」(検疫に加え、入国管理等の関連施策を含む)に関し、防疫上の要請を損なわない範囲での簡素合理化、撤廃等を求める意見が再三表明されてきた。
 当研究所においても同様の観点から、特に我が国の対応について、昨年(2021年)6月25日に運輸政策セミナー「ワクチンパスポート・トラベルパスを巡る最新の動向」を開催して当時増加の一途をたどっていたワクチン接種等各種証明書に係る手続のデジタル化を議論した。
 その成果を踏まえ、当研究所では、同年7月12日に「ワクチンパスポート・トラベルパスの導入に関する提言」として公表したほか、同年11月24日には秋以降の感染状況の変化や技術的制度的進捗を踏まえ、追加の提言として公表したところである。(詳細は別添「参考資料」参照)

 その後、本年(2022年)に入り、欧米諸国を皮切りに、最新の変異種であるオミクロン株の特性やワクチン接種の進捗により、「新型コロナ」由来の重症者や死者の発生がある程度抑制されてきた。
 このため、「隔離等の防疫措置+ワクチン接種等の渡航者側の感染・発症等防止努力」等条件付きでの国際的な人的往来再開により、「コロナ以前」のレベルへの「実質的に自由な往来の回復」に向けた動きが年初から進みつつあり、今ではASEANをはじめとする大半のアジア諸国にも広がっている。
 このような状況の下で、「今般の水際対策の見直し」(※1)に先立ち、政府は以下の措置を講じてきた。
  ※1:入国者数上限見直し等の関連施策を含み、本年6月1日を中心に5月26日~6月1日実施:以下「今般の見直し」。
 ① 1日当たり入国者数上限の引き上げ(3.5千人⇒段階的に1万人へ)
 ② 入国時隔離期間の短縮から実質的撤廃、公共交通利用制限の解除(一部諸国を除く:3月1日)
 ③ 主要国への渡航中止勧告(外務省「感染症危険情報」:※2)の取下げ(日本人向け:4月1日)
  ※2:145か国の危険度を「レベル3」(渡航中止勧告)から「レベル2」(「不要不急渡航の自粛」)に引下げ。
 ④ スマホアプリ(MySOS:入国者健康居所確認アプリ)の活用等による出入国時手続時間の短縮(主に日本人向け:段階的に実施)
 ⑤ 入国時の「行動規制」(仕事や会食の事前申請・承認等)の廃止(外国人向け:3月1日)
 ⑥ 入国時に(接種証明書を)有効と認めるワクチン種(※3)の拡大(外国人向け:段階的に実施)
  ※3:今回の見直し前に、3回目接種では4種、1・2回目接種では8種のワクチンを有効認定(関連資料p7別表3参照)。

 これにより、一時ほぼ停止状態にあった日本人の国際的な往来は、ビジネス目的に加え足元では観光目的も少しずつ再開に向かっており、例えばゴールデンウィーク中の出国者数は日系航空会社では前年比4倍~5倍への増加をみせたという(ANA・JAL発表による:ただし、2019年比では1/4~1/5程度)。
 これは、前記の累次のセミナーや提言(特に11月提言追補)において、デジタルワクチンパスポート等スマホアプリの活用による手続の簡素化や水際対策の諸外国との調和(ハーモナイゼーション)を求めてきた、当研究所の方向性に合致するものであり、基本的には政府はじめ関係者による一連の対応は歓迎したい。

 これに加えて、「今般の見直し」では、以下の追加的措置が講じられている(「関連資料」p2参照)。
 ① 1日あたり入国者数の上限を引き上げ(1万人⇒2万人へ:6月1日)
 ② 出発の国・地域(国等)を入国時検査の陽性率に応じて3種(青、黄、赤)に分類し、ワクチン接種状況も勘案して各入国者に対し接種確認や入国時検査の省略等検疫手続を大幅に合理化(※4:6月1日)
  ※4:「青国」は98か国等、「黄国」は99か国等、「赤国」は4か国。具体的な国等は「関連資料」p6別表2参照。
 ③ 外国人観光客の限定的な受入再開(上記「青国」からの「団体旅行」受け入れ:6月10日)
 ④ 米英等36か国の「感染症危険情報」を「レベル1」(「実質特に制限なし」)に引下げ(※5:5月26日)
  ※5:同時にウクライナ、エジプト等15か国を「レベル2」に引下げ(これら15か国は入国管理の「上陸拒否」対象国からも除外(6月3日)。具体的な国等は「関連資料」p8別表4参照。
 特に、②については、「全数検査」の原則を「リスク評価に基づく選択的検査」に転換し(政府発表では入国者の約8割が対象外に)、大半の入国者が空港での滞留時間大幅減を期待できるもので、高く評価できる。
 また、③についても、「観光目的による入国の禁止」という原則に「風穴を開ける」ものであり、④についても、ビジネス等目的を含め日本人の国際的な往来の活性化には明らかに寄与するものであることから、両者とも、「コロナ以前」の状態への「正常化」に向けた一歩としては一定の評価ができる。

 ただ、日本人の往来も水準は依然「コロナ以前」に全く及ばないことに加え、外国人の自由な往来はほぼ途絶えていたことから、内外関係者から「鎖国」との批判が絶えなかったが、今般の見直しでも「開国」「G7諸国並み」に転換したとまでは言えない。
 これは、以下の規制等が残されているためである(詳細は後述:「関連資料」p4及びp5別表1参照)。
 1 入国者数の上限設定(今回引き上げはされたが依然不十分) ⇒日本人・外国人両方対象
 2 観光目的等による外国人入国の制限 ⇒外国人対象(※6)
  ※6:他方「感染症危険情報」で東アジア等多数の主要国は「レベル2」であり、日本人にも実質制限は残存。
 3 外国人入国(短期滞在)の際のビザ取得義務及び「受入責任者制度」(※7)の存在 ⇒外国人対象
  ※7:昨年11月8日に、外国人の就労・留学・技能実習等の長期滞在とビジネス目的の短期滞在(90日以内)を解禁した際の条件として、「入国後の所在・行動を保証できる者(受入責任者)」の確保義務を課した制度。
 4 その他の往来に関する制約:
  ① 有効なワクチン接種の範囲(※8) ⇒主に外国人対象
  ② 水際対策と「感染症危険情報+上陸拒否」の対象国等の整理(※9) ⇒日本人・外国人両方対象
  ※8:入国時に有効と認めるワクチン接種が限られており(特に3回目接種)、今後ASEAN、インド等諸国との往来拡大に障害となるおそれがある(「関連資料」p7別表3参照)。
  ※9:「感染症危険情報」のレベル設定(レベル3国は上陸拒否(入国管理制度)の対象国と同一)と今般の見直しにおける「青黄赤」対象国等の設定が不整合で、規制やその緩和の効果を相互に減殺(「関連資料」p8別表4参照)。

これらの規制等が残存したままでは、外国人はもとより日本人の我が国を巡る国際的な往来もかつてと同様に活発に行うことは到底おぼつかず、その結果、インバウンド観光に加え貿易・投資等のビジネス機会の減少を含む経済的な損失に加え、外国との交流停滞や人材育成の低迷、諸外国における日本回避・日本外し(ジャパン・パッシング)の加速等を招き、日本社会全般に大きな打撃を与えることになりかねない。

 このため、今般、残された課題を再提起し、解決の方向性に関する社会的な議論を促すとともに受容性の向上に貢献すべく、「今般の見直し」発表を踏まえ、本件に関するキックオフとなった前記セミナー開催から約1年を経過したこの時期に、水際対策に絞り新たに追加の提言を行うこととした(※10:「関連資料」p1参照)。
  ※10 ワクチンパスポート・トラベルパスについては、もともと当研究所がセミナー・提言を行う発端であったが、昨年12月のデジタル接種証明書導入や3月以降のMySOSへの各種証明書の登録等が一定の成果を上げていると評価されるので、今般の追加提言では対象として特に取り上げない。
 その内容は、以下のとおりである。

提言1 「1日当たり入国者数制限」は、撤廃する
提言2 「外国人入国目的の制限」(観光)は、「完全に」撤廃する
提言3 短期滞在については、
    ①ビザ取得義務を「コロナ以前の水準」に戻すとともに、
    ②「受入責任者制度」を廃止する
提言4 その他の制約についても、改善に向けて取り組む:
    ①「有効と認めるワクチン接種」の範囲
    ②水際対策(「赤青黄国」の設定)と感染症危険情報等との整合

 基本的に、防疫上の要請から講じられている措置の内容については、関係当局・専門家の見解を尊重した上で、防疫上の要請が乏しいと考えられるもの、制度の運用や手続において過度に人的往来を抑制する機能を果たしているもの等について、諸外国の実態を比較衡量した上で提言内容に盛り込んでいる。
 今般の追加提言が、国内における公衆衛生を損なうことなく「G7諸国並みの国際的な人的往来」を実現する上での、対策の検討・立案・実施に向けた官民関係者の取組みの一助となれば幸いである。

 なお、ご多忙の中、当研究所のセミナーへのご登壇をはじめ、その後の提言及び追加提言、そして今般の新たな追加提言の公表に際してのご指導に関し、大越日本渡航医学会理事(医療法人社団航仁会西新橋クリニック理事長)、藤田世界経済フォーラム第四次産業革命日本センタープロジェクト長(慶應義塾大学医学部特任准教授)、及び藤村全日本空輸株式会社常勤顧問(運輸総合研究所客員研究員)のお三方には、大変なご尽力をいただいており、心よりお礼を申し上げたい。
 また、水際対策やこれに関する各種提言等については、運輸総研HP内ポータルサイト「国際的な人的往来の活性化」で取り上げているので、こちらも参照されたい。

1.概要



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2.詳細


提言1 「1日当たり入国者数制限」は、撤廃する

 令和4年3月以降、日本人の(再)入国については、以下の3点により海外渡航の制約がかなり緩和されており、入国時の手続煩瑣による滞留も大幅に減少している。
 ① 日本(再)入国時の隔離・行動規制に係る日数の短縮・撤廃が進んだこと、
 ② 感染症危険情報も大半の国について危険度がレベル3からレベル2に緩和されたこと、
 ③ 3月以降MySOSアプリの活用により入国時手続の簡素化がかなり進展したこと、
「今般の見直し」によってこの傾向が加速されることは疑いを容れず、この動き自体は歓迎できる。
 残された制約要件で最大のものは、1日当たり入国人数の制限(6月1日以降2万人)である(※11)。
 ※11:また、我が国は(再)入国前72時間以内のPCR検査結果証明を要求しているが、日本入国検疫に必要な項目を満たす証明の取得に手間がかかるとの指摘もある(検査機関の急減、日本様式の指定等)。
 これは、「今般の見直し」により入国手続の所要時間全体は大幅減少を見込むが、一部入国者に対する入国時検査、書類確認等に引き続き要する時間や外国人入国審査に要する時間(現在ビザ審査が必須)は「コロナ以前」より確実に増加しており、過度の入国者滞留防止の観点から人数制限を要するため、とされる。
 ただ、このような人数制限を課している国は、少なくとも主要国では全く確認されず、中国・台湾・韓国等外国人等の入国一般に厳しい制限を課している東アジア諸国でもこのような例はない。
 さらに、「コロナ以前」の2019年では1日平均14.3万人(日本人5.5万人、外国人8.8万人)の入国者があったことを考慮すると、「今般の見直し」による1日2万人という上限値が潜在的な入国需要(日本人の再入国を含む)に全く応えきれていないことは明らかである。
 したがって、このような人数制限は(一刻も早く)撤廃すべきである(※12)。
 ※12:これにより、お盆やGW、年末年始等の繁忙期に観光需要の大きな制約がなくなるだけでなく、当該期間にビジネス等渡航を要する日本人が予期せぬ障害(入国制限に抵触し予定日帰国ができない等)に直面することも防止される。
 なお、検疫等審査能力がその要請に直ちには応えられないとしても、
 ① 「青国」からの入国者「検査・待機を免除され、ワクチン接種証明の確認も今般不要に」
 については、少なくとも速やかに人数制限の対象外とすべきである(※13)。また、
 ② 日本人「自国民として基本的に再入国の権利があり、ビザ審査が不要。実際にも、3回ワクチン接種やアプリ等事前登録の実施率が高いこともあり、平均手続時間がごく短い」
 も現実には一律対象外とできるのではないか。
 ※13:また、今後は入国時検査に関し陽性率(5月第1週で0.8%)及び陽性者の国内全感染者に占める比率(同0.4%)を考慮した場合(数値は厚生労働省HP)、検疫作業量・入国者負担と比較衡量して実施の必要性があるか検証すべき。

提言2 外国人入国目的の制限(観光)は、「完全に」撤廃する

 現在、外国居住者の日本への入国(渡航)に際してはビザが必要とされており、それ自体外国人入国の障害として存在するが(提言3参照)、特に観光目的等(ビジネスや留学等以外)でのビザ取得はできず入国は不可能である。世界の主要国等で同種の規制を課しているのは中国と台湾以外はない(韓国は6/1解除)。
 これは、入国目的それ自体により「新型コロナ」の感染可能性が大きく左右されることはないため、観光目的等の入国を「不要不急」と判断し、これを防疫上の要請から抑制する趣旨と解される(※14)。
 ※14:この点については、日本人に関しても、「感染症危険情報」上大半の国等が依然「危険度レベル2=通常であれば観光ツアーは企画できず、FIT(個人旅行)も推奨しない」とされており、問題が残る(関連資料p8別表4参照)。
 しかしながら、このような措置については、以下の点から継続することには大きな問題がある。
 ① 「観光=不要不急」の入国抑制、という考え方自体が対外交流に後ろ向きとの印象を与え、足元のビジネスや留学、就業等の交流に悪影響を及ぼすこと、
 ② インバウンド消費等による経済効果の喪失だけでなく、商談や投資、学術交流や人材獲得等の機会喪失も考慮すると日本経済に中長期的なものも含めた多大な損失を与えること、
 この点については、前記「青国」からの団体観光について「条件付きで」ほぼ同時に解禁され(6/10から)、今後段階的に更なる緩和を進めていく方針が表明された(5/26:観光庁による実証実験も同時期に開始)。
 これ自体はもちろん「観光の入国禁止」に風穴を開けたもので歓迎すべきだが、そもそもビジネス等目的の入国には同様の制限はないことを勘案すると、「観光目的入国をビジネス等目的に比して抑制する」対処方針に変化はなく、かつ完全な「コロナ以前」への復帰にはまだ段階を要するものと解される(※15)。
 ※15:また、団体入国者も「2万人」の枠内での入国許可とされるため、日本人観光客の海外渡航やビジネス等目的の渡航・入国(日本人と外国人双方)の枠を「食う」ことになり、これらの往来が圧迫されることも問題。
 このため、防疫上の要請に基づく出発国等の制限や隔離・入国後行動制限等の措置とは別に、入国目的による制限、具体的には観光入国の禁止・制限措置は「完全に」撤廃すべきである。

提言3 短期滞在については、
①ビザ取得義務を「コロナ以前の水準」に戻すとともに、
②「受入責任者制度」を廃止する

① ビザ取得関係
  「コロナ以前」は、我が国への入国(短期滞在)には広範なビザ免除が存在していたが(68か国等)、現在は例外なくビザ取得が必要とされ、明らかに防疫上の要請によると考えられる。しかしながら、今般「水際対策の(大幅な)見直し」を行った時点で、この要請は明らかに縮小したものと考えられ、依然「全ての国に対するビザ義務」を残す合理性は乏しいと考えられる。
  このため、入国管理上や外交上等の必要性もあるため全ての短期滞在でビザ義務の必要性を否定するものではないが、少なくとも「今般の見直し」で規制緩和を行った国等を中心に、「コロナ以前の水準」にまでビザ取得義務の見直し(免除対象国等の再設定)を行うべきである(※16)。
  ※16:対象となる短期滞在の期間に関しては現行の90日という設定を見直すことも一考。なお、全てのビザ取得手続(申請及び発給=取得)は対面実施とされているが、首都のみでしかビザ取得手続が行えない国も多数存在することも合わせ、現状では外国人短期滞在者への負担が過重となっているおそれが大きいことも考慮すべき。
② 「受入責任者制度」関係
  前記「受入責任者制度」は、元来研修・留学・就業等の長期滞在に関し同目的の滞在者が多数関係する「引受組織」が存在するため、行動及び健康管理の便宜上当該組織の責任負担を制度化したものである。
  このため、当初は座席指定のない鉄道・バス等の利用禁止や基本10日間の行動規制が課されていたが、「今般の見直し」後も受入責任者のいない外国人は期間の長短や目的の如何によらず入国できない。
  他方で、短期滞在で同様の対応を求めることは、引受組織の「行動制限能力」や「受入コスト負担能力」の観点から無理があるだけでなく(※17)、引受組織がほぼ防止できない「出発国感染⇒入国後発症」のリスクが高いことを考えると、当該組織に責任の一端を負わせる仕組みは不合理と言わざるを得ない。
  ※17:短期滞在は、入国者と受入組織の関係が限定的で受入組織による入国者の拘束に一定の限界があることに加え、滞在によるメリットが限られることから申請手続や所在確認等受入コストの負担余地は小さい。特に、学会等法人格を持たない組織が日本側の受入主体となる場合は、受入責任者を指定して外国人の入国承認を得ることは困難。
  したがって、短期滞在については「受入責任者制度」を廃止し、所在地や健康状態等の通報義務等のより直接的な措置で足りることとすべきである。

提言4 その他の制約要因についても、改善に向けて取り組む:
① 「有効と認めるワクチン接種」の範囲
② 水際対策(「赤黄青国」の設定)と感染症危険情報等との整合

①有効なワクチン接種の範囲(3回の接種証明として使用できる対象ワクチン:「関連資料」p7別表3参照)
  防疫上の要請があるため取扱いは慎重に行う必要があるが、水際規制緩和の対象となるワクチン(接種証明書)の範囲がWHO承認種はもとより米国等と比較しても狭く、特に
 1)3回目接種証明の有効性(検査・待機免除)が認められるワクチン種が3種類しかないこと、
 2)ASEAN、インド等諸国からの入国者(対象外ワクチン接種率が高い)に対し緩和効果が乏しいこと、
 との課題は従前から存在している(※18)。
  ※18:EU諸国との比較では特に狭くはなく、他国との差も改善傾向にあるが、3回目接種については、中印の複数のワクチンに加え、国内使用承認済のアストラゼネカやジョンソン&ジョンソン製剤も認められていない点が問題。
  この点は、外国人入国を禁止的に制限していた時点では障壁としての独自機能は限られていたが、今後水際対策の見直しが進んでいく中でその制約的効果を看過することは一層難しくなりつつある。
  したがって、防疫上の要請を損なわないという前提で、この点に係る関係者の検討をお願いしたい。
②水際対策(「赤黄青国」の設定)と感染症危険情報等との整合(「関連資料」p8別表4参照)
  外務省の出す「感染症危険情報」(邦人保護の一環、日本人対象)の各国等のレベル設定(1~4:レベル4は現在設定なし)と、入国在留管理庁(法務省)の「新型コロナ」に係る「上陸拒否」対象国等の設定(入国管理の一環、直近滞在外国人を対象)は基本的に同一の整理に基づいている(前者のレベル3国が後者の対象国:6/3以降41か国)。
  他方で、これら2つの制度の設定と、厚生労働省の行う水際対策(検疫の一環:日本人と外国人の両方を対象)の「国等設定」は、どちらも感染症の状況を踏まえて行うが、一見して両者の設定に整合はない。
  これは、「新型コロナ」に対する防疫上の要請から導入されたとはいえ、基本的に前者が【邦人保護+入国管理】制度上の要請から、後者が【検疫】制度上の要請からそれぞれ独自の基準を設定しているためで(※19)、各々の設定自体には一定の合理性があると考えられる。
  ※19:感染症危険情報は、世界保健機関(WHO)や主要国の対応、現地の流行状況、医療体制の状況等を基準。「上陸拒否」の対象国設定は、今般の「新型コロナ」対応については、基本的に感染症危険情報と同一。他方で、水際対策(検疫)は、「報道によれば」入国時の検査陽性率等が基準(明示的な公表はされていない)。
  ただ、これらはいずれも入国者対象の制度であるため(感染症危険情報の対象は渡航日本人だが、大半の渡航者は短期で日本に再入国する)、大幅な取扱いの相違は一般には分かりづらく、かつ互いに規制の効果(緩和を含む)を打ち消しあうという弊害もある(※20)。
  ※20:顕著な例としては、ジャマイカ等18か国は今般「青国」とされ、検疫制度上これらの国発入国者への検査・待機は免除されワクチン接種証明の提示も求めないが、日本人への渡航中止勧告(感染症危険情報レベル3)及び外国人の上陸拒否(入国管理制度上)の対象であるため、事実上今後もこれらの国との往来は発生しない(フィジーはその逆)。
   また、中韓台等56か国等は日本人の観光渡航は自粛対象だが(ツアー渡航も通常であれば設定されず)「青国」であるため訪日団体旅行は今般解禁(逆にベトナム等11か国は、日本人の渡航に支障はないが、これら諸国は「黄国」であるため訪日団体旅行は依然不可)。
  このため、これら制度の関係についてより明確な整理を行い、顕著・不合理な例については所要の見直し・整合確保をお願いしたい。