成田空港の鉄道アクセス改善に関する調査研究

  • 航空・空港

研究概要

 成田空港の鉄道アクセスは、新型コロナウイルスの影響(以下、コロナ禍)前の時点において、既に列車内・駅構内における混雑が顕在化し、輸送力の向上や駅空間の混雑緩和等が課題となっていた。
 世界の航空需要は、コロナ禍により長引く低迷状況にようやく打開の兆しが見えてきており、IATA等の国際機関は、アジアをはじめとする世界の経済成長により航空需要は数年程度の遅れでコロナ禍前の水準に回復し、さらに増大していくと見込んでいる。そして、成田空港については、増大する首都圏の航空需要に対応するため、成田空港の年間発着回数50万回化に向けて、新滑走路の整備等をはじめとする成田空港の更なる機能強化(以下、更なる機能強化)が進められている。

 今後、コロナ禍からの回復に伴い航空需要が回復から増大に転じ、更なる機能強化による年間発着回数50万回化、さらには「新しい成田空港」構想による旅客ターミナルの再構築等が進んでいくことを考えれば、成田空港の鉄道アクセスの改善が大きな課題となることは必至である。また、脱炭素化社会が指向される中、鉄道は、エネルギー効率に優れ環境にやさしい移動手段としてその機能が改めて重視されており、今後とも、成田空港のアクセスの主軸としての役割が期待される。他方、鉄道施設整備は完成供用までに長期間を要するものであり、課題が切迫してからの検討では遅きに失することとなるため、時間軸も考慮した対応が必要となる。

 「成田空港鉄道アクセス改善に向けた有識者検討会」においては、このような問題意識の下、交通政策審議会答申第198号や2019年に国土交通省鉄道局において開催された「成田空港への鉄道アクセス強化に関する勉強会」等の成果も踏まえつつ、成田空港の鉄道アクセスの改善方策を検討し、主として空港外周辺部における輸送力向上方策について提言を行うことを目的として検討を行った。



※委員名簿はこちらから




(1)コロナ禍以前の成田空港鉄道アクセスの状況


①成田空港の鉄道アクセスの利用者数の増加

・鉄道アクセス利用者数は、空港利用者数の増加にあわせて増加
・2010年のスカイアクセス線では、SKLを含むスカイアクセス線ルートの利用者が大きく増加。



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図 成田空港鉄道アクセスの利用者数推移


②成田空港の駅構内の混雑

・列車内における混雑が顕在化(特に朝夕のピーク時には空港発の一部優等列車には乗り残しも発生)
・駅構内でも混雑が顕在化(特に空港第2ビル駅の朝ピーク時間帯のホームは出発する航空旅客と空港での業務に従事する出勤者で混雑)
・駅コンコースは、朝夕の到着便ピーク時に訪日外国人向け鉄道周遊パスの引換において行列が発生。



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図 混雑する駅コンコース(第2ターミナル)


③成田空港の鉄道アクセスにおける輸送障害の発生状況

・鉄道アクセスの遅延は、JR東日本及び京成電鉄の合計で154件発生(2017~2021年成田空港の各鉄道アクセスの遅延や運休の報告件数)
・内訳は、人身傷害60%、施設等の故障が16%、災害が14%、その他が10%。



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図 輸送障害件数(2017~2021年)



(2)コロナ禍を経て、今後想定されている事象


①国際航空需要の回復の見通し

・コロナ禍における国際航空需要の低迷状況にもようやく打開の兆し。
・IATA(国際航空運送協会)によると、世界の国際線航空需要がコロナ禍前の水準まで回復するには2024年頃と予測。また、国内線航空需要の回復は2023年と予測。



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図 成田空港の長期需要予測(発着回数イメージ)


②成田空港の更なる機能強化への取り組み

・C滑走路の増設(B滑走路の南側に3500m滑走路を増設)及びB滑走路延伸(北側に1000m延伸し3500mに変更)
・年間発着枠の拡大(2018年時点の30万回から50万回に拡大)
・夜間飛行制限の変更(A滑走路を朝6時~深夜0時とし、C滑走路供用開始後についてスライド運用を導入することで、空港全体の発着時間を朝5時~深夜0時30分とする)



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図 更なる機能強化について



③旅客ターミナルの再構築、アクセス改善等

・NAAは、以下の主要課題への対応として旅客ターミナルの再構築、貨物機能の高度化、アクセスの改善、近隣地域との一体的な発展等に関する「新しい成田空港」構想を検討中


  1. 1.50万回/年発着に向けた空港処理能力の拡充
  2. 2.航空ニーズの変化への対応
  3. 3.航空物流拠点機能の向上
  4. 4.お客様の空港利便性・満足度の向上
  5. 5.安全・安心・安定的な空港運用の確保
  6. 6.地域連携による空港づくり・地域づくり
  7. 7.脱炭素化等サステナブル社会への対応
  8. 8.道路アクセスや鉄道アクセスの強化

図 「新しい成田空港」構想で対応する主要課題



■ 検討のまとめ


(1)成田空港の鉄道アクセスに求められるサービスレベルに関する考察

①輸送力向上の必要性
・今後増大が見込まれる空港旅客に対し、乗り残しなく快適な鉄道アクセスを提供することが必要であり、非優等列車も含めた着席の確保を可能とする輸送力の向上が望まれる。
   優等列車(全席指定):都心拠点駅及び空港駅でのピーク時乗り残しゼロを目途
   非優等列車:都心拠点駅及び空港からの乗車時に着席できることが望まれるが、沿線在住の空港従業員も一定程度乗車していることから、乗車時に着席できずとも一定時間内で着席可とすることを目途(要すれば空港駅乗降時のピーク時混雑率を設定)
・駅ホーム及びコンコースについても、旅客数の増大に対応し、安全性や利便性を考慮した十分なスペースを確保するとともに、空港内線路の拡張性を確保することが望まれる。


②速達性向上の必要性
・世界主要空港との比較(図1-10)や羽田アクセス線の整備による都心への所要時間の短縮を考慮すれば、成田空港の鉄道アクセスの所要時間について、都心まで最速20分台の実現が望まれる。
・「成田空港は遠い」との根強い先入観を軽減するための工夫も望まれる。


③安全・安定性向上の必要性
・今後さらなる増加が見込まれる自然災害に備えた安全・安定性向上や輸送障害の減少を図り、遅延や運休を減少させることが望まれる。
・遅延が発生した場合には迅速な運転再開を目指すとともに、旅客への適切な情報提供により、その影響を最小限にとどめることが望まれる。
・現在の3つの鉄道アクセスルートの維持によるリダンダンシーの確保が望まれる。


④航空・新幹線の連携強化や乗換駅での利便性向上の必要性
・成田空港の鉄道アクセスと新幹線やリニア新幹線の拠点駅との連携強化を図るとともに、成田空港への更なる潜在的需要が見込まれる北関東方面との接続性強化を図ることが望まれる。
・日暮里等都心との主要乗換駅については、訪日外国人旅客であっても迷わずスムーズに乗り換えができることが望まれる。


⑤先進的な駅空間整備の必要性
・空港駅には、日本の表玄関として、開放的で品格がある駅空間の整備が望まれる。また、航空と鉄道の接続の観点からも、円滑な人の移動に資する駅空間であることが望まれる。
・高齢化人口の増加やダイバーシティにも配慮しつつ、誰にでも使いやすいユニバーサルデザインを取り入れた快適で先進的な駅空間の整備やサービスの提供が望まれる。


(2)求められるサービスレベルの実現方策に関する考察

・単線区間の線増については、北側線増及び南側線増について単線増及び複線増が考えられ、以下の4案が想定
・沿線状況からはいずれの案にも技術的な実現可能性はある。一方、構造形式や施工方法等を含む計画の詳細が未確定であることや新設線建設にかかる工期や概算工事費は一定の想定の下での試算であり、技術面以外についても、需要予測の深度化や収支分析、費用便益分析等を実施する必要がある。
・これらの4案は空港内の地下式構造物(鉄道線路)に接続する想定であるが、空港内既設構造物に起因する鉄道の導入空間の制約や空港外のトンネル区間工事のコストへの対応策として、高架式構造物による施設整備の可否についても検討することが望ましい。


表 空港周辺部単線区間線増案 比較表(試算)
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※本資料は、各々の線増案を比較検討するために、おおよその概算工事費を算出したものである。



(3)成田空港鉄道アクセスの輸送力向上に係る提言

 日本の空の表玄関である成田空港の鉄道アクセスについては、世界に誇りうる利便性、安定性、快適性、先進性を目指して、増大する航空需要及び鉄道需要に対応した輸送力の向上をはじめとする改善を図るべきである。
そのためには、本報告書の7章で考察した方策を一つ一つ着実に実現していく必要があるが、関係者間の調整と実現に長期間を要する輸送力向上については、以下を提言する。

①今後の航空需要及び鉄道需要の増大に対応するため、まずは現行の鉄道施設において、長編成化や運行本数の増加による輸送力向上を図ることが必要である。

②年間発着回数50万回時に向けては、現行の鉄道施設による輸送力向上には限界があり、空港周辺の単線区間の解消、都心側の輸送力向上及び空港内の鉄道施設整備を時間軸も含めて整合的に推進することにより、鉄道アクセスの輸送力向上を図ることが必要である。

③空港周辺の単線区間については、その解消を図るための実現可能な線増案として、前述した北側線増又は南側線増による4案が考えられる。4案については、いずれの案にも技術的な実現可能性はあると考えられる。一方、これらの線増案については、構造形式や施工方法等を含む計画の詳細が未確定であることや新設線建設にかかる工期や概算工事費は一定の想定の下での試算であり、技術面以外についても、需要予測の深度化や収支分析、費用便益分析等を実施するとともに、時間軸や事業主体のあり方、費用負担のあり方を含めて関係者間において検討していく必要がある。

④都心側の輸送力向上方策については、NAA、鉄道事業者等の関係者間において、既存ストックをできる限り活用する方策を検討することが必要である。

⑤空港内鉄道施設については、「新しい成田空港」構想による旅客ターミナルの再構築等も見据え、空港駅ホームの拡充や鉄道線路の複線化について、NAAを中心に、時間軸や負担のあり方も含めて検討を深度化することが必要である。その際、空港駅については、"日本の空の玄関にふさわしい空港駅"としての役割・機能を検討することが必要である。

⑥鉄道施設の整備は、完成供用までに長期間を要し、課題が切迫してからの検討では遅きに失することに留意が必要である。今後、NAAが中心となって鉄道アクセス改善の全体像を描くとともに、鉄道事業者や国、関係自治体、国を含むステークホルダーの参画を得て、改善方策の実現に向けた更なる検討が進められることを期待する。




■ 提言書


日本の空の玄関・成田空港の鉄道アクセス改善に向けて
~輸送力増強による快適性向上への提言~

●成田空港鉄道アクセス改善に向けた有識者検討会(令和4年7月)

   報告書URL:https://www.jttri.or.jp/research/narita_access.pdf
     ※A4版・両面・長編綴じを前提とした【印刷版】