第3回日韓JMC/JTTRI-KMI/KUMLC交流セミナー

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日時 2025/4/11(金)

開催概要

 韓国海洋水産開発院(KMI:Korea Maritime Institute)及び高麗大学海上法研究センター(KUMLC:Korea University Maritime Law Centre)と日本海事センター(JMC:Japan Maritime Center)及び運輸総合研究所(JTTRI)との間で始まった定期交流の一環として、2025年4月11日(金)に韓国高麗大学において、第3回日韓JMC/JTTRI-KMI/KUMLC交流セミナーを開催しました。これら4研究機関は、相互交流及び研究協力を目的とする了解覚書(MOU)を昨年3月に東京(運輸総合研究所会議室)で締結し、同日に第1回の交流セミナーを開催し、2024年9月に釜山で第2回の交流セミナーを開催した経緯があります。
 今回は、韓国側にあってはKMIからチェ院長代行・研究担当副院長を含む3名、KUMLCからキム所長を含む3名、日本側にあってはJMC/JTTRIの宿利会長のほか、JMCから4名、JTTRIから2名が参加し、3つのセッションにおいて、テーマに応じて日韓からの研究発表と議論を行いました。翌日12日には、韓国の大手海運事業者HMMの本社(ソウル)訪問等の現地見学会が行われました。
 なお、次回は2026年春に日本で開催される見込みです。

■KUMLCについて
 キム所長から、高麗大学は、1905年に創設され、1921年にキムソンスに引継がれた私学であり、韓国において、法律分野に関する名門大学であり、ソウル大学、延世大学とともに官界や一般企業のリーダー層に多数の卒業生を輩出している。韓国で海事法研究が本格的に行われているのは高麗大学に限られている。同じく私学である高麗大学は早稲田大学と交流が深い。サムソングループが買収する動きがあったが学生の反対で取りやめとなったなどの説明がありました。

当日の結果

■開会挨拶
 冒頭、キム所長、宿利会長及びサイ院長代理が開会挨拶を順次行いました。宿利会長は、開会挨拶で、第2回に続く韓国側の綿密な準備に謝意を表明した上で、以下の4点について述べました。

① 第2回以降に世界で大きな変化があった。2024年10月にJTTRIがワシントンで経済安全保障のためのシーレーンの安全確保とサプライチェーンの強靭化についてシンポジウムを開催した際に、米国政府幹部は、米国海運・造船を立て直さないと米国の安全保障上今後の大きな支障になる旨を明言した。そのことは、本年1月以降のトランプ政権でも最重要政策課題になり、トランプ大統領の一般教書演説でも言及された。米国の海事支配力回復に関する大統領政令も署名された。1週間前にJTTRIがワシントンで、アジア太平洋における連携をテーマに日米航空シンポジウムを開催した際に面会した米国政府幹部も、話題の半分は海事であった。
② そういう状況の中で、本日のセッションの3テーマについては、いずれも昨今の世界の情勢変化に直結する内容であり、発表と議論を行う意義は大きい。
③ JTTRIとJMCは本日のテーマに直結する研究を始めた。本日の議論を次の成果につなげていきたい。
④ 本日の交流セミナーが、日韓の今後の発展と、国際的な海事・海運の大きな課題解決に繋がることを期待。更に韓日の友好関係の深化を期待

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    KUMLC キム所長

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   JMC/JTTRI 宿利会長

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    KMI チェ院長代行


■セッション1「インド・太平洋地域におけるシーレーンのセキュリティ」

(研究等発表と意見交換)

KUMLCからキム所長が「海上運送経路を含むサプライチェーンの確保」(原文は英語)と題して発表しました。その概要は以下のとおりです。
〇韓国は、コロナ禍でサプライチェーン基本法を策定
○海上運送経路を含むサプライチェーンの安定的確保のため、①荷主・海運会社間の長期契約の増加(中小荷主のとりまとめを含む)、②航海期間の短縮(高速化及び北極海航路の活用)、③適切な数の船舶の確保(定期船事業者の輸送容量拡大、世界的な登録・中央管理制度の導入によるコンテナボックスの安定確保)、④安全な航行ルートの確保(日韓による地域協力を含む)、⑤海外港湾ターミナルの確保、⑥緊急時における供給能力拡大の方策(公的機関による支援、貨物運賃に関する海運同盟、日韓台湾の間のスワップ連携)、⑦その他(貨物量に関するIATA類似の早期警戒組織の設立、物流契約を管理する国際条約の検討、トン数標準税制の恒久化、船員の安定的供給確保)を提案
○なお、③に関し、戦時には政府が船主の同意なしに船舶を徴用できる。平時については、韓国では緊急事態準備法及び緊急事態に備えた海上及び港湾機能の維持に関する法律が成立。国家必須船舶は88隻とされ、これには国籍船のほか国旗取得条件付き定期用船船舶を含まれるが、後者の場合、当該船舶を利用しようとしてもレジストリー(旗国)が同意しない可能性あり。
○④に関し、サウジアラビアの安全地帯に石油の備蓄基地を建設することを提案(米国にYanbuの先例あり)。また、韓国は、造船、船級、海上保険が充実している、台湾は定期船事業に厚みがある、米国はsmall modular reactorを推進系として供給できる、インドネシア、ベトナム、インドは船員の供給力が期待できるなどの点で連携できる。日本の実績を基にしたサルベージ会社の共同運営、コンテナ運送の企業連携も提案

続いて、JMCから中村上席研究員が「インド・太平洋地域のシーレーンのセキュリティ」(原文は英語)と題して発表しました。その概要は以下のとおりです。
○日本は貿易依存度は韓国に比べれば相対的には低いが、エネルギー、食糧や化石燃料等の資源を海上輸送による輸入に依存しており(本の貿易量全体に占める海上輸送の割合は99.6%)、海上輸送が重要
〇日本商船隊は日本の商品貿易の約70%を輸送している。日本にとってチョークポイントでは特にホルムズ海峡が重要
〇日本の内航海運の船員は3万人未満と減少しており、50歳以上が約45%を占める。

続いて、JTTRIから吉田主席研究員・国際部長が「国際海上輸送ネットワークの戦略的確保に関する調査研究」(原文は英語)と題して発表しました。その概要は以下のとおりです。
○世界経済のサプライチェーン維持のため、国際海上輸送ネットワークの安定的確保が不可欠だが、近年の紛争や気候変動等の影響により航行の自由や安全が脅かされる事態が多発しており、各国は、国際海上輸送の確保・維持に向けた取り組みを模索している。
〇日本商船隊の船隊規模は縮小傾向にあり、トン数標準税制等の税制特例措置により日本籍船は着実に増加しているが、日本商船隊の半数以上は便宜置籍船。外航船員は外国人船員が9割以上を占め、内航船員は50歳以上が5割近くを占める。
〇造船では、中国がシェアを増大し、韓国が建造量を維持する一方、日本の建造量は減少傾向。日本における船舶の改造・修繕隻数は過去20年減少するも完成高は近年増加傾向
〇マ・シ海峡を通航した総船舶数は増加傾向にあり、2023年には過去最高を記録。2000年から2023年までに、船舶数は約60%増加。マ・シ海峡を通航する船舶の大宗はコンテナ船、タンカー、ばら積み船であるが、多種多様な船舶が同海峡を通航している。
〇紅海(スエズ運河、バブ・エル・マンデブ海峡)、南シナ海、黒海では紛争の影響で航行リスクが増大、気候変動の影響による渇水によりパナマ運河の通航が制限、マ・シ海峡やソマリア沖、西アフリカなどでは海賊等の発生リスクが継続している。またアメリカでは、造船能力の強化を議論
〇JTTRIでは、ワシントンで開催した日米シンポジウムを踏まえ、国際海上輸送ネットワークの戦略的確保について検討を行う調査研究委員会を設置、日本における課題の整理、欧米諸国の海事政策の調査、シミュレーションによる影響分析などを実施している。

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    KUMLC キム所長

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   JMC 中村上席研究員

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   JTTRI 吉田主席研究員

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    KMI イ院長補佐

キム所長、中村上席研究員及び吉田主席研究員の発表に対して、KMIイ院長補佐が、討論者としてコメントを行いました。この中で、4機関で、交流セミナーに加えて研究協力に取り組みたい、JTTR発表の共同研究調査をサポートしたく、相談して参りたい旨述べられました。
続いて、海上運送経路を含むサプライチェーンの確保などについて、フリーディスカッションが行われました。


■セッション2「米国造船を促進するための米国の最近の提案」

(研究等発表と意見交換)

KMIからハン海運研究本部長が「米国造船を促進するための米国の最近の提案」(原文は英語)と題して発表しました。
今回の発表の概要は以下のとおりです。
○中国が海運も造船も世界有数である一方、米国では20世紀末での支援策の打ち切りなどを背景に、造船も海運も衰退している。米国では、国家安全保障のため戦略商用船隊を創設するとともに、米国造船業を復活させるとする法案が再提出されて、成立する見込み
○そのほかに米国通商代表部(USTR)も、中国籍船・中国で製造された船舶への入港料賦課や、米国製船舶への払い戻しなどの対中政策を提案
○かかる米国の政策は、日本や韓国の造船業の受注を増やす機会になる可能性あり。
続いて、米国の関係政策及び日韓における造船業の状況等に関するフリーディスカッションが行われました。

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  KMI ハン海運研究本部長

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    JMC 後藤研究員


■セッション3「北極海航路を開拓する方法」

(研究等発表と意見交換)

JMCから後藤研究員が「北極海航路の利用傾向」(原文は英文)と題して発表しました。その概要は以下のとおりです。
〇北極圏を通航するルートは北西航路(NWP)、北極海航路(NSR)、極地横断航路(TSR)の3つが想定されるが、商業的可能性が最も高いのがロシアの北極海沿岸を通るNSRである。
〇年々北極圏の海氷は縮小している。喫水制限のため北極海航路で運航できる船舶の数には限りがある。船舶交通量の増加は、北極の生態系と野生生物にリスクをもたらしうる。
〇北極海航路総局(NSRGA)の公開資料やAISデータ等に基づいて、2024年を中心にNSRおよびNWPの航路利用動向を整理した。直近十数年のデータは、航海と貨物量が着実に増加していることを示しており、航路の段階的な商業化を示唆している。今後は、地政学的安定性、気候と海氷の状態、北極圏の航行に対応した船舶とインフラへの投資に左右されると考えられる。

続いて、北極海航路に関する日韓の動向等について、フリーディスカッションが行われました。


■閉会挨拶

 閉会挨拶で、宿利会長は、次の旨を述べました。
① 交流セミナーが東京、釜山及びソウルでの各開催で一巡して4機関での信頼関係が深まったことを実感した。
② 本日の3テーマの背景はいずれも、きわめて今日的なグローバルなテーマであると感じた。
③ キム所長の発表は、鋭い観察と分析による提言で、チェ院長代行とイ院長補佐からはそれを深めるコメントだった。ハン海運研究本部長の発表は、米国で再開される議会で改めて審議されるであろう法案に関する丁寧な解説で、日本としても注視していきたい。北極海航路については、チェ主任研究員によるコメントを含めて、状況と課題の共有が適切に行われた。
④ 日韓は、海事産業とシーレーンのサプライチェーンの確保に関してあまりにも似た課題に直面していることがわかった。今後も、大きな国際情勢の変化を意識しながら、4機関で交流セミナー又は共同研究の形で、継続的に議論していくことが重要である
キム所長からの閉会挨拶により終了しました。

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   JMC/JTTRI 宿利会長


■現地見学会

 翌12日、漢江南岸に位置するHMM本社を訪問しました。現代グループによる海運事業として発足しましたが、近年、現代グループから独立して、国側が約7割出資する事業体として再編され、HMMに改称しました。当該本社は、国会議事堂近くの一等地に発つツインビル(写真中赤い際が目立つ、80階以上の高層で、漢江周辺を見渡せる)にコロナ後に転居しました。現在、LMGの輸送も行っていますが、アンモニア等脱炭素燃料の輸送も検討しているとのことです。

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               HMM職員と共に

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   漢江クルーズ船から見たHMM本社入居のツインビル