第20回 日韓JTTRI/KOTIジョイントセミナー

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日時 2025/11/27(木)

開催概要

 2025年11月27日午後、韓国交通研究院(KOTI)と当研究所(JTTRI)との間で第20回日韓ジョイントセミナー「実務的及び理想的なアプローチによるモビリティ―の変革」を開催した。同セミナーは1993年以来、コロナ禍などの途中中断期間もありながら、年1回程度の間隔で相互開催しているもので、前回の第19回セミナーは昨年11月に東京(JTTRI会議室)で行われた。20回目となる今年は韓国東海岸の江陵(Gangneung)での開催となり、KOTIからKIM院長(昨年に着任)はじめ9名が、当研究所から宿利会長及び屋井所長を含む5名が参加した。
 会議では、「ビッグデータとAIの活用によるモビリティーの革新」と「高速鉄道回廊と地域鉄道」をテーマとして相互に研究調査の発表を行うとともに、議論と今後の更なる研究協力について意見交換を行った。
 さらに、当日の午前中には、江陵都市情報センター及び自動運転バスの現地見学会が行われた。次回は来年、日本で開催される予定。

プログラム

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開会挨拶

挨拶①
KIM Youngchan<br> KOTI院長

KIM Youngchan
 KOTI院長

挨拶②
宿利 正史<br> JTTRI会長

宿利 正史
 JTTRI会長

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セッション1「ビッグデータとAIの活用によるモビリティーの革新」

発表①
『韓国におけるビッグデータとAI及びそれらの活用』<br><br>WON Minsu<br> KOTI研究員

『韓国におけるビッグデータとAI及びそれらの活用』

WON Minsu
 KOTI研究員

発表②
『日本のモビリティーにおけるビッグデータとAIの活用』<br><br>嶋倉 康夫<br> JTTRI主任研究員

『日本のモビリティーにおけるビッグデータとAIの活用』

嶋倉 康夫
 JTTRI主任研究員

モデレータ
KIM Youngho<br> KOTI主任研究員

KIM Youngho
 KOTI主任研究員

討論者

藤﨑 耕一
 JTTRI主席研究員・研究統括

討論者
KIM Youngkook<br> KOTI研究員

KIM Youngkook
 KOTI研究員

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セッション2「高速鉄道回廊と地域鉄道」

発表①
『交通革新のための広域急行列車(Great Train Express: GTX)プロジェクトの現状と今後の方向』<br><br>KIM Jungin<br> KOTI副研究員

『交通革新のための広域急行列車(Great Train Express: GTX)プロジェクトの現状と今後の方向』

KIM Jungin
 KOTI副研究員

発表②
『日本の整備新幹線の並行在来線と地域公共交通計画との関係に関する事例研究』<br><br>伊達 真生<br> JTTRI研究員

『日本の整備新幹線の並行在来線と地域公共交通計画との関係に関する事例研究』

伊達 真生
 JTTRI研究員

モデレータ
SHIN Hee Cheol<br> KOTI副院長

SHIN Hee Cheol
 KOTI副院長

討論者
屋井 鉄雄<br> JTTRI所長

屋井 鉄雄
 JTTRI所長

討論者
KIM Suhyeon<br> KOTI研究員

KIM Suhyeon
 KOTI研究員

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閉会挨拶

挨拶①
屋井 鉄雄<br> JTTRI所長

屋井 鉄雄
 JTTRI所長

挨拶②
KIM Youngchan<br> KOTI院長

KIM Youngchan
 KOTI院長

当日の結果

■開会挨拶

 冒頭、KOTI KIM院長が、昨年の東京開催にて日本の鉄道経営を学んだことについて謝意を表し、2026年にITS World Congress開催が予定されている江陵の地で、双方の研究者が、ITSと鉄道について知見を深め、有意義なセミナーとなることへの期待を表明した。
 続いて、JTTRI宿利会長が、20回目という記念すべき日を迎えるKOTIとのジョイントセミナーの歴史に触れ、昨年における東京での第19回ジョイントセミナーと韓国海洋水産研究員(KMI)等との第1回交流セミナーの開催に言及した上で、湖と海岸の風光が明媚で夜景も美しい江陵での開催について、午前中の現地見学を含め、韓国側による綿密な準備に対する謝意を表明した。また、以下の5点について述べた。
・本日のセッションテーマである①「AI・ビッグデータの活用」と②「高速鉄道と地域鉄道の関係」について、日本にとって重要なテーマであり、AI・ビッグデータの活用については、社会の各分野で近年努力しているが、交通分野では理想的な進展に至らず、試行錯誤の状況である。韓国と連携して世界のトップランナーになれるようにしたい。
・1964年の東京オリンピックの10日前に東京・大阪間で世界初の高速鉄道が開通し、それ以来、地域の持続的発展と両立させるという課題に直面してきた。KOTIの研究員と意見交換する中で、相互の問題意識を深めていければ有意義
・今朝見学した都市情報センターは、交通に留まらず住民のQOLの向上などにも上手に活用されていることに気づいた。自動運転バスの実証運行も体験し、現地の取組みに接することが大事と実感した。
・KMI及び高麗大学海事法研究センター(KUMLC)と日本海事センター(JMC)及びJTTRIとの間では、MOUを昨年締結して以来、交流が進んでおり、来年4月に第4回交流セミナーを日本で開催する予定。KOTIとの来年のジョイントセミナーについて、東京以外での開催要望もお聞きして、企画したい。
・KOTIとの交流の重要性は増しており、日韓だけでなくアジア、ひいては世界の交通分野の発展に貢献していくことを期待


■セッション1「ビッグデータとAIの活用によるモビリティーの革新」

 KOTI交通ビッグデータ・AI研究部WON研究員が、「韓国におけるビッグデータとAI及びそれらの活用」(原文は英文)と題して、発表した。
発表概要:
 ①交通における日常業務と機会として、混雑緩和、安全及び経済/環境の命題を挙げ、Industry4.0がこれらの命題に同時に対応することが期待されていること、②交通システムの将来を考えるに際して、Mobility-as-a-Service(MaaS)を例に、ビッグデータとAIの活用可能性について触れた。その上で、③モビリティーのビッグデータとして、運行GPSデータ、携帯電話ネットワークデータ及びスマートカードデータを挙げ、それぞれのデータ収集方法・定義・形式、データ処理及び活用を紹介した。次に、④AI技術によるデータ収集として、交通混雑測定、平均速度測定並びに人及び車両の動きの把握と測定を紹介した。最後に、⑤韓国における活用として、コロナ時のモビリティと活動パターンの変化の把握、雑踏混雑事故の抑制、モビリティー基調と多元的モビリティー指標(大言語モデル(LLM)を使った人口合成、意思決定支援)、世宗市からのデジタル・ツイン及びプライバシー保護のために合成・再構成されたデータを紹介した。

 続いて、JTTRI嶋倉主任研究員が、「日本のモビリティーにおけるビッグデータとAIの活用」(原文は英文)と題して、発表した。
発表概要:
 ①前回までのジョイントセミナーでJTTRIから発表した研究調査結果のうちビックデータとAIに関係する部分を整理して示し、②AIの活用事例として、顔認証による無人化ゲートと航空機用コンテナへの手荷物積込みの事例を紹介した。③ビックデータの活用事例として、交通系ICカード、道路交通情報、バス利用情報及び携帯基地局情報の各活用事例に加え、新たな航空管制の研究・開発を促進するために関係データを研究者に提供している事例(CARATS)と、MaaSの様々な主体・地域間の情報連携促進の事例を紹介した。④ビックデータとAIの両方の活用事例として、物流全体の最適化を目指した物流・商流データ基盤の構築とその効果、鉄道でのメンテナンスの効率化に向けた取組、空港等での案内・受付業務の遠隔化・AI化を目指した取組を紹介した。最後に、⑤JTTRIが近年実施した、新しいモビリティー、高齢者移動手段確保、自動運転の導入加速化及び持続可能な物流システムの実現をテーマとする各研究調査から得た、ビッグデータとAIに関する提言等を整理して紹介した。
 これらの発表に対して、JTTRI藤﨑主席研究員・研究統括が、MaaSの利用者データをビッグデータとして交通のサービス又は計画を改善した事例が韓国であるか、を質問した。KOTI KIM研究員が、交通のAIに関する専門家はどうあるべきかを質問し、嶋倉主任研究員からは、基礎となるデータを行政などが研究者に提供し、より良い解析や利用方法を研究・開発するべきではないかと提案した。

 続く自由討議では、KOTI KIM院長が、優れたデータが揃えば優れたAIを作ることができること、携帯電話のデータはほぼすべての人の移動を把握できる汎用データであり、様々な活用が考えられることと、KOTIは、携帯電話1社のデータをKOTIサイトで現在公開しているが、韓国国内の携帯電話会社3社のデータを統合して使えるように検討している旨を述べた。


■セッション2「高速鉄道回廊と地域鉄道」

 KOTI鉄道交通研究部KIM副研究員が、「交通革新のための大列車急行(Great Train Express: GTX)プロジェクトの現状と今後の方向」(原文は英文)と題して、発表した。
発表概要:
 ①GTXプロジェクトの背景に、鉄道交通に対する公衆の期待の増加、大都市圏における通勤時間の削減、中長距離移動需要の増加がある。政策の方向性は、5地域3特別区域に焦点を当てた国家の均衡ある発展、(地域外での)国家的拠点を結ぶ高速鉄道ネットワーク及び(地域内での)大都市圏鉄道の拡張である。大都市圏鉄道が時速50km以上であるという特徴等に対してGTXの体制的コンセプトは、持続80km以上であり、駅間距離は4km以上で、最も乗降客数が多い駅から各駅までの平均所要時間が30分未満である。②GTXの現状は、首都圏地域で第一段階の3プロジェクトから第二段階で6プロジェクトに増え、首都圏以外の地域で、4プロジェクトが計画又は進行中である。2024年以降順次開通する首都圏地域におけるGTX-Aの効果は、地下鉄、高速鉄道及びバスを含めた他の交通手段からの転移が起こっており、終端駅地域への人口流入が増加した。③GTXの主な課題は、列車運行の線路容量上の制約、延伸及び追加駅開設への地方政府からの要望、民間投資力を超える建設費増加による整備の遅れ、である。④将来の方向性は、建設と運営の整合性を考慮する鉄道運営システムの確立と、合理的な利用者ペイのプロジェクト手続きの改善である。

 続いて、JTTRI伊達研究員が、「日本の整備新幹線の並行在来線と地域公共交通計画との関係に関する事例研究」」(原文は英文)と題して、発表した。
発表概要:
 ①日本の高速鉄道である新幹線は、1964年の東海道新幹線開業以降、単なる輸送力増強だけでなく国土の発展を意図してネットワークが拡充されてきた。国鉄分割民営化以降に整理された整備新幹線のスキームにより、1997年の北陸新幹線(高崎・長野)開業以降、原則として並行する在来線はJRから分離され、第三セクターを基本とした地元自治体の参画により経営されている。②新幹線整備に関連する地域鉄道の事例として富山地方を紹介。富山市においては駅整備に併せ在来線を高架化し、北部に伸びる支線をLRT化し、既存の路面電車網も拡充してコンパクトシティを実現。また富山県内の並行在来線「あいの風とやま鉄道」はダイヤ改善、新駅設置等で利用客数を維持し、接続するJRローカル線の統合が決定するなどの積極策を進めているが、競合する民鉄の「富山地方鉄道」では存廃問題が議論されるなど、課題もある。③地域交通制度の革新案(JTTRIが本年6月に発表した提言)の概要:日本の地域交通事業を取り巻く情勢をふまえ、交通政策基本法に基づき、地域交通の確保責任は自治体にあること、法定協議会や地域交通計画の策定を義務化すること等

 これらの発表に対して、JTTRI屋井所長が、GTX整備における脱炭素政策の観点や、地元負担に関するスキームの整備状況等について質問したほか、KOTI KIM研究員が整備新幹線をはじめとした日本の鉄道事業における費用対効果の評価や地元負担のあり方等について質問するなど、討論者による討論を行った。

 続く自由討議では、韓国の鉄道建設法(2004年公布)が高速鉄道、広域鉄道等の定義を定め、鉄道建設費の分担等を定める内容であることを確認した上で、JTTRI宿利会長が、①国が中心に鉄道整備を進める韓国と日本との相違の背景を理解するために、日本の鉄道の歴史について、大要次のとおり説明した。

 英国の技術の導入により1872年に鉄道が初めて開通して以来明治政府が鉄道整備に注力したが、政府に資金余力がなかったので、政府が自ら整備する路線と、資金力のある民間資本家に整備を要請する路線の2種類に分け、整備された。1906年(日露戦争直後)に、政府は鉄道が軍事的に極めて重要なインフラであることに気づき、後者の多くを国が購入して国営化し、さらに戦後これが日本国有鉄道(国鉄)となった。しかし、国鉄の経営破綻を契機に、1987年の国鉄改革により分割・民営化された。一方で、大都市周辺では、1900年代初から、民間の優れた経営者が鉄道及び沿線の住宅やデパート、劇場などの商業施設を一体的に整備することにより、鉄道を民間収益事業として成り立たせるビジネスモデルを確立し、純粋な民間鉄道事業者が相当なネットワークを持っていた。したがって、公営で整備したのは、JRを除いて、大都市の地下鉄などに限られる。つまり、日本の場合は、民間経営のこのような長い歴史がある。鉄道敷設法(1892年公布)では、国が鉄道整備路線を法律で決めていたが、同法が国鉄改革の際に廃止されて以降、国が整備計画を策定するのは、例外的に新幹線のみとなっている。

 また、②伊達研究員の発表において紹介された、並行在来線のうちの、地元密着型のサービスを心がけている富山の好事例について触れ、並行在来線の多くは、利用客が極めて少ない中で、地元の自治体が費用負担をして、如何に維持するかという問題に直面していること、北海道では、並行在来線を廃止するという話が出ているが、JR貨物が並行在来線を使用していることから、貨物鉄道を維持するために簡単に廃止はできず、事実上国から助成を行いながら並行在来線を維持していることを補足した。


■閉会挨拶

 JTTRI屋井所長が、風光明媚な江陵での今回のKOTIによる開催に対する感謝の意を改めて表した上で、二つのセッションで双方からの意義ある発表と議論を通じて、日韓の状況についての理解が進んだこと加え、次の点を述べ、本日の理解を基にした来年の更なる議論への期待に触れつつ、閉会挨拶をした。
・安全性要求が社会で高まる中で新技術等の導入に合意を形成することの重要性を改めて認識した。
・日本の鉄道の歴史は古いが、一旦整備したら50年ないし100年ぐらい走らせるという覚悟で、維持費を含めて意識して進めることになる。その意味で、隣国の韓国で鉄道整備を進めている状況に感銘を受けた。
・二つのセッションのテーマは、競合するものではなく、共存し、一部融合して発展していくと、交通専門家がおそらく考えている、よいテーマの組合せであった。
 最後に、KOTI KIM院長から、閉会挨拶で、KOTIでは物流基本計画の立案も行っているなどの特徴があり、日韓の違いを理解することが大事で、更に情報交換を進めたい旨を述べた。


□現地見学会

 江陵市(人口約20万人)の都市情報センター(江陵市役所内)を訪問した。例えば、次の説明内容を受けた:

 国からの公募に応じて、江陵市はIntelligent Transport System(ITS)化の提案を行って支援を受け、防災センターをスマート化して24時間司令員が常駐する同センターを2020年に運営開始した。市内の信号(警察が運営)の情報を集約し、信号情報(何秒後に青になるか、など)の政府クラウド経由での自動車ナビゲーションサービスへの提供、緊急車両を優先通行させるための信号調整、スマートカメラの設置による方向別の車両通行情報のビッグデータ化、スマート横断歩道(高齢歩行者を検知し、青信号を長くする)等の取組みを行っており、市民向けの見学プログラムを用意している。他の中小都市とも連携しつつ、全市ITS化を目指している。このような取組みをPRして、江陵市は、2026年World ITS Congressの開催場所に選ばれた。

 また、江陵アリーナから自動運転バス(無料運行で実証中)の試乗を行った。現在は、緊急時に備えた要員も乗車していること、将来は有料運行に移行する計画であるが、運行主体は未定であること等の説明を受けた。

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         江陵都市情報センターの見学

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           自動運転バスの試乗


□現地モビリティー・観光事情の調査

○セミナー会場となった江陵(Gangneung)市は韓国東海岸の北部に位置する。海辺のリゾート地として夏は多くの観光客(1日当たり約10万人)が訪れるほか、2018年の平昌オリンピックでは屋内競技の会場となり、アリーナ施設のほか、ソウルから直通する高速鉄道(在来線直通タイプのKTX eum)の整備が行われた(1日当たり約2万人の来訪者がKTXを利用)。風光明媚な土地柄に加え、バリスタの集まる「コーヒー通り」が有名など、若者にも注目されるエリアである。
○江陵市から南隣の東海(Donghae)市にかけての鉄道線は海岸沿いを走り、観光列車も運行されている。海に面した正東津(Jeongdongjin)駅は人気が高く、フォトスポットやレールバイクが設置されている。
○東海市は港湾を抱える工業都市であるが、北部の墨湖(Mukho)港は日本統治時代に開かれた貿易港であり、現在はイカやカニが水揚げされる漁港として知られている。灯台のある丘には前衛的な展望台が設置されている一方、古くからの斜面住宅地が壁画村として再生されるなど、懐かしさと新しさが共存する観光エリアとして整備されている。

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        江陵駅(改札無)における動線表示

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     正東津駅に停車中の東海サンタ列車(仕切付客席)

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        ホーム上の休憩室(海岸展望椅子有)

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         レールバイク(鉄道本線は左段差上)

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        展望台が整備された墨湖港エリア

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      斜面住宅地を観光地として再生・活用

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      「住居地域です 静かにして下さい」表示