2050年 どうする!公共交通
~2050年の日本を支える公共交通のあり方とは~

  • その他シンポジウム等
  • 総合交通、幹線交通、都市交通

公共交通シンポジウム

Supported by 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION

日時 2023/6/28(水)14:00~17:00
会場・開催形式 ベルサール御成門タワー3階ホール (及びオンライン配信(Zoomウェビナー))
テーマ・
プログラム
【開会挨拶】
宿利 正史  運輸総合研究所 会長

【来賓挨拶】
藤井 直樹  国土交通事務次官

【基調講演】
『コロナ後の変化と2050年の未来に向けた期待』
森地  茂  政策研究大学院大学名誉教授 客員教授
       2050年の日本を支える公共交通のあり方検討委員会 座長

【提言報告】
2050年の日本を支える公共交通のあり方検討チーム(運輸総合研究所研究員)

【パネルディスカッション】
コーディネーター:加藤 浩徳  東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 教授
                2050年の日本を支える公共交通のあり方検討委員会
                地域間交通小委員会 座長
パネリスト   :福田 大輔  東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 教授
                2050年の日本を支える公共交通のあり方検討委員会
                地域内交通小委員会 座長
        :有村 幹治  室蘭工業大学大学院工学研究科教授
        :奥村  誠  東北大学災害科学国際研究所教授(オンライン参加)
        :神田 佑亮  呉工業高等専門学校環境都市工学分野 教授
        
【閉会挨拶】
佐藤 善信  運輸総合研究所 理事長

開催概要

 運輸総合研究所では、2050年をターゲットとして、日本社会の変化や目指すべき社会の姿を想定した上で、日本を支える公共交通のあり方を示し、その具体化に必要な施策や検討の方向性等を示すべく、公共交通の各分野に造詣の深い学識経験者を交えて検討を進めてきた。
本シンポジウムでは、これまでの検討成果としての提言(6月14日公表)について報告を行うとともに、2050年においても、国土の骨格となる幹線交通、生活の足となる地域公共交通、グローバルな交流の基盤となる国際交通が日本を支える社会インフラとして十分な機能を全うしていくために、誰が何をなすべきか、またそのために必要な社会的合意をどのように形成していくべきか等について、検討に参画した方々や聴講者とともに考察を深めた。

※提言についてはこちらをご覧ください

主なSDGs関連項目

プログラム

開会挨拶
宿利 正史<br>運輸総合研究所 会長

宿利 正史
運輸総合研究所 会長



開会挨拶
来賓挨拶
藤井 直樹<br>国土交通事務次官

藤井 直樹
国土交通事務次官

基調講演
『コロナ後の変化と2050年の未来に向けた期待』<br>森地  茂  政策研究大学院大学名誉教授 客員教授<br>       2050年の日本を支える公共交通のあり方検討委員会 座長

『コロナ後の変化と2050年の未来に向けた期待』
森地  茂  政策研究大学院大学名誉教授 客員教授
       2050年の日本を支える公共交通のあり方検討委員会 座長

講演者略歴
講演資料

提言報告

 2050年の日本を支える公共交通のあり方検討チーム(運輸総合研究所研究員)

 


   講演資料
【パネルディスカッション】

コーディネーター
加藤 浩徳  東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 教授<br>       2050年の日本を支える公共交通のあり方検討委員会<br>       地域間交通小委員会 座長

加藤 浩徳  東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 教授
       2050年の日本を支える公共交通のあり方検討委員会
       地域間交通小委員会 座長

講演者略歴
講演資料

パネリスト
福田 大輔  東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 教授<br>       2050年の日本を支える公共交通のあり方検討委員会<br>       地域内交通小委員会 座長

福田 大輔  東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 教授
       2050年の日本を支える公共交通のあり方検討委員会
       地域内交通小委員会 座長

講演者略歴
講演資料

パネリスト
有村 幹治  室蘭工業大学大学院工学研究科教授

有村 幹治  室蘭工業大学大学院工学研究科教授

講演者略歴
講演資料

パネリスト
奥村  誠  東北大学災害科学国際研究所教授(オンライン参加)

奥村  誠  東北大学災害科学国際研究所教授(オンライン参加)

講演者略歴
講演資料

パネリスト
神田 佑亮  呉工業高等専門学校環境都市工学分野 教授

神田 佑亮  呉工業高等専門学校環境都市工学分野 教授

講演者略歴
講演資料

閉会挨拶
佐藤 善信  運輸総合研究所 理事長

佐藤 善信  運輸総合研究所 理事長



閉会挨拶

当日の結果

1.基調講演

『コロナ後の変化と2050年の未来に向けた期待』 森地 茂  政策研究大学院大学名誉教授 客員教授  
                             2050年の日本を支える公共交通のあり方検討委員会 座長

 コロナ禍で環境や人々の意識変化も進み、公共交通は従来の料金水準では限界となり、高齢化社会で公共交通の必要性は増大するなど、現在日本は政策の大転換期であるといえる。 2050年には人口減少と少子高齢化により、地域のコミュニティが維持できなくなり、地域・都市構造は変化せざるを得なくなるだろう。また、Z世代以降のウェルビーイングな価値観の台頭に伴って交通の多面的な価値がより重要になる。さらに、デジタル化社会やアジアを中心として海外の都市は発展を続け、災害インフラ老朽化など危機的な要素も迫ることが予想される。 その背景の中、本検討委員会では、日本が目指すべき社会は「多様な価値観を包含する社会」「カーボンニュートラルなグリーンな社会」「海外の活力を取り込むグローバルな社会」「災害の激甚化に向けて安全・安心な社会」「地域構造の再構築と地域連携による経済が活性化している社会」「新技術で生活産業が劇的に変化する社会」であるとして、2050年の公共交通のあり方を9つ提言した。
 大都市公共交通は運賃改定と快適性の欲求に対応したサービスが必要であり、地方公共交通は公的負担への転換が避けられない。地方幹線鉄道は、貨物鉄道と高速化及び存続路線の選別検討をしなければならない。地方鉄道はBRT転換と公共交通網の再編が重要である。自動運転は要求水準があがっており、簡略化、安低廉化を考えなければ地方への普及ができない。災害多発、老朽化に対して、特に地方部で自治体、鉄道会社に技術者がいない中でどうするかも考えなければならない。こうした課題に対して、公共交通政策の転換が必要である。 社人研の将来の全国の人口予測では2020年と2050年の比較で、年率0.6%の人口減少、高齢者人口は0.2%増加、生産年齢人口は1.1%減少、若年人口は年1%減少となる。人口減少により市場が小さくなると言われるが、人口減でも年1%の生産性が上げられない社会であってはならない。 東京都を見ると、本検討会の人口推計では、現在の実績値より2050年の人口は多くなる結果となり、東京圏でも、2020年度時点の推計値より現状の人口はさらに上行っている。コロナ禍によって2021年に東京都区部は一時転出超過となったが、2022年には回復した。明日にでも東京の人口が減るかのように言われるが、そうではない。 地方部を見ると、地方市町村から県庁所在地、県庁所在地から中枢都市、中枢都市から三大都市と東京に人が流れている。東京への転入を止めるために中枢都市を活性化すると、地方ブロックでの一極集中が激しくなる。こういう矛盾した問題を解かざるを得ない。 一方で地方の生活を維持する必要がある。過疎地域の生活サービスや、都市や幹線に沿って住むのかを考え、これに対応できる公共交通を考えなければならない。 デフレ下で人口減少とマイナス成長を続け、コロナ禍で経済と財政が更に悪化した。デフレが続く過去30年間のデータを使った経済モデルを作れば、永久に不況が続く構造になるため、バックキャストで将来を考える必要がある。 公共交通整備の見通しや、国民の公共交通への要求水準達成のための資源の優先順位について社会的合意が取れるかが課題である。また、公共交通を民間に任せる日本型モデルを早急に改善する必要がある。人々の将来の住まい方と、公共交通およびその長期戦略と実現のための方策を国民的に議論しなければならない。


2.提言報告


2050年の日本を支える公共交通のあり方検討チーム (運輸総合研究所研究員)
 政府の交通政策基本計画は5年が基本計画期間であり、それ以上の長期計画はあまりないが、国土形成計画やカーボンニュートラル等は2050年を対象に議論がされている。それを踏まえて2050年を本検討会の議論の対象とした。 また、コロナ禍で様々な将来の課題があらわになった今こそ公共交通の議論をすべきである。

あり方1(新田元研究員)
あり方1はあり方全てに関わる基本的かつ普遍的な目標である。 子ども・子育て世帯への着眼は重要であり、公共交通は子どもが社会性を身につけるための有効な手段など、委員会の中でも度々議論されていた。 コロナ禍の影響が残るのは大都市の通勤客であり、これへの対応も重要である。多様な働き方に対応したサービスだけでなく、今後の日本では運賃規制のあり方が課題であり、変えるべきときに変えられず赤字を増やした国鉄の二の舞は避けなければならない。 また、こうしたインクルーシブな交通は誰の役割なのか。インクルーシブな方向に進むほど供給側への要求水準は高くなるが、人口減少と少子高齢化の進行もあり、このままでは事業者は苦しくなる一方であることから、多面的価値を踏まえあり方2のような議論が重要となる。

あり方2(竹島主任研究員)
既に民間の交通事業者のみに委ねた地域交通サービスの維持は限界となっており、交通の多面的な価値を踏まえると、望ましい地域交通サービスを確保するためには、あらゆる関係者がそれぞれできることを実施することが重要となる。 中山間地域・離島等では、デマンド交通や貨客混載等あらゆる手段を総動員することが重要となる。小委員会では、定額制の研究事例も紹介され、陸上公共交通のサービス維持を国民で平均して負担した場合、1人当たり年間5万円である。税金だけではなく様々な受益による負担もあるはずで、あらゆる関係者が連携し、様々な可能性を検討して、地域交通サービスの実現に取り組む必要がある。

あり方3(小林研究員)
あり方3には3点必要なことがある。 1つ目として、早期復旧のための備えである。2050年までには、首都直下地震、南海トラフ地震の発生が想定され、発災前に被災状況や影響範囲を想定したリダンダンシー確保のため、陸海空で、横断的かつ広域的なBCP計画の策定が必要である。 2つ目として、事前のコンセンサス作りであり、防災対策を兼ねた地方幹線鉄道の高度化を行うことが重要である。豪雨により被災したJR只見線では復旧方針の決定に6年、運転再開まで11年を要した。このような事例を各地で発生させてはならない。 最後に、2050年までには、インフラの超高齢化、人材の不足、テロ対策、感染症対応等課題は山積しているが、利用者が安全安心に公共交通を利用できる環境整備が重要である。

あり方4(海谷主席研究員)
運輸部門の脱炭素は、ライフサイクル、資源確保、省エネの必要性等も含めてトータルの議論が必要である。 例えば、EV化が進んでもライフサイクルでのCO2排出量は約60%減に留まり、対マイカーでは依然鉄道が優位である。また、EV化・自動化によってマイカーの志向が高まると、CO2排出量は増加する上、都市部では渋滞も深刻化するため、適切なモード分担に誘導する方法を考える必要がある。 加えて、脱炭素化により交通機関のコスト構造が大きく変わることが考えられる。特に、コストが増高する場合、これを社会全体でどのように負担するのか考えなければならない。脱炭素化の取り組みは、供給側あるいは利用側の企業の資金調達や契約行動にも影響を与える可能性がある。

あり方5(嶋田元研究員)
コロナ禍を経て投資は抑制傾向にあるが、現状維持を選択すると日本の大都市、ひいては日本全体の相対的地位低下に繋がる。 大都市の公共交通への継続的な投資により速達性のみならず、快適性等の付加価値も加味したモビリティネットワーク、サービスの高度化が必要である。 また、総合生活産業としてまちづくりによる沿線活性化の好循環を続けるためにも、鉄道会社が再投資を可能とするだけの収入を確保できる環境整備も重要である。 日本の鉄道ビジネスモデルをパッケージ化し、マネジメントも含めたTODの導入とともに海外展開し、海外のまちづくりに貢献していくことが、世界との経済連携を深めていく上でも重要である。

あり方6(新倉研究員)
リニア中央新幹線は、東名阪沿線のみに効果を留めるのではなく、高速道路直結、他モードとの連携等、効果を最大限に発揮させていく工夫が必要である。日本の幹線交通ネットワークは、道路を除き民間主導となるが、幹線交通ネットワークは国土を支える骨格であり、新幹線、在来鉄道、航空、高速バス、航路等を統合したネットワーク構想が必要である。 また、航空や道路で対応できない領域や、ネットワークが発揮できる領域を見極めた上で、他モードの連携も含めて在来の幹線鉄道ネットワークに関するプランを作っていくことが重要であり、それは国家安全保障やカーボンニュートラルの実現に向けた貨物鉄道の利用促進にも繋がると考えている。

あり方7(海谷主席研究員)
島国の日本では航空がない国際交流というのはあり得ないため、航空が国際交流のボトルネックになることは避けなければならない。航空機の特性上、脱炭素の達成にはSAFに依存せざるを得ないため、いかにそれを安定的かつ安価に導入できるかが重要である。 また、コロナ禍で航空関連企業も大きな打撃を受け、人手不足が顕在しつつある。水際対策等が国際的に見て適切だったのかを検証する必要がある。 さらに、世界の多様な人材交流を支えるために、付加価値の高い国際人材が日本で活用しやすい環境を整備することが必要である。

あり方8(春名主任研究員)
日本の地方部の魅力は世界で認められてきている。観光客が東京や大阪、地方都市へと周遊することを踏まえると、各地方都市におけるオーバーツーリズムが課題となる。観光客が各地分散して訪問できることを念頭に置いた交通ネットワークの構築・交通サービスの提供が重要になる。 さらに、アジアの広域観光も視野に入れ、フライ&クルーズのような取り組みを進める必要がある。 一方、国内旅行消費額の大半を占めるのは日本人による国内旅行である。大都市圏住民といった大需要層を取り逃がさないためにも、観光二次交通の充実を考えていく必要がある。

あり方9(島本研究員)
人手不足は既に危機的な状況にあり、鉄道の完全自動運転化等できることから積極的に取り組むことが必要である。新技術の導入に当たっては、制度の不備があれば解消し、規制は法令レベルで細かく縛らないようにする等改善を進めやすくする仕組みが必要である。新技術の不確定な要素は、新技術への投資や人材確保を阻害する可能性があるため、不確実性を積極的に議論して、それらを勘案した方針、計画の策定が必要である。 また、我が国における交通分野のDXはデータを囲い込む方向になりがちと言え、オープンデータ化について積極的に検討を進めていくことは重要である。交通事業者の集約化、共同化など構造改革による強化や規制見直しも含めて、イノベーションへの支援体制の構築が必要である。

おわりに
最後に、9つのあり方に共通した考え方は、「日本型モデルの限界」、「縦割り排除」、「海外の合理的な政策の長所を取り入れる」の3点が基となっている。今回の内容はあくまでたたき台にすぎず、財源論を含めた具体的な解決方策、あるいは優先順位付けの議論を喚起する一助になれば幸いである。


3.パネルディスカッション

コーディネーター 加藤 浩徳 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 教授
              2050年の日本を支える公共交通のあり方検討委員会  地域間交通小委員会 座長
パネリスト    福田 大輔 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻教授
              2050年の日本を支える公共交通のあり方検討委員会 地域内交通小委員会座長
        有村 幹治 室蘭工業大学大学院工学研究科教授
        奥村  誠 東北大学災害科学国際研究所教授
        神田 佑亮 呉工業高等専門学校環境都市工学分野教授

〇本提言内容の深堀となる話題提供
【加藤先生】
今回の検討と並行し、他でも地域間交通にかかわる議論が行なわれている。たとえば土木学会では、新幹線を対象とした日本インフラの体力診断が行われていた。この報告によれば、日本の新幹線ネットワークの形状は数珠型であり、他国と比較する際には、この形状の固有性を念頭に入れなければならない。新幹線沿線地域は、新幹線導入により労働生産性が向上したという研究もあり、新幹線が国土経済に与える影響は大きい。また、政府が進めているデジタル田園都市国家構想では、地方と都市の差を縮めて、土地の活力、地方のゆとりの両方を享受できる国を作ることを目的に、デジタルに焦点をあてつついかに地域間連携を実現するかが議論されている。同様に、国土形成計画の議論でも、地域力を繋ぐ国土やシームレスな拠点連携等をキーワードに、デジタルとリアルとを融合することが掲げられている。 こうした背景のもと、地域間交通小委員会では、何を地域間交通の目標とすべきかを中心に議論してきた。議論の結果、地方衰退に対する危機感が強いことから、それに見合うものへと目標が集約されていった。これは、他の構想や計画の議論で示されている「地方のゆとり」や「シームレスな拠点連携」というキーワードとも合致している。具体的には、リニア中央新幹線が国土に与える影響を全国に波及させ、それをネットワークで実現すること等が挙げられる。また、公共交通機関の競合協調も議論された。議論の結果、ネットワーク計画や複数交通機関を統合すべきという結論が得られた。この背景には、異なる交通機関を横断して考える機会がこれまであまりにも少なかったという反省がある。政策的に誘導する形で、都市間交通の連携を図っていく必要がある。民間事業者任せの公共サービスという日本型モデルは、早晩限界にくるだろう。 委員会の議論の中で「親の死に目にはあえるぐらいの地域間交通サービスが保障されるべき」といった意見もあった。人としてまともに暮らせる国になるために、交通システムや政府の役割がどうあるべきなのかを考えるタイミングが来ている。



【有村先生】北海道は課題先進地域であり、地域内と地域間の交通を統一的に議論する必要がある。人口は1995年の約570万人から約522万人となり、5年間で約15万人の小さな都市一つ分が消滅しており、国土の約2割を全国の人口の4%で支えている状況にある。十勝エリアは埼玉県が入る広さであるが約34万人しか住んでいない。このエリアが日本の食料生産を支えているため、2050年も暮らせる環境を作らなければならない。 室蘭も1970年台に16万人いた人口が今は8万人を切っており、オーバースペックなインフラの中で住んでいる。バスやタクシー利用者は減少し、自家用車依存の傾向があり、運転手の高齢化・担い手不足も問題になっている。 JR北海道は維持困難な線区として留萌線、根室線の一部区間等をあげており、鉄道は衰退している。高速道路も、全国は約86%が開通済みだが北海道は65%のみである。高規格道路は、未だに70キロ制限の区間があり、制限速度を上げられる道路構造やアクセス機能を作ることが必要である。高速バスを予約制でバス停に止めてフィーダーと接続させるような公共交通ネットワークも議論する必要がある。 そうした中、大樹町で自動運転バスの実証実験をした。遠方に住む高齢者が街中に出てくる、周囲の車も優しい運転をする等行動変容があった。また、大樹から帯広までの移動時間を短縮したことで、地域全体で可処分時間が増えた。空間を限定した場合、ある程度早く自動運転バスやタクシーを導入できるため、道路空間の構造とネットワークに合わせた技術導入を検討する必要がある。 室蘭も、事前予約すると高速バス停留所にタクシーが待っていて、同じ方向に行く人が相乗りできる仕組みの実証実験を進めている。我々の研究室も将来人口がバス停の勢力圏でどう減っていくかを推計し、マクロ交通シミュレーションによるバスネットワーク配分の検討をしている。 北海道全域を考えると、複数の乗り物による周遊行動でも、割引されるような広域のMaaSも議論しなければ、少人口社会を迎えたときに魅力のある北海道を実現できないだろう。



【神田先生】地域交通を考えるのに、人口は見るべき指標の一つである。京都の綾部では約3400人の人口が、30年後には1600人となる。地域交通について、路線が駄目だからワンボックスやデマンドに変える対策をしたとしても、早かれ遅かれ次の問題が出てくる。モビリティだけで考えても限界で、街全体の移動の総量を増やして地域の活動を上げなければならない。 ある中山間地域では、アクセシビリティが高い地域は高齢者でも出かけているというデータもある。モビリティを整えることで、生活習慣を変えて出かける可能性は十分にある。 その中で、街の中心とモビリティの中心がずれているケースが多い。広島県庄原市等では、駅の周りに何もないために鉄道やモビリティを使わない状態になっている。一方で山形県の長井市の長井駅は、鉄道の駅に市役所を合築しており、中には待合空間も整備されている。役所に用事があって行く人は多く、市役所職員も公共交通で通う人が出てきた。このように交通と街の拠点を重ね合わせることによって、課題解決できることもある。ハブの重ね合わせを含めたインフラを作ることも議論として必要である。 広島県庄原市で、交通関係者以外の人で研究会を行っている。データを見て何ができるのか議論をし、民間には地域で新しいビジネスをしてもらえるようオープンにしている。地域経済が落ち込む中でも、様々な取り組みを行っており、交通がこれだけ役立つという気づきやそのコンセンサスを得ることに繋がっている。 例えば、貨客混載のバスで店に商品を運ぶことの取り組みや、モビリティ先進地として街を打ち出すためにキックボードをトヨタが貸し出す動きが出ており、地域の魅力を高めている。



【奥村先生】これまでは災害が起きた後の事後対応や復旧の議論に終わっていたが、今後は災害の可能性に対して何を残してどう備えていくのかを議論していかなければならない。 携帯電話の位置情報等新しいデータから、新幹線が止まると県間を動く人がどれだけ減るか等が具体的にわかってきた。京阪神で今年1月にあった大雪では、帰宅困難者が数万人というレベルで発生した。こうした大きな影響を考えると、自然災害によって交通のネットワークの寸断が起きたときに、それを早く直すことも大事だが、特に鉄道は一部分が止まると全体に機能が低下するため、迂回や乗り継ぎ等、他の交通機関との連携を強化すべきである。 東日本大震災の後に、迂回して日本海側を通してガソリンを運んだ例があるが、特に物流ではこうした対応ができるようなネットワークを残していくべきだと考える。 台風19号時の北陸新幹線の長野での浸水のときにも車両が足りなくなったが、同時期に上越新幹線の車両を置き換えるために増備していた車両が代用できて早く運行を戻せたということもある。これまでの交通計画は、お客様や将来の動向を予測して、それに対して最適なものを作ることを考えていたが、融通性の高いものにすることも必要である。めったに使わないインフラや車両等を、災害のためだけに残しておくのは、コストも安くないため、一旦休止させ、必要なときに覚醒させる技術や方法を開発する必要もある。 ネットワークの災害時に重要になる部分の強化は必要だが、同時に、ネットワークのあるところに重要な施設の配置を限定することも必要である。



【福田先生】自動運転は、安全安心面での社会的受容がなされた上であれば、公共交通手段の代替や広義のラストワンマイル公共交通として期待されている。鉄道ネットワークが卓越している首都圏でも、自動運転サービスのポテンシャルがあるという研究結果もある。 貧困な状況にある方々が車を手放したくないがために生活保護を受けないということがある。「高級品」とされる車を持っていると生活保護を受けられないというジレンマである。他方で、バスを含めた公共交通の手段等の料金が高く、貧困だからこそ車を手放せない状況にある。まさにインクルーシブ社会を世の中に普及するには、考えないといけない部分であり、これらを包摂できる公共交通にしなければならない。 地方だけではなく移動の格差として、子育て世代の女性の送迎のトリップが過度に多いのは前から言われている。一方で外出率は、モビリティの高さ低さとの相関が非常に高い。2050年には更にこれらの格差が広がる社会も十分考えられる。 社会学では、最近は「多様性」ではなく「超多様性」という概念が出てきている。超多様性では、属性を障害者と健常者等の単純断面ではなく、どこにどのように誰と暮らすのか等変数同士の掛け合わせで定義する。 インクルーシブを極めると、こういったことを考慮しなければならず、それに対応した公共交通はどうあるべきかを考えなければならない。自動運転やMaaSという公共交通の補完や代替になる新技術の実験が各地でされているが、2050年に向けて、社会定着に向けた仕組みや体制作りを考えるタイミングに差し掛かっている。 公共交通の政策だけではカバーできないため、周辺政策とパッケージ化して考えなければならない。 適度な地方分散に寄与する2拠点居住や地域間交流に寄与する公共交通を考えるのも、地域間での多様性を考える視点で必要である。



〇公共交通の公共とは何か
【奥村先生】公共交通をサービスとして捉えると,個々のニーズに合わせることが、高く売れ、満足につながる鍵であると考えがちである。しかし、ニーズに合わせて車を動かしても、車の空き容量や、行った車が戻ってくる復路の客が集まらない等、「空き容量」が不可避的に発生する。個々のニーズに合わせるほど、この残りの部分は他人が利用しにくく無駄になりやすい。自分のニーズとの小さな差異を我慢する必要があるが、多くの人にとって手の届く範囲に使える可能性がある状況の方が、公共性や自由度が高いのではないか。 例えば、観光の際、天候が急変した、または、途中の景色をもっと見たい、立ち寄った場所でもっとゆっくり食べたい等,途中で行動を変えたくなることがある.このような不確定な需要もカバーするには、予想される特定の需要に合わせすぎないほうがいい。 効率性重視の交通サービスは私有でも成立するが,自由度に重きを置いた交通サービスは公共で持たないと無理だと思う。消防車や救急車のように,不確実性がある需要をまとめて、共通のものでカバーすることが、公共たる所以の大きい部分を占めると思う。

〇コロナ禍を受け公共交通政策展開をどう考えていくべきか
【福田先生】2年前よりは、需要や収益は上方修正されている。一方で地方部の経営上の大きなダメージを受けた中小事業者は、需要が戻ってきてもすぐに回復できない。 モビリティに関するトレンドが、コロナ禍を経て、何が加速し、何にブレーキがかかったかを整理をする必要がある。 特に、通勤をしなくても仕事ができるのはみんなが実体験をし、態度や好みの変容をもたらした。それが都市間交流や人口の再分散に寄与できるようにする役割が公共交通にはある。在宅勤務の生産性の推計事例を見ると、2020年の頃は通常勤務の6割だった生産性が翌年には8割に上がっている。メタバースや大規模生成言語等の技術を踏まえると更に生産性が上がる可能性もある。 それを基に、地方と都市部の交流を強化するための公共交通の意義を再考する必要がある。


〇都会と地方が繋がると、都会に人が集まる
というストロー効果がよく言われている。地方部における交通の脆弱性、ネットワークの接続性向上がもたらす地方への影響とは
【有村先生】
接続性や高速性能を高めると、十勝圏のような大きなエリアはコンパクト化をしていく。都市のサービスは地域まで行くが、ある時逆転現象が起こって都市から農地に通うことも起こりうる。 農家で働いている方からは「畑の前の家で暮らしていると子供がゲームをして肥満になるため、街中に通って部活動等を本来させたい」という話も出ている。働き方が変わってくると、拠点や都市に人が集まる可能性もあるが、農家の中でも乳牛等、必ずそこにいなければならない方々もいるため、バランスを考える必要がある。 空港や高速道路等公共交通で東京まで日帰りで行ける景観が美しい土地に移住者が入ってきている。例えば関西から洞爺湖の周りに移住し,新しいコミュニティを自分の世代から作っていきたいという方々がいる。 アーバンとルーラルの良い所を同時に享受できる空間に新しい価値観を見出している人もいる。

〇当初、小委員会は地域間と地域内で分けていたが、一体で議論するべきとなり途中からは合同で行われた。都市間と都市内との関わり合いの連続性とは
【神田先生】都市間と都市内は分析者の都合で分けたものである。都市間と都市内交通の両方を使ってどこかに行くのは当然ありえる。むしろ長距離の移動において市内の公共交通が未完全なため、移動が車になってしまうという、都市内の交通の問題が都市間に及ぼしている影響も多々ある。 特に都市内の交通問題では、高齢者や若手の足の議論にはなるが、ビジネスの足の議論にはならない。ビジネスは地域の経済にも関連しており、競争力にも関わっている。住みやすさや都市のポテンシャルとしても重要な点である。 都市間と都市内よりも、移動目的とその頻度とその移動の価値という視点で考えるべきではないか。
【加藤先生】政策的な議論も、国対地方自治体というように、役割を分けて考えがちだが、人々の行動はその垣根を越えている。我々の分け方とは違うタイプの新しい価値観と行動を政策としてどう受けとるかが検討されるべき。 今回の検討委員会では、財源や制度には踏み込めなかったが、今後、政策として具体的に何をしていくべきかをブレークダウンして研究していく必要がある。

●質疑応答

Q:あり方3の中で災害の対応策について、リダンダンシー等の議論があったが、もう少し深掘りが必要ではないか。また、加藤先生の話のネットワークについて、何か具体的な案は想定されているのか。
A(奥村先生):いろんなレベルの話がある。例えば、そもそも今あるものをきちんと残すことを最初にやらなければいけない。東日本大震災の際、新幹線の電柱が多く倒れ、それを直すための工事用車両を現地に運ぶのに時間を要した。例えば、日ごろ使わないとしても、東海道新幹線と東北新幹線の線路を日頃使わないとしても東京駅で線路を繋げておけば、工場用車両をすぐに運ぶことができた。少しの工夫で、いざというときに役立つことが沢山ある。できるところから始めるのが良いのではないか。
A(加藤先生):委員会の中で、ネットワークの議論はスコープが狭すぎるかもしれないということになった。そもそもどうあるべきかという全体像を見据えるところから始めないと、ネットワーク論の話ができないと我々は感じたので、ネットワークに関する結論は出ていない。今回のあるべき姿をベースに、個別にネットワークのあり方について議論をさらに深めるのが、次の課題と考えている。

Q:鉄道会社に勤めており、地方自治体の方と公共交通について議論することが多いが、そもそも議論される方が公共交通をほぼ使っていない状況になっている。そういった方々と議論をする上でのヒントを教えていただきたい。
A(神田先生):全国各地の地域の公共交通の議論の現場で同じようなことが起きている。その地域の中での公共交通維持の目的が、民間で進んでいるところは良いとして、そうではないところをどうするかにすり変わってしまっている。そうすると、その議論をする地域公共交通の会議のメンバーも、普段公共交通を使っていない方になるという構造的な原因がある。その場をオーガナイズする地域の自治体の方は情報を集められているが、その他の参加される方々は情報がないというメンバーの中での非対称が起きている。例えば、会議のメンバーに地元の商業団体等の代表の方がいるときには、一緒に、いくつかの代表的な地域がどう頑張っているか見に行くことからスタートしている。何が理想なのか初めに共有する場を、会議の場以外も含めてやってスタートすると、出てくるアウトプットや、それぞれが考えていく中での、見えるものが変わってくる可能性はある。情報の非対称を埋めて一緒に議論する場をつくることが重要と実践的に感じている。  

Q:日本の公共交通は民間が主導してきたのが強みだが、欧州等と比較したときに複数のモーダル連携を遅らせてきた原因にもなっている。ここから挽回するにあたり、期待するプレーヤー、あるいはあるべき共同体のようなものはあるか。
A(加藤先生):国や自治体だけでそれができるということは決してなく、民間と協力していくことが大事。また広域にサービスを提供している企業は、地方自治体よりは少なくとも広い視野で議論ができる可能性がある。複数のそういった企業が国とうまく協力をしながらまち、地域、国のあり方を共同で議論していくことが大事。そういう場や、組織を作ることもありうる。今のところ、民間は民間、役所は役所と分かれているが、コーディネートするところまでは政府が行って、実際は民間同士で協力していく体制を作っていくのが一つの解決策ではないか。

Q:地方公共交通は、道路財源に比べて鉄道や公共交通への予算が非常に厳しい状況だと認識している。公共交通の財源論で、こうした道路の予算の活用といった観点での議論はあったか。
A(有村先生):委員会の議論の前提条件に含まれておらず、財源の議論そのものはなかった。道路予算は道路で使い切るべき予算であり、道路と鉄道との役割分担をしっかり考えていく必要がある。北海道で考えると、仮に道路予算を入れて鉄道を維持したとしても、将来的な人口減少に伴い利用者は減少していくだろう。しかし都市間交通が重要なことは変わらない。ここからここまでは鉄道をしっかり将来に向かって維持するという合意と、ラストワンマイルや他の公共交通手段との接続の拠点の整備、また、プライシングをどのように将来に渡って新しい制度を作っていくのかが大きな問題になる。MaaSという言葉を便利で使ってしまうが、人の移動の中で、どこからどこまでを基幹となる公共交通機関が担うべきか、また、その先に例えば自治体が運用するオンデマンド交通を繋げていくか、どれだけの移動の保障を各主体の関係性の中で適切に構築できるのか、システム含めて議論の余地がある。

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<当日の様子>