JTTRI-AIRO開設記念シンポジウム
「コロナ後」に挑む観光の変革 ~日タイ両国は質の高い観光に向けどのように取り組んでいくべきか~

  • その他シンポジウム等
  • 観光

Supported by 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION

主催 一般財団法人運輸総合研究所アセアン・インド地域事務所
後援 タイ王国観光・スポーツ省、在タイ日本国大使館
日時 2023/2/22(水)
16:00~19:00(日本時間)
14:00~17:00(タイ時間)
会場・開催形式 会  場:オークラ・プレステージ・バンコク(タイ王国バンコク都)
開催方法:対面及びオンライン配信(Zoomウェビナー)
テーマ・
プログラム
【開会挨拶】
 宿利 正史 運輸総合研究所 会長

【来賓挨拶】
 ピパット・ラチャキットプラカーン 氏 タイ観光・スポーツ大臣
 大場 雄一 氏 在タイ日本国大使館次席公使

【特別講演】
 モンコン・ウィモンラット 氏 タイ観光・スポーツ省 次官補
 水嶋 智 氏 国土交通省 国土交通審議官

【パネルディスカッション】
〔モデレーター〕
 チュタマート・ウィサーンシン 氏 Perfect Link Consulting Group 代表
〔パネリスト〕
 パッタラアノン・ナ・チェンマイ 氏 タイ国政府観光庁(TAT) 北部地域担当理事
 スティポン・プアンピポップ 氏 タイ観光協会 副会長
 中山 理映子 氏 日本政府観光局(JNTO) 理事
 沢登 次彦 氏 株式会社リクルート じゃらんリサーチセンター長

【閉会挨拶】
 奥田 哲也 運輸総合研究所 アセアン・インド地域事務所長

開催概要

 COVID-19のパンデミックにより大きな打撃を受けた「観光」が復活しつつある中、人々の観光に対するニーズはどのように変化したのか、その変化を踏まえ「質の高い観光」を目指してどのように取組を進めていくべきかについて、日タイ両国の有識者が議論を行う観光シンポジウムを開催した。このイベントは、昨年11月の「日タイ戦略的経済連携5か年計画」(日タイ両国外相が署名)に基づく取組である。
 シンポジウムでは、両国から産学官の観光分野の代表が一堂に会し、地方誘客をテーマとして、地域社会の活性化や雇用拡大などの社会的・経済的な効果が期待できる観光分野での今後の取組について議論が行われるとともに、持続可能性に配慮した質の高い観光を実現するための課題や展望についても意見が交わされ、両国の取組について相互に理解を深めた。

プログラム

開会挨拶
宿利 正史 運輸総合研究所 会長<br>

宿利 正史 運輸総合研究所 会長


開会挨拶
来賓挨拶
ピパット・ラチャキットプラカーン 氏 タイ観光・スポーツ大臣<br> 

ピパット・ラチャキットプラカーン 氏 タイ観光・スポーツ大臣
 

講演者略歴

来賓挨拶
大場 雄一 氏 在タイ日本国大使館次席公使

大場 雄一 氏 在タイ日本国大使館次席公使

講演者略歴

特別講演
モンコン・ウィモンラット 氏 タイ観光・スポーツ省 次官補

モンコン・ウィモンラット 氏 タイ観光・スポーツ省 次官補

講演者略歴
講演資料

特別講演
水嶋 智 氏 国土交通省 国土交通審議官

水嶋 智 氏 国土交通省 国土交通審議官

講演者略歴
講演資料

パネルディスカッション

〔モデレーター〕
チュタマート・ウィサーンシン 氏 Perfect Link Consulting Group 代表

講演者略歴

〔パネリスト〕パッタラアノン・ナ・チェンマイ 氏 タイ国政府観光庁(TAT) 北部地域担当理事

講演者略歴
講演資料

スティポン・プアンピポップ 氏 タイ観光協会 副会長

講演者略歴

中山 理映子 氏 日本政府観光局(JNTO) 理事

講演者略歴
講演資料

沢登 次彦 氏 株式会社リクルート じゃらんリサーチセンター長

講演者略歴
講演資料
閉会挨拶
奥田 哲也 運輸総合研究所 アセアン・インド地域事務所長<br>

奥田 哲也 運輸総合研究所 アセアン・インド地域事務所長


閉会挨拶

当日の結果

1.来賓挨拶
(1) ピパット 観光・スポーツ大臣
 コロナ禍で観光産業は大きなダメージを受けたが、これは世界の変化に観光産業が対応していくための機会であったと捉え、コロナ前を超えて事業を発展させ、持続可能で質の高い観光の実現に取り組んでいきたい。
 従来、成長の偏り、持続可能性・一体性の欠如、質より量などの課題を抱えていたが、2023年の観光目標としては、事業全体の発展、特にサプライチェーン全体の経営管理を視野に入れ、経済、社会、文化、環境すべての面で調和した官民連携を強化することとしたい。また地域レベルでは、開発の公平性を確保し、住民との調和を進めていくこととしたい。
 観光産業も新技術の導入やネットワーク強化等を進めてきており、訪タイ客の安全・安心、満足度の向上に取り組んできている。今後は、持続可能で責任ある観光を目指すとともに、2050年のカーボンニュートラル目標の達成をも目指していく。今後の日タイの関係強化に期待する。

(2) 大場 在タイ日本大使館 次席公使
 昨年11月の日タイ外相会談において、両国の今後5か年の経済分野での協力の方向性を定めた「日タイ戦略的経済連携5か年計画」に両外相が署名を行った。
 本シンポジウムは、日タイ双方の有識者が議論し「質の高い観光」に関する知見の共有や課題解決を目指すもので、この「5か年計画」に沿った意義深い取組みである。 2019年には、タイから日本への旅行者が年間約130万人、日本からタイへの旅行者は 約180万人に達していた。コロナ禍で旅行者数は大きく落ち込んだが、昨年・2022年は、双方向で約40万人まで回復。今年は交流人口の大幅な増大が見込まれるが、航空便やホテルの料金上昇、予約が困難、また、観光業界の人手不足等のボトルネックも指摘されている。
  最近は航空便数も増加傾向にあり、今年は観光業界にとって「復活の年」になると確信している。

2.特別講演
(1) モンコン 観光・スポーツ省次官補
  2019年のタイのGDPに占める観光産業の割合は17.8%。観光関連雇用者数は約440万人で全雇用者数の11.6%を占める。COVID-19でインバウンドの数はマイナス83.2%、観光収入はマイナス70.1%と大きな影響を受けた。
 現在のタイの観光における課題として、「不均衡」「交通インフラの接続の問題」「経済危機」「法整備の遅れ」「持続不可能性」などが挙げられる。第3次国家観光開発計画(2023年~)では、「強化とバランス」「インフラ・接続性のアップグレード」「旅行体験重視」「持続可能な成長と免疫」を強化していく。
  特に高付加価値な観光産業を再構築していくためには、「レジリエンス」「持続可能性」「包摂的な成長」の3つの柱が重要となる。具体的な手法としては、高付加価値経済(観光支出増、DX、インバウンド依存の低減、スキルアップ)、高付加価値社会(官民連携、アイデンティティ向上、利益の包摂分配)、高付加価値な環境(自然・環境資源の価値向上、気候変動への対応)の創出が考えられる。

(2) 水嶋 国土交通審議官
 タイはインバウンド受け入れに関して、日本よりも早い段階から多くの外国人観光客を受け入れており、日本はタイから学ぶことが多い。日本とタイはお互いにとって大変重要な観光のパートナーであり、昨年 11 月には岸田首相がバンコクを訪れて日タイ観光セミナーを開催し、日本とタイの間の観光の関係を示すイベントとなった。
  COVID-19による観光客の大幅な減少により、宿泊業や旅行業は大きなダメージを受けた。政府は資金繰りや雇用調整助成金等の支援を継続している。またコロナを契機に日本を訪れる外国人観光客の関心に変化が生まれ、アウトドアに関する活動や、持続可能性に対して興味を示していることが調査結果から分かった。
  日本の観光政策の新しい展開についてであるが、2025 年までをターゲットとした新たな「観光立国推進基本計画」を策定すべく現在検討を進めている。コロナ以前からの課題に加えて、コロナによる変化を踏まえた持続可能な形での観光の復活を目指している。観光政策として、高付加価値で持続可能な観光地域づくり、インバウンド回復、国内交流拡大に戦略的に取り組んでいく。

3.パネルディスカッション
〔モデレーター〕
 チュタマート・ウィサーンシン 氏 Perfect Link Consulting Group 代表
〔パネリスト〕
 パッタラアノン・ナ・チェンマイ 氏 タイ国政府観光庁(TAT)北部地域担当理事
 スティポン・プアンピポップ 氏 タイ観光協会(TCT)副会長
 中山 理映子 氏 日本政府観光局(JNTO)理事
 沢登 次彦 氏 株式会社リクルート じゃらんリサーチセンター センター長

パッタラアノンTAT理事 『タイの地方誘客政策』
 タイのGDP中、観光は18%を占めるが、その90%は大都市における収入で、地方部からの観光収入は10%にとどまっており、政府として地方誘客策に積極的に取り組んでいる。
 タイ国政府観光庁(TAT)は、2015年に「12 Cities that can’t miss」というプロジェクトを開始した。認知度の低さと観光客の受入余力を基準に12県を選定した際はタイ人を念頭に置いていたが、外国人観光客にも好評だったため、翌年2016~17年には12県を追加、2018年には55県まで規模を拡大した。タイ政府からは予算を受けており、連携して取り組んでいる。
  地方部の課題は、受入能力と観光シーズンにある。地方誘客で増加した観光客を受け切れなくなると当該地域の魅力を毀損するので、TATとしても注意している。これまでの取組で、観光収入の内訳(大都市:地方部)を90:10から85:15へ差を縮めることができた。
 また、観光推進の戦略の一つとして、商品より経験を観光客に提供するように推進しており、5つあるタイの地方ごとにそれぞれテーマをつけて異なる魅力をアピールしている。

中山JNTO理事 『地域文化等による高付加価値なの地方誘客の好事例』
 地方誘客には「地方で楽しい体験ができる」ことで魅力・付加価値を高める方向で取り組んでいる。例えば「自然」。豊かな自然を体験するプログラムの提供が挙げられる。例えば、積雪地では、スキーやスノボといった本格的なスポーツだけでなく、気軽に雪を楽しめるアクティビティーを増やそうとしている(例:赤城山のワカサギ釣り)。さらに「食」。果物栽培が盛んな地域では、自ら収穫した新鮮なフルーツを食べることができる観光用農園が多数ある。また各地に温泉があり、それぞれ違った風景、自然を楽しめる。旅館では宿泊を通じ、浴衣、和食、日本酒といった日本の生活文化の体験が可能。
  伝統を体験できるプログラムの提供もある。伝統的な建物(古民家、商家、工房、寺社等)を宿泊施設として提供する例では、醤油蔵を宿泊施設として改装し、宿泊に加え醤油作り体験やテイスティングなど興味深いプログラムをする例がある。また、熊野古道を当時の貴族の衣装を着て巡礼する体験プログラムは訪日客にも人気がある。JNTOでは、地方の体験型のプログラムを Experiences in Japan というウェブサイトで多数紹介している。
 最近は、個人向けに誂えた特別な体験を提供する取組も進む。例えば①有田焼の家元から直接受ける個人指導、②ヘリコプターを貸切って富士山を間近に見る体験、③本物のお城に城主気分で宿泊できるキャッスルステイなどがある。
  地域の自然、伝統的な施設、歴史等を体験する機会の提供等を通じ、訪問客の満足感の向上と付加価値の高い観光を実現することで、地域に経済的利益がもたらされ、誘発された新規投資が自然等の維持に活用される、といった好循環を生み出していくことを目指す。

スティポンTCT副会長 『観光業界は地方誘客どう取り組むべきか』
 観光分野では、観光・スポーツ省(MOTS)のみならず、観光庁(TAT)、文化省、内務省、天然資源・環境省、運輸省等も役割を果たしている。
 モンコン次官補の基調講演でもコロナの影響による観光産業の収入減、インバウンド観光客数急激について言及があったが、タイの観光産業は特にインバウンド観光にかなり依存している(収入の50%以上を超えたこともある)。このため、国内観光をしっかりと築いてきた日本(台湾や中国も)ではコロナの影響が低く抑えられたが、タイの場合は大打撃を受けてしまった。外国人観光客がタイに入国できず、主要7都市への収入が蒸発するのを見て、民間企業は国内観光推進へ舵を切ったと言える。
 コロナから早く回復できたのは、実は地方部である。南部のナコンシータンマラート県ではFaith Tourismの観光客から莫大な収入が入る。東北部では有名な「龍神の火の玉祭り」の地元の人気が急上昇した。観光協会(TCT)では様々なタイ人観光客の趣味や興味に応える国内旅行ツアーの造成を戦略としてタイの観光事業者に推奨しており、その結果コロナ禍後にタイ国内観光は復活した。
 コロナ禍の3年間で自然も回復した(観光が資源破壊の一つの原因だといっても過言ではない)。自然の回復を受け、TCTは民間企業の代表として政府側と連携し、観光地への入場規制等について検討を依頼している。これは、持続可能な観光に繋がるものと考えている。政府側も民間側コミュニティと連携するようになった。
 高付加価値化に関しては、2001年にタイ政府から大分県への出張があり「One Tambon One Product(一村一品)」というプロジェクトが生まれた。TCTと政府機関の協力で、地方の名産品の魅力を如何に向上するかについて研修が行われている。

沢登 (株)リクルート じゃらんリサーチセンター センター長 『高付加価値化と地方誘客の手法について』
 地方誘客を成功に導くポイントの1つ目は、その地方の「ここにしかない価値」を明確化すること。文化的な固有の資源(歴史、伝統、自然、食)を組み合わせていくことが大事。
 2つ目、魅力の磨き上げに重要なのは高付加価値化。前提として大事なのが①資源の重要性を地元が理解していること、②文化資源を組み合せで訴求すること。ルート化により、滞在時間が増え消費単価も上がる。
  3つ目、人を動かすこと。今はデジタルマーケティングが重要で、接触のきっかけから追加的な情報提供、共感醸成、予約行動へと誘引することが重要。また、ターゲットを絞り込み、それに接する主体(メディアや旅行会社)に感動のポイントを明確に伝えること。さらに、旅先で情報を得て足を延ばす人が実は多いので、空港や宿泊施設等の拠点における案内・推薦も、訪問への重要な第一歩で、再訪にもつながる有力な誘客手段。
 私自身が高付加価値化で大事にしている5つのポイントを紹介したい。
①ターゲットの絞りこみ。絞り込むほど顧客の意識を把握しやすくなるので、実は市場は広がる。その人の気持ちになって、感動できるポイントを積み上げていくことが大事。入り口はニッチでも、ブレイクスルーすれば波及していく。
②PDCAの継続。改善を継続して重ねていくことで差が出る。
③ターゲット層を組織の中に取り入れること。例えばタイの人に来て欲しければタイ人と交流し、タイ人の感性を願わくば組織の中に取り入れるべき。
④伝える力、表現力の強化。日本はプロフェッショナルガイドが弱い。高額でも予約が入る優れたガイドは、専門分野だけでなく地域の歴史文化にも詳しく、コミュニケーション能力も高い。期待を読み取る力は高付加価値化に不可欠。
⑤持続可能性。ストーリーをどう伝えるかが重要で、例えば小学生が授業で地元の歴史文化の重要性を体感し代々大切に守っている、といった活動を伝えることは、地域の高付加価値化につながる。地域コミュニティが環境を維持すること自体が高付加価値化である。

『持続可能な観光・地方誘客に向けた、日タイの協働分野について』

パッタラアノンTAT理事
  インフルエンサーの交換は連携の一手法と考える。タイ人インフルエンサーが日本を旅行すれば、タイ人の好きな物や買いたがる商品が分かり、日本側が提供したいものとはまた異なる方向が見えてくるはず。逆に日本人インフルエンサーがタイに旅行に来て、日本人がどのようなタイの商品が好きなのか、どのような観光スポットは人気なのかを教えてほしいと思う。
  観光政策での課題解決の経験を交換し共有できればよいと思う。日本は高付加価値化が得意。日本の果物が高価で販売できるのも高付加価値化の成果だと思うので、そうしたコツをタイに伝授してもらいたい。徹底的な研究も日本の得意分野。自動販売機にドリンクを勧められた経験もあり、研究で得られた情報をマーケティングに生かしているのだろう。持続可能な観光推進については、もう日本人の遺伝子に組み込まれているとさえ思っている。

中山JNTO理事
 顧客のニーズを捉えるという話が出ていたが、日本側にも地方誘客するターゲット市場というものはあり、そのうちの一つがタイ。タイ人はリピーターが多く、2回目、3回目となれば地方訪問の可能性も上がると考えている。
  地方といっても多種多様であり、どこが訴求力を持つのかは試行錯誤中。古典的な手法だが、タイの旅行会社等のプロの方々に見ていただき、タイ人の好みであるとか、意外と気付かない訴求ポイントなどを教えて欲しい。タイ人にとってはまだなじみのない地方についても、プロの目線で分析して教えて欲しい。逆にタイでも、日本の旅行会社等のプロを視察に招待いただき、日本人には何がどう訴求するかを研究していただく、そうした取り組みを双方向で実現できればよいと思う。

スティポンTCT副会長
  タイ政府がソフトパワーを推進しようとしているが、日本のエンターテインメント産業からの影響を受けたこともあるため、映画やドラマ、音楽の制作に関する協力ができれば良いのではないかと思う。
 また、観光事業におけるデジタル化についても協力してほしい。アナログからデジタルへ転換できなかったビジネスは、コロナ禍で生きていけなかったことが多くあったからである。

沢登 (株)リクルート じゃらんリサーチセンター センター長
 高付加価値化の重要性を共有し、互いに尊敬し合っている両国だからこそ、高付加価値化で終わってはいけない。高付加価値化の先には高満足があり、それにより単価をしっかり上げることが可能となる。単価上昇が事業者の収益向上を通じて従事者に還元(労働環境の改善、収入向上)できれば、待遇の向上により労働関係が定着し、観光は憧れの仕事になっていく。従事者の質の向上は、高付加価値化に繋がるので、まさに好循環サイクルとなり持続可能性に繋がる。むろん簡単ではないが、日タイ両国で協力して継続的に検討していく重要なテーマだと考える。



本開催概要は主催者の責任でまとめています。