研究報告会 2023年度夏(第53回)
- 研究報告会
日時 | 2023/7/24(月)13:30~16:50 |
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会場・開催形式 | 運輸総合研究所2階会議室 (及びオンライン開催(Zoomウェビナー)) |
開催回 | 第53回 |
テーマ・ プログラム |
報告1「ドローン配送の利用意向と効果」 安部 遼祐 客員研究員 横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院 准教授 報告概要: 屋井 鉄雄 運輸総合研究所 所長 コメンテーター: 中村 裕子 一般財団法人総合研究奨励会 日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM) 事務局次長 討論・質疑応答 報告2「アジアのオートバイ都市の変質?台湾・台北メトロが交通行動と都市形態に及ぼす影響の評価」※日英同時通訳 邱 秉瑜 研究員 報告概要: 屋井 鉄雄 運輸総合研究所 所長 コメンテーター: 兵藤 哲朗 東京海洋大学大学院海洋科学技術研究科長 討論・質疑応答 (討論・質疑応答)モデレーター 屋井 鉄雄 運輸総合研究所 所長 |
プログラム
開会挨拶 |
宿利正史 |
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報告概要 |
屋井鉄雄 |
報告① | |
コメント | |
回答 |
コメントに対する回答(安部客員研究員) |
報告概要 |
屋井鉄雄 |
報告② | |
コメント | |
回答 |
コメントに対する回答(邱研究員) |
閉会挨拶 |
屋井鉄雄 |
当日の結果
報告1「ドローン配送の利用意向と効果」
安部 遼祐(一般財団法人運輸総合研究所客員研究員、横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院 准教授)
○ 研究の概要
1. 背景と目的
我が国では、買い物支援や医薬品配送など地域課題解決を目的としたドローン配送の取組が多数実施されている一方、物量の確保や事業採算性の向上などの課題も指摘されている。
本研究は、離島・中山間地域のドローン配送を対象にして、地域住民の利用意向や導入効果を分析し、ドローン配送の計画等のための基礎的な知見を得ることを目的としている。本報告では、離島のドローン配送を対象にして、地域住民の利用意向を分析する。
2. 調査の概要
本研究では、鹿児島県奄美群島の加計呂麻島(人口1088人)と与路島(人口71人)の住民を対象にドローン配送の意識調査を行った。本調査は、2022年11月に現地で行われたドローン実証実験(奄美大島の瀬戸内町内のスーパーから加計呂麻島や与路島へドローンで食料品・日用品を配送する実験)の期間と併せて行った。調査票はドローン配送の各サービス属性に対してシナリオを設定した上で作成した(図参照)。
調査票とドローン配送の説明資料を島内の概ね全世帯に郵送し、郵送またはオンラインでの回答を得た(配布663世帯、回収率 19%)。回答者は、60歳以上が6割、単身世帯が4割を占める。普段の食料品の購入方法は、島外の店舗で購入・持ち帰りが最も一般的で、主な利用店舗までの片道移動時間は30分以上が6割(1時間以上は2割)、購入頻度は週1~2日以下が9割を占める。
3. ドローン配送の受容性
回答結果から、各サービス属性に対する満足度については、利用可能な時間帯、配送時間、商品の受取方法に比べ、注文可能な量は不満に感じる人が多い(図参照)。リスクに対する不安度については、個人のプライバシーと飛行の騒音に比べ、機体の安全性と事故などのトラブルへの対応は不安に感じる人が多い。
ドローン配送の全般的な利用意向については、利用意向あり(合計38%)が利用意向なし(合計28%)の割合より高い。分析結果から、注文可能な量、プライバシー、安全面の満足度または不安度は利用意向に有意な影響を持たず、安全面に加えて、注文可能な量もサービスの前提条件のように捉えられていると思われる。
4. ドローン配送の利用者意識
配送料・個人属性と利用確率の関係(分析2、3)については、複数の配送料のもとで選択意向(stated choice; 利用する/しない)を尋ねた結果から買い物手段(チャネル)選択モデルを推定している。同モデルを用いてドローン配送の利用確率を算出すると、例えば1000人(回)のうち、配送料200円で700人、1000円で25人が利用し、平均支払意思額は360円程度となる。ドローン配送の配送料は需要量に強く影響を与えることが確認できる。
また、単身世帯は他の世帯の種類に比べ利用確率が平均的に高く(影響の大きさは配送料の200円分に相当)、20~30代は配送料に対する感度が他の年代と比べ大きいことも分かっている。
調査では受取方法と配送時間はシナリオで1パターンのみを設定したが、併せて許容できる水準も尋ねている(分析4、表参照)。なお、これら属性の利用確率への影響の把握は今後の課題である。
5. まとめ
表ではドローン配送に対する地域住民の利用意向の分析結果をまとめている。ドローン配送の利用意向や導入効果の知見はまだ少なく、さらなる関連の分析が求められる。
導入効果について、本研究で扱ったドローン配送の導入は、前提条件(注文可能な量)や対象地域の現状の買い物行動を踏まえると、小量の新たな買い物手段の導入による買い物利便性向上に対応する可能性がある。一方、既存の買い物手段の置き換えに対応する知見は十分にないが、特に(品揃えが豊富な)店舗までの移動時間・費用が大きいエリアの場合、この効果も大きい可能性がある。
ドローン配送の取組は、地域における今後の一層の労働力不足や既存物流の効率化等も見据え、中長期的な視点で進めていく必要がある。地域にとって望ましい交通・配送の実現に向けて、ドローン配送の事業モデルの考察も必要となる。
■図 :ドローン配送の各サービス属性に対する満足度
■表:ドローン配送に対する地域住民の利用意向
○ コメントと回答
コメント:
利用意向を考える際に、この地域においてドローン配送による利便性がどのようなシーンで現れるのか。また、分析における事業形態や公的負担に関する前提は何か(特に分析5)。利用料だけではドローン配送の実現は難しく、行政が負担する理由・価値がないと事業が持続しない可能性がある。
回答:
本地域のドローン配送は、小量の新たな買い物手段のように考えられ、買い物利便向上の程度はこの量の買い物頻度の変化(≒配送料などのサービス属性の設定)にも依存すると思われる。
また、分析5から、この地域では、ドローンサービスへの期待は全般的に高いことが窺えるが、調査では事業形態や公的負担の前提は示しておらず、関連する意識の把握は今後の課題としたい。
一般的に、過疎地域において、ドローン配送の生活利便向上のための取組は従来の移動販売車や地元商店の商品の配送サービスに類似している。その他、共同配送の要望にも対応していくことも考えられる。
報告2「アジアのオートバイ都市の変質?台湾・台北メトロが交通行動と都市形態に及ぼす影響の評価」
邱秉瑜(一般財団法人運輸総合研究所研究員)
○研究の概要
オートバイが環境と健康にもたらす害は、自動車よりも小型であることに照らすと不均衡である。世界でオートバイ保有率の上位国は台湾と、交通計画支援を含む開発援助を日本が提供してきたアジアの多くの国に集中している。台北は、オートバイの所有割合が高い状況で、いわゆる地下鉄システムを最も早い時期に導入した都市である。台北が既にオートバイ依存都市になっていた1996 年に台北メトロが開業したが、この時期の開業は、クアラルンプール、バンコク、ジャカルタ、ハノイなど、同様にオートバイが主流の交通手段となっている都市において地下鉄システムが開業するよりも早期であった。したがって、台北からの実証的研究結果を基に、世界の他のオートバイ依存都市における交通及び土地利用の政策に対して情報を提供することができる。
2000年と2009年には、台北都市圏で大規模なパーソン・トリップ調査が実施されており、これらは最近の2回の調査である。本研究を行うにあたり、この2つのパーソン・トリップ調査データを入手した。データによって、2000 年から 2009 年にかけて、オートバイの交通モード分担率は増加した。全ての移動では、凡そ40%から約50%まで増加した。全ての職場通勤移動では、凡そ45%から約60%まで増加した。これは台北都市圏全体の交通行動変化の傾向だが、本研究ではゾーン水準での変化を理解しようとした。次の2つの研究上の疑問を提起した。①「都市環境とオートバイ交通行動の関係はどうなっているのか?」、②「地下鉄システムがオートバイ交通行動に影響するのか?」
「パートI: 都市環境とオートバイ」では、研究目的は、都市環境、収入及びオートバイ交通行動の間の関係を吟味することであった。都市環境とは、世帯が居住したゾーンまたは移動が開始されたゾーンの空間的特徴を指す。本研究では、これには、人口密度、雇用者密度、土地利用の多様性、中心業務地区までの距離、地下鉄駅までの距離が含まれる。オートバイ交通行動は、オートバイの保有、交通手段モードとしての選択、および利用として定義される。研究方法は、パーソン・トリップ調査データを使用して、2000 年と 2009 年の両方について、世帯での車両の保有水準、交通モード選択、および世帯のオートバイの利用量に関するモデルを推定することである。車両保有モデルと交通モード選択モデルでは5つの選択肢に対する多項ロジット回帰を実行し、オートバイ利用量モデルではトービット回帰を実行した。
モデルの結果に基づいて、まとめると、一般的に、オートバイでの保有や利用は、人口密度の高さ、雇用者密度の低さ、中心業務地区からの距離が長いこと、地下鉄駅からの距離が長いことと相関している。これらの関係は相関関係であり、必ずしも因果関係というわけではない。(図―1)
弾性値推定を行うと、都市環境が変化した場合にオートバイ交通行動に何が起こるかを理解するのに役立つ。結果は以下の通りである。人口密度が全体的に 10% 増加すると、世帯オートバイ保有水準の加重平均が 0.5% 増加し、オートバイのモード分担率が 1% 以上増加し、世帯オートバイ利用量が 2% 増加する。雇用者密度が全体的に 10% 増加すると、世帯オートバイ保有水準の加重平均と世帯オートバイ利用量が減少する。土地利用多様性指数の全体的な増加は、オートバイのモード選択可能性の低下と関連している。
「パートII: 地下鉄システムとオートバイ」では、研究目的は、都市環境と収入の要素を考慮しながら、古い地下鉄駅の存在または新しい地下鉄駅の導入がオートバイのモード選択と利用量に及ぼす影響について、これらの駅に近いゾーンと駅に近くないゾーンを比較することによって吟味することであった。ここでは、地下鉄駅を2つのグループに分類する。即ち、2000年以前の既存駅と、2000 年から 2009 年の間に導入された駅である。地下鉄駅に近いとは、駅から800 メートル以内であると定義される。研究方法は、2000 年と 2009 年のパーソン・トリップ調査データを 1つのデータセットとしてプールし、2 種類のモデルを推定した。このモデルでは、地下鉄駅の影響を推定するためにdifference-in-differences、即ち「差分の差」法を、用いる。モデルの 1つのタイプは、地下鉄の効果が推定された、ペアごとの交通モード選択に関する 4つの通常の最小二乗回帰モデルである。この4つの交通モードのペアは、オートバイと、自転車、バス、自動車、地下鉄という4つの代替交通手段のそれぞれとの組合せである。2 番目のタイプのモデルは、地下鉄の効果が推定された世帯オートバイ利用量に関するトービット回帰モデルである。
モデルの結果に基づいて、地下鉄駅の導入はその周辺でのオートバイの利用(モード選択可能性と利用量)を減らしていることもわかった。
地下鉄システムが交通モード選択に及ぼす影響について、地下鉄の新しい駅と古い駅は、800メートル以内から発生するトリップについて、駅の近くにない地区と比較した場合、オートバイの対地下鉄のモード選択確率をそれぞれ1400%及び700%相対的に減少させていることが、わかった。(図―2)
世帯オートバイ利用量に対する地下鉄システムの影響について、地下鉄の新しい駅と古い駅は、800メートル以内において、地下鉄駅の近くにない地区と比較した場合、世帯のオートバイ利用量をそれぞれ相対的に65% と 56%減少させていることが、わかった。
シナリオ・シミュレーションの実施は、地下鉄ネットワークがさらに拡大した場合にオートバイ交通行動に何が起こるかを理解するのに役立つ。結果は以下の通りである。地下鉄駅がパーソン・トリップ調査対象の全世帯を 800 メートルのゾーンで完全に覆った場合、実際の状況と比べると、オートバイのモード分担率は 3 ~ 4% 減少し、世帯オートバイ利用量は約 15% 減少することがわかった。
本研究の結果に基づく政策提言を、次の3点にまとめる。①交通政策では、引続き地下鉄ネットワークを拡大すべきである。②バスサービス、自転車及び歩道を含む複合交通機関の地下鉄との接続を強化する必要がある。③土地利用政策では、郊外の主要な地下鉄駅の近くにビジネスセンターを開発し、地下鉄駅の近くに人口を集中させる必要がある。
<コメント>
東南アジアや南アジアでは都市鉄道(MRT)の路線網が拡大している。一方で、バイクは、「Fastest」で「Cheapest」なモードであることから、都市部において利用者が増加しており、この傾向はアジアやアフリカで顕著となっている。バイクが普及した都市は、公共交通への転換が進まず袋小路となっている。
本研究では、パートIの分析において、夜間人口が多い地域や昼間人口が少ない地域はバイクの所有率が高くなるとともに、低所得世帯は安価なバイクを保有する傾向が高いことが明らかとなった。パートIIの分析において、2000年から2009年にかけて車からバイクへの転換が顕著だったが、MRT新駅の開業はバイクの抑制に貢献していることが分かった。またMRTの駅に近くない地域でもバイクが抑制されていることが分かった。
以上の結果から、Transit oriented development(TOD) により、MRTの需要が増加するとともに、バイクの抑制に効果があることが分かった。この結果から郊外部の宅地についてMRT駅を中心に都心回帰させることでバイクを抑制することができるのではないか。
今後研究を進める上で何点か指摘したい。
・2009年以降、バイクの登録台数が減少しているが、台湾で普及している自転車のシェアリングサービスに転換したのか。
・GRAB、Gojek、UBERといったRide HailingサービスがMRTの利用や駅へのアクセス・イグレスにどの様な影響をもたらすのか。
・コロナによるテレワークの普及がMRTにどの様な影響を与えたのか。
・東南アジアでMRTを運行する場合、運営費補助が必要となることから運賃の適正化と都市交通戦略について考える必要がある。
最後に今回の研究を受けて以下の点について多くの方に考えていただきたい。
・台北での知見をMRTの整備が進展している他の国へ示唆としてどういかしていくのか。
・TOD、運賃施策、バイク抑制施策などのバランスをどう確保していくのか。
・Ride HailingのコントロールやMaaS導入によるサービス改善など、新技術への対応。
<討論と質疑応答>
Q:パーソン・トリップ調査のサンプル数について2009年調査は2000年調査の6分の1になっているが、サンプルが少ないことが推計結果に影響しているのか。
A: パートIではPT調査のデータをプールせず別々のモデルで推計していて、それぞれのモデルでは目的変数と説明変数の平均的な関係を示しているので影響はない。パートIIで構築したモデルでは、2009年ダミー変数を入れることにより、2000年と2009年のサンプル数の差が推計結果に与える影響を排除している。
Q: バイク利用量モデルでは、バイクを所有していない世帯が多いことからleft-censored Tobitを採用したのか。
A:その通りである。
Q: difference-in-differences(「差分の差」法)を用いてモード選択を分析しているが、目的変数がなぜ離散値になっているのか。
A:交通モード選択モデルでは、バイク利用にダミー変数を入れているので目的変数が離散値になっている。
■図1 :都市環境、世帯所得とオートバイ交通行動の間の相関関係(実線=正の相関、点線=負の相関)
■図―2:オートバイの代替交通手段のそれぞれに対するオートバイのモード選択確率でゾーンの比較(2000~2009年)
安部 遼祐(一般財団法人運輸総合研究所客員研究員、横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院 准教授)
○ 研究の概要
1. 背景と目的
我が国では、買い物支援や医薬品配送など地域課題解決を目的としたドローン配送の取組が多数実施されている一方、物量の確保や事業採算性の向上などの課題も指摘されている。
本研究は、離島・中山間地域のドローン配送を対象にして、地域住民の利用意向や導入効果を分析し、ドローン配送の計画等のための基礎的な知見を得ることを目的としている。本報告では、離島のドローン配送を対象にして、地域住民の利用意向を分析する。
2. 調査の概要
本研究では、鹿児島県奄美群島の加計呂麻島(人口1088人)と与路島(人口71人)の住民を対象にドローン配送の意識調査を行った。本調査は、2022年11月に現地で行われたドローン実証実験(奄美大島の瀬戸内町内のスーパーから加計呂麻島や与路島へドローンで食料品・日用品を配送する実験)の期間と併せて行った。調査票はドローン配送の各サービス属性に対してシナリオを設定した上で作成した(図参照)。
調査票とドローン配送の説明資料を島内の概ね全世帯に郵送し、郵送またはオンラインでの回答を得た(配布663世帯、回収率 19%)。回答者は、60歳以上が6割、単身世帯が4割を占める。普段の食料品の購入方法は、島外の店舗で購入・持ち帰りが最も一般的で、主な利用店舗までの片道移動時間は30分以上が6割(1時間以上は2割)、購入頻度は週1~2日以下が9割を占める。
3. ドローン配送の受容性
回答結果から、各サービス属性に対する満足度については、利用可能な時間帯、配送時間、商品の受取方法に比べ、注文可能な量は不満に感じる人が多い(図参照)。リスクに対する不安度については、個人のプライバシーと飛行の騒音に比べ、機体の安全性と事故などのトラブルへの対応は不安に感じる人が多い。
ドローン配送の全般的な利用意向については、利用意向あり(合計38%)が利用意向なし(合計28%)の割合より高い。分析結果から、注文可能な量、プライバシー、安全面の満足度または不安度は利用意向に有意な影響を持たず、安全面に加えて、注文可能な量もサービスの前提条件のように捉えられていると思われる。
4. ドローン配送の利用者意識
配送料・個人属性と利用確率の関係(分析2、3)については、複数の配送料のもとで選択意向(stated choice; 利用する/しない)を尋ねた結果から買い物手段(チャネル)選択モデルを推定している。同モデルを用いてドローン配送の利用確率を算出すると、例えば1000人(回)のうち、配送料200円で700人、1000円で25人が利用し、平均支払意思額は360円程度となる。ドローン配送の配送料は需要量に強く影響を与えることが確認できる。
また、単身世帯は他の世帯の種類に比べ利用確率が平均的に高く(影響の大きさは配送料の200円分に相当)、20~30代は配送料に対する感度が他の年代と比べ大きいことも分かっている。
調査では受取方法と配送時間はシナリオで1パターンのみを設定したが、併せて許容できる水準も尋ねている(分析4、表参照)。なお、これら属性の利用確率への影響の把握は今後の課題である。
5. まとめ
表ではドローン配送に対する地域住民の利用意向の分析結果をまとめている。ドローン配送の利用意向や導入効果の知見はまだ少なく、さらなる関連の分析が求められる。
導入効果について、本研究で扱ったドローン配送の導入は、前提条件(注文可能な量)や対象地域の現状の買い物行動を踏まえると、小量の新たな買い物手段の導入による買い物利便性向上に対応する可能性がある。一方、既存の買い物手段の置き換えに対応する知見は十分にないが、特に(品揃えが豊富な)店舗までの移動時間・費用が大きいエリアの場合、この効果も大きい可能性がある。
ドローン配送の取組は、地域における今後の一層の労働力不足や既存物流の効率化等も見据え、中長期的な視点で進めていく必要がある。地域にとって望ましい交通・配送の実現に向けて、ドローン配送の事業モデルの考察も必要となる。
■図 :ドローン配送の各サービス属性に対する満足度
■表:ドローン配送に対する地域住民の利用意向
○ コメントと回答
コメント:
利用意向を考える際に、この地域においてドローン配送による利便性がどのようなシーンで現れるのか。また、分析における事業形態や公的負担に関する前提は何か(特に分析5)。利用料だけではドローン配送の実現は難しく、行政が負担する理由・価値がないと事業が持続しない可能性がある。
回答:
本地域のドローン配送は、小量の新たな買い物手段のように考えられ、買い物利便向上の程度はこの量の買い物頻度の変化(≒配送料などのサービス属性の設定)にも依存すると思われる。
また、分析5から、この地域では、ドローンサービスへの期待は全般的に高いことが窺えるが、調査では事業形態や公的負担の前提は示しておらず、関連する意識の把握は今後の課題としたい。
一般的に、過疎地域において、ドローン配送の生活利便向上のための取組は従来の移動販売車や地元商店の商品の配送サービスに類似している。その他、共同配送の要望にも対応していくことも考えられる。
報告2「アジアのオートバイ都市の変質?台湾・台北メトロが交通行動と都市形態に及ぼす影響の評価」
邱秉瑜(一般財団法人運輸総合研究所研究員)
○研究の概要
オートバイが環境と健康にもたらす害は、自動車よりも小型であることに照らすと不均衡である。世界でオートバイ保有率の上位国は台湾と、交通計画支援を含む開発援助を日本が提供してきたアジアの多くの国に集中している。台北は、オートバイの所有割合が高い状況で、いわゆる地下鉄システムを最も早い時期に導入した都市である。台北が既にオートバイ依存都市になっていた1996 年に台北メトロが開業したが、この時期の開業は、クアラルンプール、バンコク、ジャカルタ、ハノイなど、同様にオートバイが主流の交通手段となっている都市において地下鉄システムが開業するよりも早期であった。したがって、台北からの実証的研究結果を基に、世界の他のオートバイ依存都市における交通及び土地利用の政策に対して情報を提供することができる。
2000年と2009年には、台北都市圏で大規模なパーソン・トリップ調査が実施されており、これらは最近の2回の調査である。本研究を行うにあたり、この2つのパーソン・トリップ調査データを入手した。データによって、2000 年から 2009 年にかけて、オートバイの交通モード分担率は増加した。全ての移動では、凡そ40%から約50%まで増加した。全ての職場通勤移動では、凡そ45%から約60%まで増加した。これは台北都市圏全体の交通行動変化の傾向だが、本研究ではゾーン水準での変化を理解しようとした。次の2つの研究上の疑問を提起した。①「都市環境とオートバイ交通行動の関係はどうなっているのか?」、②「地下鉄システムがオートバイ交通行動に影響するのか?」
「パートI: 都市環境とオートバイ」では、研究目的は、都市環境、収入及びオートバイ交通行動の間の関係を吟味することであった。都市環境とは、世帯が居住したゾーンまたは移動が開始されたゾーンの空間的特徴を指す。本研究では、これには、人口密度、雇用者密度、土地利用の多様性、中心業務地区までの距離、地下鉄駅までの距離が含まれる。オートバイ交通行動は、オートバイの保有、交通手段モードとしての選択、および利用として定義される。研究方法は、パーソン・トリップ調査データを使用して、2000 年と 2009 年の両方について、世帯での車両の保有水準、交通モード選択、および世帯のオートバイの利用量に関するモデルを推定することである。車両保有モデルと交通モード選択モデルでは5つの選択肢に対する多項ロジット回帰を実行し、オートバイ利用量モデルではトービット回帰を実行した。
モデルの結果に基づいて、まとめると、一般的に、オートバイでの保有や利用は、人口密度の高さ、雇用者密度の低さ、中心業務地区からの距離が長いこと、地下鉄駅からの距離が長いことと相関している。これらの関係は相関関係であり、必ずしも因果関係というわけではない。(図―1)
弾性値推定を行うと、都市環境が変化した場合にオートバイ交通行動に何が起こるかを理解するのに役立つ。結果は以下の通りである。人口密度が全体的に 10% 増加すると、世帯オートバイ保有水準の加重平均が 0.5% 増加し、オートバイのモード分担率が 1% 以上増加し、世帯オートバイ利用量が 2% 増加する。雇用者密度が全体的に 10% 増加すると、世帯オートバイ保有水準の加重平均と世帯オートバイ利用量が減少する。土地利用多様性指数の全体的な増加は、オートバイのモード選択可能性の低下と関連している。
「パートII: 地下鉄システムとオートバイ」では、研究目的は、都市環境と収入の要素を考慮しながら、古い地下鉄駅の存在または新しい地下鉄駅の導入がオートバイのモード選択と利用量に及ぼす影響について、これらの駅に近いゾーンと駅に近くないゾーンを比較することによって吟味することであった。ここでは、地下鉄駅を2つのグループに分類する。即ち、2000年以前の既存駅と、2000 年から 2009 年の間に導入された駅である。地下鉄駅に近いとは、駅から800 メートル以内であると定義される。研究方法は、2000 年と 2009 年のパーソン・トリップ調査データを 1つのデータセットとしてプールし、2 種類のモデルを推定した。このモデルでは、地下鉄駅の影響を推定するためにdifference-in-differences、即ち「差分の差」法を、用いる。モデルの 1つのタイプは、地下鉄の効果が推定された、ペアごとの交通モード選択に関する 4つの通常の最小二乗回帰モデルである。この4つの交通モードのペアは、オートバイと、自転車、バス、自動車、地下鉄という4つの代替交通手段のそれぞれとの組合せである。2 番目のタイプのモデルは、地下鉄の効果が推定された世帯オートバイ利用量に関するトービット回帰モデルである。
モデルの結果に基づいて、地下鉄駅の導入はその周辺でのオートバイの利用(モード選択可能性と利用量)を減らしていることもわかった。
地下鉄システムが交通モード選択に及ぼす影響について、地下鉄の新しい駅と古い駅は、800メートル以内から発生するトリップについて、駅の近くにない地区と比較した場合、オートバイの対地下鉄のモード選択確率をそれぞれ1400%及び700%相対的に減少させていることが、わかった。(図―2)
世帯オートバイ利用量に対する地下鉄システムの影響について、地下鉄の新しい駅と古い駅は、800メートル以内において、地下鉄駅の近くにない地区と比較した場合、世帯のオートバイ利用量をそれぞれ相対的に65% と 56%減少させていることが、わかった。
シナリオ・シミュレーションの実施は、地下鉄ネットワークがさらに拡大した場合にオートバイ交通行動に何が起こるかを理解するのに役立つ。結果は以下の通りである。地下鉄駅がパーソン・トリップ調査対象の全世帯を 800 メートルのゾーンで完全に覆った場合、実際の状況と比べると、オートバイのモード分担率は 3 ~ 4% 減少し、世帯オートバイ利用量は約 15% 減少することがわかった。
本研究の結果に基づく政策提言を、次の3点にまとめる。①交通政策では、引続き地下鉄ネットワークを拡大すべきである。②バスサービス、自転車及び歩道を含む複合交通機関の地下鉄との接続を強化する必要がある。③土地利用政策では、郊外の主要な地下鉄駅の近くにビジネスセンターを開発し、地下鉄駅の近くに人口を集中させる必要がある。
<コメント>
東南アジアや南アジアでは都市鉄道(MRT)の路線網が拡大している。一方で、バイクは、「Fastest」で「Cheapest」なモードであることから、都市部において利用者が増加しており、この傾向はアジアやアフリカで顕著となっている。バイクが普及した都市は、公共交通への転換が進まず袋小路となっている。
本研究では、パートIの分析において、夜間人口が多い地域や昼間人口が少ない地域はバイクの所有率が高くなるとともに、低所得世帯は安価なバイクを保有する傾向が高いことが明らかとなった。パートIIの分析において、2000年から2009年にかけて車からバイクへの転換が顕著だったが、MRT新駅の開業はバイクの抑制に貢献していることが分かった。またMRTの駅に近くない地域でもバイクが抑制されていることが分かった。
以上の結果から、Transit oriented development(TOD) により、MRTの需要が増加するとともに、バイクの抑制に効果があることが分かった。この結果から郊外部の宅地についてMRT駅を中心に都心回帰させることでバイクを抑制することができるのではないか。
今後研究を進める上で何点か指摘したい。
・2009年以降、バイクの登録台数が減少しているが、台湾で普及している自転車のシェアリングサービスに転換したのか。
・GRAB、Gojek、UBERといったRide HailingサービスがMRTの利用や駅へのアクセス・イグレスにどの様な影響をもたらすのか。
・コロナによるテレワークの普及がMRTにどの様な影響を与えたのか。
・東南アジアでMRTを運行する場合、運営費補助が必要となることから運賃の適正化と都市交通戦略について考える必要がある。
最後に今回の研究を受けて以下の点について多くの方に考えていただきたい。
・台北での知見をMRTの整備が進展している他の国へ示唆としてどういかしていくのか。
・TOD、運賃施策、バイク抑制施策などのバランスをどう確保していくのか。
・Ride HailingのコントロールやMaaS導入によるサービス改善など、新技術への対応。
<討論と質疑応答>
Q:パーソン・トリップ調査のサンプル数について2009年調査は2000年調査の6分の1になっているが、サンプルが少ないことが推計結果に影響しているのか。
A: パートIではPT調査のデータをプールせず別々のモデルで推計していて、それぞれのモデルでは目的変数と説明変数の平均的な関係を示しているので影響はない。パートIIで構築したモデルでは、2009年ダミー変数を入れることにより、2000年と2009年のサンプル数の差が推計結果に与える影響を排除している。
Q: バイク利用量モデルでは、バイクを所有していない世帯が多いことからleft-censored Tobitを採用したのか。
A:その通りである。
Q: difference-in-differences(「差分の差」法)を用いてモード選択を分析しているが、目的変数がなぜ離散値になっているのか。
A:交通モード選択モデルでは、バイク利用にダミー変数を入れているので目的変数が離散値になっている。
■図1 :都市環境、世帯所得とオートバイ交通行動の間の相関関係(実線=正の相関、点線=負の相関)
■図―2:オートバイの代替交通手段のそれぞれに対するオートバイのモード選択確率でゾーンの比較(2000~2009年)