貨物鉄道輸送150年記念セミナー
2050年の日本を支える貨物鉄道の挑戦
~もっと、地球と地域のために~

  • その他シンポジウム等
  • 他機関との交流
  • 鉄道・TOD
  • 物流・ロジスティックス

共催:一般財団法人運輸総合研究所、日本貨物鉄道株式会社

Supported by 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION

日時 2023/12/20(水)13:00~15:30
会場・開催形式 ベルサール御成門駅前 (及びオンライン配信(Zoomウェビナー))
テーマ・
プログラム
【基調講演】
鉄道貨物輸送が担ってきた役割と今後への期待
根本 敏則 敬愛大学経済学部 教授

【講演1】
貨物鉄道輸送、歴史からの教訓
坪山 雄樹 
一橋大学大学院経営管理研究科 准教授

【講演2】
欧州における貨物鉄道輸送を巡る潮流と政策動向
土方まりこ
一般財団法人交通経済研究所 調査研究センター
主任研究員

【パネルディスカッション】

コーディネーター
二村真理子
東京女子大学現代教養学部 教授
  
パネリスト
基調講演者・講演者に加え

秋葉 淳一 株式会社フレームワークス 会長

篠部 武嗣 日本貨物鉄道株式会社
取締役兼常務執行役員
経営統括本部長

開催概要

 我が国の貨物鉄道輸送は、鉄道開業の翌年1873年(明治6年)915日に、新橋~横浜駅間で貨物列車の運行が開始され、今年で150年の節目の年を迎えました。
 長い歴史の中で、鉄道は海運とともに我が国の物流の主役として社会・経済の発展、国民生活の安定に貢献してきましたが、昭和40年代から急速に進展したモータリゼーションは、トラック輸送の増大に伴い、貨物鉄道輸送の大幅な減少をもたらし、輸送構造に大きな変化を生じさせました。その後、国鉄分割民営化を経て、安全、定時・定型・大量輸送という機関特性と全国の鉄道ネットワークを活かし、今日まで全国一元的な貨物鉄道輸送サービスを担ってきました。
 また、トラックドライバーの担い手不足や物流の「2024年問題」といった喫緊の課題に加え、2050年カーボンニュートラルの実現という社会課題の解決に貢献すべく、労働生産性と環境特性に優れた貨物鉄道輸送への期待が高まっています。
 本セミナーでは、貨物鉄道輸送150年の節目の年に、我が国の貨物鉄道輸送が歩んできた歴史と果たしてきた役割を振り返るとともに、海外における貨物鉄道輸送を巡る動向にも目を向け、中長期的な視点で我が国の貨物鉄道輸送の今後の展望について考えました。

主なSDGs関連項目

プログラム

開会挨拶
宿利 正史  運輸総合研究所 会長

宿利 正史  運輸総合研究所 会長



開会挨拶
基調講演
鉄道貨物輸送が担ってきた役割と今後への期待<br>根本 敏則  敬愛大学経済学部 教授

鉄道貨物輸送が担ってきた役割と今後への期待
根本 敏則  敬愛大学経済学部 教授

講演者略歴
講演資料

講演1
貨物鉄道輸送、歴史からの教訓<br>坪山 雄樹   一橋大学大学院経営管理研究科 准教授

貨物鉄道輸送、歴史からの教訓
坪山 雄樹   一橋大学大学院経営管理研究科 准教授

講演者略歴
講演資料

講演2
欧州における貨物鉄道輸送を巡る潮流と政策動向<br>土方まりこ  一般財団法人交通経済研究所 調査研究センター 主任研究員

欧州における貨物鉄道輸送を巡る潮流と政策動向
土方まりこ  一般財団法人交通経済研究所 調査研究センター 主任研究員

講演者略歴
講演資料

パネルディスカッション

コーディネーター
二村真理子  東京女子大学現代教養学部 教授

二村真理子  東京女子大学現代教養学部 教授

講演者略歴

パネリスト
根本 敏則  敬愛大学経済学部 教授

根本 敏則  敬愛大学経済学部 教授

パネリスト
坪山 雄樹   一橋大学大学院経営管理研究科 准教授

坪山 雄樹   一橋大学大学院経営管理研究科 准教授

パネリスト
土方まりこ  一般財団法人交通経済研究所 調査研究センター 主任研究員

土方まりこ  一般財団法人交通経済研究所 調査研究センター 主任研究員

パネリスト
秋葉 淳一  株式会社フレームワークス 会長

秋葉 淳一  株式会社フレームワークス 会長

講演者略歴
講演資料

パネリスト
篠部 武嗣  日本貨物鉄道株式会社 取締役兼常務執行役員 経営統括本部長

篠部 武嗣  日本貨物鉄道株式会社 取締役兼常務執行役員 経営統括本部長

講演者略歴
講演資料

閉会挨拶
篠部 武嗣  日本貨物鉄道株式会社 取締役兼常務執行役員 経営統括本部長

篠部 武嗣  日本貨物鉄道株式会社 取締役兼常務執行役員 経営統括本部長



閉会挨拶

当日の結果

■基調講演
テーマ:鉄道貨物輸送が担ってきた役割と今後への期待
講師:根本 敏則 敬愛大学経済学部 教授

1.鉄道貨物輸送が担ってきた役割

 これまで、鉄道貨物輸送がどのように貢献してきたかを理解するためには、ロジスティクス高度化と流通イノベーションの関係を整理することが役立つ。 鉄道が整備される前は北前船が貨物輸送で大きな役割を果たしていた。明治の初めにピークを迎え、その後、通信手段が発達し、1873年に鉄道貨物輸送が始まり、1891年には青森まで繋がったことにより、北前船は衰退した。さらに鉄道網の整備により、生糸や綿糸などだけでなく、絹織物や綿織物など付加価値をつけた製品を港まで鉄道輸送し輸出するようになった。また、九州では炭鉱から港まで、従来は河川を使って船で輸送していたが、安定的な大量輸送を実現すべく、船から鉄道へシフトした。
 明治から徐々に鉄道の分担率が増加し、戦後には50%を超えた。その後、1965年以降のエネルギー革命により海外からの原油が国内の石炭を駆逐したことや、1970年以降の高速道路の供用区間の増加などの外的要因、および差別運賃により家電・工業製品などの運賃が高かったことや、国鉄の労働争議頻発により安定した輸送を期待できないことなどの内的要因から、貨物輸送は鉄道からトラックへ大きくシフトすることとなった。

2.鉄道貨物輸送を支える制度

 鉄道は固定費が大きく、輸送量が増加すると固定費部分が薄められるため、輸送量当たりの平均費用は減少する。経済学的には過去の投資の是非を問わず、限界費用だけを徴収して、多くの人に使ってもらうのが望ましいという考え方が支持される。しかし欧州のように交通量が増加して、新しい投資が必要なときに、料金収受が限界費用だけでは不足するため、多くの税金が投入されることになり、財政的に困難となる問題が発生した。それにより利用者に固定費を含めた総費用を負担させるべきという揺り戻し現象も起きた。 世界交通学会の会長を歴任したRothengatter氏は、このインフラ負担原則について30年サイクル説があるという興味深い見解を示している。その後、EUが1998年に発表した「インフラ負担原則」提案で、「大型車の大気汚染や混雑の外部費用を内部化して、それを料金として徴収すれば、新規投資を生み出せるのではないか」という論理により、限界費用論が見直されることになった。しかし、混雑費用の計測や利害関係者間の合意形成が難しいことなどから、政策への適用はうまく進まず、ドイツは2023年に、新しい線路使用料の設定の考え方を示した。すなわち、列車種別・輸送市場ごとの需要を勘案して、線路使用料を設定すべきとする需要プライシングの考え方である。
 日本では貨物会社が旅客会社に対して支払う線路使用料は、JR貨物が鉄道線路を使用することにより追加的に発生すると認められる経費(アボイダブルコスト)を払うことになっており、ほぼ限界費用に近いと推察される。ダイヤの配分は、旅客輸送と保線に大きな影響が出ないよう旅客会社から配分を受けていると思われる。
 一方、ドイツでは国がインフラを保有しており、旅客会社と貨物会社がその負担能力に応じて線路使用料を払っている。またダイヤは、高速長距離の旅客および貨物列車が優先されるように配分されている。
 整備新幹線の建設に伴い、財務体質の弱い並行在来線が生まれ、従来のアボイダブルコストに加え、貨物調整金を鉄運機構から交付する制度ができた。調整金は、従来列車キロを用いて按分していた経費を車両キロに変更した他、新たに資本費・固定資産税を含んだことで限界費用から乖離することになった。例えば、在来並行在来線の岩手銀河鉄道の旅客収入は10億円なのに対して、線路使用料は26億円である。支援がなければ存続も、インフラ維持もできないため、この制度が考え出された。
 線路使用料に関しては、その時々の事情で決めるのではなく、ある原則に従って国際的に通用する計算方法で決めることが重要ではないか。現状では、計算方法に関する情報が必ずしも公開されていない。公開の上で、どのような方法が望ましいか、皆で議論すべきと考える。
 次に、JR貨物は旅客会社からダイヤを配分される関係上、旅客便を諦めることで生じる費用、または保線を旅客会社の都合だけで実施することができないことで生じる費用は、機会費用として払うべきではないかと考える。そうすることで対等な関係になれる。
 並行在来線事業者は旅客輸送サービスを提供することに専念することが考えられる。安心・安全、脱炭素のための全国鉄道貨物輸送ネットワークを維持することは重要であり、鉄道インフラは国や県が関与する組織が保有すべきではないか。2000年以降も路線が廃止され、ネットワークの冗長度・頑健性は下がっている。武器とか弾薬の輸送が検討されてもよいし、もっと脱炭素への貢献を評価すべきである。10年程度で倍増するという新たな目標に沿って、国の支援により全国ネットを堅持・強化することが重要である。
 ドイツは今年の12月1日から従来の大型車対距離課金(高速道路料金)にCO2料金を追加した。そして同料金収入から鉄道予算へ1兆円繰り入れることになった。その結果2024年の鉄道予算は1兆8000億円となり、そのうちの3分の1が新規投資に活用される。

3.社会の要請に応える鉄道貨物輸送

 2024年から、労働規制が強化されて、1人のドライバーが働ける時間が短くなり人手不足はより深刻化する。輸送トンキロを労働時間で割った物的な労働生産性を向上させるためには、荷主への規制を強化し、物流生産性向上の計画に沿って荷役や荷待ち時間を削減することによって、ドライバーの運転時間を確保することが有効である。
 また、物流生産性の高い鉄道あるいは内航海運へのモーダルシフトが重要となる。政府・荷主・物流業者が中長期計画でコミットして、協調した投資を推進していく必要がある。政府の投資を促すためには、脱炭素への貢献という大義名分が重要。現在GX経済移行債の投資先は電気自動車などに限られるが、物流インフラへの投資は費用対効果が大きいと考えている。
 短期的には他のモードとの連携によってボトルネックを解消することも検討すべき。例えば津軽海峡線というボトルネック区間を迂回すべく、苫小牧港からフェリーで仙台港まで運び、仙台からJR貨物が利用されている。同様に東海道在来線のボトルネック区間は、新東名を自動運転トラックで運び、大阪から西を鉄道が担うことが考えられる。宅配貨物を例に分析したところ、鉄道の労働生産性が高く、CO2排出量は圧倒的に少ないことが分かった。また自動運転と鉄道を繋いだ場合も、労働生産性は高い。
 これまでも、鉄道貨物輸送が重要な役割を果たしてきた。これからの鉄道貨物輸送を支える制度は、この段階で少し見直しが必要と考える。社会の要請に応える鉄道貨物輸送として、特に「脱炭素への貢献」が重要となる。

■講演
テーマ①:貨物鉄道輸送、歴史からの教訓
講師:坪山 雄樹 一橋大学大学院経営管理研究科 准教授

 1960年代後半以降の貨物鉄道の歴史は、苦しい敗北の歴史である。しかし、敗北の歴史から現在の鉄道貨物が置かれた状況への教訓を得ることは重要である。
 政府の物流革新緊急パッケージにおいて今後10年で鉄道貨物の輸送量を倍増させる方針が発表されたが、過去を振り返ると、同様の政策的な期待がこれまでにもあった。そのひとつが1971年(昭和46年)に運輸政策審議会から出された総合交通体系の答申(46答申)である。
 国鉄が1964年から赤字を計上して以降、財政が悪化の一途をとたどり、1969年度から財政再建計画がスタートした。しかし、2年目の1970年度には、翌年度の1971年度に償却前赤字に陥ることが見込まれた一方で、東海道新幹線の成功を受けて政治主導で全国新幹線網建設の構想が発表された。国鉄再建構想を立て直さなければならない一方で、全国新幹線網を建設していく。どちらもどのように財源確保をするのかという大きな問題があったが、当時は国の総合交通体系の確立を待って考えることになった。
 当時の運輸省に目を向けると、道路整備が次々と進み、自動車輸送が増加する中で、排気ガスや騒音の問題、交通混雑の問題や、交通戦争とまで言われた交通事故の増加問題などが発生し、社会的費用をコストとして、自動車に背負わせて競争させるべきだという風潮があった。また、物流ではトラックから鉄道貨物輸送にシフトさせていくべきだとする考えも相まって、自動車新税で得た税収でもって総合交通特別会計を設けて、鉄道の財源にしたいという思惑もあって46答申が作られた。
 1969年度の財政再建計画では、当時の鉄道貨物量の約600億トンキロから10年後に960億トンキロを見込んだ需要想定であったが、1971年度時の46答申での需要想定は約620億トンキロから15年後に4185億トンキロまで伸びることを想定したものであった。この実態と乖離した過大な輸送量想定は政策的意図の下で運輸省の主導により作られたものであった。国鉄では、新再建計画がこの需要想定の影響を受けただけでなく、毎年度の予算、年度計画についても、長期需要想定と関連付けられて説明されなければならないため、具体的な施策に歪みや混乱が生じていくこととなった。その一方で、政府や運輸省に目を向けると、政策的期待の実現に向けて物流の面で貨物鉄道輸送を支えるための政策的サポートが欠如しており、掛け声だけで終わってしまった。
 このような歴史的経緯を踏まえつつ将来を考えた時、国策として取り組む場合には政策的なサポートが不可欠である。現状においてはアボイダブルコスト(アボ)ルールの問題である。アボルールは分割民営化に際してJRグループ全体の収益調整のために設けられた仕組みの一部であり、これにより発生する旅客会社への「犠牲」も加味された上で旅客会社の承継資産・債務や経営安定基金の規模が調整されていた。アボルールだけを取り上げて、どちらが損または得をしているというような議論は一面的すぎる。また、分割民営化の際に、これは永続的に続くものと想定されていた。政府がこれをどう維持し、どうコミットしていくかを示さなければならない問題であると考える。

テーマ②:欧州における貨物鉄道輸送を巡る潮流と政策動向
講  師:土方まりこ 一般財団法人交通経済研究所 調査研究センター 主任研究員

 欧州市場の統合に伴う輸送需要の拡大が見込まれるなか、EUは貨物鉄道をその受け皿としての機能を発揮すべきモードとして位置づけた。その上で、加盟各国にまたがる鉄道の建設、域内における技術仕様の共通化、鉄道輸送市場への参入の自由化などを通じて、貨物鉄道の競争力を向上させることを目指してきた。
 そして、今日においては、2050年までのカーボンニュートラルの達成に向けて、より多くの輸送を担うべきモードとしての役割を貨物鉄道に付与し、その競争力を強化するための政策をモーダルシフトの推進と将来への投資という二つの観点に基づいて展開している。  
まず、モーダルシフトの推進に向けては、複合輸送の拡大支援が行われてきた。複合輸送とは、コンテナ等の輸送にあたって鉄道や内陸水路を一定以上の距離に渡って用いる一方で、トラックの使用は両端末の最小限に止めるという輸送方法である。EU域内の貨物輸送市場において、鉄道は2割ほどの分担率を確保してきたものの、7~8割というトラックの圧倒的な分担率に鑑みれば、こうした複合輸送に対する継続的な支援の必要性は高いことが分かる。2010年代までは、複合輸送に取り組む事業者に対する資金補助を実施していたが、モーダルシフト効果が小さいとの判断に基づいて中止した。その後においては、マルチモーダルな積替ターミナルの設置やピギーバック輸送に対応可能なネットワークの構築といった、複合輸送向けインフラの整備推進へと手法を変更して支援を継続している。
 トラック輸送に対する課金も、外部費用の内部化によってモーダルシフトを喚起するための政策として定義される。トラックを対象とする道路通行料金の徴収は、EU指令が規律してきたが、カーボンニュートラル政策としての性格を採り入れるべく、車両が排出するCO2への課金を加盟各国に要請するために2022年に改正された。この改正に応じるかたちで、すでにドイツなどではCO2課金が開始された結果、道路貨物輸送に要するコストは大幅に拡大している。なお、トラック輸送は、EUが新設する予定となっている排出量取引制度の対象にもなることから、今後の欧州におけるトラック輸送は、経済的な負担が大きくなっていくことが見込まれる。
 企業活動の脱炭素化の推進も、モーダルシフトの達成に寄与するものと期待される。いわゆるScope3に関する情報開示の要求は、世界的な潮流となりつつあるが、EUはその内容に対する第三者保証を求めるなど、国際会計基準と比較しても、企業物流に起因する温室効果ガス排出量への監視を強化している。
 貨物鉄道の将来に向けた投資としては、カーボンニュートラルへの貢献からも注目される、水素輸送の実施に向けた開発支援が挙げられる。EUや加盟各国は、パイプラインを主軸とした水素輸送インフラを構築していく意向であるが、鉄道による水素輸送に対しても支持を表明している。タンク専用列車による液化水素の大量輸送は、もとより実施されてきたが、例えばドイツ政府は、圧縮水素の複数モードによる輸送を可能とするタンクコンテナの開発を支援している。
 デジタル化やDXという切り口からも、将来を見据えた取組が実施されており、目下のところ、デジタル自動連結器の開発・実用化が急がれている。その欧州全域への実装に向けて、各国による支援も行われている。この他にも、荷役作業の自動化が試みられており、例えば、ドイツのハノーファー市にあるメガハブでは、自動走行車両を活用した作業の省力化が実践されている。
 貨物鉄道の競争力強化に向けたEUによる政策は、以上の通りとなるが、その内容を俯瞰すると、EUはわが国と着眼点そのものは概ね共有していることが窺われる。その一方で、EUによる政策には、①対策が急務となっているカーボンニュートラルなどの他の政策課題と直結させることで、モーダルシフト政策の訴求力を向上させている、②貨物鉄道に対する支援のみならず、トラック輸送への課金や荷主による温室効果ガス排出量の監視など、各方面をターゲットとした多様な手法を用いることで、目標達成に注力している、③複合輸送の拡大支援におけるように、成果の獲得を重視することで、試行錯誤しつつも政策自体の見直しも実行しているといった特長が見出される。これらの特長は、政策の実効性を高めようとする姿勢と工夫に基づくものであり、わが国にとっても参照に値するのではないか。

■パネルディスカッション
コーディネーター:二村真理子 東京女子大学現代教養学部 教授
パネリスト:基調講演者・講演者に加え
秋葉 淳一 株式会社フレームワークス会長
篠部 武嗣 日本貨物鉄道株式会社 取締役兼常務執行役員 経営統括本部長

○プレゼンテーション①(篠部常務)

・貨物鉄道輸送の現状について

 貨物鉄道輸送の特長としては、労働生産性が高く、カーボンニュートラル含めた環境性が高いなどの特長を持っているが、輸送量については現在伸び悩んでいる。大規模輸送障害によって信頼性が揺らいでおり、また物流全体の荷動きが低調で、トラックと運賃面等での厳しい競争が続いている。2024年問題に対しては様子見の状況も多いが、駅から集荷配達するトラック(緊締車)が減少傾向にあることやリードタイム、CO2削減への理解も限定的だと捉えており、これらを踏まえた対策に取り組んでいく。未来に向けて貨物鉄道輸送量を伸ばし、社会課題解決に貢献していくため、JR貨物の最大努力はもちろんのこと、皆様のご協力ご支援が必要な極めて大事な局面と捉えている。

・JR貨物の現在の取組みについて

1.通常時、災害時を通じたモーダルコンビネーションの推進
 災害対応力の強化として、国等の力添えをいただき予防保全を進めるとともに、関係者連携でBCP対策を講じることが必要と考える。
 トラック等との互換性向上として、31フィートコンテナ対応の拡充でトラックと鉄道をシームレスに組み込むモーダルコンビネーションの取り組みを進める。また貨物駅の駅ナカ・駅チカに積替ステーションを拡充し、一般トラックによる持ち込みで鉄道が使えるようにし、集配能力拡充を図る。
 物流DXの推進として、新技術導入による運行・荷役・積替の効率化・省人化の徹底を図るべく、電車型貨物列車開発や、自動運転スワップボディ車との連携による複線化の検討などを行う。

2.カーボンニュートラルに向けた取組み
 自社の削減に加え、お客様のスコープ3のCO2削減への貢献に向け、精緻化した排出量を自動算出し明示することによる利用促進、Jクレジットの適用検討等、「経済的インセンティブの制度化」へのチャレンジを行う。またJR旅客会社と協調し、欧州で鉄道を排出権取引対象外とし、鉄道運行用動力の炭素相当税を減免しているように、日本でもカーボンプライシング等の制度化に当たり、低炭素な輸送モードを減免するなどモーダルシフトを阻害しない制度を要望している。

3.貨物鉄道を支える制度の維持による競争環境の整備、基幹的鉄道ネットワーク維持
 線路使用料協定、貨物調整金、青函海線など様々な課題が待ち受ける中、現在の制度や枠組みは貨物鉄道事業を成り立たせる前提の根幹である。
 貨物鉄道輸送倍増目標の実現に、競争力強化は必須であり、全国ネットワーク維持や他モードとのイコールフッティングな競争環境の維持強化を図る制度を望む。
 旅客会社との関係ではアボイダブルコストルール、保守間合確保、安全等が課題でウィンウィンの関係構築が必要だが、民・民の関係だけでは片付かない問題であり、国の力添えも必要である。
 貨物調整金制度などは、整備新幹線推進と貨物ネットワーク維持・競争環境維持の政策目的の両立をいかに図るかという問題であり、国会付帯決議等に基づいた考え方でネットワークが寸断されないよう、引き続き国や自治体が責務を果たすことを前提とした持続可能なスキームの構築と幅広い関係者の協力のあり方の議論を望む。

○プレゼンテーション②(秋葉会長)

 荷主側ではJR貨物の更なる活用を望む声があり、日本ロジスティクスシステム協会を通じ荷主企業に対して貨物鉄道輸送の利用についてアンケートを行っている。CO2排出量削減やモーダルコンビネーションのためという回答の一方、課題としてそもそもJR貨物活用の仕方や手続きがわからないという回答があり、活用する前段階でハードルがあること。また31フィートコンテナの手配ができない、貨物列車の輸送枠不足、発着地物流センター側の設備がコンテナ使用に適していない、など様々あげられている。
 ただJR貨物だけで解決できない課題も多く、規制緩和や見直し、荷主自身の協力など、様々な関係者の協力のもと、共に考え、実行することが不可欠である。 比較的重要と思うこととして、一つ目に、タッチ回数(人間が触るあるいは積み下ろし)をいかに減らせるか注意している。コストがかかる部分になり、荷役直結のステーション開発ができないかと思う。
 二つ目に、コンテナ単位での管理から一歩進み、JR貨物としてパレットあるいはカゴ車単位の管理もできれば、フレキシビリティが上がり、コストや荷量が集まることに加え、災害時対応にも繋がる。
 三つ目に、31フィートコンテナの活用については必ずしも往復で埋まらないケースもある。求貨求車システムのような荷物とトラックをマッチングさせる仕組みを提供する会社と連携するなどして、荷物と31フィートコンテナをマッチングさせると災害時も含め効果的である。
 宅配便の再配達削減の話題はよく出るが、宅配貨物は重量ベースで全体の8%程度であり、残り90数%を運ぶトラックドライバー不足が明確なため、その事実を知ってもらいJR貨物を活用してもらえるよう宣伝をしていきたい。

○貨物鉄道輸送量を大きく伸ばすために必須なことは何か

(根本教授)
 短期的には現在のダイヤを最大限活用するため、積合せ貨物を中心に、長編成で目的地直行型のブロックトレイン増発が効果的であり、それを目指し顧客開拓をしてほしい。中長期的にはダイヤやキャパシティ拡大のため、鉄道インフラそのもののテコ入れが必要だろう。

(坪山准教授)
 政府の政策的なコミットが必要で、そのサポートの中身は新しいこともあれば、これまでのことを維持していくようなものもあり、一つはアボイダブルコストの枠組みを政策的にどう維持していくのかを考えなければいけないと思う。

(土方主任研究員)
 10年で輸送量を倍増させることを目指すのであれば、政策的な手当は不可欠である。かつ、その効果を重視するならば、欧州のように他の政策と組み合わせることも参考になる。

(秋葉会長)
 使い勝手が良い仕組みが必要で、ターミナルを含めたタッチ回数の減少はリードタイムやコストに効果的で、フレキシビリティを上げるためにも重要である。またモーダルコンビネーションでトラックやRORO船など災害時も含め相互に荷物がコントロールできるような仕組みも大事である。

○目指すべき貨物鉄道輸送の姿・JR貨物が努力すべきこと

(秋葉会長)
 タッチ回数を減らすため荷役直結型ターミナルやコンテナ単位の管理からもう一段小さくしたカゴ車などでの管理を提案している。またJR貨物として、取り組みを荷主の方たちに知ってもらう努力は十分ではない。

(根本教授)
 大手荷主にはJR貨物が直接働きかけることができるが、中小荷主を集めるには利用運送事業者の営業力に頼らざるを得ない。利用運送事業者との関係をどう整理したらいいか。

(秋葉会長)
 卸売業のような機能を利用運送事業者に担っていただくべきだと思う。31フィートコンテナを増やすのであれば、荷物を埋められるかが課題になる。埋められる会社はどうタッチ回数を減らすかという話であり、一方自社では十分な荷量はないがカゴ車やパレット単位では荷物がある場合、それをまとめてコンテナに仕立てるという両方なのかと思う。

(篠部常務)
 JR貨物が直接働きかけ、オペレーションを行う利用運送事業者も入り成約となるものもあれば、逆に利用運送事業者が見つけたものを委ねていただく部分と両方のケースがあり、一層連携をとるべきだと思う。国の補助制度はそのきっかけにもなり、複数事業者のコンソーシアムを作りいい取り組みにしていきたい。

(二村教授)
 荷主の目線はいつも意識していなければいけない。そこがまず第一に大切な点であり、利便性の向上がとても大事だと思う。また政策的な補助制度をうまく活用しながら、目指すべき姿を追求していくのが大事である。

(根本教授)
 荷主の中には、JR貨物の利用の仕方がわからない方がいるということなので、利用運送事業者とJR貨物が協力して荷主に働きかけ顧客を開拓していってほしい。

○貨物鉄道輸送を支える制度のあり方

(坪山准教授)
 アボイダブルコストルールは、分割民営化の際にJRグループ全体の収益調整の一部として設定され、これを計算に入れた上で各社の承継資産や承継債務、経営安定基金などが設定された。アボイダブルコストだけを取り上げて議論するのは一面的である。現状でJR貨物の立場、位置づけは大きく変わっておらず、維持が困難であれば政策的なサポートが必要ではないか。

(根本教授)
 線路使用料だけでなく、JR貨物を支えるそれ以外の仕組みについても議論すべきということなら、私も賛同する。
 欧州では、基本的に鉄道ビジネスは儲からないが、残していくべきものとして、線路使用料などは安くするという流れがある。ただ、鉄道に対する追加投資が必要な時に、利用者負担を求めざるを得ない財政事情もあり、インフラ負担のあり方に関し、いつも揺れ動いてきたのではないか。
 日本の鉄道は独立採算でうまくやってきた。人口密度が高いので、鉄道会社が下ものを保有しつつも、十分採算が取れるビジネスとして成り立ってきた。しかし、近い将来、人口が減り人口密度も欧州などと同様になると、大都市以外で採算をとるのは難しくなる。

(二村教授)
 日本では下部構造も上部の貨物輸送も民間で担っており、例えば社会的課題を解決するような交渉事は難しいため、そこに公的主体が入ることは必要であり、政策的にも資金面でのサポートは継続されるべきであろう。

○貨物鉄道輸送の競争力強化政策のあり方

(土方主任研究員)
 市場原理だけでは、貨物鉄道の利用を大幅に増やすことは難しく、政策のあり方も今までの延長上では厳しい。非常に極端な例ではあるが、欧州のようにカーボンニュートラルと融合させて政策を展開していくのも一案ではないか。 また、物流は様々な主体が関わるビジネスであるため、多様な政策を用いることも重要であろう。さらには、政策を見直して、必要であれば後から引き返すことも長期的には必要ではないか。

(秋葉会長)
 カーボンニュートラルに対する取り組みは荷主企業も必要である。スコープ3のシミュレーションなどJR貨物や利用運送事業者も提供していくべきだと思う。

(篠部常務)
 具体的にメリットとして感じていただけるところまで早く持っていきたい。また物流管理統括者の方々にはCO2削減を常に一つの考慮要素に入れていただきたい。

(二村教授)
 荷主がSBT(science based targets)認証を取れば、資金調達に大変有利になり、その際にスコープ3に関するデータが必要である。科学的な根拠に基づいてCO2排出量や温室効果ガス排出量を検証可能な形で提供することで、輸送サービスの付加価値として多少運賃に上乗せしてもよいのではないか。

(根本教授)
 民間の動きに比べると、政府の動きが鈍い気がする。欧州は2050年の脱炭素の実現に向け、いろいろなシナリオを考えて分析をしている。日本には、2030年が目標年次の地球温暖化対策計画があり、2050年のカーボンニュートラルがあるが、30年からどのような経路で50年の目標を達成するか、については説明がない。

(土方主任研究員)
 欧州は、環境政策をバックキャスティングの考え方で策定している。また、荷主に貨物鉄道を使うメリットをわかりやすく提供できる政策ができれば望ましい。例えば、ドイツでは日曜日は安息日であるため、市民の生活を邪魔しないよう重量トラックの走行を禁止しているが、複合輸送トラックに関しては除外している。

(根本教授)
 「10年程度での輸送量倍増」は、首相が設置した関係閣僚会議で「物流革新緊急パッケージ」として決めたものであり、「2050年のカーボンニュートラル」と同じぐらい重たい政府目標。私見では、同パッケージは総合物流施策大綱よりも上位計画であり、それに合わせ総合物流施策大綱の2025年の目標値を変え、来年度以降、進捗管理をしていく必要がある。いずれにしてもみんなで知恵を出していかないといけないことははっきりしている。

(二村教授)
 政治プロセスで決まってきた目標ではあるが、考えなければならないのは我々である。

(坪山准教授)
 今のところカーボンニュートラル、トラックドライバー不足という訴求点を強く感じ、そうすると規制によって渋々使うようにはたから見えてしまう。それを超えた、荷主にとっての価値、鉄道貨物輸送のメリットは何なのかを、わかりやすい形で語られるような姿をぜひ目指してほしい。

(篠部常務)
 脱炭素実現の観点では、事業者努力の部分と、制度的、政策的にバックアップいただく部分の両輪だと思う。国民や世の中の理解、そして政策的な後押しもお願いし、我々も汗をかいていく。

(根本教授)
 2024年問題や脱炭素は、原則的に「規制強化」で問題解決を目指すことになるのではないか。過去、国交省は様々なガイドラインを出し、荷主・物流事業者にお願いしてきたが、うまくいかなかった。これまで、主として経済的な規制を緩和してきたが、それとバランスを取る形で社会的な規制を強化する必要があったのではないか。欧州でも、脱炭素の達成には、排出量に上限規制を設け、その上で排出権を取引する仕組みが有効と考えている。

○貨物鉄道輸送は社会に貢献できるのか?未来に向けた鉄貨物鉄道の意義、期待すること

(篠部常務)
 有志でまとめたアイディアという前提ではあるが、2050年の貨物鉄道の姿の例を描いた。一番目はカーボンニュートラルと循環型社会の実現である。鉄道は低CO2排出のみならず、エネルギー効率が最も優れた輸送モードで、この価値は未来に向けて不変である。
 二番目は幹線輸送において、電車シャトル運行、門型クレーン、荷役線直結レールゲート、自動運転スワップボディとの複線化等による入換ゼロ、積替ゼロ化の省人化徹底のシームレス大量輸送と、大規模災害、食料安全保障、有事等に備えた基幹的鉄道ネットワークの強靭化である。
 最後に、地域・ラストワンマイルにおいて、フィジカルインターネット対応とともに、人流と物流をトータルで捉えて鉄道を活かした地域のヒト・モノの移動確保を図り、鉄道を活かした「地域の足の確保」と「生活物資供給」の両立の可能性を挙げる。

(根本教授)
 メガターミナル間を随時発車するブロックトレインでつなぐことはできないだろうか。ターミナルを機械化・自動化し、24時間稼動にしてコンテナをどんどん仕立て、1編成分のコンテナが用意出来たら、随時発車させる。鉄道自動運転の時代では運行間隔も短くでき、キャパシティ問題も緩和されるのではないか。

(坪山准教授)
 JR貨物はイメージが変わり、最先端を行くクールな会社として打ち出せる時代が来たと思う。今後イメージ、実体、政策と大きく乖離することなく未来に向かって頑張ってほしい。

(土方主任研究員)
 トラックの自動運転が実用化されたとしても、貨物鉄道はCO2排出量が少なく、エネルギー効率に優れており、人的な面でも省力化が可能であり、さらには大量輸送が可能であるという価値は変わらない。2050年の時点においてこそ、貨物鉄道の価値が発揮でき、その存在意義が高まるのではないか。

(秋葉会長)
 2050年になっても自動運転トラックは限定区域内でしかおそらく走っていないと考えると、そもそも限定区域のレールの上を走るJR貨物にチャンスがあると思う。いろんな意味で可能性があると捉えており、我々も知恵を出していきたい。

 本開催概要は主催者の責任でまとめています。

<当日の様子>