「鉄道開業150周年を経て次の時代へ
~当研究所の鉄道関係研究調査を振返って」
- 運輸政策セミナー
- 鉄道・TOD
第88回運輸政策セミナー(会場参加及びオンライン配信)
日時 | 2023/2/7(火)14:00~16:30 |
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会場・開催形式 | 運輸総合研究所2階会議室 (及びオンライン配信(Zoomウェビナー)) |
開催回 | 第88回 |
テーマ・ プログラム |
【基調講演】 テーマ:「運輸総合研究所の鉄道関係の研究調査実績」 森地 茂 政策研究大学院大学 客員教授、名誉教授 【歴代研究所長による座談会】 ([]内は運輸政策研究所長としての在任期間) 中村 英夫 [1996年4月~2004年3月] 東京都市大学名誉総長、(一社)日本プロジェクト産業協議会副会長 森地 茂 [2004年4月~2011年3月] 政策研究大学院大学 客員教授、名誉教授 杉山 武彦 [2011年4月~2016年6月] 一橋大学名誉教授 (モデレータ) 山内 弘隆 [2016年6月~] 運輸総合研究所所長 |
開催概要
運輸総合研究所は、1968年の運輸経済研究センターとしての設立以来、鉄道の整備・発展やそのための政策検討に役立つ数多くの研究調査を実施してきた。また、最近では、グローバルで普遍的な課題として、脱炭素社会に向けて、あるいは包摂性やウェルビーイングの実現、QOLの向上などに向けて、鉄道などの公共交通がどう応えていくか、ということも重要な課題と位置付けて、研究調査活動に取組んでいる。鉄道開設150周年を迎えたこの時期に、当研究所のこのような研究調査実績を振返りつつ、当研究所に対する今後の課題や期待について、歴代研究所長にご議論頂き、考察した。
プログラム
開会挨拶 |
宿利正史 開会挨拶 |
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基調講演 |
森地 茂 |
. |
歴代研究所長による座談会 |
座談会 |
中村英夫 [在任期間:1996年4月~2004年3月] |
座談会 |
森地 茂 [在任期間:2004年4月~2011年3月] |
座談会 |
杉山武彦 [在任期間:2011年4月~2016年6月] |
座談会 (モデレータ) |
山内弘隆 [在任期間:2016年6月~] |
閉会挨拶 |
佐藤善信 閉会挨拶 |
当日の結果
基調講演
テーマ:運輸総合研究所の鉄道関係の研究調査実績
講 師:森地 茂 政策研究大学院大学客員教授、名誉教授
①はじめに
運輸総合研究所のこれまでの調査・研究件数は、手元の試算で、日本財団からの助成事業は792件、そのうち鉄道関連のテーマは143件である。受託事業は2246件で鉄道関連のテーマは355件である。個人(客員を除く)研究は156件で鉄道関連のテーマは71件である。このように鉄道関連が3~4割程度を占めており、鉄道のプロジェクトは重要なものである。
②交通圏、交通の質
人口減少下でのコンパクトシティ化、公共サービスの集約化、都市の再編、地方公共交通を考える上で、交通圏というコンセプトでの分析が重要である。また、安全性、利便性、快適性といった交通の質の研究は、ユニバーサルデザインや、女性専用車両の実現、訪日外国人への外国語表記による案内情報等を実現した。事故時や遅延時の情報提供は重要なテーマである。
③歴史研究
政策代替案、想定された影響、国際比較検討等の情報は、特にアジア等の発展途上国の政策展開を支援できるものであり、このような情報をストックして提供することは大変重要な任務である。運輸総研の過去の研究調査の蓄積を簡単に検索できるシステムがあると便利である。
④交通統計とその分析
貨物純流動調査、大都市交通センサス、全国旅客純流動調査の3つの調査のデータの蓄積は重要である。ビッグデータの活用と蓄積も重要である。
⑤需要予測と整備効果分析の方法
需要予測と整備効果分析の2分野で方法論的な蓄積が多い。需要予測では、大都市圏交通機関選択分析の需要予測ゾーンにおいて、2015年の第198号答申で2843ゾーンと細かな推計を可能とした。整備効果分析では、運輸省全体のプロジェクトの事業評価マニュアルとなった。
⑥鉄道政策
審議会答申への支援が大きく、わが国の大都市圏の鉄道計画で重要なことは、マスタープラン機能をはたしてきたことである。東京圏の答申は、整備制度や財源制度を革新した。また、合意形成を促進するシステムとしても機能した。課題として、ヨーロッパやアメリカで鉄道整備を始めているときに、日本だけが概成していると言っていいのか。運賃政策に関して、運賃水準、特々制度、運賃設定方式、乗り継ぎ運賃、ゾーン制運賃、定期割引制運運賃、共通運賃、ICカード運賃、弾力性分析等の研究成果は実務に生かされた。課題として、地方鉄道の公共負担と運賃制度、大都市鉄道企業の健全経営のための運賃、規制緩和と利用者負担をどうするか。災害対応政策に関して、首都圏の場合、放射状に鉄道路線があるため、どのように代替バス輸送を行うのか、鉄道車両基地の防災をどう考えるのか、車両の事前避難と住民の広域避難をどう考えるのか、老朽化対策、地方鉄道への技術的、財政的支援等の課題がある。技術革新対応政策に関しての成果は、モノレールの補助制度、北九州の3セク会社の設立開業、愛知県のリニモ、大深度地下の利用等に展開された。運輸総研は技術開発の機関ではないが、サイバー攻撃のリスクを示して警告を発したのは大きな貢献であった。環境政策に関しても多くの研究成果があるが、カーボンニュートラルの社会にどのように貢献できるかが重要である。
⑦鉄道路線計画
全国の数多くの鉄道について調査を実施した。仙台、札幌、横浜、福岡等都市鉄道路線のほとんどはこの研究所で計画を立てて実現した。新線計画がこれから増えないときに、ノウハウをどうやって貯めていけばいいのか、海外の様々な支援にも使ってほしい。実現していない路線もたくさんあり、この路線がないと困るというようなものもある。
⑧人材育成
運輸総研で在籍したことの意義について、本人と派遣組織に認識してほしい。研究者にとって運輸総研に在籍してから大学教員になると、直接大学で昇任していくのと比較して、テーマ設定に広がりが出て、学会でも実務界でも幅広く活躍できる。行政組織からの出向者は、特定の政策課題に集中して取り組むことができ、鉄道会社、コンサルタントからの出向者は、政策立案の思考と過程を学ぶことができる。人材の育成も研究所の大変重要な役割である。今まで運輸総研に在籍して全国で活躍されている先生は40名おり、それぞれの地域で政策立案に貢献している。
⑨おわりに
印象深い事例として、東京都心部における再開発と鉄道容量限界の分析でありこれが虎ノ門ヒルズ駅に貢献した。もう一つは鉄道6社との共同研究であり、都市鉄道戦略のための研究である。最後に、国際研究も多くある。海外の情報をどうやって取り入れるのかは重要である。
歴代研究所長による座談会
中村 英夫 [1996年4月~2004年3月=在籍期間]
東京都市大学名誉総長、(一社)日本プロジェクト産業協議会副会長
森地 茂 [2004年4月~2011年3月]
政策研究大学院大学客員教授、名誉教授
杉山 武彦 [2011年4月~2016年6月]
一橋大学名誉教授
(モデレータ)
山内 弘隆 [2016年6月~]
運輸総合研究所所長
3人の歴代所長による座談会では、研究所の成り立ち、何をしてきたか、研究所への期待と課題について、議論が交わされた。
①運研センター、研究所設立に至る経緯、鉄道関連の政策・研究調査の状況
(中村)運輸省が許認可官庁から政策官庁へ脱皮しようと、1968年に運輸経済研究センターが設立された。「課題を先取りするシンクタンク機能が必要」との趣意書のもと、時代の要請とともに多種多様な課題を調査研究してきた。省や自治体からの依頼が主で独自性がない等の弱点を克服しようと、1996年に運輸政策研究所が発足し、私が所長に就任した。研究員の学際性や国際性を図ること、研究員が政策研究テーマを自由に決めてよいこと、所員が成果を報告する「運輸政策研究」の出版等をした。
(杉山)私は2011年東日本大震災の数週間後に着任した。遡れば、観光立国推進基本法や活性化再生法、京都議定書への対応等の社会経済動向を背景に、災害復興ニーズと政策支援や観光立国の機運、交通機関整備とまちづくりの連携・連動への認識が高まっていた。地域交通の活性化や鉄道の改善/整備への支援の方策、気候変動と都市間交通戦略、鉄道の津波対策、気候変動と都市間交通戦略のような研究があった。
②研究所の鉄道関係の実績評価、現在に役立つ知見
(森地)所長時代に韓国交通研究院等との国際交流を深めた。外国とどのように繋がるのか、国際的な評価がどうなのかが重要なポイントである。日本は鉄道で外国から何も学ぶことはないと思っていたのかもしれないが、日本の鉄道が本当に最先端に行っているのか、これからアジアへ展開していく時に大丈夫かと気になる。
(中村)私は欧州から学ぶべきことが多いと思う。ドイツだけではなく欧州の国々では、鉱油税を交通財源にして鉄道整備をしてきた。欧州ではゲージは同じだが、電圧や周波数、運転系統、何よりも接客の言葉が全て違う中で、インターオペラビリティ・相互直通運転の努力をしてきた。日本の鉄道もそういうものを見て次の段階に進むべきである。
(杉山)以後の政策決定の基礎となった多数の調査が存在している。研究所の一番の財産・強みとは、交通計画、需要予測、路線計画、センサス、フィージビリティスタディのような領域に関して、標準的かつ普遍的な評価分析の理論や手法を50年かけてしっかり構築、蓄積、改良する活動をずっと続けてきたことである。稠密な人的ネットワークが形成され続けてきたことも大きな無形の財産だと思う。
③今後の鉄道の将来像、研究所への期待と課題
(森地)これまでの研究調査を分類し、検索できるシステムを作ることが重要と思う。また、地方とアジアをどうするかが大変気にかかっている。
(杉山)二つを頭に置いている。一つは脱炭素、もう一つは地域公共交通の問題で、運輸総研から重要な研究調査が出てくることを期待したい。運輸総合研究所と名称が変わり、総合という考え方が入ってきた。個々の交通機関から交通体系全体へ、あるいは情報通信等、新しい技術的要素との結合・補完といったものを導入しながら、交通が社会の安全安心やウェルフェアの向上に結びついていき、その一段上の社会全体との関係で、どういう意義を持つかを常に取り込みながらの研究になれば良いと思う。
(中村)閑散線区やエネルギーの問題が気になる。特に交通のエネルギーの中でも鉄道の立場は極めて重要である。日本はSDGsという言葉だけを言っているが、エネルギー問題を放って置いてよいのか、もう少し本気で考えなければいけないのではないか。
(山内)エネルギー問題は日本全体、世界の問題であり、今回の紛争もエネルギー問題の側面が強い。そういった点では我々も避けて通れないテーマと思っている。
④質疑応答
(質問)四国新幹線等の研究はその後どうなったのか。
(回答)整備新幹線という政府の動きの外であり、路線計画はほとんどが受託研究なので、たぶん研究所で取り上げられる機会がなかったのではないか。
(質問)生産年齢人口の急減少を踏まえて、今後の交通の研究の方向、課題はどのように変わると思うか。自動化技術等の観点はないか。
(回答)「50年後の公共交通」という現テーマの一つの大きな柱になっている。鉄道の自動化はなぜ進まないのかというのは非常に重要な課題である。日本人の安全意識の問題が一つのボトルネックになっている。実現すれば、一番のコストダウンになる。
⑤おわりに
(山内)私の感想を一言だけ申し上げると、かなりの蓄積を持ったこの組織が有効な交通の政策を立案できるよう、私も努力していきたいと思った次第である。
本開催概要は主催者の責任でまとめています。
〈当日の様子〉
運輸総合研究所「鉄道関係研究調査の主題の例の一覧」
鉄道政策・事業に関する最近の簡易年表
テーマ:運輸総合研究所の鉄道関係の研究調査実績
講 師:森地 茂 政策研究大学院大学客員教授、名誉教授
①はじめに
運輸総合研究所のこれまでの調査・研究件数は、手元の試算で、日本財団からの助成事業は792件、そのうち鉄道関連のテーマは143件である。受託事業は2246件で鉄道関連のテーマは355件である。個人(客員を除く)研究は156件で鉄道関連のテーマは71件である。このように鉄道関連が3~4割程度を占めており、鉄道のプロジェクトは重要なものである。
②交通圏、交通の質
人口減少下でのコンパクトシティ化、公共サービスの集約化、都市の再編、地方公共交通を考える上で、交通圏というコンセプトでの分析が重要である。また、安全性、利便性、快適性といった交通の質の研究は、ユニバーサルデザインや、女性専用車両の実現、訪日外国人への外国語表記による案内情報等を実現した。事故時や遅延時の情報提供は重要なテーマである。
③歴史研究
政策代替案、想定された影響、国際比較検討等の情報は、特にアジア等の発展途上国の政策展開を支援できるものであり、このような情報をストックして提供することは大変重要な任務である。運輸総研の過去の研究調査の蓄積を簡単に検索できるシステムがあると便利である。
④交通統計とその分析
貨物純流動調査、大都市交通センサス、全国旅客純流動調査の3つの調査のデータの蓄積は重要である。ビッグデータの活用と蓄積も重要である。
⑤需要予測と整備効果分析の方法
需要予測と整備効果分析の2分野で方法論的な蓄積が多い。需要予測では、大都市圏交通機関選択分析の需要予測ゾーンにおいて、2015年の第198号答申で2843ゾーンと細かな推計を可能とした。整備効果分析では、運輸省全体のプロジェクトの事業評価マニュアルとなった。
⑥鉄道政策
審議会答申への支援が大きく、わが国の大都市圏の鉄道計画で重要なことは、マスタープラン機能をはたしてきたことである。東京圏の答申は、整備制度や財源制度を革新した。また、合意形成を促進するシステムとしても機能した。課題として、ヨーロッパやアメリカで鉄道整備を始めているときに、日本だけが概成していると言っていいのか。運賃政策に関して、運賃水準、特々制度、運賃設定方式、乗り継ぎ運賃、ゾーン制運賃、定期割引制運運賃、共通運賃、ICカード運賃、弾力性分析等の研究成果は実務に生かされた。課題として、地方鉄道の公共負担と運賃制度、大都市鉄道企業の健全経営のための運賃、規制緩和と利用者負担をどうするか。災害対応政策に関して、首都圏の場合、放射状に鉄道路線があるため、どのように代替バス輸送を行うのか、鉄道車両基地の防災をどう考えるのか、車両の事前避難と住民の広域避難をどう考えるのか、老朽化対策、地方鉄道への技術的、財政的支援等の課題がある。技術革新対応政策に関しての成果は、モノレールの補助制度、北九州の3セク会社の設立開業、愛知県のリニモ、大深度地下の利用等に展開された。運輸総研は技術開発の機関ではないが、サイバー攻撃のリスクを示して警告を発したのは大きな貢献であった。環境政策に関しても多くの研究成果があるが、カーボンニュートラルの社会にどのように貢献できるかが重要である。
⑦鉄道路線計画
全国の数多くの鉄道について調査を実施した。仙台、札幌、横浜、福岡等都市鉄道路線のほとんどはこの研究所で計画を立てて実現した。新線計画がこれから増えないときに、ノウハウをどうやって貯めていけばいいのか、海外の様々な支援にも使ってほしい。実現していない路線もたくさんあり、この路線がないと困るというようなものもある。
⑧人材育成
運輸総研で在籍したことの意義について、本人と派遣組織に認識してほしい。研究者にとって運輸総研に在籍してから大学教員になると、直接大学で昇任していくのと比較して、テーマ設定に広がりが出て、学会でも実務界でも幅広く活躍できる。行政組織からの出向者は、特定の政策課題に集中して取り組むことができ、鉄道会社、コンサルタントからの出向者は、政策立案の思考と過程を学ぶことができる。人材の育成も研究所の大変重要な役割である。今まで運輸総研に在籍して全国で活躍されている先生は40名おり、それぞれの地域で政策立案に貢献している。
⑨おわりに
印象深い事例として、東京都心部における再開発と鉄道容量限界の分析でありこれが虎ノ門ヒルズ駅に貢献した。もう一つは鉄道6社との共同研究であり、都市鉄道戦略のための研究である。最後に、国際研究も多くある。海外の情報をどうやって取り入れるのかは重要である。
歴代研究所長による座談会
中村 英夫 [1996年4月~2004年3月=在籍期間]
東京都市大学名誉総長、(一社)日本プロジェクト産業協議会副会長
森地 茂 [2004年4月~2011年3月]
政策研究大学院大学客員教授、名誉教授
杉山 武彦 [2011年4月~2016年6月]
一橋大学名誉教授
(モデレータ)
山内 弘隆 [2016年6月~]
運輸総合研究所所長
3人の歴代所長による座談会では、研究所の成り立ち、何をしてきたか、研究所への期待と課題について、議論が交わされた。
①運研センター、研究所設立に至る経緯、鉄道関連の政策・研究調査の状況
(中村)運輸省が許認可官庁から政策官庁へ脱皮しようと、1968年に運輸経済研究センターが設立された。「課題を先取りするシンクタンク機能が必要」との趣意書のもと、時代の要請とともに多種多様な課題を調査研究してきた。省や自治体からの依頼が主で独自性がない等の弱点を克服しようと、1996年に運輸政策研究所が発足し、私が所長に就任した。研究員の学際性や国際性を図ること、研究員が政策研究テーマを自由に決めてよいこと、所員が成果を報告する「運輸政策研究」の出版等をした。
(杉山)私は2011年東日本大震災の数週間後に着任した。遡れば、観光立国推進基本法や活性化再生法、京都議定書への対応等の社会経済動向を背景に、災害復興ニーズと政策支援や観光立国の機運、交通機関整備とまちづくりの連携・連動への認識が高まっていた。地域交通の活性化や鉄道の改善/整備への支援の方策、気候変動と都市間交通戦略、鉄道の津波対策、気候変動と都市間交通戦略のような研究があった。
②研究所の鉄道関係の実績評価、現在に役立つ知見
(森地)所長時代に韓国交通研究院等との国際交流を深めた。外国とどのように繋がるのか、国際的な評価がどうなのかが重要なポイントである。日本は鉄道で外国から何も学ぶことはないと思っていたのかもしれないが、日本の鉄道が本当に最先端に行っているのか、これからアジアへ展開していく時に大丈夫かと気になる。
(中村)私は欧州から学ぶべきことが多いと思う。ドイツだけではなく欧州の国々では、鉱油税を交通財源にして鉄道整備をしてきた。欧州ではゲージは同じだが、電圧や周波数、運転系統、何よりも接客の言葉が全て違う中で、インターオペラビリティ・相互直通運転の努力をしてきた。日本の鉄道もそういうものを見て次の段階に進むべきである。
(杉山)以後の政策決定の基礎となった多数の調査が存在している。研究所の一番の財産・強みとは、交通計画、需要予測、路線計画、センサス、フィージビリティスタディのような領域に関して、標準的かつ普遍的な評価分析の理論や手法を50年かけてしっかり構築、蓄積、改良する活動をずっと続けてきたことである。稠密な人的ネットワークが形成され続けてきたことも大きな無形の財産だと思う。
③今後の鉄道の将来像、研究所への期待と課題
(森地)これまでの研究調査を分類し、検索できるシステムを作ることが重要と思う。また、地方とアジアをどうするかが大変気にかかっている。
(杉山)二つを頭に置いている。一つは脱炭素、もう一つは地域公共交通の問題で、運輸総研から重要な研究調査が出てくることを期待したい。運輸総合研究所と名称が変わり、総合という考え方が入ってきた。個々の交通機関から交通体系全体へ、あるいは情報通信等、新しい技術的要素との結合・補完といったものを導入しながら、交通が社会の安全安心やウェルフェアの向上に結びついていき、その一段上の社会全体との関係で、どういう意義を持つかを常に取り込みながらの研究になれば良いと思う。
(中村)閑散線区やエネルギーの問題が気になる。特に交通のエネルギーの中でも鉄道の立場は極めて重要である。日本はSDGsという言葉だけを言っているが、エネルギー問題を放って置いてよいのか、もう少し本気で考えなければいけないのではないか。
(山内)エネルギー問題は日本全体、世界の問題であり、今回の紛争もエネルギー問題の側面が強い。そういった点では我々も避けて通れないテーマと思っている。
④質疑応答
(質問)四国新幹線等の研究はその後どうなったのか。
(回答)整備新幹線という政府の動きの外であり、路線計画はほとんどが受託研究なので、たぶん研究所で取り上げられる機会がなかったのではないか。
(質問)生産年齢人口の急減少を踏まえて、今後の交通の研究の方向、課題はどのように変わると思うか。自動化技術等の観点はないか。
(回答)「50年後の公共交通」という現テーマの一つの大きな柱になっている。鉄道の自動化はなぜ進まないのかというのは非常に重要な課題である。日本人の安全意識の問題が一つのボトルネックになっている。実現すれば、一番のコストダウンになる。
⑤おわりに
(山内)私の感想を一言だけ申し上げると、かなりの蓄積を持ったこの組織が有効な交通の政策を立案できるよう、私も努力していきたいと思った次第である。
本開催概要は主催者の責任でまとめています。
〈当日の様子〉
事務局作成による関連資料(事前配布)
運輸総合研究所「鉄道関係研究調査の主題の例の一覧」
鉄道政策・事業に関する最近の簡易年表