EASTS(アジア交通学会) 2023国際大会への参加報告

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日時 2023/9/4(月) 〜 7(木)

 2023年9月4日~7日に、アジア交通学会(East Asian Society for Transportation Studies: EASTS) の第15回国際大会がマレーシアのShah Alam(クアラルンプール近郊)で開催され、当研究所から宿利会長及び屋井所長以下、AIRO研究員2名を含む12名が参加しました。
 EASTSは、アジアの各国/地域における産官学の専門家が交通問題に関する議論、研究、人的交流を広く活性化させることを目指して、 1994 年に設立された国際学会であり、20カ国・地域(2021年9月時点)の学会が加盟しています。1995年以来、隔年で国際大会が開催されています。なお、EASTSの初代会長は運輸政策研究所(現運輸総合研究所)初代所長の中村英夫氏(東京都市大学名誉総長)が、第3代会長は同 研究所第2代所長の森地茂氏(政策研究大学院大学客員教授、名誉教授)が、第6代会長は運輸総合研究所の屋井鉄雄所長が務めていました。 運輸総合研究所は、EASTS の国際大会に継続的に参加するとともに、2019年の第13回EASTS コロンボ大会から、公共交通及び 活動的モビリティ活動分野における優秀論文を表彰する「運輸総合研究所特別賞(JTTRI Special Award)」を授与しています。EASTSの現会長は、韓国交通研究院(KOTI)のOH院長ですが、広島大学大学院先進理工系科学研究科の藤原章正教授に交替することが今回決まりました。
 次回大会は2年後の2025年にインドネシアのソロで開催される予定です。



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       (EASTS新会長・藤原章正教授の就任挨拶)


1.研究発表
 今次大会の中では、当研究所から6名がそれぞれ研究調査について発表を行いました。
 9月5日のセッション「交通と環境」では、①鈴木晋也前研究員(現JETROシンガポール事務所勤務)が「国際海運における温室効果ガス削減の加速に向けて-新しい船舶燃料のライフサイクル評価分析」(原文は英語)と題して発表を行いました。当研究所の共同研究調査「海運分野におけるCO2排出削減に関する研究(代替燃料のGHG排出量に関するライフサイクル評価)」(2020年度-2021年度)の成果を中心に、2022年2月にJTTRIが開催した「JTTRI International Webinar(Life Cycle Assessment of New Maritime Fuels)」の成果をはじめ、2023年7月の国際海事機関(IMO)第80回環境保護委員会(MEPC80)において改訂された2023IMO GHG削減戦略や、採択されたLCAガイドラインなど、最新の状況も踏まえつつ説明を行い、同GHG削減戦略の実現やLCAガイドランの更なる議論に向けて検討すべき事項を提案しました。

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           (発表する鈴木晋也前研究員)


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          (質疑に対応する鈴木晋也前研究員)


 同日のセッション「都市鉄道、LRT及び案内軌道システム」では、②当研究所の邱秉瑜研究員が、議長を務めるとともに、「メトロ駅周辺でオートバイ利用は減ったか?台湾の台北大都市圏からの証拠」(原文は英語)と題して発表を行いました。米国ペンシルベニア大学での博士論文を基にしつつ、当研究所で行った個別研究調査を踏まえ、都市環境と収入の要素を考慮しながら、地下鉄駅の存在または導入がオートバイのモード選択と利用量に及ぼす影響についての分析結果を示し、引続き地下鉄ネットワークを拡大すること、複合交通機関の地下鉄との接続を強化すること、郊外の主要な地下鉄駅の近くにビジネスセンターを開発すること、および地下鉄駅の近くに人口を集中させることを提案しました。

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   (上3枚:セッション議長を務め、発表・質疑対応をする邱秉瑜研究員)



 同日のセッション「その他」では、③「マイカーに代わる高齢者等のためのモビリティの確保:日本の事例研究」(原文は英語)と題して島本真嗣研究員が発表を行いました。当研究所の共同研究調査「高齢者等の移動手段の確保方策」(2021年度-2022年度)の成果を踏まえ、大都市近郊(福岡市壱岐南地区)、地方都市(安積地区を含む福島県郡山市)及び過疎地域(岡山県久米南町)という類型の異なる3地域におけるデマンド交通の取組み事例の工夫等に着目した上で、高齢者等が外出のために、マイカーに準じて便利に、かつ、比較的安価に利用できるモビリティサービスを発展させていくために、自治体及び運行事業者それぞれに期待される対応を提案しました(なお、当該共同研究調査の成果の詳細については、本年6月に当研究所から「高齢者等の移動手段確保方策に関する提言」として発表済み。https://www.jttri.or.jp/202306_Elderly_People_teigen.pdf)。


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            (発表する島本真嗣研究員)


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     (質疑に対応する島本研究員・支援する藤﨑主席研究員)


 9月6日のSession「政策、計画及び管理」では、④春名史久主任研究員が「日本の地域交通産業における基盤強化と事業革新の方法」(原文は英文)と題して発表を行いました。まず、我が国の地域交通が抱える深刻な状況、また、そうした厳しい状況に対応するため、我が国において実施されてきた制度の変遷内容を示しました。そして、そうした既存の地域交通に関する枠組みに基づく施策や取組みでは、地域の重要な社会基盤である地域交通が直面する危機的状況には対応が困難である、として、当研究所において、地域交通産業の抜本的・包括的な基盤強化・事業革新方策の提言を行うことを目的に行っている共同研究調査「地域交通産業の基盤強化と事業革新」(2021年度~)における検討内容の一部を紹介しました(なお、当該提言の詳細は、本年9月14日に当研究所から「地域交通産業の基盤強化・事業革新に関する検討委員会<提言>『~地域交通革新~』として発表 https://www.jttri.or.jp/research/transportation/202309_transportation_teigen.pdf )。同じsessionの中で、⑤新田裕樹前研究員(現 東京地下鉄株式会社勤務)が「2050年における日本の公共交通戦略」(原文は英語)と題して発表を行いました。当研究所の共同研究調査「2050年における日本を支える公共交通のあり方」(2021年度-2022年度)の成果を踏まえ、2050年をターゲットとした今後の日本の社会変化・目指すべき社会の姿や、そこからバックキャスティング手法により得られた公共交通のあり方、これから必要となる9つの施策等の方向性について紹介しました(なお、本内容の詳細については、本年6月に当研究所から「2050年の日本を支える公共交通のあり方に関する提言 -2050年、どうする 公共交通-」として発表済み。https://www.jttri.or.jp/research/transportation/kokyokoutusympo_20230614.pdf)。


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     (発表する春名史久主任研究員)


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        (質疑に対応する春名主任研究員・支援する邱研究員)


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        (発表する新田裕樹前研究員)


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        (質疑に対応する新田前研究員)


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          (支援する福田大輔研究アドバイザー)


 同日のセッション「効果分析」では、⑥藤﨑耕一主席研究員・研究統括が、議長を務めるとともに、「ウエルビーイングのための持続可能な新しいモビリティサービスに向けた提案:日本からの事例」(原文は英語)と題して発表を行いました。当研究所の共同研究調査「新しいモビリティサービス」(2020年度-2021年度)の成果を踏まえ、日本の先駆的事例における取組みの工夫について、インタビュー調査等に基づき抽出した上で、地域のウエルビーイング課題を解決するために、新しいモビリティサービスを持続可能に運営するための手順と視点並びに制度等の見直し提言の概要について、紹介を行いました(なお、当該提言の詳細は、「ウェルビーイングを実現するスマートモビリティ 事例で読みとく地域課題の解決策」(編著者:石田東生・宿利正史、著者:地域の未来を変えるモビリティ研究会。2022年学芸出版社発行)が詳細に記述。また、初年度の事例調査結果については、当研究所の中間報告書「新しいモビリティサービスを我が国で持続可能にするために~課題と対応の方向性について~」(新しいモビリティの実現方策検討委員会中間報告。2021年 https://www.jttri.or.jp/research/transportation/newmobility_portal.html)が詳細を記載するとともに、Asian Transport Studies所収の論文“Empirical recommendations based on case studies in Japan for sustainable innovative mobility in rural areas“(FUJISAKI Koichi, YASUDA Tomoko, ISHIGAMI Takahiro, MAKIMURA Kazuhiko, ISHIDA Haruo.2022 https://doi.org/10.1016/j.eastsj.2022.100079)が分析)。


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 (上3枚:セッション議長を務め、発表・質疑応答をする藤﨑耕一主席研究員)


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(上3枚:他の発表者・参加者と交流する邱秉瑜研究員・鈴木晋也前研究員)



2.JTTRI特別賞の授与
 9月6日の受賞式では、当研究所宿利会長から、出席者に向けて挨拶を行う中でアセアン・インド地域事務所(AIRO)の紹介を行うとともに、運輸総合研究所特別賞(JTTRI Special Award)の受賞論文"A Recursive Logit Model with Non-Link-Additive Attributes in a Multimodal Network"(ソウル国立大学のSedoon MOON氏、Dong Kyu KIM氏の共著)に対し、表彰を行いました。なお、受賞論文は、EASTSのAsian Transport Studies編集委員会が、審査により選定しました。


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      (JTTRI特別賞表彰式で挨拶する宿利会長)


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            (JTTRI特別賞の受賞者と共に)