「物流分野におけるドローンの社会実装」
~ドローン物流が当たり前になる時代に向けて~
- 運輸政策セミナー
- 物流・ロジスティックス
- 新技術・イノベーション
第87回運輸政策セミナー(会場参加及びオンライン配信)
日時 | 2022/11/28(月)15:00~17:30 |
---|---|
会場・開催形式 | 運輸総合研究所2階会議室 (及びオンライン配信(Zoomウェビナー)) |
テーマ・ プログラム |
講 演:梅澤 大輔 国土交通省航空局安全部無人航空機安全課長 「ドローンのレベル4飛行に係る環境整備」 谷 真斗 楽天グループ株式会社 ドローンUGV事業部シニアマネージャー 「ドローン物流実証の現状と課題」 高野 耀 株式会社スカイピーク 代表取締役 「ドローン活用を支える人材育成の現状と課題」 藤巻 吉博 運輸総合研究所 ワシントン国際問題研究所 主任研究員 「ドローン物流の普及に向けた世界の潮流」 パネルディスカッション: コーディネーター:根本 敏則 敬愛大学経済学部教授、一橋大学名誉教授 パネリスト :講演登壇者、平澤 崇裕 国土交通省総合政策局物流政策課長 |
開催概要
物流分野における課題(過疎地域等における効率的な輸送の確保、労働力不足への対応等)の克服に向け、平時と災害時の双方におけるドローンの活用が注目され、導入に向けて、官民一体となった取組みが進められている。
本セミナーでは、ドローン物流の普及に向けた国内外の取り組みから見えてきた可能性や、導入により期待される効果を評価するとともに、経済性、社会受容性、人材育成等、様々な観点からの課題の整理を行い、都市部を含めた普及に向けた今後の取組みの方向性について考察した。
プログラム
開会 |
海谷 厚志 |
---|---|
講演① |
梅澤 大輔 |
講演② |
谷 真斗 |
講演③ |
高野 耀 |
講演④ |
藤巻 吉博 |
パネルディスカッション・質疑応答・全体総括 |
<コーディネーター>
根本 敏則 敬愛大学経済学部教授、一橋大学名誉教授 <パネリスト> 梅澤 大輔 国土交通省航空局安全部無人航空機安全課長 谷 真斗 楽天グループ株式会社 ドローンUGV事業部シニアマネージャー 高野 耀 株式会社スカイピーク 代表取締役 藤巻 吉博 運輸総合研究所 ワシントン国際問題研究所 主任研究員 平澤 崇裕 国土交通省総合政策局物流政策課長 |
閉会 |
佐藤 善信 |
当日の結果
1.講演
テーマ:「ドローンのレベル4飛行に係る環境整備」
講 師:梅澤 大輔 国土交通省航空局安全部無人航空機安全課長
改正航空法が2022年12月5日に施行され、無人航空機の機体認証、技能証明制度等が創設される。これは、機体認証(新設)、技能証明(新設)を得て、運航ルール(拡充)を遵守し、国土交通大臣の許可・承認を得ればレベル4飛行可能であるが、レベル4以外の飛行は、機体認証、技能証明を得て、運航ルールを遵守すれば、原則として許可・承認なく飛行可能というものである。2022年度目途のレベル4飛行の実現に向け、機体開発を担うメーカーや検査機関・講習機関とも緊密に連携し、新制度の運用に万全を期す。
テーマ:「ドローン物流実証の現状と課題」
講 師:谷 真斗 楽天グループ株式会社ドローン・UGV事業部ドローン事業課シニアマネージャー
楽天ドローンは、日本で初めてドローン物流サービスを一般に提供し、完全自動飛行ドローンで注文商品を配送するものである。2021年1月には三重県志摩市で、離島へのドローンを活用した非接触物流の実現を果たし、2021年8月には長野県白馬村の山岳エリアで、国内初の補助者を配置しない目視外飛行での物件投下による往復配送に成功した。第三者上空飛行解禁に伴い、機体の信頼性確保、レベル4飛行実現に向けた体制構築、運用省人化・簡略化、技術開発が、空の新たな配送インフラ構築に向けて求められる。
テーマ:「ドローン活用を支える人材育成の現状と課題」
講 師:高野 耀 株式会社スカイピーク 代表取締役
2022年度より有人地帯上空での目視外飛行(レベル4飛行)が規制緩和され、実現には高度人材(目視外飛行オペレーター)の育成も必要となるが、どのような教育課程を経て育成するかという点について未だ定められたものはない。今後の目視外オペレーター育成に向けては段階的な教育訓練が必要であり、初級においては基礎的な手動操縦技術の取得から、上級では組織的な運用ノウハウの蓄積や完全自律飛行の長距離化などが挙げられる。また、ドローン活用を支える人材の輩出に向けて、特に中長距離の飛行テストが可能な環境整備が必要であり、自治体の協力による飛行場整備などが望まれる。
テーマ:「ドローン物流の普及に向けた世界の潮流」
講 師:藤巻 吉博 一般財団法人運輸総合研究所 ワシントン国際問題研究所 主任研究員
ドローン物流に関する世界の状況について、実際の活用が進んでいるケースは、迅速な輸送が求められる医療用品などの配送や、陸上輸送に課題がある場所での配送が中心となっている。また、これら以外の一般的な小売商品の配送については、実証段階から実際の活用に進みつつあるという状況である。ドローン物流の普及に向けた課題は3点挙げられ、1点目は「安全性と効率性の向上」、2点目は「環境適合性の確保と社会的受容の醸成」、3点目は「運航を支える人材の育成と確保」である。
2.パネルディスカッション・質疑応答・全体総括
コーディネーター:根本 敏則 敬愛大学経済学部教授、一橋大学名誉教授
パネリスト:講演登壇者、平澤 崇裕 国土交通省総合政策局物流政策課長
まずドローン物流にかかる国土交通省の取組について情報提供が行われたのち、コーディネーターのリードにより、『物流分野におけるドローンの社会実装』というテーマでパネルディスカッションが行われた。その後、質疑応答を経て、コーディネーターによる全体総括が行われた。
テーマ:「ドローン物流の社会実装の推進」
講 師:平澤 崇裕 国土交通省総合政策局物流政策課長
国土交通省では、これまで全国33地域でドローン物流の社会実験を支援しており、令和4年度は、有人地帯での補助者なしの目視外飛行レベル4の実装を見据えた実証実験を実施予定である。実証実験にあたっては、収益性の改善を目指し、全てのルートで輸配送物品が積まれている状態を作るなどの工夫を行っており、こうしたオペレーションやコスト等に関して検証し、その成果について横展開を図っていきたい。また、ドローン物流サービスの導入方法や、配送手段などに関する具体的な手続き事例を掲載したガイドラインを策定しており、現在は、レベル4飛行の解禁を念頭に、改定作業中である。
パネルディスカッション
主なやり取りは以下のとおり。
【①効率性の向上による事業採算性の確保】
(事業採算性の確保に向けたポイント)
谷シニアマネージャー: ポイントとして3つある。1つ目が「配送ニーズ/物量の確保」であり、配送ニーズを生み出していくことが重要である。2つ目は「オペレーション効率化」であり、1回に1個しか運べない状態では事業として続かなくなるため、一対多運航を作り上げながら、オペレーションを効率化していくことも重要である。3つ目は「コスト削減」であり、バッテリー、ドローン本体等のコスト削減も重要だし、マルチユースの考え方も重要である。
(1人による複数機操縦の実現の見通し)
梅澤課長: 2022年12月施行の技能証明制度では、1人の操縦士が多数のドローンを飛ばすことを想定したライセンスにはなっていない。今後、複数のドローンを飛ばすための技術開発が進められていく予定であり、その技術レベルを踏まえながら対応していく。
【②安全性の向上・環境適合性の確保と社会的受容性の醸成】
(機体認証・型式認証制度による安全性の担保)
梅澤課長: 2022年12月施行の機体認証制度では、レベル4を行う機体は第一種の認証がなければ飛行できなくなるとともに、操縦士も1等の技能証明が必要となり、飛行の安全性を確保するための体制が整う。
(ドローン運航で発生する騒音への対応)
藤巻主任研究員: 機体開発会社による騒音低減に向けた不断の努力は重要。その上で、騒音に対する苦情は活用による社会的な便益との相対的な問題であると考えており、活用による社会的な便益が大きい医療用品の配送や、過疎地域での配送などを通じて、社会的受容を醸成していくことが必要である。
(運送責任を果たすための制度設計)
平澤課長: ドローンを物流として用いる場合、その安全性を確保して運送責任を果たすための物流業としての制度設計が必要であり、例えばどう荷物を受け取るかということに対して、運送人と受取人が共通認識を持つことが大事である。
【③運航を支える人材の育成・確保】
(ドローン運航に求められるスキル)
高野代表取締役: 無人航空機、そしてレベル4飛行における自動航行となると、飛ばしていい天候か、通信環境はどうか、風の影響を受けるか等、パソコンやシステムを通じた情報から不確実性も含めて認識し、緊急時にどういう対策をするのか等の判断、意思決定できるスキルが、安全に運航管理するためには求められる。
(日本で取得した資格や免許の海外使用)
梅澤課長: ドローンの操縦免許は各国で異なっており、日本で取った免許がそのまま別の国で有効にはならない。国際民間航空機関(ICAO)で国際運航のルール作りをしており、この動向も見ながら適切に対応していく必要がある。
質疑応答
Q:風の強い荒天時の就航率はどの程度を想定されていますか。
A:耐水・耐風性能が機体メーカーごとに定められており、天候データ(風速や降雨量等)と照らし合わせながら就航の可否を決定している。
Q:都市部で荷物を受け取る場合、どのような場所を想定していますか。
A:マンションの屋上等を想定しているが、結局屋上に上がる必要があり利便性が低下するため、ロボット活用等の無人化にも取り組む必要がある。
Q:日本製の機体自体の騒音対策は何かありますか。
A:ドローン自体に対して、何デシベル以下でなくてはならないということは定められていない。当面は、可能な限り静かな機体となるよう製造者側の技術開発が求められる。
全体総括
本日の議論を通じて、事業採算性の確保のためには、多くの貨物を遠くまで運べる安いドローンが必要であること、そして同時に複数のドローンを運航管理するシステムが必要であるということがわかった。
物流としては、海外メーカーの動向を注視しながら、場合によっては連携し、性能の良く安いドローンの導入を図っていくことが求められる。また、支払い能力の高い物流ニーズの発掘、ドローンのマルチユースという点も重要であり、講師の皆様より色々とアイデアをいただいた。
今後とも、関係者が情報交換しながらドローン物流が当たり前になる社会の実現を目指していきたい。
本開催概要は主催者の責任でまとめています。