「地域づくりの新定石」
~アドベンチャートラベルの取り組みを例に、
        地域主導の世界水準の観光の創り方を考える~

  • 運輸政策セミナー
  • 観光

第83回運輸政策セミナー(オンライン開催及び会場参加)

Supported by 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION

日時 2022/6/27(月)15:00~17:30
会場・開催形式 運輸総合研究所 2階会議室 (及びオンライン開催(Zoomウェビナー))
開催回 第83回
テーマ・
プログラム
「地域づくりの新定石」~アドベンチャートラベルの取り組みを例に、地域主導の世界水準の観光の創り方を考える~

取組紹介①「アドベンチャートラベルの本質と北海道における取り組みの全体像」
      水口 猛  北海道運輸局観光部長
      実重貴之  内閣官房アイヌ総合政策室参事官補佐

取組紹介②「熊野古道からKUMANO KODOへ
             ~世界に開かれた持続可能な観光地を目指して~」
      多田稔子  ⼀般社団法人 ⽥辺市熊野ツーリズムビューロー 会⻑

取組紹介③「北海道におけるアドベンチャートラベルの現場について」
      鈴木宏一郎 株式会社北海道宝島旅⾏社 代表取締役社⻑

パネルディスカッション・質疑
コーディネーター:矢ケ崎紀子 東京女子大学 副学長
パネリスト:   高田 茂  鶴雅リゾート㈱ 取締役/
               一般社団法人日本アドベンチャーツーリズム協議会 理事 ATTAアンバサダー
         水口 猛・実重貴之・多田稔子・鈴木宏一郎
                              (順不同)

開催概要

 人口減少により地域社会の存続すら危ぶまれる状況が現実化している日本において、地域の魅力を向上させ、交流、観光を活用して地域の持続、活性化を図る、住んでよし訪れてよしの地域づくりの取り組みは極めて重要である。加えて観光のあり方として、生産性が向上し、より産業として成熟した「担ってよしの観光」の視点も重要視されるようになってきた。
 コロナ禍の下、こうした課題の重要性は喫緊なものになってきている。2022年はコロナ禍からの脱却を目指す年となるが、大打撃を受けた観光も、単にコロナ禍の前の状況に戻すのではなく、より高付加価値で地域の持続的発展に貢献する、質の高い観光を目指していく必要がある。
 そのような中、地域の自然・文化を体験する身体的な活動を通じ、旅行者自身が新しい・多様な価値観に触れ、自身の内面が変わっていくような旅のスタイルを基本とし、地域、観光客、観光事業者、環境の四方よしの観光づくりを実践する、いわゆるアドベンチャートラベルの取り組みが、観光を活用した持続的な地域づくりの観点から注目されている。
 今回のセミナーでは、アドベンチャートラベルに地域で取り組む当事者にどのように地域に貢献する観光づくりを進めているのかを語っていただき、ポストコロナにおける、質の高い、真に地域の持続的な発展・活性化に貢献する観光のあり方について普遍的なヒントと展望を得ることとしたい。

プログラム

開会挨拶
宿利正史<br> 運輸総合研究所 会長

宿利正史
 運輸総合研究所 会長

開会挨拶

取組紹介①

  水口 猛           実重貴之
   北海道運輸局観光部長     内閣官房アイヌ総合政策室参事官補
           


「アドベンチャートラベルの本質と北海道における取り組みの全体像」
講演資料

取組紹介②
多田稔子<br> ⼀般社団法人 ⽥辺市熊野ツーリズムビューロー 会⻑<br>

多田稔子
 ⼀般社団法人 ⽥辺市熊野ツーリズムビューロー 会⻑


「熊野古道からKUMANO KODOへ
   ~世界に開かれた持続可能な観光地を目指して~」

講演資料

取組紹介③
鈴木宏一郎<br> 株式会社北海道宝島旅⾏社 代表取締役社⻑

鈴木宏一郎
 株式会社北海道宝島旅⾏社 代表取締役社⻑


「北海道のアドベンチャートラベルの現場より」

講演資料

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パネルディスカッション・質疑応答

コーディネーター
矢ケ崎紀子<br> 東京女子大学 副学長

矢ケ崎紀子
 東京女子大学 副学長

パネリスト
高田 茂<br> 鶴雅リゾート株式会社 取締役、<br> 一般社団法人日本アドベンチャーツーリズム協議会 理事 ATTAアンバサダー

高田 茂
 鶴雅リゾート株式会社 取締役、
 一般社団法人日本アドベンチャーツーリズム協議会 理事 ATTAアンバサダー

パネリスト
水口 猛<br> 北海道運輸局観光部長

水口 猛
 北海道運輸局観光部長

パネリスト
実重貴之<br> 内閣官房アイヌ総合政策室参事官補佐

実重貴之
 内閣官房アイヌ総合政策室参事官補佐

パネリスト
多田稔子<br> ⼀般社団法人 ⽥辺市熊野ツーリズムビューロー 会⻑

多田稔子
 ⼀般社団法人 ⽥辺市熊野ツーリズムビューロー 会⻑

パネリスト
鈴木宏一郎<br> 株式会社北海道宝島旅⾏社 代表取締役社⻑

鈴木宏一郎
 株式会社北海道宝島旅⾏社 代表取締役社⻑

閉会挨拶
柏木隆久<br> 運輸総合研究所 理事長補佐

柏木隆久
 運輸総合研究所 理事長補佐

閉会挨拶

当日の結果

1.取組紹介

テーマ:「アドベンチャートラベルの本質と北海道における取り組みの全体像」
講 師: 水口 猛 国土交通省 北海道運輸局 観光部長
     実重貴之 内閣官房 アイヌ総合政策室 参事官補佐


 身体的活動、自然、異文化体験、この三つのうちの二つを満たす旅行形態をアドベンチャートラベル(以下AT)と定義し、2015年より北海道運輸局では推進しているが、何か危ないところへ行くことや自然の中でアクティビティを行うことがアドベンチャーと誤解されている感もある。ATはローカルコミュニティのことを一番に考え、旅行者が訪問することによってローカルコミュニティが潤う仕組みである。私たちは、観光客と旅行事業者だけではなく二方よし、環境や地域も守らなければならないと気づき、「四方よし」を理念としている。
 様々な取り組みの中でも大きなものとして、Adventure Travel World Summit という世界的なイベントの誘致がある。これは、ATTA(Adventure Travel Trade Associ ation)という国際団体が開催する大会で、2023年、北海道でリアルに開催することとなっており2021年はバーチャルで北海道開催、アジア・オセアニア地域では初めてである。単なるイベントに終わらずビジネスとしてやっていけるか、本当に北海道へ顧客を預けられるか、と世界のプロから厳しい目でも見られている。
 ATはこれまでの旅行形態と異なり、地元のことをよく知る組織が、地元の人たちと手を組み、歴史や文化の中にあるものに付加価値を付け、地域の誇りやストーリーを伝える旅行を作っていくものである。そのためには、地元の人たちが自らを主役だと思うことが基本である。そして、地元を一番に考えて、旅行者がもたらす恩恵を地域に還元してくれる、地域のサポート役であるコーディネーターが必要になる。
 ATの成功例とされているヨルダントレイルを視察したところ、ローカルコミュニティの様々な方が関与して成り立っていることを実感した。



テーマ:「熊野古道から KUMANO KODO へ ~世界に開かれた持続可能な観光地を目指して~」
講 師: 多田稔子 一般社団法人 田辺市熊野ツーリズムビューロー 会長


 熊野古道は2004年に世界文化遺産として登録された。古道が集結する熊野本宮大社旧社地「大斎原」を心の中心に置き、観光戦略に取り組んでいる。「ブーム」より「ルーツ」、「乱開発」より「保全・保存」、「マス」より「個人」、「インパクト」を求めず地域に対して「ローインパクト」であること。最初からインバウンドの推進を一つの柱とし、持続可能で質の高い観光地を目指すことを観光戦略の基本スタンスとした。
 まず旅の上級者である欧米豪の個人旅行者にターゲットを絞った。外国人をスタッフに招き、英語が話せなくてもコミュニケーションが取れれば大丈夫というコンセプトで、宿泊関係者のみならず、交通関係者や熊野本宮大社の神職や巫女に至るまで、60回に及ぶワークショップを実施した。情報発信では、もうひとつの道の世界遺産サンティアゴ・デ・コンポステラ巡礼道との共同プロモーションが最も効果的で、両方を歩いた人を共通巡礼者と呼ぶプロジェクトを実施したところ、現在3700名弱が達成している。
 熊野へのアクセスという課題に対し、着地型旅行会社を設立し、言葉の壁、決済の壁等を整理し、地元と外国人観光客とを結ぶ仕組みを作った。外国人を受け入れるための地域全体のシステムが完成したため、たくさんの外国人が来てくれるようになったと考えている。
 一方、コロナ禍でほぼインバウンドがゼロの中、作り上げてきたサプライチェーンが保たれているかも気掛かりであった。インバウンド頼みでは安定しないため、国内需要を増やそうと現在、教育旅行にも取り組んでいる。
 Responsible(責任を取る覚悟)、Respect(地域も観光で来られる方も双方に)、観光が継続するための Reality(経済効果)、八咫烏の三本足にもなぞらえてこの 3 つを大切にしている。



テーマ:「北海道におけるアドベンチャートラベルの現場について」
講 師: 鈴木宏一郎 株式会社北海道宝島旅行社 代表取締役社長


 観光から地域の方々と何かできないかと思い、地域の歴史、文化、自然、基幹産業を活かしながら、地域の誇りを観光客に見せることを考え、北海道における旅行サービスを提供することに注力している。体験型アクティビティのポータルサイトの運営、自然や歴史文化を活かした体験型の観光商品の開発、インバウンドのオーダーメイドのツアーサービスを手掛けている。この経験から、海外の旅行会社は訴訟に繋がる可能性もあるため、プロがいないと地域がリスクを負うこと、Webマーケティングやシステム開発能力が必要ということを感じた。
 ATでは、地域ならではの本物を、地域住民自らが理解し、守り、誇りをもって観光客に提供すること、地域に来る意義・意味と安心・安全を提供すること、顧客の都合に合わせて、特別にコーディネートできること、これらを旅行目的地である地域側が主体的に整備することがポイントである。旅行会社に頼んで組み立てると地域の外に対価が流れるので、地域で実施することが大事である。
 ATのコースでは、地域ごとにガイドが付くが、このガイドが主役である。そして、スルーガイドが演出家のような役割を担い、ツアーオペレーターがスルーガイドを手配し、ガイドを組み合わせて物語にするという監督のような役割を果たしている。この三つの役割分担が大事である。
 北海道では、現在、ATガイド資格制度について検討している。既存の北海道アウトドアガイドの資格制度を活かして、世界的なATガイドスタンダードを組み込み、技術能力基準といったオプションを加える予定である。



2.パネルディスカッション

 矢ケ崎紀子 東京女子大学 副学長をコーディネーターとして、講演者に加え、高田 茂 鶴雅リゾート株式会社 取締役/一般社団法人日本アドベンチャーツーリズム協議会理事 ATTAアンバサダーを迎え、パネルディスカッションを行った。主なやり取りは以下のとおり。

≪ATとは具体的にどのような旅行なのか?≫
・通常のアウトドアの旅行と異なり、ガイドの説明の中で地元の人の様子や文化等を詳細にお伝えし、また五感をフルに生かしていただけるような取り組みを行っている。
・身体的活動、自然、異文化体験の3つの要素のうち、2つ以上満たす旅行形態をATと定義しているが、そこに深く捉われず、お客様の観光目的地での期待を形にすることが大切である。

≪世界水準たる品質の確保について≫
・旅全体を通じた、一貫したストーリーと好奇心を刺激するガイドの存在は非常に大きい。旅のストーリーを作り、ガイドを整え、それをコーディネーターが取りまとめ、旅行者向けにカスタマイズし、売り出すことで超一級のATの品質となる。この品質を磨き上げるのが世界的組織であるATTAの役割であり、ノウハウを蓄積しているため、関係者と理念やビジョンを立ち上げ、共有していくことが重要である。
・ツアーオペレーターには、お客様の体調や天候、場所のコンディション等に応じ、臨機応変にお客様が満足する旅を提供できるコーディネート力が求められるため、地域とのネットワークリレーションが不可欠である。またツアーの中で環境に配慮した取り組みを推進し、ATを通じて、周囲を巻き込みながら観光地域作りに寄与できると感じている。
・熊野古道は世界遺産に登録されているため、様々な規制によって守られている。森林学習を開催することで自然に対する意識の醸成を図ったり、熊野古道を案内する語り部の方々が行政と密に連携を取ったりすることで、安全の確保やゴミのない森林を保つことができている。コロナ禍でクラウドファンディングを行ったところ、国内外から300万円以上の寄付が集まったため、熊野古道を守る活動に使用していく。

≪ターゲット設定と流通について≫
・旅の付加価値となる情報の提供は大切であり、高い料金設定であっても、それに見合ったサービスを提供すればリピーター率にも繋がっていくことは実証済みである。
・熊野古道においては、欧米豪の個人旅行者というターゲットを決めて進めてきたが、想定よりも多くのお客様が訪れるケースもコロナ前は発生していた。当日予約も可能な仕組み作りや、宿泊のキャパシテイをチェックしながらお客様を上手に流していくことで、コントロールしてきた。
・地域にあるDMCの機能を充実させていくこと、またお客様のことを一番に慮りつつも、自分たちの地域の良さを前に出していく、図々しくないプロダクトアウトのセンスが必要であり、バランス感覚が大事であると感じている。

≪地域ぐるみ(地域にとって相応しいテーマ設定)について≫
・地域のまとめ役は、地域の中で熱意のある、信頼できる人に担っていただきたい。そして地域の利益に変えていく、コーディネーターの存在も不可欠。また世界の方とビジネスで渡り合うサポート役も必須であり、ビジネスがわかるDMC、そして全体をまとめていくDMOの二人三脚で引っ張って欲しい。

≪ATに取り組もうとする他地域へのアドバイス≫
・地域、及びマーケットと信頼を築く必要があり、そのためにはお客様に満足していただくためのヒアリング能力が必須。お客様のご要望に応える商売を展開できれば、リピーターにも繋がる。
・ATが必要か、観光振興が必要か、地域で真剣に考えるべきである。観光は地域にとって迷惑な側面もあり、本当に自分たちの地域で必要かの議論を踏まえた上で始めることが大切。
・観光客に何を見せたいか問いかけて欲しい。そして正しい旅行(四方よし)の方法を地域の皆で話し合うべきである。


本開催概要は主催者の責任でまとめています。

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