「データ社会における気象データの可能性」
~安全・安心を高め、ビジネス・生活を変革する気象データ~
- 運輸政策セミナー
- 安全・セキュリティ・防災・環境
第82回 運輸政策セミナー(オンライン開催及び会場参加)
日時 | 2022/6/13(月)15:00~17:00 |
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会場・開催形式 | 運輸総合研究所2F:会議室 (及びオンライン開催(Zoomウェビナー)) |
開催回 | 第82回 |
テーマ・ プログラム |
「データ社会における気象データの可能性」~安全・安心を高め、ビジネス・生活を変革する気象データ~ 基調講演「データ社会における気象情報・データの意義と利活用の可能性」 越塚 登 東京大学大学院情報学環 教授 講演① 「気象データの最新技術と更なる進化」 辻本浩史 (一財)日本気象協会 常務理事 事業本部長 講演② 「最新の情報通信技術による防災の高度化 ~デジタルツインによる災害時の避難行動最適化の可能性~」 大石裕介 富士通(株)研究本部 主席研究員、東北大学 特任教授(客員) 講演③ 「気象データが変えるこれからのビジネスとマーケティング」 泉 浩人 (株)ルグラン 代表取締役共同CEO 座談・質疑応答: 進行 越塚 登 辻本浩史、大石裕介、泉浩人 |
プログラム
開会挨拶 |
宿利正史 |
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基調講演 |
越塚 登 「データ社会における気象情報・データの意義と利活⽤の可能性」 |
講演① |
辻本浩史 「気象データの最新技術と更なる進化」 |
講演② |
大石裕介 「最新の情報通信技術による防災の高度化 デジタルツインによる災害時の避難行動最適化の可能性」
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講演③ |
泉 浩人 「気象データが変えるこれからのビジネスとマーケティング」 |
座談・質疑応答 |
<進行>
・越塚 登 東京大学大学院情報学環 教授 ・辻本浩史 一般財団法人日本気象協会 常務理事 事業本部長 ・大石裕介 富士通株式会社 研究本部主席研究員、東北大学 特任教授(客員) ・泉 浩人 株式会社ルグラン 代表取締役共同CEO |
全体講評及び 閉会挨拶 |
山内弘隆 |
当日の結果
1.基調講演
テーマ:「データ社会における気象情報・データの意義と利活用の可能性」講 師:越塚 登 東京大学大学院情報学環 学際情報学府 教授
デジタル時代を遡ると1940年代のコンピューターの登場から20年おきにパラダイムシフトがおきている。データが産業競争力の中核になるなど、データの時代に突入しており、我々はまさにデジタル時代のターニングポイントに立っている。
気象の分野では、時代の変遷に関わりなく膨大なデータが適切に維持管理されてきたが、いかに気象データを活用していくかが重要である。特に気象と経済の相関関係は以前から指摘されているが、実際に気象データを数理的に扱いビジネスに活用していく流れとしてウェザーテックがある。また防災分野においても、以前から気象データは活用されていたが、気象的な情報以外の分野を超えた情報とのデータ連携も重要である。
また、気候変動への対応として、サプライチェーン間でCO2排出量データを可視化することが求められるなど、社会全体のグリーン化を進めるためには、気象データ等のデジタル技術の利活用が重要な役割を果たし、気象の分野においても一層の対応が期待される。
IOT時代には、センサー技術を安価に手に入れることができるようになったため、民間事業者でも気象データを容易に計測し流通させることができるようになった。間違った気象データを提供することによる社会的な影響は大きいため気象データの扱いには規制が多い。データは大量にあればあるほど利活用のメリットが高まることから、品質が異なるデータをあわせて利活用するための工夫が求められるのではないか。
2.講演①
テーマ:「気象データの最新技術と更なる進化」講 師:辻本浩史 一般財団法人日本気象協会 常務理事 事業本部長
天気予報は、気象衛星や気象レーダーにより現在の状況を観測するところから始まり、それをコンピューターによって予測計算し、その結果を予報官・気象予報士が微調整するという3つのステップに分けられる。そのため天気予報の精度を上げるためには、観測の種類や要素を適切に増やすこと、コンピューターの性能や予測モデルを高度化すること、予報官・気象予報士の技術を高めることが重要である。
テレビ等で目にする台風の進路予測を示した台風予報円の裏には、何十通りの計算があり、なるべく多くのシナリオで予測計算する(アンサンブル予測)ことで予測データの信頼性を高めている。
また、世界の国々には、日本の気象庁のような組織があり、気象予測を行っていることから世界の裏側を予測することも可能である。特に欧州の気象予測モデルは他のものと比較して予測精度が優れている。そのため時々に応じて、各国のモデルの特徴を分析しながら、それぞれのモデルの長所を生かしてブレンドしていくことが時代の潮流となっている。
日本気象協会では、欧州、米国、日本のモデルを上手くブレンドすることで、欧州のモデルをも凌ぐ精度のモデルを開発しており、日本全国を2週間先まで1キロメッシュで、かつ1時間間隔のデータを提供することも可能となっている。
大雨・大雪などによる通行規制を想定した物流の最適化、計画的なダムの事前放流により防災面と再生可能エネルギーの活用という両面の課題解決、太陽光発電、風力発電、水力発電によるエネルギーの需給バランス調整など、気象データの活用の可能性はどんどん広がっていく。
3.講演②
テーマ:「最新の情報通信技術による防災の高度化」講 師:大石裕介 富士通株式会社 研究本部 主席研究員/東北大学 特任教授(客員)
我々は災害時のデータを基にした最適な行動をデジタルツインによって導き出す研究を行っている。対象としては地震時の自動車による避難であり、今ある気象データやデジタル技術によってどう対策できるかを検討課題としている。
名古屋市のある地域で一定時間スマートフォンのカメラで撮影し、人工知能によって車の数や速度等を解析したデータを用いて、シミュレーションによりデジタルツイン上に交通流を再現した。こうした交通シミュレーションにより平常時は混雑緩和等の検討、災害時の対策としてはハザードマップデータと組合わせた検討が可能となる。
内閣府「南海トラフの巨大地震モデル検討会」のケース②をモデルとして伊勢湾周辺のシミュレーションを行った結果、自動車で避難する際にどの道が混雑するかの把握が可能であった。また、道路を一部通行止めした場合等を設定することにより、被害の低減効果を検証することができる。
災害を考えるうえで有効なのは浸水の予測情報だが、不確実性が多いものである。それらを社会へ実装していくため、様々なところで検討が行われている。例として、アンサンブル予測による情報を基にリアルタイムで浸水予測をする仕組み等が挙げられる。
また、災害時の予測情報等を利用いただくために、市民の方と検討を行っている。その中で、市民一人ひとりがその現場における情報をデジタル空間にあげ、情報を共有しながら避難することも検討中である。
4.講演③
テーマ:「気象データが変えるこれからのビジネスとマーケティング」講 師:泉 浩人 株式会社ルグラン 代表取締役共同CEO
ルグランはお客様のデジタルマーケティング戦略の企画・立案・実施を支援する会社である。5年ほど前から、気象データを組み入れたビジネスサービスのデザインに取り組んでいる。
過去の売上データと気象データを組合わせて分析することにより、天気により売れる物や売れる色が変わることなどが分かった。実際当社のクライアントの中でも、自社のサービスが天気によってどのように売上が変わるかなどを把握している場合が多い。
さらに、2017年に初めて自社ツールとして天気により服装のコーディネートを提案するサービスを作成し、累計ユーザーが25万人となった。
また現在解決すべき課題として、天気で買いたい物が変わることを把握していても、天気に合わせた広告を配信出来ていないことが挙げられる。
当社では天気に合わせて広告を配信するシステムを作成しており、前日からの気温差・降水量や確率・湿度等の気象条件を組合わせ、インターネット広告媒体に対して条件を制御できるツールを展開している。
最適な広告を提示するためにはユーザーの状況を理解することが重要だが、近年では個人の検索履歴や購入履歴等の取得は規制がかかり困難となっている。そのような情勢もあり、国内だけでなく海外でも気象データを利用したマーケティングが注目されてきている。
5.座談・質疑応答
東京大学大学院情報学環 学際情報学府 越塚登教授を進行役として、座談及び質疑応答を行った。主なやり取りは以下の通り。
<座談>
Q:どのような考え方により、気象データをビジネスに活用していこうとしているのか。(泉講師への問いかけ)
A:まず、データありきというのではなく、企業や消費者顧客の課題を把握し、課題解決のために気象データをどのように活用できるかを考えていくことが大事である。
Q:モデルを通じた演繹的なアプローチであるシミュレーションと、データから帰納的に結果を推論する機械学習(AI)では、数理的に正反対のことがなされている。使い分けについてどのように考えているか。(大石講師への問いかけ)
A:データのないものはAIでは対応できないため、人類の知見に基づいて外挿できるシミュレーションにより補完するなど、両者の強みを生かした融合が重要と考える。
Q:技術の進歩により天気予報の精度が上がってきているが、今後どのように発展していくのか。(辻本講師への問いかけ)
A:予報が完璧に当たるようにはならず、予測に対しての誤差の範囲をどれだけ正確に示すことができるかという方向で発展していくと考える。
本開催概要は主催者の責任でまとめています。