アメリカ航空産業の現状と今後の展望/欧米空港における顧客体験向上に向けた取組の先進事例

  • 運輸政策コロキウム

第151回運輸政策コロキウム ワシントンレポートⅩⅤ(オンライン開催)

Supported by 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION

日時 2022/6/22(水)10:00~12:00
開催回 第151回
テーマ・
プログラム
アメリカ航空産業の現状と今後の展望/欧米空港における顧客体験向上に向けた取組の先進事例
講師 講  演:中川 哲宏 ワシントン国際問題研究所 次長
     萩原 徹大 ワシントン国際問題研究所 研究員

コメント:山内 弘隆 一般財団法人運輸総合研究所 所長
     生沼 深志 東京国際空港ターミナル株式会社 施設部長

ディスカッション
 コーディネーター:山内 弘隆 一般財団法人運輸総合研究所 所長

開催概要

世界中の航空市場が依然として新型コロナウイルス感染症による影響に苦しむ中、アメリカの航空市場は他地域に先駆けてコロナ禍からの本格的な回復を実現しつつある。コロナ禍発生以降のアメリカ航空市場の足跡をたどり、今後の行く末を見通すことは、日本が将来コロナ禍からの本格的な回復戦略を取る際の一助になるものと考える。本報告では、まず第1部で、ワシントン国際問題研究所が毎年定点観測的に実施しているアメリカ航空産業の需給状況等に関する調査結果を基に、アメリカ航空市場のコロナ禍からの回復状況とその過程における政府・航空企業の対応について解説した。これに加え、同国で争点となりつつある航空業界の競争環境の問題を紹介し、今後の展望を議論した。次に、第2部で、コロナ禍を通じて、タッチレスや密回避などの観点からその重要性が改めて認識されることとなった空港における顧客体験向上に向けた取組について、まず、生体認証による搭乗プロセスや人工知能を活用した保安検査など、欧米空港における先進事例を紹介し、次に、日本における取組状況を紹介した上で、今後の課題や見通しについて議論した。

プログラム

開会挨拶
宿利正史<br> 運輸総合研究所 会長

宿利正史
 運輸総合研究所 会長


開会挨拶
講演①
中川哲宏<br> ワシントン国際問題研究所 次長

中川哲宏
 ワシントン国際問題研究所 次長

講演者略歴
講演資料

コメント①
山内弘隆<br> 一般財団法人運輸総合研究所 所長

山内弘隆
 一般財団法人運輸総合研究所 所長

講演資料

講演②
萩原徹大<br> ワシントン国際問題研究所 研究員

萩原徹大
 ワシントン国際問題研究所 研究員

講演者略歴
講演資料

コメント②
生沼深志<br> 東京国際空港ターミナル株式会社 施設部長

生沼深志
 東京国際空港ターミナル株式会社 施設部長

講演者略歴
講演資料

パネルディスカッション
質疑応答

<コーディネーター>
 ・山内弘隆 一般財団法人運輸総合研究所 所長

 ・中川哲宏 ワシントン国際問題研究所 次長
 ・萩原徹大 ワシントン国際問題研究所 研究員
 ・生沼深志 東京国際空港ターミナル株式会社 施設部長
閉会挨拶
奥田哲也<br> ワシントン国際問題研究所長

奥田哲也
 ワシントン国際問題研究所長


閉会挨拶

当日の結果

当日の結果

ワシントン国際問題研究所の中川次長及び萩原研究員から「アメリカ航空産業の現状と今後の展望/欧米空港における顧客体験向上に向けた取組の先進事例」というタイトルで発表がありました。発表のポイントは以下のとおりです。

第1部 アメリカ航空産業の現状と今後の展望
・米国旅客航空市場について、国内線は概ねコロナ前の需要を回復しつつある。国際線は各国の入国規制もあり全体で見れば道半ば。今後は回復した需要を業績回復につなげるべくコスト削減・収入拡大に注力するフェーズ。
・LCCは「レジャー特需」により国内・国際ともに好調。ネットワークキャリアにとっては、「ビジネス需要の回復」がコロナ前への回復に向けたラストピース。テレワークの浸透が出張需要にどこまで影響を及ぼすかがポイント。
・世界的に見ても国際線は「アジア太平洋の再開」を待つのみ。アジア太平洋地域といえば「最大のポテンシャルを持つ地域」との名を馳せてきたが、現状は「最大のリスクを抱える地域」。将来に禍根を残すことになるのか否かは今後の焦点。
・コロナ対策の一環として連邦政府は航空会社向けの給与補助制度を措置。これが持続的な航空サービスの提供に寄与し、結果として早い回復を助けた。航空会社は、レジャー路線へのシフトや生産体制の縮小・調整など、フェーズに応じた対応を図ってきた。
・航空産業でも大企業による寡占化が進行し、バイデン政権下で競争促進のための新たな大統領令が出された。ジェットブルーとアメリカンの業務提携に対する司法省の訴訟は、今後の米国航空産業の競争環境を規定する注目すべき事象。

その後、コメンテーターの運輸総合研究所の山内弘隆所長から以下のコメントと質問がありました。

〇山内所長からの主なコメント
・米国の航空産業の現状について要点をついて分かり易い報告がなされた。
・米国はコロナ禍の影響が日本ほど深刻ではなく、ワクチンの普及や政策的な判断の迅速性も背景に航空業界の回復も早かったものと理解した。

〇山内所長からの質問
①コロナ前からLCCとネットワークキャリアとの間でサービスの差がなくなっているといわれているが、コロナ禍後はどうなるのか。特にネットワークキャリアについては、コロナによって企業自体の組織、経営戦略に変化が見られるのだろうか。
②アメリカの航空市場に関する競争政策は、コロナ前とコロナ後で変わるのか。コロナによる業況不振を踏まえて多少の競争制限を容認する方向であるのかどうか。
③航空の脱炭素化施策に関して米国においてはどのような議論がされ、取組みがされているか。(バイデン政権の施策、米国エアラインの動き)

この質問に対し、中川次長は以下のとおり回答しました。
①コロナ禍でネットワークキャリアは高価格帯の顧客層によりフォーカスする戦略を取っており、この結果としてレジャー路線に特化したLCCとは局所的には顧客層の競合が低減する可能性もある。
②バイデン政権で示された競争促進の方針は一過性のものではなく、少なくとも民主党政権下では今後も踏襲されていく。政府のスタンスは、米系航空大手4社が他の航空会社を取り組む動きは許容されないが、大手以外の航空会社間の合併協議は許容され得るというもの。いずれにしてもこのような行政の意思が実現するかどうかは今後の司法判断による。
③バイデン政権下では、「2050年までに航空部門からのGHG排出ネットゼロ」という目標の下、「SAF生産企業に対する税額控除」や「SAF生産・利用企業への資金支援」を内容とする法案が準備されているが、成案には至っていない。業界は協力姿勢を示しており、SAFの積極導入、電動旅客機の開発・導入に取り組む企業もある。

第2部 欧米空港における顧客体験向上に向けた取組の先進事例
・世界の航空需要は旅客数、フライト数ともに今後20年でおよそ2倍となる予測がある中、空港は安全性、キャパシティ、リソース、顧客ニーズ等の課題を抱えており、これらに適切に対応していかないとカスタマーエクスペリエンス(顧客体験)の低下につながっていく。
・将来の需要増加を見据え、空港の安全強化、運用効率化、リソースの最適化等の取組みに加え、コロナ禍のタッチレスや密回避等の取組みは、ポストコロナ時代の国際旅行回復のためにも重要な取組みである。
・米国では、2017年頃より顔認証技術の導入が開始されており、税関国境警備局のCBPが開発した顔認証照合システム(TVS)との連携により、チェックイン・保安検査・搭乗といった空港の各ポイントで顔認証もしくはID書類不要の「顔パス」の取組みが広がっている。
・この顔認証の取組みは、欧州や日本でも同様に広がりを見せているが、官民が別々に取り組んでいる状況も多く、旅客目線から見た場合には、米国の官民連携事例のように、チェックイン後は一度もID書類を取り出すことのない、シームレスな「顔パス」の導入に向けてより一層の連携が期待される。
・また、将来の需要増加、旅客の移動円滑化に向けて、保安検査分野でも安全強化、検査の高度化の取組みが加速している。欧米の空港では、医療分野のCT技術やAIによる機械学習機能等を取り入れた最新機器により、危険物検知能力の強化、保安検査の効率化、検査場の混雑緩和に力を入れている。
・米国では、大統領令が出される程、保安検査場の混雑緩和、待ち時間の短縮が社会的な課題となっており、官民が連携して新技術を開発・テストする取組みも加速している。
・航空需要のパンデミックからの回復機運も高まっている中、顔認証技術の活用や保安検査の高度化等、欧米空港における顧客体験の向上に向けた移動円滑化等の取組みの拡大に今後も注目していきたい。

その後、コメンテーター東京国際空港ターミナル株式会社の生沼深志施設部長からは、萩原研究員の発表に対して、以下のコメントと質問がありました。

〇生沼部長からの主なコメント
・羽田空港国際線においても、「Face Express」という顔認証による「顔パス」サービスを21年7月から導入・運用している。
・これまで空港の各ポイントでマニュアルによる本人確認・搭乗券確認をしていたものが、Face Expressによってチェックイン時に搭乗情報・パスポート情報・顔情報を紐づけることで、以降の手荷物預け、保安検査、搭乗の各ポイントで書類不要の「顔パス」手続きをご利用頂ける。
・ただし、法務省管轄の出国審査では顔認証ゲートはあるものの、セキュリティ上の理由から外部システムであるFace Expressとは接続できず、お客様の利便性から見た上では、ここの連携が課題となっている。
・概念的には顔認証は省力化・簡略化(スピードアップ)・感染症対策という3つの点でメリットの大きい3方良しのシステムに聞こえるが、羽田空港では、運用上の課題として、自動化(正しい操作方法)へのお客様のご理解、サービスへの考え方に対する欧米と日本の国民性の違い、想定外事象(過去のバーコードが多数張貼られたままのスーツケースや重量超過、預かり制限品の問題)への対応に苦慮しており、顔認証による自動化・無人化のメリットの訴求が遅れることはサービスイメージの低下につながり、普及そのものへの悪影響も懸念されうる。
・また、保安検査の高度化については、羽田空港でもCTスキャナーやスマートレーンが導入されており、移動円滑化、お客様のストレス要因の解消が図られている状況。

〇生沼部長からの質問
①羽田での課題(導入・普及に向けた課題)は、米国でも同様でしょうか。同様の課題があるのであれば、どのように解決した(しようとしている)でしょうか。
②導入に当たって、米国では政府からの支援策はあったのでしょうか。

この質問に対し、萩原研究員は以下のとおり回答しました。
①米国の事例では、日本同様、チェックイン時に顔認証による本人照合が必要となるが、このプロセスは自動チェックイン機でのこれまでのチェックインプロセスと大きく変更がないため、米国では特段課題となっていないものと考える。
なお、自動手荷物預け機等、オペレーションの自動化の導入初期においては、月並みではあるが旅客への事前・現場での周知並びに係員による案内につきるのではないか。
②米国では、政府の交通インフラ整備に係る財政支援として、空港改善プログラム等があるが、これは滑走路や基本施設等、空港の安全、容量、環境改善等を含むものに限定され、顔認証等の施設整備には充当できず、空港会社がeGate等を導入する場合は、基本的には旅客施設使用料(PFC)を財源にしている。
また、米国では税関国境警備局(CBP)が顔認証照合システムを開発している点が日本とは大きく異なり、空港や航空会社は恩恵を受けていると言えるものと考える。
なお、連邦政府による直近の「インフラ投資雇用法」では、コロナ禍でPFC収入が半減したことも受け、これまで対象外だったターミナルの近代化整備も含まれており、顔認証整備等にも充当可能となっている。

最後に、視聴者からも質問を受け付け、サル痘等の新たな感染症への対応、米国のコロナからの回復から得られる教訓、連邦政府による財政支援への評価、航空会社の合併の行方、需要回復期における人員不足、遅延等への対応、新技術導入に係る財源などについて議論がなされました。