ASEAN航空市場の現状と今後

  • 航空・空港

第1回AIROビジネスセミナー(オンライン配信)

Supported by 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION

日時 2021/12/10(金)15:00~17:00
テーマ・
プログラム
ASEAN航空市場の現状と今後
講師 第1回AIROビジネスセミナー(オンライン配信)

日  時:2021年12月10日(金)15:00~17:00
会  場:オンライン(Zoomウェビナー)
テ ー マ:ASEAN航空市場の現状と今後

1.特別報告:新型コロナウイルス感染症に関するASEAN地域の概況
報告者:山下 幸男 アセアン・インド地域事務所 主任研究員兼次長

2.講演及びコメント
テーマ(1):ASEAN航空市場における当社の現状と今後
講 師:神田 真也 全日本空輸株式会社 アジア・オセアニア室長兼シンガポール支店長
テーマ(2):新型コロナ影響下におけるアジア航空市場の状況と当社の取組み
講 師:畠山 隆久 日本航空株式会社 アジア・オセアニア地区支配人
コメンテーター:藤村 修一 一般財団法人運輸総合研究所客員研究員
           全日本空輸株式会社常勤顧問

3.パネルディスカッションおよび質疑応答
コーディネーター:山内 弘隆 一般財団法人運輸総合研究所所長
パネリスト:講演者・報告者、コメンテーター

4.全体講評
  山内 弘隆 一般財団法人運輸総合研究所所長

開催概要

新型コロナウイルス感染症が世界中でまん延し、国内外における移動制限の措置が取られたことで世界の航空会社はかつてない需要減に直面した。特に国際線への影響は今なお世界的に継続しているため、破綻に追い込まれる航空会社も出てきており、ASEAN地域も例外ではない。 本セミナーでは、我が国を代表する二大航空会社のアジア・オセアニア地区代表及び在AIRO研究員とオンラインでつなげ、在京の弊所客員研究員とともに、ASEAN地域における航空会社の上記感染症の影響や対応、各国政府等の政策対応や我が国政府への要望、さらには航空復興に向けた取組みなどについて現地から紹介した。また、これら講演者等のディスカッション及び視聴者を交えた質疑応答において、乗り越えるべき課題など幾つかの視点から議論を展開した。

プログラム

開会挨拶
宿利 正史<br> 運輸総合研究所 会長

宿利 正史
 運輸総合研究所 会長


開会挨拶
特別報告
山下 幸男<br> アセアン・インド地域事務所(AIRO) 主任研究員兼次長

山下 幸男
 アセアン・インド地域事務所(AIRO) 主任研究員兼次長


「新型コロナウイルス感染症に関するASEAN地域の概況」

講演者略歴
講演資料

講演:テーマ1
神田 真也<br> 全日本空輸株式会社 アジア・オセアニア室長兼シンガポール支店長

神田 真也
 全日本空輸株式会社 アジア・オセアニア室長兼シンガポール支店長


「ASEAN航空市場における当社の現状と今後」

講演者略歴
講演資料

講演:テーマ2
畠山 隆久<br> 日本航空株式会社 アジア・オセアニア地区支配人

畠山 隆久
 日本航空株式会社 アジア・オセアニア地区支配人


「新型コロナ影響下におけるアジア航空市場の状況と当社の取組み」

講演者略歴
講演資料

コメンテーター
藤村 修一<br> 一般財団法人運輸総合研究所客員研究員<br> 全日本空輸株式会社常勤顧問

藤村 修一
 一般財団法人運輸総合研究所客員研究員
 全日本空輸株式会社常勤顧問

講演者略歴
講演資料

パネルディスカッションおよび質疑応答

<コーディネーター>
山内 弘隆 運輸総合研究所 所長

パネリスト:講演者・報告者、コメンテーター
閉会挨拶
奥田 哲也 <br> 運輸総合研究所 専務理事 <br> ワシントン国際問題研究所長<br> アセアン・インド地域事務所長

奥田 哲也 
 運輸総合研究所 専務理事 
 ワシントン国際問題研究所長
 アセアン・インド地域事務所長


閉会挨拶

当日の結果

     

ご講演・パネルディスカッションの概要は以下の通りです。

1.特別報告 山下 幸男:一般財団法人運輸総合研究所アセアン・インド地域事務所主任研究員兼次長

・ASEAN諸国の感染状況は、新規感染者数が多いインドネシアやベトナムに比べ、人口百万人当たりの新規感染者数についてはシンガポールやブルネイが深刻である。しかしながら、両国の死亡者数はASEAN諸国の中でも低く抑えられている。
・国内使用や隔離免除などに使用できる新型コロナのワクチンは、ASEAN諸国では日本や欧米に比較し種類が多くなっている。
・新型コロナに関するASEANの入国規制は、タイ、シンガポールといった入国規制の緩和に積極的な国と、インドネシアやベトナムのように緩和に消極的な国とに分かれる。
・新型コロナ発生の前後となる2019年と2020年のタイ、フィリピン、シンガポールの主要空港の国際・国内の旅客数実績を比較してみると、国際旅客の落ち込みが非常に激しいが、タイと日本の主要空港では国内旅客が残っている一方で、フィリピンの主要空港では国内旅客の実績がない状況であり、シンガポールの主要空港では国内線の運航自体がない状況である。
・国際貨物については、2020年は2019年よりは減少しているものの、海運貨物の航空貨物へのシフトにより荷動きが堅調である。
・ASEANの航空企業が航空貨物への対応を強化している動きや、バンブーエアウェイズのハノイ=ロンドン直行便の開設、ベトナム航空のホーチミン=サンフランシスコ間の直行便運航、航空会社のグループ会社による宅配事業や配車サービス分野への進出など、ASEANの航空会社の積極的な動きを示す報道が増えている。またタイの首相や観光・スポーツ大臣が国境を封鎖することはなく開国方針は変更ないと発言したといった報道もみられる。


2.講演(1)神田 真也 全日本空輸株式会社アジア・オセアニア室長兼シンガポール支店長

・ASEAN各国におけるコロナ渦の状況はそれぞれ異なり、シンガポールやマレーシアでは積極的検査で炙り出しを行っておりワクチン接種率も高い状況である。
・ASEANにおけるANAの便数・旅客数は、各国の入国制限・要件緩和などにより回復傾向にある。 コロナ禍における取組として、衛生・清潔面ではANA Care promise、救援チャーター・臨時便の運航、ご帰国あんしんサービス、旅行気分を味わえる企画、デジタル証明アプリ導入準備などを行っている。 ・貨物では、外部環境の影響もあり対前年同月比で200%前後の実績が続いている。また、機動的ネットワークの構成、BCPオペレーション、ワクチン輸送などに取り組んでいる。
・ASEAN各国で様々な入国制限や検疫措置が取られているが、日本は必ず検疫が求められデジタル接種証明も準備できないため、シンガポールのVaccinated Travel Lane(VTL)対象国に入っておらず、シンガポール・北米間の第三国流動の直行便や韓国経由への流出、目的地としての日本の競争力低下が懸念される。本邦キャリアとして早期対応を望む。
・ASEANにおける航空需要は2022年度上期にパンデミック前の半分程度まで回復と予想されるが、オミクロン株の影響で状況が変わる可能性もある。
・日本・ASEAN主要航空会社の生産量では、VTLの効果もありシンガポール航空の戻しが顕著。ANAも着実に戻ってきているが、好調な貨物便と拮抗するタイミングを早め収益を最大化させることが業績回復の鍵となる。
・WITHコロナの旅について、「感染・健康不安」、「規制・制約負荷」、「時流・マインド」という視点を踏まえ、いかに旅の価値を訴求してペントアップ需要に繋げるか、また、ESG時代の持続可能な旅のあり方として航空会社の姿勢を示すことも重要である。
・今後行うべきこととして、ANAと航空業界においては、渡航支援、訪日再生、ESG経営の推進、国に対しては、渡航環境の整備、世界との連携があげられる。世界各国で入国制限や検疫措置を緩和している中、オミクロン株の見極めも必要だが、日本も相手国やワクチン接種状況等に応じ緩和が可能なのではないかと考える。

3.講演(2)畠山 隆久 日本航空アジア・オセアニア地区支配人         
       與口 彰英 日本航空アジア・オセアニア地区支配人室 戦略調査部長
 
新型コロナウイルスの感染状況はワクチン接種も進み全体としては一時期よりは落ち着いている。日本では感染者、死者数が急減。欧米では直近で感染者数が急増したが死亡者数などはこれまでより低い。一部の国を除いてワクチン接種が日本、欧米より遅れているアジアにおいては感染者数、死者数の動向は国によって異なる。 世界の航空需要へのコロナの影響については2020年4月を底に国内航空需要は2021年5月以降に急回復中である一方、国際航空需要の回復は未だ鈍い。他方、航空貨物需要は海運の混乱もあり2020年11月頃よりコロナ前の需要を上回っておりJALでも旅客機を使った貨物便の運航を全路線で行っている。航空旅客需要については各国の入国規制によるところが大きく、旅行者にとっては入国後の隔離が大きな負担となっているが、「Withコロナ」の考え方に舵を切った欧米ではワクチンを接種していれば入国者の隔離を免除する方針。 新型コロナによりアジアの主要航空各社の業績は軒並み赤字になるなど深刻な影響が及ぶ中、シンガポールの「ワクチントラベルレーン」、タイの「サンドボックス」など国による人的流動回復の試みや、シンガポール航空、タイ航空、エアアジア各社によるユニークな取り組みについて紹介。 同様にJALの業績も大きな影響を受けており、復活を目指して全社新中期経営計画で掲げている財務戦略、事業戦略(事業構造改革、安全・安心の取り組み)、ESG戦略に沿ったアジア地区での各種取り組みについて紹介。 また、人的国際流動の回復に向け、日本でのVISA発行の停止、入国総量規制、入国後の隔離、公共交通機関の利用禁止などの制限は経済活動の「重し」になっているとの認識から、 ①消費者マインドの改善(罹病への不安、各国が求める複雑な手続きに対する抵抗感や不安、長く制限された「旅行に対する消費行動の変化」への対応) ②旅行に係わるコストの低減や手続きの簡易化(検査・隔離・保険負担などの軽減) ③各国の入国規制の緩和・基本的ルールの統一化(ビザの停止や隔離措置などの緩和・撤廃、デジタル活用、ワクチン種類など世界共通ルールの設定) の3つの観点から個社や業界での自助努力を超える課題への国レベルでの対応の提言を行った。

4.講演(3)藤村 修一 一般財団法人運輸総合研究所客員研究員  全日本空輸株式会社常勤顧問

ASEANを拠点とするエアラインは、いま大きな転換期を迎えている。シンガポールなど一部の国を除きワクチン接種が遅れていること、保守的な国境管理・検疫制度を採用していることなどから、国際線の需要回復が欧米など他の地域に比べ大きく遅れており、いずれのエアラインも巨額の赤字に苦しんでいる。 このような状況下、シンガポール政府はシンガポール航空に対し累計総額約1.7兆円にも及ぶ財政支援を実施し、2020年度決算においてシンガポール航空は他社と同様に巨額損失を計上しつつも、唯一健全な財務体質を維持し続けている。 一方、マレーシア航空、ガルーダ・インドネシア航空、タイ国際航空、フィリピン航空などはコロナ以前から赤字体質にあったが、コロナにより一気に財務体質が悪化し経営破綻(の危機)に追い込まれている。債権者との債務削減交渉を続ける一方で、航空機等の資産売却によりネットワークの縮小を迫られている。 すでに、マレーシア航空(ワンワールドに加盟)およびガルーダ・インドネシア航空(スカイチームに加盟)は自社運航の欧州線を大幅に縮小し、シンガポール航空(スターアライアンスに加盟)が運航を継続する欧州線にアライアンスの枠を超えてコードシェアすることにより欧州からの流動を繋ぎとめる戦略に転換してきている。今後、タイ国際航空、フィリピン航空なども含め、ASEANを拠点とするエアラインの動向を注視していく必要がある。

5.パネルディスカッション・質疑応答
山内所長をコーディネーターとして、パネルディスカッション、質疑応答を行いました。主なやり取りは以下の通りです。

【パネルディスカッション】
・現地からの情報は臨場感があり、アライアンスを超えたコードシェアの取組みなど復興に向け航空各社が必死に取り組んでいる様子がよく理解できた。
・ポストコロナを見据え、今後国際的な移動を広げていくためにも、コロナを機会に移動の障害(バリア)を小さくするためにさらに何ができるかを考えてみることも重要と思われる。
・日本の入国規制緩和については、諸外国のWithコロナの取組みやスピード感などを参考にさらなる工夫が必要と思われる。(特に入国条件としてのワクチンの種類の拡大や、ワクチンパスポートや陰性検査証明書の主要国とのハーモナイゼーションの推進など)
・至近で日本人の感染者数が大幅に減っている理由として、高いワクチン接種率と元来の日本人 の高い衛生意識が要因と考える。

【主な質疑応答】
Q:日本の水際対策の厳格さにより、日本への立ち寄りが回避されているのではないか?
A:もともと日本は乗り継ぎのし易さや定時運航などの理由から、乗り継ぎ地として人気があったが、今般の水際対策の規制緩和後も依然厳しいとの声もあり、海外からの日本乗り継ぎ客が日本を敬遠している可能性は否定できない。

Q:航空会社間の横の連携や今後想定される連携について知りたい。
A:航空会社間の連携については、もともとコアになるグローバルアライアンスがあるが、コロナの影響で会社間の格差が拡大し、新たに地域的な提携や直行便就航による極めて遠距離での航空会社間の提携なども出てきており、今後もますます増えていくと思われる。

Q:先般締結されたASEANとEUの航空協定に関し、今後どのような戦略でこの協定を活用していくと思われるか。以遠権の活用は。
A:もともと結びつきが強い集合体であるEUと、まだまだ結びつきが緩く一国一国が主権を持ってルールで裁いているASEANとでは、交渉においても自ずと戦略的な違いが出てくると考える。 特にEUはEUとして航空交渉することに意欲を燃やしており、ASEANとの協定については、地域間の経済連合体同士で交渉をまとめることに価値を見出しているように感じている。 以遠権の活用については、航空機の性能向上、航続距離の延長によりその必要性が今後薄れていくのではないかと思われる。

Q:コロナ後のバーチャル旅行と現実の旅行との棲み分けについてはどのように考えるか。
A:バーチャル旅行の構想はコロナ以前からあり、今後も相互補完的な関係で共存していくと考え  ている。
Q:アセアン域内での新規就航地の予定はあるのか。
A:コロナ禍の現時点では見渡せない状況である。感染終了後には模索していきたい。 出張需要が減少している中、今後どういった地点に飛ばすことが出来るかは課題である。 

                                            以上