ASEANから見る航空NOW!
~コロナ禍の先の空の世界~

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第146回運輸政策コロキウム バンコクレポート~スタートアップシリーズ その2~ (オンライン開催)

Supported by 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION

日時 2021/11/26(金)15:00~17:00
開催回 第146回
テーマ・
プログラム
ASEANから見る航空NOW!
~コロナ禍の先の空の世界~
講師 講  師:山下 幸男 アセアン・インド地域事務所(AIRO) 主任研究員兼次長
コメンテーター:花岡 伸也 東京工業大学環境・社会理工学院 融合理工学系 教授
〈ディスカッション〉
 コーディネーター:山内 弘隆 一般財団法人運輸総合研究所 所長

開催概要

東南アジアの航空産業も世界各地と同様、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響を受け、国内外での航空旅客の急減とそれに伴う航空会社の経営不振が目立ち、再建などの動きもみられる。他方、現地の経済成長や観光交流の活発化は中長期的に不変であり、それに対する官民の取組みもみられるが、それを整理した情報は乏しい。このため、本コロキウムにおいては、東南アジアの航空に関する最近の動向について、直近のCOVID-19の影響に加え、空港整備、MRO(航空機整備事業)や航空人材育成といった中長期的な話題、さらにはASEANの航空統一市場や航空協定の動きを俯瞰するとともに、タイの動きを中心に東南アジアの航空の課題について考察し、あわせて日本に示唆を与える。

プログラム

開会挨拶
宿利 正史<br> 運輸総合研究所 会長

宿利 正史
 運輸総合研究所 会長


開会挨拶
講  師
山下 幸男<br> アセアン・インド地域事務所(AIRO) 主任研究員兼次長

山下 幸男
 アセアン・インド地域事務所(AIRO) 主任研究員兼次長

講演者略歴
講演資料

コメンテーター
花岡 伸也<br> 東京工業大学環境・社会理工学院 融合理工学系 教授

花岡 伸也
 東京工業大学環境・社会理工学院 融合理工学系 教授

講演者略歴
講演資料

ディスカッション

<コーディネーター>
山内 弘隆 運輸総合研究所 所長
閉会挨拶
奥田 哲也 <br> 運輸総合研究所 専務理事 <br> ワシントン国際問題研究所長<br> アセアン・インド地域事務所長

奥田 哲也 
 運輸総合研究所 専務理事 
 ワシントン国際問題研究所長
 アセアン・インド地域事務所長


閉会挨拶

当日の結果

アセアン・インド地域事務所の山下幸男主任研究員兼次長より、「ASEAN から見る航空 NOW! ~コロナ禍の先の航空の世界~」というテーマで発表を行った。その発表のキー・ポイント及び「第146回 運輸政策コロキウム バンコクレポート ~スタートアップシリーズ その2~  ASEAN から見る航空 NOW! ~コロナ禍の先の航空の世界~」に関するその他の概要を以下に記載する。

1.発表のキー・ポイント
【第 1 章タイを中心とした COVID-19 と航空の状況】
〇ASEAN 主要 6 か国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ及びべトナム)における「COVID-19 の日々の感染者数」の推移は概ね同様であるが詳細にみると国ごとに感染者数増減の時期が若干異なる。一方、「人口 100 万人当たりの感染者数」の推移をみると「COVID-19 の日々の感染者数」の推移とは異なる様相を示している。また、「ワクチン 2 回接種率」については、接種率が高い国が必ずしも感染者数を低く抑えられている訳ではない状況である。
〇タイにおける航空需要が大きい「タイ空港株式会社が運営する6空港の航空旅客実績」をみると「成田国際空港および羽田国際空港の実績」と同様な傾向となっている。一方、「航空貨物実績」も 2019 年および 2020 年はタイ空港株式会社の実績が成田国際空港及び羽田国際空港の実績と同様な傾向にあるのに対し、タイ政府による活動制限などの影響で2021年度における前者の実績は、後者の実績 ほどの回復は見られない。
〇今後の航空需要を考える上では、入国に関する手続きや入国後の隔離といった物理的な制約が大きな負担となっているので、これらの負担軽減に関する我が国の更なる取組の工夫が重要である。物理的な負担が減少するにつれ、ビジネス需要が先行して回復し、観光需要は遅れて回復すると推測する。

【第 2 章タイなどの空港整備の動向】
〇タイの空港整備は、タイ運輸省が作成した「タイ交通インフラ整備計画(2015 年‐2022年)」に基づいて実施されている。その計画の中で空港整備は「航空交通容量の拡大」を主眼として整備するとされており、実際にスワンナプーム国際空港、ドンムアン国際空港、ウタパオ国際空港などでも航空需要の増大に合わせた空港容量拡大の取組みが進められている。また、それらの空港整備では、空港アクセス鉄道の整備も進められ、特に、 3 空港(スワンナプーム国際空港、ドンムアン国際空港及びウタパオ国際空港)を結ぶ 3 空港高速アクセス計画も動いている。
〇タイに加え、インドネシア、シンガポール、ベトナム、フィリピンにおいても航空需要の増大に合わせた空港整備や老朽化に対する空港整備が進められている。
〇タイ、ベトナムなど、空港整備の基本計画に基づいて整備を進めている国もあれば、フィリピンのように基本計画が見当たらず、民間の提案を基に空港を整備している国もあり、空港整備のあり方も多様である。
〇日本のこれまでの空港整備や空港周辺開発などのノウハウや技術が ASEAN諸国の空港整備にも活かせるのではないか。

【第 3 章タイの産業としての航空の動向】
〇タイでは航空産業をタイ 20 カ年国家戦略に取り込んだ政策ビジョン・タイランド 4.0 の優先産業として位置づけおり、空港整備と人材育成に注力している。具体のプロジェクトとして、東部経済回廊開発プロジェクトの中でウタパオ国際空港整備プロジェクトが進められている。また、スワンナプーム国際空港、ドンムアン国際空港及びウタパオ国際空港を鉄道で結ぶ3空港高速鉄道計画を含むウタパオ空港及びその周辺地域を開発するウタパオ空港都市整備プロジェクトも進んでいる。
〇ウタパオ空港都市整備プロジェクトでは、ウタパオ国際空港の空港整備に加え、周辺に航空産業、特に航空機のメンテナンス、修理、オーバーホール(MRO)といった航空機整備や航空関係の訓練施設の整備が進められている。
〇航空分野の人材育成の一例として国際航空アカデミー (IAAI) という大学の組織が 2016 年に開設され、民間航空向けの航空エンジニア養成や日本の私立大学によるパイロット養成と同様の民間航空操縦士の育成プログラムが設けられている。

【第 4 章 ASEAN 共同体における航空の動向】
〇アセアン共同体における航空の活動は、クアラルンプール交通戦略計画に基づき進められている。その中で① 単一航空市場、② 航空協定、③航空交通管理の3つが基本と考える。それらの取組みは、当該戦略計画に沿って進められている。
〇これらのうち、アセアン地域で航空交通管理をリードする拠点組織として、航空交通管理を研究テーマとしているシンガポールの「航空交通管理研究所(ATMRI)」および航空保安業務を提供するとともに研究を行っているタイの航空保安業務プロバイダーの「エアロタイ」(AEROTHAI: Aeronautical and Radio Authority of Thailand)があり、今後の活動を注視して行きたい。

2.コメンテーター・セッションの概要
プレゼンテーションの後、 コメンテーターである東京工業大学環境・社会理工学院融合理工学系花岡伸也教授から、山下主任研究員の説明のうち、ASEAN 共同体の単一航空市場および航空協定について補足説明が行われた。また、将来のASEAN 航空市場についての考えも披露された。
・AEC(ASEAN Economic Community)と呼ばれている ASEAN 経済共同体が 2015 年末に発足した。取組み重要分野の一つである「ASEAN Connectivity」の中に交通があり、ASAM (ASEAN Single Aviation Market)と呼ばれるアセアン単一航空市場が重要項目として記載されている。
・国際航空輸送における9つの自由の中で特に重要なのは基本的な権利である自国から相手国への運輸権(第 3 の自由)、相手国から自国への運輸権(第 4 の自由)、相手国の以遠で行う運輸権(第5 の自由)であり、それらの自由化をオープンスカイと呼んでいる。ASEAN 単一航空市場では第 5 の自由までを含み、EU で考慮されているカボタージュ(第 9 の自由)や、三国間輸送(第 7 の自由)は対象外となっている。
・ASEAN のオープンスカイポリシーは 1995 年にスタートし、2004 年に自由化の話が始まった。同年に RIATS(Roadmap for Integration of Air Travel Sector)と呼ばれるロードマップを策定し、2009 年に MAAS(Multilateral Agreement on Air Services)、2010 年にMAFLPAS (Multilateral Agreement for Full Liberalization of Passenger Air Services)と呼ばれる制度が出来上がった。MAAS とMAFLPAS には付属書があり、各国が付属書を批准することで発効する方式となっている。ASEAN では 3 か国が批准することで発効となる ASEAN-X 方式を採用している。フィリピンやインドネシアなど一部の国が反対していたものの、最終的には 2016年に全加盟国の批准が完了した。
・その後、国内線でのコードシェア運航、運輸権に関する協定書として、2017 年 10 月に Protocol3、2018 年 11 月に Protocol4が制定され、インドネシア以外の 9 か国が批准している。
・ASEAN 主要国における国際線・国内線の旅客数推移、運航便の提供座席数推移、区間距離帯別 LCC 提供座席数シェアについて解説。各国、および FSC/LCC いずれも 2016 年の自由化以降、一部の例外を除いて増加傾向にあった。
・インドネシアの定期航空会社は 2009 年に航空法でサービスカテゴリー(No-frill, Medium, Full service)毎に上限運賃が設定され、幹線では2社とそのグループ会社による寡占化が起きている。
・ASAM のインパクトについて、東北アジアと ASEAN の主要30空港のOD ペア(Origin、 Destination)での計測結果について解説。2010 年から 2017 年にかけて、LCC は航空会社数、旅客数ともに明らかに増えている。一方で FSC については航空会社数、旅客数ともに減少している。
〇花岡先生のまとめ(ASEAN 航空市場の将来)
・仕事は(業務内容によるものの)他人に代替可能で、オンライン活動の普及により業務移動の必然性も減少。一方、余暇は自分自身が消費するもので、観光は他人に代替できない。 ・時間と所得に余裕のある中間層が増えると、観光目的の移動増加に拍車がかかる。ASEAN諸国においても、余暇時間の増加とそれに伴う観光および私用目的の国際移動は確実に増えるであろう。
・ASEAN 諸国の国内線の LCC シェアは高止まりしつつある。一方、短距離国際線である ASEAN 域内は、LCC を中心に成長の余地がある。
・3,000~6,000km の中距離市場は、日本・中国を含む東アジア、インドを中心とした南アジア、そして豪州を含む。この距離帯でLCC は順調に増加。ジェットスター・アジアをはじめ、エアアジア X、スクート、タイ・ライオンエアなど多くの LCC が参入してお り、FSC も含めると既に競争は激しいが、双方に観光資源があることから、観光目的を中心とした航空旅客需要が大きく伸びるポテンシャルがある。

【パネル・ディスカッション】
運輸総合研究所山内所長をコーディネーターとして、ディスカッション・質疑応答が行われた。主なやり取りは以下のとおりである。
〇 今年の 6 月に ASEAN と EU とでマルチの航空協定が締結されており、航空に与えるインパクトが大きいのではないか。その影響をどうみるか。
・ASEAN と EU の協定は、現時点で協定の中身を自身で確認できていないが、加盟国の航空会社が両地域間のどの路線も自由に運航できることになるので、欧州と ASEAN 間を運航するメガキャリアは厳しい競争にさらされるのではないか。また、英国はブレグジットにより EU を離脱したので、このマルチ協定のメリットを享受できない英国航空会社に与える影響も大きいと思う。
〇 タイ政府は空港整備をはじめ積極的な航空政策を行っているように感じられたが、タイ政府から航空政策について直接話を聞いているか。
・AIRO の活動は足で稼ぐ研究調査になると考えているが、(残念ながら新型コロナ感染症の影響などで)未だ航空政策について直接話が聞けていない。タイ政府は航空産業を重要な産業に位置づけて取り組みを進めているものの、タイの航空会社はタイ政府の支援に物足りなさを感じていると関係者から聞いている。そのようなことからタイの航空会社では新たな組織を立ち上げてタイ政府への要望活動を行っており、タイ政府の進める航空政策と航空会社の期待が微妙にずれているようにも思う。
〇 タイ政府は空港整備に積極的と聞いたが、世界の航空市場や先日の観光コロキウム(10月 15 日開催)でも話のあった観光立国との関係をどの様にみればよいのか。
・タイでは観光が占める経済効果が大きく観光立国政策を進めているのはもちろんであるが、東部経済回廊開発のように経済への海外資金の導入にも重きをおいている。海外からの投資を呼び込むためにもインフラ整備が必要であり、そこに航空需要の増大も加わって、国家の経済開発を支える受け皿としての空港整備や空港周辺開発の動きとなっているのではないかと考える。
ただ、インフラ整備という箱ものを整備するだけでは意味がなく、必要な人材の確保が重要になってきており、政府内で人材育成の議論が交わされているとも聞いている。
〇 日本の空港関連会社が脱酸素の関係で参画したいとの声も聞くが、ASEAN の空港整備に日本企業が参入する余地はあるか。
・日本の企業が参入する余地はあるとみる。例えば、騒音問題も ASEAN 諸国では大きな問題となってきており、ベトナムの空港に日本の会社が騒音対策で参入しており、人材育成の分野も支援を求めている。参入に当たっては名の売れた空港に参入したいとの話を耳にするが、その様な空港は障壁も高いのでそれ以外の空港にアプローチするということもあり得るのではないか。
〇タイの空港整備において、日本と異なる部分があればお聞きしたい。
・タイのインフラ開発では組織間の連携が上手くいっていないといわれている。日本で は、周辺開発を含むインフラ整備では、政府、地方公共団体、関係事業などが参加して調整が進められているが、タイの場合はそのような連携した取組が弱いといわれてお り、その点は日本と異なると思われる。日本の経験を踏まえたアプローチは、有益ではないか。
〇クアラルンプールとジャカルタを結んでいた KLM 航空やヤンゴンとプノンペンとを結んでいたエミレーツ航空など、ASEAN 域外の航空会社の運航が ASEAN 域内で減少しているように見えるが、ASEAN のオープンスカイポリシーの結果、域外航空会社が淘汰されたのか、それとも単純に ASEAN の需要が増大し、Point to Point の運航に移行してしまったことが理由なのか。
・例示は第 5 の自由を活用した運航だが、第 5 の自由による運航自体が世界的に減少傾 向であると ICAO の方から聞いたことがある。その理由として、自国を発着する路線の競争激化のため、他国間で第 5 の自由で運航する余裕がなくなっているためではないかと考える。オープンスカイ政策によって競争が激化し、航空会社が収益を得られる路線に特化せざるを得ない状況になって、第 5 の自由を活用した運航が減少しているとみ る。
〇ASEAN の自由化の中で、アライアンスの影響をどのようにみているか。
・タイ航空やシンガポール航空がスターアライアンスに参加するなどしているが、ASEAN域内でのアライアンス間競争の動きはあまりみられず、LCC 対 FSC との構図の方が気になる。FSC が、LCC に対抗するためどの路線でどのように収益を上げるかという戦略を検討している状況にあると思う。

(以上)