米国における「空飛ぶクルマ(Urban Air Mobility)」の実現に向けた取組み
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第140回運輸政策コロキウム~ワシントンレポートⅧ~(オンライン開催)
日時 | 2021/1/27(水)10:00~12:00 |
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開催回 | 第140回 |
テーマ・ プログラム |
米国における「空飛ぶクルマ(Urban Air Mobility)」の実現に向けた取組み |
講師 | 講 師:藤巻 吉博 ワシントン国際問題研究所主任研究員 コメンテータ:鈴木 真二 東京大学未来ビジョン研究センター特任教授 <質疑応答> モデレータ:山内 弘隆 運輸総合研究所所長 |
開催概要
商用利用が拡大しているドローン(小型の無人航空機)に続き、「空飛ぶクルマ(Urban Air Mobility)」の実現に向けた開発や環境整備が各国で進みつつある。「空飛ぶクルマ(UAM)」の実現により、期待されるメリットがある一方で、実現に向けては安全性、セキュリティ、環境、社会的受容性など様々な課題が存在する。
本報告では、ワシントン国際問題研究所の藤巻主任研究員より、「空飛ぶクルマ(UAM)」が実現するメリット、実現に向けた課題、課題に対する取組み、ベンチャー系企業などにおける開発の状況、そして早期の実現に向けた動向と幅広い普及に向けた懸念点について、米国の状況を中心に紹介した。その後、ドローンを始めとする航空のイノベーション技術に関する専門家である、東京大学の鈴木特任教授をコメンテータに迎え、「空飛ぶクルマ」を取り巻く課題や今後の動向について議論を行った。
プログラム
開会挨拶 |
宿利 正史 |
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所長挨拶 |
山内 弘隆 |
講 師 | |
コメンテータ | |
モデレータ |
山内 弘隆 |
閉会挨拶 |
奥田 哲也 |
当日の結果
ワシントン国際問題研究所の藤巻主任研究員より、「米国における『空飛ぶクルマ(Urban Air Mobility)』の実現に向けた取組み」というテーマで発表がありました。発表のポイントは次のとおりです。
・「空飛ぶクルマ(UAM)」が注目されている最大の理由は、世界的な都市部への人口集中である。都市部への人口集中は30年前より進んでおり、今後もさらに進むと予測されている。この都市部への人口集中に伴い、交通渋滞も激化している。
・都市部では、大規模なインフラは新設できず、騒音や排出物の抑制も必要となるため、UAMの機体は、電気による推進系統を有し、垂直離着陸が可能な、eVTOL(electric Vertical Take Off and Landing)が基本となっている。また、離陸用と水平飛行用の推進装置の機構により、開発中のUAMは、推力偏向型(Vectored Thrust)、併設型(Lift and Cruise)及びマルチロータ型の3種類に大きく区分される。
・UAMが実現するメリットには、経路をインフラに依存しない交通ネットワークの実現、騒音の低減、CO2排出の削減及び運航費用の低減がある。一方で、UAMの実現に向けては、安全性、セキュリティ、環境、社会的受容性、将来的な運航の増大や柔軟性などの課題がある。
・安全性の課題に対する取組みとして、欧米では航空当局による安全基準の新設/改定や、国際標準化団体における検討が行われている。セキュリティの課題に対する取組みとしては、米国のNASAによる研究が行われており、社会的受容性の課題に対する取組みとしては、航空当局によるプログラムに加えてNPO団体による活動が行われている。また、運航に関する課題に対する取組みとしては、上空にUAM Corridorという仮想的な回廊を設けることが検討されている。
・UAMの開発は、ベンチャー系企業を中心として行われており、推力偏向型、併設型及びマルチロータ型のいずれの種類も開発が進行中である。また、大手航空機メーカーであるBoeing社やAirbus社においてもUAMの開発に関する取組みが行われている。なお、先行している開発プロジェクトでは、開発国以外における試験飛行やデモンストレーション飛行が幅広く実施されている。
・UAMの早期の実現に向け、米国では、試験飛行の実施場所の確保、官、軍及び産業界によるプロジェクトが実施されている。しかし、NASAのプロジェクトとUber社のプロジェクトでは方向性に相違があり、また、国としての将来像やその達成に向けた実施計画を定めたマスタープランの欠如も指摘されている。このため、一部の地域における試験的な導入は早期に達成されるかもしれないが、幅広い地域への本格的な普及には遅れを生じる可能性がある。
・他に先駆けた導入に注目が集まり、そのこと自体が目的化しがちであるが、それよりも安全性や社会的受容性を確保し、幅広い普及のための正の連鎖をいかに早期に達成できるかが重要である。この幅広い普及を早期に達成するためには、関係者間の方向性のすり合わせ、人口密集地以外からの着実な実績の積み上げ、騒音に関するガイドラインなど社会的受容性を向上するための追加の取組みが必要と考える。
その後、コメンテータである東京大学未来ビジョン研究センターの鈴木特任教授から、以下の説明と質問がありました。
・説明
-空飛ぶクルマの歴史について、古くは1946年に設計が開始されたAerocarにまで遡る。直近では、米国のTerrafugia社やスロバキアのAeromobil社が、自動車が翼を備える形態の機体を開発中である。
-この他、小型パーソナル航空機として、ヘリコプターが使用されている。ヘリコプターは救急用途のドクターヘリとしても活用されているが、15分以内で到達できるエリアは日本全体の約60%に留まっている。
-さらに、小型無人機のマルチコプターから派生した、人が乗れるドローンが開発されている。
-陸上の車とヘリコプターを比較すると、ヘリコプターは自重を支える揚力が必要であるため、約2倍のエンジン出力が必要となる。また、既存のヘリコプターとマルチロータ型のUAMを比較すると、飛行時間や航続距離に大きな差がある。
-航続距離を増加するためには、UAMに主翼を装備することが必要となるが、機体重量も増加するため、用途に応じた機体の導入が必要である。また、更なる航続距離の増加のためには、バッテリー駆動ではなく、動力のハイブリッド化が必要となる。
-また、温暖化対策として、CO2排出の削減が求められている。このため、水素燃料航空機の開発も進められている。なお、各交通機関の消費エネルギー(単位距離あたり単位質量あたり)の観点では、速度の上昇に応じて低速の船舶から鉄道、時速300km以上では飛行機が優れている。低速時のヘリコプターやマルチロータ機はエネルギー効率では車に劣るが、渋滞時の自動車との比較も必要となる。
-空飛ぶクルマの社会実装に向け、「空の移動革命に向けたロードマップ」が策定され、この中では「物の移動」、「地方での人の移動」、「都市での人の移動」という順番で、段階的に利用を拡大していく方針となっている。
・質問
①これまで、UAMは航空分野における米国の大きな開発目標と捉えられていたが、コロナ禍や政権交代を受け、その方針に大きな変化は見られるか?
②UAMの離着陸場として、新たな空港インフラの整備が予定されているのか?それとも、既存のヘリポートや空港などをそのまま活用するのか?
③人口密集地以外からの着実な実績の積み上げを行うためには、自治体などとの連携が求められるところ、既に計画されているものはあるか?
この質問に対し、藤巻主任研究員は以下のとおり回答しました。
①NASAや空軍のプロジェクトは今後数年間に渡るものとして開始されており、また、UAMを含む電動の航空機は環境対策に資するものであることから、現在の方向性が大きく変わることはないと考える。
②初期段階では、既存のヘリポートの活用が想定されている。一方、FAAの空港部門において、UAMの離着陸場所に関する新たなガイドラインを内部で作成中との情報を得ている。
③NASAのプロジェクトでは、将来的にCommunityからの参加を想定しているが、現時点では決定しているCommunityからの参加者はいない。
最後に、視聴者からの質問を受け付け、自動車開発会社との関係、日本における開発状況、ベンチャー企業の状況、バッテリーの性能、機体の安全性、操縦士の資格などについて更に議論が行われました。
今回のコロキウムは大学等研究機関、官公庁、航空関係事業者など約440名の参加者があり、盛会なセミナーとなりました。