持続可能な観光地域経営の推進に関するシンポジウム

  • 観光

(会場・オンライン併用開催)

Supported by 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION

主催 UNWTO駐日事務所
観光庁
一般社団法人運輸総合研究所
日時 2020/12/21(月)13:30~16:30
会場・開催形式 ベルサール御成門タワー ※オンライン併用 (東京)
テーマ・
プログラム
持続可能な観光地域経営の推進
講師 挨   拶:(一財)運輸総合研究所 会長 宿利正史
基調講演1:観光庁 観光地域振興部長 村田茂樹
「持続可能な観光地域経営の推進に向けた観光庁の取組」
基調講演2:UNWTO本部 持続可能な観光部 部長 ダーク・グラッサー(※ビデオレター)
「地域におけるエビデンスベースの持続可能な観光の推進
 INSTO(持続可能な観光地域経営推進国際ネットワーク)の役割」
取組事例1:持続可能な観光地域経営の推進に関する調査検討委員会事務局、
(一財)運輸総合研究所 主任研究員 齋藤悠
「持続可能な観光地域経営の推進に関する手引書の作成について」
取組事例2:UNWTO駐日事務所 副代表 鈴木宏子
「日本における持続可能な観光地域経営の推進に関する現状と課題~アンケート・ヒアリング調査より~」
取組事例3:地方自治体より事例発表
      岩手県釜石市 株式会社かまいしDMC 旅行マーケティング事業部
      サスティナブルツーリズム推進担当 久保竜太、
      京都府京都市 観光戦略担当部長 北川健司

<パネルディスカッション>
UNWTO駐日事務所、観光庁、事例発表自治体等
総括・モデレーター:山内 弘隆 (一財)運輸総合研究所 所長

閉会挨拶 :UNWTO駐日事務所 代表 本保芳明

開催概要

近年、観光客の増加に伴い、地域社会や環境への負荷が増大しており、これらの課題に対応するためには、観光振興と地域の持続可能な発展とのバランスを考慮した持続可能な観光の推進へと観光政策を質的に転換することが求められています。
本シンポジウムにおいて、新型コロナウイルス感染症による影響からの回復等も踏まえた持続可能な観光地域経営の世界的潮流や観光庁、先進地域の取組について紹介・考察しました。

プログラム

挨  拶
宿利正史<br> (一財)運輸総合研究所 会長

宿利正史
 (一財)運輸総合研究所 会長


挨拶
基調講演1
村田茂樹<br> 観光庁 観光地域振興部長

村田茂樹
 観光庁 観光地域振興部長


 講演資料
 「持続可能な観光地域経営の推進に向けた観光庁の取組
基調講演2
(ビデオレター)
取組事例1
齋藤 悠<br> (一財)運輸総合研究所 主任研究員<br> 持続可能な観光地域経営の推進に関する調査検討委員会事務局

齋藤 悠
 (一財)運輸総合研究所 主任研究員
 持続可能な観光地域経営の推進に関する調査検討委員会事務局


 講演資料
 「持続可能な観光地域経営の推進に関する手引書の作成について
取組事例2
取組事例3

<地方自治体より事例発表>

久保竜太
 岩手県釜石市 株式会社かまいしDMC 旅行マーケティング事業部
 サスティナブルツーリズム推進担当
 講演資料「持続可能な観光地域経営に向けた取り組み -釜石市事例発表-

北川健司
 京都府京都市 観光戦略担当部長
 講演資料「持続可能で満足度の高い国際文化観光都市を目指して
パネルディスカッション

<パネリスト>
片山 敏宏
 観光庁 参事官


本保芳明
 UNWTO駐日事務所 代表

久保竜太
 岩手県釜石市 株式会社かまいしDMC 旅行マーケティング事業部
 サスティナブルツーリズム推進担当

北川健司
 京都府京都市 観光戦略担当部長

<統括・モデレーター>
山内 弘隆
 (一財)運輸総合研究所 所長


閉会挨拶
本保芳明<br> UNWTO駐日事務所 代表

本保芳明
 UNWTO駐日事務所 代表

当日の結果

それぞれの講演の概要は以下のとおりです。
【基調講演1:村田 茂樹 観光庁観光地域振興部長】
 近年の急速な訪日外国人旅行者の増大により、一部観光地における混雑やマナー違反等に関心が高まっており、コロナ禍ではあるものの、引き続きオーバーツーリズムを未然に防止しつつ、持続可能な観光の発展のモデルを確立する必要があります。
 観光庁は庁内に「持続可能な観光推進本部」を設置し、国内外の先進事例の整理及び今後の取組の方向性の検討を行い、成果として報告書「持続可能な観光先進国に向けて」を公表しました(令和元年6月)。その個別の施策として、代表的な観光地での混雑分散化に向けた実証事業、旅行者向けマナー啓発動画を通じた情報発信、国際基準に準拠した「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」の開発(令和2年6月)を行っています。
 JSTS-Dは地域が自己分析を行った上でエビデンスベースの政策を決定し、関係者が一体となって観光地づくりに取り組む契機とし、また観光地のブランド化や国際競争力向上に役立つものとして作成しました。現在はモデル地域において、JSTS-Dを実際に活用した導入プロセスのモデル構築を行っています。引き続き、持続可能な観光地域経営の推進に向けて、各地域の取組を支えていきます。

【基調講演2:ダーク・グラッサー UNWTO本部持続可能な観光部部長】
 UNWTO加盟国101の国・地域を調査した結果、すべての国・地域が観光政策の目標として「持続可能性」に言及し、また政策に観光を重視している国ほど、持続可能性に強いコミットメントを示していました。
 一方、実際に政策手段を講じている国・地域は55%と割合が低調です。持続可能性の実現にはモニタリングの実施が不可欠ですが、特に環境分野でモニタリングの取組が進んでおらず、実施報告が公開された割合は低くなっています。モニタリングを行わないと政策評価ができません。モニタリングと情報公開が重要です。
 UNWTOの持続可能な観光地域経営推進国際ネットワーク(INSTO:International Network of Sustainable Tourism Observatories)は地域の持続可能性の推進を支援する枠組みです。エビデンスベースの持続可能な観光には、継続的なモニタリング及び改善するプロセスが重要です。INSTOはモニタリングすべき具体的指標を義務付けるのではなく、指標を設定すべき9つのモニタリング分野を指定し、地域主体で柔軟に指標を活用できるようにしています。なお、2020年から気候変動とアクセシビリティの2分野をモニタリング分野に追加しました。
 INSTOに加入すると、UNWTO主催の国際会議での発信や先進地域との情報交換を行うことができます。日本からもINSTOに加入する地域が現れることを期待しています。

【取組事例1:齋藤 悠 (一財)運輸総合研究所・主任研究員】
 持続可能な観光地域経営の取組の本質は、観光を切り口とした総合力を発揮した地域経営であり、地域の課題解決こそが重要な目的です。その実現の方法として、指標を用いた持続可能な観光地域経営の取組が世界的に広がっており、UNWTOによるガイドブック、EUによる観光指標システム、そして我が国でも観光庁によるガイドライン(JSTS-D)が発表されました。
 一方で、各地域の立場からは、これらは難解で具体的に誰とどのような取組を行えばいいか分からないといった声も聞いています。そこで、運輸総合研究所は、持続可能な観光地域経営の実現ステップを示す手引き策定のための研究を行っています。観光をテコとして、持続可能な地域経営に取り組む地域を後押しできる手引き策定に向け、研究を進めて参ります。

【取組事例2:鈴木 宏子 UNWTO駐日事務所副代表】
 UNWTO駐日事務所や観光庁の調査によれば、国内で政策目標に持続可能な観光を取り入れている地域は多い一方、指標を活用し総合的な観点から観光地域経営を行う点では取組が進んでいないこと、また人材育成や関係者の参画が取組推進の阻害課題であることが明らかになりました。
 持続可能な観光の推進には、数値で現状を把握し、課題を特定し取組を進めることが不可欠です。コロナ禍において、透明性や説明責任の観点からも、観光の地域への裨益をきめ細やかに示すことが一層重要になっています。UNWTO駐日事務所と運輸総合研究所は「持続可能な指標型観光地域経営の手引き」を作成し、自治体への支援体制を強化していく予定ですので、ぜひご活用ください。

【取組事例3①:久保 竜太 岩手県釜石市かまいしDMC旅行マーケティング事業部サステナブルツーリズム推進担当】
 釜石市は観光を通じた震災復興の実現を目指す「釜石市観光振興ビジョン」を策定し、株式会社かまいしDMCは同ビジョンの中核的な推進役として、関係団体と連携しながら持続可能な観光の普及啓発やコンテンツ開発を行っています。2018年にGSTC認定の国際認証機関グリーン・デスティネーションズの認証プログラムに参加し、2019年に実施した持続可能性の診断調査に基づく審査ではグリーン・デスティネーションズ・ブロンズ賞を受賞しました。
 現在の課題は、持続可能な観光に対する地域の理解醸成であり、特に持続可能な観光の国際基準や国際認証について、実益を具現化する必要があります。今後は持続可能な観光のメリットの定量化・可視化を推進し、地域の理解促進を図っていきます。
 釜石市の持続可能な地域づくりの原点は震災であり、引き続き、誰ひとり犠牲にならない街づくりの実現とともに、大きな目標への挑戦を続け、その姿を発信して世界とつながっていくことを目指します。

【取組事例3②:北川 健司 京都市観光戦略担当部長】
 京都市では、観光を取り巻く環境の変化や観光振興計画の改定に伴い、観光に関し、従前は量の確保を目指していたところ、その後、質の向上を目指すこととなり、現在は市民生活との調和に重点を置いて取り組んでいるところです。
 観光を取り巻く環境の変化は非常に早く、特に近年の外国人観光客の急激な増加等により、一部観光地や市バスの混雑、観光客のマナー、違法民泊問題などの課題が顕在化していました。その対策として、時期・時間・場所の分散化の工夫、市バスの前乗り後降り方式導入、ポスター等を活用したマナー啓発、「民泊」対策プロジェクトチームによる徹底した対策の実施等の取組を行ってきました。その結果、例えば前乗り後降り方式を導入した市バス路線のバス停の停車時間短縮につながる等の効果も出ています。
 現在はポストコロナの観光の回復に向け、徹底した感染症予防・拡大防止対策と観光の両立、さらに市民生活・地域コミュニティと観光の更なる調和を目指して取組を行っています。また、現行の観光振興計画が今年度末で終了するため、次期計画策定に向け、様々な危機に対応し地域社会の課題解決に貢献できる持続可能な観光を目指して議論を行っています。

【パネルディスカッション】
山内所長がモデレータとなったパネルディスカッションにおいては、「持続可能な観光地域経営とは何か」、「地域にどのように定着させていくか」の2点について議論を行いました。各論点の要旨は以下のとおりです。
(1)持続可能な観光地域経営とは何か
①取組に必要な視点
・経済、社会・文化、環境のバランスが重要。これらをチェックする機能として、KPIを用いた観光地域経営が求められる。KPI設定に当たり、①問題解決型であること、②アカウンタビリティがあること、③行政にとどまらないインボルブメントを高めることが重要。
・持続可能な観光地域経営は、オーバーツーリズムや現在のコロナ危機等、すべての社会問題を包含する。それ故、抽象的になるので、指標や手引きで分かりやすく示していく。

②地域における課題
・マーケティングとマネジメントの両輪を回すことが重要。限られたリソースをいかに配分するかが問われる。
・行政だけで観光経営を行うのは限界がある。観光協会や事業者を巻き込み、裾野を広げる必要がある。
・課題設定とKPIの選択はイコール。関係者を巻き込んで議論を重ねることで、課題が明確化され協力体制ができる。

(2)地域にどのように定着させていくか
①持続可能な観光地域経営の“継続”に必要なこと
・持続可能な観光計画の策定に当たり、事業者ヒアリングやパブリックコメントを踏まえ指標を設定すること。
・計画策定後の進捗確認として、市民や大学生等の意見を交えて柔軟に方向性を変えながら、PDCAを着実に回すこと。
・マネジメントを継続的に行うためのシステム構築に加え、マーケティングとマネジメントの両輪を回すためにDMOのようなプロフェッショナルな中間支援組織がリーダーシップを発揮すること。
・観光に縁がない人口の少ない都市でも指標を取り入れ観光計画を策定すること。
・理念やあるべき姿を描けるリーダーのもと、自治体が中心となり、DMOや関係事業者団体とガバナンス体制を作り、地域の課題を見える化し解決に向けて取り組むこと。

②人材確保や育成について
・人材や素材はあるが、マネジメントを学ぶ機会が少ないのが課題。
・観光のプロである必要はなく、データサイエンスや公共政策の知識、対人能力のある人が適切。
・外部人材を活用する制度の積極的な利用も重要。

③持続可能な観光を地域に“定着”させるために重要な点について
・自分たちの言葉で表現できる地域のビジョンを持つこと。
・観光の地域への影響を市民に分かりやすく伝えること。
・持続可能性が地域に何を意味するかを親しみやすく伝えられるリーダーシップがあること。

大学等研究機関、国土交通省、地方自治体の方々、観光事業者、コンサルタントなど、会場、オンライン合わせて約500名の参加者があり、盛会なセミナーとなりました。


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