持続可能性を考慮したサプライチェーン構築

  • 運輸政策コロキウム
  • 物流・ロジスティックス

第137回運輸政策コロキウム(オンライン開催)

Supported by 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION

日時 2020/9/30(水)15:00 ~ 17:00
開催回 第137回
講師 マハルジャン ラジャリ 運輸総合研究所 研究員
コメンテータ 鈴木 定省 東京工業大学工学院経営工学系 准教授

開催概要

この発表は、国際的に権威あるOECD International Transport ForumのYoung Award 2020 TOP4に選ばれた論文に基づくものです。
 近年、サプライチェーン構築において、持続可能性への関心が高まっています。この分野の研究は多数行われていますが、持続可能性の3要素(経済、環境、社会面)全てを考慮した研究はあまり多くありません。
 本研究では、サプライチェーン構築に関して、3つのモデルを開発します。まず1つ目のモデルは従来型である効率性(経済面)のみを考慮し、2つ目のモデルは持続可能性の2要素(経済、環境面)を考慮し、そして3つ目のモデルは持続可能性の3要素(経済、環境、社会面)全てを組み込んだ上で、サプライチェーン・ネットワークの最適な形を示します。数値ネットワーク分析を用いて、3つのモデルの結果を比較し、サプライチェーン構築において持続可能性を考慮することの意義をまとめ、併せて、サプライチェーン・ネットワークの新たな構築や再構築を目指す企業に対する示唆もまとめました。

プログラム

開会挨拶
宿利 正史<br> 運輸総合研究所 会長

宿利 正史
 運輸総合研究所 会長


開会挨拶
所長挨拶
山内 弘隆<br> 運輸総合研究所 所長

山内 弘隆
 運輸総合研究所 所長

講  師
マハルジャン ラジャリ<br> 運輸総合研究所 研究員

マハルジャン ラジャリ
 運輸総合研究所 研究員


講演者略歴
講演資料
鈴木先生のコメントに対する回答
コメンテータ
鈴木 定省<br> 東京工業大学工学院経営工学系 准教授

鈴木 定省
 東京工業大学工学院経営工学系 准教授

講演者略歴
講演資料

閉会挨拶
佐藤 善信<br> 運輸総合研究所 理事長

佐藤 善信
 運輸総合研究所 理事長


閉会挨拶

当日の結果

マハルジャン ラジャリ 研究員から、『持続可能性を考慮したサプライチェーン構築』というタイトルでご講演頂きました。ポイントは次のとおりです。

・サプライチェーン・ネットワーク設計(SCND)は、調達→生産→物流→販売というサプライチェーンの中で、サプライヤー、物流施設、最終消費者などを効率的に統合するための計画手法である。
・貿易摩擦、環境問題、大規模災害など不確実なビジネス環境に対応するために多くの企業では、持続可能性という概念を考慮したサプライチェーンの構築や再編を行うことを試みているが、SCNDの手法や知見などが不足していることが課題となっている。
・こうしたことから、本研究では、持続可能性に考慮したサプライチェーンの構築や再編に資するために経済面(トータルコストの最小化)だけなく、環境面(CO2排出量の最小化)、社会面(販売機会損失の最小化)を目的変数とするモデルを構築し、物流施設やサプライヤーの拠点数と立地の変化、それに伴う費用やCO2排出量の変化などについて試算した。
・この結果、経済面だけはなく、環境面、社会面がサプライチェーンに与える影響、3つの要素間のトレードオフ関係について定量的に把握することができた。

その後、コメンテータの東京工業大学 鈴木定省准教授から以下のコメントがあった。
・限定的ではあるが持続可能性の観点からコスト面だけでなく、環境面、社会面といった3つの視点を考慮したモデルを構築したこと、サプライチェーンの構築に際し、3つの視点間のトレードオフ関係の存在を明らかにし、SCNDの指針を明示したことが評価できる。
・一方で、今回のモデルが、限られたパラメータ設定に基づく解であることから、パラメータ設定に依存したトレードオフ関係があるのではないか。また、多期間を考慮した需要変動への対応(未充足需要の次の期への影響、急な増産要請のCO2排出量への影響等)が必要ではないか。
・日本ではサプライチェーンマネジメントは、コスト削減のための管理手法との位置づけが濃くなっている。顧客価値創造、市場動向に対する対応力強化により費用、資産削減のみならず、サプライチェーンを経営の柱とした売上増への取組みが持続可能性の観点からも重要となる。

その後、会場や視聴者からも質問を受け付け、主に以下のような議論がされました。
・今回の研究は、ネパールの国内輸送に基づく実データや推定値を用いている。社会面に関する変数の一般的な定義は難しい。本研究における社会面の変数の選択はネパールの状況を反映しているかもしれない。より多くのデータがあればより詳細なモデルに拡張することができる。
・グローバルな状況に拡張した場合に新たに考慮すべき要素や課題ならびに今後のモデルの拡張の方向性(多期間を考慮、目的変数の追加)、社会面の要求を満たそうとする動機やそのステークホルダーに関する質疑が行われた。

今回のコロキウムは大学等研究機関、国土交通省、地方自治体、交通事業者、物流事業者、コンサルタントなど200名を超える参加者があり、盛会なセミナーとなりました。また、海外からは米国をはじめとし7カ国13名の参加がありました。


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