ATRS(国際航空輸送学会)2025世界大会への参加報告

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日時 2025/7/1(火) 〜 4(金)

開催概要

2025年71日~74日に、ATRSの第28回世界大会が、香港の香港理工大学で開催された。当研究所から、宿利会長以下、3名が参加した。

《ATRSについて》

 ATRSは、1995年にシドニーで開催された第7回World Conference on Transport Research Society (WCTRS)会議中に、同会議での航空輸送関連セッションの拡大や頻繁なシンポジウム又は会議を通じた研究のアイデアや結果についての意見交換を目的としてWCTRSの特別利益団体として発足した。ATRS初代会長はTae Hoon Oum氏(WCTRS会長、カナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学名誉教授)、前会長はMartin Dresner氏(米国メリーランド大学教授)、現会長はAnmin Zhang氏(ブリティッシュ・コロンビア大学名誉教授)である。
 第26回世界大会神戸開催を記念して直前の2023年6月に当研究所が主催したセミナー「世界の航空業界における課題と展望」には、これら3名のATRS歴代会長を登壇者として招請した経緯がある。

プログラム

開会挨拶
Zhang会長

Zhang会長

開会挨拶
Liu現地開催委員長(香港理工大学准教授)

Liu現地開催委員長(香港理工大学准教授)

産業基調講演
Siu-Chung香港空港機構理事長

Siu-Chung香港空港機構理事長

産業基調講演
Wong香港航空局主席電気技師

Wong香港航空局主席電気技師

産業基調講演
Chan香港天文台副局長

Chan香港天文台副局長

当日の結果

今次大会の中では、当研究所から2名がそれぞれ研究調査について発表を行った(各発表の概要は後述)。2025 JTTRI Best Paper Awardについて、受賞者に対する授与を宿利会長が行った。
 また、7月2日に、大会会場近辺で、オーストラリア・中国関係国立基金の支援により、南オーストラリア大学の持続可能航空研究グループがSAFフォーラムを主催した。航空、農業、物流、政府及び学術のリーダー達の連携を強化することを目的として、キャセイパシフィック航空、香港航空、エアアジアなどSAFに関する多数の実務者による講演を含めたネットワーキングの場であり、当研究所から小御門研究員が参加した。

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         SAFフォーラム参加者と共に


 なお、今大会で、296本の発表があり、391名が参加した。発表分野は、多い順に次のとおり:
 航空における持続可能性/航空の政策と規制/航空事業者の経済とパフォーマンス/空港の経営/都市航空モビリティ(Urban Aviation Mobility)/航空輸送におけるマーケティングと消費者行動/航空需要/空港の経済とパフォーマンス/航空と経済発展/空港の戦略と管理/航空事業者の戦略と管理/航空管制/航空事業の経営/インターモーダル運営とモード間の競争/航空貨物/航空事業者のネットワーク拡大/航空の安全と保安/航空輸送とCOVID-19/航空事業の事例研究/空港の事例研究
 今大会の総会において、第29回は、7月1日~4日に北京で開催することが承認され、また、第29回大会の終了時からの次期会長には英国ヨーク大学のGianmaria Maritini博士が選定された。


■2025 JTTRI Best Paper Award賞の授与
 7月3日の受賞式で、当研究所宿利会長から、当研究所の概要を紹介するスライドを投影する中で出席者に向けて挨拶を行うとともに、第26回神戸大会のために創設し、第27回リスボン大会に続き、今大会でも提供する運輸総合研究所最優秀論文賞(JTTRI Best Paper Award)の今次受賞論文”Global pandemic response through vaccine sharing strategy and transportation management”(東京科学大学のYang Liu氏らの共著)に対し、賞金目録贈呈を伴う表彰を行った。なお、受賞論文は、Innovationをテーマとする応募論文の中から、ATRS Best Paper Awardと類似の審査手続きにより、ATRS論文受賞委員会が選定した。

[受賞論文の概要]:
 この研究は、COVID19パンデミック期間中の航空輸送とワクチン戦略を管理するための世界的な意思決定枠組みを提案している。この枠組みは、世界の不平等に対応するための革新的なワクチン共有戦略を導入しつつ、各国における旅行制限とワクチンの範囲の最適な水準を動的に決定する。この方法により、調整された政策介入がパンデミック強靭性を強化し、社会経済の回復を加速する方策を例証している。分析結果は、健康と運輸の政策立案者のための実行可能な洞察を示し、ワクチンプログラムと航空輸送規制の統合的な運営の決定的な重要性に光を当てている。
[受賞者のコメント]:
 第28回ATRS大会でJTTRI Best Paper Awardを受賞したことは、極めて光栄である。航空分野における学術研究に対するJTTRIの寛大な支援に深く感謝する。また、私の助言者である、花岡伸也教授と杉下佳辰博士の指導と励ましに謹んで感謝する。この受賞は、輸送、公衆衛生及び政策の交差における危機的な課題に対応する際の学際的な方法の重要性を再確認させた。この研究結果がパンデミックに対して強靭な輸送システムに関する世界的な議論に実質的に貢献することを希望する。(以上、仮訳)


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           挨拶する宿利会長

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     受賞者と共に


〇当研究所からの各発表の状況

■セッション「航空交通における持続可能性2」
●発表
 「日本の航空分野における水素の利活用」(原文は英語)
   小御門和馬 研究員

 7月2日のPaper Session「航空交通における持続可能性2」では、小御門研究員が、当研究所で実施した共同研究調査「交通分野における水素の利活用」(2023年度-2024年度)の成果を踏まえ、日本の航空分野において水素を利活用するに当たっての課題を提起した上で、その課題を解決するために、安定的かつ安価な水素を空港まで供給する水素サプライチェーン構築の必要性や水素航空機導入の初期段階においては実現可能性の高い先行地域からパイロット事業としてスタートさせること、導入が先行する商用車との水素供給インフラの共用化が一つの解決策であることなどについて発表を行った。
 質疑では、水素航空機メーカーが掲げる運航開始時期の実現可能性について質問があり、安全性に関する航空当局の認証(型式証明)取得に係るハードルの高さや日本で想定される導入のスケジュール感について回答した。

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   発表する小御門研究員

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      質疑対応する小御門研究員


■セッション「航空交通の政策と規制2」
●発表
 「サブオービタルによる大陸間輸送事業のためのありうる国際法制」(原文は英文)
   藤﨑耕一 主席研究員・研究統括

 7月3日のPaper Session「航空交通の政策と規制2」では、藤﨑主席研究員が、当研究所における共同研究調査「弾道飛行等による民間国際輸送事業による法的諸問題」(平成24年度~)における研究会(座長:中谷和弘東海大学教授/東京大学名誉教授)の報告書を基に、発表を行った。水田早苗主任研究員、石井由梨佳上智大学教授、坂巻静佳静岡県立大学教授、笹岡愛美横浜国立大学教授、菅原貴与志弁護士(Sedgefield & Partners)及び中谷教授との共著により内容を再構成した。
 「サブオービタル飛行とは何か」の説明から始め、「研究調査の背景と目的」、「技術開発の動向」、「問題と既存研究」、「サブオービタル飛行の段階分類」、「宇宙法を適用する場合の問題点」及び「国際輸送事業に適したありうる法制度」の順に発表を行った。公法上はシカゴ条約体制における二国間航空協定の枠組みに組込むとともに、私法上はモントリオール条約の対象にしつつも、技術特性に応じた調整を行うことを基本とすることを結論として述べた。

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発表する藤﨑主席研究員 (右)議長のLykotrafiti英国クイーンマリー大学主任講師


■大会会場でのJTTRIの宣伝
 当研究所は、現地開催委員会の支援により会場の講堂入口付近に設置した小机を用いて、航空関係の最近の個別活動の紹介チラシ(QRコードから各内容のサイトに遷移)と6月末に更新した当研究所の紹介パンフレットの配布を行った。

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            大会受付所

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小机での当研究所パンフレット等の展示


■現地見学会
 最終日の午後に、当研究所からは香港国際空港及び香港航空局の現地見学会に参加した。

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SKYTOPIA構想(芸術、マリーナ、市場、スポーツ、博覧会場を含む)

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     Greater Bay Areaの国際貨物Gateway機能の強化

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            航空貨物戦略

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    先進的生体認証

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            空港内自動運転

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         周辺空域のレーダー把握状況

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          香港国際空港アカデミー

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       香港航空局職員及び大会参加者と共に


■現地交通・モビリティ事情
[空港エクスプレス]

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クレジットカードでのキャッシュレス券売案内

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         車両中央における荷物置場


[MRT]

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      クレジットカードでのキャッシュレス改札

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             ホームドア等