The 18th JTTRI-KOTI Joint Seminar
~モビリティ変革時代の課題~
- 国際活動
- 他機関との交流
日時 | 2023/11/23(木) 〜 24(金) |
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2023年11月23日(木)、韓国交通研究院(KOTI)との間で第18回日韓ジョイントセミナーを開催しました。同セミナーは1993年以来、途中中断期間もありながら、年1回程度の間隔で相互開催しているもので、18回目となる今年は韓国・済州島での開催となり、当研究所から宿利会長、屋井所長をはじめ7名が参加しました。
会議では、「モビリティ変革時代の課題」をテーマとして相互に研究発表を行うとともに、今後の更なる研究協力について意見交換を行いました。
また、本セミナーの前に、同会場にて、世界的なe-モビリティに関する国際展示会等を開催しているIEVE(the International Electric Vehicle Expo)と、済州島において観光、教育、医療、先端科学など様々な分野で地域振興事業を展開している公営企業であるJDC(Jeju free international city Development Center)、KOTIと当研究所の4者によるジョイントワークショップに参加し、「カーボンニュートラルのリーダー都市、済州市のe-モビリティ移行」をテーマとして、韓国側からのEV EXPOの開催状況や自動運転の進捗状況などの発表を聴講し、4者での議論を行うなどの交流を行いました。
さらに、翌日には、済州島北部にある水素ステーションを見学し、運用状況と今後の計画などについて、知見を深めました。
会議内容
(1) IEVE – JDC – JTTRI – KOTIジョイントワークショップ
当研究所側から宿利会長が、KOTIとの関係は1993年の第1回Jointセミナー開催や2000年のMOU締結など長い蓄積の上に成り立っており、今回の第18回セミナーを開催できたことやIEVEやJDCという済州島で先進的な取組みを行っている団体とのワークショップの機会を設けていただいたことに謝意を示した、開会挨拶を行いました。
開会挨拶(宿利会長)
開会挨拶(KOTI オウ院長)
その後、IEVEのキム会長から「カーボンニュートラルに向けたe-モビリティの道のり」と題し、EVの歴史、豊富な再生可能エネルギーを活かして済州島をEVのtest bedにするなどのカーボンニュートラルに向けた、ハワイ、沖縄等との連携も意識した取組み”Carbon Free Island (CFI) Jeju 2030”を始めた経緯、そしてIEVEが主催している済州島でのEV EXPOについて発表がありました。これまではEV EXPOであったところ、来年からはe-Mobility EXPOとして開催し、自動車に限らずモビリティ全体での電動化を促進するための取組みを進めていることも紹介されました。
続いて、ホンデ大学のムン教授から「スマートシティにおける自動運転モビリティ技術とサービスの変化」と題して、スマートシティにおける自動運転によるサービスについて発表がありました。発表の中では、スマートシティで自動運転が利用されるのは個人の乗用車ではなく、公共交通やサービスとすべきという考え方や、サービスが先に検討され、それに合わせたモビリティが選択できるプラットフォームを構築するSaaM (Service as a Mobility)という考え方についても紹介されました。
IEVE キム会長の発表
ホンデ大学ムン教授の研究発表
これらの発表に対するディスカッションパートでは、当研究所側からは屋井所長が、EVは地球規模の問題を解決する手段の1つ、自動化は地域の問題を解決する手段の1つであり、どちらも利用者個人の問題ではないため、今後取組みを進めるためにどのように合意形成をしていくかを考える必要があるというコメントがありました。また、閉会挨拶時には宿利会長から、マイカーよりも公共交通の自動化が重要であり、1人1人が安価で自由に移動できるようにすることも必要、またそのような議論の全体像を示していくことも当研究所に必要な活動であるという発言がありました。
ディスカッション(屋井所長)
ディスカッション(JDC キム事務局長)
閉会挨拶(宿利会長)
会議後のフォトセッション
(2) JTTRI – KOTIジョイントセミナー
当研究所側から宿利会長が、会議の諸準備について、韓国交通研究院に対し感謝の言葉を述べた後、現代の日本社会がモビリティ変革の重要性に気づいていないという課題があり、以前は高度成長期における、自動車事故・渋滞増、電車の混雑、都市内物流の混乱、公害等の課題に対して、社会全体で同様の問題意識を持っていたが、価値観が多様化し、コンセンサスが取りにくい現代では、研究機関が今後の方向性についてわかりやすいメッセージを出していく必要性が高まっていることを紹介しつつ、お互いの研究成果や最新の情報・知見を共有し、有効活用することの重要性に触れながら、開会挨拶を行いました。
開会挨拶(宿利会長)
開会挨拶(KOTI オウ院長)
その後、韓国側からはリン研究員が「人口減少地域における移動権確保のための政策」と題して、韓国の地方都市における公共交通政策についての発表を行いました。韓国では2020年から人口減少が始まり、地方都市では高齢化が進んでいるため、遠隔地の指定路線バスに対する旅客運送法に基づく地方自治体財政の赤字が拡大しつつあり、地方中小都市のバス運営が非効率になっていることから地域状況に応じた路線等サービス見直しが必要であるという課題を説明したうえで、地方中小都市における移動権を確保する方策として、交通不便地域を特定するための基準、政府助成プログラムの統合管理システム及びプロジェクト評価計画並びに地方固有のモビリティ改善プロジェクトに対するインセンティブが必要であること、また、バス運営効率化のためには、病院やスーパーなどの施設を例えば5~10km以内に計画的に配置をしてバスの利用率を上げる環境整備に併せて、地域の既存運行事業者とプラットフォーム事業者の事業協力を通じてデマンド交通等と需要状況に応じた役割分担をして組合わせること、地方自治体が中心となって地方中心都市のサービスモデル・コンセプトを検討し、地域に適した持続可能なモデルの実証を重ねていく必要があることなどが提案されました。
続いて、パク研究員が「高齢者のためのモビリティサービスにおけるデジタル格差の解決策」と題して、高齢者のデジタル情報化水準が低いために交通サービスを受けられないとの課題に対する緩和策についての発表を行いました。最近のデジタル化事例を分類整理した上で、デジタル利用やデジタル化されたモビリティの利用度などに関する高齢者への面接調査や同行調査の分析を踏まえ、モバイルを使ったデマンド交通サービスについてのデジタルリタラシー教育の実証試験によって、高齢者による抵抗感がどう減るか、利用する過程で何が課題か、年齢層・地域類型・教育レベル・経済的地位によってどういう傾向があるかについての評価結果を示した上で、デジタル化を進めことの社会的合意を得ること、広報によりデジタルモビリティサービスに関する心理的な障害を緩和する必要があること、デジタルリタラシー教育をサービスと一体で提供すべきことなどが提案されました。
当研究所からは竹島主任研究員が「2050年における日本の公共交通戦略」と題して、当研究所の共同研究調査「2050年における日本を支える公共交通のあり方」(2021年度-2022年度)の成果を踏まえ、2050年の日本の社会の変化を想定し、2050年の日本の目指すべき社会の姿を「生活」「安全・環境」「国土・国力」という3つの軸から描き、そこからバックキャスティング手法を用いて、目指すべき社会を実現するために公共交通が抱える課題を解決するための9つの行動の提案について発表しました( なお、当該共同研究調査の成果の詳細については、本年6月に当研究所から「2050年の日本を支える公共交通のあり方に関する提言」として発表済み。https://www.jttri.or.jp/research/transportation/teigen_20230614.pdf )。また、当該共同研究調査を受けて、今年度に着手した共同研究調査「交通機関の脱炭素化・自動化が交通産業に及ぼす影響と対応方策」の状況についても紹介しました。
また、ホー研究員が「日本の地域交通産業の強化策」と題して、当研究所の共同研究調査「地域交通産業の基盤強化と事業革新に関する調査研究」(2022年度-)の成果を踏まえた発表を行い、現行の法制度等の抜本的な見直しや事業環境の整備などで、地域特性に応じたサービスが可能となる地域交通産業の抜本的・包括的な基盤強化・事業革新の方策について紹介しました。( なお、当該共同研究調査の成果の詳細については、本年9月に当研究所から「地域交通産業の基盤強化・事業革新に関する提言『~地域交通革新~』」として発表済み。https://www.jttri.or.jp/research/transportation/teigen.pdf )
研究発表(竹島主任研究員)
研究発表(ホー研究員)
研究発表(KOTI リン研究員)
研究発表(KOTI パク研究員)
さらに、それぞれのテーマごとに、韓国側からの2つの発表に対して藤﨑主席研究員・研究統括、川﨑主任研究員・企画部長が、日本側からの2つの発表に対してパク主任研究員・キム主任研究員が、それぞれ討論に立ちました。まず、川﨑主任研究員・企画部長からは、リン研究員の「人口減少地域における移動権確保のための政策」の発表に関して、日本と韓国で同じような課題を抱えていることを認識できたとコメントしたうえで、当研究所での地域交通革新や高齢者の移動手段確保方策に関する提言について紹介しました。次に、パク主任研究員から、竹島主任研究員が紹介した9つの提言について、韓国の2050年の政策への示唆が多く、共同研究ができそうなところも多いと感じた旨コメントがありました。続いて、藤﨑主席研究員・研究統括からは、パク研究員の「高齢者のためのモビリティサービスにおけるデジタルデバイドの解決策」に対して、日本でも同様な課題があるが、この発表のようにきめ細やかな分析を行った例はなく、高齢者のデジタル格差削減のためにデジタルリテラシー教育を行うことは重要である旨コメントをしつつ、当研究所の共同調査研究「高齢者等の移動手段の確保方策」(2021年度-2022年度)の成果を踏まえ、大都市郊外部(福岡市壱岐南地区)、地方都市(安積地区を含む福島県郡山市)及び過疎地域(岡山県久米南町)の各地域において、利用者が着実に増加しているデマンド乗合交通事例の研究を行い、「ドアーツードアー方式か、ミーティングポイント方式か」、「運賃は都度払いか定額か」、「AI活用の要否」、といった論点に関する分析結果を簡潔に紹介しました(なお、当該共同研究調査の成果の詳細については、本年6月に当研究所から「高齢者等の移動手段確保方策に関する提言」として発表済み( https://www.jttri.or.jp/202306_Elderly_People_teigen.pdf )。また、来年早期に出版見込み。 )。最後に、キム主任研究員からはホー研究員の発表に対し、新しい技術が受け入れられるのには時間がかかるが、それを解決するには地域を形成するステークホルダーとの親密な関係や頻繁なコミュニケーション、体系的な支援が必要であるとのコメントがありました。
討論(藤﨑主席研究員・研究統括)
討論(川崎主任研究員・企画部長)
討論(KOTI パク主任研究員)
そして、最後に、オウ院長から、日韓共通の課題があることを認識できたので、今後共同研究をしていきたいとの韓国側の閉会挨拶がありました。また、屋井所長から、今回のセミナーの主題は「高齢社会での公共交通のあり方」としてまとめられるものの、きわめて多くの課題を有しており、韓国とも協力しながら、社会の価値を先導する・後押しする取組みが必要であるとして、日本側の閉会挨拶を行いました。また、宿利会長から、人口減少・高齢化の問題は今や両国共通の問題であるとの共通認識が得られたことは意義深く、お互いに今後も研究に取り組んでいく必要があること、また、今回の議論を、同じ課題を抱えている関係の人々にも共有し、世の中に先駆けた問題提起をすることも我々のような研究機関の役割であるとの発言がありました。
閉会挨拶(屋井所長)
会議後のフォトセッション
テクニカルビジットで訪問した済州島の水素ステーション