地域公共交通シンポジウム
~地域交通産業の革新!~
- その他シンポジウム等
- 総合交通、幹線交通、都市交通
地域公共交通シンポジウム
日時 | 2023/12/21(木)15:00~18:00 |
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会場・開催形式 | ベルサール御成門タワー3階ホール (及びオンライン配信(Zoomウェビナー)) |
テーマ・ プログラム |
【開会挨拶】 宿利 正史 運輸総合研究所 会長 【取組紹介】 テーマ 「持続可能な地域公共交通に向けた広島都市圏での取り組み」 講 師 仮井 康裕 広島電鉄株式会社 代表取締役専務 テーマ 「ローカル交通インフラのサステナビリティ」 講 師 松本 順 株式会社みちのりホールディングス 代表取締役 グループCEO 【パネルディスカッションおよび質疑応答】 コーディネーター:山内 弘隆 武蔵野大学経営学部特任教授 一橋大学名誉教授 パネリスト :小嶋 光信 両備グループ代表兼CEO 一般財団法人地域公共交通総合研究所 代表理事 :松本 順 株式会社みちのりホールディングス 代表取締役 グループCEO :仮井 康裕 広島電鉄株式会社 代表取締役専務 :森 雅志 富山大学客員教授 前富山市長 :宇都宮浄人 関西大学経済学部教授 :宮島 香澄 交通政策審議会委員 日本テレビ報道局解説委員 :城福 健陽 元京都府副知事 運輸総合研究所特任研究員 【閉会挨拶】 佐藤 善信 運輸総合研究所 理事長 ※今後、内容については若干の変更がある可能性があります。 |
開催概要
地域交通は、カーボンニュートラルの実現、国の強靭性の向上などの国家課題、地 域・国民のウェル・ビーイングによる豊かな生活の実現などの国民課題に貢献する重 要な社会基盤です。 本シンポジウムは、地域交通に関する現行の制度や取組みでは直面する危機的状況 に対応することが困難となっている状況に対し、そのサービスが基本的には民間企業 に委ねられている我が国において、持続可能な地域交通の確保に向けて、現在の枠組 みを超えて、「地域交通産業の革新」という喫緊の課題について考えることを目的に 実施しました。
主なSDGs関連項目プログラム
開会挨拶 |
宿利 正史 運輸総合研究所 会長 開会挨拶 |
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取組紹介 | |
取組紹介 | |
【パネルディスカッション】 |
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コーディネーター |
山内 弘隆 武蔵野大学経営学部特任教授 一橋大学名誉教授 |
パネリスト |
小嶋 光信 両備グループ代表兼CEO 一般財団法人地域公共交通総合研究所 代表理事 |
パネリスト |
松本 順 株式会社みちのりホールディングス 代表取締役 グループCEO |
パネリスト |
仮井 康裕 広島電鉄株式会社 代表取締役専務 |
パネリスト |
森 雅志 富山大学客員教授 前富山市長 |
パネリスト |
宇都宮浄人 関西大学経済学部教授 |
パネリスト |
宮島 香澄 交通政策審議会委員 日本テレビ報道局解説委員 |
パネリスト | |
閉会挨拶 |
運輸総合研究所 理事長 閉会挨拶 |
当日の結果
当日の結果
●取組紹介1
「持続可能な地域公共交通に向けた広島都市圏での取組み」
仮井 康裕 代表取締役専務 交通政策本部担当
地域交通産業の革新という大きなテーマの中で民間事業者としての考え方を説明したい。広島は地下鉄がないため、軌道が広島の街中の交通機関になっており、1日に軌道で約10万人の輸送人員がある。この軌道を中心としてバス路線網がある。会社の売上の半分はバス事業であり、広島都市圏だけでなく、県の北部、西部、南部県央部など、広島県のほぼ3分の2を広島電鉄グループのバスで運行している。その他に不動産事業を進めており、実は運輸業の赤字補填を不動産の黒字で賄う形が何年も続いている。これがコロナで一層、輸送人員が低迷するということになっている。高齢化が進んでおり、運転手の確保が喫緊の課題。運転手が高齢化しており、タクシー、ライドシェアの話が出ているが、バス事業にも大きな影響を今後与えるだろうと注視している。今からどういう戦略で地方の公共交通を存続させていくかを検討している。当社の取り組みということで3つの柱を立て、会社で取り組んでいる。
1つ目は分かりやすく使いやすい公共交通、2つ目はICTを活用した事業の変革、3つ目はまちづくりである。
1つ目の分かりやすさについて。2020年11月に特例ができ、時限立法ではあるがこれを利用して、今の広島市と話をしながら広島の公共交通を担う主な7社で共同経営計画を策定し、協定を締結した。広島は路面電車とバスで均一運賃制と区間運賃制が併存していたところ、今は220円という均一運賃制を適用している。これでバスと電車が同じ運賃になったということで、新しいことができることになった。また、区間制の定期券という概念を変えようということで、エリアフリー定期券として、このエリアであればどこでも行ける、それから、どのバス会社でも乗れるというものを作っている。共通定期券、エリアフリー定期券を持っていれば、どの会社のバスにも路面電車にも乗ることができるものを作った。そのエリアフリー定期券の利用が増えている。市内電車は4%しか定期券が伸びていないが、バスは22%も増加している状況である。このほか、軌道では乗車する扉と降車する扉が決まっていた。一番後ろの扉から乗った人は、降りるためには前まで行かないといけなかったが、今は全ての扉から乗降できるシステムとしている。これにより速達性を向上させることにつながっている。これもICTを活用した事業ということと、均一運賃にしたからできたことでもある。
2つ目のICTを活用した事業の変革については、ひとつはIT点呼である。運行管理者はその日の残り1本の最終便が営業所に戻ってくるのを待つために、営業所にたくさん、さらに各営業所に必ず何人か残っている状況である。それを中央指令のようなところでまとめて管理できないか、特に朝の早い時間、夜の遅い時間を効率的に管理するには今の道路運送法の営業所単位という概念ではなかなかうまく行かないため、このITを使った点呼・運行管理の集中化を図っている。将来、様々なデータを活用してバスロケや道路の渋滞情報、天候といったものを全部見ながら管理できるものをイメージしている。これでコストダウンを図りたいと考えている。
3つ目、まちづくりについては、2025年に路面電車をJR広島駅の2階改札口付近に乗り入れる工事をしている。これでJR広島駅から、市内中心部まで6分~7分は時間が短縮できる。それに合わせて軌道も循環線など新しい系統を設定し、バスもこれに合わせた再編が必要と考えている。
新しい乗車券システムの導入により、広島で独自に考えている運賃制度を実現したいと考えている。例えば、一つは1円単位の運賃を実現したい。今後、燃油サーチャージなども考えたい。それから金額指定定期券、例えば220円区間全線定期券とすれば、220円以内の運賃であればどこの区間でも自由に乗車できるというようなものを考えている。要は固定客を作ることが、地域公共交通を維持していく一つのキーではないかと考えており、広島市民券のようなものを月に1万円で買っていただければ、もうほとんどの公共交通に乗ることができると。そうであれば自家用車は不要であるというようなものを作っていきたい。
地域交通デザイン会社について検討している。今は行政には地域内の公共交通を維持するための計画を検討するノウハウが乏しく、各事業者それぞれが企画、販売等の業務を行うなど、地域全体で見ると効率的な運営が出来ていないという課題がある。民間交通事業者のノウハウを生かして地域公共交通の運行計画などを策定するとともに、後方業務を一括して行うことで、業務の標準化及び経費削減につなげ、持続可能な地域公共交通の実現を目指すこととしている。今、協調・共創プラットフォームとして、システム、車両、バス停、運行計画を事業者と行政が一緒に考えてバス事業者が運行していく、それを見直していく、そういうことができないか、と考えている。広島市だけではなく県、他の都市でも一緒に使っていくことで、そのようなシステム構築の費用が少なくて済むようにする、ということを考えている。
●取組紹介2
「ローカル交通インフラのサステナビリティ」
松本 順 株式会社みちのりホールディングス代表取締役グループCEO
我が国では、1960年代の終わりには1年間に100億人以上が乗合バスを利用していたが、自家用車の普及とともに利用者数は減少し、21世紀に入ってからは、下げ止まっている。その後、直近ではコロナ過の影響で急速に減少したが、コロナ禍を除いて考えてみると、まさに踊り場にあった。これにはいくつかの背景がある。高齢者の増加、若者の車離れ、インバウンドの旅行者が路線バスに乗る傾向等である。2015年のデータを基準にすると、各都道府県の輸送人員推移には大きな差があり、10%以上増減している県もある。私たちのグループは、茨城、栃木、福島の三県の大半をカバーしているが、利用者数を増やすことができている。
主要な運行コストは人件費、燃料代、車両修繕費の3つに分かれているが、地域ブロックごとに、実車走行キロ当たり原価比較を行うと、人件費は、ブロックごとに大きく異なる。走行に時間を要する渋滞が多い場所や集積度が高い地域ほど高くなるが、それだけでは説明のつかない差異が生じている。燃料代は燃費と所要時間、油槽所からの距離によって決まるが、特定のブロックでは別の要因が働いているように見える。車両修繕費に関しては、車齢が重要な要素であり、車両平均年齢が15年以上のみちのりグループでは24円程度であるが、それと比較して説明のつかない数字になっているブロックもある。
また、2019年度で公営バスのキロ当たりのコストが731円であり、民営バスの452円を上回っている。公営バスの走行キロは全体の16億キロのうち2.2億キロの部分を占めている。この2.2億キロを民間のコストで走行できた場合、経常収支は大幅な黒字になる計算となり、路線バス事業全体の経済的な持続可能性を考える上では、民営化は有力な選択肢になるのではないかと考える。
現在の最大の課題は運転手不足である。対策の第一は、運転手の待遇改善である。私たちのグループ会社であり、栃木県最大のバス会社である関東自動車では、今年の春闘で6%の賃上げを行った。社員の豊かな生活を実現することは、経営者の責任であるが、そのためには、持続的な労働生産性の向上が必要である。労働生産性向上や社会課題の解決のために、みちのりグループは、各種のデジタル化を進めている。デジタル化の目的は、ユーザビリティの向上とオペレーションの改善の二つである。全国各地で導入が進んでいるAIオンデマンドは、ユーザビリティとオペレーション改善の両方に効果がある。AIオンデマンドバスにはリアルタイム性、双方向のコミュニケーション、バス停の柔軟性といった三つの特徴がある。利用者と事業者の双方向かつリアルタイムのコミュケーションにより、10分ないし15分のうちにバスがやってくる。デジタルマップを活用してバス停の数を増やせば利便性が高まる。多くのバス会社がデジタル化を進めてきているが、課題もある。業界全体でシステム間で共有するデータを決め、標準規格を定める。そして、構築されるデータベースと、各アプリ、各システム、との間でやり取りする方法を具体的に決める。このようなことを業界共通で成し遂げることができれば、その後のデジタル化は非常にスムーズに進んでいくことになる。
補助制度に関して、従来の制度には三つの課題がある。一つ目は赤字補填のため、事業者にインセンティブが働かないこと、二つ目は単年度補助しかないため、長期ファイナンスの原資にならないこと、三つ目は路線単位での補助のため、交通網としての視点が弱いこと、である。これらを解決するために創設されたエリア一括協定運行事業は、自治体と交通事業者が一定のエリアで複数年の協定を締結して、定められたサービス水準で運行を継続していくという制度である。この制度について、私は長野県の松本市でアドバイスをさせていただく機会があったが、より多くの自治体がこの制度を活用していくことを期待している。
路線バス、高速バス、貸切バス等を総合的に展開するバス事業者が各地の路線バスネットワークを支えているが、実態としては、路線バスの赤字は補助金で賄いきれず、高速バスや貸切バスの利益による内部補助で路線を維持している。しかし、そのバス事業者は、高速バスや貸切バスの専門事業者と平場で競合しているので、フェアなあり方を考える必要がある。また、現在、全国各地の交通インフラはバラバラに点在している。交通インフラは非常に幅広い概念であり、鉄道や貸切バス、デマンド交通などが含まれる。これらを集約統合していくことで、デジタル化の促進、生産性向上、内部補助の強化が期待できる。その過程で、民営化やデジタル化、モード転換も組み合わせていく。更に、一定規模の地域の交通を担うインフラ事業者は、コーポレートガバナンスの整った企業であるべきだ。コーポレートガバナンスの整った企業に公共交通をより大きなエリアで任せることができれば、路線の維持など地域の交通インフラのサステナビリティの確保に効果がある。
みちのりグループは、マーケティング活動を通じて、移動需要を創出し、乗車密度を高め、労働生産性を向上させ、労働者の報酬を増やし、設備投資を継続し、交通インフラを発展・維持することで地域の交流人口の増加に貢献することを使命と考えている。
●パネルディスカッション・質疑応答
[コーディネーター]:
山内 弘隆 武蔵野大学経営学部特任教授、一橋大学名誉教授、運輸総合研究所研究アドバイザー
地域交通産業の基盤強化・事業革新に関する検討委員会 座長
[パネリスト]:
小嶋 光信 両備グループ代表 兼 CEO、
一般財団法人地域公共交通総合研究所代表理事
松本 順 株式会社みちのりホールディングス代表取締役グループCEO
仮井 康裕 広島電鉄株式会社 代表取締役専務
森 雅志 富山大学客員教授 前富山市長
宇都宮 浄人 関西大学経済学部教授
宮島 香澄 交通政策審議会委員、
日本テレビ報道局解説委員
城福 健陽 元京都府副知事、運輸総合研究所特任研究員
○地域交通産業の基盤強化・事業革新に関する提言
城福 健陽 元京都府副知事、運輸総合研究所特任研究員
パネルディスカッションに先立ち、2023年9月14日に公表した地域交通産業の基盤強化・事業革新に関する検討委員会<提言>の報告を実施。地域交通産業のサービスが競争で利便向上等が期待できる地域、そのサービスの確保・維持に一定の公的補助が必要な地域、商業ベースのサービスが成立しない地域など、地域カテゴリーごとの制度構築や地域交通の確保責任主体の法律での明確化の必要性等について述べた。
(Ⅰ部)地域交通産業の基盤強化・事業革新の推進のための基本的な事項
【山内座長】
●岸田首相が、新しい資本主義を提唱した。労働分配率をあげ、国民の懐を豊かにすることで、マクロ的な有効需要を創出して持続的な経済成長を目指すことだと理解している。地域交通の観点では、デジタル田園都市国家構想という議論があり、デジタルを活用しながら豊かにしていく、としている。国土交通省では、地域の公共交通リ・デザイン実現会議を発足し、各省庁でのモビリティに対する、ある種権限を纏めることによって、効率的に地域交通を再活性化させようという議論をしているところである。
●提言の内容について、突飛なことは言っていない。法制度にはなっていないが、実際に地域で取組まれていること、政府の方針でだされていることを踏まえ、さらにもう一歩というところの提言をした。これから実際にどうやっていくのか、世の中に受け入れられるにはどうしたらいいのか、ということが議論できればいい。
【宇都宮委員】
●地域交通産業は、注目されている議論であるが、様々な地域交通があり、昨今のローカル線問題をとってみても議論が拡散していると思う。今回の提言は地域カテゴリーをABCと明確に分けている。Cの過疎地については今までも議論があったが、Bという、日本の地方圏のかなりの部分を担う地域が政策的にエアポケットであったのではないか。提言ではこの部分について焦点を当てた。
●また、提言では、地域交通をまちづくりのインフラとしての公共財と言い切った。経済学者として公共財ではないと言い続けてきたが、そういった意見を踏まえても敢えてそう言った。Bの地域については商業サービスで一定の会社があるが、経済学で言うところの社会的な最適解にはならない。市場の失敗が起こっている。公と民が連携して最適解を求めていくためには、今までどおりのやり方ではできない。
【森委員】
●今回の提言の中で、基礎自治体の役割について明確に触れていることは心強い。私たちが公共交通を軸としたコンパクトなまちづくりを発表したのは2003年、20年前であった。当時は民業に行政が積極的に関与することに対し、様々な意見があった。時代の変化、世の中の変化に嬉しさを感じている。基礎自治体の責務は市民一人一人のQOLをあげて、ウェルビーイング、さらにはシビックプライドをあげていくことだ。福祉、文化、教育の充実、企業誘致や商工行政、その柱のひとつとして交通が存在している。行政も一緒になって社会資本として整備し、関わっていくことがスタートだ。これからの人口減少を見据えていくと、教育や文化行政と同じように、小さく見ることが許されない、大事な問題が交通問題である。
【小嶋委員】
●規制緩和により、特に地方の主だった企業が31社程度倒産した。このまま、この制度で維持できるのか、赤字補填ではなく、黒字化して自立的に地域交通を担える事業とすることができるのか、問題意識をもって取り組んできた。地域公共交通活性化再生法等、制度改革は行われるが、本質の改善がなされていない。コロナ禍等を通じて、考えられないような運転手不足が業界を襲っている。大型二種免許を取得しようとする人は過去の10分の1となっている。今の制度改革を待ったなしでやっていかないと大変な時期に来ている。
●提言は、産官学の地域公共交通を本当にやっている方々で議論をしたことなので、実務家から見ても役に立つ改革が提案されていると思う。病巣ははっきり見定められた。処方箋を書いて、日本の地方交通をサステナブルに、元気にする方策はある。
【松本委員】
●大義として、国全体の安全保障や気候変動を背景とした自然災害等に対するレジリエンスという観点で、産業集積の地域分散が重要である。交通インフラは各地域の中や地域間を結ぶ手段であるが、その維持・発展が欠かせないということを、皆様とも共有したい。やはり、交通インフラ業界の集約・再編を進めていき、地域間で横串を通して、より高次元にデジタル化や省力化を含めた生産性の向上を進めて行くべきではないか。集約再編を進めていくと、より大規模になる。仮にネーションワイドな事業になるとした場合、先ほどから出ているABCでいうCまで、内部補助で救うことができるかもしれない。
【仮井委員】
●地方公共交通は、大都市以外、ビジネスとして成立していないものが多いが、絶対必要である。国として、福祉の分野に入っているものもかなりあると思うが、どうやって残し、活用していくのか。今回の提言にヒントや答えが入っているのでは、と思う。また、このような産業に若者が来るか、というと、来ない。運転手だけではなく、プランニングする人材も来ない。魅力的ではないためである。チャレンジできない産業や会社は魅力がない。運輸業への投資はチャレンジだと思っている。事業者だけではなく、行政も含めて、新しいことにチャレンジできるような制度の下で、なんとかビジネスとして成立させたい。
【宮島委員】
●行政だけではなくて、地域に住むあらゆる分野の人たちが、自分たちのインフラをどうしたいのか、きちんと議論して打ち出すことがとても大事である。協議会でも、単に自治体のトップとその町の商工会議所の偉い人等で話し合うのではなくて、地域の若い人やあらゆる側面を持つ人に参加していただきたいと思っている。一方で、日本の財政は急速に悪くなっている。さらに、次の世代が生まれなくなっているという状況で、どうするかを考えなければならない。フューチャーデザインという考え方があるが、まさに、地域において、それぞれが30年後に自分だったらどうするか、という視点も入れながら、残すもの、変えるものを効果的に考え、しっかりとしたプランを作ったところに財源を移すことには納得感が出る。
【城福委員】
●都道府県や市区町村への確保責任について、法律上明確にするというのが一つの柱。この考えに至ったのは、旧運輸省では需給調整行っていたが、その際は、国が直接地域の交通に対して免許制ということで主体的に関与するとともに、都道府県をとおして、事業者への間接補助を行っていた。そのため、基礎自治体が主体的に関与することがない状態であった。規制緩和が行われたが、昨今の状況となった。地域公共交通活性化法で、地域全体で交通を考える枠組みができ、700程度の自治体で法定計画が作られているが、交通の確保の責任はあいまいなままであった。これを、法制度できちんと決めるべき、ということで、提言の中では自治体の役割は法律で明確にすべきではないかということを記載させていただいた。
(Ⅱ部)地域交通産業の基盤強化・事業革新に向けた個別の取組み事項
【宮島委員】
●事業ごとに良かれと思っていたことを考え直し、地域全体として何が良いのか、数十年後にとって良いのか、を考えるべきである。エリア一括長期運行委託は、地域外の事業者が地域全体のことを考えられるのか、ということに対して調整が必要である。上下分離方式は、お金の責任を自治体に投げ、自治体は国等からお金を引っ張って、運営は変えない、という今までのやり方ではなく、根本的に変えて実態がしっかり動く仕組みが必要である。DX化が最も魅力的な部分はデータが取れることであり、ビッグデータを活用、共有し、どうすれば、市民、自治体、事業者が幸せで、次に繋がるのか、ということを議論ができると良い。また、様々な人材が生き生きと働ける形にしない限りはそのエリアは衰退していくので、それを支える重要なパーツの一つが交通インフラであり、若い人材が集まる業態になることを期待している。
【松本委員】
●自動運転は、運行管理側でモニターで監視する必要があり、モニタリング対象の車が1台では生産性は上がらず、複数になって初めて人手不足対策になるが、追求していかなければならない領域である。
●通学定期は割引分を事業者が負担していることに違和感がある。教育予算の中で賄っていくべきである。
●ライドシェアについて、道路交通の中で乗合バスは最大のシェアリング効果を持っており、それよりもシェアリング効果の低い、例えば相乗りタクシーのようなものがライドシェアと称して乗合バスと競合する形になると、中核都市の住民にとって必要な安価なミニマムサービスが崩壊するということになりかねない。当然ながら、過疎地や交通空白地帯は事情が異なる。
【仮井委員】
●事業者も、儲からないので、補助金をもらうためにバスのダイヤや運び方を考えていることは反省点である。自治体も補助金を出しているのでやって当然、というところがあるが、自治体・行政と事業者がもっと真剣に話をすれば、まだ工夫の仕方がある。
●運賃を上げることは総反対されるのに、賃金を上げることを求められる状況をどうすればいいか。また、新聞等でバス転換の提起がされることがあるが、鉄道は乗ってないといっても1000人、2000人の乗客があり、それを運べるバス、運転手がいるのだろうか。事業者、地域によって問題点は違うが、それを行政と一緒に話をしていくきっかけになれば良い。
【小嶋委員】
●経営努力をして黒字化し、サステナブルに地域に貢献できる企業を作ることが目標である。規制緩和という形で競争を促し、補助金で手当てした結果、赤字の会社が増えていった。補助金は、短期で経営に対し支援したり、設備に使うことは有効だが、オペレーションの方に使っても黒字にはできない。
●方法は、「法整備」、「財源」、「利用促進」の三つと公設民営・民託の活用である。利用者の利益保護は健全な事業者があって初めて成り立つものであり、法律で健全に発展するような事業を作り上げ、利用者に利益として還元していく仕組みにしなければならない。財源は、事業者が本当に元気になるような形で使えば、経営努力が生きていってそれほど大きな額にならない。そして、国策として利用促進に取り組まず、マイカーに過度に依存してしまった地方を放っておくと、次の世代は先が見えなくなる。
●また、赤字路線や必要な路線のみ、みなし公設という形で固定資産税分を支援したり、バスをリースにするなどの支援をして、お客様を増やしてコストを下げていけば黒字を増やしていける。民間の経営ベースが利用者の利益の方に向かうような経営努力ができるような仕組み、制度にすることが大きな革新である。
【森委員】
●行政も都市経営をしなければならない。交通が街の魅力を上げるという視点を持つことが大事であり、都市経営の観点から見ても非常に有効な投資である。
●首長は、アセットマネジメントと同時に、どこに投資するのか、やめるのか、シュリンクさせるのかという方向性を出してぶれないことが重要であり、とりわけ交通政策は、法定協議会による交通計画のように既判性を持って、安定したものとして作っていくことが大事である。大きな都市政策の柱としての交通の重要性を認識し、優先順位を真剣に考えてほしい。
【宇都宮委員】
●将来の持続可能な社会、将来に向けたビジョンをしっかり考えて、バックキャストで今何をしなければならないかを考えるべきである。日本は事業単位で、目先の需要追随型の建設や交通が非常に多く、バラバラに投資が行われてきた。道路投資をすると実は渋滞が悪化するというダウンズ・トムソンパラドックスに陥っている。ヨーロッパでは「SUMP(Sustainable Urban Mobility Plans)」、持続可能な都市モビリティ計画という指針が出され、統合的な政策、一つ一つの政策が整合的に同じ方向を向いて計画を立てなければいけない、ということが強く言われている。また、公が地域の計画とそれに基づくサービス水準を決め、企業が高い生産性の下、消費者に沿った良いサービスを届けるという役割分担がされ、契約によってガバナンスを効かせながら公民が両立する仕組みができており、見習うことがあるのではないか。
【城福委員】
●自治体の交通の確保責務や法定協議会設置義務といった枠組みを法にきちんと位置づけ、制度を国がしっかり示した中で、「地域交通は官民連携の社会資本である」ということを法に位置づけて取り組んでいくことが重要である。国、都道府県、市町村の取組みの温度差、官民の連携の進捗の温度差、地域交通産業界の企業間の温度差など、それぞれの温度差を解消していくためにも、その基本的な枠組み作りと、道路運送法の見直しも含めた制度作りをしっかりしていくということである。
質疑応答
Q:鉄道利用に関して、自家用車から鉄道利用に変えることが課題解決の大きな要因であると考えるが、自治体の取組みにはあまり見られない。自治体の取組の課題は何か。
A:全維持か全廃止という議論になる前にきめ細かく可能性を探ってほしい。増発実験やパターンダイヤを組むなど、交通事業者と一緒に様々なことに取組んでみてほしい。(森委員)
Q:障害者割引制度も事業者負担であり、行政補助などを考えるべきだと思うが、ご意見を伺いたい。
A:社会全体が受益者であるにもかかわらず、負担は事業者。事業者ということは鉄道なら鉄道利用者の負担となり、受益と負担が乖離している。新しい時代に向けて考え方を変えていく方向で今後、議論を進められると良い。(宇都宮委員)
Q:道路政策のダウンズ・トムソンパラドックスを国交省は認めていないので、それを切り口にした交通政策の統合政策化は難しいのではないか。
A:こうしたパラドックスに気づかず、良かれと思って道路を広げてきたが、冷静に考えてみるとそうではなかったとすれば、そこから学んでいく必要がある。国交省を含めて、改めて全体を俯瞰して考えてみる時期であろう。(宇都宮委員)
Q:AIデマンドは過疎地域で最大公約数的な解と思えるが、課題は何か。
A:面的な交通として非常に有効だが、ネットワークの一つではなく、どうネットワークに繋いでいくかということが課題である。(仮井委員)
本開催概要は主催者の責任でまとめています。