迫りくるトラック運転手不足に対する戦略的政策提言
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第90回運輸政策セミナー
日時 | 2023/10/24(火)14:00~16:10 |
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会場・開催形式 | 運輸総合研究所2階会議室 (及びオンライン配信(Zoomウェビナー)) |
テーマ・ プログラム |
【講演】 迫りくるトラック運転手不足に対する戦略的政策提言 土屋 知省 東京海洋大学客員教授・工学博士 (一般社団法人 日本冷蔵倉庫協会理事長) 【コメンテータ】 田中 謙司 東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻 准教授 【ディスカッション】 モデレータ :西成 活裕 東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻 教授 参加者 :講演者およびコメンテータ |
開催概要
物流の持続可能性について、本年6月、政府は「物流革新に向けた政策パッケージ」をまとめたが、その中でトラック運転手等物流の担い手不足は、2024年度を超えて継続する構造的問題とされている。このため、政策パッケージでは、物流負荷軽減のため、業種・分野別の自主行動計画や、着荷主を含めた荷主・事業者の計画作成の規制的措置等が求められている。本研究は、トラック運転手について、従来の推計よりもより精緻な枠組みとして、①人口推計、就労傾向等を踏まえた供給と②自動車輸送統計等を踏まえた輸送機能別(幹線輸送、集配など)や品目別の需要の両方を定量的に予測した上で、将来的な需給ギャップを埋めるために、③輸送機能別に効率化による需要抑制策の効果を予測し、物流事業者、荷主及び行政の連携による政策を検討した。
本セミナーは、土屋知省氏(元 運輸総合研究所常務理事)によるトラック輸送の構造やドライバーの供給の特徴などの基礎的な分析とこれを利用したシミュレーション、政策提言に関する研究成果を基に、議論を行った。
プログラム
開会挨拶 |
佐藤 善信 運輸総合研究所 理事長 開会挨拶 |
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講演 | |
コメント |
田中 謙司 東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻 准教授 |
ディスカッション |
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モデレータ |
西成 活裕 東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻 教授 |
参加者 |
土屋 知省 東京海洋大学客員教授・工学博士 |
参加者 |
田中 謙司 東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻 准教授 |
閉会挨拶 |
屋井 鉄雄 運輸総合研究所 所長 |
当日の結果
■講演 テーマ:迫りくるトラック運転手不足に対する戦略的政策提言
講師:土屋知省 東京海洋大学客員教授・工学博士(一般社団法人 日本冷蔵倉庫協会理事長)
トラック輸送需要については、トラックの輸送構造に着目し、自動車輸送統計調査の個票データから主成分分析を行い、クラスタリングした結果、輸送機能(幹線輸送、大型輸送、中型輸送、集配、反復輸送)に応じた5つのクラスターに分類した。積載率や実車率、1回あたり所要日数など生産性指標に特徴があらわれ、これを活用し輸送量や必要車両台数、必要ドライバー数についてモデルを組んで推計した。
輸送機能ごとに輸送トン当たり必要な車両台数(必要車両原単位)は大きく異なり、ドライバーの人手のかかり方が異なることがわかった。さらに、貨物分類(NX総研の消費関連貨物、生産関連貨物、建設関連貨物の定義による)別で輸送機能の構成が異なり、消費、生産、建設の順で必要ドライバー数が多くなった。
政策パッケージの前提になった予測は貨物分類を問わず輸送構造は均質であるとして一体にみているが、ドライバー需要の小さな建設関連貨物の減少と、大きな消費関連貨物の微増、その下での総輸送トンの停滞に対して総ドライバー数が増加するという近年の傾向から、貨物分類別に2種類のタイムトレンドで輸送量を推計、輸送機能構成や必要車両原単位、労働時間規制強化などを考慮し必要ドライバー数の将来予測を行った。
2019年度に比べ2035年度までで15~25万人ドライバーが増える結果となり、労働時間規制や消費関連貨物の増加に影響される。
また、自動運転技術は抜本的な解決となるが、2030年までに広く商業化していないと考えた。
ドライバー供給については、近年の女性や高齢者の雇用促進を考慮し、既存の予測を活用するとともに、ドライバー職の選択モデルを独自に作成した。
ドライバー職への就職の特徴は、失業率の高い時期に増え、30代後半で定着、45歳以上を境に増え、生まれ世代(コーホート)の影響があった。ここから就職率を被説明変数とし、年齢と世代で回帰分析を行うと、年齢の効果は30代前半まで急速に増加して、以降増加を続けて65歳で急減した。世代効果は変動が大きいが、35歳時点の完全失業率と相関が高いことがわかった。コーホートクラウディング理論などと合致が見られた。
将来予測について、経済成長による就業人口増加、雇用促進策を考慮した結果、2030年度に現在の主たる担い手である40代後半、50代前半の第2次ベビーブーム世代が退職直前となり、2035年度に半数が退職となる。女性の雇用促進も、女性ドライバー等の割合が元々低いため、この世代の引退を補うのは難しいと思われる。
需給ギャップを見ると、2030年度に14~29万人(需要の約3割)の不足となるが、雇用促進により半分程度に削減可能と思われる。ギャップを埋めるのに必要な生産性向上の規模として、積載率や輸送頻度などの輸送条件を一律に10~20%増やす必要がある。これは流通在庫の増加をもたらすものだが、日銀の企業向けサービス価格指数で、トラック輸送費用が保管に比べ急騰しており、物流システムの再調整の余地はある。
政府が規制的な措置をとった背景として、供給側での曖昧な契約の下での荷待ち・附帯作業の発生、2024年の時間外労働上限規制でのドライバー不足、厳しい取引・雇用環境で低運賃・低賃金による人材確保の困難があり、需要側では、物流費込みの店着価格制のもとで物流負荷が見えにくく価格メカニズムが働いていない点や、荷主・消費者に課題が認識されず、過剰な物流需要を生じている点がある。明記されていないが、中小零細が多い物流業界で、荷主、元請け等の優位もあるだろう。
施策を経済的アプローチ、工学的アプローチ、社会的アプローチに分類したが、実施手法として規制的措置は新しい手法で、企業が各種アプローチを組み合わせ計画を作り目標値を定めモニターする、と理解している。 荷待ち・荷役時間の短縮は必須だが、必要車両原単位から必要ドライバー数の削減を考えると一日の作業時間における割合は比較的小さく、効果も比較的小さいと予想される。しかしながら業務の波動やリードタイム、積載率の向上などに目を向ける契機となる。
荷待ちは一種の混雑であり、到着量が荷役能力の限界に近づくと生じやすい。荷役時間の予約は導入効果はあるが、荷役時間や到着にはばらつきがあり、予約枠を大きく設定するとバース稼働率が悪くなるなど、完全ではない。
早期の情報共有により、適切な配車計画、荷役の事前準備、荷役予約の運用が容易になり、予約に合わせて講じる必要がある。
モーダルシフトは政府は10年で倍増としているが、物流センサスのデータより、地域別雑貨輸送において拡大傾向が見える。また、片荷はトラックとそれ以外のモードでパターンが違い、逆になっている部分もある。積み替え施設の整備等により改善する余地がある。
2030年代のドライバー急減は深刻なリスクであり、長期的視点に立って、物流の仕組み変更に着手すべきである。
データについては、デジタルタコグラフの更なる普及に合わせ、積荷情報やGPS情報を入れることで物流の生産性向上の検討に資するのではないか。
生産性向上には荷主の協力が必要で、ロット拡大や早期の情報共有、輸送頻度削減やバッファー在庫の保持などがキーワードとなる。また物流コストや製配販の連携も大事である。
最後に、行政にはデータの保存や活用の容易化などで、より幅広い研究の展開や実務への活用につなげることを期待する。
■講演に対するコメント
コメンテータ:田中 謙司 東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻 准教授
必要ドライバー数について、トリップデータの分析により輸送機能で分類を示した上で計算され、重さに注目することで各業種別に必要なドライバー計算されており貴重な分析となっている。データを使ってさらに効率化を上げることができる可能性は高いとの提案だったが、今はデータが足りず、物流でデジタル化、データ化できている部分は半分にも満たない。様々なデータ基盤の整備をすることで、さらに効率化が進む可能性は高い。 広い範囲で、戦略的にドライバー不足を定量的に計算され、さらに工学的なアプローチに加え社会的もしくは制度的なアプローチで改善の方法を提案されており非常に興味深い。
■ディスカッション
コーディネーター:西成 活裕 東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻 教授
参加者:講師およびコメンテータ
(西成)物流データに関し、あるべき情報項目や、データの共有の仕方などをどう考えるか。
(土屋)自動車輸送統計調査では発着地が都道府県単位でメッシュが粗い。デジタコはGPSより正確で、統計の取り方としてデジタルを活用し積み荷情報と組み合わせるとよい。作業ではトラックと倉庫で整合しておらず、両者合わせた作業時間であるべきでオペレーション上とれるといい。また倉庫は統計情報がPDFで提供されており、電子化され希望する形式でデータ提供されるべきではないか。
(田中)データ粒度によって深堀できるか変わるため、プライバシーを隠した個別データが分析できる形で利用できることは大事である。倉庫、運輸、生産、最終消費など、個別の最適化は他にしわ寄せがいく。連関をつけながら分析できる基盤ができると、全体での形も見えてくる。また統計ではなかなか取り切れないが、実は実務上ちょっと重要なもの、を取り込んでいくと、現実的な施策が出てくるのではないか。
(西成)2024年問題含めてトラックだけの問題ではなく、サプライチェーン全体の問題と考えるべきである。そのためには上から下までの情報共有、データの掛け合わせが必要。物流は協調領域という流れも出てきており、情報共有が2024年問題の解決にもつながると思うが、今までにない個社データや、違うシステムのデータをつなげる際のハードルや、解決策はどうか。
(土屋)倉庫のオペレーションで、入出庫依頼と運送依頼の情報の突き合わせが行われるが、輸出入貨物ではNACCSシステムにより、BLあるいはOLT番号に沿って貨物情報がセンターに登録され、保税輸送や輸送行為に使われ効率的である。政府が一定程度関与して一本化しているという要素は大きい。慣習の切り替えのきっかけに、政府の規制や標準化(アイテム、データ形式、データベース)があるのではないか。
(田中)今後トラックなど設備更新するときに何かしらのデバイスを付けられると、データが揃い、様々な施策もでき、さらにそこに乗っかるベンチャーや学生などそこに向けて才能ある方が入ってくる可能性が出てくるのではないか。
(西成)政府の役割は大きく、破れなかった慣習が今回規制まで踏み込み、民間ではできないことに踏み込み、しかも荷主までグリップかけたことを評価したい。特に物流価格をアクティビティベースで積み上げた上で物流事業者に還元していくというような議論は今までは考えられない。今回の政府の政策をどのように評価しているか。よく再配送が問題だというマスコミの議論があるが、今回の議論では全部が同じ均一な輸送ではなく、どこが効くかをデータから割り出した研究であり、再配送の削減の効果など含めて聞きたい。
(土屋)今までにない踏み込んだ決断だが、政府報告書にもある通り2024年は始まりであって終わりではない、通過点にすぎない。試行錯誤でやるべきことが多いと思う。
政策パッケージの数値目標があり、かなり再配達率の削減で物事を処理しようとしている部分あるが、品目別必要ドライバー数からみるとおよそ3万人のドライバーの再配達率が10数%で、単純に比例計算して3~4千人となる。また、おそらく再配達だけのために輸送はせず、通常の配達の中で処理されており、政府の目標はやや大きすぎるのではないか。
(田中)荷主と輸送業者の力関係をバランスさせようとし、3K的な環境を入りやすい環境に整え、DXを踏まえた効率化とセットで行っている。さらに国際的連関も含めた国際企業間の物流も担えるような視点を出され非常に画期的である。一方データシェアなどは、まだまだ作るべきで、そこを揃えた上で新しい業種が入り、効率化の産業が生まれ、日本のやり方が発信できるような視点で進めて欲しい。
またドライバーは、長距離輸送に関しては若年、特に女性に日帰りニーズがあり、中継輸送という観点で、中継地点を国として整備していきながら往復ができる、様々な形の整備が進んできている。活用の仕方や、効率化をさらに進めていくことを織り込んだ計画、見通し出してもらえると、研究者や産業界が入り、非常に進むのではないか。
(西成)2024年問題をきっかけに今後2030年やその先を考えた際、物流で大事なことやその方向性をどう考えるか。
(土屋)荷主の協力は必須である。在庫調整、納品期限、情報を出すリードタイムなど、協調領域をどこまで築けるかがキーワードとなる。自動運転の普及までどうつなぐか考えると、報酬などドライバーの働きやすい環境整備や、長距離輸送で言えば中継輸送やモーダルシフトでRORO船への切り替えなどが進んでいくべきである。 フィジカルインターネット的なものでは、積み替えを容易にする。一貫パレチゼーションによりコンテナ内に貨物が規格的に入り、輸送・保管され、できるだけ下流に流れていく方向に進んでいくべきだろう。
(田中)フィジカルインターネットのように、かなり細部までデータ上で分析をしながら、最適化が行われ、自動運転や自動化の進展が10~20年以内に起こる。そのプロセスでは産業が止まらないよう、ステップを踏む必要があり、技術的なサポートも必要である。一方すごい勢いで業態が変化している部分もあり、そこは無理に自動化、標準化せず、様子を見ながらうまく育て、ブレーキとアクセルの両面で進めていくことが重要である。物流データサイエンス的な観点で興味持つ学生が多く、次の世代につなげられたらいい。
■質疑応答
Q:ラストワンマイル輸送で自転車を使った配送するベンチャー企業もあり、トラックよりもハードルが低い乗り物に変換することで、ドライバー問題を解決することもできないか。
(土屋)アメリカのAmazonはギグワーカーを使って確保している。一定の効果はあるが、それで解決するか、データを集めないとわからない。労働条件との兼ね合いで人が集まるかも注視が必要である。
(田中)数理上は配送密度が高まると車よりも自転車、さらに最後は人の手押し車が向いている。都心の一等地などは自転車や電動手押し車、カゴ車などを活用することによって効率化は進む。階段などがボトルネックで、道路などのデータを集め、最終的にロボット化、自動化などがある。一方配送密度が低いところは自転車だと難しいが、自動運転自転車あるいは自動電気自動車であれば将来的には十分ありうる。
(西成)ラストワンマイルの輸送モードは色々可能性があり、ドローンやスマートシティでは昔のシューターの活用など、そういう実験都市があっても面白い。配送ロボットは既に社会実験で様々走っているが、エレベーター会社のシステムと配送システムがデータ共有できれば乗れるなど、進んでいく。ただ幹線輸送に関してはモーダルシフトなど活用するしかない。
Q:運ぶ側の価格交渉力の話について、政府のパッケージに言及がなかった。規制緩和で自由にやってきたが、今の過当競争あるいは非効率な状態に対し、政策的なアプローチも手ではないか。
(土屋)中小企業が非常に多いトラック業界には、元請下請け構造があり、元請けはある意味大企業でもあるとすれば、荷主との価格交渉力が復帰する余地はある。他方いわゆるさや抜け(手数料)問題はある。今まで日銀の卸売物価指数が上がらない時代が続いていたが、最近は上昇傾向で、トラックドライバー賃金、あるいは運賃の指数なども上がるようになり、供給がタイトなため力関係は変わってきていると思う。ただ、基本的に荷主の優位は変わらず、メニュープライシングも店着価格制の範囲内であり問題は多い。完全に価格メカニズムが機能するには時間がかかる、あるいは今の商慣行のもとでは完全にはできないかもしれない。
(田中)価格というのは非常に重要である。分析の中で機械産業などの輸送は比較的付加価値も高く、価格は安定しがちで、逆に売り上げに対する物流費が高い生鮮食品などは価格競争になり、うまく価格が抑えられるかが一つのポイントになる。国交省が価格のガイドラインを出しているが、強制力はないと思われ、モニタリングしながら持続可能な産業に持っていくべきである。実態として、荷主ではトラック、ドライバーが集まらないという認識しか持っていない。リバースオークションが主であり、参入が簡単な分野であることから、どんどん下がるという悪循環である。
2024年問題である程度M&Aが進みと、パワーバランスが変わってくる。M&Aが進まなくても、業種間アライアンスを組んで施設設備も共通化しながら、荷物も共同輸送が進んでいくと期待しているし、価格を維持できたらいい。みんなでウォッチしていくことが重要。移行期でうまく業界の慣習が変わるといい。
(西成)物流原単位のエビデンスを積み上げることで、価格交渉力に関わらず物流費も決まるはず。今回の政府の政策はそこに踏み込んでいる。 もう一つ、本当のモンスターは我々消費者ではないか。本当に明日欲しいのか、が問われている。デフォルトが明日だからそのまま頼むが、明後日でもよいこともある。リードタイムが1日増えると積載率も上がり、我々自身も注意しなければいけない。
Q:官民一体となって物流の改善に取り組んでいくべきときで、国だけでなく地方自治体等でそれぞれの地域の生活や産業の維持のために、求められる役割について考えはあるか。
(土屋)中継輸送のターミナルやフェリーの港湾など、物流拠点整備には農業振興法や都市計画法以外にも様々に引っかかる都市計画の問題があり、自治体では、柔軟に考える、あるいは積極的に物流施設を誘致する。税金を下げるなどがある。過疎地の物流では、地域の公共旅客輸送に物流も載せるなどある。
(田中)農産物や地方の産業によっては季節性があり、他の自治体とピークを分けるような連携をして、自治体のサポートによって難しくなるリソースを確保している。設備や物流施設を整備して誘致するというのはある。自治体のニーズに合わせた、自動化というかテクノロジーの導入みたいなものをすすめてもらえる面白い。
Q:荷主の価格弾力性がどこまであるのか。またドライバー供給では、女性が少ないことや高齢者が少ないのは、65歳から講習が始まることや、大型免許を持っていないことがどの程度影響するか。
(土屋)輸送需要の弾力性はそれなりにあるが、荷主の物流費は6~7%でやっている。付加価値の高いところは価格上昇を吸収でき、そうでない場合厳しい交渉になるだろう。メニュープライシングでロットを大きくするとか、在庫を持つコストとの兼ね合いで調整が起きていくのではないか。 ドライバー供給は長距離を走る大型と中小型で考えると、大型に高齢者が乗っていることが多く、再調整が進むのではないか。テールリフターなど荷役負担を軽減する技術整備が進むと多少伸びるか。
(田中)ビジネス上、翌日納品の物流と在庫補充で二、三日猶予がある場合のリスクが違う。単価に対する物流費の割合で厳しさが変わると思うが、加えてビジネスリスクと直結する度合いが価格感度として入ってくると面白い。
本開催概要は主催者の責任でまとめています。
<当日の様子>
講師:土屋知省 東京海洋大学客員教授・工学博士(一般社団法人 日本冷蔵倉庫協会理事長)
トラック輸送需要については、トラックの輸送構造に着目し、自動車輸送統計調査の個票データから主成分分析を行い、クラスタリングした結果、輸送機能(幹線輸送、大型輸送、中型輸送、集配、反復輸送)に応じた5つのクラスターに分類した。積載率や実車率、1回あたり所要日数など生産性指標に特徴があらわれ、これを活用し輸送量や必要車両台数、必要ドライバー数についてモデルを組んで推計した。
輸送機能ごとに輸送トン当たり必要な車両台数(必要車両原単位)は大きく異なり、ドライバーの人手のかかり方が異なることがわかった。さらに、貨物分類(NX総研の消費関連貨物、生産関連貨物、建設関連貨物の定義による)別で輸送機能の構成が異なり、消費、生産、建設の順で必要ドライバー数が多くなった。
政策パッケージの前提になった予測は貨物分類を問わず輸送構造は均質であるとして一体にみているが、ドライバー需要の小さな建設関連貨物の減少と、大きな消費関連貨物の微増、その下での総輸送トンの停滞に対して総ドライバー数が増加するという近年の傾向から、貨物分類別に2種類のタイムトレンドで輸送量を推計、輸送機能構成や必要車両原単位、労働時間規制強化などを考慮し必要ドライバー数の将来予測を行った。
2019年度に比べ2035年度までで15~25万人ドライバーが増える結果となり、労働時間規制や消費関連貨物の増加に影響される。
また、自動運転技術は抜本的な解決となるが、2030年までに広く商業化していないと考えた。
ドライバー供給については、近年の女性や高齢者の雇用促進を考慮し、既存の予測を活用するとともに、ドライバー職の選択モデルを独自に作成した。
ドライバー職への就職の特徴は、失業率の高い時期に増え、30代後半で定着、45歳以上を境に増え、生まれ世代(コーホート)の影響があった。ここから就職率を被説明変数とし、年齢と世代で回帰分析を行うと、年齢の効果は30代前半まで急速に増加して、以降増加を続けて65歳で急減した。世代効果は変動が大きいが、35歳時点の完全失業率と相関が高いことがわかった。コーホートクラウディング理論などと合致が見られた。
将来予測について、経済成長による就業人口増加、雇用促進策を考慮した結果、2030年度に現在の主たる担い手である40代後半、50代前半の第2次ベビーブーム世代が退職直前となり、2035年度に半数が退職となる。女性の雇用促進も、女性ドライバー等の割合が元々低いため、この世代の引退を補うのは難しいと思われる。
需給ギャップを見ると、2030年度に14~29万人(需要の約3割)の不足となるが、雇用促進により半分程度に削減可能と思われる。ギャップを埋めるのに必要な生産性向上の規模として、積載率や輸送頻度などの輸送条件を一律に10~20%増やす必要がある。これは流通在庫の増加をもたらすものだが、日銀の企業向けサービス価格指数で、トラック輸送費用が保管に比べ急騰しており、物流システムの再調整の余地はある。
政府が規制的な措置をとった背景として、供給側での曖昧な契約の下での荷待ち・附帯作業の発生、2024年の時間外労働上限規制でのドライバー不足、厳しい取引・雇用環境で低運賃・低賃金による人材確保の困難があり、需要側では、物流費込みの店着価格制のもとで物流負荷が見えにくく価格メカニズムが働いていない点や、荷主・消費者に課題が認識されず、過剰な物流需要を生じている点がある。明記されていないが、中小零細が多い物流業界で、荷主、元請け等の優位もあるだろう。
施策を経済的アプローチ、工学的アプローチ、社会的アプローチに分類したが、実施手法として規制的措置は新しい手法で、企業が各種アプローチを組み合わせ計画を作り目標値を定めモニターする、と理解している。 荷待ち・荷役時間の短縮は必須だが、必要車両原単位から必要ドライバー数の削減を考えると一日の作業時間における割合は比較的小さく、効果も比較的小さいと予想される。しかしながら業務の波動やリードタイム、積載率の向上などに目を向ける契機となる。
荷待ちは一種の混雑であり、到着量が荷役能力の限界に近づくと生じやすい。荷役時間の予約は導入効果はあるが、荷役時間や到着にはばらつきがあり、予約枠を大きく設定するとバース稼働率が悪くなるなど、完全ではない。
早期の情報共有により、適切な配車計画、荷役の事前準備、荷役予約の運用が容易になり、予約に合わせて講じる必要がある。
モーダルシフトは政府は10年で倍増としているが、物流センサスのデータより、地域別雑貨輸送において拡大傾向が見える。また、片荷はトラックとそれ以外のモードでパターンが違い、逆になっている部分もある。積み替え施設の整備等により改善する余地がある。
2030年代のドライバー急減は深刻なリスクであり、長期的視点に立って、物流の仕組み変更に着手すべきである。
データについては、デジタルタコグラフの更なる普及に合わせ、積荷情報やGPS情報を入れることで物流の生産性向上の検討に資するのではないか。
生産性向上には荷主の協力が必要で、ロット拡大や早期の情報共有、輸送頻度削減やバッファー在庫の保持などがキーワードとなる。また物流コストや製配販の連携も大事である。
最後に、行政にはデータの保存や活用の容易化などで、より幅広い研究の展開や実務への活用につなげることを期待する。
■講演に対するコメント
コメンテータ:田中 謙司 東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻 准教授
必要ドライバー数について、トリップデータの分析により輸送機能で分類を示した上で計算され、重さに注目することで各業種別に必要なドライバー計算されており貴重な分析となっている。データを使ってさらに効率化を上げることができる可能性は高いとの提案だったが、今はデータが足りず、物流でデジタル化、データ化できている部分は半分にも満たない。様々なデータ基盤の整備をすることで、さらに効率化が進む可能性は高い。 広い範囲で、戦略的にドライバー不足を定量的に計算され、さらに工学的なアプローチに加え社会的もしくは制度的なアプローチで改善の方法を提案されており非常に興味深い。
■ディスカッション
コーディネーター:西成 活裕 東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻 教授
参加者:講師およびコメンテータ
(西成)物流データに関し、あるべき情報項目や、データの共有の仕方などをどう考えるか。
(土屋)自動車輸送統計調査では発着地が都道府県単位でメッシュが粗い。デジタコはGPSより正確で、統計の取り方としてデジタルを活用し積み荷情報と組み合わせるとよい。作業ではトラックと倉庫で整合しておらず、両者合わせた作業時間であるべきでオペレーション上とれるといい。また倉庫は統計情報がPDFで提供されており、電子化され希望する形式でデータ提供されるべきではないか。
(田中)データ粒度によって深堀できるか変わるため、プライバシーを隠した個別データが分析できる形で利用できることは大事である。倉庫、運輸、生産、最終消費など、個別の最適化は他にしわ寄せがいく。連関をつけながら分析できる基盤ができると、全体での形も見えてくる。また統計ではなかなか取り切れないが、実は実務上ちょっと重要なもの、を取り込んでいくと、現実的な施策が出てくるのではないか。
(西成)2024年問題含めてトラックだけの問題ではなく、サプライチェーン全体の問題と考えるべきである。そのためには上から下までの情報共有、データの掛け合わせが必要。物流は協調領域という流れも出てきており、情報共有が2024年問題の解決にもつながると思うが、今までにない個社データや、違うシステムのデータをつなげる際のハードルや、解決策はどうか。
(土屋)倉庫のオペレーションで、入出庫依頼と運送依頼の情報の突き合わせが行われるが、輸出入貨物ではNACCSシステムにより、BLあるいはOLT番号に沿って貨物情報がセンターに登録され、保税輸送や輸送行為に使われ効率的である。政府が一定程度関与して一本化しているという要素は大きい。慣習の切り替えのきっかけに、政府の規制や標準化(アイテム、データ形式、データベース)があるのではないか。
(田中)今後トラックなど設備更新するときに何かしらのデバイスを付けられると、データが揃い、様々な施策もでき、さらにそこに乗っかるベンチャーや学生などそこに向けて才能ある方が入ってくる可能性が出てくるのではないか。
(西成)政府の役割は大きく、破れなかった慣習が今回規制まで踏み込み、民間ではできないことに踏み込み、しかも荷主までグリップかけたことを評価したい。特に物流価格をアクティビティベースで積み上げた上で物流事業者に還元していくというような議論は今までは考えられない。今回の政府の政策をどのように評価しているか。よく再配送が問題だというマスコミの議論があるが、今回の議論では全部が同じ均一な輸送ではなく、どこが効くかをデータから割り出した研究であり、再配送の削減の効果など含めて聞きたい。
(土屋)今までにない踏み込んだ決断だが、政府報告書にもある通り2024年は始まりであって終わりではない、通過点にすぎない。試行錯誤でやるべきことが多いと思う。
政策パッケージの数値目標があり、かなり再配達率の削減で物事を処理しようとしている部分あるが、品目別必要ドライバー数からみるとおよそ3万人のドライバーの再配達率が10数%で、単純に比例計算して3~4千人となる。また、おそらく再配達だけのために輸送はせず、通常の配達の中で処理されており、政府の目標はやや大きすぎるのではないか。
(田中)荷主と輸送業者の力関係をバランスさせようとし、3K的な環境を入りやすい環境に整え、DXを踏まえた効率化とセットで行っている。さらに国際的連関も含めた国際企業間の物流も担えるような視点を出され非常に画期的である。一方データシェアなどは、まだまだ作るべきで、そこを揃えた上で新しい業種が入り、効率化の産業が生まれ、日本のやり方が発信できるような視点で進めて欲しい。
またドライバーは、長距離輸送に関しては若年、特に女性に日帰りニーズがあり、中継輸送という観点で、中継地点を国として整備していきながら往復ができる、様々な形の整備が進んできている。活用の仕方や、効率化をさらに進めていくことを織り込んだ計画、見通し出してもらえると、研究者や産業界が入り、非常に進むのではないか。
(西成)2024年問題をきっかけに今後2030年やその先を考えた際、物流で大事なことやその方向性をどう考えるか。
(土屋)荷主の協力は必須である。在庫調整、納品期限、情報を出すリードタイムなど、協調領域をどこまで築けるかがキーワードとなる。自動運転の普及までどうつなぐか考えると、報酬などドライバーの働きやすい環境整備や、長距離輸送で言えば中継輸送やモーダルシフトでRORO船への切り替えなどが進んでいくべきである。 フィジカルインターネット的なものでは、積み替えを容易にする。一貫パレチゼーションによりコンテナ内に貨物が規格的に入り、輸送・保管され、できるだけ下流に流れていく方向に進んでいくべきだろう。
(田中)フィジカルインターネットのように、かなり細部までデータ上で分析をしながら、最適化が行われ、自動運転や自動化の進展が10~20年以内に起こる。そのプロセスでは産業が止まらないよう、ステップを踏む必要があり、技術的なサポートも必要である。一方すごい勢いで業態が変化している部分もあり、そこは無理に自動化、標準化せず、様子を見ながらうまく育て、ブレーキとアクセルの両面で進めていくことが重要である。物流データサイエンス的な観点で興味持つ学生が多く、次の世代につなげられたらいい。
■質疑応答
Q:ラストワンマイル輸送で自転車を使った配送するベンチャー企業もあり、トラックよりもハードルが低い乗り物に変換することで、ドライバー問題を解決することもできないか。
(土屋)アメリカのAmazonはギグワーカーを使って確保している。一定の効果はあるが、それで解決するか、データを集めないとわからない。労働条件との兼ね合いで人が集まるかも注視が必要である。
(田中)数理上は配送密度が高まると車よりも自転車、さらに最後は人の手押し車が向いている。都心の一等地などは自転車や電動手押し車、カゴ車などを活用することによって効率化は進む。階段などがボトルネックで、道路などのデータを集め、最終的にロボット化、自動化などがある。一方配送密度が低いところは自転車だと難しいが、自動運転自転車あるいは自動電気自動車であれば将来的には十分ありうる。
(西成)ラストワンマイルの輸送モードは色々可能性があり、ドローンやスマートシティでは昔のシューターの活用など、そういう実験都市があっても面白い。配送ロボットは既に社会実験で様々走っているが、エレベーター会社のシステムと配送システムがデータ共有できれば乗れるなど、進んでいく。ただ幹線輸送に関してはモーダルシフトなど活用するしかない。
Q:運ぶ側の価格交渉力の話について、政府のパッケージに言及がなかった。規制緩和で自由にやってきたが、今の過当競争あるいは非効率な状態に対し、政策的なアプローチも手ではないか。
(土屋)中小企業が非常に多いトラック業界には、元請下請け構造があり、元請けはある意味大企業でもあるとすれば、荷主との価格交渉力が復帰する余地はある。他方いわゆるさや抜け(手数料)問題はある。今まで日銀の卸売物価指数が上がらない時代が続いていたが、最近は上昇傾向で、トラックドライバー賃金、あるいは運賃の指数なども上がるようになり、供給がタイトなため力関係は変わってきていると思う。ただ、基本的に荷主の優位は変わらず、メニュープライシングも店着価格制の範囲内であり問題は多い。完全に価格メカニズムが機能するには時間がかかる、あるいは今の商慣行のもとでは完全にはできないかもしれない。
(田中)価格というのは非常に重要である。分析の中で機械産業などの輸送は比較的付加価値も高く、価格は安定しがちで、逆に売り上げに対する物流費が高い生鮮食品などは価格競争になり、うまく価格が抑えられるかが一つのポイントになる。国交省が価格のガイドラインを出しているが、強制力はないと思われ、モニタリングしながら持続可能な産業に持っていくべきである。実態として、荷主ではトラック、ドライバーが集まらないという認識しか持っていない。リバースオークションが主であり、参入が簡単な分野であることから、どんどん下がるという悪循環である。
2024年問題である程度M&Aが進みと、パワーバランスが変わってくる。M&Aが進まなくても、業種間アライアンスを組んで施設設備も共通化しながら、荷物も共同輸送が進んでいくと期待しているし、価格を維持できたらいい。みんなでウォッチしていくことが重要。移行期でうまく業界の慣習が変わるといい。
(西成)物流原単位のエビデンスを積み上げることで、価格交渉力に関わらず物流費も決まるはず。今回の政府の政策はそこに踏み込んでいる。 もう一つ、本当のモンスターは我々消費者ではないか。本当に明日欲しいのか、が問われている。デフォルトが明日だからそのまま頼むが、明後日でもよいこともある。リードタイムが1日増えると積載率も上がり、我々自身も注意しなければいけない。
Q:官民一体となって物流の改善に取り組んでいくべきときで、国だけでなく地方自治体等でそれぞれの地域の生活や産業の維持のために、求められる役割について考えはあるか。
(土屋)中継輸送のターミナルやフェリーの港湾など、物流拠点整備には農業振興法や都市計画法以外にも様々に引っかかる都市計画の問題があり、自治体では、柔軟に考える、あるいは積極的に物流施設を誘致する。税金を下げるなどがある。過疎地の物流では、地域の公共旅客輸送に物流も載せるなどある。
(田中)農産物や地方の産業によっては季節性があり、他の自治体とピークを分けるような連携をして、自治体のサポートによって難しくなるリソースを確保している。設備や物流施設を整備して誘致するというのはある。自治体のニーズに合わせた、自動化というかテクノロジーの導入みたいなものをすすめてもらえる面白い。
Q:荷主の価格弾力性がどこまであるのか。またドライバー供給では、女性が少ないことや高齢者が少ないのは、65歳から講習が始まることや、大型免許を持っていないことがどの程度影響するか。
(土屋)輸送需要の弾力性はそれなりにあるが、荷主の物流費は6~7%でやっている。付加価値の高いところは価格上昇を吸収でき、そうでない場合厳しい交渉になるだろう。メニュープライシングでロットを大きくするとか、在庫を持つコストとの兼ね合いで調整が起きていくのではないか。 ドライバー供給は長距離を走る大型と中小型で考えると、大型に高齢者が乗っていることが多く、再調整が進むのではないか。テールリフターなど荷役負担を軽減する技術整備が進むと多少伸びるか。
(田中)ビジネス上、翌日納品の物流と在庫補充で二、三日猶予がある場合のリスクが違う。単価に対する物流費の割合で厳しさが変わると思うが、加えてビジネスリスクと直結する度合いが価格感度として入ってくると面白い。
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<当日の様子>