2023年度日本交通学会研究報告会への参加報告

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日時 2023/10/7(土) 〜 8(日)

 2023年10月7日~8日に、第82回日本交通学会研究報告会が愛媛大学(松山市)で開催され、当研究所から、7名が参加しました。
 日本交通学会は、1941年設立の東亜交通学会が前身で、交通政策の課題について交通経済学を中心として研究する学会で、交通経済学に関心のある研究者、交通工学の専門家・研究機関をはじめ、官庁や事業者など約470から構成されており、運輸総合研究所は継続して特別会員になっています。毎年秋に研究報告会を開催し、学会機関誌(交通学研究)などを発行しています。学会会長は、現在の水谷文俊氏(神戸大学名誉教授)から竹内健蔵氏(東京女子大学教授)に交替することとなりました。なお、日本交通学会の第11代会長及び第16第会長は、それぞれ、運輸政策研究所(現在の当研究所)の第3代所長の杉山武彦氏(一橋大学名誉教授)及び第4代所長の山内弘隆氏(武蔵野大学経営学部特任教授・一橋大学名誉教授)が務めていました。次回研究報告会は2024年10月12日及び13日に東京都市大学(横浜市)で開催される予定です。
 2023年度日本交通学会賞の論文の部では、当研究所の機関誌「運輸政策研究」Vol.第81号掲載の山本卓登氏(東京大学大学院博士課程)「不採算バス路線に関する特別交付税措置の性質とその問題」が受賞されました。

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         (日本交通学会賞の受賞者による挨拶)



 10月7日の統一論題シンポジウム「ポストコロナ社会における交通グリーン戦略」では、田村明比古 成田国際空港株式会社代表取締役社長(当研究所評議員)による航空分野、特に空港の脱炭素化に焦点を当てた基調講演「航空分野の持続的成長に向けて~世界の潮流と空港における脱炭素化~」が行われました。これに続くパネルデスカッションでは、〇田村社長に加えて、〇三重野真代 当研究所客員研究員・東京大学公共交通政策大学院特任准教授、〇味水佑毅 流通経済大学教授、〇三好千景 Cranfield University Reader・広島大学特任教授、〇森本清二郎 日本海事センター主任研究員からもそれぞれ交通各モードに焦点を当ててデスカッションが行われました。パネルデスカッションの中では、三重野客員研究員が、グリーンスローモビリティのほか、当研究所の共同研究調査「人と多様なモビリティが共生するまちづくり」(2022年度~)に基づき、フランスのVille Apaisée(穏やかになったまち)概念における「まちをクルマから人に取り戻す」発想、欧州におけるUrban Vehicle Access Regulationsの状況等を紹介し、車両電動化の多様な観点での評価、自動車抑制のまちなかづくりのための連携、モビリティのグリーン化による国民の環境意識の変化を提起しました。(なお、当該共同研究調査の中間的成果の概要については、本年5月のシンポジウム「ゆっくりを軸とした地区づくりのための交通・道路・都市のあり方を考える「人と多様なモビリティが共生する安全で心ときめくまちづくり調査」~フランス調査結果報告を通じて~」において、発表済み。
https://www.jttri.or.jp/seminar230512_02.pdf

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     (田村明比古NAA社長(当研究所評議員)による基調講演)


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           (発表する三重野真代客員研究員)


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         (質疑に対応する三重野客員研究員)



 10月8日のセッション「公共交通」では、当研究所の覃子懿研究員が「公共交通とソーシャルキャピタルの醸成:ボンディング型とブリッジング型ソーシャルキャピタルの比較」と題して発表を行い、バス利用とボンディング型ソーシャルキャピタルの相関関係及び自動車利用とブリッジング型ソーシャルキャピタルの相関関係を示し、公共交通がソーシャルキャピタル醸成に寄与する可能性と特にバス利用が地域コニュニティーの維持において重要な役割を果てしていることを示唆しました。この発表に対して、高崎経済大学の小熊仁教授よりソーシャルキャピタルの評価内容(代理変数の妥当性、多面的な視点に立った評価の必要性、同時性の問題への対応)等に関するコメント・質問が行われ、討議されました。


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            (発表する覃子懿研究員)


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            (討議に対応する覃研究員)



 同日のセッション「モビリティ」では、春名史久主任研究員が、「マイカー類似の自由度・利便性を有するデマンド乗合交通のサービスのあり方について」(原文は英語)と題して発表を行いました。当研究所の共同研究調査「高齢者等の移動手段の確保方策」(2021年度-2022年度)の成果を踏まえ、大都市郊外部(福岡市壱岐南地区)、地方都市(安積地区を含む福島県郡山市)及び過疎地域(岡山県久米南町)の各地域において、利用者が着実に増加しているデマンド乗合交通事例の研究を行い、「ドアーツードアー方式か、ミーティングポイント方式か」、「運賃は都度払いか定額か」、「AI活用の要否」、といった論点を含め、成功要因の分析を行いました。この発表に対して、米子工業高等専門学校の加藤博和教授よりデマンド乗合交通事例の成功要因、共通課題、コロナの影響等に関するコメント・質問が行われ、討議されました。

 (なお、当該共同研究調査の成果の詳細については、本年6月に当研究所から「高齢者等の移動手段確保方策に関する提言」として発表済み。https://www.jttri.or.jp/202306_Elderly_People_teigen.pdf

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          (発表する春名史久主任研究員)

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          (討議に対応する春名主任研究員)