「インド太平洋地域における海上保安能力向上支援のあり方 ~東南アジア諸国の反応を踏まえたQUAD連携による能力向上支援の取組み~」

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第156回運輸政策コロキウム ~ワシントン・レポートⅩⅤⅡ~

Supported by 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION

日時 2023/9/12(火)
会場・開催形式 オンライン配信(Zoomウェビナー)
開催回 第156回
テーマ・
プログラム
【発表及びコメント】
 小松 大祐     ワシントン国際問題研究所 研究員
 古賀 慶      南洋理工大学(シンガポール)社会科学部・公共政策国際関係学科 准教授


【ディスカッション】
 コーディネーター: 辰巳 由紀 キヤノングローバル研究所主任研究員 
                 スティムソンセンター・シニアフェロー・
                 東アジア共同部長、日本部長

開催概要

 中国の海洋進出やロシアによるウクライナ侵攻など、一層混迷を極める安全保障環境において、我が国が主導する自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の実現は喫緊の課題となっている。現在、FOIPの実現に向けた日米豪印(QUAD)による取り組みの一として、インド太平洋地域諸国に対する海上保安能力向上支援が注目されている。他方、インド太平洋諸国の中には、中国への経済的な依存、米中対立に巻き込まれるリスクといった要因から、QUAD支援の受け入れに消極的である国も存在する。
 本コロキウムにおいては、まず、小松研究員から、研究成果(QUAD連携による海上保安能力向上支援のメリットと課題)を発表した。続いて、我が国海上保安庁が長年に亘って能力向上支援を実施してきた東南アジア諸国に焦点を当て、同地域の専門家から、日本又は日米連携による能力向上支援に対する反応や受け止めについて講演した上で、小松研究員の発表にコメントした。これを受けて、米国のインド太平洋戦略に触れながら、日本と東南アジアの今後の関係について議論を広げ、QUAD連携支援の可能性をはじめとした海上保安能力向上支援のあり方について議論した。

主なSDGs関連項目

プログラム

開会挨拶
宿利 正史 運輸総合研究所 会長

宿利 正史 運輸総合研究所 会長

開会挨拶
発表及びコメント

小松 大祐 ワシントン国際問題研究所 研究員

講演者略歴
講演資料

古賀 慶 南洋理工大学(シンガポール)社会科学部・公共政策国際関係学科 准教授

講演者略歴
講演資料
ディスカッション

コーディネーター:
辰巳 由紀 キヤノングローバル研究所主任研究員
スティムソンセンター・シニアフェロー・東アジア共同部長、日本部長

講演者略歴

当日の結果

ワシントン国際問題研究所(JITTI―USA)の小松大祐研究員より、「インド太平洋地域における海上保安能力向上支援のあり方〜東南アジア諸国の反応を踏まえたQUAD連携による能力向上支援の取組み〜」というテーマで研究発表を行った。

序章 はじめに
 日米豪印戦略対話(QUAD)連携による、インド太平洋地域の海上保安機関に対する能力向上支援は、日本が主導する自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の実現という、QUAD各国の共通ビジョンを達成するための有効な手段である。

第1章 厳しさを増す海洋安全保障環境
 インド太平洋地域は、尖閣諸島周辺や南シナ海における中国の力を背景とした一方的な現状変更の試み、ロシアのウクライナ侵攻、北朝鮮のミサイル等発射、国際的なテロ集団やサイバー攻撃、国家間の競争におけるグレーゾーン事態の継続などにより、海洋安全保障が脅かされている。

第2章 自由で開かれたインド太平洋(FOIP)
 インド太平洋地域は、アメリカの影響力の低下と中国の影響力の増加、新興国や途上国の台頭により、国家間の力関係が変化しているほか、世界経済の重心が大西洋から太平洋にシフトしているなど、国際関係が著しく変化している。
インド太平洋諸国は、海賊行為や違法漁業、密航・密輸などの多様な脅威に直面しており、また、東南アジア諸国においては、中国による一方的な現状変更の試みや海洋境界紛争等の継続により、海洋安全保障が脅かされている。しかしながら、こうした脅威に対応する地域の海上保安機関の対応能力は限定的という課題を有する。
こうした背景を踏まえ、インド洋太平洋地域において、経済的な連携と安全保障の連携を通じて、地域の平和、安定、繁栄を推進するという「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」という構想が、2016年に開催されたアフリカ開発会議において、故安倍元総理大臣によって提唱された。

第3章 日米豪印戦略対話(QUAD)
 QUADは、インド太平洋を囲むように位置し、自由や民主主義、法の支配などの価値観を共有する日米豪印4カ国により、FOIPの実現を推進するための枠組み。
 QUADは、2004年のスマトラ大地震とそれに続くインド洋大津波での日米豪印連携支援が起源。2007年には安倍元総理大臣により四カ国連携が提唱されたが、中国の反発や中国との経済関係を重視した豪印が消極的であり、実現には至らなかった。2016年と2017年に、日米がそれぞれインド太平洋戦略を公表し、対中姿勢を改めた豪印が同調したことでQUAD構想が再始動し、2019年の初の外相会合や2021年の初の首脳会合を経て、現体制を確立した。
 QUADは、法的な拘束力を持たず、同盟関係でもないが、首脳会合等を通じてFOIP実現に資する取り組みを柔軟に推進する、四国間だけでなく、二国間、三国間での連携や、メンバー外の国との協力も含めた多層的・重層的で包摂的な特徴を有する。
   QUADの取り組みは、インフラや海洋安全保障、サイバーセキュリティ等、多岐にわたるが、海洋安全保障分野としては、衛星データやMDA情報の共有、人道支援・災害救援の調整システム構築などの実績がある。ただし、海上保安能力の向上に関する議論は、まだ十分に進展していない状態。

第4章 東南アジア諸国の反応
 2016年以降、QUAD各国のインド太平洋戦略が明らかになると、東南アジア諸国の中に、中国への牽制になるという期待と米中競争に巻き込まれるという懸念が広がった。この期待と懸念を踏まえ、2019年に「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」という形で、ASEANの秩序形成は、FOIPの基本的な理念と一致する部分もあるが、ASEANの一体性と中心性に基づき、自らが秩序形成を主導し、かつ、米中競争の場となることを拒否した。
 これは、QUADとASEANの連携が相互理解と尊重を基盤として築かれるべきであることを示唆しており、QUADがFOIPを推進するためには、非軍事で間接的な支援である海上保安能力向上支援が有効となるが、ASEANの多様な意向や立場の尊重が求められる。加えて、連携支援には協議や調整の過程で意見の相違や利害対立が生じ、意思決定の遅れや合意が得られないというリスクに留意が必要。

第5章 QUAD各国のインド太平洋と外交
 QUAD各国は、インド太平洋地域の安定と繁栄という共通の目標を有しており、ASEANとの関係強化がその鍵となっている。他方、各国はインド太平洋で重視している地域が異なるほか、中国や他の大国との複雑な関係を持ち合わせており、外交戦略にも独自性が見られる。QUAD連携は、複雑な協力と調整が不可欠であり、各国が互いの違いを尊重し、共通の目的に向かって協力することが、地域の安定と繁栄へとつながる。

第6章 QUAD各国の海上保安機関
 QUAD各国の海上保安機関は、設立された時期や所属する組織、軍事的な性格の有無、組織規模等の違いや、能力向上支援の主な支援先などに特徴が見られる。FOIPの実現に向け、こうした相違点や特徴を踏まえたQUAD連携が効果的となる。

第7章 QUAD連携による能力向上支援の取組み(提言)
(提言1)インド太平洋諸国の事情を踏まえた二段構えの支援
インド太平洋諸国全体が抱える共通の課題と、東南アジア諸国が抱える固有の課題には、「二段構えの支援」が有効。インド太平洋諸国共通の課題は、伝統的に海上保安機関が対応してきたものであり、海上保安機関としての基礎体力を、ソフトとハードの両面から底上げする支援を実施する。東南アジア諸国が抱える固有の課題には、東南アジア諸国の海上保安機関が、国際法に基づいた対応を通して、紛争を回避しながら主権を守れるよう、国際法の知見の普及、海上保安庁が有する尖閣諸島対応における専門知識や実践的な技術、経験を共有する。

(提言2)QUAD各海上保安機関の特徴を活かした相互補完的な支援
QUAD各海上保安機関が単独で実施している能力向上支援では、被支援国との組織形態や、保有船舶・装備の違いが、支援のミスマッチを生じさせることや、人的リソース不足や予算の制約は、支援の手が届かない、空白地帯を生じさせる。そこで、QUAD連携により、被支援国の組織形態や保有船舶・装備とマッチした支援、QUAD各海上保安機関が得意とする分野に着目した項目支援、支援先を分担し、リソースを分散してQUADの支援の空白を防ぐ支援という、QUAD各国の単独支援を相互補完する支援が有効。

(提言3)QUAD海上保安機関会合(仮称Q―MAST)の設置
QUAD連携支援に必要な協議の場を創設し、インド太平洋諸国の事情を踏まえた二段構えの支援(提案1)、QUAD各国における特徴を活かした相互補完的な支援(提案2)、QUAD以外の同志国との連携に必要な調整を行い、QUAD連携支援を実現させる。Q-MASTの設置に向けては、USCGとも協力しながら、外交・能力向上支援の実績が豊富な海上保安庁がQ−MAST(QUAD Maritime Security Agency Strategic Talks)の設置を主導することが適当。ただし、運営費用など問題は、情報の非対称性を生じさせ、誤解や疑念を生じさせることから、事務的な調整を重要。

(提言4)QUADの特徴を踏まえた多層・重層的なアプローチ
QUADの特徴は柔軟性と多層・重層性に着目し、二段構えの支援(提言1)、相互補完的な支援(提言2)、Q-MASTの設置(提言3)を組み合わせ、FOIPを推進させる。具体的には、Q-MASTを活用し、日米の二国間連携による2段構えの支援と、豪印単独の相互補完的な支援を組み合わせることで、多層・重層的なアプローチにより連携支援を実施。

  コメンテーターであるシンガポール南洋理工大学社会科学部公共政策国際関係学科の古賀准教授から、小松研究員の報告に即しながら以下について説明が行われた。

第1章 QUAD連携による海上保安能力向上支援について
 QUAD海上保安機関の連携による能力向上支援は、非常に有効であると思う。その理由としては、QUAD間の連携強化そのものに繋がる取り組みであること、政治的ハードルが比較的低い分野であること、被支援国としても受け入れやすい取り組みあるという3点の理由が挙げられる。

第2章 QUAD連携上の課題
 QUAD連携上の課題として、能力向上支援におけるアプローチや予算、会計年度の相違というものが存在するほか、QUAD各海上保安機関の組織体制の相違が、調整を困難にする要因として挙げられるが、小松研究員が提唱したQ-MASTという調整機関の設置は、支援内容の調整や情報交換の場としても非常に有効である。
 新興国等の海上保安機関と調整する際には、英語でのコミュニケーションが取れないという問題があり、知識や技術の移転を困難にすることから、政府間協力だけなく、大学や研究機関を通して語学の課題に取り組むという方法もある。
 さらに、QUADは重要ではあるが、唯一のプラットフォームではなく、地域の安定を目指すのであれば、二国間、三国間の連携や、今年6月のシャングリラダイアローグで行われた日米豪にフィリピンが入った会合のような連携も視野に入れることで、支援の幅が広がる。

第3章 自由で開かれたインド太平洋に関する議論とその発展
 自由で開かれたインド太平洋は、進化するコンセプトであって、一つのものとして確固たるものが存続するわけではなく、国際状況に合わせて変化していくものである。
 ただし、2016年に日本がインド太平洋戦略を提唱した際には、具体的な政策や連携国が曖昧で、特に、インド太平洋の中心となるASEANや東南アジア諸国への言及が欠落していた。その後、日本は、ASEAN側から伝えられた懸念を踏まえ、ASEANの中心性、一体性を強調するようになったほか、戦略を構想と表現するようになり、最近では岸田総理大臣により、4つの取り組みの柱が掲げられ、ASEAN諸国も納得するようなアジェンダが組み込まれ、アプローチにも組み込まれるようになった。

第4章 QUADとASEANの関係
 2016年から2020年までの外務省のホームページからの地図を見ると、インド太平洋戦略が進展していることがわかる。当初は、インド洋が中心であり、それが太平洋も含めた二つの海を中心とした地図が採用されるようになる。その後、ASEANを強調するようになり、現在では、全体的に日本をベースとしたインド太平洋の範囲を示すようになった。
 当初、東南アジア諸国は、QUADを対中戦略の枠組みと見做しており、距離を置かれていたが、最近では好意的に捉えられるようになってきている。その要因としては、AUKUSやIPEFといった枠組みが構築され、QUADの軍事・経済的な側面が薄れ、ASEANが好む非伝統的安全保障分野に傾注しやすくなったことが考えられる。また、QUADが協力してワクチン開発や配布を通して、公共財を提供する枠組みとして認識されるようになり、これが対中戦略に組み込まれたものではないとイメージできるようになったことも要因である。こういった環境の中で、日本はQUADとASEANとの協力関係を築く役割を果たすことができる可能性がある。

第5章 東南アジアにおけるQUADや中国の影響力
 地域における信頼という観点では、日本は最も信頼できる国として捉えられており、アメリカは、トランプ政権時には不信感を持たれていたが、最近は信頼できる国として認識されるようになってきた。インドと中国はあまり高くない。
 経済的な影響力では、中国が最も高いが、最近はデカップリングやデリスキングという動きもあり、中国との経済関係に懸念を持つようになってきている。
 政治的戦略的(軍事的)なプレゼンスとしては、中国が最も影響力が高いが、次いでアメリカが高くなっており、地域の安定を保つために必要であると考えている。
 以上のことから、アメリカと中国は、経済、軍事の影響力が突出している。日本は東南アジア諸国にとって、経済的・軍事的な脅威ではなく、信頼できる国として認識されており、中国との関係からアメリカとの適切な距離感を掴むことが難しい東南アジア諸国にとって、日本は大国との橋渡し役としての役割ができると考えている。

コーディネーターであるキヤノングローバル研究所の辰巳主任研究員のリードで、ディスカッション、質疑応答が行われた。

1問目 岸田政権における安全保障政策と海上保安庁の役割についての議論
 岸田政権独自のインド太平洋構想や2022年12月に発表された国家安全保障戦略などを通して、安倍政権終了後も日本のインド太平洋政策、特にQUADに対する政策は変容してきている。特に、国家安全保障戦略が出された後、安全保障関連費をGDP比の2%程度まで引き上げるとされており、これには海上保安庁予算も含まれているが、これから予算増を見据えた上で、発表の内容や提言部分で海上保安庁がこれからも拡充していけるような分野、思い切った政策の転換というものを持ってしても足りない部分はあるだろうか。

(小松研究員)
 例えば、海上保安庁において国際協力業務を実施する場合に、海上保安業務に従事している巡視船を被支援国に派遣している。派遣中には、通常の海上保安業務に従事できなくなる期間が生じてしまうが、予算の増加により、国際協力に特化した巡視船を建造することにより、地域に根ざした専従体制を構築できるのではないか。
 また、先日、有事の際に防衛大臣が海上保安庁を統制する、いわゆる統制要領が公表されたが、今後はそういう事態でのシームレスな連携は加速することが想定されるほか、災害救援という分野においても派遣時に他国の軍隊との連携というも考えられるようになってくるのではないか。

(古賀准教授)
 岸田政権において、インド太平洋構想のフォーカスが多少なりとも変化したのではないかと考える。その一つとして、東南アジアにおけるプレゼンスが相対的に低くなっている。例えば、ウクライナ戦争などがあり、必ずしもネガティブに捉える必要はないが、ASEANに対する、東南アジアに対する戦略構想が見えにくくなっている。
 とは言え、日本は、連結性という形で東南アジアの優先順位を高めて注目しているという話が進んでいるが、今後、安全保障分野においてもどのような貢献をするのかということが重要になってくるのではないか。
 海上保安能力向上支援については、東南アジア諸国はソフト・ハード両面の支援を非常に歓迎しているが、巡視船供与については、質は良いが、もっと量が欲しいという話も聞く。非常に難しい問題ではあるが、これをうまく調整できればより強い連携や信頼醸成に繋がっていくのではないか。

2問目 海上保安庁の非軍事的性格による制約についての議論
 QUAD各海上保安機関の組織を比較した際に、日本の海上保安庁だけが軍事的性質を有していない。これは、海上保安庁が活動に一番制約があるという状況になっている。これを踏まえた上で、日米の海上保安機関が培ってきたノウハウをQUAD全体としての能力向上支援に広げていく時に、どのように進めていくのが良いだろうか。

(小松研究員)
 海上保安庁とは警察機関という性格を持って、日本周辺で生じるグレーゾーン事態にホワイトシップの力を持って対応しており、軍事的性質を帯びた途端にグレーゾーンが一気に黒く(有事に)なってしまう危険性を孕んでいることから、海上保安庁は警察機関という立場を非常に大事にしているという現状がある。
 南シナ海に面している東南アジア諸国が抱えている海洋領域紛争や中国による力に一方的な現状変更というグレーゾーンに対しては、軍事的な色が強くなってしまうと対応が難しくなってくる。
 また、海上保安機関は、基本的には自国の領海や排他的経済水域において主権を保護するという組織である。このため、他国の領海に入って業務を遂行するというのは他国の主権を侵害することにつながることから、東南アジア諸国が抱えている課題に対しては、自律性を高めるという観点での支援が重要になると考える。
 海上保安庁が軍事的性格を有していないことが、QUAD連携による能力向上支援における制約になるというのではなく、多様性ができたと捉えている。

(古賀准教授)
 組織の違いによる一定程度の制約というのは存在するとは思うが、能力向上支援に関してはそこまで影響はないのではないか。海上保安機関が軍と一緒に行動する必要はないし、海上保安機関を中心に国際法の知識を高め、自律性を高めるというように、海上保安機関だからできるものも多い。
 他方、能力向上支援以外の分野、例えば災害救援や人道支援という分野では、他国が軍を出して支援している際に、海上保安庁がどこまで海外の軍と協力関係を構築できるのかといった面では考慮が必要になるだろう。
 こうした調整をする上では、小松研究員が提言したQ−MASTという対話の場が必要になってくる。Q−MASTがインフォメーションのコアになって、お互いが、何ができて何ができないかという点を明確にすること、協力の幅が広がっていく。

3問目 太平洋島嶼国に対する支援についての議論
 発表の中で、QUAD各国のインド太平洋における重点地域を視覚化したものがあったが、一番重なっている地域が多いのが日米であり、インドにはインドしか関心のない地域、オーストラリアが重点をおいている地域というものが生じてくる。現在、QUADというよりも、米中の影響力の主戦場が、オーストラリアが最も重点を置いている太平洋島嶼国に移りつつある。太平洋島嶼国を、新たなQUAD協力の場として見た時に、海上保安という見地から、日本或いは日米はどのようにしていけば良いか。

(小松研究員)
 海上保安庁は、これまでパラオを中心に能力向上支援を実施してきた。加えて、日本財団の支援によって、パラオ、ミクロネシア、セーシェルといった国に対して巡視船を供与してきた実績がある。この意味において、QUAD連携の支援が太平洋島嶼国に移動したとしても、日本には支援の足掛かりがあるという状況である。
 また、QUADの取り組みとしてMDA情報を太平洋島嶼国に提供するというMDAのためのインド太平洋パートナーシップに取り組んでいることから、今後はMDAを活用した海難救助、IUU漁業に対する能力向上支援を日米豪が連携して実施するというのは現地の海上保安機関にとって有益なものとなるだろう。
 他方、太平洋島嶼国の海上保安機関は人的リソースが限定的であり、能力向上支援によって底上げするだけでなく、代わりにパトロールをするという支援も日本としてできるのではないか。

(古賀准教授)
 インドは、最近グローバルサウスというアジェンダを持って、発展途上国に関与する政策を強めてはいるものの、太平洋島嶼国への関与が強いのは、日米豪であることから、QUADよりも日米豪三カ国の枠組みで進めるのが良いのではないか。



<当日の様子>